するとマルコは壁に寄りかかっていて頷く。一応何故呼ばれたのかを聞くが、知らないらしい。
どうやら俺と二人で話すつもりだな、白ひげは。
「俺は外に居るから終わったら呼んでくれよい」
「ああ、案内ありがとう」
マルコが船長室に声を掛けた後に、俺は中へと入った。どしりと椅子に座っていた白ひげが笑う。
「よく来たなァ。まぁそこに座ってくれェ」
「ああ。…で、話とはなんだ?」
座り早速本題に切り出すと、白ひげは緩めていた瞳に鋭さを増した。そして無造作に身体に付いていた医療器具を外してみせると、静かに告げる。
「さっきから異様に身体が軽くてなァ……それも、おめェと握手を交わした直後の事だァ」
「ふむ?さて、それはどういう偶然だろうな」
「偶然、偶然かァ?コレが……──グララララ!!!おめェ、随分とシラァ切るじゃねぇか!!」
嬉しそうに声を張り上げる白ひげに、さてどう気付いたものかと微笑を浮かべた。
口角を上げたまま、白ひげは俺を眺める。
「おめェ、能力者かァ?俺の病の負担を軽くするなんざァ奇跡としか言えねぇぞォ?」
なるほど、能力者とみたか。
しかし、それこそ可笑しな話だな。人外となってもそれは
「ふむ、奇跡か。そう解釈するのもまた自由」
「………その言い方だと能力者じゃねェのか。ならなんだ、人智を越えた存在とでも言いてぇのか?」
その問いに、俺は笑みで済ませる。
白ひげは片眉を上げるが、ふっと息を吐き出す。
「…おめェが言いたくなけりゃあそれでいい。だが、これで俺に借りが出来た事になるなァ…」
「いいや、借りなど作ってはいない。寧ろこれはプラマイゼロだ。漸くチャラになった」
「あぁ?どういうこった」
「多大な借りはこれで返済だ。そう気にするな、貰ったものを有難く思ってくれればそれでいい」
実際は信仰心を持つ限り、俺自身に借りを与えているのだがな。この返済はまた増えていくだろう。
首を傾げる白ひげに、俺は立ち上がり扉に寄る。
「一つ。訂正があるのだが」
「?なんだァ?」
「病の負担を軽くしたのではない。──病そのものを根本から消したのだ。お前は死ぬにはまだ早い」
「!!」
生物が死んだ後は死神の仕事だ。けれど死ぬ前である生前は、多少死因を変えた所で問題はない。心臓病ではない別の死因の可能性はまだ消えてはいないのだからな。だから本当にこれは只のサービスだ。
船長室から出るとマルコが待っていて、何の話か聞いてきたから適当に濁しておいた。恐らく白ひげがおいおい話すだろうし、今告げると面倒になる。
「そうかよい、まぁ追及しないでおくよい。それより今から手合わせがあるんだが、見ていくか?」
「手合わせ?興味が唆るな、誰がするんだ?」
「ビスタとイゾウだよい」
「刀と拳銃か。それは見物だな」
マルコと語り合いながら甲板に出ると、既に観客は沸いていてその中央に例の二人が向き合っていた。客人だからと場所を譲ってくれた面子に礼を言いながら、手元までよく視える最前席に佇んだ。
「手合わせ願おうか」
「いいぜ?掛かって来な」
両者気合いは充分の様だ。
するとマルコが一歩前に出て、開始の合図を始める。
「やるからには全力でやれよい!──始めッ!!」
マルコの手が上がりきった刹那、イゾウが銃を構え発砲する。しかしビスタは読み切った様にそれを避け、刀を片手にイゾウに向かった。一閃を煌めかせたビスタから転がって回避したイゾウは、また数発撃つ。全てを刀で弾いてみせたビスタだが、連発して隠す様に撃たれた弾に眼を見開いた。
瞬時に躱したが頬の切れ込んだ傷にイゾウはしてやったりとほくそ笑む。挑発を受けたビスタはニッと笑い、刀を構え、体勢を直したイゾウに向かっていった。
「…ふむ。面白い」
火花散る両者の戦いに俺が呟くと、腕を組みながらマルコは解説をしてくれた。
「互いの弱点を無くす為にも戦ってんだよい。ビスタは不意打ちを、イゾウは近接を。戦闘にゃ敵は待ってくれねぇからねい、いい組合せなんだよい」
「考えているな。腕試しも兼ねての実戦演習か。周りにも良い刺激になっているんだろう?」
「まぁねい。士気が上がって損する事はねぇよい」
知性があるだけに見てる分は面白い。人間はやはりこう切磋琢磨しあう関係が一番成長出来るのではないだろうか。特に、信頼を挟むに当たっては。
「ん、決着がついたみてぇだよい」
その一声に視線を向けると、肩を上下に息をさせながら二人が握手をしていた。どうやらビスタが勝利を収めたらしい。イゾウは弾かれて飛ばされた拳銃を拾い上げている。
やはり得物が無くなれば一気に片がついてしまう、とイゾウが嘆いていた。
「ビスタ、イゾウ。お疲れさん」
「マルコ。いやはや、良い勝負だった」
「中盤は接戦だったがな。別を考えねぇとなァ」
「やはり小刀の一つでも持った方が良いのではないか?剣士に遠距離は確かに強いが、大抵は対処出来てしまうからな」
「けどなァ、慣れねぇ武器は持たねぇ方が身の危険はねぇしなァ……いっそ武術でも習うかァ?」
「それこそキツイだろう。ましてそれを苦手としているのは己がよく分かってるのではないか?」
顰めっ面になるイゾウは何か無いのかとビスタと思案していた。マルコは口を出す気は無く、頑張れよいと苦笑して見守っている。
その様子を見ていた俺は、ふむと近付いた。
「イゾウ、その拳銃を貸してくれないか」
「アン?客人か、構わねぇけど気ィつけろよ」
「リーベル?何をする気だ?」
「なに、見るだけだ」
受け取った一挺の拳銃を神眼で覗いた。構造から性能まで細かく見透せるこの眼で、イゾウの戦闘を分析する。
まぁこういったのは俺の専門分野じゃないから、あくまでざっくりと見解するだけだが。
「ふむ……これは愛銃か?」
「おうよ。
「そうか。なるほど、これは良いカバーをしているな。一挺だけではどうしても隙が出来るものだ」
一通り視た後で、礼を言って返す。
長年使い込まれているだけあって、銃との信頼度も抜群の様だ。付喪神が宿っているとは、また面白い物が見れた。
「そうだな、弾を換えるのはどうだ?爆撃付与にするだけで、戦い方もまた工夫出来るだろう」
「なるほど…。そうすると威力があがっちまうな……けどイイ案だ!この機に色々試すのもアリか」
「フォルムには手を出さない方がいい。変わらぬ相棒というのは、離れ難いものだからな」
「リーベル、分かってるじゃねぇか!外見一つ変えると別の支障も出るからなァ…」
理解されたのが嬉しいらしく、しみじみと呟きながら俺の肩に手を回してくる。好感度が上昇するのもまた言葉次第か、ここは俺達と大差ないらしい。
フランマの怒る様子を思い出していると、イゾウが武器持ちなのかと聞いてきた。そう捉えたか。
「違うな。武器は持たない」
「なら連れか?偉く懐かしそうに見えるぜ」
「連れか…そうだな、長い付き合いは居るな」
「どうりで。イイ顔してるからよ」
そうか?と首を傾げた。主に怒鳴られたり振り回したり押し付けたり逃亡したりの仲なんだが。
人間はこういうのを感慨深げに話すのか、変わっている。新たな事を知れたと嬉しく思っていたら、何やら奥の方が騒がしくなっている。
「何かあったのか?」
「海軍と遭遇しちまったみてぇだよい。まぁ、すぐ終わるから気にすることはねぇよい」
「ふむ?新しい人間と出逢えるのか!」
今日は恵まれている日みたいだ。ワクワクしながら騒動の元へと向かおうとすると、マルコに止められる。
見ると、物珍しそうに苦笑していた。
「本当変わってるヤツだねい。普通白ひげの船に乗った上に海軍と遭遇戦なんてビビっちまうのに。ただ図太いだけか天然なだけか…どっちだよい?」
「うん?別に見たまま捉えてくれれば良いんだが。乗せてもらっている手前だ、勝手な事はしないさ。俺は少しばかり、興味の範囲が広いだけだからな」
「それだけで収まってるのか疑問じゃあるが……まぁそれならこっちも接しやすいよい。見学は自由だが、船員が邪魔になるような位置には行かねぇようにな」
どうやらマルコは手は出さないらしい。全く緊張感の無い様子で船員達に船を壊すなよいと伝えている。
信仰心の塊のような男が乗っている船だ。やはりその船員達も面白い。舞い上がりそうな機嫌のまま、俺は海軍とやらの船を見に行った。
白ひげ、神に賞賛されている。
偉大ですもんね、流石オヤジ。
オリ主は好奇心旺盛なので、取り扱いにはご注意ください。下手したら興奮し過ぎて人間壊れます。
ではでは!