その成長は如何程に。
十数年後、シャボンディ諸島にて。
「ローザ宮、良いのかえ?我々と共に居ても」
「構いませんわ。ヒューマンショップに行くのでしょう?なればロズワード聖と同伴でも同じ事です。それとも、何か理由がありまして?」
「い、いいや…」
微笑む
ああ、なんて醜いの。
「ところで、ロズワード聖?其方の奴隷はどなたのものかしら?まるで扱い方がなっていませんわ」
「っあ、ああ、アレは娘のでな…シャルリア」
「はいお父様。わちきの奴隷あます」
「そう、シャルリア宮の……」
すると先頭切っていた奴隷の動きが止まった。
ああ、彼はきっともう限界なのだと一目瞭然なのに、ロズワード聖とシャルリア宮は容赦しない。
「やだお父様。また一個、壊れちゃったあます」
「鎮静剤はちゃんと毎日与えたのかえ?」
「やったあます。お馬鹿で効かないあます。また新しいの、買ってくださいまし」
「全くお前は躾が下手だえ。私の船長コレクションを次々に壊しおって…」
溜息混じりに告げるロズワード聖に、シャルリア宮は些か不本意だとばかりに奴隷を蹴りつける。
「この子が駄目なのあます。家族、家族と…大の男が泣く始末!ただの、人間の、癖に!!」
その怒りに、私は近付き微笑んだ。
「ならばシャルリア宮、
「?何の役にも立たないゴミあますよ?」
「飽きた玩具には興味ないのでしょう?私のご趣味は知っておられまして?どうぞお譲りくださいな」
言い淀むシャルリア宮に、ロズワード聖が頷いた。
私は微笑み、召使い達を動かす。
「手当なさい。生きているからこそ価値があるの」
「はっ」
私の意図をよく知っている元奴隷達が、瀕死の奴隷を慎重に運び出す。私の行動に首を傾げるロズワード聖達だったが、深く追及はしない。
「行きましょう、ロズワード聖。オークションが始まってしまいますわ」
「ぁあ、そうだったえ。行くぞ、シャルリア」
「はい。お父様、次は魚人の奴隷が欲しいあます」
「お前は人間の子供の奴隷から始めなさい」
「弱いのはやだあます」
シャルリア宮の我儘にロズワード聖は肩を竦めながらもオークションを観てからだと許す。
全く、ドフィやロシーがこんな人間に育たなくて良かったわ、と心から安心しながら足を進めた。
オークション会場はいつも賑やか……と言うと少し無粋ね。たった今死人が出た所だから。
司会は持ち直す様に新たな商品を客人に見せる。
それは今時珍しい、可愛らしい人魚だった。
「五億ベリィ〜~~!!!五億で買うえ〜〜!!」
ロズワード聖の息子、チャルロス聖の張り上げた声に一堂が騒然とする。ああ、なんて醜いの。
私は興奮する司会に見える様に札をあげた。
「──十億で買いますわ。宜しいかしら?」
「!?ッじゅっ、…!?!」
隣で眼をかっぴらくロズワード聖達に微笑んで、私は立ち上がる。そしてチャルロス聖に並ぶ。
「私、さして人魚に興味はありませんが然るべき者達に差し上げたいのです。お譲りくださいな」
「なっ!?ッわちしが手に入れるんだえ!!?わちしのモノだえ!!横取りは許さないえ!」
「──そう」
向けたのは、銃口。チャルロス聖も、その一家もそれを観ていた観客席も引き攣った声をあげた。
「私、手荒い真似はしたくないのだけれどいい加減その耳障りな声を消したくて堪りませんでしたの。それとも“
「ッヒィッ!!?ぉっ、おと、」
「ロズワード聖に頼まれても無駄ですわよ?貴方方を天竜人から堕とす事など造作もありませんから。寧ろ不名誉な貴方方一家が消え去った事で受けるメリットは高山にお釣りが貰えるくらいですの。どれほど鬱陶しい人達だと常日頃から思われている事か、まさか御存知なわけありませんものね?」
ついにへたり込むチャルロス聖に、それでも優しく微笑みながら私は言葉を紡いでは蔑んだ。
「その我儘なお口を閉じて頂けるだけで世界は平和に近づきますの。ですから、お譲りくださいな」
人魚一人を交渉するだけでこんなにも狂気じみた事を平然とやってのける。そんな私をどんな目で見るかなんて……とっくに慣れたものよね。
「わっ、わかったえ!!あ、あんなモノあげるえ!!だからその銃を降ろすんだえッ!?」
「まぁ。理解頂けた様で嬉しいですわぁ」
銃を仕舞えば、すっ飛んでロズワード聖の元へと逃げるチャルロス聖を横目に、私は歩き出す。
そのまま司会の立つ壇上へ上がれば司会は遠ざかった。
「マイクをお貸しくださる?」
「へっ?…あっ、ハイッ!どうぞ!!」
マイクを受け取り、壇上から微笑んだ。
「御集まり頂き誠に有難う御座います。どうかそのままでいらして。お顔がよぉく拝見出来ますもの」
私の挨拶の入りに、多くが困惑を見せた。
まるで司会者な立場の様な言い方に疑問を覚えたみたい。
でもそうよね。私の目的など知らないだろうから。
だから私は、普通の日常会話の様に告げるの。
「この度は不運な事に、このシャボンディ諸島が私に選ばれてしまいました。まぁお気の毒なこと。商人からすればなんという赤字。私もこの立場ですから悲しくて仕方ないですわ。涙が出てしまいそう」
言葉とは正反対の微笑みに、司会も併せて怪訝な表情になる。
ええ、当然でしょう。寧ろ察しられても困ってしまうわ。
そのままお馬鹿なままでいて。
「誠に残念ですけれど、此方のヒューマンショップは本日
──潰される事となりました」
揃いも揃って間抜けな顔。すると次第に冷や汗が流れ出し、それは青白くなり、絶叫が飛び出した。
「ななななななっっっ!!?!?なっ、なあっ…!!?つぶ、潰され…ッはぁああっ!!?」
「まぁ如何なされたの?そんなにも不思議かしら」
「ヒッ…!!!」
私の威圧に縮こまる司会から目を離し、戸惑い必死の怒りを抑える客達にもう一度微笑んだ。
「何故だと申されましても、既に決まり事でしたのよ。
無くなった所で何がお困りなのかしら?
奴隷という従順な下僕を欲しがる曲がった快楽主義者の皆様にしか損は御座いませんでしょう?似非的な支配者願望を持ち合わせた貴方方が人権の持たない者達への絶対的な命令権を手放したくないだけでしょう?こんなヒューマンショップが無くなって喚くのは、腐った心根の持ち主だと決まっていますものね」
ああ、嫌だわ。そんな心の内が解ってしまう私が、とっても可哀想だと思いませんこと?
「今ここで反感を持つ方はどうぞ私の目の前に立ち、そのお心をお教え頂けるかしら?」
そう全体を見渡して首を傾げれば、恐怖に顔を青ざめたまま誰も動かない。いいえ、動けないのね。
けれど私のせいではないと言い切れる。だってこんなにも濃度のある殺気なんて、発せないもの。
「──どうやら、母上に歯向かう奴は居ないみたいだ。良かった。簡単に事が済みそうだな」
ショップの入口からそう声を発したのは、紛れもない私の可愛い息子。全く、どうやら着いてきてしまったみたいね。
本当に心配性なんだから。
階段から降りて来る困った子に、私は苦笑した。
「ロシー?まずは私に言う事はなくて?」
「──母上。今日も素敵だな」
「褒め言葉は朝にも聞きました。違うわよ」
頬を掻くロシーに溜息を吐く。長身な背丈に皆が驚いていたけど、それよりもその服装が目を引く。
天竜人特有の物ではない。軍服の様に白く染められた真っ白なスーツは、ロシーの存在を遥かに高貴に魅せた。そして肩からは垂れ幕の様な白いマントを掲げ翻したその凛とした佇まいに目が奪われる。
私とセンゴクさんの共同で選んだこの服を、ロシーはいつだって身に着けてくれていた…というのに。ロシーはあろう事か通常通りにドジを踏むものだから、その替えは何着も存在していたわね。
そう。こういう場面でも必ず転けてしまうから。
「!?っ、」
「──失礼。お怪我は御座いませんか?」
「あ、ああ。ありがとう」
まぁそれが起きない様に最低でも二人は護衛を着けているのだから助かるのだけど。
案の定ロシーを支えてくれた一人に、私もロシーもほっとした息を漏らした。流石に天竜人がドジ踏んで転けてしまうなんて、かなり恥ずかしいもの。
「気をつけなさい、ロシー」
「ご、ごめん、母上…」
「全く……それで、何の御用でいらしたの?確か貴方は今、海軍の方に居たのではなくて?」
「ああ。うん、母上の仕事ぶりを見たくて軍艦ごと引っ張ってきたんだ。というか、着いてきた?」
「…………まぁ」
私は何とか一言で済ませたけれど、周りにはそれだけじゃ済まされなかった。すぐに混乱が起きる。
「か、海軍〜〜ッ!?!此処に来てるのかっ!?」
「まっ、不味い!!逃げねぇとッッ!!?」
別に捕まえる為に来た訳じゃ無いのに、客等は何を慌てているのか瞬く間に逃げ出した。それはもう脱兎の如く。
私達は唖然としていたけれど、まぁ良いでしょうとショップのオーナーである司会に近付いた。
彼は未だにショックから立ち直れていない。
「説明は後程で宜しいでしょうか?まずは奴隷達を解放してから、ゆっくりとお話しましょうね」
「俺の店が……潰れる……」
「駄目みたいだ。取り敢えず鍵を頂くぞ」
現実逃避のまま帰って来られない司会の懐からロシーが鍵を持ち出す。そして私に渡した。
「そうね、手始めに此方の可愛い人魚さんを」
「ッろ、ローザ宮!!!」
「──何かしらぁ?ロズワード聖」
鍵を手中に収めながらロズワード聖を流し目で見遣ると、ロズワード聖は怒りに顔を真っ赤に染めた顰めっ面で私を睨んでいた。
「一体何をしようとしてるのか解ってるのかえッ!?これは我々への冒涜と言っても過言ではないぞ!!其方も同じ天竜人だろうっ!!?」
「心外ですわ。まさか同等と見られていたなんて…ドンキホーテ家を甘く捉え過ぎではなくて?」
「ッッ変わり者の分際で…ッッ!!!」
あら……お互いに本音が出てしまったわ。
口許に指を当て笑うと、彼等は更に赤くなる。
「これはッ!一大問題になるぞ!!?」
「何を持って問題となさるの?基準が低くて聞いていられませんわ。ねぇロシー、私は誰とお話してるのかしら?大人にしては随分と幼稚じゃない?」
「母上と対等に話せる人物なんて数が限られてるぞ。確かアレは大人と書いて馬鹿と習わなかったか?」
「冗談が過ぎますよ。アレは大人ではないの。正真正銘の馬鹿なのよロシー。しっかりと覚えなさい」
「ごめん母上。けど母上、なら馬鹿相手に言葉も交わす必要もないだろう。無視が一番適切な対応だ」
「まぁ…息子から教えられるなんて母親として情けないわ。折角ですから今日から見習いましょうか」
そう会話して視線を逸らすと、彼等のお高いプライドに傷を付けてしまった事が安易に解った。
「わっ、私を…ッ誰だと思ってるんだえ…ッ!!」
私にとっては何の価値も無い相手かしらね。
そんな事を内心で返しながら人魚さんの水槽の蓋をロシーに外して貰っていると、カチャ、と音が聴こえた。
ゆっくりと横目で見遣ると、ロズワード聖の手元には私目掛けて向けられている銃が。
「──それを向けられて、どう為さるおつもり?」
「決まってるだろう!!貴様を撃ッぶばッ!?!」
「……あらぁ…」
「…なんだ、彼奴は」
撃つ、と豪語しそうだったロズワード聖を豪快にぶっ飛ばした先客に、ロシーは目を瞬かせた。
私は驚きよりも逆に疑問しか抱けなかったのだけれど、無理も無いわね。本当に不思議なんだもの。
「お前もう喋んな!!!」
彼は天竜人が嫌いな筈。いや、だからこそロズワード聖をぶっ飛ばしたのだろうけれど。
でもこの瞬間だと、私を庇った様に思える……まさか。
「…モンキー・D・ルフィ。一体どうして…?」
そんな私の呟きにルフィは目を合わせて来たが、天井から突っ込んで来たトビウオ達によってまたしても騒々しい事態になる。ロズワード聖に駆け寄り狂乱していたシャルリア宮とチャルロス聖は、トビウオ達の不時着位置の下敷きになり気を失う。
麦わらの一味と他の
私はロシーに護られながら思考を巡らす。
「母上」
「そうね…これは早く退散した方が宜しいかもね。ロシー、先にお帰りなさい。そうでないと貴方の様子を見に海兵達が此処に来てしまいますわ」
「却下だ。それは出来ない」
「面倒事を引き起こしたくないの。解るでしょう?私には頼もしい子達が着いていてくれるから」
「俺の方が断然安心出来る」
「ロシー」
困り気に眉を顰めるも、ロシーは頷かない。
仕方ないわねと背後の人魚さんの首輪の錠の鍵を外してやれば、彼女は戸惑ったまま礼を述べる。
ロシーイケメソ。ローとの接触?
まぁまぁ……まぁまぁまぁ。番外編ではあるんですよ…。
本当はもう少し時を重ねたいんですけど、なにをしたらいいのやら…私そこら辺の知識も知恵も無いもので。原作介入しただけで褒めてください…。
軽く番外編突っ込みますね。ほのぼのしてください。
ではでは!
追記、誤字修正したと思います、多分。
報告ありがとうございます。