狂い舞う蝶に花を   作:イベリ

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やっぱりちょっと書きたかったからどれくらい続くか分からないけど書きます。

あと彼の技とかは刃牙のスペック見て思いつきました。

吸って吐く呼吸法があるなら、無呼吸があったっていいよね。


届かない

「それを吸っちゃ駄目っ!!」

 

カナエの絶叫を置き去りにして、吐き出した蒸気を伴って地面を蹴り飛ばす。鬼の目の前に躍り出る命は、息を止めた。

 

武の呼吸

 

命としのぶが1から生み出した呼吸。命が使用する武の呼吸は、従来の呼吸とは違う。武の呼吸のその特徴は、無呼吸運動(・・・・・)にある。人は、一瞬力を入れる時、無意識のうちに呼吸を止めている。これを意識的に行い、瞬発の力を極限まで高めているのだ。全集中で取り込んだ酸素を一瞬で体中に巡らせ、肺に停滞させるというものだ。負荷が通常の呼吸よりも大きい代わりに、絶大な力を引き出す。

 

そしてこの技、

『武の呼吸・蝶舞 武布都ノ蝶(タケフツノチョウ)

 

完全なオリジナルの技であり、2人で鍛錬している時に偶然生まれた技。しのぶの独自の呼吸である『蟲の呼吸』にも同名の技が存在する。彼女の技は拾連の突き技なのだが。

 

一つに結んだ真っ黒な髪を靡かせ、蝶が舞うような歩法から一変、急激な直線運動より繰り出される無呼吸の拾連の斬撃。稲妻の如き速さの斬撃は、童磨の体を細切れにしていく。未だ完成していない体から繰り出される型は、ジリジリと体力を削っていく。視界が狭まり、徐々に意識が混濁していく。

 

それが何だ

 

これが最大のチャンス。この鬼を殺す最大のチャンスなのだ。

 

油断している、呆気に取られた一瞬。本来のこの鬼のポテンシャルならば防げただろう。だが、回復しない傷跡に状況が追いついていないのだ。

 

鉄扇が袈裟懸けに胴を切り裂く。叩き、斬り裂いた鉄扇の破片が、頬を抉った。貫き破壊した鉄扇の破片が腕に突き刺さる。

 

だからどうした。

 

血鬼術を出す暇は与えない。ただこの一瞬のみに命を賭けろ。

 

腕を抉り、脚を抉り落とした。目玉を切り裂き、あとは頸を斬り落とす。

 

ぐるりと回転し、速さを増した横一閃が、頸目掛けて振り抜かれる。

 

「とっととくたばれ糞野郎ッ!!」

 

「────これは、不味いかな?」

 

何も感じない瞳に、僅かな恐怖が写った。

 

絶叫する鬼に、最後の瞬間を感じた。刃が頸にくい込み、焼き切るように頸の半分程に刀身を埋めた。

 

 

────()った!!

 

 

べべんっ

 

頭に響く琵琶の音。鬼の真下、その空間に襖が訪れる。

夢で見た、上弦の肆の血鬼術。

 

逃げられる、逃げられる。

 

最後の抵抗をした童磨は、日輪刀を側面から殴り付ける。

 

日輪刀が、根元からへし折れ、鋒が宙を舞う。急速に刃の色が薄くなり、元の純白に戻る。

 

襖が開き、鬼が沈んでいく。手を伸ばしても届かない。

 

逃げられる、逃げられる、逃げられる

 

 

 

 

────逃がさない。

 

 

 

 

そこからは、まさに執念のみが命の体を突き動かした。

 

閉じかけた襖を破壊。そのまま中に飛び込む。

中は吹き抜けの様になっていて、鬼と命は落下していく。すぐさま追いついた命は、宙を舞っていた鋒を握り締める。手の平から滴る血を無視して、握り潰す。

 

赫刀を作り出し、鬼の頸に振るう。

 

「凄いなぁ、君は────あと一歩で俺を殺せるね。」

 

巫山戯たようにケラケラと笑う鬼を無視し、なおも頸を落とす為に、力を篭める。

 

刀身が進むと同時に、悟った。

 

(────────死ぬ)

 

敵の本拠地に飛び込み、この鬼を殺したところで、死ぬか、鬼にされるか。ここは鬼舞辻無惨の拠点で、自分は満身創痍。退路も上空にある。もう、引き返せない。

 

嗚呼、これで、彼女は笑わない(狂わない)で済むだろうか?

 

でも、これでいい筈だ。この鬼の頸を刈り取って、それで自分も腹を切る。鬼になって彼女に牙を向けるくらいなら、死んだ方がマシだ。

 

彼女の仏頂面が頭を掠め、静かに笑った。

 

そして、力を込める。

 

その数瞬の迷い、その数瞬の走馬燈が、命を死の淵から引き上げた。

 

 

 

「────────命ッ!!!」

 

「────」

 

見なくてもわかる、彼女があそこにいる。

でも、もうこの鬼を殺してからでは間に合わない。今すぐに離脱しなければ間に合わない。

 

命の脳裏に、過去の思い出が走馬灯によって巡る。花柱の仮継子として居候のような形で蝶屋敷に住むことになって2年。最初は自分以外にいなかった人員は徐々に増えた。今では随分賑やかで、彼女も寂しくはないだろう。最初は野良犬のような彼女だったけれど、段々と心を開いてくれた。

 

だから命は、笑った。彼女が笑わぬ世界を作れるのだと。己を誇った。そして、最後に彼女の顔を見上げた。

 

 

「お願いっ!掴んでっ!!!」

 

 

「────っ」

 

 

泣いていた。叫んでいた。夢で見た、彼女の姉が死んだ時のように。

 

 

未来が、見えた気がした。

 

 

彼女が、壊れる。

 

 

決断は、無意識だった。

反射レベルで動いた彼の体は、諦めた筈なのに呼吸をしていた。

 

「────残念、次の機会にまた会おうね。次は、殺してあげるから。」

 

深く吸い上げ、パンパンに膨れ上がった肺をそのままに、停滞。左右の壁を蹴り上がり、差し出される手に手を伸ばす。

 

彼女の小さな掌が、命の手首を掴む。

 

 

暖かい。

 

 

引っ張りあげられる。真ん丸の月が、夜を照らし、彼女の美しい顔を、良く照らした。

 

髪が珍しく下ろされている。

 

そんな関係のないことを考えながら、命は地面を転がりながらなんとか受け身を取り、大の字に寝転がった。

 

体が冷えている。しかし、今は自分よりも優先すべきことがある。

 

「しのぶ…!カナエさんを処置して────」

 

言おうとして、しのぶに遮られた。キッとキツい眼差しに、思わず口篭る。

 

「姉さんの治療は終わってる…凍傷だった。肺が極度に冷えてて、もう少し処置が遅かったら剣士としてはもうやって行けなかった。」

 

「そ、そう…流石…じゃあ早くここを離れて…」

 

「貴方の応急処置が、先。」

 

「は、はい…」

 

それからは、ずっと無言。視界の端に「あらあら〜…」なんてボロボロの状態で言ってるカナエを見て、命はこんな状況で良くあんな顔を緩められるなぁ、なんて、こっちもこっちで緩んだことを考えていた。

 

粗方の応急処置が終わり、唐突に実感した。

 

守れたのだと。

 

こうして目の前で彼女が、不機嫌そうに俯いているのだって。それが嬉しくて仕方がない。

それが、彼女は気に食わなかったようだが。

 

「…何嬉しそうにしてんのよっ…!なんで全部諦めた顔したのよっ…私、私っ…!」

 

「えっ」

 

ギョッとした。知り合ってから3年間。彼女の涙など、あの夢以外で見るのはほとんど初めてだった。

 

「し、しのぶ…?!」

 

「…もうっ…心配させないで…っ!」

 

綺麗に手当された傷跡が、妙に痛む。いや、それはもっと奥の痛みだった。心が痛かった。

 

命の隊服を握るしのぶの頭を撫で、自身の羽織をしのぶに被せた。

 

「……あの時、本当に諦めてた。死ぬつもりだった。でも、君の声が俺を引き上げてくれた。ありがとうしのぶ、心から感謝する。君がいなければ、こうして君の頭を撫でる事も、なかったかもしれなかった。」

 

「………うん……」

 

「…ほら、俺はもう平気だから。帰ろう。カナエさんの治療もある。」

 

殺り損ねたやつの事は、今は忘れる事にした。ただ次に会った時は、その決意だけを抱き、今の家とも呼べる蝶屋敷に帰る為に、しのぶの手を握った。

 

 

────この時、生死の境を彷徨った命の感覚神経は、極限まで研ぎ澄まされていた。故に

 

 

「────っ!?」

 

 

背後に迫る死を、間一髪で回避した。

しのぶの腕を掴み、カナエの元に放り投げ、背後の敵に蹴りを見舞い、自身もカナエの元に舞い降りる。

 

荒く吐き出す息、呼吸が乱される。それは、目の前の男の殺意故か。

 

自分が避けていなければ、自分が少しでも気を抜いていたなら、今のあの瞬間に、全員が死んでいた。

 

「いったぁ…なにすんのよ命!わた、し────」

 

「そんな…こんな事って…」

 

しのぶのカナエの瞳が、驚愕に見開かれる。カナエの頬に、冷や汗が流れた。

 

運命は、この姉妹を逃さない。

 

「────よく無傷で避けた、鬼殺の隊士。よもや柱だったか?」

 

桃色の髪、白い肌に走る黒い線の刺青。そして、瞳に刻まれる『上弦・参』の文字。

 

夢で見た、この鬼の強さ、技の完成度の高さを。正に、拳鬼。修羅そのものと言ってもいい気迫。

 

この鬼を、知っている。

 

「猗窩座…!!」

 

「ほぅ!俺を知っているのか。どこの一門だ、柱の一門となれば…水柱か?あれは強かった。」

 

乱れる呼吸を正し、命は正確に判断する。

 

カナエは今、全集中すら使えない。ただの剣士。しのぶに関しては、あの一撃に反応すら出来なかった。

 

戦えるのは自分1人。

 

そして、命は理解した。なぜ、今自分がこの場にいるのかを。

 

そこからの行動は早かった。

 

「鴉、夜明けまであと何分だ。」

 

「20分!ノコリ20分!」

 

「本部に戻って直ぐに柱を派遣してくれ。誰でもいい。なるべく強い人を連れてきてくれ。時間は稼ぐ!」

 

「了解ーッ!了解ーッ!」

 

呼吸を整える。

 

「…命君、貴方…」

 

「わかっているはずだ、カナエさん。呼吸も満足に使えない貴方が戦ったとしても、ただ無意味に死ぬだけ。逃げた俺たちも追いつかれる。」

 

「でもっ!」

 

「貴方は柱だ。こんな所で死んでいい人じゃない。俺の代わりは、いくらでもいる。」

 

「…待って、命…何言ってるの…?ね、ねぇ?逃げよう?」

 

「…刀を貰います、師範。返せそうにありませんので。」

 

笑えた。彼女の前で、2人の前で、上手く笑えた。

 

そして、伝えなければ。この赫刀を。

 

「いまから、ある物を見せます。覚えて、伝えてください。」

 

「……分かりました、しかと、見届けます。」

 

「姉さんッ…!なんでそんなこと言うの!?3人で逃げようよ!あと20分なら…!」

 

「しのぶッ!!…見ていなさい。彼の、覚悟を踏みにじるつもりですか…っ…お願いだからっ…何も、言わないで…っ!」

 

「────嫌…っ!イヤイヤ、イヤっ!なんで…っ、なんでよっ…!」

 

無力を噛み締め、厳しく叱責する姉に怯むしのぶは、それでも嫌だと泣いた。

命は、いつものしのぶを見るように、そっと微笑む。そして、肺に溜まった息を全て吐き出す。

 

「…正直、俺も偶然知りました。特別な事はいらない。ただ────」

 

花の鍔が罅割れる。桃色の線が走る刀身が、熱を帯びる。

 

「────万力の力で、柄を握る。」

 

一気に吸い上げ、息を止め、刀の柄を思い切り握り締める。一気に燃え上がる刀身。罅割れる柄。正に紅蓮に染る刀身は、どこか太陽を連想させた。

命の刀剣でないこの刀は、壊れるまで果たしてどれ程の猶予があるのかわからない。ただ、死ぬ迄時間を稼ぐだけだ。

 

「待たせたな、猗窩座。夜明けまで────付き合ってもらうぞ。」

 

ボロボロになった隊服を引き裂き、手当され丁寧に巻かれた包帯を破り捨てる。それすらも邪魔であると判断した。

 

ユラりと構えた命を見て、猗窩座は歓喜する。

 

「その歳でそれ程まで…いい闘気だ…!今まで屠ってきたどの柱よりも洗礼されている!至高の域に手を掛けているのか(・・・・・・・・・・・・・・)!嗚呼、嬉しいぞ!童磨を屠っただけはある!俺はお前が気に入った!鬼になれ!お前の強さにはまだ上がある!俺と共に更なる高みを目指そう!」

 

「…またそれか、断る。高みを目指すのは人故に。鬼になっては守りたい物も守れない。」

 

「…弱者を守って何になる?強さこそが全てだと言うのに、貴様も下らん義に絆されたか。」

 

「その弱者こそが俺の守りたい物だ。強ければ、なんだっていいのだろう?」

 

「…面白い男だ…この俺を前に、微塵も恐怖が感じられない。」

 

どっしりと構える猗窩座を見て、命は呼吸を深くする。

 

「あぁ、怖くないさ。死ぬつもりはないから────だが、この(みこと)、ここで果てようとも惜しくはない!」

 

この姉妹を生かす。それが、この命の使い道。

 

「そうか、それがお前の名か…行くぞ、命。」

 

「…しのぶ、師範、生きろ。生きてくれ。」

 

「────ぁっ」

 

拳と刃が交わったと同時に、カナエは暴れるしのぶを押さえ込み、その場を離れる。

 

「姉さんっ、お願い離して!お願いだから!彼を置いていかないでぇ!」

 

「ごめんね、しのぶ…っ、ごめんね…っ!」

 

背後から鳴る剣戟の音に、カナエは無力を改めて痛感した。今まで過ごして来た弟も同然の少年に、命を救われた。そこから逃げるように走り去った。殿となる彼を見捨てた(・・・・)。悟っているのだ、彼が助かることは多分きっと、無い事を。特に親しかったしのぶには、酷な事を迫る事を、ただ悔いていた。自分がもっと強かったなら。

 

流れる涙が、しのぶの頬に零れ落ちた。

 

そうして漸く、しのぶも悟ってしまった。彼の死を。

 

「────あ、ぁあ…嫌、嫌よ…みこ、と…命…っ」

 

彼の羽織を握りしめ、ボロボロと流れ溜め込んだダムが崩れたように流れる。霞む視界、遠のく背中に手を伸ばす。

 

首が切れない事を悩んでいた時に、励ましてくれたのは彼だった。

 

『大丈夫、君なら絶対できる。』

 

その遠のく背に、今まで感じていた、淡い感情が一気に発露した。大切で、ずっとそばに居て欲しい人だった。

ずっと傍に居てくれると、そう思っていた。今にも言葉にしたかった。

 

藤の花が綺麗だと微笑むと、彼は少し嫌そうに、それでも首を縦に振った。

 

『君にその花は似合ってるけど…俺は────』

 

羽織から香る、彼の匂い。未だ残る手の温もり。響く優しい低い音。全てが愛しくて、大好きだったのに。また、奪われる。

 

でも、その手を掴むには、その言葉を届けるには、もう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遠すぎた

 

 

 

 




はい、ここで自己解釈説明タイムです。
えー、原作において赫刀の説明がわからなすぎて、痣があるから出せるのか。それとも無くても出せるのかよく分からなかったのです。ネット漁ってもよくわかりませんでした。確かに痣を出した人が赫刀を出してましたが明確に『痣者しか出せない』という描写はなかったので。えーそこで、断熱圧縮の原理を勝手に当てはめました。
このお話の中では、痣がなくても赫刀は出せる。としました。間違ってるのかもうわからんです。
知ってる人いたら教えてください。純粋に疑問です。
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