ジャンのファーストキス?   作:基倉灯大

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初投稿です。
NHKアニメ、ヤダモンのジャンとハンナの恋を妄想してたらできちゃったお話です。
前編はヤダモン多目です。リックはまだ出てきません。
ヤダモンかわいいよヤダモン

5/10 一部修正。
ヤダモンの部屋から玄関は見えないことに気付いたので、
窓から見えた→屋根に上ったら見えた に変更しました。


前編

 これはエディとマリアの結婚記念日の翌日のお話。

 

 昨日はパーティーの準備を手伝ったり、パーティーで騒いだりして疲れたヤダモンは、いつもよりも早めに眠りにつき、そして明くる日はいつもよりも早くに目を覚ました。

 ぱっちりと目を開けて上半身を起こすと、同じベッドの上で丸くなっているタイモンの耳元で叫んだ。

 

「おっはよータイモン!」

「わわっ!?」

 タイモンはその声に驚いて跳び上がった。そんなタイモンを見て、ヤダモンはけらけらと笑うと、ベッドから飛び降りてパジャマを脱ぎ捨てた。ヤダモンの放ったパジャマはタイモンに覆いかぶさり、タイモンはその下から抜けだそうと必死に手足を動かしていた。

 タイモンがバタバタともがいている傍らで、ヤダモンはちゃきちゃきと着替えていた。いつも着ている赤いワンピースはスカートが短くて動きやすく、ヤダモンのお気に入りだ。胸にはママからもらった緑色のブローチが飾られている。

 ブーツの履き心地を整えるように、とんとんと爪先で床を叩いたヤダモンは、窓辺に小鳥がいるのを見つけてそっちへ駆け寄った。

「おはよー、ことりさん」

 窓を開けて挨拶したヤダモンに応えるように、小鳥はチチッと鳴いて首を傾げると、ぱっ翼を広げて煙突へと飛び移った。

「わーい!まてまてー!」

 その小鳥を追いかけてヤダモンは窓から飛び出した。煙突はルブラン家で一番高い場所であり、ヤダモンのお気に入りの場所でもある。小鳥の声を聞きながら、煙突からの眺めを楽しんでいたヤダモンだったが、ふと何かに気付いて視線を下に向けた。

 そんなヤダモンの頭に、どうにかパジャマから抜けてきたタイモンが飛び乗った。

 

「おはようヤダモン。今日はずいぶんと早起きだね」

「ね、みてタイモン。したにジャンパパとジャンママがいる」

「んん?」

 ヤダモンに促されて窓の下を見ると、玄関前ではマリアがエディを見送っているようだった。

 大きな荷物を背負ってサファリハットを被ったエディに、マリアがお弁当のバスケットを手渡していた。エディはもうすぐ出発するらしい。

 

「じゃあ行ってくるよ」

「ええ、行ってらっしゃい。気をつけてね」

「…………」

 

 行ってくる、と言っておきながらエディは歩き出そうとせず、黙ってマリアの顔を見つめてニコニコしている。マリアは首を傾げながら、エディに尋ねた。

「どうしたの、エディ?今日は早めに行かなきゃいけないんでしょ?」

「そうだけどさ、マリア。今日はジャンも見てないんだしさ、久しぶりに頼むよ」

 ここにさ、と言ってエディは自分の頬を指さした。

 どうやらキスを催促しているらしい。

「まあ、エディったら!ふふ、でもそうね。ジャンに見られたら、『恥ずかしいからやめてよ』って止められちゃうものね」

 少し照れながらも、マリアは少し背伸びをしてエディの頬に顔を近づけ、そして軽く口づけた。

 ちゅっ、という軽い音をたてて唇が一瞬頬に触れた後、マリアははにかみながらエディから一歩離れた。

 

「なんだか久しぶりだから照れるわね。これでよかったかしら」

「ああ、行ってらっしゃいのキスで元気100倍さ!

 それじゃ行ってきまーす!」

 意気揚々と出かけるエディを、マリアは微笑みながら見送った。遠ざかる夫の背中をマリアが目で追っていると、その後ろから、いつの間にか一階に降りて来ていたヤダモンが声をかけた。

 

「ねえジャンママ、さっきジャンパパになにしてたの?」

「まあヤダモン、今日は早起きなのね?」

「うん。ねえジャンママ、さっきのなに~?」

 普段は寝坊助なヤダモンが早起きしていることに少し驚いたマリアだったが、ヤダモンはそんなことは気にせず、好奇心に任せて質問を繰り返した。

 興味津々な目で見つめる、真面目くさったヤダモンの顔が何とも言えず可愛らしくて、マリアは顔がほころぶのを感じながら、彼女の質問に答えた。

「うふふ、あれはね、行ってらっしゃいのキスよ」

「行ってらっしゃいのキス?なにそれ?」

「うーんそうね……。大切な人に愛してるって伝えるあいさつ、かしらね。」

「たいせつなひとって?」

「そうね……家族とか、恋人とか、大好きな友達とか。大好きって思える人のことね」

 だからね、と言ってマリアは屈んでヤダモンと目線を合わせ、その頬に軽くキスをした。

「わっ!?」

 突然のキスに驚いたヤダモンだったが、頬に触れた唇は温かく、心がぽかぽかするようで、なんだか気持ちよかった。

 目を丸くするヤダモンに微笑みかけながら、マリアは教えてあげた。

「これはおはようのキスってことね」

「おはようのキス……あたしもやるー!」

 そう言ってヤダモンは、マリアの首に抱き着きながらキスした。

 それはキスというよりも、唇を押し付けただけと言った方がいいような不慣れなものだったが、それでもマリアのキスを真似したからなのか、どことなく優しいキスだった。

 そして頭の上のタイモンを両手で捕まえて、「タイモンもおはよー!」と言って顔を近づけた。突然抱きかかえられたタイモンはわたわたと手足をばたつかせていたが、ヤダモンはお構いなしに、彼の小さな頬にむにっと唇を押し付けた。

キスされたタイモンはしおしおと大人しくなり、どことなく赤くなっているようだったが、ヤダモンはそんなタイモンの様子など気にせず、2階へと目を向けていた。

「そうだ、ジャンにもおはようのキスしてこよう!」

 言うが早いかタイモンを放り出して、ヤダモンは階段を駆け上った。

 ヤダモンの呆れるほどの行動力に目をぱちくりさせたマリアだったが、キスされた右の頬を撫でてくすりと笑うと、キッチンへ向かって歩き出した。

「ジャンを起こすのはヤダモンに任せて、朝食の準備をしましょうか。

 タイモン、あなたも手伝って」

 呆けたように床で伸び切っていたタイモンだったが、ミャ、と鳴き声で返事をして立ち上がり、マリアの後に続いてキッチンへと入って行った。

 一方のヤダモンが向かったジャンの部屋からは、けたたましい声が響いていた。

 

―ジャーン、おはよー!

―おはようヤダモ…ぐぇっ!

―ジャン、おはよう!ちゅっ

―わああああ!ヤ、ヤダモン、何してんのさ!?

―なにって、おはようのキスだよ?

―おはようのキスぅ?そんなことしなくていいよ、起こすなら普通に起こしてよ!

―えぇ~?だってジャンママにもタイモンにもしたんだもん。ジャンにもやってあげる

―僕はいいから!キスはしなくていいから!

―むー!だったらジャンがおはようのキスしてよ!

―えぇっ?や、やだよ恥ずかしいよ

―いいからいいから、ね?

―や、やだよ、ヤダモン来ないでよおぉ~

―あはは、わーい!ジャン、まてまてー!

 

 二人の駆け回るバタバタという音はジャンの部屋から階段へと移り、キッチンの方に近づいたかと思うと、パジャマのままのジャンとヤダモンが飛び込んできた。

「ジャンつっかまえたー!」

「わあぁ!ママ、ヤダモンをどうにかしてよ」

「おはようジャン。今朝は早く起きられたのね」

「それどころじゃないよママ!

 ヤダモンがおはようのキスって言って追っかけてくるんだよ、ねえどうにかしてよ」

「あははは!さあ、ジャン、おはようのキスしろー!」

「うふふふ、ヤダモンはジャンが大好きなのね。

 よかったじゃない、ジャン」

「かんべんしてよぉ……」

「おっはようのキース!おっはようのキース!」

 ご機嫌なヤダモンと、ほとほと困り果てているジャンの様子が微笑ましくて、いつまでも見ていたいマリアだったが、「のんびりしてるとハンナが迎えに来てしまうわね」と思い直して、ジャンに助け舟を出すことにした。

「さあさあ朝食にしますよ、ジャン、ヤダモン。

 今日はドーナツよ、ヤダモン。早く手を洗ってきなさい。」

「ドーナツ?わーい!あたし手を洗ってくる!」

 ドーナツと聞いて頭の中が大好物でいっぱいになったヤダモンは、あっさりとジャンから離れて洗面台へと駆けて行った。

 朝からヤダモンの襲撃を受けていたジャンは、嵐が過ぎ去ったことに安堵し、テーブルに突っ伏してぐったりとため息をついた。

「はぁ~、いったいどうしたんだい、今日のヤダモン。

 なんで急にキスなんて言い始めたんだろう?」

「さあねぇ?そんなことよりジャン、あなたも着替えて顔を洗ってきなさい。

 あんまりゆっくりしてるとハンナが来ちゃうわよ」

「はぁい、ママ」

 サラダにスープ、トーストとヤダモンにはドーナツ、タイモンにはイチゴを、と手際よく朝食を用意しながらマリアが答えると、ジャンは疲れた声で返事をしてから、のそのそとキッチンを後にした。

 その後すぐ、入れ替わるようにヤダモンが歌いながら入って来た。

「ドーナツドーナツ♪おいしいドーナツ♪

 ドーナツしあわせあさごはん♪」

 うきうきしながら席に着いたヤダモンは、頬の横で手を組んで目をキラキラと光らせながらマリアの用意したドーナツを見つめて、幸せそうにため息をついた。

 この子は本当にドーナツが好きなのね、と思ったマリアだったが、いけない、偏食しないように私がしつけなきゃ、と教育モードに頭を切り替え、ドーナツを手に取ったヤダモンにぴしゃりと言った。

「ヤダモン、ドーナツだけ食べちゃダメよ。ちゃんとサラダも食べるのよ。」

「うん!いっただっきまーす」

 元気よく返事をして、あっという間に1個目のドーナツを食べたヤダモンだったが、その後はマリアの言いつけを守ってサラダを、スープをとバランスよく食べていった。ヤダモンの隣では、両手でつかんだイチゴにかじりついたタイモンがもぐもぐと口を動かしている。

 ヤダモンが2個目のドーツ食べ終わる頃にジャンが現れた。顔を洗って少ししゃきっとしたジャンは、ヤダモンの隣に座ってトーストにかぶりついた。

 しばし黙々と食べていたジャンだったが、トーストが半分ほどお腹の中に消えた所で、ふと気づいてマリアに尋ねた。

「あれ、パパは?」

「エディならもうお仕事に行ったわよ。

 風邪を引いたゾウの子が気になるから、ゾウの群れを見てから研究所に行くんですって。」

「ふーん、パパも結構大変なんだなぁ」

 それを聞いて、ヤダモンの目が好奇心でキラキラ光った。

「ええっ、ジャンパパ、ゾウさんの所に行ってるの?

 あたしも行くー!」

「やめときなよヤダモン、まず~いゾウの風邪薬を飲まされちゃうよ」

「そうよヤダモン。行くんだったら、ゾウさんの風邪が治ってからにしましょうね」

「むー!やだやだあたしゾウさんの所に行くのー!」

 言い出したら聞かないヤダモンは、椅子の上でジタバタし始めた。そんな彼女を宥めるため、マリアはもっとヤダモンが喜びそうなことを提案した。

「ふふっ、じゃあヤダモン、ゾウさんの所には今度連れて行ってあげるから、今日はシーザーに会うのはどう?

 しばらく会ってなかったから、きっとシーザーも喜ぶわよ」

「シーザー!じゃあ今日はシーザーに会いに行く!

 ねえジャンママ、シーザーげんき?」

「ええ、とっても元気よ。エディはもうすぐ野生に帰れそうかも、って言ってたわ」

「じゃあいっぱい遊んでだいじょうぶだね!

 ね、ジャンも一緒に行こう!」

「ぼ、僕はやめとくよ。今日は学校があるし……」

 それにライオンはちょっと怖いし、と内心で思ったのをごまかすように、ジャンは再びトーストを食べ始めた。「えーなんで、一緒に行こうよ」となおも誘ってくるヤダモンを、「ダメだよ」とあしらいながら、ジャンはなんとか朝食済ませた。最後にミルクを飲み終わったあたりで、玄関の方から「ジャーン」と彼を呼ぶハンナの声がした。

 

「あっ、ハンナが来た。

 じゃあママ、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

「いってらっしゃい…あっ!」

 いってらっしゃい、と言った瞬間に何かを思い出したヤダモンは、慌ててジャンの背中を追いかけた。ドアを開けて、ハンナにおはよう、と挨拶しているジャンをその目に捉えると、「ジャーン、わすれものー!」と叫びながらヤダモンは跳んだ。

 振り向いたジャンの胸にヤダモンが飛び込む、驚いたジャンが慌ててヤダモンを受け止める、衝撃に負けて尻もちをつく、という一連の流れの結果、倒れたジャンの胸にヤダモンが座っている、という構図になった。

 いてて…と呻きながらジャンは首をもたげ、半眼になりながら、呆れた声で言った。

「なんだいヤダモン、忘れ物って…」

「あぶないあぶない、忘れるところだった!

 ジャン、いってらっしゃい!ちゅっ」

 ヤダモンはジャンの上に座ったまま少し前かがみになって、ジャンの頬にキスをした。

 それは一瞬の出来事だった。ハンナは「まあ」とでも言うように口をぽかんと開けて、その一部始終を見ていた。ジャンは身動きが取れないまま、されるがままになっていた。

 突然のヤダモンのキスに、ジャンの頭の中は真っ白になっていた。そしてジャンを驚かせた当の本人は、まだジャンの胸の上に乗ったまま、満足げにニコニコと笑っていた。

 ルブラン家の前では、驚いているハンナ、呆けたジャン、満面の笑みのヤダモンと、三者三様の表情を見せていた。あまりに予想外の出来事に思考停止していたジャンだったが、キスされたことを自覚したとたんに、顔が熱くなるのを感じて慌てて立ち上がった。

 ヤダモンは急に動き始めたジャンの体からひらりと跳びのくと、笑顔を彼に向けたまま、こてんと首を傾げた。

 

「ヤ、ヤヤヤヤダモン、いいい一体何するのさ!?」

「なにって、いってらっしゃいのキスだよ?」

 しどろもどろになりながら詰るジャンに、ヤダモンはしれっと答えた。

 ヤダモンの微妙に的を射ていない答えに焦れながら、ジャンは質問を重ねた。

「行ってらっしゃいのキスって、なんで急にそんなことするのさ」

「だってジャンママがジャンパパにしてたんだもん!

 ジャンママがいってたよ、大好きなひとにするんだって」

「ええ~?だからってだからってハンナの前でしなくてもいいだろ!?」

「ハンナに見られちゃダメなの?」

「ダメっていうかなんていうか……あーもう、とにかくさぁ!」

 恥ずかしいからイヤなんだよ、とジャンが口に出す前に、ハンナの不機嫌な声が会話を遮った。

「ジャン、そろそろ行かないとリニアに間に合わないから。私、先に行くわね」

「あ、待ってよハンナ!」

 振り返ってハンナを見ると、彼女はもう駅の方へと速足で歩き出していた。ジャンは焦りながらも、ヤダモンに向き直ってぼそぼそと早口で言葉を続けた。

「とにかく、人前でキスされるのは恥ずかしいからイヤなんだよ。

 もう僕にはしないでよね」

 そういってヤダモンに踵を返すと、「ハンナ、ねえ待ってってば!」と叫びながら、ハンナを追って走り出した。

「キスされるのが恥ずかしいなんて、ジャンってばへんなの。」

 小さくなっていくジャンを見ながらそう呟いたヤダモンだったが、はっとあることに気付いた。

「あっ、ハンナにいってらっしゃいのキスしてない。よーし!」

 ハンナに追いつこうと、ヤダモンが走り出そうとした時、マリアとタイモンが玄関から出てきた。

「さ、行きましょうか、ヤダモン。シーザーが待ってるわよ」

「シーザー!わーい、シーザーのところいくー!」

 マリアの一言でヤダモンの心は完全にシーザーへと向いてしまい、ハンナの分はまた今度でいいや、とキスのことは頭の片隅に追いやられた。そして、ヤダモンはタイモンを頭に乗せ、マリアと手をつないで、シーザーに会えるとドキドキソワソワしながら、研究所へ続く道を楽し気に歩くのだった。

 

 一方、学校に向かうリニアの中では、さっきから急にツンツンし始めたハンナに、おっかなびっくり話しかけては冷たくあしらわれてジャンが消沈する、という一幕が繰り広げられていた。何を言っても「ふーん」「あっそ」「別に」しか答えてくれないハンナの隣はとても居心地が悪く、最高時速500km/時で進むはずのリニアでの通学時間が、永遠に続くように感じるジャンであった。

 

 さらにもう一つ、ジャンにとって運の悪いことに、今朝の玄関前での騒動はピートに目撃されていた。

 ジャンたちとは別の車両に乗ったピートは、彼をからかう算段を立てながらほくそ笑んだ。

「あのガキにキスされてジャンが顔真っ赤にしてた、なんてリックが知ったら、ジャンのヤツどんな目に合うのかな。ぷくくく…」

 今日見られるであろうおもしろいこと(ジャンの困り顔)を思うとピートはうずうずしてしまい、じれったさから「もっと急げよ、この!」とリニアに八つ当たりした。

 

 不機嫌なハンナ、苦悩するジャン、悪巧みするピート。

 それぞれの思いを乗せたリニアは、いつもと変わらぬスピードでシティに向かって走るのであった。

 




原作設定勉強中。。。
おかしな所があったらご指摘くださいm(_ _)m
(できればソース付きで)

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