銀色に懐いた最強の白   作:マリユリ

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序章・四

 

銀に手を引かれて、人ごみの中を歩く。路地から出ても、ずっと手を繋いだままなのだ。

 

「銀、一人で歩ける」

 

「だーめ。さっき二回も転んだでしょ?」

 

そこをつかれたら何も言い返せない。反論できないまま、子供のように手を引かれながら銀の隣を歩いた。

だんだん人の数が少なくなり、そのうちに私と銀の足音しか聞こえなくなった。

 

「着いたぞ。ここが"万事屋銀ちゃん"だ」

 

「よろずや・・・?」

 

「あ〜・・要するに何でも屋だ」

 

「なんでもや・・・。私もここで働く」

 

「そ。嬉しいけど、まだ駄目」

 

「?・・・なぜ?」

 

「まずは、ここの暮らしに慣れないとな」

 

そう言って、ポンッと頭に手を置かれた。気のせいだろうか、甘やかされている気がするのは。最近は柱の任務が多かったから、甘やかされるのは久しぶりな気がする。久しぶりすぎてムズムズとした恥ずかしい気持ちになってしまう。たぶん私の顔はだらしなく緩んで赤くなっている。その顔を銀に見られたくなくて、下を向いて銀についていった。

 

「ここ階段だからな。気をつけろよ」

 

「ん」

 

声をかけられ階段を登っていく。銀もゆっくり登ってくれてるし、階段は大丈夫そうだ。

そしていよいよ、玄関の前に着いた。ガラガラと音がして、玄関の戸を銀が開く。

 

「段差あるからな」

 

「ん」

 

「俺しか住んでないから、好きにしていい」

 

その言葉に、黙ってうなづいた。それから、銀に家の中を簡単に案内してもらって、位置の把握はだいたいできた。一人で住むには広い部屋だと思ったけど、住み心地は良さそうな家だ。部屋の端に背負っていた鞄を下ろして、銀の傍に歩み寄る。

 

「げ、もう十二時すぎてんじゃん。もう寝るぞ、美桜。布団敷いておくから、風呂入ってこい」

 

「布団、二枚ある?」

 

一枚しかないなら、家主である銀がふとんでねるべきだろう。ソファがあったから私はそこで寝る。

 

「・・・俺はソファで寝るからいいの」

 

なんと、私の考えを読み取って一歩先の答えが返ってきた。

 

「ダメ。銀が布団。私がソファ」

 

「ダメだ」

 

「どうせ寝れない」

 

「何で?」

 

「鬼は夜に動く。だから基本的に夜は起きてた。それに、無意識的に夜は警戒心が強くなる」

 

「でも、疲れてるだろ?」

 

「・・・・・・横になるだけでも疲れはとれる」

 

銀の言うことは正しい。実際、私は疲れてる。でも、寝れそうにないのも事実だ。慣れてない場所なのもあるし、今までの生活習慣からいっても夜に寝るのは不安だ。

私は銀の顔があるはずの位置を見つめていると、不意に銀がどこかへ行ってしまった。襖が開く音が静かに聞こえる。怒らせてしまっただろうか。そう思ったが、すぐに銀が戻ってきて何かを手に持たされた。

 

「とりあえず風呂な。今渡したのは着替えだ。甚平。シャワーの使い方わかるか?」

 

どうやら説得は諦めて風呂に入らせることを優先させたようだ。

それはわかるのだが───

 

「しゃわー?」

 

聞きなれない単語である。

 

「・・・・マジか・・・。シャンプーとリンスはわかるか?」

 

「??」

 

次々と矢継ぎ早に聞きなれない単語が連続して出てきた。頭はパンク寸前である。首を傾げて考えてみるも、どうにも覚えがない。

銀が簡単に教えてくれた。"しゃんぷー"と"りんす"というのは髪を洗うものらしい。体を洗うのは馴染みのある石鹸らしいので安心した。

 

「シャワーは、直接教えた方が早ぇよな」

 

そう呟くと、銀は私の手を引いて風呂場に向かった。脱衣所を通って、仕切りの戸を開ける。そして、銀が何かを手に取った。それを私に手渡す。

 

「これがシャワーな。こっちのツマミを動かすとお湯が出る」

 

銀は私の手を取って、ツマミの部分に手をもっていってくれた。ちょっとした好奇心で、ツマミを動かしてみる。

 

「あっ、馬鹿!」

 

「?──ひゃっ!」

 

銀に手渡されていたシャワーからいきなりお湯が出てきて、顔に勢いよくかかった。私はシャワーを手放し、銀の後ろに隠れる。

 

(ビックリした・・・)

 

いきなりのことに驚いたので、心臓がドクドクと大きな音を立てる。銀の服をギュッと握り、顔を押し付ける。

 

「だから、お湯が出るって言ったでしょ?」

 

銀は、シャワーのお湯を止めて、私の頭を撫でながらそう言った。

そんなこと言われたって、ビックリしてしまったのだ。仕方ないではないか。それに、あんなに勢いよく出てくるなんて言わなかった。

少しばかりの恥ずかしさと怒りを覚えて、上にある銀の顔を睨んだ。

 

「っ・・・美桜ちゃん、それ分かっててやってる?」

 

今度は意味がわからない発言である。私をからかっているのだろうか。分からずに首を傾げる。

 

「あ〜!使い方、もう分かるよな。美桜は風呂に入りなさい!」

 

そう言って、肩を掴んで離された。いきなりどうしたというのだ。

銀は風のごとく素早く走り去っていった。

 

(とりあえず、お風呂入ろ)

 

私は濡れた羽織に手をかけた。

 

 

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無事に、なんとか、シャワーに怯えつつ、お風呂を終えて脱衣所に上がる。体を拭いて、手渡されていた甚平を着ようと試みるが、私は重大なことに気づいた。

 

(私、甚平の着方わからない・・・・)

 

仕方ないので、下着を着てから体にタオルを巻きつけて居間にいるはずの銀のもとへ向かった。

 

 

 

「銀」

 

「お、上がっ・・・は!?」

 

さすがにタオルは見苦しかっただろうか。割と傷跡とかが残っているはず、見ても面白くないのは事実だ。

 

「いやいやいやいや、何してんの!?俺的には大歓迎ですけど!」

 

「?」

 

何を否定して、何が大歓迎なのだろう。よく分からないが、湯冷めする前に甚平の着方を教えてもらわなくては。

 

「銀、これ、着方がわからない」

 

「ん?あーそうか・・・着せたいのは山々だけど、さすがに裸を見るのは・・・いや、見たくないわけじゃないんだが・・・」

 

先ほどから銀の様子がおかしい。聞こえないが、ブツブツと呟きながら何かを考えているようだ。"裸"という単語が聞こえたから、私が裸だと思っているのだろうか。だから、着方を教えてくれるのに戸惑っているのか?

 

「??・・・銀、下着はつけてる。裸じゃない」

 

「え?そうなの?それはざんね・・・じゃねぇ。着せてやるからこっちおいで」

 

「?・・・ん」

 

とりあえず銀の傍に行き、手に持っていた甚平を差し出した。

私が覚えられるように、分かりやすく着方を教えてもらった。たぶん、覚えられた。次からは一人で着れるはずだ。たぶん。

私は肩が出そうになる裾を抑えて、銀を見た。

 

「これ、大きい?」

 

「ああ、俺のだからデカいだろうな」

 

どうやら、この甚平は銀のものらしい。銀の背は私より高いから大きいのは当然だろう。袖に鼻を近づけて匂いを嗅いでみる。

 

「・・・銀の匂いがする」

 

「〜〜っ、ホントにわざとじゃねぇんだよな・・・」

 

「??」

 

先ほどからの銀のおかしな様子は、私のせいなのだろうか。もしそうなら、謝ったほうがいいだろうか。

 

「銀?」

 

「なんでもないです・・・。それより、髪ちゃんと乾かせ」

 

「どうやって?」

 

「どうって、ドライヤー・・・で・・」

 

「どらいやあ・・・・?」

 

「・・そうだよな、シャワーすら知らねぇんだもんな。そうなるよな」

 

何かを諦めた声で銀が言う。シャワー、シャンプー、リンス、ドライヤーはこちらでは必需品なようだ。

 

「座って待ってろ、俺が乾かしてやっから」

 

「ん」

 

大人しくソファに座って待っていると、銀が何かを持ってきた。

 

「音が大きいかもしれねぇが、我慢しろよ?」

 

「・・・ん」

 

少し嫌な予感はしたが、とりあえずうなづいておく。

 

「じゃ、いくぞー」

 

カチッと音がした瞬間、大きな音と共に暖かい風が吹き始めた。

 

「──っ」

 

後ろから吹いたいきなりの風に、肩が跳ね上がった。

 

「お、割と平気か?」

 

「・・・ビックリした」

 

事実である。普段の暮らしの中で、いきなり温風が吹くことなどなかったのだ。当たり前だろう。・・・たぶん。

 

「美桜の髪、真っ白で綺麗だな」

 

「そう?」

 

今まで髪をほめてくれたのは、家族と隊の中の一部の人だけだからよく分からない。大半の人は気味悪がってたし。

 

(気持ちいい・・・・)

 

音にはまだ慣れないが、優しく吹く暖かい風がとても心地いい。銀が背中にいても全然怖くないし、むしろ髪を梳く手が気持ちいい。今日あったばかりの人に、こんなに心を許していいのだろうか。

そう思っているうちに、髪は乾いたようでドライヤーの音がやんだ。

 

「はい、しゅーりょー。じゃあ、俺は風呂入ってくるから、布団に入って寝てろ」

 

頭を軽く撫でられて、手を引かれる。引かれた先は寝室らしく、布団が敷かれていた。

 

「ゆっくり休め。おやすみ、美桜」

 

もう一度頭を軽く撫でて、銀は風呂に入りに行った。音を立てて襖が閉まる。

私は銀が出ていった襖を見つめた。

さて、どうしたものか。さりげに布団で寝るように仕向けられた。絶対に寝れない自信があるし、やはり布団は一枚しか敷かれていないようだから私が寝るのは申し訳ない。とりあえず、一人でいるのは不安だからソファに座って銀が上がってくるのを待とう。

私は静かに襖を開けて、手探りでソファを探しに向かった。

 

 

 

 

 

どのくらい経ったか分からないけど、しばらくすると石鹸の香りと共に、銀が居間に入ってきた。私と同じ石鹸の匂いがするから、どこか恥ずかしく感じる。

 

「美桜?寝れねぇの?」

 

「ん」

 

ゆっくり近づいてきて、私の隣に腰を下ろした。そしてお決まりのように、頭を撫でてくれる。銀は頭を撫でるのが好きなのだろうか。

 

「でも、休まないとなぁ。とりあえず、布団に行くぞ」

 

頭を撫でていた手を離し、代わりに手を引かれて寝室に連れて行かれる。そして、無理やり布団に押し込められた。でも、少しも睡魔が来ないのも事実なわけで──

 

「ほら、早く寝なさい」

 

「無理」

 

「即答?即答ですか?」

 

そう言う銀は布団に入らず、傍に座っているだけだ。寝ないのだろうか。

 

「銀、寝たほうがいい」

 

「あのなぁ、そういうわけにはいかねぇだろ」

 

気にせず寝てもいいのに、銀は世話好きなようだ。

ため息が聞こえたと同時に銀が動きだした。どこかへ行くのかと思ったが、掛け布団をめくり同じ布団に入ってくる。予想外だったので少し驚いたけど、特に抵抗せずに端に寄った。

 

「そんな寄ったら布団から出ちまうぞ」

 

できるだけ広く使ってもらおうと思って寄ったけど、銀に抱き寄せられてほとんど元の位置に戻ってしまった。少し前に抱きしめられた時と同じ甘い匂いと、自分と同じ石鹸の香りに包まれる。ついでに、背中をさすられ始めた。

 

(・・・安心する)

 

いつもの私なら、この状況で安心することなどありえなかった。自分から他人に触れることなど数えるほどしかなかったけれど、今は銀に触れたいと思う。もっと近づきたいと。

そこで私は自分からも体を控えめに寄せて、銀の背中にも手を回した。それに答えるようにギュッと抱きしめてくれたのを最後に、私の意識はそこで途切れた。

 

 

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