日本国召喚 フェン王国ニシノミヤコより日本人を奪還せよ   作:bellcheck

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第3話 「超大型総天然色映像」

 

第一外務局 

 

帰宅する予定を取りやめて 急いで外務局に戻ってきたエルトは日本国の情報を更新させる。

 

フェン王国での強襲後に日本人を捕虜としたが殺害はしていないことを聞いて安堵した。

 

ミリシアル大使館でも日本国の情報を収集中でまだ国交の締結には至っていないことも判明した。

 

魔道映像通信機も当然輸出許可は出していない。

 

だとすると一体どこから・・密輸入でもしているのか。

 

いや、直接聞いた方が早い。 エルトはシノハラのいる貴族用宿泊施設へ向かった。

 

 

 

 

篠原の部屋

 

フェン王国から西に約100kmの地点での武力衝突の動画映像をノートパソコンで見ていた。

 

イージス艦みょうこうがフェン王国へ向かう22隻の皇国監査軍東洋艦隊の半数のマストに砲弾を命中させたものだ。

 

敵は戦意を喪失して撤退。平和的に解決した事件のはずが、艦長は報告後に野党の度重なる追及を受けて更迭された。

 

もちろん先に発砲したのは皇国だ。

 

ここにはもう特定アジア三か国はいないというのに彼らは誰に義理立てしているのか全く理解に苦しむ。

 

それに異議を唱えた隊員がデータをネットに流出させた映像だ。その隊員は懲戒免職になっている。

 

 

 

時計を見てから キャリーケースから無線装置を取り出してプレストークボタンを押す。

 

「定時連絡 こちら、篠原 聞こえますか?」

 

「ご苦労様です、内田です」

 

港に停泊した海上自衛隊の偽装船との通信がつながった。

 

「100インチモニターとソーラー発電システム ガソリン発電機 WIFIの納入と工事の手配は間に合いそうですか?

 

「間に合わせると朝田さんは言ってましたよ。篠原さんと観光客200人の命がかかっていますからね」

 

 

ノックの音がする。 通信を切ってドアへ向かう。

 

「第一外務局のエルトだ。入っていいか?」

 

「どうぞ どうぞ 今日はニソールさんは来られないんですか?」

 

「奴は体調不良で帰した。それよりも聞きたいことがある。 お前は本当に映像付き魔道通信機器を持っているのか?

 

ニソールは体調不良には見えなかったけどなあと思いながら ノートパソコンを持ってきて電源を入れる。まだバッテリーは余裕がある。

 

「どうぞ 御覧ください」

 

エルトはその映像を見て口をあんぐりとあけた。 

 

見たこともないくっきりとした総天然色の大海原の映像。発砲するも全く当たらない皇国の戦列艦。

 

そして次々とマストを破壊する砲弾、100門級など全く意味のない光景。

 

「こっ こんなことが! こんなことが可能なのか!?」

 

魔道通信機の寸法やミリシアルの認可など、もうどうでも良かった。

 

この情報を部内でいや 関係者全員で共有しなければならない!

 

日本国にいつもの恐怖外交など迫っては国が亡びることは確実だ!

 

「シノハラ様! こ、この通信機をお貸しいただくことは可能でしょうか? 非常に高価なことはわかっております。

 

大事に扱いますので何卒 お願いいたします!」

 

「みんなに見せたいということですね?」

 

「はい。日本国の国力を皆で共有する必要があるかと愚考いたします。」

 

えらく態度が変わってしまったな。

 

「それでしたら 予定を変更してみんなで楽しんで見ることにしましょうか」

 

「?」

 

朝田さんに予定変更の連絡を取ってもらわないといけない。怒られるだろうな。

 

 

 

 

 

パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊

 

 現在地、フェン王国から西に約100kmの海上

 

パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊22隻は、日本国海上自衛隊のイージスシステム艦 みょうこう に向かった。いったん逃げたと思ったみょうこうのオートメラーラ54口径127mm砲が火を噴く。

戦列艦パオスのマストに着弾 周囲の設備と人員を巻き込んでマストが倒壊する。

慌てふためく乗員を後目に隣の戦列艦ガリアスのマストもメキメキと音を建てて倒れていく。何が起こっているのかポクトアールにはわからない。

 

そして、戦列艦マミズのマストが折れる。

 

 大砲は、そんなに当たるものではない。当たりにくいから、100門級戦列艦が存在するのだ。

 

戦列艦クマシロのマストが折れる。

 

 それなのに、敵船は揺れる船のマストを狙って当てている。しかも、ありえないほどの高速の次弾装填だ。

 

戦列艦ヤオのマストが折れる。

 

 海には、波がある。自分も揺られれば、敵船も揺れている。揺れながら射撃すれば、大砲はそんなに遠くから当たるものではない。

 

戦列艦マツバラのマストが折れる。

 

 僅かな、1度の角度の差で、着弾地点は大きくずれる。

 

戦列艦ハビキノのマストが折れる。

 

 そんな当たり前の常識を、敵船はあっさり破ってくる。

 

戦列艦トンダバヤシのマストが折れる

 

 まさかの事が眼前で起きる。

 

戦列艦サカイのマストが折れる。

 

 列強パーパルディア皇国の監査軍が、手も足も出ない。

 

戦列艦センナンのマストが折れる。

 

 絶望的な戦力差、しかも相手はたったの1隻である。

 

戦列艦キシワダのマストが折れる

 

 

 

ポクトアールは悲鳴を上げる。

 

気がつけば、ベッドの上だった。まさに悪夢。何度この夢を見たことだろう。いまだに信じられない。

 

ポクトアールはゆっくりと上半身を起こした。

 

「ポクトアールさん 面会です」

 

看護婦の横には見慣れぬ女性が立っていた。

 

「初めまして、第一外務局のエルトと申します。お話はできますか?」

 

 

 

 

 

 

皇都エストシラント 中央公園

 

 

金属製の高価そうなパイプや機材を大量に運んできた魔導式トラックは市民の誰も見たことがない。

 

このオリーブドラブ色の見たこともないほど大きなトラックは馬もいないのに中に人を乗せて勝手に動いているのだ。

 

迷彩服の作業員が忙しく働いている。単管パイプとジョイントを組み合わせて足場を組み立てていく。

 

蛮族のような品のない服と見たことのない技術のアンバランスなことにエストシラント市民と皇国の警備員は微妙な表情になる。

 

白い大きな布が垂直に張られている。 離れたところには何か丸いガラスをはめ込んだような機械がある。

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りる。巨大なスクリーンの前にたくさんのパイプ椅子が並んだ中央公園

 

観客席の中央には護衛を連れてそこだけ豪華なソファがおかれている。

 

眼前には大きなスクリーン。 横には大型のスピーカーが10台。

 

「ようこそ いらっしゃいました。レミール様」篠原は恭しく一礼する。

 

日本の映画をお見せできる許可をいただきまして、ありがとうございます。

 

「エルトから聞いたぞ。ほお これが映画というものか。あの白い布を見てお前たちはいったい何が面白いのだ?」

 

「ええ このままでは面白くありませんね。 とりあえずお座りになって飲料とポップコーンを用意いたしましたのでご賞味ください。

 

有害なものは入っておりませんがお付きの魔導士様に確認していただいてからお召し上がりください。

 

もうすぐ 始まります」

 

エルトとニソールも後ろの席に座っている。外務局や皇軍の職員や高官たちがそろっている。

 

ニソールのポップコーンを食べる手が止まらない。キャラメル味が好みのようだ。

 

公園の外周には一般市民が何事かと集まってスクリーンを見ている。無料で配られるドリンクバーにも人が群がっている。

 

「おいしい!あまーい!」「これが無料なの?!」 「なんだ こりゃ薬くさいぞ、こんなの飲めるのか?」

 

コーラを初めて飲む人はいぶかしんでいるようだ。

 

日本に初めてコーラが来た時にもこんな感想だったらしい。そのうちやめられなくなるんだよと篠原はつぶやく。 

 

そしてスクリーンには東京湾の映像が映し出される。

 

レミールは驚愕した。なんと鮮やかな映像。 まるで眼前に海があるようではないか。

 

観客全員が 感嘆の声を漏らす。

 

高層ビルの数々、空を飛ぶ鉄竜 海の下のトンネル?

 

エストシラントの世界一美しく高い建物が スクリーンの超高層建造物に比べて 急にみすぼらしく思えてくる。

 

そこに現れる大怪獣。巨大な咆哮がスピーカーから吐き出される。観客には目の前の大怪獣が叫んでいるようにしか聞こえない。

 

なんだ これは! 逃げなければ みんな驚いて悲鳴を上げて席を立って逃げようとする。

 

「大丈夫です!映画ですから あのスクリーンからこちらには出てきません!」

 

一番外周にいた迷彩服の作業員の男たちもにこにこ笑っている。

 

観客は落ち着きを取り戻し 頭をかいて席に戻った。

 

ホーシャノーという物を食べて大きくなった怪獣が街を襲う。

 

竹とんぼを上に乗せたような細い鉄竜がすさまじい速度で火炎弾を発射している。

 

高速で地を走る大量の地竜も次々と火を吐くがそれをものともせずに進撃する大怪獣。

 

高空を飛ぶ鉄竜が砲弾のようなものを落とすが効果はない。

 

高層ビルは次々と破壊されていく。

 

最後はわからない技術でつくった薬で大怪獣を凍らせてしまった。

 

終わった後 レミールは深くため息をつく。

 

「あの怪物は今もお前の国にいるのか?」

 

「ええ でも今は動かないから大丈夫ですよ」

 

レミールの表情が眼を見開いたまま固まる。 後ろでエルトとニソールが紙コップを落とした。

 

どうせ こいつらが日本に来るのはかなり先のことだろう。

その時にはガンダムみたいな像ができてるかもしれない。

 

休憩後に皇国監査軍東洋艦隊のマストを吹き飛ばす動画を見せたが 盛り上がりもなくたんたんと遠方でマストが倒れるだけの映像だったせいか みんなあまり興味がなさそうだった。

 

ポクトアールとカイオス 軍の最高司令官アルデなど政府関係者だけはスクリーンを凝視していた。

 

「11発撃って11発マストが倒れているぞ!」

 

「こんな超遠距離から揺れる波の上で1発で当てるなんて・・・」

 

驚愕する者たちを見てポクトアールの顔が少し晴れやかになった。

 

 

 

上映会の翌日

 

日本国の自衛隊員と共に今後の政策なども歴史を例にとりながら外務局全員に講習会を開いた。

 

 奴隷に炭鉱を掘らせるよりも機械の方がはるかに効率的であることをパワーポイントで丹念に篠原が説明した。

 

今後の予想売上など 統治にかかる費用と得られる利益で割りに合わないこと。

 

遠く離れた植民地の農場よりもクワ・トイネから格安の穀物をタンカーを使って輸入 物流を整えた方が効率的であること。

 

教育制度を充実させて国民全員の能力を底上げするのが最も手堅いこと。

 

恐怖政治は割に合わないことを徐々にわかってもらわなければならない。

 

日本の海上自衛隊 観艦式と富士総合火力演習の映像のDVDも見せて間違ってもこちらの機嫌を損なわないようにもしてもらう。

 

これは恐怖じゃなくて配慮だからね オブザーバーで参加していた皇軍幹部達の顔が引きつっているが篠原は気にしない。

 

フェン王国に駐留していたパーパルディア皇国軍も映画上映会の翌日には日本人捕虜を解放して 撤退した。

 

危害は加えられなかったらしいが、偶然いた篠原さんという一家だけが手厚くもてなされていたということだ。

 

まあ 縁者が観光に訪れているというブラフが効いて観光客全員が手荒い扱いにならなかったのであれば なによりだ。

奪還作戦も行われることなく終了。

 

エストシラントでの篠原奪還作戦はドライブインシアターを設置に来てくれた陸上自衛隊が任務に就くことになっていたが出番がなくてよかった。映画アルゴみたいな脱出作戦を陸自で考えていたそうだ。

 

 

 

 

一か月後 エストシラント 中央公園

 

スクリーンと舞台はそのまま 調印式の会場となった。周囲をさらにキャンバスで覆って部外者からは見えないようになっている。

 

今後の経済協力開発機構の設立 文化の発展と共に奴隷制度をなくしていくことになった。

 

いろいろやらかしてそうなので不可侵条約は時期尚早と見送った。締結して欲しければ今後の態度で示しなさいということだ。

 

日本の外務大臣と皇帝ルディアスが握手をして調印している。日本のテレビカメラが中継。

 

公園周辺に設置した100インチモニターには調印式の映像が映し出される。

 

捕虜にした200人に対しての公式謝罪としてルディアスとレミールが深く頭を下げる。

 

カメラマンが一斉にフラッシュを焚く。 ルディアスの頭頂部の光の反射が大きい。毛量があと数年でやばそう。

 

攻撃魔法を使ったと勘違いして動き出した警備兵を上官が制した。

 

ルディアスとレミールも謝りなれていないのか動きがぎこちない。

 

頭を下げているところを皇国民には見られていないと思っているだろうが、

 

外に設置された100台の100インチモニターで内部の様子は筒抜けだ。

 

 

 

彼らが実は世界征服を企んでいたなんてこの時の俺は知らなかった。どこのショッカーだよ!

 

 

 

 

全てが終わって日本へ向かう船の甲板で小さくなっていくパーパルディア皇国を眺める。

 

本当に誰も死ななくてよかった。

 

武器性能は秘匿にするという政府の方針に違反したことは、後悔していない。俺の出世の目は無くなったが200人の命には代えられない。

 

国民を守るのが役人の仕事なのだ。

 

 




お付き合い下さりありがとうございました。


200人の虐殺を何とか止められないのか 私なら土下座して嘘でも何でも条件を全部飲む と思ったのが始まりです。

ランボーのような篠原さんがレミールを人質にとることも最初は考えましたが、軍事に疎いため却下しました。

この時点ではアルタラスや他国での行っているパーパルディアの蛮行は外務省は知らないようだったので、軍事的な ざまあの展開に持っていけませんでした。

期待されていた方、申し訳ございません。

一部 修正いたしました。2020/5/9 
エルトが男だと思っていたのですが女性だったんですね。漫画で見てから本作を読んで愕然としました。修正いたしました。2022/09/16

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