少年は要塞のような異様な建造物を見上げ、ハァと溜息をついた。
「これがボーダー本部・・・テレビでは見た事あったけど、実際見るとけっこーな迫力やなぁ・・。」
「フフ、この建物全部トリオンで出来ているのよ。さ、入りましょうか!」
少年の傍らにいる20代前半の女性が彼をボーダー本部へと案内する。
まずボーダーとは、近界民から人々を守る為結成された防衛機関である。近界民はこの地球とは別世界の人間の事で、主にトリオンと言われる人間が持つエネルギーの略奪を目的とした侵攻を行ってきた。そしてその存在が数年前の三門市大規模侵攻で世間に公となり、またその侵攻を食い止めたボーダーも同じく認知されるようになったのだ。
「あ、あの・・ユリさん。なんか・・・近ないですか?」
「あら?寒いと思って身を寄せているのだけど?」
「・・・・。」
少年の腕を組んで体を預ける女性・・林藤ユリに少年は
どうしてこうなった・・。
関西の野球少年だった自分が何故界境防衛機関へと入隊することになったのかと、頭を巡らすのだった。
数ヶ月前・・・・
「「何ーっ!!ボーダーからスカウトー!!???」」
恋多郎の家族、父・正造と妹・美々に恋多郎はユリから正式にボーダーから勧誘されたことを告げた。食卓を挟んで二人の前に恋多郎とユリが座る。
二人はこれでもかと言う程驚嘆している様に恋多郎もそりゃ驚くよな・・と想定内の反応だとゴチる。これまで三門市で起きた惨劇やボーダーの存在はテレビで嫌と言う程流れていた時期があったのでそれなりにどういった組織なのかは把握してはいたが、関西住みの自分たちにとって関東で起きたあの事件は現実感もあまり感じなかったのもあって対岸の火事のような認識だった。
「いやさ、俺入る気ないって言ってんやけど、この人がめっちゃしつこくてなぁ・・・。とりあえず入るにしても親の同意がいるって言うから連れてきてん。まぁ親父の方からも言ってくれたらこの人も諦めてくれる言うし。」
「お父様。恋多郎君はボーダーにおいて素晴らしい才能をお持ちです。どうか私たちに彼をお預け頂けないでしょうか?」
ボーダーでは現在実働部隊やエンジニア、ユリのようなスタッフを全国に定期的に派遣したスカウト活動に徐々に力を入れ始めている。隊員の殆どが三門市民だが、元来持つトリオン量は生来のものなので優秀な人材を確保しようするならもっと広範囲の募集を行う必要性が出てきた。
最近で言えば生駒隊が最たる成功例だろうか。
基本得体の知れない化け物と戦うボーダーに入りたいという人間は多くなく、尚且つ10代がメインターゲットになるお陰で単身引っ越してまでやって来るなんてのは相当ハードルが高い。しかし一度の成功例があるので関西は特にスカウト活動が活発だ。
そんな折にユリが見つけたのが恋多郎である。この少年はトリオン能力がボーダーの中でも異例な程に高かった。こんな金の卵を逃すわけにはいかないとユリは使命感に駆られ、こうして本人の意思をどうにか崩そうと粘っているのだ。
「あんなぁ、林藤さん。俺野球の推薦校に進学するつもりやからボーダー無理やて何べんもいうてるやんか。それに親父取り入ろうたってあかんで!俺に野球を仕込んだんは親父や。俺をプロに入れさ「っ感動した!!!」ぁあ?」
恋多郎はユリに肩をすかせて諦めろと促すが、何故か号泣した父に言葉を遮られる。
「ボーダーと言えば世間の皆様を守る立派な人達やないか!!そんな人らがウチの恋多郎を欲しがってやなんて・・・父ちゃん今までお前を育ててこれほど誇らしかったことないわぁ!!」
うわぁあああ、と感激の涙を流し始めた父に恋多郎は愕然とした顔を向ける。
「な、何いっとんねん親父!?俺は高校で野球するんやぞ!??」
「野球なんてなぁ・・!!所詮遊びの延長線上や!ボーダーの方達と比べるのも烏滸がましいわ!!」
「おいぃぃ!?何息子のこれまでの努力否定しとんねん!!スパルタで鍛えてきたんはあんただろうぉが!?」
恋多郎の意思に反して父がまさかの超受け入れ態勢に恋多郎は動揺し、ユリも予想外と言った様な表情を浮かべていた。
「ボーダーってさぁ!お給料貰えるんやろ?お父さんの店も最近元気ないし、お兄ちゃん行ってきぃや!ウチも春休みとかに東京遊びに行ったらお兄ちゃんとこで一泊出来るし!」
「美々!お前ほんま、アレやな!?お兄ちゃんの気持ちも考えろや!!」
ギャイギャイと騒ぐ桜家。
「恋多郎!お前ボーダー入れ!!これ決定な!」
「アホか!意地でも行かんわ!!」
「言うとくけど、推薦先の高校には父ちゃんから断りの電話を入れる!ほんで三門市の高校以外の願書持ってきても俺は絶対サインせんからヨロシクゥ!!」
「なんちゅう親や・・・・。」
こうなったら父の性格上どう言っても意見を曲げないことを知っている恋多郎は床に両手をついて項垂れるのであった。
(思い出しただけでも腹立つわぁ〜。)
中学の卒業を終え三門市に引っ越し来たが、ここまできて未だに納得がいっていない恋多郎であった。ちなみに本決まりしていた推薦を蹴った事で所属チームとその高校とのパイプが消滅してしまい後輩達から罵声を浴びた恋多郎。結構傷心中なのである。
(・・ハァ。なったもんはもうしゃあないな。テキトーにやっていってたらええわ、もう。)
いよいよ基地内部へ入った二人。しかし未だユリは恋多郎に体を預けていた。
「ユリさん・・もうええんとちゃいます?」
「あ、ごめんね?流石に人に見られたら恥ずかしいよね。居心地が良くって・・。」ポッ///
ユリは名残惜しそうに恋多郎の腕を離し顔を赤らめる。
謎の好感度である。
しかし反対に恋多郎は美人と言えるユリに対し若干顔の表情が死んでいた。
なぜか?
恋多郎には自分は特に何もしていないのにこの様な反応をされたことがこれまで数えきれない様にあったのだ。
身長168センチ、顔も良くもなければ悪くもない。褒めるのならば野球をやってきたお陰で全身筋肉質なことくらい。運動神経がいいなら多少なりモテてきてもおかしくもないのだが、あくまでそれは同年代の女子にだけ通用するスペックだろう。だが恋多郎は下は小学生、上は人妻までと出会い頭の告白を受けてきたこともある。
原因不明のこの現象は本人からすれば軽い恐怖だった。
実を言うとそれは彼が持つ『副作用』という力が原因と分かるのはもう少し後の話・・・。
2人が今日基地へやって来たのは単にユリがボーダー内の案内をするわけではなく、恋多郎の入隊ガイダンスを受けるためだった。
訓練室には今期入隊の新人たちが集められ、壇上には正隊員らしき青年たちがガイダンスを進行していく。
「お、俺あの人知ってる。よくボーダーの宣伝にでてる人や。」
「嵐山君はもう何年も顔役になってくれてるから、そういう意味じゃボーダーで一番有名かも。勿論実力あっての顔役ね。」
今回の進行役の嵐山隊をユリはにこやかに紹介すると、目があったのか壇上の嵐山から手で軽く挨拶される。
新人たちはこれからC級隊員として訓練を受けなければならないので、差し当たって今回はその内容説明が話のメインのようだ。
「しっかしユリさん。隊員の中には女子もいるんスね?けっこーチラホラと。」
恋多郎は新人たちをチラリと見渡すと意外な顔を向ける。
「全員が戦闘員ってわけじゃないんだけどね。女の子はオペレーターになる事が多いし。でもトリオン体になったら男女の身体能力差がないから女の子だって侮ったらいけないよ?」
「って言っても女子に負けたら恥ずいわなぁ。」
恋多郎としては年頃の男子の心境として女子に勝負で負けることの気恥ずかしさがあっただけで、別に女子を下に見てる意図があったわけではなかったが、その言葉に片眉をあげて睨め付ける女子隊員がいた。
「・・・そういう旧態依然の性差観は持たない方がいいんじゃないかしら?男は女より上みたいな考えはあまりに滑稽だわ。」
「へ?」
「ことボーダーにおいてそんな一丁前のプライド持ってると痛い目にあうわよ!」
恋多郎にそう言ういかにもプライドの高そうな女子は少しこちらを小馬鹿にするような口調で言い放った。
(なんやコイツ。めんどくさい系女子やん。)
同じ新人隊員でありながらボーダーを知った風な感じでこの女子は恋多郎に言ってきたのかというと、彼女はこのガイダンスの前に行われた仮入隊で優秀な成績を出していたからである。その証拠に本来は新人隊員が正隊員に上がるために必要なポイントが1000スタートなのに対し、彼女は3600スタート。仮入隊で優秀だった者は早く正隊員に昇格させる目的があるためだ。
フフン、と勝ち誇った顔をする女子に少しイラッとしながらも恋多郎もそこまで子供じゃないので一応謝っておいた。
「気に障ったんなら謝るわ。そういう感じで言ったわけやないんや。」
意外と大人な対応されたことに女子はアラ?と態度を軟化させた。正直恋多郎としてはなんか面倒臭そうな相手だからテキトーに流しただけなのだが。
「でも本当に優秀だわぁ。お名前は?」
「木虎藍です。ボーダー関係の方ですか?」
「そうよ〜。私は林藤ユリ。本部じゃなく玉狛支部の所属だけどね!」
「へぇ支部の方ですか。ならこの人も玉狛なんですか?」
「んーん。彼は本部に入る予定よ。」
「え?俺ユリさんと違うとこなん?」
「私としてはウチに来てくれる嬉しいんだけど。ポッ///迅君がダメって言うのよ〜。」
((迅?))
知らぬ名前に恋多郎と木虎は首を傾げていると、どうやらポジション別に分かれて移動するようでゾロゾロと皆動き出した。
「では私はこれで・・・。」
「いや、俺の名前は聞かんのかい!!」
「聞いてほしい?」
「・・・いや・・もうええわ。」
スナイパー以外を希望する恋多郎と木虎は訓練室でトリオン兵との戦闘訓練を行う。
当然木虎は以前からトリガーの使用経験あるため難なく仮想トリオン兵のバムスターを撃破する。他が数分かかっている中で彼女がだした9秒は飛び抜けていた。
「むっちゃドヤ顔してくるんやけどアイツ!」
「センスあるな〜。」
「別にコレの上手い下手とか興味ないけど、アイツに負けるのなんか腹たつわぁ。絶対アイツ後で見下してくるやろ!」
木虎の対人欲求は年上には舐められたくない、同じ年には負けたくないというプライドの高さが伺えるものだ。恋多郎にはそんな木虎の意識がアリアリと感じられたので先程と違って結構ムキになっていた。しかしそんな恋多郎を見てユリは心配そうな視線を向ける。
(やる気出してくれたのはいいけど、木虎ちゃんの様には始めからは無理かな?孤月使うみたいだから木虎ちゃんの銃器と違ってトリガーの扱いは難しくないけど、その代わりアタッカーはトリオン体の使い方に苦戦するんだよね。元の肉体との差が激し過ぎて最初はどうしてもズレが出ちゃう。というか恋多郎君はトリオン多いから適正は銃手か射手なんだけど。)
近接戦闘は体の使い方が肝だ。格段に上がった身体能力に慣れるのは相応な訓練がいる。中にはセンスで始めから大した違和感なくやれる者もいるが相当稀だ。
恋多郎はバムスターの前に立つ。実際前に立ってみるとかなりの大きさに少し尻込みする。
「彼がユリさんが熱を上げてスカウトした隊員か。」
「なんでも凄いトリオンを持ってるんだとか。忍田本部長達も気に掛けてるらしいですよ。」
モニター室で様子を見ている嵐山と時枝は最近噂になっている少年に注目する。なんでも嵐山に至っては玉狛の迅からも注目株だととも聞いている。迅と恋多郎には面識はないのだが、迅がいうのだから確かなのだろう。
『トリガーオン!!』
「「!?」」
恋多郎が孤月を発動させるが、その孤月の黒い刀身に皆の注目が集まった。
「なんだ?カスタマイズしたのか?」
嵐山がトリガーの設定を弄ったのかと疑問を口にすると即座に時枝が否定する。
「いえ・・C級トリガーですし、先程配ったものですからそれはないかと。」
皆が疑問符をあげる間に開始の合図が鳴った。・・・と同時に爆発音と恋多郎の姿が掻き消えた。
ドッドンッッ!!!!
・・・・おそらく10秒は過ぎた頃だろうか、胴体に風穴が空いたバムスターの活動停止によって呆けた様な顔をしていた皆が目の前の現状を把握できたのは。
「な、なんだ?」
「どうなってるのよ・・。か、勝手に近界民の体に穴が・・・・?」
木虎含むC級隊員たちは何が起きたのか分からず狼狽えた様子だった。しかし場数を積んだ嵐山たちやユリとて何が起きたかわかっている訳ではなかった。だが目の前の有り得ない光景だけは理解できた。
バムスターの胴体が貫かれているのだ。あの硬いトリオン兵の装甲がだ。
通常トリオン兵を撃退するには弱点である目玉を狙う他ない。それは正隊員全員の認識であり(A級一位の太刀川等トップランカーは例外としても)、装甲など外殻は鎧のようなもので攻撃を当てたというより防がれたというニュアンスの方が近い筈だ。とにかくC級隊員がC級トリガーで装甲を破壊する事など只事ではない。
「れ、恋多郎君は・・??」
今だに姿が見えない原因の男を訓練室内を見渡すも見当たらなかったが、何か呼ぶ声が耳に届いてきた。
「重い〜〜〜!コレどけてくれ〜〜!」
くぐもった声がバムスターの下から聞こえてきたと思えば手がそこから這い出てきた。
「うぇ〜〜〜・・。なんで俺の体だけこんな速いねん。メチャクチャ酔うてもうたぁ。」
「み、充。どかしてやれ。」
下敷きになった恋多郎を解放すべく時枝は操作盤をいじって仮想バムスターを消した。そしてその時恋多郎が叩き出した数字に目を開かせた。
「嵐山さん・・・コレ・・」
時枝が珍しくも動揺した声色で指したその数字に嵐山もまた冷や汗をかく。
「コレは・・・トリオン出力値が、ブラックトリガーに匹敵している?・・一体彼は何者だ?」
「ふぅ・・。やっと楽なった。一応俺の記録はっと・・・0.1秒!?。俺つよっ!?・・・・って何この空気?」アセ
異様な空気に包まれた訓練室。
恋多郎がこの後鬼怒田の元へと嵐山に連れて行かれるのは必然であった。
いつR-15ないしR-18なるかハラハラしてる