VR艦これ カッコカリ   作:homu-raizm

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大本営からは怒られなかったので、今後もお風呂イベント()は入れて行こうと思います。


第4話

 

 

 あれから数時間、もうすぐお昼になろうかという頃合いか。提督を筆頭としたやじ馬たちは俺が盛大にすっころんだのを確認してとっとと帰ってしまった、薄情どもめ。それはさておき、まだ原速にすらなってないわけだがとりあえず微速の段階で転ぶことはなくなった。簡単なコースで慣れただけとも言えるが。

 

「ふむ……もういいだろう。昼食後に今度は砲撃テストだ。しっかり食っておくこと、後燃料も補給しておくように」

「あいさー。吹雪、長々付き合ってくれてあんがとね」

「い、いえ。こちらこそ」

「よっしゃ飯だ飯。二人も一緒に行こうぜー」

「え、ええ? 私もですか?」

「そりゃそーだ。付き合ってくれたお礼だ、アイス奢っちゃる。ながもんが」

「私か!?」

「俺まだ給料貰ってねーし」

 

 実のところセットしてあるクレジットからの自動引き落としで割かし好き放題買えるのはマニュアルで確認済だが、あくまで自分に使用するものに限られるのだ。もちろんゲーム内で入手したお金ならながもんにアイス買ったりむっちゃんにメイド服買ったりできるんだけど、リアルマネーで買ったメイド服は自分しか着れないということだ。

 

「……貸しにしておいてやる。さっさと風呂に行ってこい」

「へーい。ほら吹雪、行こうぜ」

「あ、はい……」

 

 すっころびまくってびしょ濡れのまま食堂に行くわけにもいかないのでながもんに言われた通り風呂へ向かう。ついでに会話で体力を削っておいた吹雪をサラッと誘うことで一切怪しまれずにお風呂イベントを追加する、これぞできる男。あ、吹雪は小さかったです。どうすれば大きくなるか聞かれたからむっちゃんに教えてもらえと言っておいた。

 

 

 

 

VR艦これ

 

 

 

 

 俺、ながもん、吹雪という三人で飯を食う。むっちゃんは昨日やらなかった分ながもんの代わりに秘書艦の仕事で遅れているとのことだった。そういや昨日むっちゃんは午後からずっと俺の案内して一日終わってたもんな。

 ずるずるとラーメンを啜りながら、そういえば俺も同じ長門型だけどももしかしたら提督に狙われる可能性があるのかと思いつく。さすがにそれはちょっと難易度が高いが、ながもんむっちゃん含む四人でならばむしろアリなのではと思い直す。そのためには秘書艦をやって提督と話す必要があるわけだが。

 

「……なあながもん。俺もその内秘書艦やんのけ?」

「さあな、提督次第だ。やりたいか?」

 

 まあ、今のところはいいだろう。とりあえずいろんな艦娘とお風呂イベントをこなすことが最優先だ。というわけで拒否る。

 

「全然」

「即答か……まあいい。とはいえ、我々戦艦や空母は旗艦になることも多いし遠方の泊地で疑似指揮官をやることもありえるから、そういった面から言えば秘書艦をやっておくのは悪いことではないぞ?」

 

 ふむ、ながもんの言うことも一理あるか。戦闘中の判断はともかくとして、遠隔地での疑似指揮官ともなってくると提督の方針をちゃんと理解したうえでの行動が必要になってくるだろうし、それを知るためには秘書艦をやるのが手っ取り早いのは間違いないだろう。

 とはいえ今はそんなことよりも海の上を滑ってるのが楽しいし、この後やる砲撃なんかもっと楽しみだ。頭を使うのはその内でいい。

 

「ま、その内ね」

「そうか」

「俺よか吹雪のほうがいいんじゃね? 秘書艦」

「うぇえ!? 私ですか!?」

「そーそー。俺と違って真面目そうだし。なあ、ながもん?」

「ふむ……どうだ吹雪、やってみるか?」

「え、ええっと……か、考えておきます……」

「あっはっは、提督振られたなー」

「い、いや! そういうのじゃなくてですね!?」

 

 うーん、真面目な奴はからかうと面白い。顔を青くしてわたわたする吹雪を尻目にラーメンを啜る。ながもんは腕を組んでうんうんと頷きながら吹雪に役に立たない助言をする。

 

「まああれだ、こいつの言うことは半分ぐらいで聞いた方がいいぞ」

「それ、乗ったやつの言うセリフじゃないよね」

「うう、お二人ともひどいです……」

「悪かったって。後でながもんがアイス二つ奢るから許したってや」

「こいつの給料から天引きしておくから好きなだけ食べるといい。三つでもいいぞ」

「おいィ?」

「私のログには何もないな」

 

 ながもんまさかのブロンティスト説。

 

 

 

 

 昼飯を食い終えて俺はながもんと演習場に戻ってきた。時間はヒトサンマルマル、砲撃演習開始の時間だ。ちなみに吹雪は離れたところにある演習場で航行訓練なので今はいない。

 

「さて、あそこに的が見えるか?」

 

 隣に浮いたながもんが指さした沖合に視線を凝らそうとするとシステム画面が立ち上がり、チュートリアルその三が始まった。初めての射撃! うん、知ってた。

 

「ですよねー」

「何がだ?」

「こっちの話」

 

 午前中散々世話になったパネル画面にFPSのような円形の照準マークが追加された。それに合わせてながもんが指さした方向に複数の的が浮いているのが確認できる。カーソルを合わせてみると『的』と浮かび上がった。まんまじゃねーか。

 

「見えてるよ。三つ並んでる」

「よし、まずは何も考えずに狙って撃ってみろ」

 

 狙って撃つ、か。ながもんの指示に呼応して砲撃ボタンがアンロックされる。照準を合わせたままカーソルを砲撃に合わせ、押し込む。

 

「どわっ!?」

 

 一応衝撃が来ることは想定していたものの予想を遥かに超える轟音と反動で浮き上がった砲身につられるまま後ろにぶっ倒れる。

 

「どうだ?」

「……こいつはすげぇや」

 

 ながもんに引っ張られて立ち上がる。当たり前だが的は何もなかったかのようにそのままだった。

 

「どこに飛んでった?」

「明後日の方向だな」

「ですよねー……とりあえずながもんお手本見せてよ」

「いいだろう、少し離れていろ」

 

 言われるがままに少し離れ、的に砲身を向けて仁王立ちしているながもんをじっくり眺める。

 

「ふぅー……全主砲、斉射!」

 

 俺と同じ41cm主砲が火を噴く。離れていても腹腔を穿つ重低音が水面を揺らし、けれどもながもんは反動にびくともせず、右手を前に突き出した体勢を保っている。

 僅かな後、三つあった的が二つ同時に爆散する。威力的に砕け散るのはおかしいことではないけども、二つ同時にぶち抜くのは十分驚嘆に値するだろう。

 

「……どうだ?」

「いやはや、見直したよお姉ちゃん」

「そうか。よし、あとは見た通りだ。頑張れよ」

「……マジかよ、なんつーかこう、もう少し何かねーの」

「……頑張れ」

「脳筋ゴリラめ」

 

 あれか、ズギャーンとかピシャーンとかそういう系でしか説明できない感じか。

 

「とりあえず、カッコいいポーズを決めればいいことは分かった」

「……そうか」

 

 何か言いたげなながもんを無視し、残る一つの的に向き直る。照準を合わせ、砲撃。

 

「撃てー!」

 

 さすがに二度目ともなれば反動で吹っ飛ぶこともない。無いのだが、やっぱり砲弾は的にかすりもしなかった。

 

「……撃つのが早い。砲身がしっかり目標に向く前に撃ったらそりゃ当たらん」

「マジか、そんなとこまで再現してんのかよ」

 

 ゆっくり撃つ、を意識してもう一度照準を合わせる。すると、白色だった外枠が徐々に黄色、緑と変化していく。それに合わせてわずかに左右の砲身が位置を微調整しているのがモニターパネルにも表示された。

 

「……つーかアケこれじゃねーか」

 

 よくよく照準カーソルを見るとただの円ではなく二重円となっている。外から内へ、定期的に円の光が移動していくが、アケこれに準拠するなら中の円が光った瞬間が狙い時だ。

 

「タイミングを合わせて……食らえや!」

 

 三度目の砲撃。タイミングは少しずれてしまったが中心をビタで狙っていない、むしろあえて少し早めに撃ったからきっと当たるはず。

 的の近辺に砲弾が降り注ぎ、水柱とともに的が視認できなくなる。モニターパネルからも的の反応が消えたので、隣で双眼鏡を覗いていたながもんに判定を任せることにした。

 

「ふむ……至近弾」

「つまりハズレか?」

「まあ、当たっていないという意味ではハズレだな。明後日の方向に飛んでいくよりはよほど良いが」

「マジかー」

 

 完全にアケこれ準拠ならこの程度の照準でも当たったはずだが、VR版はシビアなのか、あるいは練度等も関係があるのだろう。どのみち、当たらないならばもっとタイミングを合わせないといけない。再装填完了の表示と同時に復活した照準を的に合わせ、タイミングを計る。

 

「ステンバーイステンバーイ……発、しゃあ!?」

 

 砲撃ボタンを押したタイミングはドンピシャ、これは間違いない。だが、その直前波によって足場が微妙に崩されたせいで狙いは大きく外れてしまった。当然ながら砲弾は明後日の方に飛んで行ってしまう。

 

「マジふざけろし。さらに波までケアしなきゃなんねーのか」

「はっはっは、海とはそういうものだ。どうだ? なかなか難しいだろう」

「クソゲーなんだけど?」

「言っておくが、止まったまま撃つことなんてほとんどないからな? 普段は移動しながら移動している相手を狙って撃つんだぞ」

「そういやそうだったな……」

 

 止まってる的ですらこのザマの状態で動いてる相手に当てるとか不可能じゃね。もはや近づいてぶん殴ったほうが早いんじゃないか。

 

「その気持ちはわからんでもないが、一発殴ってどうにかできる相手に我々の速度で追いつくのは相当にしんどいぞ」

「あー……そりゃそうだよなあ」

「一つだけ言えるのは、とにかく焦らないことだな」

「へーい……」

 

 波でバランスを崩すことによりモニターパネルにあった波の表記が解放される。細く白い線が視界の波に沿って大体一定の間隔で動いている、太さが波の高さを示しているようだ。ニュースでよく見る何メートルとかそういう表記じゃなくて周囲の波の様子だったとはさすがに予想外だが、これは慣れれば随分助かる機能だろう。

 

「波が被らないかつ照準が一番絞れるタイミング……今だ!」

 

 再度の砲撃。現状出しえる最高の一撃、これで外すようなら後はもうもっと近距離から練習するしかない、そんな一撃。轟音から僅かに遅れて砲弾が的の付近へと降り注ぐ。

 

「ながもーん!」

「ふむ……おお、命中だ。おめでとう」

「よっしゃ! 終わった! 第三部完! これであとは出撃して実戦するだけだな!」

 

 チュートリアルその三、無事クリア。クリア報酬としてゲーム内通貨の一である軍票をもらう。ちなみにその二はリアルマネー。それはともかく、移動に砲撃と最低限必要なチュートリアルは終えたはず、これで出撃が解放されるに違いない。

 だが、喜びもつかの間、ながもんに冷や水をぶっかけられて気分が一気に盛り下がる。

 

「んなわけないだろう、まだまだ出撃は当分先だぞ」

「え、マジ?」

「マジだ。まだまだ覚えることは山ほどあるぞ、とりあえずは艦隊航行と陣形変更に移動射撃、対空砲火、偵察機の運用と弾着射撃、それと回避機動もだな」

「……多くね?」

 

 そんなんやりながら覚えればよくねえか、と思うが、ながもん的には違うらしい。

 

「ああ、多いぞ。だが、最低限だ。考えてもみろ、例えば単縦陣で航行中に敵艦載機発見の報が届いたとして、その場合どうする?」

「どうする、ってそりゃ迎撃だよな」

「そうだ、迎撃だ。そのためには即座に輪形陣へと組み換えて対空砲撃を行うわけだな。その際に陣形変更でもたついてみろ、どうなるかは考えるまでもないだろう」

「まあ……壊滅するかも知れんけど」

「分かればよし。とはいえなんだかんだ貴重な戦艦級を遊ばせておく余裕もない。まずは陣形を詰め込むぞ」

「うへぇ……」

「どのみち、私か陸奥が認めないと出撃はできんぞ。言いたいことはわかるな? 頑張れよ」

「ぐぬぬ」

 

 言いたいことはわかるけどそこまでチュートリアルやらせるか? どんだけ作りこんでるんだよこのゲーム。

 

「さあ、午後後半は座学だ。部屋に戻るぞ」

「……マジ?」

「言っただろう。陣形を詰め込むと」

「ヤメローシニタクナーイ!」

 

 とはいえながもんに力で勝てるわけもなく、部屋へドナドナされるのであった。

 

 

 

 

「あー……ひでー目にあった……」

 

 あれからながもん先生による知識缶詰プロジェクトが無事行われ、とりあえず陣形関連はどうにか覚えることができた。まあ、明日まで覚えてるかは不明だが。なお、ながもんは俺が机に突っ伏していたら結局戻ってこなかったむっちゃんを手伝うとかで執務室へ向かったので今は一人である。

 

「飯食っといていいとは言われたものの、だ」

 

 時間的にはヒトナナマルマルとか。食って風呂入って寝る、でもいいのだが、さすがにこれだけの自由時間を無為に過ごすのはもったいない。というわけでせっかく案内されたしということで道場へとやってきたのだが。

 

「……誰もいねえ」

 

 まあ、しょうがない。きっとこの辺はランダムイベントなんだろう。

 

「さて、と」

 

 気を取り直して。海上での砲撃が思った以上にバランス感覚を要することが身に染みたので、体幹を鍛え直すところから始めよう。その辺に転がしてあったバンテージを巻き、グローブをはめてサンドバッグの前に立つ。

 両手を顔の前に構え、左足を前に出すオーソドックスなボクシングスタイル。

 

「ふっ!」

 

 軽くジャブ、ストレート、フック、アッパーとパンチを確かめる。うん、悪くない。

 

「はっ!」

 

 次いで左右のロー、ミドル、ハイ。現実の体じゃ上段は蹴れないけどもVRならその辺は全然問題ないのが素晴らしい。続けて左右の前蹴り、右二―、左三日月蹴りからの右サイドキック、下ろして左ニーりからの右バックスピンキック。

 ずどん、とサンドバッグがくの字に折れ曲がり、吊り下げられた天井とチェーンがギシギシと音を立てる。

 

「いやあ、これだけ自由に体が動くってホントすげーわ。そんじゃま、一頑張りしますかね、っと」

 

 力任せにならないようフォームを意識し、体幹に力を入れてバランスを取ることを重視しながら動き続ける。徐々に吹き出てきた汗をその辺にまき散らしながら、ただただ無心に殴り続ける。

 

「ふっ、はっ!」

 

 跳ね返ってきたサンドバッグを相手の攻撃に見立て、両手を顔の前で構えたまま腰を落とし、頭を振って避ける。そのまま左足を一歩踏み込み左ボディ、からの左フック、右ストレート、右手に体が引っ張られるままに右ミドル、右足を下ろして左ハイ、とどめの右ストレート。

 

「ふぅ……」

 

 ギシギシ揺れるサンドバッグから距離を取り一息つく、すると後ろからパチパチと拍手の音が聞こえてきた。

 

「お見事です」

「どーも」

 

 顔を流れる汗をぬぐいながら後ろを向く。そこにいたのは――

 

「初めまして。軽巡洋艦、神通と申します」

 

 ――物静かな佇まい、しかして隠し切れない、というよりは隠そうともしない強者のオーラ。軽巡? 冗談じゃない、獲物を前にした猛獣にしか見えないぞ。

 

「ご丁寧にあんがとさん、俺は長門型戦艦の――」

「上総さん、でよろしかったですか?」

「――ああ、そうだよ。よろしくな」

「はい。よろしくお願いします」

 

 ぺこり、と下げられた頭が上がる。そこに爛々と光る瞳が俺を捉えて離さない。

 

「それで、上総さん。急なお話で大変不躾かとは思いますが――」

 

 首の後ろがチリチリする。目の前の神通はただの構えすら取っていないというのに、その雰囲気に飲み込まれそうになる。

 

「――一手、お手合わせ願えませんでしょうか」

 

 解釈の余地もないドストレートなお誘い、と言ってもその溢れ出る闘気のままにお茶のお誘いだったりしたら逆に驚きだったが。

 

「……いいぜ、やろうじゃないか」

 

 せっかくのランダムイベントなんだ。ここで断る理由もない。こういうのこそVRの醍醐味だよね、華の二水戦、あるいは鬼の二水戦かしらないが神通はスカートのまんまだし。パンチラ狙っちゃうぜー。

 

「ありがとうございます」

「ただし、条件がある」

「伺いましょう」

「さん、はいらねえ、上総でいい。ついでに敬語もいらねえよ」

「前者に関しては承りました。後者に関しては性分なので」

「ま、無理にとは言わんさ。んじゃま、禁止は目潰しと急所ぐらいでいいな? さっそくおっぱじめよう」

 

 道場に場所を移すことも考えたが、万が一胴着に着替えるとか言われたらパンツ拝めなくなっちゃうからな。誰もいないしここでやっても問題ないだろう。

 

「よろしくお願いします。それでは……二水戦、神通。推して参ります」

「こちらこそ。戦艦上総、受けて立つ」

 

 時間無制限、ほぼアリアリの一本勝負。左足を前、右足を後ろ。右手を軽く握って顔の前に、左手はそれよりもう少し前に構える。対する神通は左手を手刀の形にして大きく前に、同じく左足も前に出して腰を落とした空手の型。

 

「いくぜ!」

 

 じっとしてるなんて性に合わん、前に出てまずはジャブ。一発目は前に出ていた左手で軽く弾かれるがそれは当然予測している、神通に踏み込まれるより早く引き戻した二発目、こいつはスウェーで後ろに避けられる。その空いた隙間にさらにもう一歩入っての三発目を打とうとして、後ろに下がった神通がその動きを利用して左足を跳ね上げてきたのを今度は逆にこっちがスウェーで回避する。

 

「っと」

 

 こっちの顎を狙った蹴り上げが不発に終わったと見るや即座に下ろし、踏み込みからの右逆突き。こいつは左前腕で叩き落し、落とされるや否や飛んできた右回し蹴りは落とした左手を肘を中心に回転させ、右手で支えることで弾き返す。

 

「鉄槌に回し受け……!」

「ま、多少はね?」

 

 攻守交替、右足を弾かれたことでバランスを崩した神通めがけて踏み込み、左ジャブを右手で受けさせてからの右ストレート。狙いは良かったが、右足を下げた神通の左手刀で流される。お返しとばかりに右ミドルを狙ったところで再度神通の左蹴り上げを今度は左前にダッキングで交わす。

 

「!」

 

 左ボディ――右下段払い。

 左フック――右上げ受け。

 右ストレート――右鉄槌受け。

 右前裏拳――右ダッキング。

 右ボディ――左下段払い。

 右膝蹴り――バックステップ。

 

 躊躇なく膝で顔面狙ってきやがって、恐ろしいったらありゃしない。距離を取って一息つけるか、と思いきやそんな甘いことはなく。

 

 左前蹴り――右パーリング。

 右上段突――左パーリング。

 右ストレート――左上げ受け。

 右手刀打ち――左ダッキング。

 右手刀払い――右ウィービング。

 右フック――左上げ受け。

 右肘打ち上げ――左スリッピング。

 左ボディ――左鉄槌受け。

 右肘横打ち――左ブロック。

 右ストレート――左手刀受け。

 右貫手突き――バックステップ。

 

 俺がバックステップで距離を取った、その距離を詰めた神通が左足を抱え込んで――いや、距離が遠い!

 

「うおっ!」

 

 抱え込んだ足を下ろすと同時にくるりと回って右後ろ回し蹴り。距離が遠かったことでどうにか反応でき、辛うじて右腰を切ることで直撃は避けるも、貰ったら晩飯はまず食えないだろう威力があることは見て取れた。怖すぎるわ、殺す気か。パンツは予想通りの白だったけどもそんなこと気にしている余裕は一切ない。

 

「外した……!」

 

 だが、僅かな動作で避けれた今が絶好のチャンス。通常の構えから右腰を切る、つまり右半身になっている今の状態から出せる攻撃は当然ながら右ストレート一択だ。戻り切ってない体、前に残っていた左の前腕で受けられるも、衝撃を流せる状態じゃない。硬直した状態の神通へお返しの右ミドルキックを叩きこむ。

 

「オラァ!」

「ぐ……!」

 

 神通は左腕と左足でどうにかブロックしたものの、威力に押されて吹っ飛ばされる。とりあえず今まではすべて受け流されていたものをどうにかガードさせることができた。というかなんだこれ、ゲーム内日数二日目に出てきていい相手じゃないぞ、バグってんじゃねえのか。

 

「楽しくなってきました……!」

「おっかねえな……!」

 

 当たった感触からも結構な衝撃があったはずなのにおくびにもださず、さっきよりも眼差しをギラつかせて一切の躊躇なくこちらに踏み込んでくる。

 

「く……」

「はっ!」

「なんの!」

「あぶねっ!」

 

 手を変え品を変え殴りあう。お互いに直撃こそないものの基本スタイルがベタ足インファイトなため、神経がガリガリと削られていく。噴出した汗を拭う暇も上がり始めた呼吸を抑える暇もない。

 さらに数十回の交錯の後、ウィービングに合わせられた右打ち下ろしを慌ててブロックするも勢いに押されて左足を引く――つまり左右が逆、サウスポーの構えになってしまう。

 

「ふっ!」

 

 神通の反応は早い。すぐさま俺の右足の外に回り込もうと動く。外への攻撃は基本的に難しい、慣れない逆の構えなら尚更、けれどもそれは俺が不得手だったらの話だ。左足をわずかに引き、神通が俺の右の外に踏み出した足を狙って右のサイドキックでけん制する。

 

「!?」

 

 キックボクシングではなかなか見られない変則的な蹴り、確かに俺のベースはキックボクシングだが、それ以外ができないとは言っていない。初めての攻撃に神通が戸惑い、対応が若干遅れたその隙を逃さない。

 右足を下ろす前に左足で地面を蹴り右腰を前に、サウスポーになっていたことで前に出ていた右拳をその勢いのままに打ち込む。

 右の縦拳――ストレートリード。拳を横ではなく縦にすることで正面から見た際の横幅を小さくした一撃は左手のブロックをすり抜けついに神通を捉えることに成功する。

 

「貰った!」

 

 打ち込んだ右拳を開いて視界を遮り、左にダッキングしつつ大きく踏み込んで苦し紛れに出された右突きを掻い潜って左ボディ、体勢が崩れたところで視界を遮っていた右手で神通の襟を、ボディを打ち込んだ左手で手首を掴み、左手を大きく手前に引いて上半身を釣り出す。

 

「せいや!」

 

 後は流れるまま襟を掴んだ右手を捻じって巻き上げ、空いた空間に右足から飛び込み体落とし。巻く必要すらなく綺麗に背中から転がった、誰がどう見ても一本勝ち。ついでにスカートも派手に捲れあがって真っ白なパンツが晒されていた。全くエロくないけど。

 

「……まさかジークンドーに柔道までとは思いませんでした」

「柔道はともかくジークンドーがわかるのがすげーよ」

「姉さんが得意なので」

「お前の姉さんナニモンだよ」

 

 神通を引っ張って起き上がらせながら時計を見るとヒトキュウマルマル、さてどうしたもんかと思案したところでそういえば食堂がフタマルマルマルまでだったことを思い出した。

 

「……続きやる気満々なところわりーけど、飯にしない?」

「……そういえばそうでしたね。全然気付きませんでした」

「ま、その前に風呂だな風呂。一緒に入ろうぜ」

「そうですね。色々聞きたいこともありますし」

 

 その後風呂で神通とあれこれしていた結果、食堂にギリギリ駆け込んで間宮さんに二人並んで怒られた。お風呂イベントだったからね、しょうがないね。

 ちなみに神通の腹筋はながもんと同レベルだった。ウッソダロお前。  




川内:ジークンドー
神通:空手
那珂ちゃん:カポエイラ

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