主人公イグナイトはあるとき、自分が前世で読んだ小説の世界に転生したことを悟る。そして同時に自分の置かれた立場が、ヒロインの悲惨な過去を演出するために用意された死亡確定のモブだと理解した。

「まずい、このままだと俺どころか妹のメアリーまで死んでしまう……」

このままでは自分だけでなく、双子の妹であるメアリーまでもが死ぬ。メアリーだけは死なせない。そう覚悟を決めて、何とかしようとするイグナイトだったが、何の力もない彼に世界は残酷だった。原作知識を生かし抗おうとするも、ここは現実。あっさりと予測を裏切られ、兄妹揃って人体実験の実験台にされてしまう。
そして、実験が終わり目が覚めたイグナイトが見たものは。

鏡に映る―――自分が乗っ取ってしまった最愛の妹の体だった。

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プロローグ:絶望てんせい

「転生したら、死亡確定のモブとか……絶望しかない」

「なに言ってるの、お兄ちゃん?」

「いや、何でもないよ、メアリー」

 

 俺、イグナイト・ローグは無表情になった顔で、不機嫌そうな顔をする隣の美少女に首を振る。美少女の名前はメアリー・ローグ。金髪緑眼という要素に、幼い顔立ちながら、将来は間違いなく美人になると確信できる美貌を持った俺の双子の妹だ。

 

 俺に似ず心優しい子だ。兄として実に鼻が高い。

 きっと、転生特典はメアリーを妹に持つことだったのだと、1人納得するばかりである。

 

「何でもないって……最近、お兄ちゃん変だよ?」

「そう見えるか……悪いな、心配してくれて」

「当たり前でしょ、家族なんだから! …って、どうして頭を撫でるの!?」

「家族なんだから当たり前だろ?」

 

 やっぱり、俺の妹は世界一可愛いと再確認しながら、メアリーの頭を撫でる。

 最近、思春期に入ったのか、メアリーはポニーテールを揺らして嫌がるそぶりを見せる。

 だが、兄である俺の目は誤魔化せない。

 猫のように目を細めて嬉しそうな表情をしているし、何より本気で逃げていない。

 俺はメアリーに愛されていると分かるだけで、もうご飯が何杯でも行ける。

 

「兄ちゃんはな。いつまでここに居なきゃならないのかって考えてただけだ」

「そっか、確かにこんなとこにずっと閉じ込められてたら、嫌にもなるよね」

 

 俺の誤魔化しに対し、上手いこと誤解してくれたらしく、メアリーは辺りを見渡す。

 刑務所を思わせる高い壁は広い庭という要素を台無しにし、閉鎖感を醸し出している。

 周りで遊ぶ子供達も、皆同じ服を着させられ、それがより一層、刑務所感を出す。

 いや、実際問題として、ここは俺達を閉じ込めておく牢獄なのだ。

 

「パパとママが戦争で死んでから、ここに連れられてきたけど……毎日、血を抜かれたり注射されたりして、何がしたいのか分かんないね」

「……そうだな」

 

 心底嫌そうな顔をして、注射を受けた腕を擦るメアリー。

 そんな様子を横目で見ながら、俺は歯を食いしばる。

 俺は知っている。ここが何のための施設なのか。ここに居る子供達の末路を。

 

 端的に言おう。ここは人体実験施設であり、俺達はそのモルモットだ。

 そして、ただ1人の少女を残して殺される運命にある。

 これが『宝石物語(ジュエル・ストーリー)』という小説の、()()()()から俺が知り得た情報だ。

 

「まあ、綺麗な宝石(ジュエル)をたくさん触れたのは良かったけど」

「と言っても、俺達はどっちも『神々の魂(エネルギージュエル)』を使う才能はなかったがな」

「たしか、適合値(てきごうち)? それが私達2人で足して、ようやく足りるぐらいだっけ?」

 

 神々の魂(エネルギージュエル)。単に宝石(ジュエル)とも呼ばれる特殊な宝石。

 それは小説、『宝石物語(ジュエル・ストーリー)』の根幹をなす設定だ。

 

 この世界の宝石は単なる装飾品に留まらず、それに宿る力を引きだすことで人知を超えた能力を行使することが出来る。例を挙げるとすれば、ルビーを身につければ炎を操れる。サファイアを身につければ水を操れると言った感じだ。

 

 早い話が魔法の杖のようなものである。

 実際に、作中でも宝石(ジュエル)を使った攻撃を宝石術。

 ジュエルマジックと呼んでいた。

 

「あーあ、私にジュエルが使えたなら、壁なんて簡単に壊せるのに」

「諦めろ。こればっかりは生まれつきのものだ。出来ないことをしても痛い目を見るだけだぞ。大体、あれはちょっとした宝石術で壊せるような壁じゃない」

 

 そんな神々の魂(エネルギージュエル)だが、その大層な名前の通り、誰にでも使えるわけではない。

 適合値と呼ばれるものが一定以上にないと、その力を引き出すことが出来ない。

 さらに言えば、適合値が高い人間でもジュエルごとに相性がある。

 ルビーの相性が高い者は火を自在に操れるが、サファイアでは水を出すぐらいしか出来ないなどだ。

 

 なので、作中でも複数のジュエルを扱う人物はほとんど登場しなかった。

 変に器用貧乏になるよりも、得意分野を伸ばした方が良いというのがこの世界の考え方なのだろう。

 

 因みにこの施設はそう言った実情から、人工的に適合値が高い人間を作り出そうとしている場所だ。と言っても、成功率はお察しだ。当事者としてはまったくもって笑えないが。

 

「はいはい、分かってますよー。ホント、お兄ちゃんって変に達観してるよね」

「そりゃそうだ。お前より長生きしてるからな」

「双子なんだから一緒でしょ!?」

 

 と、まあ原作知識をこうして思い出してみるが、転生先としては正直微妙だ。

 俺も寝る前の妄想でオリジナルジュエルを考えたりしたが、使えなければ意味がない。

 そう、俺の異世界チート物語は始まった時点で終わっていたのだ。

 だが、その代わりに、俺はかけがえのないものを手に入れた。

 

「ハハハ、そうだな。双子だもんな」

「当たり前でしょ。生まれた時間なんて数分ぐらいしか変わらないよ」

 

 最愛の妹メアリーである。

 双子とはいえ、精神年齢は前世のある俺の方が圧倒的に上だ。

 当然、猫可愛がりをした。正直、初孫を目にした爺の気持ちが良く分かる。

 

 可愛い。とにかく可愛いのだ。

 意地っ張りで、素直でないときもあるが、それもまた可愛い。

 もう、異世界チートとかどうでもよくなった。

 むしろ、メアリーの美少女っぷりこそがチートだと言われても納得できる。

 

 だから、今生の俺は妹のために生きると決めたのだ。

 

「まあ、冗談はさておき、いつかはここから出て行かないとな」

「でも、親の居ない私達がまともにご飯を食べられるのはここぐらいだよ?」

「そこも考えないとな。はぁ…こんなことならあの日逃げるべきだったか」

「それはそれで飢え死にしてそうだけどね。大体、完全武装した男の人達に囲まれて、ついて来いって言われたら逆らえるわけないよ。断ってたら飢え死に以前にあそこで殺されてたよ、多分」

 

 と言っても、現状は醜態をさらすばかりである。

 正直な話、この世界が『宝石物語(ジュエルストーリー)』の世界だと確信したのは、この施設に連れて来られてからだ。知ってたら、絶対にここには来なかった。いや、メアリーの言うように、結局連れて来られるはめになってたかもしれないが。

 

 戦争で両親が死んで、何が何でもメアリーを食わせねばと必死だったので、気づくのに遅れたと言い訳は出来る。だが、それでメアリーと一緒に怪物の胃袋に飛び込んだのでは世話が無い。

 

「せめて、ここじゃなかったら希望があったんだがな……」

 

 メアリーに聞こえないように静かに、溜息を吐く。

 別に、ただの人体実験施設なら死亡確定とは思わなかった。

 だが、俺はここに来てある人物、原作キャラに出会い絶望した。

 その原作キャラというのが。

 

「ここに居たのね。イグナイト、メアリー」

「あ、クリスタル。どうしたの?」

 

 庭の隅っこで座っていた俺達に、ある少女が笑いかけてくる。

 セミロングの白銀の髪に、水晶のように透き通った淡い色の瞳。

 まるで、絵画の中の女神のように現実感を感じられぬほどの美少女。

 それが彼女、クリスタル・アズフール。通称クリス。

 

『宝石物語』の原作ヒロインの1人である。

 

「ドクターがご飯の時間だから、食堂に集まりなさいって言ってたわ」

「あ、もうそんな時間なんだ。お兄ちゃん、早く行こ!」

 

 ご飯だご飯だと、はしゃぐメアリーに癒されつつ、俺はクリスタルを見る。

 クリスタルは『宝石物語』では、この実験施設に居る子供の中で唯一の生き残り。

 言い方を変えれば、人為的に適合値を高めた唯一の成功例だ。

 つまり、彼女以外の子供達は俺とメアリーも含めて死ぬという、特大の死亡フラグである。

 

 正直、俺の中では死神としか思えないので、顔を見る度に内心ではビビっている。

 もちろん、メアリーの前ではカッコいい兄貴で居るために、おくびにも出していないが。

 

「ああ、分かった。クリスタルもわざわざ知らせに来てくれて、すまないな」

「いいわよ、別に。ご飯はみんなで食べた方が美味しいもの」

 

 屈託のない笑顔を浮かべるクリスタルを見つめながら、俺は何とも言えぬ気分になる。

 クリスタルは、原作ではその名の通り水晶のように感情の無い女だった。

 さらに言えば、当初は主人公の敵であり、殺戮人形と言っても差し支えの無い存在だった。

 最終的に主人公の活躍により、感情を取り戻すが、それでもクール系美女のくくりに入る。

 

 それが、この無邪気な笑顔だ。

 原作では書かれていなかったが、どう考えても他の子供達が死んでいったのが原因だろう。

 自分だけが生きている罪悪感と悲しみを隠すために、自然に感情を閉ざしたのかもしれない。

 そう考えると、彼女を死亡フラグと捉えている自分が途端に情けなくなる。

 

「どうしたの? 私の顔に何かついてるかしら?」

「いや、何でもない」

 

 俺がそんなことを考えていると、クリスタルが可愛らしく小首を傾げる。そんな普通の子供らしい仕草を見ていると、自然に同情の念が湧いてくるが、正直こっちはこっちでそれどころではない。彼女以外に生き残りは居ない。つまり俺達は紛れもなく死亡確定のモブなのだ。何とかしなければならない。メアリーのために。

 

「メアリー」

「なに、お兄ちゃん?」

「困ったことがあったら、何でも兄ちゃんに言えよ。兄ちゃんがお前を守ってやるから」

「どうしたの、急に……変なお兄ちゃん」

 

 俺の言葉に困惑した表情を浮かべるメアリー。

 そんな顔を見ながら、俺はさらに決意を固める。

 俺は生まれ変わった身だ。死ぬのはそこまで怖くない。

 

 でも、メアリーは違う。この子は普通の子だ。

 普通に生きて、普通の幸せを掴むべき存在なのだ。

 だから、メアリーはメアリーだけは他の何に代えても守ってみせる。

 それが兄として生まれてきた俺の使命だ。

 

「フフフ、相変わらず仲が良いわね、2人は」

「えぇ? 今のはお兄ちゃんが変なこと言っただけでしょ」

「いや、クリスタル。君は実に良い目をしているよ」

 

 そのためには、まずここから脱出しなければならない。

 例え、他の子供達を見捨てることになってでも、成し遂げる。

 今のクリスタルの言葉で、俺の中での好感度が急上昇したが、それはそれである。

 

 メアリーのためなら、最悪始末することになっても構わない。

 そう、内心で暗い覚悟を決めながら、俺は2人について食堂に向かうのだった。

 

 

 

 この時、どうしてメアリーを引きずってでも逃げなかったのか。

 そう、一生悔やむことも知らずに。

 

 

 

 

 

 子供達が楽しみにする食事と言っても、豪勢なものではない。

 質素で、必要最低限の栄養が取れれば良いといった感じのものだ。

 それでも、この施設に集められるような子供は、皆まともに食える家庭ではない。

 故に、質素な食事でも毎日楽しみにしている。

 

「メアリー、俺は腹いっぱいだから残りを食べてくれないか?」

「またぁ? しょうがないなぁ、お兄ちゃんは」

 

 もちろん、それはメアリーも変わらない。

 何より俺達は10歳、育ち盛りの年齢だ。質素な食事では当然物足りない。

 だから、俺はいつもこうしてメアリーに食事を分け与えている。

 

「悪いな、メアリー。その代わりいっぱい食ってデカくなってくれ」

「言われなくても、私もママみたいな美人さんにいつかなるもん!」

「ハハ、そいつは楽しみだ」

 

 口元についた汚れを拭いてやりつつ、俺は空腹をこらえて笑う。

 ただの子供なら耐えられなかったかもしれないが、生憎俺は前世持ちだ。

 前世と合わせれば余裕で大人だ。このぐらいの空腹簡単に耐えられる。

 

「……イグナイト、本当にご飯足りてるの?」

「心配するな、クリスタル。俺は少食だからな」

 

 だというのに、クリスタルが何かを察したように俺に声をかけてくる。

 もちろん、俺はメアリーへの嘘がバレるといけないので、平然と笑う。

 しかし、本当にクリスタルは感情が豊かで原作から見ると違和感があるな。

 まあ、14歳の時に自分以外の施設の子供が死んだとなれば、性格が変わるのも無理はない。

 

「そう言えば、クリスタルは何歳なんだ?」

「私? 私は12歳だけど、どうかした?」

「いや、ただの確認だ」

 

 そして、今のクリスタルは12歳。

 要するに、猶予としては2年ほどあると見ていい。

 それまでに、この施設から抜け出す方法を見つければ何とかなる。

 何の根拠もないのに、俺はそう信じていた。

 

「ごちそうさま!」

「もう、食べたのかメアリー。ちゃんとよく噛んだか?」

「ちゃんと20回は噛んだよ」

「合計じゃないだろうな?」

「一回に決まってるよ!? 大体、それじゃあほとんど飲んでるみたいじゃん!」

 

 軽くメアリーをからかいつつ、ちゃんと食べたのかを確認する。

 両親が居ない以上は、しつけは俺がやらなければならない。

 転生してから気づいたが、しつけとは親の愛情そのものだ。

 しつけがなっていない子供は、大体の場合親が子供に対し無関心のことが多い。

 だから、俺がやる。他人がメアリーを見た時に、この子は愛されて育ったのだと示すために。

 

「悪い悪い、ちゃんと出来ててえらいな」

「もう、子ども扱いしないでよ」

「メアリーが可愛いのが悪い」

「あ、また頭を撫でて……」

 

 子ども扱いされたことにプリプリと怒るメアリーだが、頭を撫でてやると怒気を収める。

 同時にまぶたがトロンと落ちていることから見て、満腹になって眠いのだろう。

 仕方がない。一度、昼寝でもさせるか。

 

「すまない、クリスタル。メアリーを部屋まで連れて行ってくる」

「私も手伝おうかしら?」

「いや、1人で十分だ。ほら、行くぞメアリー」

「はーい……」

 

 クリスタルと別れ、メアリーを食堂から連れ出す。

 部屋まで歩いていると、いよいよ眠気が襲ってきたのか俺に縋って来たので、背負ってやる。

 

「まったく、世話のかかる」

 

 口ではそう言いつつ、内心は微笑ましい気持ちになり、俺は笑みを浮かべ欠伸を一つする。

 どうやら、俺も釣られて眠気が襲って来たらしい。

 そう、呑気に考えていたのもつかの間だった。

 

「なんだ…? 俺も眠いの…か?」

 

 人一人を背負っているというのに、抗えない睡魔が俺を襲う。

 足取りがふらつく。明らかにただ眠いという感覚とは違う。

 まるで薬でも盛られたような――

 

「まさ…か…!」

 

 ガクリと廊下に膝を突きながら、俺は最悪の想像をする。

 俺たち兄妹をターゲットに、飯に薬を盛られたのかもしれない。

 いつも、他の奴らが食って大丈夫そうなのを見てから食べていたが、俺達をピンポイントに狙ってきた上に、遅効性の薬のせいで気づけなかった。

 朦朧とする意識の最中、耳に聞こえてきた声が俺のその想像を冷酷に裏打ちする。

 

「イグナイト君、メアリー君。今回の実験はこの双子を使おう。ククク、きっと面白い結果になるはずだ」

 

 この施設において珍しい大人の声。

 それは捕食者が舌なめずりをする音。

 この施設でドクターと呼ばれる青髪の若い男の声だ。

 

(甘かった…! クリスタルが唯一の生き残りになるのが、2年後だとしても…それまで死者が出ない訳じゃないッ)

 

 自分の見通しの甘さに後悔するがもう遅い。

 体はもう動かすことも出来ず、意識も落ちる寸前だ。

 

「双子の適合値を足せば閾値(いきち)に達成するというのなら、実際にやってみるしかない。ふむ、我ながら良いアイデアだ」

 

 それでも、メアリーだけは守りたくて俺は声を絞り出す。

 何の意味もないかもしれないが、それでも僅かな希望にかけて。

 

「メアリーは…メアリーだけは……」

「ふむ? 妹だけは守ろうとするとは、見上げた家族愛だね」

 

 まともな言葉になっていなかったが、それでも意図は伝わったらしい。

 その事実に、思わずドクターに感謝しそうになってしまう。

 普通に考えれば、ドクターが今まさに俺達を害しようとしているというのに。

 

「クク、いいだろう。君の覚悟に免じて妹の()()の保証はしよう」

 

 そんな意味深な言葉に、問い返すことも出来ずに俺は意識を失うのだった。

 

 

 

 

 

 目が覚める。

 そのことに思わず、安堵の息を吐いてしまう。

 間違いなく死ぬと思っていたから、生きているだけで有難みが湧いてくる。

 

「……メアリー。メアリー、居ないのか?」

 

 寝かされていたベッドから上半身を起こし、メアリーを探す。

 その時、自分の声がやけに高いような気がしたが、気にするべきではないと切り捨てる。

 辺りを見渡すが、メアリーの姿はない。

 別の部屋に居るだけならいいが。そう、思っているとドクターが部屋に入ってくる。

 

「やあ、気分はどうだい? 実験は成功だよ。私としても実に満足だ」

「ドクター……メアリーはどこだ?」

「んん? どこも何も……いや、そうか! そういうことか!!」

 

 俺がどこに居るかと聞くと、ドクターは一瞬黄金の瞳を不思議そうに顰める。

 しかし、それも一瞬で何かを理解したらしく、ドクターはゲラゲラと嗤いだした。

 一体どうしたのだと、俺が呆気に取られていると、ドクターは腹を抱えながら説明を始める。

 

「クハハ…私が今回行った実験は、2つの魂を混ぜ合わせることで、適合値を高めるものだ。ジュエルの適合値は、魂由来のものだと判明しているからね」

 

 ドクターの説明に嫌な予感が走る。

 自然と喉が渇いていくのが自分でもハッキリと感じられる。

 

「普通は他人の体に他の魂を移すことなど出来ない、拒絶反応が出るからね。しかしだ。君達が双子だった故か、それともイグナイト君の魂が()()()()()のかは分からないが、それが成功した」

 

 そう言って、ドクターは懐から手鏡を取り出す。

 そして、俺の目の前にそれをかざすのだった。

 実に愉悦に富んだ瞳で。

 

 

「妹の身体を―――兄の魂が乗っ取る形でね」

 

 

 鏡に顔が移る。

 緑の瞳、金のポニーテール。

 将来絶対美人になる幼い顔立ち。

 ああ、見間違えるはずがない。この顔は、この体は。

 

 最愛の妹(メアリー)のものだ。

 

「―――――ッ!?」

 

 声にならない悲鳴と共に胃の中のものを吐き出す俺。

 そんな滑稽な姿を嘲笑うように見つめながら、ドクターは滑らかに口を動かす。

 

「ああ、そうだ。イグナイトとメアリー、どっちで読んだ方が良いかな? 苗字であるローグで呼ぶのも味気ないし、新しい名前を付けた方がいいかね? ククク、そうだね。2人の名前を合わせてこんなのなんてどうだい」

 

 どこまでも人を見下し、馬鹿にした黄金の瞳でドクターは告げる。

 これからの俺の人生そのもの表す名前を。

 

 

悪夢(ナイトメア)。実に君の顔にピッタリじゃないか?」

 

 

 そうして俺は、絶望の転性を果たしたのだった。

 




自分が書いてみたい転性を求めてたらこんな形に落ち着いた作品です。

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