ARK:Tomorrow knights ARKの世界にドクター達が転位する話。   作:サークル 銀の蛇

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第一章 開口一番
1-1 揺れ、閃光、そして恐竜


「うーん……眠い。」

 

 緩やかな午後の日差しが窓から降り注ぐ。仕事で疲れた私に眠りへと誘わんばかりの心地よさだ。座り続けて強張った体を伸ばしながら、机に広がっている大量の書類に目を見張る。午前中もずっと椅子に釘付けになって書類の山と格闘していたが、一向に終わりが見えない。無尽蔵にどこからか湧き出しているのではないかと思うくらい量が多い。

 

「少し、眠ってもいいだろう。」

 

 私は少しの間、目をつむり休憩することにした。そのまま熟睡しないように気を付けながらゆっくりと息を吸い、吐く。あぁ……しかし、本当に、日差しが気持ちいい……。油断するとこのまま気が遠くなってしまいそうな______。

 

 その時だった。突然ドン、という音とともに机が揺れる。反射的に目を開くと、追加された白い紙束の隣に、いつも見慣れた少女が不満そうな顔で私を見下ろしていた。

 

「ドクター終わっていない仕事がまだたくさんありますから、休んじゃだめですよ。これで最後ですから。」

 

 大きな茶色の耳をピコピコと揺らしながら茶髪の少女、アーミヤは散らかった紙を整え、ペンと共に私の前に差し出してくる。これで最後の追加書類らしいが、あまり嬉しい報告ではない。しかし、彼女がいると休憩もしずらい。何かと起こしてくるからな。

 

「あー……分かってるよ。アーミヤ。」

 

「ドクター、頑張りましょう!私も手伝いますから。」

 

 私は、背もたれに預けた背中を起こし、姿勢を整えペンを持ち書類と格闘する準備を整える。アーミヤの方もパッドを持ち準備完了のようだ。これが終わるころには夜だろうな。さっさと終わらせて寝てしまおう。

 

 私が書類に目を通し始めたその時、それは唐突に起こった。先ほどのアーミヤが起こした揺れとは比較にならない程大きな揺れが起こり執務室全体が揺れ、部屋の中の本や置物が崩れ落ちる。一体何事だ?まさか敵襲だろうか。だとしても、この巨大なロドスを揺らすほどのエネルギーを秘めた攻撃をする敵なんぞに私は喧嘩を売った覚えはない。しかし、今はそんなことを考えることよりも、先にやることをしなければならない。

 

「アーミヤ、とりあえず机の下に!」

 

「は、はい!」

 

 私は、机から少し離れて座っていたアーミヤを保護するべく机の下へと誘導する。アーミヤが入ってきやすいように机下にスペースを作る。机の脚の端を掴み、その対角線上の脚も掴み体を固定し、揺れに備える。アーミヤもすぐに机下へと滑り込むように避難してきた。すると、先ほどまでアーミヤが居たところに照明のガラスが落ちてきた。危機一髪だったようだ。

 

「アーミヤ、無事か?」

 

「はい、私は無事です、ドクター。しかしロドスが……。」

 

 確かに、ロドスはこの揺れが収まったとしても平穏無事ではすまないだろう。一体どれだけの修理コストがかかるのだろうか。

 

「アーミヤ、君はこんなことをする敵に心当たりがあるか?」

 

「いえ、無いですが、あるとするならば彼らしか……。」

 

 やはり、レユニオンか。しかし、彼らにそんな者がいただろうか?だとしたら今まであっていない方が不自然だ。いるならば、今頃私たちはロドスにはいない。あのブレイズでさえ、建物を抉るのがやっとだ。こんな大きな建物を丸ごと揺らすなんてできないだろう。だとすれば、これは天災の前触れなのだろうか。

 

 どちらにせよ今まで経験した中でもロドスはトップレベルにまずい状況に陥っているのは間違いない。それにしても、揺れはまだ続いている。随分長い揺れだ。一体いつまでこの姿勢を取ればいいのだろうか。毎日運動はしているが、それでも中々キツイものがあるぞ。

 

「……どうやら一旦は収まったようですね。」

 

「……ああ。」

 

 アーミヤがそう呟く。どうやら揺れは収まったようだ。アーミヤは机の下から出て立つ。私もそれに続いて机の下から這うように出て来て、立ち上がる。扉の方を見ると、そこには無残に物が散らばった変わり果てた執務室が広がっていた。酷い有様だ。天災にしても敵による攻撃にしてもこれほどまでに散々なものにできるのだろうか。

 

 とりあえず、通信で皆に連絡を取ろう。まずはケルシーに連絡を取って、状況を整理しようかな。彼女なら何かこの事態を把握しているかもしれない。私がポケットから通信機を取り出そうとした時だった。

 

 突然、自身の背後から光った。後ろ向きでさらに、マスクごしだというのに、思わず手で遮ってしまう程の光が私の視界を塗りつぶしさんばかりに染める。いきなりなんだ!?地震の次は爆発か?

 

 全く持って今日はついていない。書類の山に朝から追われ、午後は謎の揺れに眩しすぎる爆発。次目を開いたときに私は一面の花畑が広がっているのだろうか。冗談じゃない。まだやらねばならないことは沢山あるというのに!

 

 「ドクター!ドク_______

 

 私を呼ぶアーミヤの声が全く聞こえなくなってしまった。隣にいるはずだというのに全く聞こえない。爆発音で耳がイかれてしまったのか?ん、待てよ?それなら光の後すぐに爆発音が聞こえるはずだ。しかし、閃光の後にそのような音は聞こえなかった。それに、この光は本当に爆発の光なのだろうか。先ほどの揺れと何か関係しているのではないか。

 

 素早く私が思考を巡らせている中でも、光はさら輝きを増していく。目を瞑っていても眩しいと感じる程に。直接見ていたら目を焼かれていたかもしれない。

 

 しばらく、瞼の裏に閃光が焼き付いた。それから光が収まったのか段々と視界が灰色から黒に戻ってきた。そろそろ目を空けても大丈夫だろう。私はゆっくりと瞼を開ける。花畑が広がっていなければいいが……。

 

 しかし、視界に入ってきたのは、花畑ではなかった。塗装がはがれてボロボロになり、茶色く変色した床だった。顔を見上げ入るとそこには、いい素材で作られた自慢のドア______ではなく、緑だった。ドアとその周囲に合った壁はなく、代わりに草と木の枝が見えた。

 

「花畑の代わりに、変わり果てた自分の部屋と溢れんばかりの緑がお出迎え……どういうことだ?」

 

 どうやらあの世というのは自分の想像していたものよりも随分と現実的な場所らしい。もう少しファンタジックなものでも良かったのではないか?もし、管理人がいるなら文句の一つでも言ってやりたい位だ。

 

 うーん、しかしどうも現実的すぎる。自分の立っているこの感覚と言い、本当に廃墟のロドスにいるみたいだ。いや、ロドスの廃墟にいるのは事実なのだが、そうではなく、もっとメルヘンな感じでもいいような気がする。先ほどから鼻腔をくすぐる草木特有の心地よい香り。悪くはないが、あの世で嗅ぐには臭いとしてはどうも相応しくないな。他にも候補はあるはずだ。砂虫を焼いた臭いとか。

 

「ドクター?ドクター?大丈夫ですか?」

 

 隣から聞きなれた少女の声が聞こえてきた。ああ神よ、あの世に来てまで幻聴を聞かせるというのですか。せめて、一人で逝かせてくださればいいのに。私は誰もいないだろうと、声の聞こえた方を向くとそこにはアーミヤがいた。

 

「アーミヤ!?何故君がここに!?せめて、君だけでも生き残って欲しかったのに……。」

 

どうやらアーミヤも私と一緒にあの世に来てしまったようだ。私はアーミヤの肩に触れる。うん、この感覚、どうやら幻覚ではなく、本物のようだ。何ということだ。幻覚であって欲しかったのに、まさか二人揃ってお陀仏になってしまうとは。

 

「ド、ドクター!?あ、あの……。」

 

 アーミヤは顔を赤くして驚いている。驚くのは無理もないだろうな。あの世行きの切符は一人乗りだと思っていたのに、まさか二人乗りだったという驚愕の事実が判明したのだから。

 

「アーミヤ。私は、あの世というのは、まさか、こんな現実的すぎる場所とは思っていなかった。」

 

「は、はい?」

 

「私達ロドスは確かに多くの人に手をかけてきた。それは目を背けてはいけないことだ。しかし、だからといって死後の世界位はもう少しメルヘンな場所でも良かったんじゃないか。こんな地獄か天国かよく分からない、この場所があの世だななんて。神様というのは随分変人らしい。」

 

「あの世、え?一体何を……。」

 

 そうか、アーミヤは自分がまだ死んだことに気付いていないらしい。無理もないことだ。人間、そう簡単に認められるものでもないだろうしな。

 

「ああ神よ。私の言葉が聞こえますか?聞こえるならば、私達をもっとメルヘンな場所に移動させて下さい。地獄か天国かどっちでもいいでのハッキリさせて下さい。」

 

「ハッキリしてほしいのはドクターの頭の方なのですが……。」

 

「え?アーミヤ、私は意識も願いもハッキリとしているぞ。」

 

「いつから神なんてものに縋るようなったのですか?そういうことではなくてですね……。」

 

アーミヤはため息を吐いた。何故だか分からないが呆れているようだ。今の、このどっちつかずのあの世に送った神様に対してのため息だろうか。きっとそうに違いない。

 

「こういう時、ドーベルマンさんなら蹴り上げるでしょうか。なら、私もそうしなければ……。ドクター、お許しを!」

 

「え?アーミヤ?」

 

私が身構えるよりも速く、アーミヤは右足を上げ、私の腹目がけてキックをしてきた。何という速さ、精度。まるで格闘技の達人のような蹴り技だ。私は腹に衝撃を感じる間も無く後ろの壁に激突する。ここまでアーミヤが成長していたとは。結構強烈な威力だ。お腹が痛い。術師オペレーターから前衛オペレーターに異動しておけば良かっただろうに。

 

「アーミヤ。これ程威力のある蹴りが出せたとはな。何故、前衛オペレーターに志願しなかった?」

 

「もう一度やった方がいいようですね……。」

 

冗談じゃない。私はそんな趣味は持っていないし、そもそも今のは褒めたはずだ。なのに何故、もう一度蹴られなけられることになる?それは違うはずだ。ここはそうですか、と照れる場面のはずだろう。取り敢えず、今の言葉は取り消した方がいいだろう。私は腹の痛みを手で押さえながら立ち上がる。すると、後ろの壁から何やら大きな音が聞こえてきた。

 

「まさか、今の衝撃で壁が崩れるというのか?」

 

「そんなに、強かったですかね?」

 

「十分、強かったぞ。」

 

 その音はリズム良く段々と大きくなっているように聞こえる。崩れる音にしては随分規則性のある音だな。私が感心している間にも音は大きくなり、ゴツンという音が響いた。そして、無音になる。私の期待に反して、壁は壊れなかった。

 

「壁は壊れなかったか。やはり、アーミヤは術士のようだな。」

 

「どういう、基準何ですか……?それに、壊れるにしても、私の蹴り位ではいくらなんでも無理ですよ。」

 

「うーん、そうか。」

 

 私が残念がっていると、再び規則正しい音が聞こえてきた。そして、ゴツンと鈍い音が響く。

 

 ふむ。これは何者かが壁を壊そうと、走っている音ではないだろうか。崩落にしてはやけに丁寧すぎるし。しかし、だとしたら、ここまで聞こえるのはおかしい気がするな。ロドスの壁はコンクリート製で防音性はバッチリのはずだ。いくら廃墟になって朽ちていたとしてもここまでハッキリと聞こえるものか?ここがいくらあの世でも、音の聞こえる仕組みは変わらないはずだ。

 

 まあ、いずれにせよ、この足音の主は恵まれた体格のようだ。不幸にもあの世に私たちと一緒に飛ばされたロドスの誰かが、壁を壊そうと走っているのだろうな。しかし、さっき隣の部屋に居たのは誰だろうか?エンカクかホシグマ辺りだろうか?

 

「本当にでかい音だな……。」

 

 この足音の聞こえる間隔といい、音いい、人間から走って発せられる音にはどうも聞こえない。そもそも、ロドスの人員に壁を壊して道を拓くような脳筋はいただろうか。仮に壊すとしても、助走をつけタックルで壊すのではなく、自分の得物を使うかアーツで壊すはずだ。それならば、聞こえるのは、走る音ではなくアーツユニットの駆動音位だろう。

 

 ということは、この足音の主は人間ではなく、何か別のもっと大きな生き物が壊そうとしているのかな。

だとしたら、今ここでボーっと立っていると、壁の破片が頭に飛んできて死ぬか、走ってきた巨大生物の下敷きになる可能性が_______

 

 その考えに思い至った時、背筋に悪寒が走った。

 

「アーミヤ!」

 

 頭で考えるよりも先に体が先に動いていた。私は、なるべく部屋の隅に避難するよう、アーミヤに音が中心点に対して斜めに向かって飛び込む。唖然としている彼女の顔が一瞬、視界に映る。彼女の背中に来るであろう衝撃から、アーミヤを守る為、私はアーミヤの背中に腕を回し、ガッチリと抱え込む。そして、床に二人で倒れこんだ。

 

 その時、後ろから、大きな音を立て、壁が崩れる音がし、土煙がごうごうと立つ。予想は当たっていたようだ。コンクリートの壁の欠片がいくつか自分の背中に当たる。大きなものではなく、小さな欠片が当たる。多少痛いが、今日あった出来事に比べたら遥かにマシだ。コレが不幸中の幸いというやつだろう。しかし、すぐに不運がやってくるだろうが。

 

「ドクター……一体何が?」

 

(静かに!)

 

 私はアーミヤの口を抑える。今はあまり大きな声を上げるべきでないだろう。巨大生物にみつかってしまうかもしれない。

 

「うーーーん、やはりコレが一番だな!こう派手にカルノでクソロドスをブっこわすつうんはサイコーだ!」

 

 土煙が立ち込める中、背後の上の方から巨大生物の唸り声ではなく、人間の声が聞こえてきた。何かを被っているのか、多少くぐもって聞こえづらい。カルノ?カルノって何だ。よく分からないが、それが壁にタックルした生物なのだろうか。何が起こっているかは正直分からない。しかし、クソロドスという言葉を聞いた後は、経験上、悪いことしか起こってない。どうやら、あまり状況は良くないようだ。

 

「おい!あまり乱暴に扱うな!こいつは頭はあまり固くないんだぞ!死んだらどうする!」

 

「いやー大丈夫だろ。」

 

 先ほどの声の主とは違い、低い位置から注意をしている声が聞こえる。相手の仲間の声だろうか。こいつ―恐らくカルノのことだろうか―の扱いに対して怒鳴っている。なら、相手は少なくとも、人間二人とカルノとかいう何かが一体の構成らしい。今見つかるのはまずい。

 

 私たちはロドス所属だということを示す装飾の入った服装をしている以上、見つかって果たして平穏無事で済むだろうか。いや、絶対に済まないはずだ。見つかったとしても、言い逃れできる可能性もあるだろうが、私は生憎、あまり口に自信がない。それに、私や、アーミヤを見て果たして言い訳が通じるのか。相手が私たちの姿を知っていたらどうする?

 

「死体を追い剥ぎしたので、この服を着ているのです。顔が似ているのはたまたまです。」なんて言い訳なぞ通じないだろう。

 

 戦闘になっても、こちらの戦力は一人。相手は壁を壊す化け物に、二人。それにこちらはお守りをしながら戦うことになる。勝ち目がいくら何でも薄すぎる。

 

 今は幸い、土煙が立っている。ならば、取るべき手段は一つしかない。

 

(アーミヤ、今のうちに逃げるぞ。相手が何者かは分からないが、物騒な連中に違いない。それに、これ以上、あの世のあの世とかに、送られたりはしたくないしな。)

 

(だから……もう、分かりました、ドクター。)

 

 アーミヤは静かに返事をする。先ほどまでは、何故、私が飛び掛かってきたのか理解できていない感じだった。しかし、今は、自分たちが置かれている状況を理解して、何故、逃げるか。ということも少し分かっているようだ。流石はアーミヤだ。

 

 よし、そうと決まれば後は迅速に、そして静かに逃げるだけだ。私は倒れこんだままアーミヤの横にずれ、執務室のドア――と言っても、今は風穴が空いているが――の方向に匍匐前進を開始する。アーミヤも仰向けから、うつ伏せになり私と同じように行動する。

 

 ここから風穴まで距離は短いから、すぐにたどり着くはずだ。土煙もそう長くは立たないだろうから、とにかく一秒でも速く、かと言って焦らずに逃げなければ。それに、この部屋を出られとしてもバレない保証はないし、一刻も早くここを離れるべきだろう。

 

 しかし、私達は一体どこに逃げればいいのだろうか?ロドスはもう機能不全に陥ってしまったし、外はよく分からない場所だ。よく分からないのは当然か。ここはあの世なのだし。いや、本当にここはあの世なのか?

 

 アーミヤが呆れた顔をしたり、妙に会話がかみ合わなかったのは何故だ。実は私は死んでなどいなくて、ここがちゃんとした現実だとしたら?そうしたら、彼女のリアクションにも納得できるし、蹴ってきたのも、私を正気に戻すためにやったのだとすると、蹴られたのにも納得できる。いや、出来ればもうちょっと他の優しい方法で目を覚まさせてほしかったが。

 

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。一刻も速く、廃墟のロドスから抜け出して、奴らの目の届かないところへ逃げるべきだ。それが第一優先だろう。他ごとに気を取られて、アーミヤを守れなかったら私は死んでも死にきれない。

 

「おーい、そこのオマエら。なんで逃げるんだぁ?そんなにビビらなくてもいいだろ?」

 

 土煙ですべてごまかせるとは思っていなかったが、まだそこまで視界は良くないはずだ。なのに、ここまで速くバレるとは思ってもいなかった。センサーか何か使っているのか。しかし、どうする?走ってこのまま逃げるか?いや、それは悪手か。逃げたとしても、カルノというやつに追いかけられてしまうか、相手のアーツやクロスボウで打たれて終わるのがせいぜいオチだろう。ならば、ここは相手と話し合いをして、何とか切り抜けるしかないか。

 

 私は意を決すると、立ち上がり、相手との対話に臨むことにした。

 

「誰だって、壁が壊れたら逃げると思うが。お前達は違うのか?」

 

 土煙が晴れ、互いの姿があらわになる。一番最初に目に入ったのは二足で立つ、大きなトカゲの生き物だ。しかし、私の知っているトカゲと違いとてつもなく大きい。頭には二本の小さな角、口から覗かせる鋭利な牙、全身に纏っている鉄の鋼板。これが壁を突き破った足音の主、カルノとかいう奴に違いない。これからは逃げる自信は流石にないな。

 

「いやー、それはそうだけど、やけに冷静だなぁって思って。悲鳴の一つも上げずに、土煙に紛れて匍匐前進で逃げ一直線。まるで、俺達に見つかったらマズいって感じだな。せめて、自己紹介位はしようぜ?」

 

 カルノの背中の上からくぐもった声が聞こえてきた。先ほどはよく分からなかったが、今になって聞いてみるとどうやら男の声の様だ。マスク男は、カルノの上から早口にこちらのとった行動とその理由についてまくし立てる。この短時間でそこまでの推察ができるとは。何となくマスク男は粗暴でいい加減な印象があったが、案外頭は切れるようだ。これは油断できない相手だ。

 

「んん?オマエのその服に入ってるその文字……ロドスアイランドって書いてあるなぁ。ハハッ!今日はついてるねぇ!それに、横にいるコータスの女。もしかして、アーミヤというヤロウじゃねえか?なーら、ますますついてるねぇ!!」

 

 一発でバレてしまった。これは相当肝入りだ。余程ロドスを恨んでいるらしい。

 

「分かっているなら、こちらの紹介はいらないようだな。ならそっち自己紹介をしてほしいな。」

 

 何でもいいから情報を集めないと。私が自己紹介を求めると、カルノの横にいた男が一歩歩み出た。レユニオンにいる軽装備兵そっくりな装備をしているな。ただし、頭は何も被っていない為、顔が見えている。さっき怒鳴っていたのはコイツだろうな。

 

「私たちはこの辺りを縄張りにしている者だ。かつてはグローリーズ……という名で前はバウンティーハンターをやっていた。まあ、君たちの仲間のせいで事業が失敗してしまってけどね……。ロドスのリーダーとその部下よ。抵抗しないのならば、君たちは丁重に扱うことを約束しよう。」

 

 聞いていないのによく喋る奴だ。あまり、交渉事は慣れて無さそうだな。インテリを気取っているのか、やたらと丁寧口調だ。しかし、それがどうも不格好に見える。

 

「殺さないのか?」

 

「殺すならとっくにしているさ。しかし、それでは意味がない。せっかくの機会なんだ。もう二度と、彼女たちに復讐の機会は来ないと思っていたけど、まさかこんな日が来るなんて。今日は幸運に恵まれている。」

 

 こちらは不運の連続だけどな。どうやら、ロドス全体を恨んでいるというよりかは、ロドス所属の誰かを恨んでいるようだ。一体誰のことだ?彼女達といってもロドスには色々と抱えている者が多すぎて分からないな。それに、バウンティーハンターにとっての丁重に、というのは碌なモノではないだろう。よくて拷問。悪くて磔だな。アーミヤをそんな目に合わせたくないし、私も合いたくない。

 

「ハハ、丁重に、扱うからよう。おとなしく、してくんね?あの二人が釣れればそれでいいんだ。殺せれたら無事逃がしてやるからさぁ。な?いいだろ?」

 

 マスク男が挑発するように話しかける。あれは、捕まえてどうしようかと、色々と考えている顔だな。うーん、これは答弁で逃げ切るのは難しいか?

 

「お前達の要求はつまり……私達を捕まえて、その彼女たちを殺すための人質、餌になってくれ、ということか?」

 

「そうそう、そういうこと。」

 

 これは、確実に逃がしてはくれないか。見つかってしまったときに何となくそう思っていたが、ちょっとチャンスがあるのではないかと思っていた。しかし、希望的観測だったようだ。

 

「それは、無理な要求です。私達、ロドスはあなたたちのような卑劣な連中に屈するつもりはないですし、なにより、自分の保証の為に仲間を売るなんてことは言語道断です。」

 

 アーミヤがキッパリとマスク男の要求を断る。やはり、もう戦うないか。私も仲間を売るような真似はしたくないしな。二人と一匹ならどうにかなるかもしれない。さっきまでは逃げることしか考えていなかったが。

 

「……しょうがないな。おい!お前たち!出てこい!」

 

 おいおい、嘘だろ?軽装備の男が何やら号令をかけると、壊れた壁の向こうから十人、様々な得物を手にした男たちがぞろぞろと出てきた。どいつもこいつも、こちらを見てほくそ笑んでいる。それもそうか。こちらは一人で向こうはただでさえ数に不利だったというのに、もっと絶望的になってしまったからな。

 

「まだ、やる気か?」

 

 軽装備の男が警告を促す。これは最後の警告のようだな。

 

「……。」

 

 アーミヤは身構えたまま、こちらを横目で見てきた。いつも通りによろしくお願いします、ドクター。と彼女が言っているような気がする。なら、私も、どうやってこいつらの数を減らして、逃げるか色々と考えないと。

 

 あのリーダーっぽい軽装備の男からやるか。いやそれは悪手か、マスク男は軽装備にタメ口を使っていたから、頭が変わるだけだろう。なら、マスク男を殺すか。しかし、カルノが邪魔で難しそうだな。これも却下だ。いっそのこと、カルノを攻撃して暴走させてみようか。暴走するかは分からないが、これ位しか勝ち目が無さそうだな。

 

「なるほど、答えは沈黙……。よい、お前ら!覆面フードは殺してもいいが、女は殺すな!せっかくの復讐の機会を無駄にするなよ!」

 

「おう!」

 

 取り巻きがそれに答える。

 

「やっぱこうだでなくっちゃなぁ!」

 

 マスク男が狂気じみた叫びを上げると、それを皮切りに取り巻き達とカルノが突撃してくる。

 

 

「ドクター、行きましょう!」

 

「ああ!アーミヤまずは_____

 

「そこまでだ!悪党共!」

 

 その時、執務室の風穴の方から凛とした女性の声が聞こえてきた。そして、次の瞬間、猛烈な速度で突っ込んできた巨大な何かが、カルノの隣にいた取り巻き五人と、カルノをもろとも吹き飛ばしてしまった。この声はまさか……。

 

「二アールさん!?」

 

「二アール!?無事だったのか!?」

 

「すまない、ドクター、少し遅れてしまったようだ。しかし、もう安心してほしい。」

 

 そこには、正義をそのまま体現したようなカジミエーシュの元騎士、二アールがいた。 

 




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