異界食らいし蛇   作:お料理研究家サー・ザウザー・ハンバーグ

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変なクロスオーバーです。よろしくお願いしまーす。

1話だけ1万文字書きます


身請け先はボーダー①

 ああ、と思った。

 何処の世界に行ったところで──武器はなくなりはしないんだって。

 

 この世界も。

 あの世界も。

 何も変わりはしない。

 

 弾薬の代わりに未知のエネルギーが代替して。

 それを使うための武器や兵器が生産され、

 兵員を揃えて徒党を組んで、エネルギーを巡って奪い合う。

 

 僕は、武器を巡る全ての奴等が憎い。

 武器を作る奴も売る奴も使うやつも。

 全部が憎い。

 

 .....なら。

 ここではないどこかに。

 人が暮らしているどこかの世界に。

 

 あるのだろうか? 

 僕が何も憎まずに暮らしていける場所が。

 武器を手にするやつも武器で殺される人も、誰一人としていない世界。

 

 .....少なくとも、ここにはなく。

 

 今判明している、異世界にもないらしい。

 

 この世はかくも残酷な世界だ。

 

 

 西アジアの某国某所に一つの基地がありました。

 

 基地にいた兵員と、その場所で交渉を行っていた武器商人が死にました。

 いや。

 殺されました。

 

 たった一人の少年兵によって。

 

「──どうですかミスター忍田。この少年。非常に素晴らしい人材だ。ここで使わないなら僕の私兵として運用したいくらい。どうですかね」

「.....」

「無視はよくないですよ。僕等は貴方たちのスポンサーだ。──まあ貴方たちが軍事産業のスポンサーを持つのは大問題だろうから、系列の広告企業からの出資という形にはなっていますが」

「一つ聞きたい....何が目的だ?」

「目的なんてものは何も変わらないよミスター。──僕等は、貴方たちが持っているトリオンというエネルギー。それを用いた兵器に将来性を感じている」

「....トリガーを。我々以外が使用することは無い...!」

 

 銀髪碧眼の白人の男は、忍田の声に両手を上げてまあまあと制する。

 スーツの襟を正し、出された茶を啜って、笑っていた。

 

「いえいえ。解っていますよ。所詮僕等はスポンサーであって株主ではない。貴方たちを応援することはできても方針を変える事は出来ない。貴方たちがトリガーを徹底して秘匿する立場に置くならば、僕等もそれに口を出すことはできない。──でも。それでも僕等が貴方たちにお金を出している理由が何なのか。教えてあげましょうか?」

 

 その時の──キャスパー・ヘクマティアルの笑みは。

 悪魔のよう、ではない。

 まさしく悪魔そのものであった。

 

「どうせいつか.....貴方たち如きたかが一個の民間組織で、この異世界人の侵略を収束させることができずに瓦解する時が来る。そう確信を持っているからこそです。その時になれば──我々と貴方たちとの関係が、スポンサーからビジネスパートナーとなる。そう自信をもっているからこそ、です」

「....」

「このトリガーは。いずれ潤沢な資金を持つ組織が流通を整え、訓練され格式化された兵隊が使用し、異世界人との戦争に使用される。その未来を確信してのものです」

「.....そんなことはさせん」

「そうですか? ──元々貴方たちの組織は、十数人ばかりの少人数の組織だったそうですね。それが何故、ここまでに巨大な組織になったのですかな?」

「それは....!」

「仲間が死んだからでしょう? そして、ミスター城戸が人を集めなければやっていけないと確信をしたからでしょう? より巨大で、資金があって、人材も集められる組織にしなければならないという、そういう判断をされたからでしょう」

 

 ならば、と。

 キャスパーは言う。

 

 いずれ。

 またこの先も──様々な問題が立ちはだかっていくだろう、と。

 今はまだ。

 異世界人が侵略する『門』が三門市に限定されている。

 誘導用の機材が上手く作用しているから。

 だが敵が、その誘導機への対策をしたらどうなる。

 この先、トリオン回収のために攫われる市民の数が増えればどうなる。

 敵の数が増えれば? 

 基地を落としかねない程の戦力が襲い掛かってくれば? 

 

 より大きな人材が必要だ。

 より大掛かりな研究が必要だ。

 より潤沢な資金が必要だ。

 

 その為には? 

 何が必要か。

 

 ビジネスが必要なのだ、と。

 そうキャスパーは言う。

 

「まあ。この少年は我々からのプレゼントです。──彼はとても有用なサンプルケースとなるでしょう。なにせ。潤沢なトリオンがあり、そして確かな戦闘力があり、何より若い。きっと貴方たちの力になってくれるはずだ」

「何故.....この少年を我々に?」

「スパイさせようとは思っていませんよ。スパイするにもそれ相応の人材が必要ですからね。──ただ興味があるんですよ。彼が培ってきたものが、トリガーという兵器にどれだけ適応できるのか。能力を活かせるのか、それとも殺してしまうのか.....。これから先、実際の兵員がトリガーを使う際の、非常に強いサンプルケースとなってくれるであろうと。それだけですよ」

「少年兵...」

「少年兵であるが、心優しい人物だ。なにせ、赤の他人の子供を兄弟と呼び、彼等を守るために基地の人間を皆殺しにしたんだ。──武器を憎みながら、それでも武器を取らざるを得ない。そんな人物だ」

「....」

「そして.....君たちが使わないというなら。喜んで僕が使わせてもらう。彼の戦闘力はとても魅力的だ。戦場で頼りになる力を全て備えている」

 

 .....この男。

 

 つまるところ言外に、こう伝えているわけだ。

 お前らがこの少年を使わなければ.....また人殺しの世界に連れていくのだと。

 

 少年兵だろうが何だろうが関係ない。

 武器商人にとって、人を殺せる能力は確かな宝なのだ。

 

 ──ああ。

 

 この世界には。

 こういう奴等もいるのだ。

 

「....一度、この件に関しては持ち帰らしてもらう。最終的には城戸司令が判断する」

 

 忍田の心のうちは決まっていた。

 それはそうと、一度トップの城戸にはきかせなければならないだろう。

 

 しかし。

 

 .....組織を設立し、スポンサーを募るという事は、こういう事か。

 

 本当に厄介この上ない。

 

「これは.....唐沢さん辺りにも報告をしなければならんな」

 

 はぁ、と一つ溜息を吐いて。

 忍田真史は頭を抱えていた。

 

 

「で。結局受け入れた訳なのですね」

「だな。揉めに揉めたが、結局は城戸司令の鶴の一声だ」

 

 界境防衛組織──略してボーダー。

 繰り返される異世界人である近界民の対処の為に設立されたこの組織に、『訳アリ』な人材が入った。

 その人材は、現在訓練の真っ最中。

 その様を──東春秋と風間蒼也が見ていた。

 

「使い物になりそうですか?」

「流石は、元少年兵。探知追跡、隠密の訓練ではもうずば抜けている」

 

 その少年は、ボーダーから支給される武装である『トリガー』の使用感に違和感を持っているのか。彼自身が選んだ武装である突撃銃の命中精度が少々低い。とはいえ、構えや撃つ際の照準の速さは目を見張るものがあり、慣れれば大いに改善されるだろうと東は見ている。

 

 しかし。

 隠れる・追う・動くの三分野において──C級ではもはや敵なしのレベルに至っていた。

 

「元山岳兵だと聞いている。市街での訓練が主なこっちとは勝手が違うだろうに、よくやるものだ。──特に隠密行動は上位の狙撃手でも運用できるレベルだ。素晴らしい」

「....」

 

 西アジアのとある国。

 彼はまず村を焼かれ両親を殺されることとなる。

 最新の武器を手に持った略奪者によって。

 

 その後彼は、油田開発地域に近い軍事基地の中で山岳兵として働くこととなる。

 基地で保護されている孤児の世話をしながら、少年兵として。

 

 その後の顛末は──聞かされていない。

 

「東さんとしては....どう思っていますか。今回の上層部の決定を」

「俺個人としては、大いに興味がある。──実際の戦場を体験してきた人間がボーダーに入る事は初めてだからな。どういう結果となるのか、是非とも見届けたい。──風間は、反対か?」

「いえ。上が決めた事です。反対はしません。.....ただ。下手にあの新入りが成果を出したとして。後続で少年兵が送り込まれるような事態にならないか。そこが心配なのです」

「ふむん...」

 

 今回。

 新たにやってきた新入りの過去は当然のことながら伏せられているし、過去についてはみだりに話すなとも伝えている。

 しかし。

 それでも──彼がここでA級レベルの成果を上げれば。あの厄介なスポンサーが、また少年兵を送り込んでいく形になるかもしれない。

 

 そうなると。

 最早この組織自身が、どういう意義で存在しているのかが解らなくなってくる。

 ここはあくまで──近界という脅威を対処する為の組織であり、少年兵の育成機関ではないのだ。

 

 ”金を出してやっているのだからこちらの要望を通せ”という前例が通って。

 スポンサーが増長する事態も考えられる。

 

「それに....話を聞く限りにおいても、少年兵の中でも、とびっきり能力が高い人材を送り込んでいるのも間違いない。そこもまた不安なんです」

「言いたいことは解る」

 能力の高い人材を送り込む、という行為自体が。

 その後に何かしらのリターンがあると確信しての行動であろうから。

 

「....とはいえ。我々にできるのは、事態を見守っていくことしかない訳ですが」

「...」

 

 少年の名前は。

 ジョナサン・マル。

 通称、ヨナ。

 

 出身地も経歴も年齢もあらゆる全てが抹消され上書きされたその少年は──無表情のまま射撃訓練を行っていた。

 

 

 褐色の肌に銀髪を携えた少年。

 誰よりも小柄なその少年は──されど誰よりも速く道を踏破していく。

 なんか空を飛んでいる怪物。

 

 ──これから、あんな怪物と戦う事になるんだ。

 

 地を這う蜘蛛のようなフォルムの怪物。

 首がやたらと長くて大きな怪物。

 

 その位置を補足しながら、タン、タン、と進んでいく。

 

 あの怪物も。

 個々とは違う別の世界の兵器だという。

 

 要は。

 ミサイルなんだな、と少年は思った。

 

 探知機をつけて自動的に敵国に送り込んで被害をもたらす兵器。

 送り込んだ先で爆発するか人を攫うかの違いでしかない。

 あの怪物は、そういうものだ。

 

 機械だというなら。

 その挙動を疑わなくていい。

 

 ならば簡単だ。

 奴等が気付かないであろう場所を選定し、さっさと進めばいいだけ。

 

 地形を見れば解るではないか。何処が逃げやすくて見つかりにくい場所か。

 

 隠れるのは得意だ。

 生い茂る草木の代わりに大きな建物がそこら中にあって、しかも相手は大きくてこちらが見つけやすい。

 人間を相手にしている方がよっぽど面倒だ。

 

 隠密訓練を終えると、今度は射撃訓練を行う。

 単純に、今まで使っていた武装と使用感が違う。

 

 軽いのだ。

 今まで、突撃銃を持つとその重さが如実に感じられた。金属特有の冷たさと共に、その重さを扱うための訓練を続けてきた。

 

 ただ。

 今自分が持っている肉体は──トリオン体という別エネルギーで換装した肉体だ。

 

 ここに内蔵されている肉体の機能は、とてつもなく向上していて。

 銃を持つのも、非常に軽い。

 

 いままで重い銃を扱う感覚で照準を向けると、ブレる。

 

 まあでも。

 使用感はこれから慣らしていけばいい。

 このくらい、どうってことはない。

 

「.....ねえねえ、君」

 

 訓練をしている途中。

 声をかけられる。

 

「君、すんごく可愛いね。同期? 同期なの? うわー、嬉しいな」

 

 ひどく、明るい声。

 振り返ると、ブラウンの髪色の女が、同じ訓練着を着てそこにいた。

 

「.....誰?」

 少年は問いかける。

 

「チナツだよー。──君は?」

「....ジョナサン・マル」

「おお! 外国の名前だ。ねぇねぇ、君のことなんて呼べばいい?」

「....ヨナでいいよ」

「解ったよ、ヨナ。私の事はチナツねー。来年から高校生なのだ」

「....高校生?」

「そう、高校生」

 

 高校生、って何だろう。そう疑問に思うヨナを置いてけぼりに、チナツはどんどん話を進めていく。

 

「もうずっとここら辺の雑魚の相手をしていてさ。ずっと退屈だったんだよね~。ねぇねぇ、一緒に個人戦やらない?」

「....ごめん。個人戦は、もうちょっと射撃に慣れてからでお願い」

 

 ボーダー内において、ヨナは現在C級隊員だ。

 Cは訓練生。Bからが正隊員。現在はまだ給与も発生していない候補生。

 

 それ故に。ヨナは自分の武装を使いこなすまでには出来るだけ個人戦は避けていた。これは元々の感覚もある。ここで敗北しても仮の身体であるトリオン体が壊れるだけで生身の肉体自体は平気である事は頭では理解しているが。それでも得物を使いこなせないまま戦いに赴く恐怖が先立つ。

 

「射撃が難しい?」

「うん」

「そっかそっか。──あ、でも。ヨナ君とっても姿勢ががっちりしてる」

「慣れてるから」

「慣れてるんだ~」

 

 チナツはヨナの首に両手を交差させてヨナの足の付け根辺りを触る。

 

「多分だけどヨナ君、姿勢自体は凄くいいんだけど。その姿勢になるまでの動きに余計な力が入っていると思うんだ」

「余計な力?」

「そう。なんか、ヨナ君銃を構えるとき、えいや、って感じで重いものを持ち上げるような動きをしているんだ。トリオン体にかかればあんな銃なんかもっと軽く動けばいいのだ。かるーく」

 

 そう言うと、ヨナの足の付け根に力を加えて射撃体勢の時の足の構えをチナツは変えさせる。

 

「これで撃ってみて」

 

 ヨナは頷き、その通りに撃ってみる。

 

「.....おお」

 

 照準もブレず、力も抜け、滑らかに構えることが可能となった。

 

「さっすがヨナ君なのだ。これはもう大丈夫っぽいね」

「....ありがとう」

「お礼を言われた。いい気分なのだ!」

 

 首に腕を交差させたまま、チナツはぐりぐりと顔をヨナに押し付けていた。

 

「君、今ポイント何点?」

「えーと」

 手の甲に刻まれたポイントは.....3700。

 

「これが4000になるとさ、B級隊員の仲間入りなんだって」

「うん。知っているよ」

「でもすごいね。今まで個人戦やっていなかったのに、こんなに早くポイントを稼いでいたんだ。.....まあ、とにかく」

 

 ニコリと、チナツは笑う。

 

「あたしと戦うのは後にして。雑魚共に勝負吹っ掛けていって.....さっさとB級に上がっちゃおう。そして、一緒にトリガーセットを考えるのだ!」

 

 

 その後。

 

 チナツと共に積極的に個人戦を重ねたヨナは、着実に勝利を重ねていった。

 色々と危機感もあったのかもしれない。

 

 このチナツ。C級でもかなりのポイントを稼いでいた三人組を言葉巧みに誘い、”あたしかヨナのどちらかにタイマンで勝てば生身に戻って下着を見せる”という約束を取り付け、三人ずつ全員とそれぞれ戦ったのだ。

 

 その唐突な提案の感情にヨナまで含まれてるともあって、彼もまた必死にならざるを得なかった。

 

 その後三人ずつに完勝した後、それぞれ解散し相手を見つけて勝負を仕掛ける事とした。

 ヨナはその後数人と戦い、無事4000ポイントを奪取。B級昇格を決めた。

 

 チナツであるが。

 

「....」

 頭を抱えて。

 天を仰いでいた。

 

「どうしたの?」

「....負けたァ!」

 

 うぎぃー! 

 呻きながら地団駄。

 

「負けたんだ....」

 

 それは中々。

 先程、ちらりチナツの戦いを見ている限り。──自分には決してできない戦い方をしていると、そう感じていた。

 

 ぴょんぴょんと建造物の間を跳ねまわり、飛び跳ねながら銃弾を撃ち放つ。その弾丸の命中精度が高い事高い事。まるで大道芸のようなその戦いに、かなりの衝撃を覚えていた。

 

「なんかさ! 十本勝負の前半は私が有利だったの! 実際に4本取れてたのだ! でも....休憩挟んだ後半の五本で全部巻き返された!」

 その相手は、刀剣型トリガーである弧月を手にした、眠たげな眼をした男だったらしい。

 飛び跳ねるチナツの軌道を冷静に見極め着実に距離を詰め、ジャンプするタイミングを見透かされ斬り伏せられたという。

 

「....あー、もう腹立った! ヨナ君、ちょっと待ってて! すぐにポイント稼いでくるから」

「うん。頑張って」

 

 ふわあ、と一つ欠伸をして。

 ヨナは一つ身体を伸ばした。

 

 

「ジョナサン・マル君。──君の入隊を認めよう」

 

 一週間前くらいだろうか。

 ヨナは日本のボーダーという組織に在籍することが決まった。

 

「もう伝えられているかもしれないが。HCLI社は、君をボーダーに在籍させることにしたらしい。曰く、”スポンサーの善意”との事で」

 

 大きな傷が頭から口元まで走っているその人は。今までヨナが見てきた大人たちとはまた違った人物であった。

 目はどこまでも冷たいが。

 それでも、強い意思を持っている。

 

 キャスパーのような笑みも浮かべていないし、司令のような優しさも感じないし、副司令のようなろくでなさも感じない。

 機械のようだ、とヨナは思った。

 

「今回の入隊をもって、HCLI社は君を放棄するとの事だ。三人の孤児についても、ボーダー提携の福祉施設に入れる。──君は君で、ここで頑張りたまえ」

 

 放棄? 

 そんなわけがない。

 キャスパーが、放棄する為に拾うなんて、非合理的な判断をするわけがない。

 何かしらの意図があるだろう。そうに決まっている。

 

 ──だって。自分の両親を殺したのも基地で武器を売ろうとしたのも全部全部アイツの気色悪いほどの意図があった。

 

「所詮はスポンサーの善意で送られた身だ。辞めたければ辞めればいい」

「....」

 

 辞めて。

 どうなるのだろうか。

 

「だが──ボーダー提携の福祉施設に入った孤児の三人は、君が入隊する事と実質対価で入れられている。君が辞めた時は、あの孤児の処遇はHCLI社が決定する」

 

 成程。

 実質、辞めるわけにはいかないという訳だ。

 

「では。君が培ってきた経験を十全に活かしてくれることを期待している。──入隊おめでとう」

 培ってきた経験。

 人殺しの経験。

 大嫌いな武器を素早く上手に使う経験。

 

 こんなものが活かされることを期待される世界。

 

 なんだ。

 同じ世界じゃないか。

 

 

「ふん。一応、貴様の後見人という事になった鬼怒田本吉だ」

 

 その後。

 実に恰幅のいい中年の男と会う事になった。

 

「本当はお前のような正体も解らん奴を入れるのは反対だったがな.....。城戸司令の決定ならば従うほかない」

 

 いいか、と鬼怒田はいう。

 

「ここに来たからには問題行為を引き起こすことは勿論のこと。隊員として恥ずべき行為も当然にしてはならぬ。──まずは最低限の常識と教養を叩き込まんといけんな」

 

 何となくだが。

 この鬼怒田という男から発せられる圧は怖くなかった。

 怖がられようとしてやっているな、という事が簡単に解ったから。

 

「な。お前九九は出来るのか? 国語は? ──そもそもお前計算できるのか。おい。この配線の数を数えてみろ。いっぱい? ふざけるなちゃんと数字として数えろいっぱいじゃダメに決まっているだろうああもうそこからかこれだから少年兵は.....!」

 

 取り敢えず。

 非常にお節介な人が、後見人になるらしい。

 

 

 そうして。

 ヨナのボーダー生活が始まった。

 

 ──キャスパーから特段、何かを言われたわけではない。

 単純に、必死に上を目指せとしか言われていない。

 

 何が狙いなのか。

 全くわからないけれど。

 

 ──それでも。

 ここで自分がいることで子供たちの幸せが担保されていて。

 そして、以前の環境よりも幾分かましな環境で働くことが出来る。

 

 それだけで、ヨナは現状を良しとした。

 

「──取り返した!」

 

 その後。

 取られた分のポイントを(他のC級から)取り返し。

 ふんす、とチナツは胸を張った。

 互いに4000ポイントを取り、諸々の手続きを終えた次の日。

 

「よーやく。これでトリガーセットを組むことが出来るのだ。ちなみにあたしは、こんな風にしたよ」

 

 トリガーは。

 正隊員(B級)に上がった際に渡される武装で、メインとサブそれぞれ二つ、4×2のトリガーをセットすることが出来る。

 C級では一つの武装しか装備できず、B級になれば一気に戦略に幅が出来る。

 

 そうして──チナツのトリガーは。

 

 メイン:アステロイド(拳銃) メテオラ(擲弾銃) シールド バッグワーム

 サブ:アステロイド(拳銃) ハウンド(拳銃) シールド グラスホッパー

 

 という構成であった。

 

「....どれもこれも解らないや」

「えー。説明受けなかった?」

「アステロイド、っていうのが普通の銃弾だっていうのは知っているよ。ハウンドだとかメテオラだとか、全部解んないや」

 

 そうかー、とチナツは言うと。

 なら仕方がないと一つずつヨナにトリガーの説明を行う。

 

 

 その結果

 メイン:アステロイド(突撃銃)空き シールド 空き

 サブ:拳銃(アステロイド) スコーピオン シールド バッグワーム

 

 これで、決まった。

 

「えー。空きがあるよぉヨナ君」

「うん、これでいい」

 

 ヨナが少年兵時代に持っていた武装をそのまま移したようなトリガー構成だ。

 突撃銃、拳銃、ナイフ。

 

 これでいい。他の選択肢を生むと、一瞬の判断に迷いが出てしまう可能性がある。

 

 ヨナは一つ、満足気に頷いた。

 

 

 木虎藍という女は至極単純かつ明快な女である。

 同年代以上に対等な立場を求め。

 そして年下には慕われていたい。

 

 プライドの高さと対人関係の充足という二足の草鞋を履き均さんと日々苦闘を続ける彼女にとって、

 

「ごめんなさい、お姉さん。一つ聞いてもいい?」

 

 自分よりも明らかに小柄な少年──それも明らかに留学生──しかも可愛い顔立ちをしている──から何事かを聞かれるという事態を前にして何をするのか。

 決まっている。

 

「ええ、大丈夫よ。どうしたのかしら?」

 

 虫も殺せぬ慈母の笑み(と本人は思っている)を浮かべ、優しく手を差し伸べるのだ。

 それこそが木虎藍であり。それこそが彼女の欲求の充足方法であるから。

 しかも。

 ──この子、私よりもちょっと後に入った子じゃない! 

 彼女はヨナを知っていた。

 隠密訓練と探知訓練を図抜けたスピードで終わらせたことで話題になっていた子だ。外国人であることも相まって何か事前に訓練を受けてきたのか、とか──そんな風に。根も葉もないうわさが立っていたとか。

 そんな! 

 とても! 

 優秀な子が! 

 自分を、頼ってきている! 

 高い自尊心が満たされ、対人欲求不満感が解消されていく心地よさが、全身に広がっていく! それはまるで麻薬のように! 

 

「昨日。B級にあがったんだ」

「うんうん」

「B級に上がったら、防衛任務ってやつに出なきゃいけないんだよね。僕は部隊を組んでいないんだけど、どうやって出るの?」

 聞かれた内容に。

 木虎は、とても、とても、優し気な笑み(と本人が思っている)を浮かべて、丁寧に返事を返す。

 

「えーとね。後から多分、忍田本部長辺りから呼び出されて、シフトを決める事になると思うわ」

「シフト?」

「スケジュールね。どの時間帯に防衛任務を入れられるのかを本部長に伝えるの。そのスケジュールに沿って、防衛任務をこなしてもらう事になると思うわ」

「ふむふむ。なるほど...」

「その時に時間が被っている部隊と合同で、防衛任務につくことになるかな」

「....なるほど。ありがとう、お姉さん」

 

 ありがとう、お姉さん──。

 

 何と。

 何と、心地よい言葉だろうか。

 

「い、いいえ。当たり前の事よ。気にしなくても大丈夫。防衛任務頑張ってね」

「うん。──僕の名前はジョナサン・マル。ヨナ、って呼ばれてる。お姉さんは?」

「私は木虎藍よ。私もこの前までC級だったの。立場も近いだろうから、何でも聞いてね」

「うん。木虎さん。ありがとうございした」

 

 ああ。

 ここまで、年下とパーフェクトコミュニケーションを取れたのはいつ以来だろう。

 

 年上との話し方から後輩から怖いという印象を持たれ続け。

 いざこの間年下の女の子に話しかけたら冷たい態度を取られ。

 巡り巡った中──この子は理想的なコミュニケーションをとってくれた。

 なんと。

 なんとありがたい事か。

 

「お、木虎じゃん。何やってんの?」

 

 して。

 背後より。

 

 来た。

 来てしまった。

 

 ──年上の男が。

 

「....何ですか米屋先輩」

 声色が百八十度変わる。

 冷たい声音だ。

 

 カチューシャで髪をオールバックに纏めた男が首を竦める。

 

「いやぁ。話題の子と話してんなーって。気になっただけだよ」

「そうですか。それでは、ここで失礼しますので。──あ、ヨナ君。また今度ね」

 

 ヨナは。

 その声音の変化を──首をかしげながら聞いていた。

 

「よ、おチビ君。木虎と何を話していたの?」

「防衛任務の事を聞いていたんだ。凄く優しく教えてくれた。──お兄さん、木虎さんに嫌われているの?」

「嫌われてる、っつーよりかは多分対抗心がマシマシなんだろうな。年上だったらみんなそうなる」

 

 ふーん、とヨナは呟き

 

「へんなの」

 

 と。

 そう呟いたのでした。

 

 

「さて」

 

 米屋は。

 そのままがしりとヨナを捕まえ、担ぐ。

 

「....何をしているの?」

「B級昇格おめでとう、おチビ君」

「うん。ありがとう」

 

「祝いにだ──個人戦やろうぜ」

 

 実に単純な理屈であった。

 新人で目立った奴がいて、B級に上がってきたのだ。

 

 気になる。

 気になったのならば、知りたくなる。

 

 知る方法は何なのか。

 

 米屋陽介は、こう言う。

 

 ──個人戦をすればいい、と。

 

 ここにはいくら斬られても撃たれても死にはしない身体があって。

 どれだけ戦っても疲労もすることもない。

 

「....それはいいんだけど。おろして」

「まあまあ」

 

 まあまあ。

 まあまあ。

 

 ....逃げられるわけにもいかないし持ち運ぶのも何だかおもしろいので。

 何も気にせず、米屋陽介はそのままヨナを運ぶこととしたのであった。




Q 何でヨナ日本語喋れるの?
A 近界民も日本語喋れるからセーフ

Q チナツはボーダーでもノーパンなん?
A ノーパンのまま換装したら弾が当たるようになったから生身はノーパンです

Q 何でこんなクロスオーバーしたん?
A チナツ可愛いしヨナも可愛かったから....。

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