銀色に懐いた最強の白   作:マリユリ

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ホンマにすんません。
連投失礼します(*・ω・)*_ _)ペコリ




序章・二

微睡む意識の中、体がフワフワと浮く感覚に晒される。落ちているのか、上に向かっているのかは分からない。

少しして、硬いものの上にソッと体が下ろされた。どうやら、ゆっくりと落ちていたようだ。

とりあえず、寝たままの体勢でいるわけにもいかないので目を開いた。

 

〘お、目を覚ましたかい?〙

 

「っ!?」

 

背中から声がして、反射的に反対側に跳んで距離をとった。咄嗟に刀を握ろうとするが、手を空を掴み、目的の物はそこには無いことが分かった。

 

〘あ~、驚かせてしまったかな?大丈夫、危害は加えないよ〙

 

声の発信源を辿って見ると、金の髪に緑の瞳を持つ少年が立っており、微笑みながらそう言った。白を主にした服を着ていて、背はそれほど高くはない。辺りを見回すと、何も無い真っ白な世界が広がっていた。自分を見れば、白い着物を着せられている。ここには私たち二人だけだと確認し、目の前の少年に視線を戻す。

警戒し、睨みつけても尚、ニコニコと人の良さそうな笑みを浮かべている。だが、私の警戒心は一向に揺るがなかった。

 

(気配が全くなかった・・・)

 

私は鬼殺隊の中で最も力があるとされる階級、柱だった。呼吸や技の精度が高いのはもちろん、気配の読み取りや実戦の判断、集中力の高さにおいて、鬼殺隊最強の岩柱に勝るとも劣らぬ実力を持っていた。

そんな私が背を取られる相手。敵か味方かの区別もつかぬ状態で、気を許せるような相手ではない。

 

「誰?」

 

〘僕かい?僕は神様さ〙

 

毒気を抜かれるような声で、微笑みながら答えられる。

 

「かみ・・・さま・・?」

 

答えを復唱させてもらう。が、やはり意味が分からず首を傾げてしまう。

 

〘あれ?もしかして忘れてる?〙

 

警戒心がむき出しの私に対して、子供のように首を傾げ返してきた。

 

〘キミ、自分が死んだの覚えてる?〙

 

子供が質問するように、軽く問われた。それは、子供が『遊ぶ約束覚えてる?』と言ったように感じるほど軽く。

 

「死んだ・・・あ───」

 

その言葉を口にした瞬間、最後の映像と音声が頭に流れてきた。

 

真っ暗な映像、手を伝う涙、妹の悲痛な叫び声。

私が死ぬ直前の記憶。ほんの数分間忘れていたが──

 

「そっか・・・死んだんだ・・・私」

 

口に出せば、随分あっさりしたことに思えた。

自分が死んだ。

死んだことを自覚することなど中々ないのではなかろうか。

 

〘そう。キミはさっき、間違いなく死んだ〙

 

先程とは打って変わって、真面目な顔で話し始めた神様。その緑の瞳は真っ直ぐに私を見ていた。私もその瞳を見つめ返す。

 

〘でもね、僕は勿体ないと思ったんだ〙

 

「もったいない?」

 

〘そう。キミのような綺麗な魂を終わらせて、黄泉の国へ送ってしまうのは、とても勿体ない〙

 

「・・・・」

 

さっきから何を言っているのだろうか。

()()()()()()()()()()()()()?綺麗な魂?

意味がわからない。

 

〘それでね、もしキミが良ければなんだけど、違う世界でもう一度生きてみないかい?〙

 

「・・・は?」

 

〘元いた世界では、キミは既に死んだことになっているからダメだけど。違う世界ならキミは生きれる〙

 

本格的に訳が分からなくなってきた。

違う世界でもう一度生きる?

 

「そんなことができるの?」

 

〘もちろんさ。僕は神様だからね。でも、それなりの代償が必要になる〙

 

「代償・・・」

 

〘そうだよ。キミの場合は、小さくはないだろうけど・・・その分、願いを三つくらいなら叶えてあげられるかな〙

 

つまり、元の世界だと私は既に死んでいるから戻れない。だが、違う世界になら何かを代償に生きることが可能である。それに、代償が大きな分、願いを叶えることもできる、ということか。

 

「・・・その代償は何?」

 

〘ごめんね。それは分からないんだ。でも、キミの場合は軽くはないと思うよ〙

 

首を横に振りながら、申し訳なさそうに語る神様。

 

「そう・・か・・・」

 

私はしばらく悩んで、妹の言葉を思い出した。

 

『ダメ!!喋らないで!助けるから!死なせないから!』

 

『いや・・・いやだ・・・・お姉ちゃん!ねえ!お姉ちゃん!』

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

あの子を置いて来てしまった私に、生きる資格が果たしてあるのだろうか。絶望のどん底へ突き落とした私に。

私は俯き、両脇の拳を握りしめる。

 

〘・・・〙パチンッ

 

何を思ったのか、神様は一度指を鳴らした。すると、どこからかは分からないが、夏羽とお館様の声が聞こえてきた。

 

『こんな時にごめんね、夏羽』

 

『いえ・・・』

 

憔悴しきった声に、私は思わず胸を掴んだ。あの子の声はこんなに弱々しかっただろうか。これほど掠れていただろうか。

 

『今日は、渡したいものがあって呼んだんだよ』

 

『渡したいもの、ですか?』

 

『ああ。これだよ』

 

映像がないので分からないが、何かをお館様が取り出したようだ。

 

『これ、は・・・お姉ちゃんの・・・!』

 

『そう。君の姉、美桜(みお)の羽織だよ』

 

「!!」

 

私の羽織、白の羽織に桃色の糸で花びらと羽をあしらった物だ。死んだ時に着ていたものと全く同じのものを予め用意しておいたから、遺言通りに届けてくれたのだろう。

 

『美桜はいつも夏羽のことを思っていたんだよ。鎹鴉に、この羽織を夏羽に渡すようにと伝言を頼んでいたようだ』

 

『っ・・・お姉ちゃん・・・』

 

『君は、これからどうしたい?』

 

お館様が変わりのない優しい声音で問いかける。

 

『私は、お姉ちゃんの──姉の意志を継ぎます。人の命を守り抜き、鬼を人に戻せることを証明します。必ず』

 

意思の固い声、さっきまで泣いていた声とは別ものの。

ああ、やっぱり夏羽は私なんかよりも断然強い。心が私なんかより。

 

『そうか。ありがとう』

 

『お姉ちゃんには、向こうでも笑っていてほしいですから・・・!』

 

今までで一番明るい声がこだまする。

 

パチンッ〘これを聞いても、まだ迷う?〙

 

再び神様が指を鳴らした。夏羽とお館様声は聞こえなくなり──

 

「っ・・・」

 

──私の嗚咽だけが静かな空間に響く。自然と私の目からは涙が溢れていた。ポタポタと地面に涙が頬をつたって落ちる。落ちた場所を見つめ、ただただ涙を流した。

 

(あんなに優しい子を私は・・・)

 

ポンッ

 

頭の上に重さを感じる。驚いてゆっくりと顔を上げると、神様が浮いていた。さらに驚いて目を見開くと、神様の腕が私の頭に伸びていることに気がついた。

神様は手を動かして、優しく頭を撫でてくれる。

 

〘キミは少し頑張りすぎたんだ。もういいんだよ。誰も、キミを恨んでない。むしろ幸せを願っているんだ〙

 

「っ・・・い・・いのか?」

 

傲慢ではないだろうか。違う世界で生きるなど。

 

〘うん。それでも悩むのなら、新しい世界で困ってる人を助けてあげるといい。キミはそのまま移動するから、今まで積み重ねてきた努力は消えないよ〙

 

「助ける・・・」

 

〘キミには、その力がある。誰かを支える、救える力が〙

 

真っ直ぐに私を見て、微笑んでくれる。何故だろうか。この神様は信頼できる気がする。神様なんて、信じていなかったのに。

 

「・・・ん、生きる」

 

〘っ!・・・良かった。良い返事が聞けて嬉しいよ。なら、さっそく願いを聞こうかな〙

 

一瞬、目を見開いて表情を崩したように見えたが、気のせいだったようだ。

大きすぎる代償に伴う願い・・・。何がいいだろうか。

 

「・・・ねぇ」

 

〘なんだい?〙

 

「私が知ってる呼吸を全部完璧に使えるようにすることってできる?」

 

〘へぇー〙

 

私が考えたのは、まず力だ。誰かを助けるにも、支えるにも、力は必要不可欠だろう。優しさだけでは、何も救えない。それは体験済みだ。今私が知る中で最も強い力を発揮できるのは呼吸。なら、それらを全て習得しておけば、あらゆる場面で応用できるのではないだろうか。

私の一つ目の願いに、神様は意外だといわんばかりに目を見開いた。

 

「できる?」

 

〘もちろんできるよ。あと二つだね〙

 

神様はニッコリと笑って、先を促した。なんだろう、読めないなこの人。

 

「じゃあ、私が死ぬ直前まで持っていた物を、身につけていたものも含めて持って行きたい」

 

〘分かった。あと一つだよ〙

 

その言葉に、私は頭を悩ませた。あと一つがどうしても思い浮かばない。

 

「最後の願い、今じゃなきゃ駄目?」

 

〘いや、後からでも構わないよ。でも、代償を消すとか、無くすとか。そういう願いは叶えられないからね〙

 

「分かった」

 

〘じゃあ早速、生まれ変わってみようか〙

 

神様はそう言うと、パチンッと指を鳴らした。すると、私の服はいつもの隊服と羽織に変わり、腰には日輪刀が差さっていた。何故か、背負う鞄も一緒に。

 

〘その鞄には今までキミが貯めていたお金と、向こうで生きるために必要なものが最低限入っているはずだよ〙

 

「ん」

 

これは神様の厚意だろう。生きるために必要ならば、ありがたく受け取っておく。

 

〘願いが決まったら、心の中で僕を呼んで。すぐに行くから〙

 

「分かった。ありがと」

 

私は鞄の肩掛けの両側紐に手を掛けて、頷いた。お礼の言葉も忘れずに。

 

〘うん。それじゃあ行こうか〙

 

神様は私が立っている地面に片手をかざし、目を閉じた。

その瞬間、私を中心に光が浮かび上がり眩しいほどに膨れ上がった。

 

「っ!」

 

〘行ってらっしゃい。キミなら大丈夫さ〙

 

最後に聞こえたのは神様の励ましの声。とても優しくて、どこかで聞いたことのあるような、でも聞き覚えのない声。

 

視界が光に遮られて、臭いもせず音も聞こえなくなる。ただ、どこかに落ちている感覚だけが私に残った。

 

 

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