VR艦これ カッコカリ   作:homu-raizm

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そろそろ前書きに書くことなくなってきた


第5話

 

「むぐむぐ……ごっそさん」

 

 お代わりしたどんぶり飯をかき込み、味噌汁で流し込んで一息。今日も間宮さんの飯は美味い。

 

「同志上総は相変わらずよく食べますねー」

「なんだかんだ戦艦だからな。とはいえながもんに比べれば相当少ないぞ?」

「そりゃまあ、あの方はゴリラゴリラゴリラですから」

「お前仮にも人の姉に向かってなんてことを」

「三回言ったことには突っ込まないんですか?」

「正式名称だろ、知ってら」

「むー、つまんないです」

「つーかな、ながもんはあれで可愛いとこあるんだぞ? 朝とかめっちゃ弱いし、昨日はパンダのパジャマ着てたし」

「またまた御冗談を……え、マジですか?」

「マジ。ちなみにむっちゃんは透け透けのネグリジェだ」

 

 朝食を食べ終え、漣を適当にあしらいつつ間宮さんに感謝をしながら手を合わせる。艦娘のエネルギー源は燃料、のはずなのだが、食事を抜くと目に見えて活動効率が落ちるというのはここ数日の実験でよくわかったことなので、ゲーム内にも関わらず食事の時間を訓練に当てたりせずしっかりと朝昼晩食べている。どうやら艦部分の動力は燃料だが、娘部分に関しては食事が必要らしい。

 そんなわけで普段に比べてよっぽど規則正しい生活を送っている。ちなみにこの後は航行訓練と射撃訓練、昼食を挟んで午後一に演習やった後で今日は対空訓練と偵察機運用、午後後半はながもんの座学となっていた。

 

「とはいえもう十日だぞ。ぼちぼち出撃もあったみたいだし、いい加減俺だって出ていいと思わないか?」

「うーん、確かに同志上総は頑張ってると思いますけども。一通り訓練はやったんですよね?」

「演習も含めてな。ちらほら見てるだろ」

「こないだ赤城さんにハチの巣にされてましたね」

「あー……あったなそんなこと。なあ、あれどうすんの?」

「どうにもできませんよ? 赤城さんはあの人だけ艦載機の非撃墜率おかしいことになってますもん」

「だよなあ」

 

 思い出したくもない三日前にやった赤城相手の対空訓練、こっちの撃墜判定はわずか一機、被弾判定は十回轟沈してなおお釣りが来るといったものだった。対空砲火の重要性を嫌というほど叩き込まれた訓練であり、対空なんて無理じゃねと思わされた訓練でもある。流星どころか天山ですらない九七と、同じく彗星ですらない九九だというのに頭おかしい回避性能してたんだが、深海の艦載機もあんなイミフな機動してくんのかね。

 ちなみに俺の後にやっていた吹雪は結局一機も撃墜できないまま海上で吐いて失神して医務室送りになってた。赤城マジ赤鬼。青鬼はもうちょい優しいんだがなあ。

 

「いや、あれは赤城さんがおかしいだけだから心配せずとも大丈夫でっせ」

「それを聞いて安心したよ。実際、加賀や二航戦はそこまで頭のネジぶっ飛んだような動きしないからな」

 

 赤城だけあんな頭おかしいなんて設定はもともとなかったはずなんだが、どうなってんだ。味方が強い分にはまあいいんだけどさ。

 

「それはともかく、おっぱい姉妹は出撃についてなんて言ってるんです?」

「お前は本当に命知らずだな同志漣よ。まあいい、ながもんが言うにはながもんかむっちゃんのどっちかがオッケー出せばいいって言ってたけど」

「おっぱい二人は同志の訓練を見てるんですよね?」

「二人ともが付きっ切り、ってわけじゃねーけどな。大体どっちかは見てるよ」

「だとしたらまだなんじゃないですか? なんだかんだ戦艦は少ないですから遊ばせておく理由もないでしょうし」

「やっぱそうだよなー……はあ、今日も訓練か」

 

 食後のお茶を啜りながら漣と駄弁る。この十日間、ながもんが言った項目については一通り叩き込まれたしチュートリアルもクリアした。ほんとぼちぼち出撃してもいいと思うんだけど、ブラウザと違ってこっちは自分で艦隊組めないから自分の意志で出撃できない。とはいえゲームだし優遇はされていると思うんだけどなー。

 

「同志漣は今日どうすんの?」

「今日は遠征ですねー。天龍さんと七駆のみんなで海上護衛任務です」

「おお、そりゃ解禁されてるわな」

「解禁?」

「なんでもね。頑張れよ」

「お任せあれ」

 

 そっか、遠征か。南西諸島海域まで出れれば資源系の遠征ももっと増えるんだけどな。今は南一号が終わって次の海域攻略の準備中とのことだし、はやいとこ出撃したいな。なんて考えていたら館内放送の音が流れた。

 

『……秘書艦の長門だ。今から呼ぶ艦娘はマルキューマルマルに執務室へ集合するように。軽巡、阿武隈。軽空母、龍驤。それから戦艦、上総。以上三名。繰り返す。軽巡、阿武隈。軽空母、龍驤。戦艦、上総。以上三名はマルキューマルマルに執務室へ集合するように。上総、通達してあったスケジュールは全て無視して最優先だ。以上』

 

 おいおい訓練やらずに最優先で集合かよ。これはさすがに出撃の予感……!

 

「同志、今度は何やらかしたんですか?」

「やらかした前提で話すんじゃねーよ。お前俺のことなんだと思ってるんだ」

「いやですねー、言わぬが花というやつですよ」

「お前な……いやまあ、今回はマジで心当たり無いんだよ」

「ちぇー、つまんない」

「つーかやらかしで呼び出されるならお前と一緒だろ」

「……それもそうですね」

 

 

 

 

VR艦これ

 

 

 

 

 

 マルキューマルマル、の五分前、すなわちマルハチゴーゴー。執務室の前に着くと、そこにはすでに阿武隈と龍驤の二人がいた。

 

「二人ともおはよーさん。はえーな」

「いやいや、ウチは今着たとこや。あぶぅは知らんけどな」

「わ、わた、わたしは……」

 

 自然体の龍驤に比べて、阿武隈は今にもゲロ吐きそうなぐらいに顔真っ青でガタガタ震えている。いやまあ、あんな呼び出し方されたらその気持ちもわからんでもないが、いくら何でも廊下が軋むほど震えるってどういうことよ。

 

「……なんかめっちゃ緊張してね? 大丈夫か?」

「こ、こここ、このぐらいどうってこと」

 

 こらあかんわ。龍驤に視線を飛ばすと、どうやら向こうも同じことを思ったようで、こっちにどうにかしろと言ってくる。いや、どうにかしろって言われてもな……漫才でもすっか? 視線で問い直すと龍驤も面白そうだと笑みで了承を返してくれた。

 

「……なあ龍ちゃん、阿武隈何やらかしたん?」

「さあなあ。すっころんで提督に醤油でもぶっかけたんちゃうか」

「ふえ!? な、そ、そんなことしてませんよ!?」

「コーヒーやお茶とかじゃなくて醤油かよ。どっから出てくんだそのチョイス」

「おもろいやろ?」

「さすがだな!」

「うははははは!!」

「がははははは!!」

「ええい、うるさいぞ! 漫才やってないで揃っているなら入ってこい!!」

 

 扉の向こうからながもんの怒声が響く。阿武隈は多少落ち着いたようだったが、とはいえまだまだ本調子でもなさそうだ。龍驤に目配せすると、まだ時間になってないから大丈夫やろと謎の回答を貰ったのでもう少し阿武隈を弄って落ち着かせることにしよう。ながもんすまんな、俺はこのビッグウェーブには逆らえん。

 

「だってよ阿武隈」

「そうやぞあぶぅ」

「なんで私なんですか! っていうかなんですかその呼び方!」

「可愛いやん?」

「いやいや、刺されそうじゃね」

「……確かに。せやったら新しい呼び方考えなあかんな」

「考えなくていいですから! 普通に呼んでください普通に!」

「貴様ら! いい加減にしろ!」

「だってよ阿武隈」

「そうやぞあぶさん」

「~~~~~~~~!!」

 

 あぶさん、という呼び名でさらにいじろうかとも思ったが、この地団駄を見る限りではもう大丈夫だろう。龍驤は一仕事終えたと言わんばかりの表情で執務室の扉に手を掛けた。

 

「さて、ええ感じに緊張もほぐれたみたいやし、そろそろ入ろか。あんまり怒らせると41cm砲弾が扉ぶち破って来るよって」

「ながもんには龍ちゃんが怒られてくれよな」

「ええよ。その代わり提督にはかずやんが怒られてな?」

「しょーがないな、了解。ただ、あん中で一番怖いのはむっちゃんだからな。頑張れよ阿武隈」

 

 だが、どうやら龍驤はまともに扉を開ける気が無かったらしい。話がまた漫才の方向に流れていく。

 

「そうやであぶさん。陸奥はな、怒るとあのどすけべおっぱいで窒息させて来よるんやで。気ー付けや?」

「そんなことしないわよ! いいからとっとと入って来なさい!」

「な、ほんまあのおっぱいが……おっぱいが……べ、別に悔しくなんかないんやからな! ウチかて、ウチかて……!!」

「自分で言って自分で傷つくとか龍ちゃんホンマレベル高いわー」

 

 ドアノブから手を放して廊下にのの字を書き始めた龍驤をいじっていると、おもむろに扉が開いて中から夜叉のごとき相貌をしたながもんが出てきた。背中から大きくゴゴゴゴゴゴという文字がにじみ出ていると錯覚せんほどに怒気を振りまいている。あ、龍驤死んだわこれ。

 

「ヒィッ!?」

「貴様ら、聞こえなかったのか……?」

「あ、あわわわわわ」

「阿武隈落ち着け、とりあえず食われはしない、と思う。ほら龍ちゃん、お前の担当だぞ」

「おっしゃ任せい! いいか長門、とりあえず深呼吸してや。見てみい、阿武隈が白目向いて失神しそうやぞ? な? バナナ食って落ち着いてや?」

「ぶはっ」

「かひゅっ」

 

 龍驤がスカートの中からバナナの房を取り出してながもんに差し出す、その絵面を見て俺と阿武隈とついでに部屋の中のむっちゃんと提督が揃って噴き出した。いくら何でもここでバナナは卑怯すぎるだろ。ながもんにバナナというチョイスも、でかい房が何故かスカートから出てくる様も何もかもが面白すぎる。やっぱ関西弁は違うわ。

 

「お前どっからバナナ出してんだよ? そのチョイスほんとどうやって出てくんだよ! つか何で持ち歩いてるんだよ!?」

「おもろいやろ?」

「最高かよ!」

「うははははは!!」

「がははははは!!」

 

 龍驤と二人声を合わせて笑いあう。すると、おもむろに頭を鷲掴みにされた。徐々に力が入っていき、それとともに頭蓋骨がミシミシと嫌な音を立てている。

 

「貴様ら、ほんっとうにいい度胸だ。覚悟はできているんだろうな?」

「……ながもん、そこは笑って流すところじゃないのかね。提督やむっちゃんも笑ってたぞ?」

「せやせや。世の中ユーモアっちゅーんは大事やで?」

「あいにく私は頭が固いんだ。残念だったな」

「あだだだだだだ!! 割れる! 俺の頭をスイカにするな!」

「こらあかんわ、耳から脳みそ飛び出るで。さすが長門、ゴリラもびっくりや」

「まだまだ余裕だな。ふん!」

「あんぎゃー!!!」

 

 そのままずるずると引きずられ、執務室の床に投げ出される。提督とむっちゃんはさっき一緒に噴き出したにも拘わらず、この短い時間で外面を取り繕っていた。卑怯な。

 

「あんたも懲りないわねえ」

「一緒に笑ったくせにお咎めなしとか。汚いなさすがむっちゃんきたない」

「さて、私のログには何もないわね」

 

 まさかのむっちゃんまでブロンティスト説。

 

「ごほん……さて、お前たちを呼んだのは他でもない。長門」

 

 そこから先の説明を求められたながもんは心底嫌そうな顔をして、何をかは分らないが提督に翻意を促した。

 

「……提督、人選やり直したほうがよいのでは?」

「気持ちは分らんでもないが意図は説明した通りだ。諦めろ」

「はぁ……」

「ながもん、溜息ばっかり吐いてると幸せ逃げるぞ」

「せやせや。バナナ食って元気出しーや」

「誰のせいだ、誰の! バナナは後で食う!」

「阿武隈」

「あぶさん。つーか食うんかい」

「うぇえ!?」

「全く……」

 

 ながもんは再度盛大なため息をつくと、ごほんと一つ咳ばらいをして説明を始めた。

 

「鎮守府近海にはぐれ深海棲艦が侵入した。お前たち三人には捜索及び撃滅を命ずる。旗艦は阿武隈だ」

「うぇえ!? わ、私ですか!?」

「そうだ。旗艦阿武隈、以下上総、龍驤の三名でヒトマルマルマル鎮守府近海へ出撃、侵入したはぐれどもを撃滅せよ」

「りょ、りょりょ了解!」

「了解」

「了解や」

 

 ふむ、1-1か。だとするとこんなわけわからん編成で行く意味がさっぱりわからん。阿武隈のキラ付けするなら随伴は駆逐一択だしな。命ぜられるがままに踵を返して部屋を出て行こうとする阿武隈の襟首を引っ掴み、ながもんを見据える。

 

「じゃ、じゃあ二人とも、準備もあるしさっそく……ぐえっ」

「まあ待て阿武さん。ながもん、質問」

 

 していいか、と聞いたらダメだと言われそうな気がしたので有無を言わさない口調で問いかける。ながもんは一瞬提督に視線を送ったが、提督も特に何も言わなかったのでそれを了承と受け取ったのだろう。腕を組んでおっぱいを持ち上げながら口を開く。隣の龍驤から若干殺気が漏れたがそれはスルーする。

 

「……言ってみろ」

「いくつかあんだけど、ぶっちゃけこの編成の意味がわからん」

「なぜそう思う」

「鎮守府近海に敵発見、にも拘わらず大騒ぎになってない、ということは割と日常的なことだと考える。ここのところそうやって出撃していた連中は大体が水雷戦隊、とすれば侵入した相手は軽巡や駆逐程度だと考えるのが妥当だ」

「空母や戦艦が紛れたのかも知れんぞ?」

「だったらなおのこと一回も出撃したこと無い俺を当てる理由がねーよ、ながもんやむっちゃんが出張ればいい。そうなってないってことは大体同じ相手なんだろう、はぐれって言ってたしな。だとすれば阿武隈はまだしも俺と龍ちゃんを呼んだ意味が分からん」

 

 ながもんは目を丸くしていた。提督やむっちゃんも大層驚いた様子だったが、なんか失礼だな。

 

「……驚いたな。出撃できることに喜び勇んで飛び出していくと思っていたが」

「そらまあ嬉しいは嬉しいけど、それとこれとは別でしょ。言いたくないってんなら別にいいけどさ」

「聞かれなかったら話さなかったが、別に隠し立てするほどのことでもない。まず一つ、上総のテストだ。訓練や演習ではそこそこ動けるようになっているが、実戦はまた別物だからな。戦艦級とは言え実戦経験もなしに前線へ送れるわけもない、まずは簡単なところからということだ」

「まず一つ、ってことは」

「ああ。二つ目は阿武隈の旗艦適正検査だ。今後は水雷戦隊としての出撃も増えるだろう、その際に旗艦を張れるかどうか、こればっかりは練度だけでなく適正もあるからな。色々試してというわけだ」

「が、頑張ります」

「最後に三つ目、龍驤はお目付け役兼制空要員だ。というわけで龍驤、お前の装備だけはこっちで指定する。それと、よっぽどの事態以外では戦闘に直接参加することも禁止だ」

「現地で制空権を握りながら教導せえってことかいな。人使い荒すぎひん?」

「それだけ信頼しているということだ。普段の漫才さえ少なくなれば空母全体の目付も頼みたいぐらいにはな」

「そらあかんわ、ボケれんウチとかタコの入ってないタコ焼きみたいなもんや。ま、ウチらの統率は赤城と鳳翔に任せとけば問題ないよって」

 

 なるほどなるほど、この出撃の意図は理解した。三人ってことは陣形も単縦固定だから旗艦としてもやることは一つ減るわけだし、本当に最初のテストということだろう。ただ、鎮守府近海で制空権、必要なのか?

 

「上総、お前は基本阿武隈の指示に従えばいいが、一つだけこちらから指定がある。弾着観測射撃を最低一度はやってくるように」

「そのための制空権か、了解。装備は?」

「主主偵徹でいいだろう、夕張には伝えてある」

「ガチ装備じゃねーか」

「戦闘にガチも手抜きも無い」

「ごもっとも」

 

 というわけで一通りの指示を受け、夕張に手伝ってもらいながら装備を整え、現在時間はマルキューゴーゴー。阿武隈、龍驤とともに出撃ドックで待機しているわけだが。

 ちなみに装備は俺が41cm主砲二本に徹甲弾と零偵、阿武隈が主砲二本に魚雷、龍驤は零戦52式に天山と彩雲、ただし天山は使用禁止。

 

「…………」

 

 阿武隈が緊張で顔真っ青にして今にもぶっ倒れそうなぐらいに震えている。震えすぎたせいか砲身から転がり落ちた妖精さんが四つん這いでゲロの動作してんのさすがにヤバすぎだろ。

 

「……なあ、龍ちゃん。阿武隈って別に今回が初出撃ってわけでもないよな?」

「ちゃうで」

「なんであんな緊張してんの?」

「パンツでも履き忘れたんちゃう? 飛び込みの際にスカート捲れたら見えちゃうどうしよう、って」

「痴女か」

「違いますぅ!!!」

「おわ、びっくりした。大声出すなよ」

「誰のせいですか!!!」

「龍ちゃんだろ」

「上やんやろ」

「お二人のせいです!!!」

 

 肩を怒らせて一しきり吐き出したか、阿武隈は多少落ち着いたようだった。

 

「ま、なるようにしかならんよって、あんま考えすぎんなや。テスト的には失格になるかも知れんけど、いよいよとなったらウチもおるさかい、大船に乗った気で好き勝手やればええ」

「そうそう。それでも失敗するようなら敵味方の戦力見誤った提督が悪いんだよ」

「ひゃんっ!?」

 

 ばしん、と阿武隈の尻を叩く。それと同時に指定時刻ヒトマルマルマルになり、出撃のブザーが鳴り響いた。狙っていたとはいえ絶妙なタイミング、尻を触られたことに何か言いたげだった阿武隈がむくれながらもブザーに出鼻を挫かれたために言葉をなくしている。追及されなかった今のうちにもう一押し。

 

「ほれ、旗艦様から出撃して、どうぞ」

「むー……まあいいです。第一水雷戦隊、阿武隈! 出撃します!」

「戦艦上総、抜錨」

「軽空母龍驤、出撃するでー」

 

 いい加減な掛け声とともに出撃、阿武隈を先頭に単縦陣となってとりあえず付いていく形で適当に進む。俺の前を行く阿武隈はさっきあれだけほぐしてやったにも関わらず肩にめっちゃ力入っているのがはっきりとわかるほどに力んでいた。

 

「阿武さん阿武さん」

「な、なんですか龍驤さん」

「速度と方角指示せな」

「はっ、そうでした。え、えっと……じゃあ、だ、第一戦速、東京湾を抜けるまで南に、次いで東に向かいましゅ!」

「……了解や」

「了解っと」

 

 旗艦は大変だなー。今のもめっちゃ声上ずってたし。見るに見かねたか、龍驤が阿武隈の横まで行って肩を軽く叩きながらフォローする。

 

「それから、今からそんなに肩に力入れとったらすぐバテてまうで。まだ見つけてもおらんのやからリラックスしーや」

「う……善処します」

「旗艦がそんなやと随伴にも波及するよって、気ーつけや」

「……二人とも全然そんな素振りありませんけどね」

「そらウチはな。かずやんは……よーわからんわ」

「っても駆逐軽巡程度だろ、夜戦で魚雷でも貰わん限り死にゃしないんだから緊張するわけねーっしょ」

「はっはは、確かにそらそうや。でもかずやん、油断はあかんで?」

「わーってるって」

「さっきのセリフがフラグにならんとえーな」

「やめーや」

 

 そんなことを話しながら海を進む。右に見えていた三浦半島も後方に抜け、ぼちぼち外洋だ。阿武隈の話だととりあえず東に向かうとのことだが。

 

「と、取り舵!」

「了解」

「阿武さん、その前に偵察や」

「あ」

「あかんでー忘れたら、最重要や。マイナス一点やな」

「す、すいません……えっと、龍驤さんは正面、じゃなくって東側を、上総さんは南側をお願いします」

「了解や。かずやん、彩雲は索敵範囲めっちゃ広いよって、被らんよう気ーつけや」

「任された。真南に飛ばすさ、抜かりはない」

 

 阿武隈の指示と龍驤の指摘に従いモニターパネルを操作して南側へ零偵を飛ばす。とりあえず目についたところに敵影は無し。

 

「こっちはいないな」

「了解、龍驤さんはどうです?」

「んー……おったおった。駆逐イ級が一体、こっち向かっとる。このままいくとあとちょっとで接敵やな」

「一体だけですか、それじゃあさっそくですけども上総さんの弾着をやりましょう。龍驤さんは制空権を取ってください」

「了解や」

「進路このまま、第四戦速!」

「ちょ、ま」

「一気に行きます!」

「お、おう」

「あーもう!」

 

 急加速した阿武隈に置いてかれないように急いでスピードを上げる。ちょっとした後、モニターパネルに龍驤の言っていた駆逐が現れる、制空権もばっちり、戻って来たばっかりの零偵を急いで飛ばす。

 とはいえ向こうもこっちに向かってきていて、こっちも相手に突っ込んでいっていることから相対速度は相当なもの。結局間に合わず、俺の射程に捉えたタイミングでは零偵がまだ届いておらず、零偵が届いたころには互いの射程に入るまでに近づいてきてしまっていた。

 

「上総さん!?」

「悪い、けど物理的に無理なもんは無理だった。この後どうすんだ」

「え、えっと……」

「まずは回避や回避! 撃ってくるで!」

「! 全艦、取り舵!」

 

 目の前のイ級に対し、阿武隈と龍驤は回避するべく左へ曲がる。が、それでもやっぱり俺は間に合わないだろう。

 

「かずやん!?」

 

 後ろを確認できない阿武隈と違い、前を進んでいた俺が指示に従わず直進しているのを見た龍驤から驚きの声があがる。それもそのはず、このままいけば正面衝突コース、いくら戦艦対駆逐とはいえ、衝角も付いてないのにわざわざ正面からぶつかり合う理由がどこにある。

 だが、俺は逆に考える。下手に避けようとして半端にぶつかるかもしれないなら、いっそのこと真っ向からぶち破ってしまえばいいと。

 衝突の直前、イ級が跳ねる。その口の中から覗いた砲身が俺の顔を違わず捉えているのがはっきりとわかる。水しぶきすらスローモーションに映る世界の中、先に動いてしまわぬように、隙を見せてしまわぬように、阿武隈と龍驤の声すらも置き去りに、全神経を集中する。

 

「――!」

 

 イ級が撃つ、その意を逃さず捉え、その瞬間一気に進行を止めて海面に顔が着くほどにダッキング。放たれた砲弾が髪を散らす感覚に背筋を冷やしながらも、イ級の砲撃をかわすことに成功する。

 

「っせい!!」

 

 沈み込んだ膝のばねを開放し、跳び上がらんばかりの左ボディでイ級のどてっ腹を抉る。

 

「らぁ!!」

 

 そのまま左手を引き戻し、返す渾身の右ストレートをだらしなく開かれた顎の下に叩き込む。ぐしゃり、と何かを破壊する感触を残し、イ級がもの凄い勢いですっ飛んでいき。

 

「嘘……」

「ははっ、やるやんけ」

 

 爆発四散。中に残った弾薬に引火したのか、ド派手に散った破片がこっちまで飛んできた。そいつを手ではたき落としながら、もう片方の手で髪をかき上げてビシッと決める。

 

「へっ、汚ねえ花火だぜ」

 

 こうして、俺のスコアに一が刻まれた。まあ、まさか初日にながもんに否定された肉弾戦によるものが最初になるとは思ってなかったけどさ。

 

 




龍驤の関西弁はテキトー。お姉さん許して

ながもんのパジャマ
猫→兎→パンダ→おにぎり→苺

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