人生記録が視える少女 作:魚料理最高!
その日、柳原優衣は中学時代の友人のお通夜に出席していた。
親友、と呼べる程に仲の良い子ではなかったが、会話をすればそれなりに話が弾み、それなりに一緒に遊んだ元クラスメイトの友人。
別々の高校に進学して最初の1ヶ月は連絡を取り合っていたが、それ以降は亡くなった事を知るまでろくに思い出しもしなかった友人。
お通夜に出席しているのは彼女の家族や親戚。高校のクラスメイトと自分のように中学に親交のあった友人等々。
お通夜は進み、亡くなった少女との最後の顔合わせとなる。
彼女のご両親と視線が合い、一礼してから棺の中に眠る友人を見た。
死因は課外授業中の転落事故だと聞いた。
彼女は今にも起き出しそうな顔で眠っている
(栞……)
心の中で友人の名を呼び、御冥福をお祈りする。
離れようとした瞬間に、ここではない光景を視た。
数名の女子に囲まれ制服を脱がされて写真を撮られる姿。
同じ女子達に怯えながらお金を渡す姿。
酷い暴行を受けている姿。
大人に何かを訴えているが、取り合ってもらえない姿。
他にも他にも他にも。
何処かの山道で足を引っかけて転落する友人。
そして、それをニヤニヤと笑って見下ろしている女子達────。
「う……っ!?」
そのあまりの光景に吐きそうになるのを口を押さえて堪えた。
「どうしたの、優衣ちゃん?」
同じく別の高校に行った友人に話しかけられる。
「……ごめん。ちょっと、具合が……」
顔が青い優衣をその友人が介抱してくれた。
体調を理由に外に出て水を買ってゆっくりと飲む。
「さいあく……」
あんなモノ、態々見たくなかった。
亡くなった友人がイジメを受けている姿なんて。
「どうしろって言うのよ……」
訴えようにも証拠はない。
今のままでは中学時代の友人が勝手に騒いで事を大きくしているようにしか見られないだろう。
友人の無念を晴らしたいかと問われればもちろんそうしたい。しかしその為に周りを巻き込む覚悟が有るのかと問われれば────。
落ち着いてきた為にそろそろ戻ろうとする。
すると、戻る際の通路友人と同じ学生服の少女数名とすれ違った。
相手の顔を見て優衣はハッとなる。
その顔が、先程頭に過った映像で見た少女達だったからだ。
優衣を横切って外に出る少女達。
その後ろを躊躇いつつも勘づかれないように付いていく。
少女達が休憩に留まったのは、会場の外で3人組には少し狭い空間。
優衣はスマホを操作しつつ見つからないようにかくれる。
すると1人が慣れた手付きで煙草に火を点ける。
「は~。マジだるいわ~。なんで対馬の葬式なんて出なきゃなんないだっつーの」
心底うんざりした様子で煙草を吸うギャルっぽい少女。
対馬栞。それが優衣の友人の名前だった。
「いいじゃん。金づるとのお別れ会だと思えばさー」
「それな! 金持ってそうなオヤジと援交させたり、店の化粧品盗ませたり。ムカつく時にサンドバッグにしてやったりな。マジ便利なオモチャだったわ!」
まるで少し前の楽しい思い出を振り返るようにゲラゲラと笑う少女3人。
それを聞いていた優衣は震えて唇を噛んだ。
「でもバレてないよね? あの子が落ちたのは……」
「変なこと言うなし。大体アレは対馬のバカが悪いんじゃん。虫を食わせようとしたら、アタシを突き飛ばしたんだからさ。天罰じゃん? テンバツ~」
「そーそー。それで逃げようとしたら足を踏み外して崖から転落とかマジウケる。コントかと思ったわ」
対馬栞の事を小馬鹿にしながら笑っている3人。
その思考が理解できず、優衣はこの場から出ていき、胸ぐらを掴みたくなった。
「まぁでも、ちょっと惜しかったかな。あんなブスでも、オヤジどもから巻き上げた金は結構助かってたし」
「今頃あの世で汚い金を貰ってくれて感謝してんじゃね?」
(……気持ち悪い)
さっきとは別の理由で気持ち悪かった。
話している内容は理解できても、何故そんな事が出来、ゲラゲラと笑いながら話せるのか。優衣にはまったく理解できないし、したいとも思わない。
戻ろうとする彼女たちに気付かれないようにして優衣は会場の中に戻った。
その日も授業を終えて適当にブラブラと過ごす。
幾つかの買い物を済ませていると、ある喫茶店が目に留まった。
「ポアロ……SNSで載ってた」
今日は父も仕事で帰ってこないと言うし、丁度良いかもしれない。
「考え事もしたいしね」
そう思って優衣は喫茶店の中に入った。
中は小さい普通の喫茶店という感じで今は客も少ない様子だ
「いらっしゃいませ」
店員らしき色黒の男性が声をかけてきた。
少し考え事をしたいからと隅っこの席に案内して貰った。
ナポリタンのセットを注文する。
手にあるメモリースティックを眺めながらどうするかと考える。
この中には亡くなった友人である対馬栞へのイジメと事故死の音声データがある。
これを公表するのは簡単だが、やはりもう少し証拠が欲しいし、公表の仕方にも注意しなければならない。
報道の自由という言葉が在るが、それならそれ相応の責任を持たなければならない。
自分の取った行動で誰が傷付くのか、それを考えずに動くのは独りよがりの無責任だ。
刑事を父に持つ優衣だからこそそこを強く意識してしまう。
(だからと言って、公表しない選択肢は無いけど)
友人をイジメた女子生徒には必ず罰を受けて貰う。
そのつもりだが、やはり周りへの影響力を考えてしまう。
「結局は、私が臆病なだけなのよね……」
そのタイミングで前程の店員が頼んだメニューを運んできた。
お礼を言ってナポリタンを食べる。
「あ、美味しい……」
自然と口から溢れる。
そこで来店があったが、気にせず料理を口にしていると、次の客が来店する。
食事を続けていると、最近よく聞く声がした。
「あれれー? 優衣お姉さん?」
「コナン君……?」
あまり会いたくない少年に会って僅かに嫌そうな表情になってしまった。
それでも取り繕って話そうとすると、保護者らしき男性が一緒にいた。
「ったく。蘭の奴もいきなり出かけやがってよ」
一緒に来店したのはチョビヒゲの男性。
(あれ? あの人……)
テレビでよく見かけた名探偵、毛利小五郎だと気付いて優衣の視線が更に険しくなった。
「蘭さんは今日お出掛けですか?」
「あぁ。ダチとお泊まりだとさ」
毛利小五郎は色黒の店員と中が良いのか親しげに話している。
そこでコナンと話している優衣に気付く。
「なんだコナン。知り合いか?」
「うん! 前にちょっとね!」
コナンが元気よく答えると、毛利小五郎は優衣を見て、顎に指を添えて考え始めた。
「君、何処かで会った事があるか?」
「はい?」
毛利小五郎の質問が分からず優衣は首を傾げた。
柳原優衣はテレビ以外で毛利小五郎の顔を見たことがない。
その筈だ。
「あの、そういうナンパは流行りませんよ?」
「そういう訳じゃないんだが……」
昔確かに~、と考え始める毛利小五郎。
するとテーブルに置いていたメモリースティックにコナンが手を伸ばす。
「ねぇ、優衣お姉さん。これなぁに~?」
「……何でもないわ。返してくれる?」
人の物にペタペタ触らないで欲しい。
奪い返そうかとも思ったが、コナンの保護者と思われる大人の前なので穏便に返してくれるように頼む。
しかし相手にはその意図は伝わらなかったらしい。
「え~でも~。ボク、この中見が気になるんだもん。例えば、表沙汰に出来ないデータだったりして?」
一瞬だけ鋭い視線を向けられたような気がした。
それにしても、優衣にはこのコナンという少年が何を考えているのかさっぱり解らない。
前に会った時もそうだったが、いったいこの子は優衣の何を疑っているのか。
メモリースティックを返して欲しくて少し強めに注意しようとすると、毛利小五郎がコナンの頭を小突いて手からメモリースティックを取り上げてくれた。
「他人の物を勝手に触るんじゃねぇ! 悪いな、コイツはどうにも好奇心旺盛でよ」
「いえ。ありがとうございます」
メモリースティックを受け取って安堵する優衣。
そこで色黒の店員が話に入ってきた。
「失礼ですが、前程から何かを悩んでるように見えました。もし良ければ、ご相談に乗りますよ? あ、僕はこういう者です」
名刺を渡されるとそこには探偵と記されており、安室透と名前が書かれていた。
「探偵……」
プロの探偵なら友人のイジメの証拠や、それをどう公表すれば良いのか、案を出してくれるかもしれない。
しかし────。
『刑事なんて探偵の引き立て役じゃん。どうせお前の親も、犯人を取り逃がすダメ刑事なんだろ?』
子供の頃にそう揶揄われた記憶が甦る。
「お気持ちは嬉しいですけど、遠慮します。自分の事は自分でどうにかしますので。ごちそうさま」
食べ終わって席を立つ。
名刺を返そうとするが受け取らないのでこう言った。
「私、探偵が嫌いなんです」
そう言って、名刺をむりやり突っ返す。
「優衣お姉さん!」
「コナン君、今みたいな事は二度としないでね」
それだけ告げると会計を済ませてポアロを出た。