狂い舞う蝶に花を   作:イベリ

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今回は義勇さん出します。命君の立ち位置と言うか、彼が如何にして


思わぬ邂逅

「武布都、暇か。」

 

昼下がり、猫と戯れ癒されていると、特徴的な半羽織を着た訪問者が現れた。

 

「冨岡さん?えぇ…縁側でお茶飲んで猫と戯れてる位ですし…」

 

「なら、来い。」

 

任務も研究も今日は休み。しのぶもカナエも居ない蝶屋敷の留守番を任されていた命は、急に訪れた水柱、冨岡義勇によって、道場に連れ出されていた。

 

「冨岡さん、本当になんの御用です?」

 

「やるぞ。」

 

尋ねても、要領を得ない返答しか帰ってこない。だが、木刀を投げ渡され、漸く何がしたいのかを察した。

 

鍛錬だ。

 

「行くぞ。」

 

「…お手柔らかに。」

 

そして、木刀を打ち鳴らす音が道場に鋭く響く。

 

「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り」

 

「フンッ!」

 

水平を斬り裂く様な斬撃を、足元から掬い上げるように弾き返す。

 

「お前は、型を使わないのか。」

 

「えぇ、型なんてもの知ったのも鬼殺隊に入って暫くしてからですしね。なくても別に戦えてましたし。ほとんど癖で…型はあるんですけど、自分の刀じゃないと圧でへし折れるので。」

 

「……そうか。」

 

それからも2時間近く打ち込み稽古は続いた。互いが汗だくになりながら、打ち続ける。

すると、義勇の纏う空気が変わった。

 

「水の呼吸 拾壱ノ型 凪」

 

(拾壱…初見だ。何よりこの空気…似ている────そうか、ならば…)

 

「────俺も出そう、技を。」

 

 

義勇が編み出した拾壱ノ型。どこか猗窩座の羅針を彷彿とさせる空気に、命は口角を少し上げる。

 

戦いを楽しいと思ったことなどないが、この時ばかりは心が踊った。

故に、自身の技で迎え撃つ。

 

「武の呼吸 神樂(カグラ) 魕還(オニガエ)し」

 

「…!」

 

義勇の表情が変わる。初めての経験だった。

 

ある程度の強さを持つ者ならば、説明しにくいがそれなりの空気を纏っている。勿論、命もそれを纏っているし、義勇が感じるその空気は、柱の中でもかなり上位の方だ。しかし、その命から、全てが消えた。

 

戦意も、浮かべていた笑みも、全てが無に還った。

 

間合いに入った攻撃、そして次の手を予測し、最低限の攻撃で敵を倒す。猗窩座の血気術を命流に改造して、作り上げた。

 

命は、猗窩座という鬼が嫌いではなかった。話している中で、どこか垣間見せる自身への嫌悪感に、僅かに見せた最後の笑み。あの最後の瞬間。命は殺されてもおかしくはなかった。猗窩座ならば、刺し違えるくらいはできたのに、彼はただ優しく微笑み、負けを認め、潔く散った。

 

彼は鬼だった。それと同時に命の目に映る彼は、武人であったのだ。

 

その彼の洗礼された技は、深く焼き付いていた。

 

彼に敬意を。地獄に落ちた彼に、せめてもの鎮魂を。

鬼である彼が、あるべき場所に還れることを願った。

 

故に、魕還し。

 

命が一歩踏み込み、間合いに飛び込む。互いの領域に入った瞬間。

 

 

無数の斬撃が閃く。

 

 

間合いに入った者全てを切り刻む柔の技と、進路を侵した攻撃を尽く弾き、反撃する剛の技が静かに激突する。

 

カウンターに次ぐカウンター。受けに対する受け。全てが静かに、然れど激流の様に流れていく。

 

それが、数分続いた時だろうか。ピタリと、どちらからともなく終わる。

 

フゥと滝の様に流れる汗を拭った命は、義勇に真新しい手拭いを投げる。

 

「使ってください。外に井戸があるので、そこで汗を拭きましょう。」

 

「…感謝する。」

 

隊服を脱ぎ、水洗いをしながら冷水で濡らした手拭いで体を拭く。無言の時間が続き、耐えきれず命が口を開く。

 

「……で、急にどうしたんです?何の目的で俺と?」

 

「………」

 

(………え?無視?…いや、これは…考え、てる?)

 

命の質問に何も答えない義勇に、困惑するが、何とか表情や雰囲気で読み取り、返答を考えていることがわかった。

 

数十秒待っていると、おもむろに義勇は口を開いた。

 

「…お前は、俺とは違う。」

 

「…え?えぇ…は?もっと、具体的に…何が?」

 

突拍子も無さすぎる発言に、やはり疑問符しか浮かばないが、次の言葉で漸く彼の真意を理解した。

 

「お前は、守りきったのだろう。護りたいものを。俺とは、違う。姉も、友も守れなかった俺とは、違う。だから…俺の様になるな。」

 

「………そういう事ですか…」

 

この人も、また鬼によって何かを失った類の人なのだ。その苦しみを、命に味わって欲しくないから、鍛錬をしてくれたのだ。

 

本当に、不器用で優しい人だ。

 

「…俺は、別に鬼に恨みなんてない。それでも、柱なんて、いいんですかね。」

 

「何故駄目だ?」

 

「いや…ほら、あの…傷だらけの…」

 

「不死川か。」

 

「そう、あの人…めちゃくちゃ睨んで来るので……まぁ、欠片も気にしてないんですが。」

 

そんなことを呟くと、義勇は若干考えるように目を細めて、数秒後に口を開いた。

 

「お前は、鬼を殺している。それも、上弦を単独で。」

 

「えぇ。」

 

「ならば、お前は誰よりも柱だ。守りたい者を守り、鬼を下した。それで十分だろう。」

 

「ふふふっ…なるほど、貴方はそういう人か。」

 

「…どういうことだ。」

 

この短い間で、義勇という男を理解した。この人、言葉が足りない上に、果てしない口下手。そのくせ、口を開けば、物事の核心をつくことばかり言う。わざと人の中にズケズケと入り込んでくる天然さに、命は呆れ笑いを零す。

 

「しのぶが嫌う訳だ…」

 

無駄を嫌い、沸点の低いしのぶからしたら、逆鱗にわざと触れてくる感じの物言いは、耐えられないだろう。

 

「……胡蝶妹か…良い仲だと聞いている。」

 

「えぇ、まぁ、そうですね。」

 

「お前は、守れ。何があろうと。」

 

「言われるまでもない。」

 

それを聞くと、義勇はまた無表情のまま踵を返した。

 

「邪魔をした。」

 

「いいえ、またいつでも来てください。少なくとも、俺は歓迎しますよ?」

 

「……感謝する。」

 

そうして、背を向ける義勇を見送ると、義勇は不意に立ち止まり、命に質問を投げかけた。

 

「時に、武布都。」

 

「はい?」

 

「…お前は、鬼に詳しいと聞いた。」

 

「えぇ、まぁ普通よりは詳しいですね。」

 

 

 

 

 

「…ならば、人を食わぬ鬼を、信じるか。」

 

 

 

 

 

義勇が帰った後、命は自室にてようやく訪れた好機に、興奮しながら、入念な準備をしていた。

 

(来た…!確実に夢で見た炭治郎君の事だ…!)

 

そう、このときを待っていた。夢の中で、最後の鍵だったのは竈門炭治郎の妹である禰豆子の血。それが人化薬の鍵となったのだ。それに協力した鬼がいる事も聞き及んでいる。

 

だいぶ前のことであるが、命は彼らを探していた。炭治郎の人柄を知っているせいか、他人に関せずの命も、彼の事は救いたかった。だが、あまりにも手掛かりがなく、二ヶ月ほど探して諦めてしまっていたのだ。

 

しかし、ようやくこのチャンスが巡ってきた。何よりも、早く禰豆子の血を調べあげ、薬を完成させる。

 

 

 

 

 

と、思っていたのだが。

 

 

 

 

あの天然言葉足らず鮭大根柱。それだけ聞いたら満足気に去っていきやがった。

 

 

(どこにいんだよあの兄妹は…!?てか、そこまで言って俺に言わないの信じらんないんだが!?いや、俺の答えも少し曖昧だったから悪かった……悪かったか?)

 

義勇の質問に『鬼という物が常識の外にあるんだ。例外だってあるんじゃないですかね?いるなら是非会ってみたい。』というものだった。

 

決して曖昧ではない。遠回し…と言うか殆どどストレートに『早く会わせろ』と言っている。のに、あの義勇(アホ)は気づかなかった。

 

「クソッ…肝心な所でポンコツなのは夢の通りだよ本当に…!」

 

怒りとも呆れともつかない感情が命を支配して、苛立ちを抑えられない。

 

竈門兄妹に協力していた鬼も探さねばならない。目的は目の前にあるはずなのに、変にお預けをされている気分だ。

 

しかし、問題だらけではあるが、これからすることはさして変わらない。

 

 

必要であるのは、鬼の研究と並行して「痣」の研究。

「痣」とは、人外の力を得る代わりに、25を迎える前に死に至ると言う、激しい反動がある1種のドーピング。

今代の柱は殆どが痣者だった、そう記憶している。

 

しかし、しのぶに関しては、恐らく出ない。彼女の小さな体では、熱負荷に耐えられないから。しかし、しかしだ。

 

 

カナエは、確実に痣を発現させる。

 

 

恵まれた才覚に、剣の冴え。これで出ないはずがない。痣で彼女が死んで、しのぶが壊れでもしたら、今までの努力が水の泡だ。

 

(…でも、前提条件として…誰かに痣者になってもらわなきゃ、調べようがない…それに、確実にその人は助からない…自分で出せれば良かったんだけど…)

 

命は、深くため息を1つ。

 

「猗窩座と戦って出なかったんだもんなぁ〜…」

 

極限環境に身を置く事で、痣を出せると思っていたのだが、甘かった。

 

命の推測だが、痣は人間が元々持つ力であると考えている。普段はその力の負荷に耐えられないために、体が無意識に力を抑えている。が、体を鍛え、極限の状態に身を置くことで、体がその力を抑えなくなる。その時に発現する物。言わば痣は副産物で、本質的なものはその力にあるのだと考えている。

 

この痣の研究を進めれば、痣者を救う事が出来る筈なのだ。それに、無休で動ける鬼が研究に加われば、正に鬼に金棒。研究を早期の段階で詰める事が出来る筈だ。

 

そう思案していると、襖の外から、人の気配を感じた。

 

『…命様、少しよろしいでしょうか。』

 

「アオイか。あぁ、構わないよ。」

 

襖を開けて入ってくるのは、ツリ目のキリッとした少女。神崎アオイ。鬼殺の隊士ではあるが、鬼に恐怖を覚え、剣を握れない隊士。今は蝶屋敷にてカナエやしのぶ、命の補助を行っている。

 

「────この時に処方する薬ってこれでいいのでしょうか?」

 

「あぁ、それで構わないよ。それと────」

 

彼女とする話は、大抵仕事の話。世間話なんてほとんどしない。

 

命は、普段は無口な方だ。喋る時はだいたいしのぶ絡みか、研究の話。

生真面目なアオイも命と世間話をする事はほとんど無い。

食事の時に幼い三人娘や胡蝶姉妹とはしているが、意図的に命にはあまり話を振らない。嫌っている訳では無い。ただ、彼女が空気を読めるだけだ。命はこの少女の接し方が嫌いではなかった。

 

「命様は…怖く、ないのですか?」

 

しかし、そんなアオイが珍しく仕事以外の話をしてきた。

 

「怖くないって…何が?」

 

「鬼と、戦う事です。」

 

なるほど、と命は納得した。鬼に恐怖し、剣を握れなくなった彼女故の質問だろう。

 

「いや、怖いに決まってるだろ。」

 

しかし、命はあっけらかんと返した。

 

「え…で、では何故!鬼狩りをしているのですか?」

 

「金だよ、金。それに、もう一つの理由は知ってるだろ?」

 

「え、えぇ…?」

 

さも当然と言わんばかりに返されたアオイは、若干混乱しながら、疑問符を浮かべ続ける。そんなアオイに、深い溜息を吐き出して、あのな…と呆れ気味に続けた。

 

「誰も彼もが、鬼への恨みで戦ってる訳じゃない。それに、俺はこの組織の異常さの方が恐ろしい。それこそ、鬼より。」

 

「鬼…より?」

 

「そう…柱連中と会ってわかった。アイツら殆ど全員狂ってる。しのぶも、師範も含めて…ね。」

 

「お、お2人は…!」

 

「君もとっくにわかってるだろう?2人を含めて、恐怖という感情が欠如してる。人として、大事なネジが何本かぶっ飛んでる。とっくに狂っちまってるのさ。特に…あの御館様の『意志を繋ぐ』事に対する執着…あれは、洗脳だ洗脳。」

 

正確には、鬼に狂わされた。なのだが。それ以上に、命は「意志を繋ぐ」と言う事に、異常さを見出していた。

 

「言葉ってのはね、呪いだ。呪縛と言ってもいい。」

 

「呪い…?」

 

「そう。言葉は深く残る、近しいものが口にすれば尚更深く…それが、最後の言葉(遺言)なら、一生消えない(呪い)になる。」

 

「…それ、は…」

 

その最後の言葉に縛られた人を知っているから。この組織に属する者の殆どにあるその精神性の異常さを、よく理解している。

 

「っと、話が逸れた…アオイ、君の事だ。臆病者の自分は役に立っているのか。そんなことを聞きたかったのだろう?」

 

「…は、はい…」

 

「なら役には立ってる。人としてその反応は当たり前。責められる筋合いは無い。君は、戦えない隠の人達を役立たずと罵るか?」

 

「い、いいえ!そんな事は…!」

 

「それにな、戦いが終われば…非日常に身を置いてた俺たちは無用の長物。それこそ、君のようなありふれた日常を生きる者にこそ…俺は憧れる。臆病さを捨てるな、恥じるな。恐怖を捨てるな。君だけは狂うな。俺達が、鬼を殺すから。君は蝶屋敷(ここ)で戦ってくれ。」

 

そう言い切ると、命は満足したように微笑む。

アオイがその微笑みを見やると、意外そうに目を見開いた。

 

「…なんだその反応は。」

 

「いえ…命様って、案外優しいんだなって…」

 

「君は俺の事なんだと思ってるの?」

 

「しのぶ様にしか興味が無くて、鬼を殺す為なら市民をも利用する非道な人…?」

 

「…間違ってないからなんも言えない。」

 

ガックリと肩を落とした命に、アオイはクスクスと笑った。

 

「なにさ…からかってるの?」

 

「ふふっ、いいえ。私の思っていた命様の印象と…本当は随分違うんだと思って。しのぶ様が好きになったのも、少し頷けます。」

 

「…そ、そうか…なら、いい。印象の変化は大事だ…いい方向の変化なら尚更ね。」

 

若干の照れ隠しをして、命は頭を掻いた。やはり、そんな彼を見るのが新鮮だったアオイは、快活に笑っていた。

 

命は、そんな彼女を見ながらしのぶに常々言われていた事を思い出した。

 

『命!アオイと仲良くしなさい。蝶屋敷に一緒に住んでるんだから、食事中に一言も喋んないの、見てて怖いから。』

 

(別に、仲悪いわけじゃないんだけどなぁ…)

 

少し愚痴を零しながら、命はやれやれと首を振った。

 

「…あー、アオイ。仕事はまだあるのか?」

 

「いいえ、もう夜の夕餉の支度だけですが?なにか仕事ですか?」

 

「あー、いや。暇なら、茶でも飲まないか?色々と、話してみたいと思ってさ…君とは、あまり話してこなかったから。どう、だろうか…?」

 

そう言うと、固まったアオイは、また吹き出して笑う。ポカンとしている命には、何がおかしいのかわからなかった。

 

「すっ、すみません…!どうしても、ふふっ…しおらしい貴方がおかしくって!えぇ、喜んでそのお誘いお受けします。用意しますから、縁側に…茶漬けはカナエ様が買ってきてくれた『カステラ』にしましょう。」

 

「あ、うん…待ってるわ。」

 

上機嫌に台所に向かう。不思議な気分だった。しのぶに感じる親愛とはまた別で、なんとも言えない気分。もしや、これが友達と言うやつなのだろうか。

 

「でも…うん、悪く…無いかな。」

 

1人微笑んだ命は、上機嫌に縁側に座り込んだ。その時、慌てたようにバサバサと飛び込んでくる、命の鴉が目に入った。

 

『急患ッ!急患ーッ!産屋敷あまねから伝言!伝言!『即時に対応出来るようにお願いします』伝言終了ーッ!カァーッ!』

 

「はいはい…ったく、休めそうにないな。アオイー!」

 

その数十分後に、帰ってきたしのぶに伝え、急患の手術準備を行う。

 

そして、その日。

齢16歳。武布都命は、思わぬ邂逅を果たす事になる。

 

「武柱様!急患です!至急処置を!」

 

「準備しています、アオイ、あまね様を客間に。急患はこっ、ち────」

 

「命…?どうした────え?嘘…」

 

運ばれて来た患者を見て、命は頭を真っ白にしてしまった。

 

まだ幼さが目立つ、毛先に青のグラデーションを持つ長髪の少年。ボロボロではあるが、端正な顔立ちは、どこか鏡を見ているような気分になった。

 

「この子…命…?」

 

その顔は、命と瓜二つであった。

 

 

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