サッと作ったんですけど、本当はこんな話にする予定でした。途中で自分で書いてて辛くなったから辞めた没案です。
────夜が明ける。死闘の末猗窩座に勝利した命は、白む空を見ながら、万感の想いと共に、落ち行く意識を繋止めながら、深く息を吸い込んだ。
(これで…君は
やり切った。あの二人を守り、漸く自分の生に意味を見い出せた。きっと、この為だけに生まれたのだろうと、笑って見せた。
その時だった。
君、持って帰って鬼にしよう。
「────ガァっ!?」
ベベンッ
あの鬼の声と共に、聞き慣れぬ琵琶の響きを置き去りにして、その場は何事も無かったかのように、静寂と二対の鉄扇だけが残された。
階級庚、武布都命。上弦ノ弐を撃退後、上弦ノ参討伐。必死に捜索されるも、遺体すら見つからず断念。鴉の証言により戻ってきたズタボロの上弦の弐に腹を貫かれ死亡。名誉の死と語られることになった。この出来事をきっかけに、柱達の更なる実力向上に死後も貢献。彼の残した医学手帳を元に、胡蝶しのぶは取り憑かれたように毒・薬を作り、勢力的に鬼殺をこなし、蟲柱となる。
そして、数年後に現れた竈門炭治郎の入隊により、物語は大きく進展。上弦の鬼を複数討伐。柱も欠けることなく、禰豆子も太陽を克服。そして、決戦の舞台へと移る。
「姉さん!」
「しのぶ!」
無惨を追い詰め、無限城へと取り込まれた胡蝶姉妹は、何とか合流。2人でこの無限城を攻略することを決意する。
「花の呼吸 弐ノ型────!」
「蟲の呼吸 蝶ノ舞────!」
濁流のように押し寄せる雑魚鬼を前にも、2人は決してその目の色を絶望に染めることは無かった。
「御影梅!」
「戯れ!」
無双の強さを見せる2人のコンビネーションに、雑魚鬼は為す術なく腐り落ち、頸を切り落とされる。
そして、2人は血の匂いを頼りに、ある鬼に立ち向かう。
傷だらけの火傷痕が残る、男の鬼。その姿に、2人は見覚えがあった。
「お前は…ッ!」
「貴方は…ッ!」
「おやおや?見覚えがあるなァ、小さなその子の、その
屈託の無い笑みを貼り付けた、仇。ただこいつを殺すためだけに、しのぶは生きてきた。
彼を失い、喪失の想いに耐え切れなかった。けれど、彼が遺したこの羽織だけが、しのぶの心をつなぎ止めていた。
「良く見ろッ、この羽織りを!お前を死の淵に追いやり、お前に殺された彼の物!」
「命君の仇…ッ貴方は絶対に許さない…!地獄に叩き落とすッ!────?」
しのぶは柔和な口調を思い切り崩し、ただ殺意を滾らせる。鬼を哀れと悲しむカナエですら怒りに呑まれ、同じく口調を崩したが、カナエだけは違和感を覚えた。
その違和感。あの夜、確かにこの鬼の瞳に刻まれた数字は【弐】だったはずなのだ。
それが、今は【参】の字が刻まれている。
「────思い出した!俺を殺しかけた彼の羽織り!懐かしいなぁ…彼には、あれからも
そして、ピタリと静寂が訪れた。
その言い草、まさか、まさかと。2人の頭に、最悪の想像が過った。
「そうだ!鳴女殿!面白いものを見れそうだから、彼と俺の場所を交代させてくれ!感動の再開を…果たそうじゃないか!」
ベベンッと、空中に現れた襖から、酷く懐かしい香りを、2人は明瞭に嗅ぎ分けた。
「やぁやぁ!
「黙れ、意思も持たぬ肉人形が。疾く失せろ。」
声を掛けられ、数瞬のうちに童磨の首を刈り取り、襖に投げ入れてコチラを一瞥することも無く童磨が作りだした惨状を眺め、ゆっくりとその姿を、2人に見せた。
「女か……戦うのは趣味ではないが────?…なんだ…この、感覚は…」
「…うそ…うそよ、そんな…酷い…!」
「なんで、彼が…そんな…っ」
瞳に刻まれた、上弦・弐の文字。変わらぬ、変えられぬその面影が、2人を絶望に叩き落とした。
「何故か…懐かしい香りがする…花と…藤か?よもや、人だった頃の知人か?奇妙な物だ。」
「どうして…命…」
その鬼は、4年前に死んだと思われた、命だった。
喜べない、嬉しいはずなのに。けれど、まだ治せる、あの男の言葉が本当ならば、まだ────
「…お願い、命…私よ、思い出して…!胡蝶しのぶよッ!」
「…っ?…悪いが、知らん…しかし、何故だ…体が上手く動かん…いつもなら、俺は……────俺は……なんだ…?」
「────命君!思い出して!貴方は鬼なんかじゃない!貴方は武布津命!鬼殺の隊士で、私の継子よ!」
迷いに入る命に、記憶を思い出させようと、カナエは叫ぶ。しかし、血鯰はその考えを吹き飛ばし、剣を抜いた。
「抜け、女共。この迷いと共に、貴様等を斬り捨てることにした。」
『────っ!?』
さっきの鬼よりも遥かに強い剣気。この鬼が本気なら、一瞬のうちに殺されると思った。けれど、どうしてか殺気だけが欠如していた。
その一瞬で既に、刃は首元まで迫っていた。
「────ッ?!っ!?」
飛び起きたしのぶは、自分の首を撫でて繋がっていることを確認して、荒れた息を整えた。
「…ふぅ〜っ!…ふぅーッ…!ゆ、め…?最悪…」
現実を理解してからも、心臓が飛出ているのかと思う程に煩く音を上げる。
同時に、とてつもない不安に襲われる。
本当に、夢なのか?
いつもなら、隣に居るはずの命は既に居ない。そこに居たと示す温もりもなく、布団の乱れもない。
一瞬でゾッとした。
まさか、あの幸せな時間が、全て夢だったら?
その最悪の想像をして、全身に鳥肌が立った。いつもなら四半刻はかかる身支度をすることも無く部屋を飛び出して、まだ夜明け間近の蝶屋敷を駆ける。
研究室にもいなかった。道場にもいない。どこかどこかと探して、ふと、考えた。
本当に、彼が、いない?
湧き上がる、喪失の実感。自分だけが、あの幸せな夢に囚われ続けていた。
しのぶを襲った絶望は、激しい怒りに変わった。
あの鬼を、死んでも殺す。
その唇を噛み締めて、握った拳から血が滴り落ち、何よりも涙が止まらなかった。
その時
「ふぃ〜、疲れたぁ…あれ、しのぶ…って、なんで泣いてる!?」
「────み、こと…?」
ちょうど帰ってきた命と鉢合わせ、呆然と命を見つめて、その場に崩れ落ちる。
「し、しのぶ、どうしたんだ一体!?」
「本、物?本当の、命?」
「……は?いや、本物も何も…俺は命だけど…」
気の抜けたような、こっちの気も知らぬような無神経な返事に、命の存在を確信したしのぶにあった喪失感は、徐々に怒りに変わっていった。
命の胸に突っ込んで、ボカボカ叩きながら、嗚咽混じりに叫んだ。
「……どこに、行ってたの…!心配して…っ、いなくなっちゃったとっ…!」
そうやって、悲愴たっぷりに言ってやれば、命はため息混じり疑問符をうかべた。
「どこにって…言っただろ。久々の任務が入ったって…今終わって帰ってきたんだけど、忘れたのか?」
「────あっ」
そして、しのぶはハッと思い出した。眠い目をこすりながら、なんか言われたなぁと。
「……聞いてなかったか。確かに、眠そうにしてたからな。」
「す、すみません…」
深々と頭を下げるしのぶの頭に、人差し指をグリグリと押し付けて、大体の事情を悟った命は、しのぶを正座させた。
「……俺が死ぬ夢でも見たか?」
「…じ、実は…そう、なの…ば、馬鹿馬鹿しいわよね!こうして、命は私の前にいるのに!」
「────そうとも、言えないよなぁ。」
「命…?」
いつもとは違う雰囲気を纏った命は、自嘲したように笑った。しのぶは、そんな命が珍しくて、目を見張ってしまった。
「…なに、夢も馬鹿にできないものさ。君の見たその夢も、もしかすると起こり得た可能性の一つなのかもしれない。」
「何言ってんのよ…もう。はぁ、安心したら眠くなってきちゃったわ。」
ドっと肩の力が抜けたしのぶは、まだ目頭に残っていた涙を雑に拭って、命の背中を叩いて風呂場に押し込んだ。
「そんな汗臭い体で布団に入ってこないでよね!」
「俺の枕の匂い嗅いでるの知ってるからな?」
「なんで知ってんのよ変態!」
「そうカッカするなよ。薬は渡してあるだろう?ちゃんと飲めよ〜」
「最っ低!早く風呂いきなさい!」
そうやって、セクハラ紛いの軽口も勢いで流して、風呂場に押し込んだ命の服を洗濯場に運ぶ。
「夢じゃない…ふふっ…」
少しだけ香る彼の匂いが、夢ではないことを教えてくれて、思わず笑がこぼれた。
本当はこういう感じの絶望マシマシの話書くつもりだったけど、構成組んだ時点で精神が死んだ。
だから命君は生きてるんですねぇ!
ちなみに、バットエンドの方はカナエさんを殺した時に人の頃の記憶を思い出して、発狂して襲いかかったしのぶさんに受け入れるように殺される。灰になっていく命が安らかに笑ったのを見て、本当に全てを失ってしまったけれど、それでも前に進むしのぶさん。って感じにする予定でした。誰も幸せにならない話嫌いなんだよなぁ…(??)