狂い舞う蝶に花を   作:イベリ

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箸休め、箸休め。

過去編とかいつかやりたいな。

しのぶさんの彼への思いをただ連ねる番外だと思ってください。


蝶屋敷少女日記:胡蝶しのぶにとって

私────胡蝶しのぶにとって、命と言う少年は、親友よりも近しい存在だった。出会いは最終選別で、危ない所を助けられ、そこから7日間を共にすごした。鬼殺隊に入ってからも、任務は殆どペア。故に連携を磨くことも多かった。男には珍しく、姉にあまり興味を持たず、色気も優しさも無い自分とばかりいる不思議な少年だった。

 

姉の事をどう思っているのかと尋ねた時「え、いや…別に…?」と言う反応をされ、逆に気に食わなくなり殴ったこともしばしば。

 

しかし、関係は良好だった。初めこそ警戒していたけれど、優しい人当たりの命と、いつしか暮らすようになっていた。私と仲のいい男子という事で、姉さんの機嫌は絶好調になり、あれよあれよと継子になってた。

 

まぁ、それは結果的に良かったのだけれど。

 

彼は優秀だった。天才とまでは行かないけど、見た型は2週間で完璧に模倣、一月たてば自身のものへ昇華させていた。それに、すぐに蝶屋敷の人達とも仲良くなり、当時居た3人の継子とも関係は良好だった。

 

羨ましかった。自分より背の高い彼が、自分より大きな手が、自分より強い筋力が。当たり散らしたこともあった。全部持ってるくせに、同情して一緒にいられても迷惑だと。鍛錬の相手も根気強くしてくれて、クタクタになるまで付き合ってくれていたのに、上手くいかないことを、八つ当たりしてしまった時があった。

 

その時の命の顔を、私は今でも覚えていた。

 

どこか迷子の様な、居場所を無くしたような顔をしていた。

 

すぐにハッとして、謝った。彼は同じ様な顔をして、優しく許して頭を撫でてくれた。「君の気持ちも考えずに共にあるのは良くなかった。」と言われて慌てて違うと首を横に振った。思えば、この時既に彼はかけがえのない存在だったのだ。

 

そのあとは、相談に乗ってもらったりもしていた。鬼の首が斬れないのだと言えば、精一杯励ましてくれて。

 

胸の中に疼く、淡い熱も見て見ぬふりをして、後悔した。死ぬ程の重症で運び込まれた彼は、生きていた。だが、意識は不明。復帰出来るかも怪しいほどに、ズタズタだった。

 

上弦の参から私たち姉妹を逃がすために、殿をつとめた。もう、帰ってこないと号泣したけれど、彼は帰ってきてくれた。それだけで嬉しかった。

 

彼が運ばれてから4ヶ月。彼はずっと眠り続けたまま。殆どを命のそばで過ごし、離れるのは風呂と厠のみ。

 

寝ずの看病をする私に、姉は微笑ましげに笑うだけで、住み込みで働いている者たちの方が私を心配しているくらいだった。

 

そして、三日月が私達を眺める夜中だった。

 

彼が目覚めた。

 

何を言おうか、なんて言おうか。言いたいことがいっぱいあった。

 

良かった、嬉しい、ごめんなさい、ありがとう。

 

その言葉が零れる前に、体は動いていた。彼に抱き着いてすすり泣き、ただ謝っていた。

 

1人にしてごめんなさい、弱くてごめんなさい。

 

でも、彼は優しく抱き締めてくれて。

 

自分は1人ではなかった、君の毒が俺を生かしてくれた。そう言って、強く抱き締めてくれた。

 

その時の温もりが、心の温度が気持ちよくて。私は、その時にはもう、彼がいなければダメになってしまうと思った。

 

覚悟が決まったのは、いつだったろうか。この淡い炎が日に日に強くなっていることに、見て見ぬ振りを止めたのは。

 

確か、命が目覚めて一月位の頃。彼に縁談が来た時だったろうか。本当にどこから聞きつけたかはわからないが、命に会いたいと言う少女が現れたのだ。

 

最初は「は?」と思ったが、聞けばよくある事らしい。助けた人から惚れられ、結婚。なんて、鬼殺隊の寿脱退のパターンらしい。

 

命と話している所を盗み見たが、気立ての良さそうな、可憐な町娘という感じだった。直情的で体の起伏も乏しい自分なんかよりも、よっぽど女性的で、魅力的に見えた。

 

命は自己評価が果てしなく低いが、もう少し見直した方がいいと思う。癖のない真っ直ぐな美しく長い黒髪に、歳よりも若干幼く見える童顔、纏う柔らかな雰囲気、何より優しい。紅顔の美少年…は褒めすぎだけれども、世間でも美少年と言って通る見た目はしている。

 

…多少色眼鏡が入ってることは認めるけど!それを抜きにしたって、彼は…その、いい男、だと思う。

 

まぁ、この時の私は酷く焦った。

 

辞めてしまうのか?いなくなってしまうのか?

 

不安の気持ちが漏れだした。

 

でも、彼は首を横に振った。

 

 

守りたい人がいるのだと。

 

 

「怒りん坊で、すぐ不貞腐れるし、よく照れ気味にどつかれるけど…そうして彼女が感情を表に出す事が、嬉しくて仕方ないんだ。」

 

微笑んだ命は、頭を下げてその少女の縁談を断った。少女は軽く微笑んでから、蝶屋敷を後にしたけれど、私は気が気じゃなかった。

 

そこまで鈍いつもりはないし、鈍感ぶるつもりもない。彼の言ってる人が、誰なのかはわかっている。顔に篭もる熱も、激しく脈打つ心の臓も。全部が気持ちを理解させるものだったから。

 

それから少しして、朔の夜に思いを打ち明けて…幸せだった。正直格好つけてしまって恥ずかしくて仕方なかったけど、彼だって同じセリフを口にしたのだから、きっと悪くないはずだ。

 

それでも、抱き合った温もりはお日様よりも暖かくて。軽く触れた口付けは、花の蜜よりずっと甘くて。寄り添って布団に潜り込んだら、幸せの香りに包まれた。

 

いつだったか、酔った姉さんが語った女の幸せというものを思い出す。

 

この抱き締められる温もりが、この湧き上がる様な暖かい感情が、きっとそれなのだろう。

朝目が覚めて、1番に貴方の顔を見る。安らかに寝息をたてる貴方が愛おしくて、ツンと顔を突っつけば、むにゅりと形を変える頬が可愛くて。顔のニヤけが収まらなくて、アオイ達にバレないようにするのは大変だった。

 

 

鬼の頸も切れない、ずっと嫌いだったこの小さな体が、手が。彼に包まれて、その温もりを全身で感じられるから、ちょっぴり…ほんの少しだけ好きになった。

 

 

私にとって命という人は、兄であり、弟であり、家族であり────なにより、姉と同列に語れる、最愛の人なの。

 




次はカナエさん視点で出したい。多分2個くらい話し出したあとだと思う。
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