今日も今日とて防衛任務に勤しむ恋多郎。生活費もあるしで組織内でもまぁまぁな頻度で働いてる。
今日のメンバーは笹森、烏丸、別所の同い年組に加え、異常に組む回数が多い加古である。
「桜くん。もう少し見切りは慎重になった方がいいわ。トリオン体だから他の子らは大胆に攻めることができるけれど、君はブラックトリガー。君が一時戦線を離脱する事は戦況を大幅に変えてしまうことになるのだから、無理に踏み込むことないわ。」
「なるほど。分かりました!」
流石元A級一位メンバーで、現A級部隊隊長の加古望である。恋多郎の僅かな悪癖を瞬時に訂正する。
しかし恋多郎はそれに感謝しつつも、自分の後方から下半身にずっと熱い視線を向けてくる加古に少し恐れを抱いていた。
(でも、なんで加古さんて俺とこんな組む回数多いんや?三回に二回は組んどるで・・。シフトは忍田さんらが組んでるから、女隊員とは避けてるはずなんやけど。)
恋多郎は少し前の出来事を思い返す・・・・
「初めましてだな。俺はS級隊員の迅悠一。よろしくな。」
鬼怒田からの呼び出しで毎度お馴染みの開発室に足を運ぶと、見知らぬグラサン男が自分を待ってた様に握手を求めてきた。
「S級?…ジン?ああ、アンタが噂の!!」
「そう。噂のエリート隊員といえば俺のこ「セクハラしに本部を練り歩く玉狛の暗躍者!!」・・・!?」
とんでもない事で覚えられている事に驚愕した迅。事実なのでしょうがない。
「いやいや、それは少しばかり歪曲されてるって。別にセクハラしにココに来てるわけじゃないから。たまたまなぞりたくなるお尻があるってだけで。」
「してるやんけ。ヤバイわこの人。」
顎に指を当てしたり顔をする男に恋多郎はツッコんだ。
「まぁまぁ、そんな話をしにきたわけじゃないんだ。俺から君に話をしたくて鬼怒田さんから呼び出してもらったんだよ。」
「?」
なんだ?とキョトンとした顔をした恋多郎は横にいる鬼怒田の顔を見やると、いつもの無愛想な顔をした室長は真面目な顔をして自分の了解を得ていると示すように頷く。
「君もココに入って馴染んできたとこだと思うけど、サイドエフェクトって言葉聞いたことはないか?」
「サイドエフェクト?」
「まだみたいだな。」
迅がきりだしたそれはトリオン器官に優れた者に現れる超感覚のことだ。
人によってその超感覚は様々で、現在の隊員の中でも聴覚に優れた者や視線に敏感な者などがいる。
「そして俺は未来視のサイドエフェクトを持っているんだ。つまりこれから起きる出来事を予知できるってわけ。」
「……不思議ちゃん系男子?」
「ん〜〜、そういう反応にもいい加減慣れてきてるだけど、さっきの件もあっていつもの倍は胡散臭い目で見られてるねぇ。」
この男の言ったことは間違いなく真実なんだが、こんな突飛なことをすぐ信じろと言われても無理な話である。実際彼の事をよく知らない者はこの事を耳にしたとしても尾ひれのついた与太噺だと気にも止めないだろう。
しかし冗談があまり通じない鬼怒田が同席している場なので、一応これは本当の話なのか?と恋多郎も話の腰を折らずに迅の話に耳を傾ける。
「でさ、そのサイドエフェクトはどうやら君にも備わってるみたいで。今回はその確認と諸注意をしにきたってわけ!」
「は?俺にも?」
「そ!君の場合はだいぶ特殊なケースだから、俺もその対処に結構困ってるんだけどさ。」
頭をわさわさ掻きながら驚く恋多郎に自分が視た予知と恋多郎自身がこれまで感じてきた事を擦り合わせていくように質問していく。
「これまでに女性に無条件で好意を向けられた事はある?」
「…あります。」
「それは小さい頃からずっと?」
「………はい。」
「それがボーダーと関わってきてから多くなったと感じた事は?」
「…あり、ますね。」
「その中でも上位の女性隊員の距離をが近く感じることは?」
「……はい。」
少し顔を赤らめる恋多郎を見て迅はフゥ、と息を吐き羨ましい奴、と小さくぼやいた。
「どうやら君には…言うならば、恋愛体質的なサイドエフェクトがあるみたいで、トリオンを多く持つ異性により好かれる代物なんだと俺は考えてる。」
「ど、どう言う事!?」
「俺が視た予知ではさ、君に言い寄る人間がすべからずトリオン能力に長けている人間だったんだよ。(加古さんとか香取とか…)どうもフェロモン的なのが君から出ていてそれに群がっちゃうみたいで、トリオンが少ない人や関わり合いが薄い人はまぁ目で追う程度の興味で終わるんだけど、多い人に関しては…ちょっと身の危険を感じるレベルで不味いことになりそうなんだよ。」
「身の危険て…。」
「ボーダーで内乱が起きるというか、君を巡る血で血を洗う争いが勃発するんだなコレが。」
「えぇ…。」
俄かに、いや、大分信憑性の無い話を唐突にされてただただ困惑するも迅の顔が若干青ざめてるのがこの話の真実味を強く感じる恋多郎。
しかしコレまで不自然に女性に好かれていた事に気持ち悪さを感じていたのだが、真実を知る事で意外とスッキリした心境に段々となっていく。
(つまり、小学生の時に人妻や先生に誘われた事も、最近不必要に触ってくる先輩らも、俺の体質が原因やったんか!?……正直コレまではなんか裏がありそうで怖いわと思てたけど、そういう話なんやったらコレ、悪い話やないんやないか?)
彼だって立派な青少年。そういう事にも興味のあるお年頃である。満更でもない表情を浮かべる恋多郎に迅はチョップをかます。
「あた!?」
「俺も男だから理解は十分にしてやるけど、お前が思う程微笑ましい事じゃないからな?昼ドラからの火サスになる話だからマジで!」
話の根幹を理解してもらった事で、迅から恋多郎に守って貰わなくては困る数箇条を伝える。
1、極力女性隊員との接触を控える事
2、このサイドエフェクトは口外しない事
3、玉狛支部には絶対に来ない事
あくまで混乱を避けるための予防策。S級隊員として普段から行動を少し制限させている分、強制的な事はさせられないので、できる範囲のことだけ守ってもらえばいい。
だが、迅は最後の三つ目だけは必ず守れと語気を強めて言っていた。もしコレを破れば玉狛が離散しかけるとこまで視えてしまったからである。自暴自棄になったレイジ、恋に盲目な小南、お腹をさするゆり。とても直視できない惨状である。
「……ボーダーに入ってからなんか俺、段々人権無くなってきてるような気がしてるんですけど。」
「特別な人間ほど環境に縛られるもんさ。俺もできる限りの協力はするからさ!。」
(って話やったのに、よりによってトリオン量の多い加古さんて…。なんか作為的なものを感じる。)
訝しむ恋多郎だが、当然事情を知る忍田本部長は女性隊員を避けるようにしている。しかしボーダーでも屈指のトリオン量を誇る加古の恋多郎に対する執着を舐めてはいけない。
本人の気質と精神力で直接コトは起こさないものの、もはや恋多郎を助けるならば自分の命を差し出す程までに彼を溺愛しているのだ。わずかな時間でも一緒にいられるのなら同じシフトに合わせられる様に裏工作をする程度全く厭わないのである。
一方、そんな恋多郎たちの防衛任務の様子を忍田本部長を含むボーダー幹部たちがモニターで観察していた。
「今、彼の実力はどれくらいなんです?」
暗い一室の中で営業部長である唐沢が対面に座る忍田へ質問をする。
「慶からの報告によれば劣化トリガーでも既にB級上位程の実力はある様です。元々運動で優秀な子ですから。そして初期ではブラックトリガーを持ってしても慶相手に敗戦していたものの、現在はA級部隊が掛かっても問題にならない程まで向上しています。」
忍田もつい数日前に見たA級一位である太刀川隊との模擬戦を見た結果を含め、現在の恋多郎の実力を報告する。そして忍田の後ろで立って参加していた迅がその報告に補足を付け足す。
「格闘のセンスでいえば、太刀川さん達とは比べられないですね。そこは本当にまだまだ。」
「だが、既に迅に並ぶブラックトリガー使いと言って差し支えないわい。まぁ威力に欠ける分、汎用性に長けたボーダーのトリガーを超強化出来るのだから予想できた性能具合だけどな。しかも他とは違い、ベイルアウトの機能も搭載されておる。」
そして最も恋多郎を見てきた鬼怒田がそう総括する。
ボーダーに3本目のブラックトリガー。この意味はこの世界を守るボーダーにとってどれほど大きいものか。
しかし軍事力が遥かに上がったと考えれる一方で、恋多郎という存在はこのボーダー上層部にとって大きな爆弾である事だとも考えられていた。
その考えを最も強く感じているのは司令の城戸であった。
「問題は彼が本当にコチラ側の人間であるか?という事だ。ボーダー発足前からの近界民のトリガーを見てきたが、彼のトリガーは特殊すぎる。まるでその身そのものがトリガーと言わんばかりにトリガー本体となる物は存在せず、そしてそれがブラックトリガーだと言うじゃないか?あまりに異質な代物としか思えない。それに加え、彼が持つサイドエフェクトだ。本来それは人間が持つ感覚的なものの延長したもので本来受動的に影響を受けるものであるはずが、彼は他の人間に影響を与えてしまっている。しかもトリオン使いに洗脳に近い大きな影響をだ。組織を内側から瓦解させるにはもってこいの能力……。」
ボーダー設立者の一人であり、全身の組織でも最古参。
「私は彼を信用することはできない。」
近界民を忌み嫌う城戸にとって恋多郎の存在は看過できないのであった。
そして城戸を以前からよく知る幹部たちはその発言を受けても当然そうなるだろうな、と理解していたので特に反論することはなかった。
「しかしだ。迅、お前はその彼を見ても悪い未来を見えていないんだろ?」
それでも近界民との協力関係を是とする玉狛支部の支部長の林藤は助け舟を出す。
「はい。この数ヶ月彼を見ても彼が何か起こす様子はまるでないですし、接していても人格の問題も見受けられません。確かに謎に満ちた存在というのは俺も同意見ですけど、味方と考えて間違えないかと。」
「…そうだな。お前の予知は私も信頼している。だからこれまで様子見としてきた。しかし以前お前や鬼怒田室長から受けた例の計画は現段階では承認しかねるが。」
「例の計画?」
城戸の口から出た言葉に普段トリガー関連にそれほど関わることがない根付メディア対策室長が引っかかった。
「桜がウチに来た初めから考えられていた案の事だわい。奴のブラックトリガーはトリガー性能を強化するもの。…ならばブラックトリガーを更に強化すればどうなるのか?如何程までに強力なトリガーが生まれるのか?それは実践で用いればどれだけの戦果を生み出すのか?」
ただでさえ近界民の国々ではブラックトリガーの所持数がその国の軍事力を表していると言われるほど、ブラックトリガーとは絶大な代物だ。迅や天羽が扱うボーダーが所持した二本のブラックトリガーを恋多郎が手にすればどうなるのかを鬼怒田は春先から考えていた。
「差し詰め言うならば、ブラックトリガーを超えるブラックトリガー…『スーパーブラックトリガー』の実装計画をワシらは考えておる。」