ちょくちょく更新出来たらいいなと思ってます。
映画まだ見れてません。面白いですか?感想欄で教えてくださいね!(露骨)
手術があらかた終わり、何とか峠は超えた。後は、この少年の精神力に期待するしかない。
処置も滞りなく成功し、問題は何も無い。しかし、命は浮かない顔をしていた。
「……ねぇ、命…この子って…」
「他人の空似と言うには、似すぎだ。それは無い…恐らく、俺の血縁者…なんだと思う。」
「そ、それじゃあ…」
良かったね。なんて、命を知っているしのぶは、言えなかった。こんなに困ったように、戸惑っている命を見たことがなかった。
命は、家族という存在に縁がない。気がついたら1人だったから。なんで自分だけ。なんて思うことは無い。いまは、とても幸せだから。でも、感情が少年との邂逅を拒んだ。
(夢で見たことが無い…霞柱、時透無一郎…そうか、俺は会った事が無い。柱稽古も参加しなかったし…縁もなかった…)
時透無一郎。これが、昏睡状態の少年の名前。
後の霞柱である、命のふたまわり以上の天才。
懸念するのは、彼の兄の存在。なんでも、その兄も彼と瓜二つだったらしい。つまりは、命とも似ているということだ。
でも、その兄は鬼に殺されたとの事。目の前に死んだはずの兄に瓜二つの他人など、気持ち悪くて仕方ないだろう。
「み、命…」
「…俺は、大丈夫だ…」
「で、でも……」
「あまね様に呼ばれてるから、俺は、行くよ…」
俯きながら出ていった命の背に、しのぶは何もする事が出来なかった。
夜中から手術を開始して、既に早朝。しかし、揺らいだ心持ちの命が眠れる筈もない。そうして、かの少年を連れてきた産屋敷あまねと向き合った。
「…お話とは、なんのことでございましょう。」
「お話すべきか、悩みましたが…あの少年、時透無一郎の話と、そして……あなたの話です。」
産屋敷あまねに聞かされた彼の素性。それは、夢で聞き覚えのあった霞柱、時透無一郎本人で間違いなかった。しかし、初めて聞かされたのは、彼の血筋の話。
それは、命にも関わるものだった。
「武柱様。始まりの呼吸…【日の呼吸】を、ご存知ですか?」
「それは…!」
その言葉に、命は心臓が跳ねるような思いだった。確か、それは、夢で炭治郎が扱っていた『ヒノカミ神楽』なる舞の別名だったはず。
考え込んだ命の反応を見て、あまねはやや驚いた表情を見せてから、言い淀むように続けた。
「ご存知、なのですね…彼は、その始まりの呼吸を編み出した剣士の末裔。そして……瓜二つである、貴方も────」
「それ以上は、お待ち頂きたい。私の事であるのなら……胡蝶しのぶをここに同席させても、よろしいでしょうか。」
「花柱様の継子様、ですね。はい、貴方のことですので、命様さえ良ければ……」
「…では…
コクリと頷いた命の鎹鴉、八咫は器用に襖を開けてしのぶを呼びに行く。
二人の間で無言の間が出来る。流石に、直属の上司の妻に気を使い、普段は余り喋らない命でも口を開く。
「…御館様のその後は、いかがですか。」
「はい、とても安定しております。命様の治療以降、顔の侵食もほぼありません。今も家族の顔が見れるとは思っていなかったと、日々感謝しておりました。私からも、感謝を。」
「いえ、研究と…仕事ですから。御館様を実験台にしたようなもの…本当に侵食が止まったのか、俺の立てた仮定が確実なわけではありません。もしもの時は、罵倒される覚悟もしております。」
「ふふ、そんな事は有り得ません。過程はどうあれ、あの人を救ってくれた事は確かなのです。子供達も感謝しています……本当に。」
「……では、お気持ちだけ頂戴致します。」
そうして、また沈黙が訪れる。
正直、命自信口が回る質ではないため、何を話していいか熟考しても何を話していいかわからなかった。そうして目を回していると、タイミング良く外にしのぶの気配を感じた。
『胡蝶しのぶ、参上致しました。』
「あぁ、入ってくれしのぶ。」
失礼しますと入って来たしのぶは、あまねを見て驚いたように目を見開いて、オロオロしてから、命に助けを求めるように視線を送る。命は、自分の隣に来るように動作をして、しのぶを落ち着かせる。
スっ、と命の横にピッタリとくっついたしのぶは、どうしたものかと思案してから、挨拶を丁寧に行った。
「挨拶が遅れました。お初にお目にかかります、あまね様。私、胡蝶しのぶと申します。」
「ご丁寧に、ありがとうございます。産屋敷あまねと申します。」
一通り挨拶を終え、本題に入るべくあまねは佇まいを整えた。
「先程…あの少年の話を致しました。彼、時透無一郎は、鬼殺隊の始まり…始まりの呼吸を生み出した剣士、その末裔。そして、瓜二つである貴方も……」
「始まりの呼吸…?」
「日の呼吸、そう呼ぶらしい。」
「日?炎では無く?」
「はい。この呼吸は、全ての呼吸の源流にして、鬼舞辻無惨を追い詰めたと言われております。」
「鬼舞辻、無惨を…!」
「……」
知っている。どのような呼吸であり、どの様な型なのか。今それを、誰が使えるのか。しかし、ここで知っていると言っても辻褄が合わない。せめて、炭治郎が来るまでは、自身の事は秘さねばならない。
「つまり、その日の呼吸を使えるかもしれないあの子を、勧誘する為に訪れていたと…」
「…油断、していたのです。武柱様が上弦の参討伐してから2年…鬼の活動は驚く程に少なくなりました。だから、彼らに護衛をつけることも無く…」
確かに、命が柱になってからは鬼の活動は減った。この2年で上弦や、下弦が現れた報告は無い。命自身、研究に熱を入れていたことを考えても、明らかに任務の数も減った。柱が動く任務は、月に3度あれば多い程には減っていた。
「…鬼の居ぬ間に、戦力を増やしたかったことは理解します。現実的な戦力増強…特に言うことはございません。」
「……責めないのですね。」
「確かに迂闊ではありましたが、私と彼は赤の他人。同情はしますが、それ以上の感情はございません。血が繋がっていたとしても…今は、まだ彼と俺は他人だ。なんの関係も築いていない彼には、それ以上の感情は持てませんので。」
冷徹ともとれる言葉ではあるが、命と言う人を理解しているしのぶは、らしい、とも思いながら、呆れるようにため息を吐いた。
(『まだ』…ね…本当に不器用なんだから。)
そうして、言葉に含まれている真意に気づいたしのぶは、やはりニコニコと命を見ていた。
「…なに笑ってるの。」
「別に〜?いつも通りの命だなぁって思っただけよ。」
どこか含みのある言葉に、命は自分の心を見透かされているようで、居心地悪そうに頭を掻いた。そんな二人を見て微笑ましげに笑っていたあまねは、また真剣な眼差しのまま命に尋ねる。
「武柱様…貴方の呼吸、武の呼吸は…日の呼吸なのでしょうか?」
これが本題か、と命は察した。
その血筋が使えるかもしれない始まりの呼吸を、命がもしや使っているのではないかと、そう聞きたかったのだろう。
しかし、違う。
「…残念ながら、この呼吸はしのぶと共に練り上げた物…他の呼吸とは別ものなれど、原型はある男の剣術。日の呼吸とはまた別のものと考えた方がよろしいかと。」
「そうですか…失礼致しました…」
「いえ、お気になさらず。期待するのも分かりますので。」
そうして会話が途切れ、そろそろ終わりかと思った時。あまねが口を開いた。
「お2人は、好い仲なのですね…」
その言葉に、2人は顔を見合わせて柔く微笑み、身を寄せあった。
「……えぇ、かけがえのない存在です。」
「まあ…!良い事ですね…祝福致します。」
「ありがとうございます、あまね様。」
そうして、あまねは憂う様に襖から覗く庭を眺め、ポツリと零した。
「…この組織には、お二人のように…未来を見る者が少な過ぎます。夫を含め、柱の皆様ですら…私は、少し怖い。鬼に狂わされたこの組織が、真に狂ってしまうのではないか…次に繋がるようにと願って、誰もが逝ってしまう未来がある様な気がして…」
「あまね様…」
「お2人はどうか…生きてくださいね…」
それだけ言って、部屋を後にした。残された2人は、彼女の言葉を胸に刻み、手を取りあった。
「…私ね、死んでもいいと思ってたの。鬼を殺して、誰かを救えたのなら、それでいいって…でも…私、生きたい。貴方と生きたい…前は、こんな気持ちなかったのに…今は、どうしても生きたい。」
どこか、心の奥底にあった棘が取れたように、清々しい顔で、しのぶは命の手を握った。
小さな、小さな手を取って、命は柔く包み込む。この人を守りたい、この人と生きたいと願うように。
「ああ…生きないとな。」
「うん…」
そして、命は決意をより固める。強くならねばと。
思い出す、命の起源ともなっている男。命の知る中で最も流麗で、力強い太刀筋。齢70を超えた老人の細腕から繰り出されるくせに、痛みすら感じる間もなく沈んでいた。由緒ある道場の師範を軽く捻った命が、赤子のようにあしらわれた。
たった1度、間が悪かった。本能的に避けていたあの老人が、何故か道場にいた。まだ、その辺の餓鬼だったころ。食い物を求めて忍び込んだ庭から見えた、ただの素振りに、心を奪われた。無駄の一切ない太刀筋、自然の摂理であるように振られる木剣が、どこか舞うように見えた。人を倒すために編み出された様なその剣技が、今でも記憶に染み付いている。
その記憶を辿りながら、決心を鈍らせることなく、命は筆を走らせた。
このしのぶはあまね様と初めてこの時に会います。なんと言おうと初めてなんです。