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親父=主人公
オヤジ=白ひげ
紛らわしくてすんません…
『エース、サボ、ルフィ。海は良いぞー!』
丘の上から海風を一身に受けるその人は、オレ達に眩しい程の笑顔を浮かべて海を背に両手を広げた。
『海に出る男達の求めるモノは、何にも縛られない自由だ!ロマンだ!!海は良いぞ!夢を見れる!』
はっきりとそう語るその人の言葉に、ルフィは瞳を輝かせ、サボは聴き入り、オレは心を踊らせた。
『海賊になるのはそりゃあ人様から見りゃあ悪だけどよ、自由を追い掛ける男にゃ野暮ってもんだ!まぁやり方によっちゃ打首は当然だけどな』
『なぁなぁ《父ちゃん》!父ちゃんも海賊なんだろ!?海ってどのくらい広いんだ!?海の端っこって本当にあるのか!?行った事あるのか!?』
質問を重ねるルフィにサボとオレは呆れた。
『おいおい《父さん》は海賊じゃないだろルフィ』
『それと、《親父》にその質問は無理だろ』
『えー!?父ちゃんって海賊じゃないのか!?それにエース!それってどういう意味なんだ?』
お前本当に話聞いてなかったんだな、とジト目になるもルフィは、寝てた!!と元気よく笑う。
ついで殴りルフィの頭にタンコブが出来たところで説明してやった。
『いいかルフィ!親父は島から島へ一瞬で渡るから海なんか通らねーんだ!というか海の広さなんて誰にだって分からねぇーよ!それこそ世界一周した奴しか!!…………世界、一周……した……?』
世界一周した男をガン見すると当の本人はオレの視線に、ぽんっ!と手を叩き笑った。
『そういや俺、世界一周してたわ!!忘れてた!』
『『いや忘れてんなよ!!!!』』
『え゛っ父ちゃんって海渡らねーのか?!』
『『そこじゃねーよバカ!!』』
3つのタンコブをつけたルフィが喚くなか、変なとこでずぼらな人にいい大人が呆れると溜息を吐いた。
『まぁ気にすんな!』
『本人は気にしとけよ』
『まぁまぁ。でもさ父さん、俺達は確かにいつか海に出るけど、父さんはどうするんだ?』
『!そうだ、またどっかの島にでも滞在すんのか』
『ん?そうだなぁ…』
考え出す親父に、ルフィは食いつく。
『なんならさ!俺の船に乗ってくれよ!!』
『『っな…!?』』
『ルフィの船かぁ?』
その手があった!!とサボと目線で合図すると、ルフィを抜かして親父に詰め寄る。
『乗るのはオレんとこにしろ!!ルフィの船になんか乗ったらなんか色々勿体無い!!』
『いやいや航海士の船が一番良いに決まってる!!俺航海士になるしさ!俺の船に乗ってくれよ!』
『んなのは関係ねぇーだろ!!強い奴の船に乗るのが当然だ!それに一番付き合い長いのは俺だ!!』
『それこそ関係ねぇーよ!!つか卑怯だ!!』
『卑怯じゃねえ!!』
『あーー!!俺もいるぞ!!二人で争うな!!』
ガミガミガヤガヤと醜い論争を続けていると、ぷはっ!と吹き出し、笑いながらオレ達を引き離す親父を見上げた。
『ハハハッ!いやぁ、愛されてるわぁ俺〜。はいはい、何処も乗らないから引き分けな』
『『『なんでだよ!!』』』
『ック』
何処にツボが入ったのか肩を震わし笑う親父に、三人揃って顔を見合わせブスくれる。
『クク…っいやぁ、悪い悪い。理由はほら、俺が自由を愛する渡り鳥だからさ。乗れないんだわ』
悪いなと頭をわしゃわしゃと撫でられるオレ達は、ブスくれたまま、それでも納得して大人しくした。親父は、確かに誰よりも──あのゴールド・ロジャーよりも自由に生きてる。
何にも縛られず、何からも干渉されない、自由に飛び回る《渡り鳥》。
『……ずりーよな』
『あぁ。ずるい』
『ケチんぼ』
『いやルフィ、ケチではないぞ?』
『コウノドリ』
『渡り鳥だアホ。何も運んでこねーよ』
ひたすらにブーイングを受ける親父は苦笑して、そういわれてもなぁ、と頬を掻く。
そして、むず痒くなるような暖かい視線でオレ達を見つめ、親が浮かべる優しい微笑みを向けた。
『いつかお前達にも分かる時が来る。海に出る以前に、俺の息子達だ。きっと、自由の素晴らしさが分かる。憧れるだけじゃない、自分達が体感する、好きに生きられる解放感がその身で味わえる』
まさにそれを体現してきた親父に言われると、そうなのかと心の内で自然と受け止められるのが不思議だ。サボもルフィも同じ様で、今にも待ち切れないとウキウキした様子で表情を輝かせていた。
『でもそうだなぁ……もし、もしこの先大切な仲間が出来て、自分の進むべき道をしっかりと見定めて、それでも尚、お前達が心から俺を望むとするなら。三人の内誰かの船に乗ってもいいぞ?』
『『『!!!』』』
不敵に笑う親父の発言に目を大きく見開かせれば、どうだ?と試す様に親父はオレ達を眺めた。
その真意を探る前に、揃って声を響かせる。
『『『望むところだ!!!』』』
『──上出来だ。楽しみに待ってるよ』
・・・それは、近いうち別れることになる、親父からの試練。きっと親父は、ああなる事も見据えていておれ達に言ったんだと思う。
自由とは何か。志とは何か。誇りとは何か。
全てが俺達が決めるべき選択。いつの日か出会うべきその時には、おれはきっと答えを出せているんだろう。
──・・・ああ、とっくに出せてるよ、親父。
力の抜ける海楼石を枷に嵌め、目の前で起こる惨状を眺めて思い出すのは親父の姿だった。
「──ゴール・D・エース。何を思い出している」
「………何も」
処刑場から見える景色はただの戦争だ。
おれがドジ踏んじまったばっかりに家族総出で迎えに来ちまった《オヤジ》、──白ひげ海賊団とその全傘下達。初めは絶句の一言だったにも関わらず、今は冷静に惨劇を見ていられるのは不思議だった。
「………オヤジ…」
何故助けにきてくれたのか問うた。
それはおれが《オヤジ》の愛する『息子』だから。
『家族』の一員だから。
『生きて』いて欲しいから。
とてもシンプルでいて、重い言葉に、泣いた。
「…………、っ…」
鬼の子だなんてフレーズには、もうガキの頃に親父に救われて何とも思ってなかった。
けれどあくまで個人の話。世界には、通じない。
・・・親父にはなんて言われるだろうか。
きっとこっぴどく叱られるんだろう。何故なら、あの人は誰よりも先に、俺を受け止めてくれた人だから。
俺の生きる意味を見出してくれた大恩人で、俺に全てをぶつけてくれた親父。どうせなら家族である彼等には何も知らせずに去りたかった…──なのに・・・ッ、
「何故此処に来たぁ!!ッルフィイイッッ!!!」
「俺がお前の──弟だからだぁああああッッ!」
なんで、お前は、そう無茶ばっかり…!!
出来ることならお前にだけは来て欲しくなかった。唯一の弟だ。無謀な真似なんてさせたくなかった。
けれどお前は、来てしまった。
「っグ、ゥウウゥウ…ッ!」
悔しさに信念が打ち負けそうだった。
こんなにも、おれを助けに来てくれる人達が居る。こんなにも、おれを愛してくれている人達が居る。
こんなにも、血を流し、尚諦めないでくれている。
「……くそ………おれは歪んでる!!!………こんな時にオヤジが……弟が………!!仲間達が……!!血を流して倒れて行くのに………!!!おれは嬉しくて……!!涙が止まらねェ!!!今になって命が…惜しい!!!」
これは罪だ。俺自身の、許されざる罪だ。
けれどその罪を共に背負ってくれる家族が出来た。俺の生を望んでくれる大切な仲間達が出来た。
俺はなんて、なんて、──幸せ者なんだ……!!
「──漸く実感してくれて嬉しいよエース」
「危うく兄弟を喪って、俺が死ぬとこだったな」
「!!!!」
懐かしい声だった。
全ての音が驚いた様に弾ける。おれは目を見開き、ゆっくりと後ろを振り返った──・・・!!
「親、父…?」
「エース。大きくなったなぁ〜」
優しく微笑む様はまさにあの頃の姿のままで、おれは戸惑うままにその隣を見詰めた。
貴族の様な成り立ち。目には火傷の跡。シルクハットには、ゴーグル、が………!
そこまで見た時、掠れた喉を震わす。
「……サボ……?」
男はニコリと微笑み、俺の目線まで膝を折った。
「──懐かしいな、エース。無事でいて何よりだ」
「サ、ボ………ッ!?」
まさか、そんな、嘘だ、と声にならない声でサボを驚愕で呆然と見続ける。サボは泣きそうな、それでも嬉しそうにニッと笑い、立ち上がった。
「父さん、エースの海楼石の手錠を外してやってくれよ。流石に俺もまだ無理だ」
「ハハハッ!何十年経っても難しいと思うぞ!」
世界一硬い海の結晶石なんだからな、と軽口を言いながら、親父は俺の後ろ手に行き指を置いた。そして軽く力を入れたかと思えば、バキン!!と海楼石は割れ、驚愕のあまり口をぽっかり開ける。
それは戦場に居た全ての者も同じだった。
「はい、エース解放ーっと」
「やっぱ父さんって化け物だろ?」
「失礼な。年寄りで遊ぶなよ」
「いや若者をからかうなよ」
能力者の癖に…と何処か悔しがってるサボに笑って、親父はおれに手を差し伸ばしてきた。
「帰るぞエース。家族の元に!」
「────ああ!!」
俺は迷い無く、親父の手を掴んだ。
・・・けれど障害が無くなった訳でなく、それを見ていた元帥仏のセンゴクが憤慨する。
「貴様等……!!一体何者だ!!ポートガス・D・エースは渡しはせんぞ!!!」
激怒するセンゴクに、親父は笑い、サボは警戒しながら名乗り出た。
「俺は革命軍のサボ!!麦わらのルフィと火拳のエースとは兄弟だ!!兄弟を返してもらう!!!」
サボの言葉に誰もが驚愕した。
俺は革命軍と言う言葉に、ルフィはサボが生きていた事に、革命軍の仲間はサボが来た事に、そして何よりも最悪な鬼の血を引いている俺とルフィとの兄弟という最悪な事実に、世界が混乱した。
「ッサ、サササ、ッサボぉおお?!?!いっ、生きてたのかぁああああ!!??っな、なな、なっ!」
「おぉルフィ!!説明無しに悪いな!!すぐそっちに行くからイワンコフ達と待っててくれ!!!」
「サッサボ!!なんでヴァナータが此処に!!」
「兄弟のピンチだ!!ルフィを頼む!!」
凡そ俺がしそうだった反応を全てルフィがやってくれたところで、サボは再び弟に会えた喜びに嬉しそうに笑う。
親父はそんなサボに微笑んだ。
「そりゃ十五年も経ってりゃ懐かしくなるか。早めに会わせとけば良かったか?」
「そうしたらサプライズの意味も無くなるだろ。それに、強くなってなきゃ恥ずかしいじゃねぇか」
「拾われ先がラッキーだったなぁ〜…ック」
「だから何処にツボ入ったんだよ!」
この緊張した場面で呑気過ぎるのも何も変わってない。
懐かしい家族との再会に、俺は泣きそうになっていたが、察した親父が頭を撫でてくる。
「まだ安心すんなよ。まだ、未来は掴めていない」
「…っ……ぉう…!」
「なんだエース?泣いてんのか?」
「ッちげーよ!」
茶化してくるサボから顔を逸らして、気合を入れる為に頬を叩き、息を整えた。
──俺は生きる。
兄弟の為に。家族の為に。仲間の為に。
俺を信じて、愛してくれる人達の為に。生きる。
「行くぞ、親父!サボ!!」
「ははっ!それでこそエースだ!」
「全く。息子達が日々成長してくれて嬉しいよ」
いざゆかん、とした瞬間、眩い光が俺達を照らした。
まるで大仏の様に光り輝く元帥によって。
「渡しはせんと言った筈だ!!!」
「そもそも、誰がやるって言ったんだ?センゴク」
センゴクの巨大な体格により処刑台が軋み、崩れかけている。
親父は俺とサボの前に立ち、余裕の表情を見せてセンゴクに不敵に笑った。
その様にセンゴクは気に食わなさそうに顔を歪めたが、次第に目を見開いて親父を凝視した。
「・・・──!!まさか、お前は……!!!」
「お前も懐かしい面子の一人だけど、悪いな。友と家族、優先するのは家族なんだ。邪魔すんな!」
グッ、と足に力を込めたかと思えば、処刑台が一気に傾く程の脚力でセンゴクの目の前まで跳んだ親父が、センゴクの頬を思い切り蹴っ飛ばした。
勢いよく壁に衝突しめり込んだ元帥の姿に、海軍は大慌て。そのまま処刑台から落ちていく俺達は、親父に拾い上げられ、一瞬で移動した。
──それこそルフィの眼前に突如現れる。
「っどわぁああっ!!??とっ父ちゃん!!サボ!!エース!!!」
「よっ、ルフィ!」
「おい親父、あれ放ったらかしかよ」
「気にすんな!センゴク死んでねーから!」
「本人は気にしとけよ」
あれデジャブ。
そんな事よりもルフィが引っ付いてきて困ってるサボに手を貸すと、今度は俺にルフィが引っ付く。
「エ゛ェエ゛ェス゛ゥ゛ウゥ!!サ゛ボォオ゛ォオ゛!!!会い゛た゛がった゛あ゛ぁ!!無事で良か゛った゛ぁ゛ぁあ゛あ!!俺はっ、お゛れはぁ」
「お、おいルフィッ!!やめろ!悪かったよ!!」
「あー…なんか色々ベッタリだ…」
「ぷッ、っハハハッ!!」
「「笑い事じゃねぇっ!!」」
(((なんだこのカオス・・・)))
戦場の真ん中で昔のように戯れる俺達に仲間達は唖然としていたが、俺を救い出せた事を漸く実感したようで、誰もが歓声の声を上げた。
「エースが救われたぞぉおお!!!」
「エースさんが戻ってきたぁぁああぁあ!!!」
「お、オヤジィイィ!!エースが、エースが!!」
その言葉に俺はルフィの事も忘れてオヤジを見た。オヤジは血塗れになりながらも、俺をじっと見詰めていて、ふっと笑った。
「グララララ…ッ!!愛しい息子よ!!無事で良かった!!野郎共ォ!エースを連れて撤収だァア!」
「ッ…オヤジ!!」
「ウオォオォオオォオォオオオ!!!!!」
雄叫びのような大歓声が響き渡り、俺を囲む仲間達に俺はグッと涙を堪えて笑顔を浮かべた。
「ッッ帰ろう!!新世界に!!!」
──自由を、取り戻すんだ!!
走り始めた白ひげ海賊団と傘下達に海軍は歯を食いしばる程に悔しがり必死に邪魔をしてくる。
俺はサボとルフィと共に蹴散らすが、そこに親父の姿がない事に焦って周りを見渡した。
「親父!!何処だ!!?」
「!ホントだ!父ちゃんが居ねぇ!?」
「父さん?!」
慌てて足を止めると、グラララ…と静かな声が聴こえた。
まさかと思いオヤジを見ると、そこには当然の様に《親父》が《オヤジ》と対面していた。
「話には聞いていたが……懐かしいなァ…?」
「こんなとこで再会するのは惜しいがな。白ひげェ、俺の息子を泣かしてんじゃねーよ?」
「グラララ…悪かった。同じ親としちゃあ面目がたたねぇ…それと恥を忍んで再会の折にどうか一つ、頼みを聞いてくれねぇかァ…?」
「恥なんか持つなよ。で?一応聞いてやる」
親父のかなり上からな発言には少し引き攣ったが、オヤジの頼みとやらが気になり、引っ張られる腕を無視して聞き耳をたてる。
「──・・・エースを、白ひげ海賊団を、少しの間でいい。任されてくれねぇか?」
「!!オヤジ!?」
「…はぁん?」
オヤジは真剣に親父を見詰めていて、それが何を意味するのか俺には分からなかった。
「…つまり。てめぇは残るから、後のことは俺に任せときゃなんとかなるって言いてぇの?」
「ッ………、!!」
親父がかなりキレてる。
その覇気の強さに周りに居た海兵達が次々と倒れていくが、不思議な事に海賊だけは意識を保っていた。サボが言うには、どうやら覇気を微調整して仲間にだけは当てていないらしい。
覇気のコントロール、それだけで格が違う事が分かる。
そんな親父の怒りにまさかオヤジまでもが冷や汗を掻いているとは思わないだろう。
「、……あぁ、それが頼みだ」
オヤジの頑なな瞳に対して、親父は、
「やだね」
「!!」
馬鹿馬鹿しいと吐き捨てオヤジに近寄った。
「俺はてめぇのなんだ?友としては認めよう。
だがな、てめぇの家族を引き受ける程お節介じゃねぇ。
てめぇは何しに此処に来た?船長としての仲間救出か?それとも《オヤジ》としての《息子》救出か?てめぇの後ろに着いてきたのはなんだ。同じ白ひげ海賊団か?それとも共に暮らしてきた《家族》か?
──ふざけんなよ!少なくともてめぇの手で導いてきた奴等だろうが!!最後の最後で何放り出してんだよ!!仲間だろうが家族だろうが、てめぇのモンはてめぇのモンだ!!俺が掴む道理なんかあっちゃいけねぇ筈だ!!!船長としてかオヤジとしてか、てめぇとして成り立ってるモンを!任せるなんて軽い発言すんな!!
帰ると約束したのなら!!
最期まで全部持って逝けや!!!!!!」
一陣の突風がマリンフォード全域を吹き抜けた。
あらゆる者が気絶し、されど味方だけは膝をつくだけで済ませる、覇王色の覇気が発揮された。
オヤジは目を見開き、そして、目を閉じる。
「────すまねぇ……ッ《渡り鳥》…!!」
全ての想いが詰まった謝罪がオヤジから発せられた。
据わった目でオヤジを見ていた親父だが、暫し間を空けると、溜息を吐き出す。
「行動で示しやがれ。覚悟を見せろ」
「…あぁ、迷惑掛けた」
「全くだ。自立しない男は嫌われるぜ?」
いつもの笑みを見せた親父にオヤジは口許を上げ、思い切り薙刀を振り上げた。
「グララララ…!!海軍には悪い事しちまったなァ。──引き時だァ!!此処で終いにしよう!!!」
「ッ白ひげェエェ!!」
覇気を込め、能力を使い、オヤジは海を割った。
海軍と海賊の間に、覗けば奈落の底の様な巨大な裂け目を作り上げ、戦争の終止符を打つ。
「ところで白ひげよぉ、悪い事ってのはなんだ?」
「そりゃあおめェ…言えねぇなァ」
「ほぉ?」
覇王色の覇気により海軍精鋭きっての総勢をいとも容易く崩しに掛かる……なんて、甘い事ではない筈なのに。渡り鳥が味方で良かった、とオヤジはあの時心底思ったそうだ。
ジト目で見上げてくる親父の視線から自然に顔を背けるオヤジに、俺はホッと息を吐いた。
「…ヒヤヒヤした…」
汗だく握ってしまったと苦笑すると、隣のサボが、何やら暗い瞳で俺の肩に手を乗せた。
「なぁエース……父さんとドラゴンさんとの会話知りたいか?」
「ッルルルフィ!!親父達呼んでこい!!」
「ん?おう!父ちゃーん!!白ひげのおっさーん!!エースが呼んでるぞーー!!」
冷や汗を流しながらサボからルフィへと話を変えた俺に、何やらサボが遠い目をしていた。
恐らくなんか親父が仕出かしたんだろうと予想はつくが……サボにはご愁傷様としか言えない。
「先行っとけー!全員がちゃんと船に乗らないと俺が動けん!それに、足止めなら任せろ!!」
「…俺ァ手伝わなくてもいいのかァ?」
「お前がさっさと行かないから海賊団の纏まりがないんだろ。ほら行け。俺を誰だと思ってるんだ?」
良い具合に海軍も機能出来てないしな、と笑う親父に、折り込み済みだったかとオヤジは頷き、俺達の方へ歩き出した。
「そうそう、白ひげ海賊団!!デッカイ重傷者も居るから気遣ってやるように!」
「…アホンダラがァ」
最後の最後にオヤジをからかってみせた親父に、オヤジがピキリと口許を引き攣らせた。その様子に俺達は苦笑しながら、言われた通りにオヤジを気遣いながらも船に向かった。
その途中、革命軍のイワンコフが話し掛けてきた。
「サボ、麦わらボーイ、火拳ボーイ、今更ではあるんだけども、一つ良いかしらっ?」
「なんだ?イワちゃん!」
「どうかしたか?」
「サボんとこの……なにかあったか?」
「いえね?さっきから普通に会話してっチャブルからなかなかに切り出せなかったんだけども…!」
チラチラと目線を動かすイワンコフに、三人揃って首を傾げた。
けれど恐らくイワンコフは、誰もが聞きたかったであろう質問を投げ掛けてくる。
「ヴァナータ達の父親ってそれぞれ違う筈でしょう?ヴァターシにはまだあの男がどういう存在なのか分からなッシブルのだけど……!!誰なの…!?」
親父に対する質問だとすぐにわかった。サボを見るとあれ?という顔でイワンコフを見ていた。
「てっきり教えたもんだと思ってたけど……そうか!イワンコフは牢獄に居たんだったな!」
「全く聞いてナッシング!!あと忘れないでちょうだい!!ちょっと傷つくッ…!!」
まぁその顔面で忘れられる事はまずないだろうな。…些か失礼な事を思いつつ、きちんと紹介した。
「俺の、っていうか、俺達三兄弟の義理の父親だ。ガキん頃から面倒見て貰ってたから、実質育ての親と言っても過言じゃねぇよな?」
「おう!オレ、本当の父ちゃんの事知らねぇし。じいちゃんなら居るけど、《父ちゃん》はじいちゃんとは会わないようにしてたしなぁ~」
「まぁ俺が初めに息子入りして、後からサボとルフィがなったんだ。その後にじゃあお前等は義兄弟だな!って言われて、そんで盃交わしたんだっけか」
懐かしいなぁ〜、としみじみ三人で思い出してると、イワンコフからは、そこじゃなくて!と被せられハテナを浮かべた。
「確かにその話も興味深いっチャブルけど!ヴァターシが聞きたいのは、あの男自身の事!」
「?父ちゃんは父ちゃんだ!」
「…いや、なるほど。そういや知らないか」
詰まる所、《親父》が何者か。
こういうのはオヤジの方が詳しいんじゃないのか、とオヤジを見るが、目で捉される。
理由は分からないが、俺が説明する事にした。
「親父の名は、ロード・フォン。世間じゃ通称、渡り鳥のフォンと呼ばれてる。今や伝説上とされてるが、本人で間違いない。年齢は不詳。生きる伝説冥王レイリーと同じように、ゴール・D・ロジャーの船に乗りラフテルまで辿り着いた自称ただの《一般人》。当時大将であったコングを圧倒したり、ゴール・D・ロジャーと張り合ったり数々のとんでも事件を巻き起こした自称ただの《一般人》。
今は何故かサボと共に俺を助けに来てくれたが、それまでは何処に居たのかさえも分からなかったけどな」
「あぁ、その間はな──」
「──ちょちょちょ!!待った待った!!!」
物凄い顔をしたイワンコフに止められ口を閉じた。
「待って、本当に待って?ツッコミどころありすぎてマトモに聞いてられなかっタブルよ!?何渡り鳥って!?何一般人って!?どっち!?伝説なのに世間で知れられてる存在って何!?なんで父親やってんの!?矛盾多すぎてヴァターシの息が切れ、切れ、切れ……切れなぁーい!ッゼーっハァーッ…!!」
「いや息切れてる!!」
「分かる!その気持ち分かる!!」
ゼーハーと息を切らせるイワンコフに壮絶なツッコミが炸裂した。一部同調する声も上がるなか、イワンコフはやっと落ち着いたようだ。
「…詰まる所、渡り鳥は此方の味方で居てくれるってことね。本当、ヴァナータ達三兄弟でも大スクープなのに更にぶっ込んで何しようっていうのよ。ドラゴンが可哀想になってきてるわ…」
「至る所で慌ただしくなるだろうな。革命軍も揃って仕事三昧だ」
「ああ見えて色々溜め込むタイプなんだから控えて欲しいッチャブルわよ!!」
((((((溜め込む…タイプ……!?))))))
一瞬革命軍以外の全員の頭の中に悩み悩みまくるドラゴンの姿が浮かんだが必死にその思考を拭った。
「それよりも船に急げよ!!父さんが能力を使えるように、一人も残さずに船に乗り込むんだ!」
「え、渡り鳥って能力者なのか!」
「ああ!説明は見た方が早い!!」
なんとかモビーディック号に乗り込み、オヤジの容態を見たりと色々あったが、一応白ひげ海賊団は悔しくも倒れていった仲間以外全て船に集まる事が出来た。
親父は!?と外を見ると、まさに手で転がしているかのように無双を繰り広げている。
「わ、渡り鳥ってあんなに強かったんだな…」
「そりゃあ父ちゃんだからな!じいちゃんもだけどオレ達を鍛えたのは殆ど父ちゃんだし」
「ガープさんはどっちかっていうと指導者じゃなくて、突然来る嵐みたいな人だったもんな」
「「やめろ思い出したくない…!!」」
「…英雄ガープの姿が見えた気がする…」
ルフィと俺が青ざめると周りは苦笑した。
急いで昔のクソジジイを頭から振り払うと、親父に向けて大声で叫んだ。
「親父ィイィ!!おれ達は全員揃った!!親父も早く来いよ!!!」
「ん?おー!今行くー!!」
ぱっと振り返る親父に襲い掛かる大将赤犬に、騒ぐ事もなく戦況を眺め続ける。
「っおんどらぁ!!逃がしゃせんぞぉ!!」
「──邪魔」
──ッドォン!!
足技にて豪快に吹っ飛んでいった赤犬に見向きもせず、散歩感覚で戻ってくる親父に仲間が引き攣る。そんな俺達に笑顔で手を振ってくる親父にルフィが同じく笑顔で手を振り返した。
「ぇぇええぇえぇぇ……」
「赤犬相手に、邪魔って…」
「なんていう次元の違い……」
その反応知ってるー。とガキの頃の事を思い出すおれとサボの前に親父が首を傾げながら乗り込んできた。
「どした?」
「あー、いや父さんは変わらないなってさ」
「育ててくれてありがとう」
「え、エースなんだいきなり…!?」
頭を下げる俺に親父が困惑しながら照れていた。
いや、心構えというか、奇想天外な出来事に驚かなくなったのは親父のおかげだからさ…。まぁ悪い点といえば一般的な事の判別がつかなくなった程度だ。もう諦めてる。
何処か遠くを見つめる俺の目の前をルフィが手を振る事で現実に帰ってくることが出来た。
「うし、じゃあ行くか!もう忘れ物はないな?」
「…此処って確かマリンフォードだよな?」
「安心しろい。お前の目は正常だよい」
「ない!!エースもサボも乗ってるぞ!!」
「「俺達は迷子か」」
「ハハハッ!了解、しっかり乗っとけよ!」
軽いジョークで包まれるこの和やかな空気は、きっと誰しもが想像もしなかった、もしくは出来るかどうかも分からなかった不確定要素なんだ。にも関わらず、敵の本拠地で緊張はしてれど笑う事が出来る俺達の事を、きっと世界中は憎むだろう。
おれは死ぬべきだった。
首を落とされ、罪を償うべきだった。けれど世界中が恨めど、目の前に居るコイツ等は、おれが此処に居る事になんら疑問も抱いてない。オヤジ達も、兄弟達も、オレが居てこその世界だと。世の常なんて笑い飛ばして、此処に居るのが当然だと。俺を囲んで馬鹿みたいにはしゃいで、海の嫌われ者達が、世界の忌み子に手を差し伸ばしてくれる。
(本当に安心も出来ない状況で、言うべき事じゃないと思うけど、でも、言わずにはいられないんだ)
「なぁ、サボ、ルフィ」
「どうした、エース?」
「なんだ、エース?」
かけがえのないたった二人の兄弟に、俺は心底嬉しそうに、幸せそうに笑った。
「──もし、戻れたら。
俺の大切な《家族》を紹介してもいいか」
俺の言葉に、聞き耳を立てていた《家族》達が、何も知らない風を装ったのが何とも可笑しかった。
親父は面白そうに笑って、もう一人のオヤジは暖かい瞳を俺に向けて。兄弟は、
「「当然だ!」」
「──…ありがとう」
姿さえ見る事も無いと思っていた。
同じ高みを目指す者同士、助けに来る筈も無いと思っていた。
なのに、なんでだろうな。
(通用しない身内ってのは、骨が折れる)
おかげで俺は此処に居られるってのも変な話だ。
グッと拳を握り締めたおれに親父は微笑みながら、気合を込めて高々と宣言した。
「──海軍!!!此度の戦争はお前等の負けだ!!!白ひげは生き!!エースは自由を取り戻した!!
コイツ等は進むぞ!!新世界を、生き残る!!!古い時代も!!新しい時代も!!全部引っ括めて進み始める!!もう文句は言わせねぇ!!!
《渡り鳥》の名に掛けて──!!!!!」
「ッ、ロード・フォン…ッ!!!」
悔しげに睨みあげるセンゴクに、親父は言い切ったとばかりに笑顔を向けた。
三大将は地に伏し、海兵の殆どは意識を無くし、本部は壊滅状態。追おうにも海軍と海賊の間には奈落へと続く深く長い亀裂の溝が邪魔をし、とうの海賊団はすぐにでも逃げる事が可能。もう何がどうなろうが、この状況が覆い隠せないのは明白だった。
「──…そうそ。ほぼ首謀者である俺に海賊の旗を推す事は出来ないぞ?手配書なんぞ出せば、俺はその根源を無くす為に動く。俺は自由なんだ、悪党でなく正義でなく、ただただ飛び回る《渡り鳥》。忘れてねぇよな?そう名付けたのは──
天竜人だ」
「「「「!?ッな、っ!!!」」」」
衝撃の事実に、それを知っていた海軍の上層部の一部以外が眼を丸くした。センゴクの他に、お鶴やガープなんかは、もはや何も言えまいと瞳を閉じる。その行動に真実だと確信した俺達だが、とうの本人のしてやったり感に唖然とするしかなかった。
「んじゃーな!今度こそ、撤収だ!!」
親父は、白ひげ海賊団の船を見渡すと、ニッと笑い手を振り上げた────。
眩しい朝陽に起こされ、未だぼんやりとした頭で階段を降りた。
するとそこにはテーブルを挟んで仲間達と語り合う親父の姿があり思わず声を出す。
「親父」
「ん?エースか!もう起きて良いのか?弟のルフィは過度な疲労で寝っぱなしだっていうのに」
「いんや…あんまり時間を掛けてちゃ、親父と話す機会が無くなりそうで落ち着かないんだ」
「ハハハ!質問攻めは受けつけん!」
「そこは受けつけてくれよ」
苦笑になると、親父はジョークだ、と笑って席に手招きしてきた。仲間達も俺の事を心配してくれてたようで、皆に大丈夫だと笑いながら親父の向かいに座る。
「サボは?」
「外だよ。毎朝日課で稽古してっから、その相手にジンベイ諸々が付き合ってやってる」
「ジンベイが?そうだな…俺も後で参戦するか」
「元気なのは良いこった!それに、サボが喜ぶ」
喜ぶ、か。昔の、ルフィとサボとおれの三人で修行をしていた頃の事を思い出す。
口許が緩んだおれに親父は頬杖をつきながら、懐かしそうに目を細めていた。
「もう十五年か。早いもんだな、年月ってのは」
「ああ……年月って聞くと疑問に思ってた事があるんだが、親父って歳食ってるのか?」
戦争の時に現れた時も真っ先に浮かんだのが、昔の親父と今の親父を比べたものだった。それは全く変わり様がなく、首を捻るばかりだ。
「そりゃ食わなきゃ化け物だろ!まっ、種明かしすれば固定してるんだよ。俺の能力で」
「?ジクジクの能力……!な、化け物だ!!」
「人間だわ!!てか、思ってても言うな!」
「思う事は良いのかよ!」
つまる所、親父はジクジクの能力により、年齢軸を固定しているらしかった。まさに規格外。納得する反面、やはりその能力の強さは反則だった。
…けど、化け物ってなると俺達もそうなんだよな。
「俺達ってさ、本当奇跡としか思えない出会い方してたんだな。今となっちゃ、笑っちまうけど」
笑うおれに、親父も笑う。
「笑っとけ笑っとけ。胸張って生きてきたからこそ掴めた今なんだ。そこに後悔はあったとしても、悔いはないだろ?」
「…ああ。全部纏めて、俺の人生なんだって言える。掴んじまったモノに、何の悔いもないんだ」
清々しい思いだった。そして、熱い気持ちだった。
仲間も、家族も、全部手に入れて。
喪ったモノは、代わりに皆が埋めてくれて。
その想いは、俺もその輪に生きて入れたからこそ持てるもんなんだって終わった後に気付いたから。
「…なぁ、親父。」
「うん?」
いつかの答えを返そう。
今だからこそ言える、俺自身の成長を表そう。
「親父はそのまんまでいいよ」
ニッと笑う俺の言葉に、親父は目を瞬かせると、思い出した様に瞳を潤ませた。
その表情に、一瞬だけ息を忘れた。
「おやじ、」
「──ぁあ、そうするさ」
満足気に、太陽の様な笑顔を浮かべる親父の姿に、おれは照れくさくなるも、笑顔を向けた。
『親父はさ、なんで渡り鳥なんだよ?』
青空の下で、そんな事を聞いた事がある。
突然の事に親父は目をぱちくり瞬かせていた。
『…唐突だな?エース。そりゃあ、そう認めたからさ。俺は渡り鳥!自由を愛する男だ!ってな』
『ふーん…なら、オレはなんなんだ?』
『エース?』
『親父が渡り鳥なら、その息子のオレは一体なんなんだろうなって』
地面に座りながら、親父の顔も見ずに言葉にすると、親父は少し間を空けて、首を傾げた。
『なんだと思う?』
『…わかんねぇから聞いてんじゃん』
『最もだな!…けどな、それを俺に聞いたってお前自身で認めなきゃ一生分かんないぞ?』
『んなの…』
『まぁ、しいて言うなら
──なんでもない、だ』
『っ──んだよそれ…!オレはっ』
カッとなって親父を見上げると、親父から見透かす様な視線を受けて少し言葉に詰まった。
『だってエースはエースじゃないか』
『!!』
当たり前だと言わんばかりの台詞に目を見開く。
『エースはエース。他の何者でもない。俺は確かに渡り鳥っつー名乗りはあるぜ?けどな、それ以上にロード・フォンっていう存在だ。違うのか?』
『っちが!…くない…』
『だろ?だから、お前はなんでもないんだ。俺が決める以前に、既にエースという存在が確定してるんだからな。だからさ、気にすんなよエース』
思わず下を向くと、ぽんぽんと頭を撫でられ不貞腐れた様に頬を膨らませた。
『…気にしてねぇし』
『ハッハッハ、ガキがほざきよる』
『あんた誰だよ!…まぁ、でも……なぁ、親父。オレにもいつか、分かる時がくんのかな』
思ったより弱々しく出てきた言葉に驚きながら問えば、親父はスゥと息を吸い込み声を響かせた。
『生きてりゃ分かる!!当然だ!!』
『────…そうだよな』
何処までも一直線な親父の言葉には芯が通っていて、オレは再び青空を仰ぎ見た。
『生きてりゃ、分かるもんだよな…』
遥か蒼空には、一羽の鳥が悠々と飛んでいた──。
はい、エースを助けたくて、取り敢えず作ってみました。
この渡り鳥、後日談もちょいちょいあるので、また時間あったら突っ込んどきます。
取り敢えず初投稿としてはこのくらいで。
感想・評価・ツッコミありましたら単純に嬉しがります。
その逆も然り。ではでは!