銀色に懐いた最強の白   作:マリユリ

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序章・五

 

*side:美桜*

 

 

隣のぬくもりが一気に冷えていく。離れていくぬくもりに反応して、目が覚めた。

 

「・・・ぎ・・ん?」

 

「あ、起こしちまったか?ごめんな」

 

「んーん・・・」

 

どうやら、銀が起きたことで目が覚めたらしい。銀が布団から出たことで完全にぬくもりが離れた。それと同時に完全に意識が覚醒する。久しぶりに熟睡をした。いつもなら睡眠は2・3時間程度で、極度の浅すぎる睡眠だったのだ。疲れが取れる必要最低限の睡眠しか取っていなかった。銀の安眠効果はすごい。寝れるか心配する必要はなかったようだ。立ち上がって背伸びをしてみると、体の疲れがスッキリ取れているのがわかる。とても気持ちのいい朝だ。

 

「ほら、顔洗いに行くぞ」

 

お決まりのごとく手を引かれて洗面所に連れていかれた。自分なりに身支度を整えるが、ちゃんとできているか分からないので最後は銀にチェックをお願いした。

 

「じゃ、次は朝メシな」

 

「ん」

 

頭にポンッと軽く手を置かれた。

朝ご飯である。一日の活動の源、朝ご飯である。朝ご飯、大事。

 

「銀、食材何がある?」

 

「・・・もしかして、料理する気?」

 

恐る恐るといった様子で聞いてくる銀。

 

「ん」

 

うなづいて返すが──

 

「ダメに決まってるでしょ!許しませんよ!」

 

──即刻却下された。謎のお母さん口調で却下された。

 

「何で?」

 

「何で?じゃないから!怪我したらどうすんの!危ないでしょーが!」

 

「大丈夫」

 

「て言って、昨日二度もコケたのは誰ですかぁ?」

 

「・・・・・大丈夫。痛みには慣れてる」

 

仕事柄、怪我は絶えなかったので痛みには強い。関節外されたとか、骨折したとかなら痛いかもだけど、ちょっとした切り傷なら平気だ。

 

「怪我しない自信がないことは分かった・・・」

 

まあ、そうなる。正直、絶対一回は怪我すると思う。

 

「銀、料理できる?」

 

「まあ、ある程度はな」

 

「一緒に作る」

 

「危ないって言ってんでしょーが。ソファで待ってなさい」

 

「台所、どこ?」

 

「シカト?」

 

その後、2・3分くらい言い合いをして、私の勝利。包丁は必ず銀がいるときに使うことを条件に許可がおりた。

銀に手を引かれて、台所に入る。

 

驚いたのは"冷蔵庫"というカラクリがあることだ。とても便利だと思う。もしかしたら、元の世界にもシャワーやドライヤーや冷蔵庫が私が知らないだけであったのかもしれない。生まれたところが田舎だったし、屋敷にもあまり戻らなかったから分からなかっただけかも。

冷蔵庫から、味噌や卵などを銀が出してくる。私も冷蔵庫を開けて、他に食材がないか中を探ってみる。ヒヤリと冷たい空気が手を包みこんだ。初めての感覚に目を見開く。とりあえず手探りで中を探るが、ほとんど中に何も入ってないことが分かった。

 

「銀、これは?」

 

「ん?ああ、大根だ」

 

「銀、まな板と包丁」

 

「美桜ちゃん、もしかしてもしかしなくても大根切るつもりでいる?」

 

「ん」

 

「ダァメって言ってんだろォが!」

 

「銀が見てればいい」

 

これくらいなら怪我することはないと思うけど、ため息をついて頭を撫でられた。

 

「ほら、これが包丁な。手、気をつけろよ」

 

銀が包丁を握らせてくれた。大根を掴んで、感覚だけで切っていく。トントンとリズムのいい音が響く。

 

「銀、切れてる?」

 

「ああ、上手いな。料理得意なのか?」

 

「小さい頃は作ってた。でも、最近は外食が多かった」

 

「そっか」

 

「銀、鍋に入れて」

 

「ハイよ」

 

私はその間に、傍の味噌をおたまで掬っておいた。銀が大根を入れ終わったのを確認して、鍋の前に立って味噌を溶く。その間、銀が隣でハラハラと心配そうに見ていた。そんなに心配しなくても、鍋の中身は無駄にしない。え、違う?なら何故?火傷・・・、大丈夫、たぶん。

おかずの目玉焼きは銀が焼いてくれたので、十分とかからず朝ご飯は完成し、二人で食卓についた。てっきり向かい合って座ると思っていたが、銀は隣に腰を下ろした。どうやら、食べるのを手伝ってくれるらしい。次は何食べたい?と聞いて、お椀や皿を渡してくれる。本当に世話好きなようだ。

 

「味噌汁美味いな」

 

「誰でも簡単に作れる」

 

最近は外食が多くて、誰かと食べること、ましてや誰かに料理を振る舞うことなどなかったので少しムズムズする。褒められたのは嬉しいが、真正面から言われるとどうにも恥ずかしくなる。

 

「今日は美桜の服とか買いに行くぞ」

 

食事が終わると、突然そう言い出した。

 

(買い物・・・お金・・・!)

 

そこで私は神様の言葉を思い出した。

 

〘その鞄には今までキミが貯めていたお金と、向こうで生きるために必要なものが最低限入っているはずだよ〙

 

あの言葉が本当なら、昨日背負っていた鞄にお金が入っているはずだ。

 

「銀、私の鞄どこ?」

 

「鞄?ああ、コレか?」

 

そう言って手渡されたのは、確かに昨日の鞄だった。手探りで中を探してみるが、財布のようなものは見つからない。

 

「何探してんの?」

 

「お金・・・・無い・・かも」

 

あの神様、嘘を言ったのだろうか。今からでも一太刀あびせても罪にはならないのではなかろうか。

 

「どれ?・・・これじゃねぇの?通帳入ってたぞ」

 

「つーちょー・・・」

 

「お前、生きてけるか?大丈夫か?銀さん本格的に心配になってきましたよ?」

 

その他にも、印鑑や銀行のかーど、ほけんしょーなども入っていたらしい。通帳とは、銀行に預けている金の確認ができたり、金をおろしたりする時に使うようだ。ほとんどが知らない物なのだが、これはいかがなものか。

 

「はぁ!?」

 

「っ!?ぎ、銀?」

 

隣から大きな声が聞こえてきた。もちろん声の主は銀で、何かに驚いたらしいのだが。

 

「美桜、お前こんな大金どうやって稼いだんだよ・・・」

 

「?・・・鬼狩り」

 

「どんだけ給料良いんだよ・・・これ、二十年くらいは遊んで暮らせるんじゃねぇ?」

 

「そ、そんなに?」

 

そんなに貯まっていたのだろうか。一番下の階級の癸でも月給は約二十万円ほど貰えた。癸の階級が約二ヶ月で、柱になるまでに半年かかった。柱は貰いたいだけ給料を貰えるのだが、その時点で金は充分貯まっていたので歴代の柱の平均分を銀行に入れてもらっていた。それが、九年ほど続いた。歴代の柱の給料がどれほどか分からないので気にしてはいなかったが、もしかしてかなりの額を払わせていたのだろうか。癸と同じでいいと言っておけば良かった。

 

「ま、これは何かあった時のためにとっとけ」

 

「ダメ。私が使う物は私が買う」

 

「いいから。銀さんに任せなさい」

 

優しい声が上から降ってくる。そういえば、銀の背はどれくらいなのだろうか。私より高いのは確かだが、どれくらい違いがあるのだろう。

 

「銀」

 

「ん?」

 

両手を伸ばして、銀の両の頬を挟み込む。驚いたようで、少しビクッとしていた。申し訳ないけど、銀のことを知りたいので我慢してもらう。

 

「み、美桜ちゃん?何してんの?」

 

「顔の位置、銀の」

 

私は目が見えないから、顔の位置も分からない。だいたいの体格は分かっても、話す時に目が合ってるのかが分からないのだ。でも、話す時は目を見て話したい。

 

「これくらい?目、合ってる?」

 

「あぁ、合ってる」

 

触れている銀の頬が動いた。笑っている・・・のだろうか。

 

「銀の目、何色?」

 

「美桜と同じ赤」

 

「髪は?何色?」

 

「銀だ」

 

驚いた、ほとんど同じような配色だ。おそろいみたいで嬉しい。

今度は少し背伸びをして、髪に手を伸ばした。

 

「フワフワ」

 

「俺は天パなの!」

 

「嫌?」

 

「嫌に決まってんだろぉが・・・」

 

「そ?私は好き」

 

フワフワ、気持ちいい・・・。銀の頭を梳くように一度撫でてから、顔に手を戻した。

 

「?」

 

微かだが、熱を帯びている気がする。風邪でも引いてしまったのだろうか。

 

「・・・何でもねぇから」

 

「背、高い」

 

「そりゃ美桜よりは高いなー」

 

実際に手を伸ばしてみて、思っていたより銀の方が背が高いことが分かった。たぶん、銀の肩あたりが私の背丈だ。

次に銀の体に手を移動させる。ペタペタと手を当てて、色々確認してみた。

 

「お、おい。何してんの?」

 

「筋肉ついてる」

 

「そ、そうか」

 

「これ、着物?洋服?」

 

体を触っていたら、銀の服装が気になってきた。中に何か着ていて、その上から着物を着ているようだ。隊服にはかなわないが、これはこれで動きやすそう。

 

「外のは着物で、中のは洋服だな。美桜はどんなのがいいんだ?さすがにその隊服は着て歩けねぇだろ」

 

確かに。この隊服は動きやすいけど、私服としてはなかなかに恥ずかしい代物である。特に、背中の"滅"の文字。誇りに思っているのだ。思っているのだが、鬼を見たことのない人からすれば『あの人何を滅する気?』と、不審がられるのは必須である。

 

「銀と同じの。動きやすそう」

 

「そっか。じゃ、そろそろ出かけるぞ」

 

「ん」

 

手を引かれて、歩き出した。途中で鞄と日輪刀を持とうとしたけど、銀に却下された。どうやら、こっちも廃刀令がしかれているらしい。昼間だし、大丈夫だろうと刀は置いていくことにした。鞄はお願いして何とか持っていけることになった。・・・頑張った。本当に頑張った。

 

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玄関を出て、手を引かれながら階段を降りる。私に合わせて銀もゆっくり降りてくれた。降りた先で大きな声で誰かが話しかけてきた。

 

「くぉら銀時!さっさと家賃払いに来いやァ!・・・て、何だい?その子」

 

声からして、年配の女性のようだ。

 

「こいつぁ美桜だ。昨日からウチにいんだよ。美桜、下の階でスナックをやってるババァだ」

 

そう言って、顔を動かされた。たぶん、目が合うように動かしてくれたんだと思う。

 

「銀時、この子・・・」

 

「ああ。目が見えねぇんだ」

 

「え・・・と・・・美桜、です。よろしく・・・お願いします」

 

頭を下げて、もう一度さっきの角度に合わせる。少し緊張してしまったが、何とか自己紹介と挨拶はできた・・・はずだ。

 

「あたしはお登勢だよ。アンタも難儀だねェ、このロクデナシのところに来ちまうなんて」

「おい、ロクデナシとは何だクソババァ」

 

「何かあったらあたしんとこに来な」

 

「無視すんじゃねぇよ!」

 

仲良いな、この二人。年齢の差とかから考えて、親子のようだ。

 

「言われたくなかったら、溜まった家賃まとめてきっちり払うんだね」

 

・・・今、聞き捨てならないことが聞こえた気がする。

 

「銀、家賃払ってない?」

 

「い、いやぁ、それには深ぁい事情があるんだよ。おい、ババァ余計なことを美桜の前で言うんじゃねぇ」

 

「本当のことを言ったまでさね。美桜、悪いことは言わないから、この男はやめときな。アンタにはもっと他にいい男がいるよ」

 

何故か、離れることを勧められた。まあ、離れる気など毛頭ないのだが。

 

「んん。銀がいい」

 

一番安心するのは銀の傍だ。何より、暖かくて心地いい。

 

「・・・・・・・・」

 

「銀時、離すんじゃないよ」

 

「んなこと、言われなくても分かってるつーの。ほら、もう行くぞ」

 

「銀、服やっぱり自分で買う」

 

「何?家賃のこと気にしてんの?」

 

「・・・・」

 

「大丈夫だ。ババァに言ってねぇだけで金はちゃんとあるんだよ」

 

銀、目の前にお登勢さんいるんだけど。言って大丈夫なのだろうか。

 

「おいコラ、聞こえてるよ銀時」

 

ほら、丸聞こえだった。

 

「これから出かけるのかい?」

 

「ああ。美桜の服とか日用品を買いにな」

 

「そうかい。ちょっと待ってな」

 

そう言って、お登勢さんは店の中へ行ってしまった。何かあるのだろうか。少ししたら戻ってきて、何かを手渡された。

 

「美桜、これを持っていきな」

 

「ババァ、これ金じゃねぇか」

 

銀の言う通り、手渡されたのは封筒で、中にはお金が入っていた。

 

「アンタにじゃないよ。美桜にやるんだ。あたしゃ気に入ったよ、この子。美桜、それで買い物してきな」

 

「・・・えと・・銀・・・」

 

私はお金持ってるのに、貰ってしまっていいのだろうか。

 

「ババァがやるっつってんだ。貰っとけ」

 

「ん。お登勢さん、ありがとうございます」

 

「いいんだよ。買い物、気をつけるんだよ」

 

「は・・い。いってき・・・ます・・」

 

お登勢さんと別れて、買い物へ出発する。銀に手を引かれて歩き出した。

 

「美桜、原チャリ・・・乗り物に乗ってくのと歩いてくのどっちがいい?」

 

銀、ありがとう。その"げんちゃり"って何だか分からなかった。乗り物なら、元の世界でいう自動車みたいなものだろうか。

 

「・・・歩き。道、覚えたい」

 

本音をいうと、"げんちゃり"も気になる。けど、道を覚えたいのも事実。一応優先度の高い、道を覚えられる歩きにしておく。

 

「分かった」

 

銀と私は手を繋いだままゆっくり足を進めた。

 

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