銀色に懐いた最強の白   作:マリユリ

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序章・閑話

 

=side:銀時=

 

 

自分の腕の中で静かに寝息を立てる美桜を見て、ホッと息をつく。ここまでしないと寝れないとは思わなかった。今日会ったばかりの奴と同じ布団に入るなんて思ってもみなかった。

 

(何で・・・だろうな・・・)

 

白い髪を指で梳きながら、先ほどまでのことを思い出す。

 

今日も相も変わらず金欠で、夜になってからも酒を飲みに行くわけでもなく、パチンコに行くわけでもなく、ただただフラフラと町内を歩いていた。

不意に、ドサッと物音が耳に入った。普段なら気にもかけず通り過ぎるのだが、不思議と気が向いて裏路地に足を踏み入れた。

足を進めれば、見たことのない軍服のような黒い服と白い羽織を着た白い髪の女が倒れているではないか。この歌舞伎町において、酒に飲まれた奴が転がっているのは珍しくはない。かくいう自分も飲まれるタイプだ。だが、目の前の女は酒を飲んだ様子も無く、ましてや危ない薬を使っているようでも無い。関われば必ず面倒事に巻き込まれると思ったが、声をかけた方がいいと自分の感が告げている。

とりあえず、感に従い声をかけてみた。

すると、女は無言で目を開いた。瞼から除く紅い目は自分の瞳と同じ、もしくはより鮮やかな色合いをしている。その目を擦りながら体を起こす。自分の手を少しの間見つめて、見つめたまま初めて口を開いた。

 

『いきなりで申し訳ないけど、聞きたいことがある』

 

本当にいきなりだ。思わず、あ?と声が出てしまった。

女は何かを悟ったように、でもそれが嘘であってほしいというように再び口を開いた。

 

『私の目は開いているだろうか』

 

こちらを一瞥もせず、ただ自分の両の掌を見つめてそう聞いてきた。

この女は頭がおかしいのだろうか。

正直なところ、これが最初の自分の感想だ。自分の手を見ながら何を言っているのか。

そう考えてある仮説が己の中で立つ。

 

そもそも()()()()()()のではないか?

 

自分の手を見ているのはただ視界がないことに茫然としているだけで、本当はその目には闇しか映っていないのではと。

 

『・・・これが"代償"か・・・』

 

小さな声でそう呟き、どこかへ行こうとする女を何とか引き止め、時間を稼ぎつつ行動を観察してみた。話しかけてもこちらを見ない目、どこか不安げに動く手足、目の前の分かりやすい石につまづくというミス。

どうやら、仮説は事実のようだ。

どうにも放っておけず、寝床を探しに行くという女を自分の家に泊めることを思いついた。だが、名前を聞いても、視線すら合わせず堂々と無視を決め込む始末だ。どうにも、女は警戒心が強いらしい。

 

『俺は坂田銀時。好きに呼んでくれ』

 

自分から名乗れば、やっと女──美桜は名を教えてくれた。

(ウチ)に泊めてやると言うが、何故か他人を上げるのはよせやら、夜は鬼がでるやら子供だましのような発言を始めた。さすがに苦笑いを抑えられずに言葉を返す。

が、

 

『・・・少なくとも私は、鬼に殺されたから』

 

自嘲の笑みを微かに浮かべながら、そう言う美桜。その言葉は嘘には思えなかった。

 

なら、目の前にいるお前は何なんだ。幽れ──スタンドなのか。いやいやいやいやいやいや。こんなハッキリくっきりしたスタンドがいてたまるかよ。

 

様々な思いが駆け巡るが、ここで美桜を行かせるわけにもいかず、深くは聞かないでおいた。断じて怖いからではない。断じて。

しかし、美桜が心を開いてくれるまでには時間がかかった。それまでの過程の中で、美桜が違う世界から来たことや、家族が鬼に殺されたこと、鬼を狩る仕事に就いていたこと、鬼に致命傷を負わされて最後は妹の腕の中で死んだことも聞かされた。この世界(こっち)に来る代償として、視力が完全に無くなったことも。

今にも泣きそうな顔でそれらを語る美桜は、とても痛々しく、見ていられなかった。気づけば頭を撫でながら信じると口を開いていた。その声は自分でも驚くほど優しくて、普段使っている口調に比べると鳥肌レベルである。

 

『・・・え・・・あ・・・っ・・・』

 

自分の発言に寒気を感じているとは露知らず、美桜は口をパクパクさせながら混乱しているようだった。それが、信じるという発言に対してなのか頭を撫でるという行為に対してかは分からないが、それらを愛おしく感じている自分がいることは確かで、自分の名前を呼んでほしくなった。頭に置いておいた手を離して腕を引き、美桜を腕の中に収める。そして、名前を呼んでほしいとせがんだ。

 

『・・・・・・ぎん・・とき・・・?』

 

たどたどしく、何故か疑問形で呼ばれた自分の名前に、どうしようもない満足感を覚えた。

それから、自分の過去の話をサラッと話したり、またつまづいた美桜を支えたりと色々なことを踏まえたうえで、ようやく美桜をウチに泊めることに成功した。

 

 

 

家に着いてからも、驚きの連続だった。

 

『しゃわー?』

 

まさかの、"カタカナ"から"ひらがな"変換をしたうえで返しがきた。人生初かもしれない、シャワーを知らない奴にあったのは。一体どんな生活環境だったのだろうか。ついでに、シャンプーとリンスのことも知らなかったので、簡単に教えておいた。

 

(こりゃ、慣れるのに時間かかるな・・・)

 

このような一般的なことすら知らないのだ。天人の説明などしたら頭がショートするだろう。

とりあえず、風呂に入れるためにシャワーの使い方を教えることにした。風呂場へ向かい、シャワーを手渡してできるだけ簡潔に分かりやすく説明した。

 

そしてそこで悲劇は起きる。

 

初めてのものだから、興味が湧いたのだろう。美桜はツマミへと手を伸ばした。

 

『あっ、馬鹿!』

 

『?──ひゃっ!』

 

案の定、シャワーからはお湯が出て美桜の顔に思いっきりかかった。

別に、ここまでならいいのである、ここまでなら。問題はここからだ。

美桜はそれはもうビックリしたようで、シャワーを手放して(というか投げ捨てて)、俺の背中に回りこんで抱きついてきたのである。よほど驚いたのか、着流しをギュッと握りしめて顔を擦り付けてくる。

ここでまず理性の三分の一を使った。

どうにか耐えきり、シャワーを止めて美桜に向き直る。

 

『だから、お湯が出るって言ったでしょ?』

 

からかうようにそう言えば、恨めしげに睨み上げてきた。これが、普通の睨みならいいだろう。何の問題もない。

だがしかし、美桜の顔は恥ずかしさからか赤くなっており、涙目である。そして、ほどよくしっとりと濡れた髪。

その状態で睨まれては、こちらもたまったものじゃない。つられて顔に熱が集まり紅潮する。片手で目元を隠して何とか耐えきる。

残りの三分の二の理性をここで使い果たした。

 

『っ・・・美桜ちゃん、それ分かっててやってる?』

 

もはや計画的犯行レベルである。あまりのことにそう聞いてみるが、本人は全く理解してないようで首を傾げるだけ。

これ以上は危険だと察知し、脱兎のごとくその場を後にした。

 

 

 

美桜が風呂に入っているのを確認して、脱衣所に足を向けた。彼女が着ていた服を洗濯するためである。

脱衣所に入ると、律儀に畳まれた服が目に入った。ベルトや足袋、防具のような物も綺麗に置かれている。

とりあえず、洗ってよさそうな黒い服上下を手に取った。下の方は特に特徴もない普通の履物だったが、上の方は違った。背の部分に大きく"滅"と書かれているのだ。羽織を着ていたので隠れていたが、背にこの一つの信念を背負って戦っていたのだとすぐに分かった。見たところ隊服のようだから、属していた組織全体が、この信念のもとに活動していたことも分かる。あの小柄で華奢な体でどのように戦うのか僅かながらに興味が湧いた。

 

 

洗濯も終わり、居間のソファに座ってジャンプを読みながら美桜を待っていると、思ったより早く上がってきた。戸が開く音とともに嗅ぎなれた石鹸の香りが漂ってくる。

 

『銀』

 

『お、上がっ・・・は!?』

 

振り向けば、タオル一枚の美桜がいるではないか。白い肌がしっとりと濡れ、髪から拭いきれなかった水がポタポタと落ちている。

 

『いやいやいやいや、何してんの!?俺的には大歓迎ですけど!』

 

純粋な本音だ。俺としては大歓迎ではある。あるのだが。これはいかがなものだろう。

 

『?』

 

焦る俺に対して、美桜はなぜ俺が焦っているのか分からないらしく首をかしげている。そして、入る前に手渡した甚平を差し出して着方がわからないと言ってきた。

かといって、[あ、そうなの?なら着せてあげるよ]などと言えるはずもない。どうしようかと悩んでいると、美桜が下着は着ていると伝えてきた。それなら早く言ってほしかった。

少しガッカリしたのは秘密である。

それから、美桜が覚えられるように甚平の着方をできるだけ分かりやすく教えてやった。不意に、美桜が裾へ鼻を寄せクンクンと匂いを嗅いだ。ここで[加齢臭がする]などと言われれば、プライドズタズタで泣き叫ぶところだが、それ以上の言葉が俺を襲った。

 

『・・・銀の匂いがする』

 

何この可愛い生き物。

 

少し照れくさそうに、僅かに微笑みながら、そう言う美桜。

やめてくれ、俺の理性(ライフ)はもうゼロだ。

そんなこんなで瀕死状態になりつつ、髪を乾かし、寝室へ押し込み、自分もお風呂へ向かった。

さっきの出来事で、理性を使い果していたのに、耐えきった自分を褒めてやりたい。

 

風呂を軽く済ませて居間に戻れば、ソファに美桜が座っていた。何をするでもなく、ただ静かに座っていた。スタンドかと一瞬思い、叫びそうになった俺は悪くないと思う。

とりあえず、隣に腰を下ろして頭を撫でた。会って約一時間で癖になりつつあるのだが、美桜が嬉しそうなので問題ない。・・・はずだ、たぶん。

寝れないと言う美桜をそのまま起こしているわけにもいかないので、手を引いて立ち上がらせた。そのまま寝室に入り、無理やり布団に押し込める。それでも彼女の睡魔は仕事をしない。どうした睡魔。仕事しろ睡魔。

このままでは美桜も気を使い寝れないだろうと思い、美桜が寝るまで添い寝をすることにした。美桜が端に寄ろうとするので、抱き寄せる。布団から出て風邪でも引いたら可哀想だ(下心がないとは言ってない)。早く寝れるように美桜の背に手を回し、ゆっくりさすった。すぐに美桜の体に力が抜けて、やっと睡魔が仕事をし始めたのが分かった。寝る寸前のところで、美桜が俺の背に手を回してきた。遠慮がちに力を込められる。それに答えるように、ギュッと抱きしめると安心したようにそっと眠りについた。

 

「・・・寝たな」

 

これがここまでの経緯だ。長かった。本当に長かった。ここまでの苦労を思い出すと涙が出てきそうだ。本当に大変だった。主に下半身の負担が半端じゃない。

さて、俺も寝るか。ソファに移動するために起き上がろうとした。が、美桜に甚平を掴まれてるらしく、起き上がれない。無理やり起きて、せっかくの睡眠を邪魔するのは気が引ける。仕方なく諦めて、寝る体勢になった。

スースーと穏やかな寝息を立てて寝る美桜の髪を指で梳く。自分の髪とは違い、サラサラと指通りが良い。次に寝ている美桜の頬にその手を持っていく。その白く滑らかな肌を指の背で優しく撫でる。今日会ったばかりなはずなのに、どうしようもなく美桜に触れたくなる。表情はなかなか変わらないし、愛想は良くないし、世間知らず(?)だし、よく分からない。けど、どうも可愛く見えてしまう。行動の一つ一つが愛おしく思える。

 

(もしかして・・・・一目惚れってやつか?)

 

まったくもって笑えない。だが、美桜なら別に構わない。それほどまでに愛しく思えている時点で確定だろう。

 

(・・・寝るか)

 

もう一度、美桜を抱きしめる腕に力を込めて目を瞑る。

そのまま、腕の中の美桜の温もりに安心しながら眠りについた。

 

 

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