超黒トリガー   作:もりも

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幕間 加古と香取

実力者には良い待遇が付与される、といった真っ当な組織運営の例に漏れずボーダーもA級隊員以上の実力者には固定給が支払われる。それもあり、A級隊員の中にはあまり積極的に防衛任務に就かない者もいる。

加古望も以前はその内の一人だったのだが、ここ最近は頻繁に顔を出しており、急造のチームを纏める統率力と高い個人能力を持ってこれまで関わりのなかったB級隊員から尊敬を集めていた。

そんな彼女は今日も防衛任務に就くためボーダー本部内の隊室に向かう道中、少し思い悩んだ顔を浮かべていた。

 

「参ったわね…。オムツ履き忘れてしまったわ。」

 

加古望、20歳の独白である。

 

思わず口に出してしまった発言は幸い人に聞かれなかった。

 

(どうしよう。あれ履かないと滴るほど濡れちゃうのよね、桜君と会うと。今日は隊室に双葉もいるしねぇ…。)

 

最近イメチェンしたと言って、よくスキニーパンツを履いたスタイルからゆったり目のワイドパンツやロングスカートのスタイルに変えたのはこれが理由である。

 

(でも、ホントに不思議な子よねぇ…。確かに見た目や仕草は年相応の可愛げはあるんだけど、特別何かある訳じゃないのに異様に揺すぶられるのよねぇ。…正直これまでよく耐えてきたと思うわ実際。や、セクハラじみてる事はやっちゃってるんだけど……。)

 

なったばかりとはいえ大人として青い果実が熟れるまで我慢しなければ、と理性は保っている加古。しかしこの数ヶ月、ボーダー内で最も恋多郎と接してきた自負がある彼女の自制心は最早決壊寸前である。

一度家に帰って取りに行くにも微妙な時間であるし、近くの薬局で買うにも流石に素顔のまま買うのも憚られる。そんな思考を巡らしていたら、通路の向こうから数少ない実力派女子と目されている香取葉子が歩いてきた。

 

「あら、香取ちゃん。ご無沙汰ね。」

 

「どうも…。」

 

加古が今人にはとても言えない事を考えていたなんておくびに出さない様子で香取に挨拶するも、香取は随分とそっけない態度で返す。

 

「なんだか機嫌が悪そうね?(割とそうだけど。)」

 

「…そんな事ないですよ(あんたがいっつも桜といるからでしょ!私は恥ずかしくて近寄れないのに!!)。」

 

「(なんか含みがありそうな感じね。)そう言えば香取ちゃん、桜君と同じクラスなんでしょ?学校では彼どんな感じなの?」

 

「は?」

 

地雷を踏んだ。

加古からすればあまり話し込んだりした事ない香取に対して共通の話題として桜をあげたに過ぎない(もちろん学校生活の恋多郎の事は知りたい)が、同じクラスにいても遠くから眺めたり何気なく彼の椅子に座ってみたりお揃いの文房具にしてみたりと、全く関係性を築けていない香取からすれば加古はボーダーでも噂されるほどに彼にベッタリの癖にあまつさえ自分に彼の事を聞いてくるなんて嫌味を言われてるように聞こえてしまっていた。

 

「なんで加古さんにそんな事教えなきゃいけないです?」

 

無意識下に毒を吐いてしまっていた。

 

「え………?」

 

普段向けられることの無い態度に少しの間呆然としてしまう加古。ただ察しの良い彼女はこの香取の悪態の理由がすぐにわかった。

 

「なるほど。あなたもなのねぇ〜。」

 

何か腑に落ちる顔をしだした加古に香取はムッとなんの事かと問う。

 

「一人で何納得してるんですか?」

 

「いやね?香取ちゃんも桜君の事好きなんでしょ?」

 

「……………は?はぁああああぁあぁ!!???な、なななな何をいきなり!?言ってんのよ!!??」

 

「あら〜。初々しい反応ねぇ。」

 

「ち、ち違う!違いますぅ!!何そんな!?」

 

「そういうの否定するもんじゃないわよ?女の子なんだから。まぁ香取ちゃんはそこが良いんだけど。」

 

「っ………!!」

 

顔も真っ赤にして口をパクつかせる香取の様子に加古は面白くなってきたのかクスクス笑う。

そんな加古に香取も何か言い返したいのか地団駄を踏むと先ほどの加古の言葉が過ぎる。

 

「か、加古さん!さっきあなたもって!?まさか加古さんあいつにそんな感情で接してた訳!?」

 

「そうよ?私彼の事好きだもん。」

 

香取が問い詰める様な口調の疑問にあっけらかんと加古は答えた。

 

「よ、四つも歳違うのに!?」

 

「恋愛に歳は関係ないじゃない?勿論モラルはしっかり守…る、わよ。」

 

「何よ今の間は!!?」

 

ウガー、と何一つ照れもない加古に香取は頭を抱え信じらえないと言った顔をする。なくはないとは思ってはいたものの本当に男と女のアレコレで彼に近いのだとは思っていなかった。弟的な何かかと。

 

「素直になった方がいいわよ?かなりライバル多いんだし。」

 

聞きづてならぬ事を聞いた。

 

「………他にあいつの事狙ってるのいるんですか?」

 

「多いわよ〜。彼と一緒にいると視線がまぁ〜向いてくるんだから。」

 

「誰?」

 

「それはプライバシーに関わる事だから言えないわ。」

 

「くっ・・!」

 

前に烏丸を好いてた時もそういうのは結構あった。普通に恋愛的な話になった時は『烏丸君カッコいいよね。』とか『私ちょっと憧れてるんだ〜。』とかライトな感じで烏丸の話題になった事が。

しかし恋多郎に関してそんな話ボーダーで聞いたことがない。加古が言っているんだからソレはボーダーでの話に違いない。自分同様内に秘めている感じがガチ感を思わせる。

これまで香取は本気で人を好きになった事はなかった。烏丸に関しては顔がイケメンなので、ある意味アイドル的な憧れが入っていたので少しニュアンスが違う。本気で付き合えたり出来れば何があったっていいとさえ思っていたほどだ。

それなのに彼でさえ競合相手が多いだなんてと、自分なんかより可愛いボーダー隊員たちの姿が脳裏に浮かぶ。

そんな想像してしまって香取は少し半べそをかいてしまった。

 

「ぐすっ・・・。」

 

「か、香取ちゃん?別にイジワルで言ってたんじゃないのよ?」

 

急に泣き出した香取にいつにもなく慌てふためく加古。めちゃくちゃ謝った。

 

 

 

この後香取を慰める加古の姿が休憩室で見られたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




誰も恋多郎の事を話題に出さないのは、あまりに自己処理のオカズに使ってしまっているために気恥ずかしさがあったため。
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