超人?いいや──神だ   作:後生さん

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番外編です。説明文は一応あります。
分かりにくいなど何かあれば、感想いただけると助かります。



番外[完] 頂上戦争で神が暴れたら

 

 

 

 ああ、なんて愚かな幕開けだ。

 何故こうも人間は自由を捨てたがる?

 

 愛する事も助け合う事も、それこそ生きる事も自由であるからこそ人間は活き活きとするのだ。

 何故互いに重たい枷を付けたがる?

 

 神はいつも傍観するだけだ。

 何故なら、人間界は人間同士で動くべきだから。

 そこに神が関与してしまったら、浅ましい人間はすぐに神に頼り己で動く事を辞めてしまう。

 全ては効率的な道理で世界は回っている。

 

 しかし。しかしだ。

 

 神は決して救いを求める声を見過ごしたりしない。何故なら神は、人間の信仰心によって存在する。

 存在する可能性を人間に与えられているから、女神であろうが邪神であろうが、人間が必要なのだ。

 

 だからこそ、神は愚かで卑しく憐れで脆い人間という生み出した生物を、無下に扱ったりはしない。

 いつも遥か天空の時空を越えた神界から、人間達を見下ろしてはその行いを常時視ているのだ。 

 

 

 

 

 俺は人間が好きだ。

 何故なら、俺は人間に生かされている。

 人間も俺を望み、自由を求めている。

 

 

 俺は人間が好きだ。

 神による意思ではない、ちっぽけな人間が己で考え出す自由を体現する姿が本当に愛おしい。

 

 

 俺は人間が好きだ。

 下界に降り、数多の人間達と触れ合ったからこそ余計にそう感じられる。 

 

 

 俺は人間が好きだ。

 だから。だから自由を掴み取ろうと足掻く姿を、決して見過ごしたりしない。

 決して、傍観はしない。それはもう神界でやってきた。今俺は、此処に存在しているのだから。

 

 

 俺は人間が好きだ。

 俺を愛してくれる人間達を、俺は愛する。

 例え秩序を乱そうとも、自由を顕す己に誓って、皆が求める自由に誓って。

 

 

 ああ。──人間に、〖自由〗を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く。人間とは何故こうも手の掛かるものか」

 

 

 自由を奪われ、誰しもが動けなくなった身体に混乱の表情をしていた。心臓の音すら届かない無音だけが占める半壊した戦場の中で、ただ一つの声が響く。

 

 

「だが安心しろ。俺は道理を無視してやって来た」

 

 

 その声は無音となった空間によく響いた。

 足音も立てず、音を響かせないままにたった一人だけが戦場を悠々と歩いている。

 

 

「儚くも脆い人間風情が、俺を呼び出したのだ」

 

 

 棘のある言い方にしては妙に優しい声質に、ほんの僅かに動かせる眼だけを全員が向けた。

 

 

「誇れ。そして恥を知れ。──神が降りた事に」

 

 

 見覚えのあるリーベルタースの姿に困惑と動揺が心中を渦巻いた。しかし何故だと唱えられる口も、誰だと襲い掛かる手足も動きはしない。ただ、神の前では無力に佇んでいた。

 しかしリーベルタースはそんな心中を知り、優しくも丁寧に教えてやる。

 

 

「なに、簡単な事だ。こんなにも俺を愛してくれる人間に神の奇跡でも興してやらねば面目がたつまい。つまり。要するに、だ。──刮目せよ、人間」

 

 

 ゆらりと微笑を浮かべたまま、その足は動かぬ人間の間を縫って、一人の人間の前に立つ。

 血に染った巨体を堂々と晒し、眼を伏せたまま天を仰ぐその様に、自然と息を呑みかけた。

 

 

「久しいな、白ひげ」

 

 

 既に息絶えているのにも関わらず、リーベルタースは軽い口調で口許を綻ばせた。

 

 

「神から見ても凄まじい男だよ、お前は。愛すべき者を愛し、最期までその意志を貫き次世代に託した。お前の想い、この自由神リーベルタースが聴きいれた。

…しかし、惜しいかな。お前はまだ死ぬべきではない。何故なら、俺がそれを認めないからだ」

 

 

 死した白ひげに手を翳し、リーベルタースは困ったように苦笑する。人間に此処まで触み込まれたのは、きっと白ひげただ一人だろうと思ったのだ。

 

 

「少し面倒な手続きをしなければいけないのだが、まぁきっと、彼奴は許してくれるだろう」

 

 

 リーベルタースの掌が光り輝く。

 

 すると、この世界に暗黒が堕ちた。白ひげとリーベルタースの横に大きな次元の狭間が開き、中から鎌が延びた。

 

 

「──自由神リーベルタース、汝ニ告ゲル。死者ノ蘇生ハ道理ニ反スル、即刻立チ去レヨ」

 

「冥府へと誘う魂の管理者ケール、やはりお前か。何とも御大層な登場じゃないか」

 

 

 死を司る神モルスではないのか、と些か落胆した表情をするリーベルタースだが、それでも笑みは崩さない。

 ケールは全身を漆黒のローブに包み込んで大きな鎌を掲げて宙に浮かんでいる。その顔は塗り潰された様に窺えず、しかし何とも恐ろしい雰囲気を身に纏っていた。リーベルタースは肩を竦める。

 

 

「堅い事を言うな。道理というのなら、俺の秩序には最も反するぞ。お前が魂を管理する様に、俺は〖自由〗を司るのだ。これくらいの我儘許してくれ」

 

「死トハ最モ尊イ救済。ソノ根本ヲ崩ス事ハ自由神デアロウト赦サレル事デハナイ。即刻立チ去レヨ」

 

「やはりお前とは話にならんな」

 

 

 眼を細めるリーベルタースと動じないケールの姿に、人々は混乱所では無い。恐怖心により発狂寸前の者が大多数である。しかし騒ぎたくとも騒げない今の状況に、安堵するべきか逃げられない事に絶望するべきか、その心中は察するべきだろう。

 

 リーベルタースはこの頭の堅い死神に告げる。

 

 

「ふむ、そうだな。もしも俺の邪魔をするのならば、お前の管理する魂を幾つか奪い取ろうか」

 

「……我ガ秩序ヲ脅カスカ」

 

「脅してるつもりはない。お前が魂を刈り取るのは仕事(じゆう)だからな、それに文句はないさ。ただ、俺の秩序(じゆう)を阻むのであれば──」

 

 

ケールの眼前まで一息に跳躍したリーベルタースは、ケールの心臓付近に指を当てた。

 

 

「──お前から〖自由〗を奪うまでだ」

 

リーベルタースの指は徐々にケールの心臓付近へと突き刺さり、ケールから苦悶の呻きが出る。

 

 

「秩序を喪うか、俺を見逃すか。どうする?」

 

「ァ、クマデ、秩序ノ為ダト、?」

 

「そうだ。俺が神界にてどういう扱いか知らぬ訳じゃないだろう?何故創造神(ゲネシス)が俺を見逃しているのか、何故俺が人間界に関与出来るのか」

 

 

 そう笑えばケールは無言になる。どうやら口を挟む気は無くしたらしく、それを見抜いたリーベルタースは指を引き抜いた。

 リーベルタースが離れるとケールはスッと躰を退き、次元の狭間へと下がる。

 

 

「蘇生ハコノ場限リノ不問トスル。ダガ心セヨ。汝ノ行動ハ神罰ヲ逃レラレヌ、決シテ抗ウべカラズ」

 

「心得ているとも。不問にした事感謝する」

 

 

 微笑を向ければケールは何も言わずに狭間へと消えていった。そしてケールと共に次元の狭間は閉じ、暗黒は立ち昇り、眩しいほどの太陽が輝いた。

 

 美しい大空にリーベルタースはふと何処かに手を差し伸べる。

 すると、その手を握る何かの存在は徐々に形を成して、それは美しい女神になる。

 

 

「生を司る女神ウィータ。来てくれたのか」

 

「──貴方だけでは魂を肉体へと移せないでしょう?私抜きに蘇生しようなんて無理をするのね」

 

「助かる。少し賭けに出ようとしていたからな」

 

 

 黄金色に輝くウェーブを描いた長髪を靡かせ、ウィータは呆れた様にリーベルタースを見つめた。

 リーベルタースは笑い、白ひげを瞳に映す。

 

 

「この人間と、もう一人を蘇生したい。まだ魂は天界へと昇っていないのだろう?」

 

「…随分と高貴な魂を持ってること。貴方が贔屓にするのも分かるわ。えぇ、先程捕まえてきたから」

 

「なるほど。かっこ物理かっことじだったか」

 

「そんな野蛮な事しないわ」

 

 

 人間の社会に溶け込み過ぎよ、とウィータはクスクス笑うと、リーベルタースの手を握る。

 

 

「魂は貴方が導いて。秩序は私が」

 

「秩序は俺が。お前は生を定着させてくれ」

 

 

 互いにするべき事を唱えると、白ひげの頭上に神々しい光が降り注ぐ。人間達はただただ眼を丸くさせながら神聖な光景を眼にしていた。リーベルタースとウィータは微笑し、その様子を眺めていた。

 

 そして、光が天に消えていくと奇跡が起きる。

 

 

「──、ァ…?」

 

 

 巨体から声がした。ゆっくりと顔が動き左右を確かめて、ポツリと消えそうな声で呟いた。

 

 

「ォレァ………まだ生きてんのかぁ……?」

 

 

 呆然と、だが泣きそうに震える呟きにリーベルタースとウィータは面白そうに笑った。

 

 

「そうね、貴方の感覚ではまだ死んでいなかったでしょうね。けれど、貴方はやはり死んでいたわ」

 

「だがお前は息を吹き返した。この世界に生き直した。まだお前は、生きている」

 

「!!………おめぇは……」

 

 

 リーベルタースの姿に驚く白ひげは、しかし納得した表情をするがやはり何処か沈んでいた。

 

 

「………死んだ息子共に、面ァ見せれねぇなァ…」

 

 

 この世界に未練はあった。あの世界にも未練は出来た。白ひげは、何処までも家族を想っていた。

 

 

「…何故俺を生き返らせたぁ…?この戦場で死ぬべき筈じゃねぇ奴は、他にも居たろうに…」

 

 

 白ひげは散った。誇りを掛けて、次世代に想いを託して、堂々たる死に様を世に知らしめた。

 

 

「この老いぼれが、まだ必要かぁ…?」

 

 

 白ひげは嘆いた。死ぬべき時に死んだ己が、神によって生かされた事に。理不尽であると同時に、なんて無茶をさせるんだと思った。もうこの世界に、己が存在する意義はもうないのだから。

 

 

「ふむ。随分と弱気なんだな、白ひげ」

 

「…そりゃぁなァ…覚悟が無駄になっちまった」

 

 

 リーベルタースを見ない瞳は固く閉じて、まるで生を拒絶する姿にリーベルタースは呆れる。

 

 

「それは誰の覚悟だ?なぁ、白ひげ。お前は生を全うしたと無理矢理に思っているが、お前には幾千の息子が居る事を忘れていないか」

 

「………俺ァ、古き時代の残骸だァ」

 

「馬鹿馬鹿しい。時代を気にする前に、お前が生きている時の価値を考えろ。白ひげは、自分で負った責任すらも投げ出して見捨てるつもりなのか」

 

「責任、かァ………」

 

 

 家族の事だけでは無い。白ひげという盾を喪った島々の人間達の、その末路をリーベルタースは教える。

 海賊は暴れ海は荒れ、時代は更に窮屈になり恐怖と混乱が招かれるだろう。親を喪った子供達はこれからの事に悩まされ、その道は違えてしまうだろう。

 

 

「追加で言っておくが、何も人間だけが困る訳では無い。大海神も大母地神も、血に濡れ穢す人間達に怒り、失望してしまう。神の加護を与えられなくなった世界は正常に廻りはしない。さすれば創造神はこの世界を棄てる事だろう。神々はまた新たな世界を創り、きっと俺もこの世界を棄て其方に行く。お前達ちっぽけな人間程度の問題のせいで、俺達神々にも影響を及ぼすのだ。よく自覚して発言しろよ」

 

 

 決して人間は神に生かされている等とは言わない。しかしその行動を神は視ているのだ。

 背負うべき罪を後世に償わせる為に、与えられるべき選択を広げる為に。神は決して、人間を無下に扱わない。

 

 

「懺悔はまだ早い。俺は縛る為にお前を蘇生した訳では無いぞ。〖自由〗をもたらす為に来たんだ」

 

 

 そこで視ていろ、とウィータを連れ添わせながら白ひげから離れる。白ひげは何も言えずにその後ろ姿を見つめていた。

 神が何を興すのかを期待して。

 

 

「付き合わせて悪いな、ウィータ。大勢の人間の前で姿を顕す事さえ道理に反する事だろうに」

 

「貴方の力になりたいのよ、リーベルタース。神は秩序に縛られそれ以外は何も出来ないけれど、貴方の秩序に随分と救われているのだから」

 

「神は人間とは違って意志はないからな。だからこそ存在が決められている神は、存在の不確かな人間の先行きが気になる。俺はそんな人間から創り出された秩序。唯一意志を持つ〖自由〗の神」

 

「そう。それ故に貴方は人間を愛するの」

 

 

 ウィータの微笑にリーベルタースは嬉しそうに頬を綻ばせ、その足を止めた。

 

 

「さぁ、悲劇の鬼の子を掬ってやろう。万人に愛され、億人に憎まれた憐れな子を救ってやろう。慈愛なる女神の寵愛を受けた我等が母の子に、奇跡を以て生を宿そう。お前を決して、見捨てはしない」

 

 

 幸せに満ちた笑みで死したエースの傍に寄り、リーベルタースは愛おし気にその頬を撫でた。ウィータもリーベルタースに寄り添いその手を握り締める。そして、新たな光が天から降り注ぐ。一層眩いのはきっと光の神も神界から覗いているからだろう。

 

 

「来たれ来れや神の子よ、光に沿って導きたもう。お前の望む世界はまだ終わっていない」

 

 

 そして──鼓動の音が鳴り響く。

 傷は消え、幼い子供の様に安らいだ寝息をするエースに、遠目から視ていた白ひげは眼を見開いた。

 

 

「…………ェース………」

 

 

 白ひげの泣きそうな声に振り向かず、エースの傍で気絶しているルフィにリーベルタースは手を伸ばした。目の前で起きた悲劇の記憶を僅かに弄り、ルフィの中には死んでしまったエースは何処にも居ない。

意識の無いルフィは、絶望から安堵に、そして泣きそうな表情のままエースの横に倒れ伏した。

 

 

「神の奇跡はこれまでだ。残念ながら、他の者は蘇生はしない。何故なら、これは俺の善意であって勝手な事ではないからな。その必要のない者に無闇な二度目の生を全うさせる事はしない」

 

「神の恩恵があってこその御業なのよ。神を怨むべき者に、更なる祝福は訪れないでしょう」

 

「だが静聴の礼だ、全ての者の傷を癒してやろう。自然治癒に任せるのもまた自由だがな」

 

 

 一陣の柔らかな風が人々の間を突き抜けた。すると瞬く間にあらゆる者の傷が癒え、それこそ瀕死の重体であろうが全ての生者から生傷は失せる。

 

 

「私はこれでお暇するわ。リーベルタース、後で落合ましょう。次は神罰の裁定かしらね」

 

「だろうな。ウィータを巻き込むつもりは無いが、何もしていないとは流石に言えないだろう」

 

「皆が視ているもの。私にも償わせて」

 

 

 美しく微笑むウィータは、ふわりと身体を浮かして空気に溶ける様にその姿を消した。リーベルタースは肩を竦めてから、白ひげを見透した。

 

 

「さて。何か言いたい事はあるか、白ひげ?」 

 

 

 涙ぐむ眼を手で覆い隠す白ひげに、リーベルタースは優しく笑った。白ひげは弱々しくも首を振り、懺悔と感謝を織り交ぜて言葉を発した。

 

 

「ッ何も、何も……!!ありがてぇ奇跡だ…ッ!」

 

「──そうか」

 

 

 刹那、戦場の時が動いた。自由が戻ったのだ。

 崩れる様に倒れ込んだ人間達は、未だ幻想でも観ているかの様に目を瞬かせて白ひげとエースを、そしてリーベルタースを見ていた。リーベルタースは素知らぬ顔で全てを見渡した後、満足気に頷く。

 

 

「戦争は終わりだ。如何に戦争の女神べルムに唆されていたのかよく解っただろう。世界を導く神が邪魔をしたんだ、人間如きが世界の行く末を決めるなよ。時代は変わる。そして生きとし生ける者の人生がそれに沿って変化するだけだ。何を恐れる?」

 

 

 両手を広げてリーベルタースは語った。

 

 お前達の住む世界は、それは広大で偉大なのだと。

 万物に、自由に生きる資格があるのだと。

 

 

「混乱の種を排除する前に時代の在り方を考えてみろ。正義を主張する前に正義の振り翳し方を振り返ってみろ。己の信念に沿う前に己の周りを見つめてみろ。人間とは一つの自由しか無い訳では無い。自由とは無限だ、しかし無限の幅を察してみろ。

お前達は一人では生きていけない存在なのだから」

 

 

 リーベルタースの言葉に、神の啓示に人々は惚けた様に聞き入った。それこそ海軍も海賊も関係なしに、その神の姿を目に焼きつける。その様子にリーベルタースは笑い、慈愛に満ちた瞳をした。

 

 

「お前達にとって時間とはかけがえのないものだろう?さぁ、動け。世界はとっくに廻っているぞ」

 

 

 ハッと気付く面集は、双方いがみ合いながらも神の前ではそれに従った。先程の御業を魅せつけられた今、彼等の中に反抗する意思は既に無いのだ。

 海軍は悔しげに海賊を見逃し、海賊は忙しく取り返せた者と共に海軍に背を向ける。神はその中心にて、瞳を閉じて彼等の動きを視ていた。するとリーベルタースに近付く者が一人、堂々たる姿を晒す。

 

 

「……ふむ?何か用か、モンキー・D・ガープ?」

 

 

 リーベルタースの片眼を開けた問いに、ガープは無言のまま、頭を下げた。海軍側は動揺していたが、その心中を知る数名は固く眼を閉じている。

 

 

「……ッ……感謝しても、しきれん…ッ…!」

 

 

 ぽたりぽたりと地面に雫が落ちる。そのガープの並々ならぬ親心に、リーベルタースは微笑んだ。

 

 

「よく堪えた」

 

「!!──ッ、」

 

 

 リーベルタースは素直に賛辞を与えた。地位を棄てようとしてまで子を守りたかった心は、何と美しく強いのだろうか。並大抵の葛藤では無かった筈だ、何度も己を殺そうとした筈だ。だが押し殺せなかった憎悪と怒りを向けるも結局、守りきれなかった。

リーベルタースは思う。英雄という立場さえ無ければ、この男は報われたのだろうか。ただの一兵卒であれば、それとも海軍でさえ無ければ。この男は全てをかなぐり捨てて戦場を暴れられたのだろうか。

 

しかしそれはきっと否、なんだろう。

 

海軍として地位を築き上げてきたからこそ、守りたい者を守れるのだ。守るべき者達を守れたのだ。

その為に、ガープは海兵になったのだから。

 

 

「人間は間違いを犯す生き物だ。しかし、その間違いは一体、誰が決めるのだろうか。最期にはただ一人の親として立ち向かおうとした感情の、何が間違いなのだろうか。…俺はな、ガープ」

 

 

微かに震え、呻く様にくぐもった泣き声をするガープに、リーベルタースは独り言の様に語る。

 

 

「責められるべき事は、赦されざるべき事は、決死の覚悟をした者を、心無く切り捨てる事だと思うのだ。そんな残酷な事を一体どうしたら出来ようか」

 

「っす、まん……!!、すまん……ッ!!…ッ、ェースを救ってくれて…──ぁり、がとう…ッ!!」

 

 

 深く、深く頭を下げて感謝するガープにリーベルタースはただただ微笑んだ。

 

 ……そして、海軍と海賊、両方が完全に離れきった所でリーベルタースは息を吐く。するとその身体がゆっくりと傾いた。

 

 

「!!ぉ、おい……っ」

 

「──全く。人間の為に跋扈し過ぎだ」

 

「ッ!?」

 

 

 リーベルタースを瞬時に抱えたのは、突然に顕れた一人の神だった。また新たな神かと困惑する人間を気に留める事もなく、神は溜息を吐く。

 

 

「……運命を司る三神の一柱、フトゥールムか…」

 

「馬鹿者。貴様のせいで働き尽くしだったぞ。この落とし前はしっかりとつけてくれるのだろうな」

 

「…裁定の時にでも、言ってくれればいい……」

 

「そうさせて貰う。貴様が産まれてからというもの、ろくに安心出来ん。さっさと眠りに落ちろ」

 

「それは……酷い罪を擦り付けられたものだな…」

 

「黙れ。未来を視る私の気持ち等解るものか。好き勝手に動くのも大概にしろ」

 

 

 リーベルタースを肩に担ぎ、無表情のままに怒れるフトゥールムにリーベルタースは苦笑する。確かに己が動く時は決まって決められた未来は変わってしまうからな、と些か反省して静かにした。

 リーベルタースが黙ったのを横目で見ると、フトゥールムは人間に厳しい流し目を向ける。

 

 

「我等は神界へと帰る。この後どうするかは…リーベルタースの言葉を借りてしまえば、自由にするがよい。あくまで神は傍観に徹するのが道理というもの。今回限りは神が気紛れを興したに相違はない。

 

──しかし烏滸がましくも我等を利用しよう等という思考は今すぐ消せ。我等は常に視ている。不届きにも神の名を使えば、その者には死よりも辛い終止符が打たれる事だろう。心して人生を享受せよ」

 

 

フトゥールムはそれだけを告げると、その場からリーベルタースと共に跡形も無く消え失せた。

 

 

 

 

 この日、世界は暗黙のルールを作った。

 

 新聞にさえ載せる事の無かった紛うことなき真実……それは、神が存在するという信じ難い幻想。

 彼等が本当に神なのかという議論を沼に投げ捨てたとしても、ただ一つの痛感すべき事実は残った。

 

 白ひげエース共に生存。多数の死者は双方ともに出してしまったが、結局は海軍の完全敗北と終わった。

 しかし、海軍の信用は落ちた訳では無い。例え妨害されたとしても、一度確実に彼等を屠ったのだ。海軍の実力は認められ、更にその正義は必要とされた。それは海軍も何も言わずに受け止めた。

 

 世界は少しずつ変わっていく。それは、誰しもが感じていて、誰しもが時代の流れに任せていた。

 神の神託に委ねた訳では無く、諦めた訳でも無く、それでも己等のすべき事を弁えているからだった。海軍は更に正義を追い求め、海賊は更なる夢を追い続けるだろう。そして権力にも暴力にも抗い、新たな生命と共に市民は未来を見据えるだろう。

 

 

「人生の選択、それこそが自由」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──そして、一柱の神は大聖堂に足を踏み入れる。

 

 あらゆる神々の面々に屈しず、その堂々とした表情に、またあらゆる神々は苦渋を浮かべる。

 

 

「自由神リーベルタース。貴様に神罰を与える」

 

 

反響する言葉に、自由神はゆるりと微笑した。

 

 

「人間界に降りるその権利を

 

 

──剥奪する」

 

 

妥当だと口々に呟かれる中、それでも自由神から笑みは崩れない。そして、閉じていた口を開いた。

 

 

「──」

 

 

 

 

ああ、万物に、自由を──。

 

                  

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 如何でしたか?主人公まさかの神様設定。
 とにかくこの頂上戦争をどうにかしてやりたいと色んな手を使ってやりました。原作崩壊万歳…(小声)。

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