諏訪隊隊長の諏訪はランク戦ブースの普段とは違う騒めきに何だなんだと周囲を見渡す。するとランク戦終わりの犬飼と若村がこの騒めきの噂話をコソッと話してきた。
「あの黒トリガーの桜っているじゃないですか?なんだか彼が隠れて相当モテモテらしんですよ。」
「まじか。」
先日の野球練習の件で恋多郎のモテっぷりが周知されてしまった。
「誰情報だよ。」
「俺はイコさんから。」
「僕もです。」
「ほ〜、それ系の話ウチで聞くの珍しいな。で、誰なんだよ噂になってる女の方は?」
諏訪自身ボーダー歴はそこそこ長い方だが、隊員同士の恋愛はあまり聞くこともなかったので俄に興味深い。
「なんでも諏訪さんとこの小佐野ちゃんもそうらしいっすよ?」
「!?・・・・・・い、今までで一番驚いたかもしんねぇ。マジか・・あいつそんな感じ全然出してなかったのによ。年下だろ桜ってよぉ?」
「小佐野ちゃんどっちかというと圧倒的にモテる側ですから意外ですよねぇ〜。」
「そんで、他には?モテモテっつーからには他にもいるんだろ?」
「めっちゃぐいぐい聞いてくるじゃないっスか。」
犬飼が言うようにモテる側の小佐野が惚れてる上に、他にも惚れられてる奴がいるなんて確かに周りがざわめき立つに足る話題で、思わず諏訪も前のめりになってしまう。一方犬飼の後ろで大人しく二人の話を聞いている若村は嫌な汗をかいていた。
(俺もまさか桜がそんなモテてるとは…葉子の件知っているだけに自分に無関係な話なはずが、なんか胃がキリキリする。)
先日の練習の時香取は不参加だったので照屋と小佐野の光景は見ていない。恐らく後々彼女の耳に入るであろう未来にうんざりしてきた若村。
そして更にまたもやこの話題を聞いた当真と古寺がやってきた。
「なんでも結構不特定多数いるらしいっすよ。判明してるのは照屋と加古さんだと。」と当真。
「話によるとオペレーターにもいるんだとか。」と古寺。
「おいおい、どんだけ手広いんだよ。つーか加古って…正気かよ!?どこ情報だ!?」
「「イコさんから。」」
「全部生駒じゃねぇか!!」
実は…とか言いながら主婦の井戸端会議並みに後輩たちに喋っていた生駒に何してんだ、とツッコむ諏訪。だが情報源は複数いるみたいなので信憑性は高そうだと判断できる。
「…まぁ、驚きはするけどよ。若ぇ奴らがちゃんと青春してんのは良いことではあるな。ここの奴らティーン特有の青さっつーのねぇからな。」
しみじみとそう言う諏訪に他四人は「諏訪さんおっさん臭!」と突っ込まざるを得なかった。
そしてそんなランク戦ブースの様子を覗く迅と迅から事情を聞いた風間はどうすんだと言わんばかりにジト目で彼に視線を向ける。
「お前桜の副作用のこと知ってたんならこういう状況はわかってた筈だろ。俺も主体で参加した手前もあるが、何でわざわざ野球部を始めて女子たちと距離を近づけるようにしたんだ。」
「元々俺があの副作用に確信が持てた時点で影響受けてる子結構いたし、まぁあれは純粋に桜の息抜きのために太刀川さんに乗っただけだよ。それにアレのおかげで桜の周りの女子を限定できたのもある。こんだけ噂広がったら新たに影響を受ける子らが減るって視えてたしね。」
具体的に誰々に言い寄られている男に安易に近づく女子はいないようで、案外影響は広がらずに現状維持を保てているという。
「…相変わらず裏で暗躍してるなお前は。」
「それが俺の仕事なんでね。」
「それで、ここまできても副作用のことは明かさないのか。」
「いやー、引くでしょ。人に惚れさす副作用のことなんて聞いたらさ。この事で桜を孤立させてストレスをこれ以上かけさせたくないし。」
「だが影響を受けてる奴らには説明してもいいだろう?」
「まぁ追々ね。これを明かすのはタイミングがあるっぽいって俺の副作用が言ってる。」
迅にコレを言われると何とも言えないのがボーダー組織というものだ。風間も反論の口は開かず黙る。
「確かにさ。組織的に人間関係的に支障が出かねない案件だけど、それを全部差し引いても桜の力が今後ボーダーに絶対欠かせない存在になる。それこそ人の生き死に繋がるさ。それを考慮したらとにかく桜を庇えるようにケアしないと。」
迅の行動は不確定な未来を逆算した結果である。ボーダーにとって最悪はこの世界が近界民に破壊されること、次いで個々の人命が失うこと。コレらを回避するためなら何を差し出してもいいという覚悟があった。
◆
(由々しき事態だわ…。)
すれ違う人が思わず横に避けてしまう程に異様な雰囲気を醸してる加古は警戒していた子らの一気に上がり始めた恋多郎好感度数値を懸念していた。
(これまでは歳の差もあったし、かわいい男の子を愛でるだけで満足してた部分もあったけど、そんな余裕をかましてられる状況でも無くなったわね。特に照屋ちゃんに限っては違う学校だというのに放課後迎えにまできているらしいじゃない。こないだ周りに露見してから露骨にアピールしてきてる。間に割って入るのも大人げない気もするけど、彼が他の女に盗られるのを黙ってられるほど私も大人じゃないわ。)
ブツブツと口に手を当て歩く加古。その足を恋多郎の元へ向かっている。
その恋多郎はというとトリオン量ボーダー最高クラスとも言われている二宮とのランク戦を終えたところであった。
「いやぁあんだけの弾幕、一瞬対応ミスっただけで逃げ道すら失うんやから怖いっすね。」
「トリオン量ならお前も俺と変わらん程度にあるだろう。撃ち負けるということは弾道設定の詰めが甘い証拠だ。」
10本勝負の反省会を二宮を紹介してくれた出水を交えて自販機前でしている。二宮が奢ってくれたブラックコーヒーに苦戦しながら飲んでいる恋多郎に二宮は戦ってみた所感を述べる。
「実力はB級中位から上位といったところか。だが、あれこれトリガーをセットしすぎて選択の判断が鈍くなっているな。それほど器用なタイプでもないだろう。絞った方がいい。」
「どっちかって言うとコイツ脳筋ですからね。本当は二宮さんみたいに射撃トリガーでゴリゴリ攻めた方がいいんですけど、黒トリガーの性質上多彩の方がメリットあるんですよ。」
「俺も正直バイパーとか苦手なんやけど…加古さんにはやれることは増やしておいてから考えればいいって言われてるんですよねぇ。」
「‥‥お前加古とも繋がりがあるのか。」
俄に二宮の顔が渋る。
「剣は太刀川を参考にしているんだろう?その上加古の意見なんて聞いていたらまともに育つわけない。歪すぎる。」
あまりに癖が強すぎる師匠達に出水も確かにな、と内心同意する。二宮は恋多郎に教えを乞うにも人は選べというがそこに二宮自身も加わればボーダー三大クセ強隊長が勢揃いする事は彼自身気づいちゃいないだろう。
「どうせ師事するなら、他のオールラウンダーの人間にしておけ。」
「ちょっと二宮君。人が可愛がってる子を勝手に誘導するのはやめてくれないかしら?」
「「「!?」」」
いつの間にかヌルリと現れた加古。影浦由来の呼び名の通りその気配を感じさせない登場に驚愕する三人。
「急に現れるな!」
「桜君、今日夕食は家でたべるの?今ウチの隊室に私が作ったご飯持って来てるのだけど食べにこない?」
サラリと二宮を無視した加古。青筋を浮かべた二宮を尻目に早速恋多郎に接触を図った。
「ご飯すか?」
「そ、炒飯だけどね。でも野菜たっぷり入ってるから栄養は保証するわ。」
「あ〜…気持ちは有難いんスけど、この後予定がありましてぇ〜。」
しかし俄然自分の副作用に気をつけ始めた恋多郎、加古の意図(下心)を何となく察して誘いを躱す。
「予定って?遊びの約束でもしてた?それは男の子?女の子かしら?」
断りを言った瞬間加古から僅かに漏れ出した威圧と矢継ぎ早に疑問符をつけられた事に恋多郎、ついでに隣の出水もビクッと体を震わせる。
「最近桜くん何だか人気になっちゃって可愛がってきた私も寂しくなっちゃうのよね。ほら、最初に比べたら私といる頻度も減ってきちゃったじゃない?それに話しかけるのもほぼ私からってのも気になるし、私としてももっと求められて欲しいっていうか。」
これまで自分の下心をひた隠すために余裕のあるお姉さんムーブをかましてきた加古が吐き出すかのように本音を並べ出した。余裕がなくなってきた証拠である。
これに普段の加古を知る二宮と出水はえも言えない恐怖を感じており、恋多郎に至っては自分に対して好感度が表面化していた照屋以上に副作用の影響のヤバさを感じていた。改めて考えれば加古は女性隊員の中でトップクラスに入るトリオン量、当然こうなるのだが彼は彼女に上手く誤魔化されていた事にようやく気づいた。しかし意外な所から助け舟が出てきた。
「ねぇ、聞いてる桜くん?」
「…お前頭どうかしたか?」
「は?」
「こんなガキに熱を上げているだと?一部隊の隊長ともあろう奴が恥を晒すな。」
先程は少し動揺したものの、二宮はいつもの冷静な佇まいで半ば暴走気味の加古へ非難の声を上げたのだった。
「…なんで二宮君にそんなこと言われなきゃいけないのかしら?」
「今自分の姿を鏡で見てみろ。滑稽を通り越して無様と良いっていい。…人の色恋に口出す気は無いが、お前のその桜に対する詰め方はタチの悪い女のソレだ。」
「へぇ…随分女を知ってる言い草するじゃない?クールぶって対して経験ないくせに。」
「何?」
なぜか話の流れは隊長同士のレスバへ移行。どうしてこうなったと恋多郎と出水は思ったが、元東隊のこの二人は元々合わない節があった。
「大体お前の気色悪い炒飯を人様に出すな。どれだけ周りに迷惑かけてるか分かってるのか。主に堤に。」
「あら?二宮君や堤君に出すやつと同じにするわけないじゃない。当然厳選した確実に美味しいものを出すわ。」
「お前…実験してた自覚あったのか!」
話は脱線に脱線してもはや関係のない事で言い争いを始め出した二人。最終的には個人戦で決着付け出す始末だった。
加古 ○×○ ○○× ×○○○
二宮 ×○× ××○ ○×××
「「加古さんつよっ!!?」」
「ぐっ…。」
「さ、二宮君なんてほっといて隊室に行きましょ♪」
「ちょ、加古さん!?だから俺これから用事が!」
「ウソ♪耳が赤いわ。コレ君が嘘とか言ってる時の証拠なんだから。」
「え?俺そんな癖知らん…。」
腕を引き摺られながら連れていかれる恋多郎。それを見送る出水は南無、と彼の貞操の無事を祈るのだった。