異界食らいし蛇   作:お料理研究家サー・ザウザー・ハンバーグ

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鉄壁の暴走機関車

 今からおよそ三年前だろうか。

 三門市には地獄が舞い降りた。

 

 怪物が闊歩し町を破壊し人を攫う。

 壊れていく家屋。火の手が上がり見える彼方の煙。

 銃声だったり破壊音だったり。悲鳴だったり断末魔だったり。

 

 抗ったり絶望したり死んだり燃えたり壊れたり。

 

 色々な音が、そこにあった。

 

「──あは」

 

 女の子はそこにいて。

 家族もみんな死んで。

 周りの人たちも逃げ出していて。

 

 ──なんて、いい音だろう。

 

 その光景をすべて感じ取って。

 壊れたのだろうか。

 それとも元から壊れていたのだろうか。

 

 その忙しない音のすべてが──楽団に見えたのだ。

 

「とっても──いい音──」

 

 絶望に抗い絶望に塗りたくる破壊と破壊と化物の協奏曲。

 

 たった一つのオーケストラ。

 

 少女は思った。

 でも──今の自分はただの観客でしかない。

 

 聞くのもいいけど。

 それでも──自分もこの楽団の一員として楽器を吹いていたい。

 

「あ。今の──とってもいい音だなぁ」

 

 発砲音が一つ聞こえた。警察が化物に向かって撃ったのだろうか。

 絶望の中でもしっかりと主張するその乾いた音に──少女はうっとりと微笑んでいた。

 

 

「──あ、ヨナ君。こっちなのだ~」

 

 米屋に”挨拶をする”と言われ着いてきた矢先。

 ぶんぶんと手を振るチナツの姿があって、

 その周りには、複数の隊員の姿があった。

 

「おー、何か見覚えのある人たちが集まっているなぁ。あ、双葉じゃん」

 寝癖なのだろうか。髪が跳ねている小柄な少年──緑川駿。

 

「....何でここにいるのよ、駿」

 髪を両脇に結んだ、いかにもクールそうな少女──黒江双葉。

 

「....ああ、皆B級に上がれたんだな」

 眠たげな眼をしながら姿勢を伸ばしている、武士然とした青年──村上鋼。

 

「....何でオレまで集められたんだ...」

 伏し目がちに目を床にやり、壁際に腰かける少年──絵馬ユズル。

 

「えーと....皆、同期の子だね。親睦会でもするのかな?」

 何となしにおどおどしているように見える、優し気な目つきをした青年──来馬辰也。

 

「げ。東さんいるじゃん....」

 耳を覆うカバー付きの帽子をかぶった、元気そうな少年──別役太一。

 

「お、おい....木虎がいるぞ」

「本当だ...」

 ニット帽の少年と、癖っ毛の少年──茶野真と藤沢樹。

 

 そして。

 

「あ。お姉さん」

 

 そこには──木虎藍の姿もあった。

 

「米屋。連行ご苦労」

 

 その背後には。

 鋭い目つきをした.....小柄な少年? と。

 肩までかかる髪をした男。

 

 

「皆。集まってくれてありがとう。──俺は狙撃手の教官をしている東という。そして、こちらが」

「風間だ。A級風間隊の隊長をしている」

 髪の長い男と、少年? がそう自己紹介をするとともに。

 

「恐らく皆も薄々気付いているとは思うが。ここに集まってもらった皆は、つい最近までC級だった者だ」

 薄々気づいていたものは一つ頷き、全く気付いていなかった者は無反応で返す。

 その様子に東は苦笑しつつ、言う。

「今年の新人は本当に粒ぞろいでな。有望な新人が数多く入ってきて、こちらも本当にうれしい。──だからこそ、一度現時点での皆の実力を計りたい」

 

 そこで、と東が言う。

 

「皆の親睦を兼ねて──部隊戦をしようではないか、という事で。ここに集まってもらった」

 

 と。

 

 ふーん、とヨナは呟いた。

 

 

「部隊は....どう分けるかな。今ここには──」

 11人が集まっている。

 力量も年齢もそれぞれバラバラな11人。

 ふむん、と東は呟く。

 

「3部隊に分けるか。3・4・4で」

「部隊わけはこちらでやりますか」

「だな。ある程度戦力差も考えて──」

 

 東と風間の独断と偏見に基づく部隊分けの結果──。

 

 A ヨナ チナツ ユズル

 B 木虎 茶野 緑川 太一

 C 村上 来馬 黒江 藤沢

 

 ....という形となった。

「オペレーターはどうします?」

「そうだな──」

 そして。

 オペレーターは、Aに国近、Bに月見、Cに三上が──それぞれの隊のオペレーターとしてつくこととなった。

 

 その旨が通告され、それぞれブースの控室に入っていく。

 

「私達だけ3人!」

 

 そして。

 Aチームの中。チナツは実に──

 

「つまり、....ほかのチームより多く殺せるのだ!」

「おお~。物騒だね~!」

「物騒な発想だね...」

 オペレーターの国近と、部隊に編入したユズルが同じ感想を述べる。

 .....何というか。バトルジャンキーとも少し趣が違う物騒さ加減だ。

 

 チナツはそう言いながら、笑っていた。

 それはそれはとてもとても楽しそうな笑みで。

 

 その様を、あまりやる気のなさそうな表情で、ユズルは見ていた。

 

「ふんふん。これはとってもいい音が聞けそうなのだ。──ユズル君のポジションは何かなー?」

「....狙撃手」

「おお。狙撃手! いいねいいね追い込んでスパ、と殺せる。狙撃手大好き」

 

 よーし、とチナツは声を上げる。

 

「作戦は──私が暴れて敵を寄せ付ける! 集まった敵を私たち三人でバンバンバン! 以上!」

「Bにも狙撃手の別役君がいるよ~。大丈夫~?」

 ゆるゆる、とした声で国近が問う。

 その言葉に、グッと親指を立てる。

「大丈夫大丈夫。だって──」

 

 ニッと笑んで。

 チナツは言う。

 

「狙撃手の位置は、あたし勘で解っちゃうから!」

 

 と。

 変わらない声音で、恐ろしいことを呟いた。

 

「だから、何の心配することはナシ。──暴れて暴れて、いい音楽を鳴らそうよ」

 

 

「気候条件はそのままで──マップはランダムに決める」

 

 東は、ブースのマップ設定をアトランダムにし、そのまま転送を待つ。

 選ばれたマップは──。

 

「....ふむん」

 

 市街地B

 

 範囲が広く、ビルをはじめとした背の高い建造物が多く立ち並ぶマップが選択された。

 

「それでは。好きに戦ってくれ:

 

 

 ヨナの目の前には、高層ビルディングの室内から見える景色であった。

 

「ウワァ、高いな....!」

 高度50メートル近いビルディングからの景色は、ヨナの人生の中でも数度もない景色であった。数秒、その景色に心奪われる。

 

「ふっふっふー。高いでしょ~」

 その様子を責めることもなく、にこやかに声をかけるは、オペレーターの国近。

 

「あ、ごめんなさい...」

「いいのだよ~。こういう反応をする子は実に珍しい。可愛かったからあとで存分に見せてあげようじゃないか~」

「お姉さんは、状況を知らせてくれる人だよね」

「そうだね~。私はヨナ君含めて、部隊に情報を届ける人なのだよ~。──あ、ヨナ君。ここから南方に六十メートル位に反応があるね。今からマーカーをつける場所に向かって、捕捉をお願いね~。基本、開幕でバッグワームつけない人は強い人だから、多分木虎ちゃんか村上君かな? 気を付けて移動してね」

「わかった」

 

 ヨナは国近の指示を受けると、すぐさま切り替え走っていく。

 

「....」

 

 ビルを出て、周囲を見渡す。

 狙撃の危険性のある通りをある程度チェックし、周囲に気を配る。

 

 ....大丈夫だ。

 嫌な()()がしない。

 

 サッと身を翻し、ヨナは突撃銃を構えながら走り出す。

 

「──着いた」

「おっけ~。誰が見えるかな~」

「前髪が綺麗に揃ってるお姉さん。部隊と合流するつもりなのかな。建物の間を抜けて走ってる。──撃っていい?」

「うん。やっちゃえ」

 

 構え、照準を合わせ、──引金に指をかける。

 

 開戦の合図であった。

 

 

「──この銃声。ヨナ君だね。出遅れちゃった~」

 ニコニコと笑みを浮かべながら、両腕に拳銃を握り──チナツは走っていく。

 

「うーん。とりあえず、反応があるまでは銃声がある方向に走っちゃおう」

 

 通りを堂々と横切るその姿を──茶野と来馬が捕捉していた。

 

「うわ。マジかよ....両手に拳銃もって、シールドすら張ってないのかよ」

「....チャンスだね。ここで勝負をかけよう」

 

 距離が近く、合流できた両者がそれぞれの得物を構える。

 藤沢が前に出て。

 来馬が建物の影から援護体勢。

 

 その態勢が出来た瞬間に。

 

 チナツは動きを止める。

 

「──見つけた」

 

 くるり身を翻し、拳銃を構え──藤沢へとその銃口を向ける。

 

「な.....!」

 先に捕捉したのはこちらの方が先だったはずなのに。

 いざ襲撃を書けようとしたその瞬間に──チナツは瞬時に勘付いた。

 

 響く銃声と共に、チナツと藤沢の弾丸が交差する。

 チナツの弾丸は藤沢の右脇腹と足を貫き、藤沢の弾丸は後ろを通り過ぎていった。

 銃口の向きから上体を反らし回避しながら──チナツは更なる弾丸を藤沢に叩き込まんと銃を向ける。

 

「──藤沢君!」

 背後より、援護。

 突撃銃を構えた来馬の掃射。

 さしものチナツも突撃銃の掃射の正面に立つ事は出来ず、その場よりぐるり身体を回しながら跳躍。弾幕の掃射範囲から逃れる。

 跳躍後の着地の硬直すら生み出さず二丁を構え両者に弾丸を浴びせつつ、チナツは付近の建物の裏手側に回る。

 

「うーん。二人もいるとうっざいなぁ。──そうだ」

 

 拳銃からトリガーを変更する。

 

「──チナツキャノンスペシャル」

 そう勝手に名前を付けた──メテオラ擲弾銃を取り出す。

 

「ぶっ飛べ~」

 

 本来この銃は。

 ある程度の距離をとっての間接射撃を主な利用法とするものであり──断じて数十メートル先の相手に放つものではない。

 

 下手すれば誘爆・自爆の恐れすらもあるというのに。

 全く恐れることなく──彼女はグレネード型のメテオラを両者に叩き込んだ。

 

「え──あれって」

「あ、うそ」

 

 ボールが頭上に投げ込まれるような低空の軌道から。

 ──メテオラがやってくる。

 

「ちょ、マジかようそ──」

 

 爆撃音と破砕音。

 音と共に視界に映る爆炎に飲み込まれ──藤沢樹は、緊急脱出。

 

「藤沢君...! くそぉ!」

 

 爆撃に足を取られ、削られた来馬も──何とかその場を逃れんと必死に走る。

 

 が。

 

 その頭上に、影が見えた。

 

「逃がさないのだ~」

 

 空を飛んでいた。

 

 四角の陣を張り、そこに足を乗っけて──空中を横切りながら、ぼす、ぼす、ぼす。三連射のメテオラ榴弾。

 その全てが来馬の頭上に降り注ぎ──。

 

 シールドを張るもむなしく、爆炎に飲み込まれ──来馬辰也もまた、緊急脱出。

 

「ふふん」

 

 爆撃の音を背後に、通り過ぎる。

 この感覚が、本当に気持ちいい。

 

 四角の陣──グラスホッパーの高速移動を終え、着地する。

 その瞬間。

 全身がそば立つような感覚が走る。

 

「おっと」

 

 着地の瞬間を狙った狙撃。

 それを察知してか、すぐさまフルガードに切り替え彼方からの弾丸を防ぐ。

 

「はーい。国近さん。今の弾道解析こっちに送ってー。撃ってきたやつ、殺しに行くから」

 

 ニコニコ笑みを浮かべながら。

 チナツはまた──擲弾銃を構えていた。

 

 

「....」

 一見。

 チナツの戦いは無鉄砲に見える。見えるのだが。

 

 危機察知能力が尋常ではない。

 まるでアンテナが張られているかの如く敵の位置捕捉と攻撃の察知を行うものだから、あれだけ暴れてもすぐさま対処が行えている。

 

「影浦に次ぐ狙撃手の天敵だな、あの子は」

「....しかし。何と滅茶苦茶な」

「けど...機動力で面攻撃をばらまいていくタイプは、結構新しいかもしれない」

 

 ──しかし。

 心底からの笑みを浮かべ戦いに興じている、チナツの姿。

 

「あれは......市民の前に出しちゃいけないですね。根付さんが頭を抱えそうだ」

 

 その姿は。

 ──市民を守るヒーローではなく。戦いを楽しむ悪魔の姿そのもののように思えた。




チナツ

トリオン8
攻撃9
援護・防御5
機動10
技術8
射程6
指揮1
特殊戦術2

total 49
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