狂い舞う蝶に花を   作:イベリ

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しのぶさんの最後が悲しくてやりきれない。
まぁ、鬼滅めっちゃニワカなんですけどね。アニメしか見てませんし。


本編
君が笑わぬ世界の為に


(────嗚呼…終わった────終わったよ……)

 

崩れ行く鬼の首領、鬼舞辻無惨の体を眺める

 

ただの鬼殺隊隊士、武布都命(タケフツミコト)は、長い夢を見た。幸せで、儚く、然れど残酷な夢。

 

 

『全く…そんなにぼーっとしてるからこんな怪我するんです…動かないでください…また、隊士達を守ったんでしょう?全く…貴方はいつも無茶ばかり…』

 

病室のベッドの上に寝かされ、治療される。

仏頂面で、呆れ顔の君の顔が、よく見えた。初めて会ったのは、最終選別。鬼に囲まれ、背中合わせに戦った。彼女が足止め、トドメが自分。七日間、たった2人で複数の鬼を相手にした。

 

君は初めから終わりまで仏頂面だったけど。

 

『…私は、鬼の首が切れないんです…力が無くて…でも、諦めなかったんです。姉さんと、一緒に鬼を倒すって約束したから…貴方は、応援してくれる…?』

 

育手からも見放されて、彼女は姉である花柱の継子となったらしい。

どうしても、鬼を許せないのだと彼女は言った。元々喋るのは苦手だ。でも、頑張って応援してると伝えたら、彼女は泣きながら「ありがとう」と言った。

 

別に自分は、鬼に家族を殺されたとか。大切な人を亡くしたとか。そんなことは無かった。ただ、自分の生きる意味がわからなくて。何となく鬼殺隊に入っただけ。鬼を殺して死ねば、無意味な自分の命にも、価値が付くと思ったから。

 

でも、少しだけ。君にこんな顔をさせる鬼が────

 

 

 

────鬼が、嫌いになった。

 

 

 

 

『────────わた、し…ひとりぼっちに、なっちゃいました…っ────』

 

報せを受けて急いで君が住まう屋敷に駆けた。運がいい事に、任務は無かったから、すぐに君の元に駆けることが出来た。

 

部屋の中にいた君は、今まであった目の光を失っていた。ただ姉が着ていた羽織を握り締めて、呆然とこちらを見ていた。

耐えきれなかった。初めて、こんな激情が沸き起こった。それよりも、何よりも、初めて彼女を抱き締めた。壊れんばかりに抱き締めた。

 

こんな時、自分でなければ、何を言うのだろうか。

 

慰めの言葉は容易い。

 

希望を指す言葉は、きっとこの状況では禁句だ。

 

頭を回した、必死に考えた

 

 

でも

 

 

 

────俺は、何も言えなかった。

 

 

 

泣き叫ぶ君を、胸に抱くだけ。

それから、俺は君の傍に居続けた。

 

御館様に無理を言ってお目通りして、休みを貰うために畳に頭を擦り付けて土下座をした。何とかこぎつけていた『乙』の位を捨てる覚悟で頼んだ。すると、あっさりと許された。拍子抜けする程に、あっさりと。そんな俺に、御館様は

 

『花が枯れてしまえば、蝶は止まる場所を失ってしまう。ただ一輪の花は、枯れてしまった…君が、彼女にとっての花になってあげなさい。────(ミコト)

 

これまで会ったことも無い、柱でもない一隊士の俺の名前を覚えていた事に衝撃を受けたと同時に、頭から血が出る程畳に擦り付け感謝して、急いで彼女の元に向かう。

 

『■■■…!』

 

『……みこ、と…?』

 

『■■■…暫く、一緒にいても…その、いいだろうか。』

 

『────…いて、くれるんだね…命…』

 

撓垂れ掛かる■■■を抱き締める。体重を預かっている筈なのに、全く重さを感じない。軽すぎる、小さ過ぎる。

 

嗚呼、神よ…いるならば答えてくれ────この子が何をしたというんだ。

 

幸せに過ごしていただけなのに何故、こんなにもか弱い彼女が不幸にならねばならないのだ。

 

心の内で、初めて誰かの為に、全てに激昴した。

 

 

俺は、鬼と────神様が憎い。

 

 

それから、■■■と共に過ごした。元々この屋敷────蝶屋敷には彼女の姉である■■■が存命であった頃も、よく招待してもらっていたし、全集中・常中を鍛錬し会得したのもここだ。

 

鍛錬と、■■■と会話を繰り返した。楽しそうに話してくれる■■■に、俺も少しだけ…彼女の支えに慣れていると思えた。

 

 

だが、それは

 

 

 

────思っていた、だけだった。

 

 

 

共に蝶屋敷で暮らし始めて、2ヶ月。変化は、葉が落ちるよりも唐突に訪れた。

 

 

『おはようございます。武布都さん(・・・・・)。』

 

 

朝起きて、顔を突合せた■■■のその顔には、笑顔が貼り付けられていた。普段とは違い、化粧が薄くされていて、髪の結方も違う。何よりも、彼女が身につける羽織は、彼女の姉のものであった。

 

『────■■、■?』

 

『はい!貴方の■■■ですよ?』

 

既に、■■■は壊れてしまっていた。

 

姉の背中を追うあまり、自己に投影してしまっていた。それ程に、彼女はもう、壊れていた。

 

あの日、あの場所で、2人死んでしまった。

 

『■、■■■…やめてくれ…悪い冗談はよしてくれ…っ…』

 

『…武布都さん?なんのことを言っているんですか?私はいつも通り…さっ!今日も頑張りましょう!』

 

『────────』

 

その時に、自分の中の何かが、バキリと割れた。

 

後悔の思念だけが流れ込んでくる。

守れなかった。彼女の笑顔を、彼女の呆れ顔も、仏頂面も、何も守れなかった。

 

 

俺が、弱かったから。

 

 

蝶は狂ったように羽ばたく(笑う)。もう、君が笑わない世界は、ない。

 

 

もう君は────

 

 

 

 

俺の名を、呼んではくれない。

 

 

 

 

 

『もうやめるんだ…命…お前まで壊れてしまえば、■■■は本当に壊れてしまう…』

 

剣を支えに、汗だくになりながら、現柱である『悲鳴嶼行冥』にまた土下座をして鍛錬をつけてもらっていた。元々、俺は岩と雷の呼吸の2つを混ぜる為にこのふたつを伸ばしていた関係で、親交があった。岩よりも適性があると花柱を紹介してくれたのも彼だった。

 

彼女とは、既に半年以上会っていない。合わせる顔がなかった。

 

『俺がっ…弱がっだから…っ!俺がッ!!強かったらッ!!■■■は…っ!』

 

『なんと悲しきことか…このような幼子にすら…世界は牙を剥くというのか…南無…』

 

泣きながら手を合わせる悲鳴嶼さんに、俺は斬り掛かる。あの人も、俺の気が済むまで付き合ってくれるあたり。怖がられているが、普通にいい人なのだ。

 

 

そこから、1年のときを経て、自分の階級は『甲』に上がり、彼女は柱になった。しかし、会うことは無かった。

 

会いたくなかったなんてことは無い。会いたかった。とても。でも、合わせる顔がなかった。彼女の顔を見てしまうと、もう俺は立ち直れない気がして。傷だらけになっても、死ぬ程体調が悪くても、しのぶがいない時を見計らって傷の薬や手当だけを受けて、自分の屋敷に逃げるように帰った。

 

鬼を狩りまくった。100を超えた時に、御館様に呼び出された。

 

『…さて、単刀直入に言おう。命、柱になってはくれないかい?』

 

『………俺が…ですか…』

 

『あぁ…君も知っている通り。今、柱は一人欠けてしまっている。杏寿郎の抜けてしまった穴を埋めなければならない…君には資格がある。下弦の鬼の討伐、及び上弦の鬼撃退の功績は、柱に足る功績だと思うんだ。行冥も君を推した。』

 

俺は強くなった。竈門君や、我妻君、伊之助君、煉獄様との任務も、1人の犠牲を出しながらも、上弦の参の両腕を切り落とし、撃退。夜明けまでなんとか生き残ることが出来た。

だが、俺には何も出来なかった。できなすぎた。

 

『…申し訳、ありません…その話は、お受けできません。』

 

俺は────無理だった。

 

『…理由を、聞いてもいいかな?』

 

『…何も、守れなかった、俺には…その称号は重すぎます…』

 

御館様は、何も言わなかった。全てを知っているから。俺は、無礼ながら、フラフラと屋敷を出て、鎹鴉が知らせる任務の方向に駆ける。

 

 

少しでも、彼女が、無駄な体力を使わず、休めるように────鬼を斬る。

 

 

 

それからは、あっという間だった。

鬼舞辻無惨を追い詰め、鬼になってしまった竈門君も、竈門妹も人に戻った。

 

最後の戦いで失った右足と左目。それを引きずるようにして、墓の前に立つ。

 

『■蝶し■■ ここに眠る』

 

あの時から、おはようも言うことが出来なかった。俺が意気地無しだったから────弱かったから。

 

彼女の継子に渡された、自分宛の遺書。彼女は元々、この平穏には戻る気はなかったと聞かされた。

 

手紙を見て俺は、後悔した。

 

『─────私は、貴方を慕っています。』

 

 

 

気づいたら、紙がぐしゃぐしゃだった。濡れていて、文字が滲んでいる。手紙から、君の温もりが溢れてきた。

振り返って、降り積もる後悔の過去。泣いて泣いて、墓に縋り、許しをこう。

 

ごめん、ごめんなさい。俺が傍にいれば、君の柱になれたなら。

 

────好きだった、好きだ。愛していたのに。

 

 

 

 

 

俺は、世界が嫌いだ。

 

 

 

 

『────起きて、命。』

 

不意に、彼女が囁く声が聞こえた。

 

 

長い、長い夢を見ていた。何よりも、嫌な夢だった。

 

 

「おはよう、しのぶ…今日も起こしてくれたのか…」

 

「あの時の風格はどこ行ったのよ、シャキッとしなさい!全く…おはよ、姉さんがご飯作ってくれたのにこんな時間まで寝て…早く行くわよ!」

 

「…か、カナエさんのご飯は絶品だからなぁ…はは…。」

 

「貴方も、姉さん姉さん言う…」

 

「拗ねないでくれ。君のご飯は今日の夜だろう?楽しみにしているよ。」

 

「っ…調子いいんだから…」

 

ありがとう、俺。あんたと同じ轍は踏まないから。だから、ゆっくりしのぶの元に逝って、土産話でも聞かせてやってくれ。

 

大丈夫、彼女はそんなことで怒りはしない。胸を張って、生きてやったと彼女に話してやってくれ。

 

俺は────俺が見たい世界にする。命に変えても。

 

これから、運命の日が訪れる。

 

なんとなくで入った、無意味だったこの人生に、意味ができた。

 

 

 

 

 

寒い寒い夜だった。

 

頭から血を被ったような、鬼を見つけた。手には2対の鉄扇。張り付けたような笑顔に、虫唾が走る。

狂った笑顔で花を踏みにじり、今にもその命を刈り取らんとする。今度は、目を背けない。

 

「────(たけ)の呼吸 武舞 武御神槌(タケミカヅチ)

 

一閃

 

居合から続く2連撃で鉄扇を叩き斬り、手首を切り落とす。

 

黒地に赤の立涌花菱の羽織が音をたてる。

 

「痛いなぁ…もう少しでその子を救ってあげられる所だったのにいきなり「黙れ」

 

「喋るな、貴様と話すことは無い。カナエさん、呼吸をしないで、常中をやめるんだ。奴の血鬼術は肺胞を壊していく。」

 

「み、こと…くん…逃げ、て…」

 

「喋らないでください。死を近づけるだけだ。そうしたら、俺がここに来た意味が無くなる。」

 

「へぇ!カナエちゃんって言うん────」

 

鬼の言葉は、そこで途切れる。否、出せなくなった。

 

「俺は言ったはずだ。貴様と話すことは無いと。」

 

鬼の喉仏が、抉り取られていた。しかも、鬼は何をされたのかすら理解できなかった。そして、治らない。いつまでたっても残るのは、焼けるような痛みと、未知のものに感じる、不思議な感覚だけ。

 

目の前の男が、異常な強さを持っている事だけが、事実として突きつけられた。

 

生まれて初めて、恐怖を感じた。14やそこらの少年に、恐怖を感じた。

 

「上弦の弍、童磨。お前はここで殺す。────この命に変えても。」

 

柄を、握り潰す。純白に赤の線が入った刃が、赫く染まる。燃えるような、真っ赤な夕焼けの様に、刀身が燃え上がる。

 

非才の彼には、痣など出せない。武の極致にも、片足を突っ込むのが限界だった。

 

だが、これならば出来た。鍛錬の末、生木をも砕く程の握力を得た。万力の握力で、柄を潰す。既に彼が駄目にした木刀、柄の数は20を超える。

 

赫刀

 

夢で見た技術で唯一完全に再現し、極めることが出来た技術。

 

「お前のせいで…狂った蝶を見た────地獄を見た。同じ轍は踏まない。喰われて、意志を繋いで…はいおしまい…?させるかそんなこと…絶対にさせないッ!!」

 

血走る瞳が、鬼を射貫く。

 

鬼の頬に、冷や汗が流れる。極大の殺意、極大の憎悪。突き刺さるように肌を焼いた。

 

「この技術は…彼が教えてくれた。彼の後悔の念が、俺に後悔するなと叫んでいる。」

 

これは、狡だ。夢からとって掴んだ力に過ぎない。呼吸の仕方も、『武の呼吸』も、着想を得たのは夢を見てから。狡に重ねた狡なのだ。

 

 

────だからなんだ

 

 

罵りも、罵倒も、甘んじて受け入れよう。彼女が笑わなくなる(狂わぬ)ならば。耐えられる。

 

「俺は────お前を斬るためだけに…生きてきたッ!!」

 

息を、全て吐き出す。歯の隙間から漏れ出す吐息が、熱を帯びる。ごっごっごっ、と特殊な呼吸法で、肺がぺしゃんこになる迄吐き出す。

 

「この羽織を覚えておけ…貴様が最後に見る物だッ!」

 

視界が狭まる、ただ1匹の鬼しか目に入らない。

酸素が足りない。それでいい。

 

この技は、君と作りあげたもの。君の突き、そして俺の斬撃を組み合わせたモノ。

 

この鬼を殺す為だけに作りあげた技。

 

この一撃に全てを賭ける。

 

相手が驚愕や恐怖を感じ、体が硬直している隙に、一撃で仕留める。

 

俺ならできる、力を貸してくれ、しのぶ。君と作りあげたこの技で、この鬼を殺す。

 

 

 

 

「武の呼吸 蝶舞(ちょうぶ) 武布都ノ蝶(たけふつのちょう)

 

 

 

 

俺は、君が笑わぬ(狂わぬ)世界が欲しい。

 

 

 

 

ただ、それがあるだけで…それだけで────俺は強くなれる。

 

 

 

 

 

 

君の仏頂面が、どうしようもなく好きだから。

 




こんな話が書きたかっただけ。

多分続かない
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