なんやかんやあって俺は何を見、何をなすのか。おなす。

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「ほな神様になれや!」

 そこは、真っ白な空間だった。辺りを見渡しても白が続くばかりで、ただそこに立っている感覚だけがあった。

 そして俺の目の前で、アロハシャツの上から何やら神々しい真っ白な法衣を羽織った金髪の兄ちゃんが土下座するかと思いきや俺に向けてM字開脚していた。

 

「は?」

 

「非常に申し訳ないって思ってる」

 

「その姿のどこが?」

 

「ほら、『SUMIMASEN』の『M』やん」

 

「どこにフィーチャーしとんねん。普通『S』やろ」

 

「普通土下座やろ」

 

 よいしょ、と無駄に艶めかしい動きで足を閉じた兄ちゃんはゆっくり立ち上がって、顔の前で手のひらを合わせた。そのまま「ごめんな!」と一言。

 

「何が?」

 

「いやな、俺は神様で、君を殺してもうてん」

 

「えぇ……何その二流二次創作みたいな」

 

「ドクソ底辺ゴミ流やろ。間違えんな」

 

 言って、神様らしい兄ちゃんは痰を吐いた。しかしその痰は空気中で霧散し、柔らかく辺りへ広がっていく。めちゃくちゃ汚いのでどうかやめてほしい。

 

「ちなみにどんな殺され方?」

 

「道を歩いてたら、どう見ても強そうな男にパンチされて」

 

「んなわけあるか!」

 

「んなことがあったからこうなってるんやけど」

 

 どうやったら信じてもらえるかなぁ、と神様らしい兄ちゃんは鼻をほじって出てきた特大の鼻くそを放り捨てた。その鼻くそも霧散して辺りに広がっていく。俺も嫌やけど、お前も嫌やろそれ。

 

「まぁ、とりあえず死んでん。で、その原因が俺。ほんますんません」

 

「なんか怒るに怒られへんな……死んだ実感ないし」

 

「お? ほなよかった。お詫びに転生させたろーって思ったけど、それはナシでええか」

 

「おう」

 

「は?」

 

「ア?」

 

 神様がなにやら不思議そうな顔をしている。俺の言ったことが信じられない、と言いたげな顔だ。いや、そりゃ転生なんて嫌だろ普通。

 

「ここは好きなアニメの世界に転生させてっていうとこちゃうん?」

 

「知ってるアニメの世界って大体危険やったしなぁ。痛いの嫌やからそういうのええわ」

 

「ほら、なんかめちゃくちゃ強い特典みたいなんつけたるやん」

 

「でもそれって内面が伴ってないとあかんやろ? 俺別に世界を守るとか人を守るとかそんな崇高な精神ないし、そんな強い特典貰ったらいつか反動で死んでまうんちゃうんかって心配やねんな」

 

 デカい力を持つと人は調子に乗ってしまう。俺もそうなってしまう自信がある。だからそんなデカい力はいらない。ほら、クレジットカードを持つと絶対に使いすぎちゃうからあえて持たないみたいなあぁいうやつ。

 

「それやったら、崇高な精神とめちゃくちゃ強い特典つけたるやん。それなら精神と能力が釣り合ってるからなんの心配もないやろ」

 

「そんなことしたら俺の精神がどっか行ってもうて、自分が分からんくなって死んでまうんちゃうんかって心配やねんな」

 

 神様がイラついたように頭をガシガシ掻いている。神様なのにめちゃくちゃ人間っぽいな。もしかしてこれドッキリとか? 一般人の俺に?

 

「ならええとこの生まれにしたるやん。それやったら命の危険もないし、いざというときになっても周りの人が助けてくれるやろ」

 

「でも俺今まで一般的な暮らししてたやろ?」

 

「それがなんやねん」

 

「いきなりそんないいとこに生まれたら、反動で死んでまうんちゃうんかって心配やねんな」

 

「考えすぎやねん! んなことで死ぬか!」

 

「俺どう見ても強そうな男にいきなりパンチされて死んだんやから、そら慎重になるやろ!」

 

「神様がミスらなそんなことなれへんねん! 心配しすぎやねんお前!」

 

「お前俺の慎重さ加減みくびんなよ!」

 

「何で怒ってんねん!」

 

「俺は今まで慎重さ加減で売ってきてんねん! 遅刻もしてないし、寝坊もしてないし、あらゆることを慎重さで乗り越えてきてんねん! それがどう見ても強そうな男のパンチで潰されたんやから更に慎重になってもええやろ!」

 

「せやからそれは俺が神様特典でカバーするから大丈夫って言うてるやろ!」

 

「デカい力持った人間は増長するからあかんに決まってるやろ! 慎重は生まれたその瞬間から始まってんやぞ! もし俺がデカい力を持って生まれた場合、俺の慎重さがデカい力の大雑把さにかき消されて結果大雑把なろくでもない人間になったらどうすんねん!」

 

「その時は俺がここからサポートしたるやんけ!」

 

「俺もう20超えてるんやぞ!」

 

「だからなんやねん!」

 

「親離れしたと思ったら次は神様から離れなあかんのか!」

 

「しゃあないやろお前が慎重すぎるんやから! それやったら俺の力素直に借りとけよ!」

 

「お前そんなことしてもらったとしたら、『あ、ヤバいことなってもどうせ神様が助けてくれるわ』っていう安心感が付きまとって慎重さが失われるやろ!」

 

「お前の慎重さ弱すぎんねん! 大体慎重さそこまで大事にすることちゃうやろ!」

 

「言うたな?」

 

「何がやねん」

 

「お前俺のアイデンティティーを否定したな?」

 

「お前が否定してるみたいなとこあるけどな」

 

「人のアイデンティティーを否定するってことはもうそれは殺人と一緒やぞ!」

 

「もう俺お前殺してもうてんねん! 今更わけわからんこと言うな!」

 

「お前人殺しといて何やねんその態度!」

 

「それは俺と会った一番最初に言えや!」

 

「そこは超常と出くわしたときにお前みたいなわけわからん奴の機嫌損ねたらあかんやろなっていう慎重さを発揮したに決まってるやろ!」

 

「慎重慎重うるさいねんお前! それやったら、ブレることのない慎重さを特典にしたるわ!」

 

「お前そんなことされたら『この慎重さは俺の慎重さじゃないかもせん』ってノイローゼになって、結果死んでまうに決まってるやろ!」

 

「……ほな神様になれや!」

 

「どういうことやねん」

 

「神様になったら敵も何もおらんし、なんでも超常で片付けられるし、どう見ても強そうな男だって召喚できるわ!」

 

「だからいきなり神様になったらそれは俺が俺じゃなくなるやろ!」

 

「せやったら一から積み上げて行って神様になったらええやろ! そしたらそれはお前の力で、神様になったとしてもお前そのものやんけ!」

 

「もうええわ!」

 

「痛っ、手ェ出すなお前!」

 

「俺転生ってそんな大変なことじゃないと思うねん」

 

「お前が慎重慎重うるさいからやろ」

 

「大体なんやねん神様になれって。そんなもんどうやったらなれんねん」

 

「そらなんとかなれるやろ。人生ってそんなもんやん」

 

「今そんな話せんでええねん。……もうええ。アロハシャツの上から神様っぽいカッコしてキャラづけしようとしてるやつと喋ったんが間違いやったわ。もう転生するし特典もしゃあなしで貰ってくけど、内容は俺が決めるからな!」

 

「どんな特典にすんねん」

 

「嫌でも慎重に生きれるように名前を『むちち丸もぴぴ』にしてくれ」

 

「やめさしてもらうわ」

 

 そして、俺はあきれ顔の神様に見送られながら転生した。とびっきりファンタジーでとびっきり危険な世界に、『むちち丸もぴぴ』として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「むちち丸! 早く起き!」

 

 そこは地獄だった。俺の名前は神様特典で『むちち丸もぴぴ』。俺は日本名をイメージして『むちち丸』が苗字で、『もぴぴ』が名前のつもりだったが、ここはファンタジーな世界。それに則って、俺の名前は『むちち丸=もぴぴ』。つまり『もぴぴ』がファミリーネームで、『むちち丸』がファーストネーム。俺の家族は全員『もぴぴ』が付く。

 

 そんなもぴぴ家の長男である俺は、母親である『エレステオラ=もぴぴ』にたたき起こされていた。なんでそんなザ・カタカナみたいな名前なんだろう。『びちゅちゅん川』とかでええやん。

 

「おはようございます……」

 

「おはよう。相変わらずドブみたいでブサイクな顔してんな。はよ顔磨いてき」

 

「誰の遺伝子や思ってんねん」

 

「は? 黙れ」

 

「はい」

 

 いつの時代もどこの世界も母は強し。あ、剛っていう名前って意味ちゃうで? ハハハ。

 

 さて、現実逃避はやめにして。俺はこの世界であまりというか、まったく会いたくないやつがいる。それはこの世界における俺の父親というやつで、名を『アカロミハ=もぴぴ』。『アロハ』と『カミ』が合わさっている時点でお察しというやつである。

 

「おはよう」

 

 そう、今俺にコーヒーを飲みながら挨拶をしてきた俺の父親とされる男は、俺をこの世界に送り込んだ神様。憎き相手。

 

「口クサいねん。下水でうがいでもしたんか?」

 

「あ? 下水生まれヒップホップ育ちみたいな顔しやがって、どの口が言うてんねん」

 

「ヒップホップ関係ないやろ」

 

「下水は関係あるってことにしてええんか?」

 

「ド底辺でもとるぜこの手で天下」

 

「寒」

 

「神様でも寒いって感覚はあんねんな」

 

「神様は何でもできるからな。そういうのも自由自在やねん」

 

「聞いてへんわカス。勝手にべらべら喋んなドグサレが」

 

「お前もしかして俺のこと嫌い?」

 

「そらそうやろ。俺をこんな名前にしおって」

 

「お前がせえ言うたんやろ!」

 

「俺は日本名的な意味で『むちち丸もぴぴ』って言うてん。それと今とじゃ天と地の差やろ。大体なんでお前もついてきとんねん」

 

「そらお前を神様にするためやろ」

 

「は?」

 

 や、実はな、と言ってから神様はコーヒーを口に含み、俺に向かって思い切り噴いてきた。は?

 

「次世代神様プロジェクトみたいなんがあって、あのどう見ても強そうな男にパンチされて死んだっていうのはほんま」

 

「ほんまなんかい」

 

「候補者を死なせて次の神様に育て上げようっていうプロジェクトで」

 

「まって、何で殺す必要があるん?」

 

「そら神様はすべてを超越した存在やから、一回くらい死ななあかんやろ」

 

「神様の理屈は知らんけど、そんなことで殺されたん?」

 

「何今更怒りわかせてんねん。殺されたことに関する怒りは俺に初めて会ったときに解消しとけや」

 

「そら勝手な都合で振り回されてるってわかったら腹も立つやろ」

 

「ほな神様なれや」

 

「は?」

 

「神様なって俺をコケにしたらええやろ」

 

 どや? という神様に、俺はとりあえずにぎりっぺをお見舞いした。神は死んだ。

 

 言い忘れていたが、これは俺が最高の神様になるまでの物語だ。


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