人生記録が視える少女   作:魚料理最高!

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踏み込む資格(中編)

「座って、透子」

 

「あぁ。遠慮無く」

 

 中学時代の友人を久しぶりに部屋へと招き入れる優衣。

 

「珈琲で良いかな? 昨日買ってきたケーキが有るからそれをお茶請けに」

 

「うん、楽しみだ」

 

 男子のような短い髪に170を越える身長。築山透子。

 先日亡くなった対馬栞の幼馴染みであり、もう1人を含めて中学時代を仲良く過ごしていた。

 

「亜里沙は?」

 

「栞の葬儀の後に(ここ)に1泊して帰ったわ。ほらあの子、今は県外の高校でしょ?」

 

「アタシ達全員、見事に進学先が別れてしまったからな」

 

 優衣はセキュリティのしっかりした女子校。

 透子はスポーツに強い高校。

 亜里沙は父の仕事の都合で県外に引っ越し、そこの進学校に合格した。

 栞は近場の普通校だった。

 

「それで話って?」

 

 珈琲とケーキを差し出すと、言いたいことはキッパリと言う質の透子にしては珍しく言い淀む。

 

「どうしたの?」

 

 自分の分のケーキを1口食べて質問を繰り返す優衣。

 透子は珈琲に砂糖とミルクを入れてから飲んで言葉を発した。

 

「優衣は、本当に栞が事故で亡くなったと思っているのか?」

 

「……どういう、意味かしら?」

 

 優衣は無意識に床に付けている手が泳ぐように動く。

 

「実は、栞が亡くなる少し前に連絡が来ていたんだ。普段は電話で来るのに、その時はLINEで。それが少し気になって」

 

 スマホの画面を見せる。

 

 そこには栞から相談したいことがあるんだけど、いいかな? と書かれていた。

 

「これが来たのが夜の9時くらいで。すぐに電話をかけてみたんだけど、取らなくて。それでLINEで会える日を教えて欲しいって。アタシもその時は部活が忙しかったから、少しを間を開けた日時を指定したんだ。でも……」

 

「栞が亡くなったのね?」

 

 優衣の言葉に透子が頷く。

 栞は幼馴染みで最も付き合いの長い透子に相談か、助けを求めようとしたのかもしれない。

 

「その前にも電話で話していた時に違和感があった。なんか、無理に明るい声を出していると言うか。その時は気のせいだと思ってたんだけど……だから、優衣はここ最近の栞について何かし知らない?」

 

 縋るような視線を向ける透子。

 刑事の娘である優衣なら、何か知ってると思ったのかもしれない。

 確かに優衣は誰の娘とかは関係なしに、対馬栞の件がただの事故でないと知っている。

 だけど────。

 

「ゴメン。私も高校に進学してから栞とは疎遠だったから。最近の様子となるとちょっと……」

 

「……そうか。そうだよね」

 

 気落ちした様子の透子。

 話したい気持ちはあるが、幼馴染みの彼女が友人の死の真相にどんな行動に出るのかちょっと想像出来ない。

 最悪、栞にイジメをした者達に襲いかかりかねない。

 せめてもう少し情報が集まるまでは黙っていようと優衣は決めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は友人とのカラオケを終えて朝帰りしていた。

 今日は高校は休みで、帰ったら気の済むまで惰眠を貪る。

 その予定だった。

 

「~~~~っ!?」

 

 しかし今少女は手足を椅子に縛られて、目隠しをさせられ、口にもタオルを巻かれて噛まされている。

 何処かで椅子に拘束された少女は恐怖からバタバタと身動ぎしている。

 すると、少女の座る近くの床にドンッと重たい何かが乱暴に置かれる音がした。

 少女の口に巻かれたタオルが取られる。

 

「ちょっ、なんなのよこれは! ねぇ、ふざけてないで帰して……!」

 

 目の前に居るが見えない誰かに訴える少女。

 返しに少女の口へホースのような物が突っ込まれる。

 

「ううっ!? うーっ!?」

 

 抵抗するが椅子に固定された体では首をイヤイヤと振ることしか出来ない。

 そこで相手から憎しみの込められた声が聞こえてきた。

 

「栞の、仇ぃ……」

 

 それは、ついこの間まで高校で彼女が所属するグループがイジメを行っていた同級生の名前。

 

「ん~っ!? んんっー!?」

 

 少女は抵抗しつつ心の中で訴える。

 確かにイジメには自分も加担したが、こんな目に遭わされる程酷い事を自分はしてない。

 だから助けて、と。

 そう心の中で呼びかける。

 そんな少女に相手は手にしている赤い消火器。

 ホースを少女の口の中に突っ込んだまま、詮を躊躇うことなく引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうかな? 美奈子姉さん」

 

「どうかな? と言われてもな」

 

 優衣は今日、法学部に在籍する従姉妹である高島美奈子に会いに来ていた。

 以前温泉旅行に連れていって貰ったりと何かと世話になっており、優衣の能力を知る数少ない人物だ。

 

「私はまだ学生身分だから断言はしないが、この程度の証拠でその子達にイジメを認めさせるのは不可能だと思うぞ」

 

「やっぱりそうだよね……」

 

 分かっていた答えに優衣はテーブルに突っ伏す。

 高々1人の女子高生でしかない優衣に他校のイジメについて調べるには限界があった。

 聞き込みなどしても亡くなった生徒ということもあり、大抵は煙たがられるし、話を聞いてくれても要領を得ない返答ばかりで事実か判断するのは難しい。

 

「そもそも友人というのがな。ご家族にも話を通さないと」

 

「うん……でも栞のご両親、もう引っ越しちゃって。連絡が取れないのよね」

 

「なら興信所に依頼したらどうだ。訳を話せば伯父さんも費用を出してくれるだろう?」

 

「……」

 

 嫌な顔をする優衣に美奈子は肩を竦めた。

 少々幼稚な理由で優衣が探偵を嫌っていることを知っているからだ。

 

 次々と出されるダメ出しに優衣は自分の考えの浅さに頭を抱えた。

 美奈子がテレビを点けるとニュースが流れていた。

 

『本日午前8時頃。◯◯◯◯さん(15)の遺体が米花町の閉鎖された病院で発見され────』

 

 それを聞き、公開されている被害者の顔写真を見て椅子から立ち上がった。

 

「優衣?」

 

「……この子、栞をイジメてた子の1人だ……」

 

「え?」

 

 あのお通夜で見た1人。少しポッチャリした茶髪の子。

 

「ゴメン、美奈子姉さん。出るね」

 

 廃病院の場所を確認して優衣は家を出た。

 後ろでは美奈子が止めるように言っていたが、聞こえても脳まで届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目的の場所まで着くと、自分と同じように集まっている野次馬を警察が抑えている。

 

(せめて、何か視えれば……)

 

 普段は忌々しく思っている自分の力をこんな時だけ頼りにする事に不快感を覚えるが、そんな事を言っている場合でもない。

 

(通り魔による女子学生を狙った犯罪か。それとも、栞に関係が有るのか。それだけでも)

 

 強く願ったお陰か、入り口に視点が合うと優衣の視界にノイズが走った。

 モノクロテレビのような不鮮明な光景。

 廃病院に入って行く誰か。

 

「あれ、は……」

 

 頭痛から呼吸を乱していると不意に肩を掴まれた。

 驚いて振り向くと、そこには先日入った喫茶店の店員が立っていた。

 

「どうかしましたか? 顔色が優れないようですが?」

 

「あ、いえ……少し……」

 

 まだ頭が混乱して上手く話せない。

 先程視た光景が頭から離れず、挙動不審な態度になってしまっている。

 どうにか受け答えをしようとすると、安室が優衣の手を引いた。

 

「あ……」

 

「何にせよ、女の子が1人殺人現場(こんなところ)に居るべきじゃない。少し離れて休みましょう」

 

 抵抗することなく手を引かれる優衣。

 もう一度廃病院に視線を向ける。

 

(さっき視えたのは、間違いなく透子だった……)

 

 潰れた病院に入っていった友人に不安を覚えて優衣は体を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 流石によく知らない男性と2人きりでお店に入る勇気はなく、優衣は近くで少年野球をしている広場が見えるベンチに座った。

 ここなら何か遭っても大声を出せば野球をしている子供達と指導役の大人が気付くだろうと思って。

 

「あの……この間はすみませんでした。その、探偵が嫌いなんて言って。態度が悪かったですよね」

 

 コナンにUSBを取られてイラついていたとはいえ、あの態度はない。

 普段なら絶対あんな態度は取らなかったのにとあの時の自分を思い出して恥ずかしくなる。

 

「ははは。気にしないでください。探偵なんて、人から嫌われる物ですから」

 

 探偵とは、悪い解釈をすれば、他人の知られたくない秘密を調べ上げる職種である。

 近年、高校生探偵の工藤新一や毛利小五郎などの登場により、警察と協力して事件を解決する人という印象が世間に広まって来ているが、あんなのは極々僅かな異例である。

 安室の方から話を振ってくる。

 

「それで、どうしてあんな場所に? 失礼ですが、あなたがあのような場所に興味が有るようには見えませんよ」

 

 そうだろう。

 優衣だって、友人の事がなければ近くで起こった嫌な事件。

 もしくは同世代が被害に遭って、警戒心を強めるきっかけくらいにしか感じなかっただろう。

 

「それは……」

 

「これでも、あなたより少しばかり長く生きている身です。何か力になれるかもしれません。これでも僕は毛利小五郎の弟子ですから」

 

 安心させるような声。

 それに触発されてか、優衣は視線を下げたまま話を始める。

 

「安室さん、でしたっけ。もしも友達が自分の知らないところで悪い事をしていたら、どうしますか?」

 

 最後の問いかけのところで優衣は安室と視線を合わせた。

 先程見た廃病院に入って行く友達の姿が頭から離れない。

 彼は考える仕草を取ってから話す。

 

「そうですね。やった事にも依りますが、先ずは理由を聞きますね」

 

「理由……」

 

「はい。そしてイタズラ程度なら怒りますが、もしも犯罪を犯したのなら、自首させます。力ずくでもね」

 

「友達でも、ですか?」

 

「友人だからこそ、ですよ。もしも友人だからと犯罪を見逃していたら、探偵は務まりませんから」

 

 友人だから、という言葉を優衣は声に出さずに反芻するとゆっくりと立ち上がった。

 

「ありがとうございます。お陰で少しだけ悩みが晴れました」

 

 いえいえと言う安室に優衣がお願いをする。

 

「あの、今更ですけど、名刺を貰えませんか? 私の手に負えないと思ったら、頼るかも知れないので」

 

 もしも自分でどうにか出来ないなら、警察か目の前の探偵を頼るかもしれないと思った。

 その言葉に若干驚いた様子を見せたが、安室は名刺を渡してくれた。

 

 優衣はお礼を言って別れた後に築山透子に電話をかけた。

 

 

 

 

 

 

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