鬼は酒を求む   作:テリーヌ

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六話

 

萃香はダンジョンには基本ソロで行なっている。眷族の数が多いソーマ・ファミリアであれば組む相手は沢山いるがあいつらと組む気ない。

この容姿のせいかどいつもこいつも馬鹿にしたように見下してくるので組んだとしても気にくわず殴り飛ばす未来が見えてきそうである

 

なので今萃香は一人で7階層まで潜っていた

正直キラーアントやニードルラビットを幾らか倒し慣れた萃香はもっと奥まで進みたかったがソロで深くまで潜るなとリアにキツく言われており、あの時の真剣な形相は思い出すだけでも少しゾッとしてしまう

 

一通りの魔石を回収し、そろそろ撤退を考えていると見慣れた人物が現れた

 

「む……伊吹か」

 

「おー、ザニスじゃないか。奇遇だね〜」

 

萃香の所属するソーマ・ファミリアの団長、ザニスと鉢合わせる

萃香と違いザニスは小隊が組めるほどの人数で行動していた

 

「こんな団体で何やってんのさ?」

 

「………ファミリアの育成さ

団長として当然のことをしているまでだ」

 

………育成?

あんなに好き勝手している連中を黙認しているザニスが?

 

不審に思いながら萃香は後ろにいる一団を見てみると何人かが絶望したかのように真っ青な顔をしていた

装備やたたずまいを見る限り少なくとも新人とは考えられない。そして今萃香たちがいるのは7階層、ダンジョンの上層に当たる部分である

上層だからと言って油断せず警戒するのは当然なのだが、それにしては怯え方が過剰すぎる

 

どう考えても異常な光景であった

あまり関わらない方が吉であることは目に見えてわかる

だが萃香は

 

 

 

………面白そうだな

 

 

 

「おいザニス、だったら私も連れてけ

いいだろ、一人くらい増えても」

 

「なっ……それは………………、いや、いいだろう」

 

何かを言いかけるが、思い直したかのように萃香の同行を認めることとした

それから8、9階層と順調に進み第10階層に到達した

 

萃香にとって10階層は初の進出であり、これまでとは違った雰囲気に少し驚く

これまではなんの変哲もない洞窟であったが10階層は平原が広がっており数メートル先が見えない濃い濃霧に包まれておりモンスターを視認するのに遅れてしまう

だが、視認してから冷静に対応すればさほど致命的な問題でない

 

そんなこんなで10階層のモンスター、オークを順調に殴り飛ばしていく萃香であったが、ここである違和感に気づく

たったいま打ち倒したモンスターが霧散し魔石に変わってしまったが、そのモンスターは小さな仔牛ほどのサイズの犬のようなモンスター、ヘルハウンドであった

確かヘルハウンドは13階層のモンスターの筈、なぜ10階層にいるのか

 

そしてもう一つ疑問があった

先程からモンスターからの襲撃がおさまらないのだ

10階層ではこれが常識なのかと他の眷族を見てみるが、どうやら異常事態らしくあからさまに動揺している姿が見て取れた

 

「おい!!ヘルハウンドがいるぞ!!」

 

「シルバーバックもいやがる!!どうなっているんだ!!?」

 

「くっ!!撤退だ!!さがれ!!」

 

どうやら違う方向からも別階層のモンスターが現れ始めたようだ

誰が叫んだ撤退命令かはわからないが散らばっていた眷族たちは一斉に声のした方向に退がり始める

 

萃香もさすがに分が悪いとふみ指示通り撤退を開始するのだが、その途中奇妙な現象を目にする

濃霧のせいで誰かはわからないが皆が撤退する方向とは反対方向に進む人影を目にしたのだ

誰かが指示を無視し、自分ならやれると判断したバカが突っ込んでいくのであれば別段奇妙ではないのだが、おかしいのはここからである

 

モンスターがその人影と相対せずに通り過ぎていくのだ

 

そしてそのまま人影は濃霧の中に消えていった

不可解な現象に気にはなるが今は逃げることだけを優先するよう頭を切り替えることにした

 

オーク等のモンスターは振り解けるもののヘルハウンドは他のモンスターより足が速くどうしても追いつかれてしまうのでなんとか応戦しつつ進んでいくと一人の冒険者が足を止めて佇んでいた

 

「んあ?おいおい、どうした?」

 

肩まで伸びる薄い青髪をした女性冒険者の隣に止まり視線を向けるとその向こうに多くの眷族が同様に立ち止まっていた

 

「………足元を見てみな」

 

「…………なるほどねえ」

 

萃香が足元を見てみるとそこには先ほどまで濃霧のせいで見えていなかった光景が見えてきた

 

いや光景などなかった

 

その先には道がなくあるのはどこまであるのか全くわからない大きな崖となっていた

飛び降りれば確実に死が待ち受けているだろう

だからといって引き返そうにもモンスターの大群の足音がすぐそこまで迫ってくるのがわかった

何体いるのかもわからない状態で応戦するのはどう考えてもまずい

 

「…こんなところで……こんなところで死んでたまるか!!!!!!」

 

青髪の冒険者は震える手で背負っていた長柄槍を手に取りモンスターの大群へと身を翻し応戦の構えをとる

萃香もそれしかないと考え振り向き同じく構えるがふと崖のほうから何かが聞こえたような気がした

 

何かを確認するかのように萃香はそこが見えない崖底を覗き込み何かを考えると大声を張り上げる

 

 

「死にたくない奴は付いてきな!!!」

 

 

突然の大声に誰もが萃香の方に振り返ると萃香は崖のほうに飛び降りていった

 

「「「「「「はあ!!!??」」」」」」

 

あまりに突拍子のない行動に誰もが目を疑った

 

正気か!?頭がおかしくなったんじゃねえか!?

バカじゃねえか!?

 

意味のわからない行動に罵詈雑言が発せられる

しかし、最も近くにいた青髪の冒険者は萃香が何かに気づき崖を覗き込む姿を見ていた

 

モンスターの方に応戦すればまず命の保証はできない

今やどれほどの大群になっているのかわからない所に突っ込み脱出できたとしても満身創痍の状態は回避できないだろう

そんな状態で先が見えない10階層を突破するのは不可能だ

 

 

スッと息を飲み彼女は

 

 

萃香を信じることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま地面に叩きつけられ死ぬ不安がどうしても頭をよぎり思わず目を閉じ死ぬ衝撃に身を強張らせる

そしてとうとう身体に激しく打ち付けられ衝撃がはしった

だが、それは地面に叩き潰されたような衝撃ではなくもっと別の衝撃であった

 

 

   バシャン!!

 

 

崖底には地面ではなく濁流のように流れる川となっていた

 

 

「よお!あんたも飛び降りたのか」

 

呼びかけ声の方を向くと一番最初に降りた萃香が川から顔を出していた。

すると、一つまた一つと激しい着水音が鳴り響く

どうやらもう一人飛び降りたことで後に続くものが続出したようだ

 

「まさかそこが川になっているとはな」

 

「いやー、たまたま水音が聞こえてよかったよ」

 

「………で、ここからどうするのだ。かなり流れが激しく身動きが取れないのだが」

 

「さあ?」

 

「は?」

 

「いや、知らないよ。飛び降りた後のことなんて

 

………まあ、その、なんだ。……また会えたら会おうぜ」

 

「ふざけるなーーー!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

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