桃鳥の親鳥   作:後生さん

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魚人島編……入る前に回想入りまーす。
母様色々改変しちゃってるから、時系列考えるの大変でしたよ…。




初めまして、魚人さん

 

 

 

 

「それで、結局10億ベリーは彼等の船に置いてきたと…」

 

「例え彼等が散り散りになってしまっても、約束は約束ですもの。ふふふ……彼等が集合したその時には、ちょっとした祝い金になるかもしれないわねぇ」

 

 

二年後、彼等がどのような成長をするのかは知っているけれど──そこに私が存在する記録も、物語もない。

私にとってはあの地獄を通過した時点で、ドンキホーテ・ローザというただ一人の人間と成り、その人生を歩んできてしまっているから……まあ、改変なんてもう恐ろしくも何ともないのよねぇ。

だって、私が生きている時点で、世界は可笑しいもの。

 

クスクス笑う私に苦笑する夫は、私にとっても懐かしいことを口にした。

 

 

「人魚に魚人か……懐かしいものだな。今はめっきりないが、君は魚人族の奴隷を大量に買っていたものだ……」

 

「ふふふ……人が聞けば最低な物好きだと罵られてしまいますわね。否定するつもりなどありませんけれど」

 

 

そう。私は昔、魚人族を見るや否やどんな手を使っても手に入れていた。今はヒューマンショップ自体数を減らしているし、何より彼等が捕まることなど断然少なくなっているから私が態々手を伸ばす必要も無くなったのよ。

 

 

「だが、君に買われた者達は等しく大きな感謝をしている。今でさえ彼等が、あの美しい海底の島で穏やかに暮らせているのは、全て君が奴隷から解放したからだ」

 

 

優しい眼差しで私を眺める夫に、口元を隠して少し照れながら、私ではないわ、と笑った。

 

 

「彼等を本当に救ったのは、太陽だもの」

 

「!!……ああ。彼……いや今では彼等か?懐かしいな。今でも連絡はしているのだろう?」

 

「ええ。……そういえば、あのタコさんとは昔お会いしたことありましたわね。お忍びで名前は名乗っておりませんから、私だと分からなかったのでしょう。ふふふ……彼は今も、タイヨウを胸に奴隷達の希望となっていますわ」

 

 

後の奴隷解放の英雄。フィッシャー・タイガー。

それは流れる川のように、彼が奴隷となった噂は、自然と私の耳に行き着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、魚人さん」

 

「……」

 

 

その女は、まるでこの地獄に相応しくない容姿をしていた。見る者によっては天女と呼ばれそうな女……だが、此処に居る時点でどうせこの女も醜い人間だ。そのハズだ。

 

しかし、俺が何も答えぬのを咎めもせずに、召使いを従えている女は、そのまま俺の居る牢屋を開けて入ってきた。

 

 

「酷い傷ねぇ…こんなお粗末な嬲り方で奴隷が懐くとでもお思いなのかしら。同じ天竜人として恥ずかしいですわ」

 

 

そう俺の傷を眺め微笑む女を、睨まずにはいられなかった。……やはり、此処は地獄なのだ。

天竜人とされる、人間の中では偉い貴族がこうなのだ。

オトヒメ王妃。いくら署名を集めたところで、魚人を虐げ奴隷とする世の中に、そんなもの意味など有りはしない!

 

──そのハズ、なのに。

 

抱いてはならない憎悪を剥き出しに、鋭く睨む俺に、それでも女は優しく微笑み告げたのだ。

 

 

「貴方、私のモノとなりなさい」

 

「……」

 

「ふふふ。もしかして、何処も同じだと諦められてるのかしら?それとも、私の元の方が逃げられやすいとでも?」

 

 

ふふふ、そうなのでしょうねぇ。

 

一体何が楽しいのか。女はクスクスと上品に微笑んでいたが、俺の胸板にある天竜人の奴隷としての烙印を見ると、その顔から表情が一瞬にして消えた。

…思わずゾクリ、としてしまった。

 

 

「まぁまぁまぁ……あぁ、なんて醜いの。なんて惨いの。なんて卑劣なの。この証は二度と消えはしないわ。二度と元に戻りはしないわ。なんて穢らわしい紋章。なんて忌々しい烙印。この傷は、一生体に残り続けてしまうじゃない。一生心を縛りつけてしまうじゃない」

 

「──、」

 

「けれど…私は謝ることなどしないわ。謝るなど出来ませんもの。謝るだけでは済まないもの。謝って償えることではありませんもの。だから私は、貴方に言うの」

 

 

──私のモノになりなさい。

 

 

その女は、見る者によれば天女のようだった。

人間の狂気により歪んだ狂った空間には、全くそぐわない綺麗な……いや。きっとこの女にも狂気はあるんだろう。それでもその狂気は、恐らくオトヒメ王妃と似ている。

優しく、全てを包み込むような。…流石にオトヒメ王妃は悪を見過ごす真似などしないだろうが。

だが、これこそが、こんな者こそが、オトヒメ王妃の言う希望だったのかもしれない。

 

人間は全てが悪ではない。きっと必ず、種族など関係無く手を差し伸べてくれる者達も居る。

俺と視線を合わせ、美しく微笑む女は優しく囁いた。

 

 

「私はドンキホーテ・ローザ。貴方のお名前は?」

 

「…………フィッシャー・タイガー」

 

「そう。タイガー。今日から貴方は私の奴隷よ」

 

 

──そして俺は、自由を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの頃のタイガー君は、ローザや私をいつだって疑っていたね。この邸には鎖も嵌められず怪我もしていない、そして自由に語らう、笑顔で幸せそうな奴隷しか居ないのだから。他の天竜人から虐げられた彼から見れば、私達は本当に同じ生き物なのかといつも観察されていた」

 

「ふふふっ、本当に懐かしいですわね。気付けば一年、彼は逃げることも無く此処に居ましたものねぇ」

 

 

傷はとっくに完治していたし、魚人島にいつでも帰還出来た筈なのにそうしなかったのは、彼なりにきちんと見極めたかったからなのでしょう。天竜人である私が、本当に味方であるかどうか。魚人島を救える人間になれるか否か。

 

彼は元々、人間を嫌っていたわけでは無かったんだもの。

彼が奴隷となり、その人間の狂気に触れてしまったことが発端であり、奴隷となったその後の凄惨さを知ってしまったことが、彼を鬼に変えてしまっただけ。

 

 

「しかし、そうか。彼は今でも太陽を掲げているのか……元気そうなら良かった。ローザは近いうちに魚人島に行くのだろう?またその話を聞かせておくれ」

 

 

ホーミング様のまるでお留守番のような言い方に、私はクスリと悪戯をするような顔で笑って、彼の手を握る。

 

 

「?」

 

「ホーミング様も、偶には出掛けないといけませんわよ?オトヒメには私の夫も連れてくるよう頼まれているの。男らしくありたいのでしょう?なら私の隣で堂々としてくださいませ。私にとってはそれが出来る殿方は貴方だけよ」

 

 

ニコリと微笑めば、彼はキョトンとした顔の後、ガックリと顔を俯かせた。その耳は赤くなっていて、また笑う。

 

 

「っ、君は……本当に揶揄うのが好きだなぁ……」

 

「まぁ心外だわ、揶揄うだなんて。本心ですのに」

 

「そういう、ところを、言うのだ。全く…」

 

「ふふふ」

 

 

それでもはっきりと否定しないのが、この人の優しいところよね。オトヒメの夫であるネプチューン王も、この人と似通った優しさがあった。控えめに言って、押され気味?私もオトヒメも、同じようにか弱いというのにねぇ?

 

──さて。遊ぶのはここまでにして。

 

 

「少し出掛けてきますわ。お引越しされた空き家の後片付けを指導しなくては。特に掃除が大変みたいですから」

 

「!そうか…無理のないようにな、ローザ」

 

「はい。ではいって来ます、ホーミング様」

 

 

軽く頬にキスを送り、私は微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






タイガー生存。この時母様の年齢……!?
せ、背中にゾクリとしたものがっ!

マリージョア襲撃事件の二年前にタイガーとは出会ったことになります。ということはぁ…?さてさて、一体どれだけの奴隷と出会ってる事やら。
母様のせいで脳みそパンクしそう。

いかがでしょう?タイガー目線変でしたかね…。
ちょっと書くの楽しくなってきましたよー。
次回もお楽しみに!ではでは!


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