「…………お金がない」
あれから数日後
萃香は『霧雨のしずく』という店のカウンターで唸っていた
「そりゃあんだけ毎日飲んでりゃそうなろうて」
萃香に声をかけたのこの店のマスターである獣人族のエプロン姿をした男性である
頭には熊耳がついており獣人のベースは熊のようで、期待を裏切らず熊のような体型をしている
「いっつも思うんだが店名とマスターが噛み合ってねぇよな」
「うっせぇ!」
この数日、萃香はオラリアを飲み歩き一番気に入った酒を出したこの店を気に入り常連となり、このやりとりも恒例となっていた
「どのファミリアにも所属せず毎日毎日だらだらと呑みに来おって」
「おいおいおいおい、それじゃあ、私が何もせずに酒を飲んでいるみたいじゃないか」
「………ちがうってのか?」
「当ったり前じゃないか!
ファミリアの入団に行ってるんだがねぇ
どっこも門前払いさ!」
「…………そりゃ、…………おまえさん………
素性不明の少女が一升瓶を片手に千鳥足で入団希望してきたらそりゃ断るだろ」
「なっ!おまえは私に酒を捨てろというのか!?」
「いや、そこまで言っていないが。
せめて正当な姿をして行けってことだよ」
「やーだね!これは私の命と言っても過言じゃないね!」
「まったくそんなんだから入れないんだよ。
もうツケはできないからな」
萃香にはもうずいぶん前からお金がなく今飲んでいる分は全てツケになっている状態である
「えー!もうちょっといいじゃん!お願い!
こんな幼女がお願いしてるんだよ
もうちっとツケて
優しいマスターなら受け入れてくれるでしょー」
「毎回来るたびに店の酒蔵を空にしていく幼女があるかっ!!」
萃香が来るたびに霧雨のしずくの酒蔵は空になっているというのに萃香を出禁にせず受け入れている時点でかなり優しいマスターである
だが、もう限界のようであるため萃香は仕方なさそうに酒の手を止めた
「はー、どっかになんでも受け入れてくれるファミリアないかねー」
「そんなファミリア……………いや、あるな」
そんなファミリアはないと即断しそうになったマスターは何かを思い出したのか微かな記憶を思い出すように俯きながら訂正する
「!!
マジで?!どこどこ?」
「あー、……あんまオススメはしねぇぞ?
たしかソーマファミリアっつうファミリアがあるんだが、なんでも酒の神様のファミリアらしくってな
どんな団員も受け入れるもんだから派閥の数だけは多いって感じだな」
「おおー!!」
「いや、でもな……。あんまいい噂をきかな………あれっ?あいつどこ行きやがった?」
マスターが顔を上げると先ほどまで赤面で酔い潰れていた萃香の姿がどこにもなく慌てて走り去ったのか埃だけが舞い上がっていた
「はー、人の話は最後まできけっての……」
・
・
・
・
・
この世は搾取されるものとそうでないものに分かれる
私もかつては搾取される側だった
このファミリアはもともとそういったファミリアだ
主神は我々などに興味はなくただいるだけの存在
そんなファミリアがどうなるかなんて想像するにたやすい
最初は純粋な冒険者を目指していた
真っ直ぐに走って努力していればいつか報われると信じて
そう、信じてやまなかった
だがふと私は気づいた
私は何に信じているのだ
上の連中に搾取される毎日
神は何もせず見もせず振り向きもしない
神を信じれなければ何に信じればいい
………ああ、そうか信じれないなら信じなければいい
もう何も信用ならない
信じられるのはわたしだけ
だったらわたしが上に立ってやろうじゃないか
何をしてでも
あいつらがやっていたみたいに
そこからは簡単だ
奴らがダンジョンに入ってしまえば裏工作などやり放題だ
ギルドにはモンスターが異常発生し囲まれたなどといっておけばそれらしいようになる
邪魔な奴、不都合な奴は次々と消した
そしてとうとう、わたしは団長の座にまで昇り詰めた
ああやっとだ
これからはわたしの時代がやってくるのだ
ああ楽しみで仕方がない
今日も今日とて団員たちに貢がせファミリアを意のまま操る。なんと心地よい毎日か
ソーマ・ファミリア団長、ザニス・ルストラは自らの愉悦に浸りながら書類名簿に目を通していた
ふと外が騒がしいことに気づきそとへとかけだす
人混みができているようで団員の一人に現状を求めるとなにやら入団希望者のようだ
わたしは皆に静粛にするように声をかけ入団希望者に近づいた
驚いたことにそれは小さな少女であった
頭にはツノのようなものが生えており一升瓶を片手にほろ酔い状態なのがわかる
「たのもー!!
ここに入団したいんだけどいいかなー?」
酔っているせいか陽気な声に無邪気さも感じる
そこいらのファミリアでは断られるだろう
だが、ここではまったく以って構わない
「……わたしは団長のザニス・ルストラ
入団希望かね?
いいでしょう、ついてきなさい」
「おー!本当に入れたよ
さっすがマスターだな」
マスター?
意味のわからないことを
だが、どうやらいつも酒を飲んでこのような状態だからどこのファミリアにも入れなかったのだろう
まったく、なんていいカモなんだ
ザニスは萃香を連れて主神であるソーマの自室へと案内していく
「時に、あー…………「ああ、すまんすまん。伊吹萃香だよ」
伊吹はどういった種族なのだ?」
「種族?さぁーね。考えたことなかったよ
気付いたら洞窟の中だったんでね、よく覚えていないんだわ」
ふむ、……自分が何者か知らない?嘘をついているのか?
ソーマ様を使ってもう一度問うてみるか
そんなやりとりをしていると一際大きな扉の前で止まりザニスがノックをする
「ソーマ様、入団希望者です」
「………入れ」
ソーマ神であろう声が許可を出しザニスが扉を開ける
するとそこにはこちらをまったく見ずに何かを作っている
「こちら伊吹萃香といいます
ソーマ・ファミリアに入りたいらしくお入れになる許可をいただきく」
「……おまえに一任する」
「ははっかしこまりました
ソーマ様、すみません一つ確認を
伊吹、もう一度問う。
おまえの種族は?」
「ああ?さっきいっただろ?
知らないって」
萃香の答えにザニスはソーマ神を見る
するとソーマ神は首を縦に振った
どうやら本当に知らないらしい
「了解だ
それではおまえをソーマ・ファミリアに歓迎しよう」
「ああ、よろしく頼むよ
えーと、ファルナを貰うんだっけ?」
「まあ、そう慌てるな
ソーマ・ファミリアが酒の神を主神にしていることは知っているのだろう?
歓迎の印だ」
そう言ってザニスはいっぱいの酒を注ぎ萃香に渡してくる
渡された酒は
入団前に必ずおこなられる儀式と言っても過言ではない
神酒は飲んだ瞬間、神酒の力に誘惑され正気を保てなくなり溺れていきまた飲みたい衝動にかられる
これにより団員は逃げもせず理不尽な金の請求を呑み込み貢いで行く
差し出された神酒を喜んで受け取った萃香はなんの躊躇いもなく飲み干す
また一人、ザニスはニヤつきながら呟く
「うま!!
いや、最高だ。私が飲んだ酒の中で一番美味いや」
………………………………………………は?
今こいつなんと言った?
美味い?そんなものは当たり前だ
なんだその当たり前のような感想は!?
美味しいのは当たり前だ。そして、その旨さに魅了され溺れるのがこの酒だ
だが、この少女はなんてことない美味しいという感想しか抱いていない
そんな様子にソーマ神も興味を表したのかこちらへと顔を上げ萃香を見つめる
「もっと飲みたいな。この酒は自由に飲んでいいのかい?」
「…………い、いや、ファミリアへの上納金に応じて神酒をやる決まりになっている」
「そっかー。金かー
当分は無理かな」
「………おまえは……」
こちらを見つめていたソーマが口を開きぽつりぽつりと話しかけてくる
「……おまえは……この酒のためだけに……全てを投げ打ち、失うことができるか……?」
「へ?えーうーん、これのためにか〜?
………これのためだけには無理かな」
「………そうか……」
「まあ、飲みたいって気持ちはあるしまた飲みにくるよ」
ザニスは考える
確かに伊吹は神酒に溺れず正気を保っている
ファミリアに貢ぐとも言っているのだ
イレギュラーはあれど結果的には問題ないと判断した
「よかろう。
では
「どうすりゃいいんだい?」
「知らぬのか?
ファルナは神の神血で神聖文字を刻むのだ
わかったら服を脱げ」
「あいよー」
「……少しは戸惑わぬかまったく」
そういう時ザニスは即座に部屋から退室する
思ったより紳士なのかもしれない
萃香は服をめくり上げる
「………背中に刻む……後ろを向け……」
萃香が背中を差し出すとソーマは指先から神血を垂らし萃香にファルナを刻んでいく
淡い光を放ち神聖文字が書き終えると徐々に収まっていった
「………終わったぞ……」
「ん?もう終わりかい?
あんまり実感がないな
おーい、終わったぞー!」
萃香が服を着直すとザニスを呼び戻す
ザニスが再び入室するとソーマに近づくとソーマは萃香のステイタスを移した紙を手渡す
【伊吹 萃香】
レベル1
力 I 0
耐久 I 0
器用 I 0
敏捷 I 0
魔力 I 0
スキル
【鬼の境地】
・戦闘時、力が上昇
・窮地に立たされるほど上昇値向上
「ほう、初期スキル持ちか
単純な能力だが使えるスキルだ」
「おー、これがわたしのステイタスかー」
「あとはギルドに登録すれば好きにしていいぞ」
「わかったよ
んじゃ、ありがとなー」
そう言うと萃香はソーマ・ファミリアをあとにする
初期スキルまでとは少々厄介なことになった
だが、問題などない
邪魔になるようだったら今まで通りにするだけだ
……さて、伊吹萃香の程度の能力をいつ出そうかな