前話の翌日のお話です。
ジャンが『キス』に振り回された日の翌日のこと。
始業前の教室では、リックとピートがクラスメイトを集めて、黒板の前で何かをしきりに聞かせていた。話の中心はジャンのことのようだった。
その後ややあって、今日もハンナと一緒に登校したジャンが教室に入った途端、クラスメイト達の視線が彼に注がれた。興味津々と言った態の好機の目や、気の毒そうに同情の目を向けられて戸惑っているジャンに、リックは意地悪く言った。
「よう、ジャン。今朝は愛しのあのガキとキスしてきたのかよ?
「キスしてきたのかよ?」
その言葉を聞いてハンナはむっとした顔になったが、当のジャンはというと意外と冷静で、この状況はリックがヤダモンのキスのことを言いふらしたのせいなのだな、と悟った。しかし、昨日は言いふらされるなんて恥ずかしくて絶対にイヤだったはずなのに、今日はなぜか気にならない。自分の心境の変化を不思議に思いながらも、ジャンは小さく苦笑して答えた。
「もう、ヤダモンのキスには困っちゃうよ。
ヤダモンたら、好きなものには何にでもキスしたがるんだ。
今朝なんて配達にきたポストロボにキスしてたよ」
ジャンの穏やかな声につられたのか、ハンナは表情を和らげてジャンの言葉に続いた。
「私もキスされちゃったわ。
なんだかヤダモン、急に甘えんぼになったみたいだったわね」
「一体どうしたんだろう?昨日から急にそうなったんだ」
「ふふっ、きっとジャンたちのことを本当の家族みたいに思って、甘えてるんじゃない?」
「そうなのかなぁ……。でも。そうだといいな」
そんな風に他愛なく話すジャンとハンナの様子を見て、クラスメイト達は興味を失ったようで、ばらばらと黒板の前から離れていった。リックは期待していたジャンの困り顔を見られなかったのが悔しくて、むきになって叫んだ。
「お、おい!コイツ、自分とこのガキにキスされてたんだぜ!
お前らどう思うんだよ、おい!」
そんなリックに、呆れた目をむけてハンナが言った。
「どうしたのよリック、家族にキスされるのってそんなに特別なことじゃないでしょ?
別になんにもおかしくないわ」
そして、ハンナの言葉に同調したクラスメイトから白けた視線を向けられて、リックは居心地が悪くなった。バツが悪くて引きつった笑みを浮かべたリックは、ギギギギ…と音が聞こえるようなゆっくりとした動作で振り向くと、この話を持ってきた悪友に詰め寄った。
「ピ・イ・ト・くぅん?話が違うじゃねえか、なあ?」
リックに怒りの矛先を向けられたピートは、冷や汗をかきながらへらへらと後ずさると、突然踵を返して教室を跳び出した。
「うわあああ!ごめんよ、リック!」
「待て!ピートてめえ、俺に恥をかかせやがって!」
もうすぐ授業が始まるというのに教室を出て行った二人を、目を
鞄を置いて着席したジャンの隣で、ハンナはくすくす笑いながらジャンに尋ねた。
「どうしたの、ジャン?昨日はあんなに恥ずかしがってたのに、今日は平気なのね」
「うん、実はさ。昨日ヤダモンにキスしてあげたら、とっても喜んでくれて。
そしたらなんだか、恥ずかしがってたのがバカらしくなっちゃったんだ」
実は昨日、ハンナと入れ違いで帰って来たヤダモンに、ジャンは『おかえりのキス』をして出迎えたのだ。それは少し恥ずかしかったけれど、キスされてぱっと顔を輝かせたヤダモンを見た瞬間に、ジャンの中で恥ずかしさよりも愛しさが勝ったのだった。寝る前にも『お休みのキス』を額にしてやると、ヤダモンはにこにこしたまま眠りに落ち、その幸せそうな顔を見た時には、ジャンはもうキスすることを恥ずかしいとは思わなくなっていた。
その話を聞いて、ハンナは嬉し気な顔になって答えた。
「ふうん、よかったじゃない。
だってヤダモン、あなたのこと大好きみたいだし」
「もう、やめてよハンナ!ヤダモンは妹みたいなもんだよ」
冗談めかしてからかうハンナに、ジャンが頬を染めて抗議していると、チャイムが鳴ってシュタイン先生が入って来た。
先生はコホンとひとつ咳ばらいをすると、出席を取り始めた。
1時間目は、昨日の理科の続きだ。ジャンは宿題ノートを取り出し、昨日ハンナと一緒にやったモーターの宿題は完璧だろう、と自信ありげにノートなでた。やがてシュタイン先生に名前を呼ばれたジャンは、胸を張って返事をした。
昨日とは全く違う晴れ晴れとした気持ちで、ジャンの一日が始まろうとしていた。
いかがでしたでしょうか。
ヤダモンOPのキスシーン(ほっぺ)に着想を得て、妄想を暴走させた結果がこちらの作品です。
ヤダモンは本当に素敵なアニメなので、色んな方の「ここ好き」を聞きたいです。
よろしければ感想欄で語ってもらえると嬉しいです…m(_ _)m
以下ちょっとだけ言い訳。。。
・ピートってシティ住まいじゃないの?なんでランドでジャンの玄関見てるんだよ
→『ジャンのユ・ウ・ウ・ツ』にて、ピートがランド内で朝イチからジャンを監視してるシーンがあったので、てっきりランド住まいかと思ってました。
今回は「たまたまランドに住むばあちゃんの家に泊まってた」とかの事情で、
朝からランドにいたことにしてください。