狂い舞う蝶に花を   作:イベリ

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みんな鬼滅の刃飽きちゃった…?私が見させて頂いていた作者さんたちが軒並み更新しなくなってる…


散るも花よ

『────私は、大切な者を何一つ守れず、人生において成すべきことも成せなかったなんの価値もない男なのだ。』

 

赫灼の、どこかまだあどけなさが残る青年を前に、自身の無能さを痛感した。

 

嗚呼、そうだ。私は何も成せなかったのだと。生命を簡単に踏み躙るあの男に、怒りという感情を抱いた。

 

『────お労しや…』

 

どこまでも尊敬して止まなかった。それでも、自分ではダメだった。あの人を止められなかった。嗚呼本当に、自分はなんて役立たずなのだろうか。

 

『────貴方は価値のない人なんかじゃない!』

 

嗚呼、この言葉に、この家族に、どれほど救われただろうか。

 

『────後世に伝える!約束します!』

 

涙ながらに叫ぶ青年に、誰かは笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

「────また、この夢か……」

 

縁真は、まだ陽も昇らぬ時間に、ふと目が覚めた。

幼少より幾度となく見る、知らぬ男の夢。それは、歳を重ねる毎に鮮明に、感情の起伏すらも深く感じさせた。

 

傍らに寝かせていた、継国の家に伝わる宝刀。それを握り、抜き放つ。

 

「…先祖よ……私に、あの子に…何を見出したのだ…」

 

数百年も受け継がれているこの刀は、きっとそういう業を秘めている。

 

闇夜の中で尚黒く輝く旭の花札を模した鍔の、黒い日輪刀。一族に伝わるこの刀は、遠い先祖が最後の瞬間に握っていたという。

 

この刀の存在が、先祖が鬼狩りであったことを示唆している。刀を見ればわかる。刃毀れひとつも無く、歪みも摩耗もない。過去の使い手がどれほどのものだったのか伺い知れるというものだ。

 

継国の家が滅び(・・)自分一人となった今、この宿命にも思える何かを、誰かに託すつもりはなかった。

 

しかし、老いさらばえ、これから何を残せるのかを考えていた時、もう会うこともないかと思っていた命の来訪は正直に嬉しかった。

 

そして感動した、あれ程完璧に、己のものにされていることが。

 

縁真の技は、確かに受け継がれていた。過去に見たときより流麗に、過去よりも無駄が削られた。昔からその才覚の片鱗は見せていたが、20に満たない内にこの場所まで来るとは思ってもいなかった。縁真の見立てでは、鍛錬を続ければ30の頃には、覚醒するだろうという見立てだったが、命はそれを簡単に覆してきた。

 

笑いが止まらなかった。嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。継国の家督争いに巻き込むまいと遠ざけ、姓すら変えたあの子が、よもやここまで極まっているとは。

 

己が焦がれ、極めた剣を、ああも自分のモノにされることが、存外に気分がいいものだった事にも驚いた。

 

それを命は、己の物に昇華させた。技術は移ろう物。使い手によって在り方を、使い方が変わる。古きより伝わるものだけが、至高では無い。命は、それをよく理解していた。

 

「…長生きはしてみるものだ…なぁ、詩よ…」

 

縁真は、命との鍛錬を思い出し、今日はどう扱いてやろうかと悪い笑みを浮かべながら、未だ暗い中道場へ足を進め、日課の鍛錬をしようと、道場の扉に手を掛けると、既に中には気配があった。

 

(ほぅ……中々、悪くない。)

 

少し扉を開けて覗けば、中ではしのぶが鍛錬を行っていた。既に鍛錬を始めてから数時間は経っているだろう程に疲労を浮かべているが、その動きは蝶のように軽やかだ。

 

首を切れぬ程に非力だと聞いていたが、光るものはあるし、やり方次第では恐らく化ける。

 

そして、勘づいた。

 

(……命め、教えなかったか。)

 

命程の観察眼、腕があれば、しのぶはこの程度の実力ではなかっただろう。鍛錬に耐える胆力も、基礎も出来上がっているしのぶが、なぜこの程度で留まっているのか納得が行った。

 

それでも、初めて命が自分以外の誰かを大切にしている所を見て、笑みが零れた。

 

(しかし……まずいな…)

 

だが、騒ぐ。縁真の剣を握る者としての勘が、矜恃が、好奇心が騒ぐ。

 

1度考えてしまったら、もう止まらなかった。この娘は、どれほど強くなるだろうか。あと1ヶ月ほどこちらに滞在するとのことだ、そうすれば、2人を今よりどれほど強くできるだろうか。

 

(……あ〜、すまん命。無理だわ。)

 

光る原石を放って置けるほど、縁真は大人ではなかった。武の探求、強者の育成は、縁真の生き甲斐となっているのだから。

 

「精が出るな、しのぶ嬢。」

 

「あっ、縁真さん!おはようございます。」

 

「はい、おはよう。して、命は?」

 

「まだ寝てますよ。命ったら、一回寝たら全然起きないんです。いっつも私が布団を抜け出しても起きないんですから…」

 

「ははは……そうか?」

 

その話を聞いて、縁真は思わず乾いた笑いがこぼれた。

縁真の記憶の通りならば、命は異常なまでに眠りが浅い。部屋の外を誰かが通る度に覚醒し、誰かの身動ぎが聞こえる度に剣を構えていたはずである。

 

(良い変化…か。)

 

命の変化は、とてもいい傾向にある。守る物がある人は、強い。それに、前のように浅い睡眠だけではいつか体を壊す。そうなる前に変われたことを、この少女に感謝すべきなのだろう。

 

「さて、しのぶ嬢。こんな時間から鍛錬とは感心だ。が、少し力が入りすぎているな。もっと、抜いてみなさい。」

 

「えっ、こう、ですか?」

 

「そうだ。もっとゆったりと、風に揺蕩う雲のように、自由に穏やかにだ。」

 

そうして少し矯正してやれば、すぐに無駄は消えた。意識を怠らなければ彼女の突きはより速く、より強くなる。

 

「い、今の…!」

 

「技は決して力ではない。しのぶ嬢はソレを理解していても、まだまだ固い。より靭やかに、蜂のように鋭く……どれ、良ければ、私が見てみようか?」

 

「ほ、本当ですか!是非お願いします!」

 

「よしきた。自由に打ってみなさい。」

 

「胸をお借りします…!」

 

凄まじい剣気は、本能的にしのぶを萎縮させる。その剣気は命と似通った性質で、空気のような、そこにあることが当たり前のような雰囲気を持っている。

この空気は、あの上弦の鬼達にはなかった物だ。

 

(この空気が、強さの秘訣…?)

 

 

そこを見抜くことが出来たとて、戦闘力に関して、今の所しのぶはまだ低い。しのぶは考えを振るって、縁真に突きを放つ。

 

「ほぉ…何という突き!」

 

「……っ!」

 

縁真は称賛を贈りながらも、片手間にしのぶの突きを流し、更に来いと口角を上げた。

 

「これでも鬼殺隊の中では、突き技なら柱と同等を自負してるんですけどね…っ!」

 

「世界は広いのさ、しのぶ嬢。それ、足元がお粗末だぞ?」

 

危うく足元を払われそうになったしのぶだったが、なんとか軽業で回避、ヒラヒラと舞い降りる様に着地はしたが、たった数回剣を交わしただけで、これ程に神経を使うのは初めての経験だった。

 

「っ!?っと、と…!あー、もう!ホンットに、師弟揃って規格外すぎ!」

 

「ハハハ!ほら、踏み込みを意識して。さぁ、もう一度だ……本気で来なさい。」

 

「──はいっ!」

 

その声と同時に、深く体を沈めたしのぶは呼吸を変える。

 

「蟲の呼吸 蜈蚣の舞 百足蛇腹」

 

しのぶが今出せる最速。ソレは、命と共に仕留めた下弦の鬼すら止めることはできず串刺しにし、貼り付けた岩壁すらも砕くほどの強烈な突き。そして、縁真の言いつけ通り、二歩更に深く踏み込む。一気に加速したしのぶの刺突と踏み込みを見て、縁真は目を見張った。

 

(助言を素直に吸収できる柔軟さ。そして、この速度…何という軌道だ、常人ならば見ることすらできぬか。)

 

縁真はしのぶの評価を、一段回上げた。ソレは、剣を握るものとして、敬意と激励を含めて。

 

「故に、見せよう。こちらも技を。」

 

鋒が縁真の胴に突き刺さったとき、しのぶの鋒は縁真の体を貫通して、空を突いた。

 

 

「───えっ?」

 

「天道流 虹蜃(ニジミズチ)

 

 

しのぶは、確かに縁真の姿を見ていた。その場にいたし、見間違えるはずがない。だのに、気がつけば縁真はしのぶの背後に周り、襟を掴んで猫を抱えるようにしのぶを引っ掴んでいた。

 

「これぞ、天道流。面白いだろう?命もできるぞ、この程度ならな。」

 

「う、うそ…だって今…え?」

 

訳の分からない現象に、しのぶは未だに困惑顔を浮かべながら、ストンとその場に降ろされた。

 

「とまぁ、先のようにして突けば、より攻撃的な剣技を作り出すことも可能だろう。それこそ、鬼の首を斬ることも(・・・・・・・・・)、な。」

 

「───っ!」

 

未だ惚けるしのぶに、縁真は可能性を見せた。

 

「一ヶ月のみだが…やってみるかね?」

 

「やります…やってみせます!」

 

しのぶの瞳には、今までにない希望の光が宿っていた。

 

 

 

「先生。あんた、しのぶに稽古つけてんだろ。」

 

「あぁ、面白い様に素直でな…ちょいと疼いた。」

 

あれから2週間。2人が打ち合っている時だった。

 

命が唐突に尋ね、縁真は何の気なしに即答する。溜息を漏らす命をよそに、くつくつと笑う縁真は相当に面白いらしい。

 

「過保護が過ぎるぞ、命。」

 

「何のために俺が鬼となんぞ戦ってると思ってる。」

 

また木剣を衝突させ、数合で弾き飛ばしてしまう。今日だけで既に木剣を5本もダメにしている。

 

「やはり、加減せねば木剣ではすぐにダメになる。」

 

「そりゃそうだ。それなりの使い手が打ち合って無事なら、それはもう木じゃないだろ。」

 

「それなりの使い手か。謙遜も過ぎたるはと言うぞ?」

 

「抜かせ。」

 

手元に残った木片を放り投げ、からんからんと転がった音が道場に反響した。

 

そして無表情のままに、それぞれの腰から刃を引き抜く。さも当たり前のように、真剣で打ち合う気なのだ。

 

「────2人ともー、ご飯できたわよー!早く来なさーい!」

 

そこに、しのぶの声が響いた。

 

つい数秒前まで無表情だった2人は、ふふっと口角を上げて、刀を鞘に収めた。

 

「くくくっ、尻に敷かれとるなぁ。」

 

「お互いにな…ほら、怒られちゃかなわないから行きましょう。」

 

どうにもしのぶの前ではそれ程本気になれないらしく、縁真は柔和な表情のままに命に続いた。

 

「あっ、来た。今日はお魚が美味しそうだったの。」

 

「ほぉ、アマゴとかではないかな?」

 

「ふふっ、残念ですけど鰤です。」

 

「まぁしのぶ嬢の手料理だ、有難く頂こう。うむ…分かるぞ匂いだけで美味い。」

 

「まぁ、持ち上げてもお漬物がつくだけですよ?」

 

上機嫌に台所をパタパタ移動するしのぶを見て苦笑しながら、台所から美味しそうな料理を運んで来てくれる。

 

「さっ、食べましょう!」

 

『いただきます』

 

3人で揃え、箸を手に取る。この3人の食事は、しのぶが喋らねばとても静かなものだ。もとより命も縁真も口数は少ない。故にそうなるのは必然だった。

 

しかし、今日は命が口を開いた。

 

「────先生。考えてくれたか。」

 

「……あぁ。アレ、か…」

 

「アレ?なんの話ししてたの?」

 

どこか含みのある言い方に、しのぶは首を傾げる。縁真は濃い緑茶を啜って、一息吐いた。

 

「…鬼殺隊の思いは分かる。無辜の民を守護せんとする思いはな。私も、誰かの為に剣を握った時期があった。」

 

突然語られる、鬼殺隊に対する思い。しのぶはその言葉で、答えに至った。

 

「まっ、待ってください!もしかして、縁真さんって…」

 

「…言っていなかったか。私は、一時期鬼殺隊に席を置いていたことがあった。」

 

しのぶはその言葉に驚愕したが、漸く合点がいった。

 

珍しい黒刀も、あれは日輪刀。良く聞けば静かだが全集中の呼吸もしている。卓越した剣術も、やけに慣れている実戦の指南も。

 

全て、経験則から来るものだった。

 

「縁真さんが来て下さるなら、百人力です!きっと、みんなもっと強くなれます!」

 

「済まないが、私は鬼殺隊に協力するつもりは無い。」

 

「そう…ですか…」

 

ただ目を瞑る命とは反対に、少し俯くしのぶ。しかし、その言葉も今のしのぶならば理解出来た。自分達が歪んでいる事も、わかっているから。

 

しかし、縁真は続ける。

 

「だが、お前の頼みだ。無下にするのも忍びない。」

 

「────じゃあ…!」

 

「どうせ無意味に散っていくのならば…お主らの為にこの生命を使いたい。」

 

また柔らかくこぼしたその言葉も、本心なのだ。しのぶは先の表情とは裏腹に、花が咲いたように笑った。

 

「お主らに同行しよう…しかし、私は鬼殺隊に協力するのではない。あくまで2人の未来の為に剣を取るのだ。そこだけは、理解していただきたい。」

 

「…充分です。感謝致します。」

 

深く頭を下げた命を見て、物珍しいものを見たと朗らかに笑った。

 

 

 

「────散るもまた、花の運命。私も、そろそろそっちに行かねばな…」

 

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