異界食らいし蛇   作:お料理研究家サー・ザウザー・ハンバーグ

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新たなる武器②

 結論から言うと、アイビスのスコープの取り外しは出来るとの事だった。

 

「銃そのものの改造や仕様の変更はA級の特権だが、外装の変更はB級でも許されておる。スコープの取り外しをしたいのならばすぐにやってやろう」

「ありがとうキヌタ」

「わしを呼び捨てにするんじゃないガキめ」

 

 ボーダー本部、技術室内。

 ヨナは木虎に連れられ、この場に来ていた。

 自身の決定力不足を解消するべくアイビスの装着を検討し、その訓練の過程でスコープが邪魔である事に気づいた。

 

「取り回しがしやすいようにバレルを切り詰めたりはできない?」

「そこまで行ってしまえば、本来の仕様とは別物になる。やりたければA級にまで上がるんだな」

「A級に上がれば固定給がもらえるんだよね? どうやったら上がれるの?」

「B級の部隊に入ってA級に上がるか、A級の部隊に入るか。どちらかしかない。まあ近道はA級の部隊に入れてもらう事だろうな」

「....A級。ヨースケも確かA級だったよね」

「ああ。あのバカもA級だ」

「うーん」

 

 ヨナは現在、福祉施設に入っている三人の弟妹に仕送りをしている。

 ボーダーで稼ぐ給料が、そのまま彼等にとっての将来の為の貯蓄となる。稼がなければいけない。

 そう考えると。固定給が稼げるA級に入りたい気持ちはある。

 

「.....さあて。ヨナよ」

「?」

「お前は一応、来年から中学校に行く事となる」

「学校?」

「ああ。──だからだ。最低限の知識は来年までに入れてもらわなきゃならん。というわけで」

「...」

 

 ヨナは、非常に嫌な予感がした。

 その嫌な予感に口を半開きしながら、垂れ切った眼を更に怠そうに垂らし──ヨナは鬼怒田を見ていた。

 

「勉強だ」

 

 

「お、ヨナ坊。こんな所でどうした?」

 

 個人ランク戦ブース内。

 米屋陽介は──新入りの姿を一目見ると、そんな声をかけた。

 

「ヨースケだ」

「おう陽介だぜ。お前も個人戦しに来たのか? 俺も暇してんだ。一緒にバトろうぜ」

「また今度ね。ちょっと今は、ボーダーの中を探検しているから」

「ちぇ。じゃあまた今度な~」

 

 米屋はちょっと口をとがらせつつ──ブースを抜けていくヨナの背中を見つめていた。

 

 その後。

 数分が経過した後に──今度は米屋陽介に声がかけられる。

 

「おーい。米屋」

「お。──どうしました、嵐山さん?」

 

 声をかけてきたのは──B級嵐山隊隊長、嵐山准であった。

 部隊を率いながら広報活動まで積極的に行っている嵐山隊の顔であるこの人物は、とにかく見た目がいい。顔立ちの端正さだけでなく、その表情から所作から声立ちから全てが爽やかである。恐らくボーダー隊員の中で一番一般人に有名な男であろう。

 

 その男が、少し困った顔で米屋に声をかけてきた。

 

「ヨナ君を知らないか? 鬼怒田さんが探していたんだ」

「鬼怒田さん?」

「うん。どうやら技術班で勉強を教えようとしたら、トイレ行くフリして逃げ出したらしいんだ」

「へぇ。やるじゃんアイツ」

 

 嵐山は腕を組み、ううむと一言呟く。

 

「ボーダー本部内は広い。ヨナ君が迷子になっていなければいいけど...」

「迷子になってもアイツは大丈夫だよ」

 

 成程な、と米屋陽介は呟いた。

 ヨナは──結構な問題児になる予感がした。

 

 

 ボーダー本部を歩き回る中。

 ヨナは幾つもの作戦室が並ぶ場所へとたどり着いていた。

 

「....」

 

 興味深そうに周囲を見渡す。

 確か。部隊ごとに部屋がボーダーから与えられて、そこで訓練をしたり作戦を立てたりしていると聞いたことがある。

 

「.....お」

 

 その時。

 オレンジの隊服を着込んだ青年が、周囲を見渡しながら歩き回っているヨナを見かけると──その背後から近づいていく。

 

「昨日東さんと風間さん主催のチーム戦で勝ったチームにいたろ? 名前は確か──」

 名前を思い出そうと、少し言葉を切った様子の眼前の男を見て、ヨナは言葉をかぶせる。

「ジョナサン・マル。ヨナでいいよ」

「おお。ヨナ、か。自己紹介さんきゅ。──俺は柿崎国治だ。好きに呼んでくれ」

「ん。それじゃあ、....カキザキ?」

「おう。俺もこう見えても部隊の隊長でな。あそこの部屋が、ウチの作戦室だ」

「へぇ。隊長なんだ」

「おう。いま飲み物買いに行こうとしていた所でな。ヨナも何か飲みたいものあるか? 奢るぞ」

「いいの?」

「おう。何か好きな飲み物でもある?」

「....甘いコーヒーがいいな」

「了解」

 

 その後──自販機の前に立つと、柿崎は二つ分の紙カップにコーヒーをドリンクサーバーから入れ、片側に角砂糖を幾つか入れる。

 すると、二つのカップを手に翻って元の道を歩いていく。

 

「....何処に行くの?」

「ん? 俺のとこの作戦室。どうせだったら中も見に行けよ、ヨナ」

 

 実に爽やかな笑みを浮かべて、柿崎はそう言った。

 その笑みは。

 ──かつて、基地にいた司令が、子供達を前に浮かべていた笑顔と重なって見えた。

 

「.....」

 

 そこに──嬉しいという感情も。哀しいという感情も。他の感情も。

 ないまぜになったような不思議な気分になりながらも。

 ヨナは──その背中をジッと見ていた。

 

 

 最新の兵器で武装した集団に村を襲撃され、両親が死んだ。

 そこからジョナサン・マルの人生は始まった。

 

 武器を手に取り戦い続け。

 山岳兵となり。

 油田開発地に近い、紛争地域の基地に配属となり。

 

 ──彼は、基地にいる兵員と外からやってきた武器商人含め、その全員を殺し尽くした。

 

 基地は隠れる場所が多く、その人員の配置全て頭に入っていたジョナサンにとって、それはさほど難しい事ではなかった。

 

 紛争地域だ。ジョナサンのような孤児は珍しくもなかった。

 そういった孤児を見捨てられない人間というのは一定数いて、基地の司令もその一人だった。

 彼は孤児を四人基地に引き入れ、そして自ら養っていた。

 ジョナサンもまた。その子たちの面倒を見ていた。

 

 ──そして。

 ──その子供のうち一人は武器商人が地雷原を歩くための盾となり死に、司令も同時に殺される事となった。

 

 

「ここが、ウチの作戦室だ」

 

 柿崎はヨナに笑いかけ、作戦室に案内した。

 周囲を見渡すと。

 パソコンが置いてあるデスクが一つと、資料が整えられ置いてあるテーブルが一つ。私物含めて丁寧に整えられ、そこにあった。

 

「....ここが作戦室なんだ。結構広いんだね」

「おう。お前も部隊に入るか、作るかすれば持つことが出来るぞ」

 

 笑いかけながら柿崎はそう言った。

 

「今、他の隊員たちは出払っていてな。もうちょっとで戻ってくると思うから、それまでここで寛いでくれ」

「うん。隠れさせてもらう」

「.....隠れる?」

 

 ヨナの発言に首を傾げながらも、柿崎はヨナをソファにまで誘導すると、先程サーバーから淹れたコーヒーを手渡す。

 

「甘さが足りないならまた角砂糖取りに行くから。遠慮なく言ってくれ」

「ううん。丁度いいよ」

 

 柿崎はデスクを挟んだ向かい側のソファに座り、ヨナと向き合う。

 

「いやあ、本当に若い奴が来たな。年齢はいくつだ?」

「えーっと.....12だったかな」

「自分の年齢忘れるなよ。──しかし大変だな。海外から来たんだろ?」

「うん」

「何処の出身なんだ?」

「西アジア。国名は解らない」

「解らないか―」

「うん」

「それじゃあ、なんでボーダーに来たんだ?」

「.....事情があって日本に来ることになって。僕の年齢で働けるところが、ボーダーしかなかったから」

 

 事前に用意した情報をつらつらと喋る。

 ヨナは難民として受け入れられ、そこからボーダーで働く事となった──というシナリオで日本にやって来ている。

 元少年兵である、という情報はもちろんの事。難民という表向きの理由も出来るだけ隠せ、という指示を受けていた。それもそうだろう。元少年兵を雇用するよりもマシであろうが、難民を兵士として運用するのもあまりにも体裁が悪いだろう。

 

「.....そうか。お前にも事情があるんだな」

「うん」

 

 柿崎は──このやり取りでも、何となく眼前の少年の事情を察した。

 

 そして何事かの言葉を繋げようとして、

 

「──隊長。今戻りました」

「戻りました!」

「ただいま~。──ありゃ、お客さん?」

 

 三人の人物が、作戦室に入ってくる。

 おさげ髪を下げた少女と、

 溌溂とした印象の小柄な少年と、

 ユルイ笑みを浮かべたウェーブ髪の少女。

 

 全員が柿崎と同様の隊服を着込み、作戦室でコーヒーを啜っているヨナを見ていた。

 

 

 

 

 

 

「──そうか。まだまだ実働には時間がかかるか。いやいや、それでいいんだよ。そんなに早く計画そのものが始められるわけはないからね」

 

 ニコニコと笑みを浮かべ。

 キャスパー・ヘクマティアルは、電話口から言葉を吐き出していく。

 

「それにしても。今まで見てきた中で一番稀有であり、そして異常な組織だね! ボーダーは」

 

 稀有。そして異常。

 

 そう──キャスパーはボーダーに評価を下した。

 

「組織を運営している人間が皆優秀だ。情報の統制が完全になされている。優秀な技術班がいるのに外部に流出することも無く、メディアに余計な情報を掴まれることも無く、──何より記憶に干渉する技術を持っているところが一番のミソだね。アレは本当に大変だ」

 

 キャスパーは、三門市の全景を頭に思い浮かべる。

 ボーダー本部とその周辺──いわゆる危険区域とされる、トリオン兵が発生していた区画を。

 

「あの危険区域はボーダーにとっての主戦場であると共に、強固な砦でもある。敵兵が現れるが故に、組織関係者以外誰も立ち入ることが出来ない。その上あの一帯をトリオン追跡をかけることで、部外者の立ち入りも完全に阻害されている。──諜報の前提となる”人を送り込む行為”がそもそも出来ない。いや~。本当に強敵だ」

 

 そう。

 ボーダーが所有している技術。──トリオンという道エネルギーを用いた兵装である、トリガー。

 その技術の一端でも手に入れたい所であるが。

 誰もいない危険区域の中、侵入すればトリオン反応で追跡をかけられる。

 この状況が続いてしまえば──どうにもならない。

 

「まあそれでも。手立てはある。──取り敢えず頭数を揃えて出方を見てみないと仕方がないね」

 

 頭数、という言葉を発するとともに。

 キャスパーの脳裏には。現在進められている計画が浮かんでくる。

 

「──どう? 取り敢えず百人くらいはできたかな? トリオン器官をぶっこ抜いた兵隊」

 

 まずは。

 ボーダーのトリオン探知を避ける事が大前提となる。

 

 その為に──彼等は兵隊を作っている。

 

「楽しみだなぁ。──これからは危険区域内に忍び込めるわけだ。見てみたいなぁ。どんな武装をしているんだろうね、ボーダー隊員って」

 

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