荷物持チートのサポーター生活   作:カギフライ

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今回出るキャラの口調、こんなものでいいのかなって。
違和感感じた方は、アドバイスお願いします。





眠りし仲間(ひと)達へ

 マルドゥーク・ファミリアの拠点である小さな小屋。

 主神であるマルドゥークと、その眷属のレンジュの二人だけが暮らす、些か寂しい屋根の下。

 

「おいレンジュ(くそがき)。飯はまだか?」

「はいはい、今作ってますんでもちっと我慢してくださいな」

 

 厨房で料理を火にかけるレンジュ。そんな彼の姿をソファーに横になりながら見ているのは、無論マルドゥークである。

 相も変わらず、Tシャツに短パンとラフな格好の彼女は、その豊満な胸や引き締まった四肢を惜しみなくさらけ出している。

 

「早くしろー。具体的には40秒くらいで」

「それじゃあ生卵と水でいいですかい?」

「はっはっはー、ぶっ飛ばすぞ」

「おたくもちったぁ動きなさいや。というか、んなぐーたらしてると太──っぶねぇ!?」

 

 寒気を感じ体を仰け反らせると、先ほどまで自身の頭があった場所を何かが通過する。

 直後、ドスッという音が聞こえ目を向けると、そこには壁に深々と突き刺さるナイフが。

 

 まじかこの神──そんな言葉を乗せ、マルドゥークへ視線を向けると

 

「あ、悪い。狙いが外れた」

「いや、そこは手が滑ったでしょう……まぁいいか」

 

 刺さったナイフを抜き取り、レンジュは出来上がった料理を皿へと乗せ卓上へと運ぶ。

 先ほどの発言を気にしているのか、マルドゥークはぶすっとした表情のままレンジュを睨みつける。

 

(こりゃまた、大層機嫌が悪いことで)

 

 この主神が怒りの沸点が低いことは知っていたが、今日はなんだかいつもよりもキレやすい。というか刃物まで投げつけてくるので、いつも以上にご立腹なのは明らかだ。

 いったい、何が原因でここまで腹を立てているのか……怒りの原因を探すレンジュ。

 

(太るって言いかけたからか? いや、この神様がんな乙女なこと、気にするはずないな)

 

 見た目は見目麗しいが、如何せん中身が(あれ)な神だ。言ったところで、一笑に付せられて終わりだろう。

 だったら何が──かつてない状況に、レンジュの頭は答えを導き出すことができずにいた。

 

(……まっ、いつか収まるか)

 

 早くいただかなければ作った料理が冷めてしまう。

 レンジュはナイフとフォークを構えると、未だ不満げの睨みつけてくるマルドゥークを余所に食事を始める。

 そんな眷属の姿を見た主神は

 

「……ふんっ」

 

 と、より一層顔を不機嫌にするのであった。

 

 レンジュ・ハーバルドは知らなかった。彼の主神がなぜ、ここまで機嫌が悪いのか。

 その理由が昨夜、彼がギルドの受付嬢と仲良く食事をしていたからだということを……。

 

 

 

 

 

 

 朝食をとったレンジュは、今日も今日とてサポーターとして荷物持ち……をするのではなく。一人迷宮へ潜り、とある場所へと赴いていた。

 其処は木々が生い茂り、光が差すはずのない迷宮の中で外と変わらぬ明るさを保つ階層。

 ここは安全階層(セーフティポイント)と呼ばれる、迷宮の中でモンスターが生まれない数少ない階層の一つである。

 

 光や木々だけではない。ここには小川も流れ、体を清めるために使われる泉もある。

 迷宮からは隔離されたと言ってもいい、穏やかで幻想的な『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』。

 それが18階層である。

 

 そんな木々の中を歩くレンジュは、他には目もくれず、ただ一つの目的をもって足を進める。

 そして辿り着いたのは、小さく開けた空間。明らかに人為的に作られたその空間の中心には、大剣に杖、弓といった十を超す数の武器が突き立てられた、一つの土の山が。

 人の手が加えられたその土の丘には、木に結び付けた旗が風に吹かれ靡いている。

 

 その旗に刻まれるエンブレムは『剣』と『翼』。

 かつて暗黒に包まれたオラリオを羽ばたいた『翼』と、その闇に潜む悪を裁いた『剣』。正義を謳いし者たちがその背に刻んだ、誓いのエンブレム。

 正義と秩序のファミリア──『アストレア・ファミリア』の冒険者が掲げた誇りは、降り注ぐ光を浴び荘厳たる雰囲気を纏う。

 

「前に来てから一か月ってとこか。随分と間を開けて悪かったな」

 

 レンジュは旗の目の前まで歩み寄ると、武器と同じ目線になるよう膝を曲げ、一人語り始める。

 

「聞いてくれよ。リオンの奴、この間酒屋で暴れてた客をぶん投げたみたいでな──」

 

 まるで知己の友と話すように

 

「働き始めて5年経とうってのに、たまーに食器割っちまうらしくてよ。店長に大目玉喰らったんだと。相変わらず、ドジが抜けないっつうか──」

 

 まるで家族と語り合うみたいに

 

「きっとおたくたちが見たら、腹抱えて笑っちまうだろうな」

 

 その瞳に彼女たちの姿を幻視しながら、今にも泣きだしそうな顔で笑う。

 そんな彼の頬へ手を添えるように、優しく風が撫でる。

 

 あんたにそんな顔、似合わないよ────そう、告げるかのように。

 

 

「おや? これはまた、珍しいお方がいたものですね」

 

 不意に、背後から投げかけられる女性の声。鈴のように透き通り、しかし凛と響く声だった。

 

「……おたくこそ、こんなとこまで何の用で?」

 

 その声の正体をわかっているのだろう。レンジュは振り返る素振りすら見せず、背後の人物へと問いかける。

 レンジュの問いに女性は、くすっ、と小さく笑みをこぼし

 

「口にしなければ分らぬほど、貴方様は愚鈍なお方でしたか?」

「……相変わらず、口の悪さは一級品だな」

「ふふっ、その方が貴方様は喜ぶでしょう?」

「生憎と、俺はⅯじゃないんで。勝手に変な設定つけるのやめてくんないですかね?」

 

 軽く言葉を交わした後、レンジュはゆっくりと腰を上げ。そして振り返ると、今まで背中越しで話していた女性へ視線を向ける。

 映るのは極東の島国の衣服である着物を身に纏った、端正な顔立ちをした女性。夜を縫い付けたかのような漆黒の長髪がふわりと風に舞う様は、まさに『大和撫子』と呼ぶにふさわしい。

 

 ニコニコと、見るものを魅了する完璧な笑顔を浮かべる彼女の名は

 

「おたくと会うのは久々だな──輝夜(カグヤ)

「えぇ、お久しぶりでございます──レン」

 

 ゴジョウノ・輝夜。

 アストレア・ファミリアの副団長をしていた、Lv.4の冒険者である。

 お腹の前で手を重ね、恭しく一礼する輝夜に対しレンジュは、呆れたように半目を向け

 

「そんな猫被った言葉遣いはいいですから、さっさといつも通りになってくれませんかね」

「久しぶりの再会ということで、(わたくし)なりに気を使ったのですが……お気に召さなかったでしょうか?」

「気に召す召さないじゃなくてですね。おたくにその口調で話しかけられると、馬鹿にされてる気分になるんですわ」

 

 遠慮ないレンジュの言葉に輝夜は「そうですか」と、小さく呟くと

 

「──まったく、冗談の通じない男だ。そんなだから、貴様はいつまで経っても独り身なんだと、いい加減に気づけ」

「そんな性格だから、いつまで経っても一人だと思わないんですかい?」

「間抜けめ。私に見合う男など、早々いてたまるものか」

 

 誰もが見惚れるような笑顔はどこへ。細められた瞳は刃物のように鋭く、上品な言葉遣いは品性の欠片も見せない口調へ。

 腕組みし不満げに眉根を寄せる様からは、先ほどまでの『大和撫子』と同一人物だとは到底思えない。

 

 先ほどまでの口調は、相手を揶揄(からか)ったりおちょくるときに使うもので、これが輝夜の本当の姿である。

 見る者の視線を釘付けにする容姿を持ちながら、それらを全て上から塗りつぶす。

 マルドゥークとは違った意味で、生まれ持った資質を無駄にしている女。それがゴジョウノ・輝夜という女だ。

 

 他人の揚げ足をとることに関しては超一流の彼女には、あまり熱くならず話半分で終わらせるのがよい。

 レンジュが長い付き合いの中で導き出した、輝夜との付き合い方である。

 

「ほら、せっかくここまで来たんだ。話の一つでもしてやりなさいな」

「言われずともわかっている。ほら、そこを開けろ」

 

 しっしっ、と払うようにを振るわれる左手。頼み方というものを教えたくなるが、言ったところであれやこれやと言い負かされてしまうことはわかっているので、レンジュは静かに自分のいる場所を開ける。

 そして空いた空間へ移動した輝夜は、両の手を合わせ静かに目を瞑り。

 

 そこには今までの性悪な雰囲気はなく、ただ真摯に、かつての仲間を思う姿があった。

 それから数分。思いを伝えきった輝夜はすっ、と目を開ける。

 

「終わりましたかい?」

「あぁ……と言っても、()()ではないがな。貴様もそうだろう、レン」

「……そうだな」

 

 そして二人は眠る仲間たちへと背を向け、青々と茂る木々の中を並んで歩く。

 そんな彼女たちの背中を見送る、幾つもの輝き。「またね」と告げるように、光を反射する仲間たちの形見。

 

(……いったいあんたは、どこで見守ってくれてるんでしょうね)

 

 ただ一人だけ、その輝きの中に入ることのできずにいた人を思い、青空のように澄んだ色を灯す天井を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わり『黄昏の館』。オラリオでも最大の勢力を誇る『ロキ・ファミリア』の本拠の中の一室。

 そこでは一人の少年と一柱の女神が話し合っていた。

 

「準備の方はどうや、フィン」

「順調……と言いたいところだけどね。どうしてもあと数日はかかりそうかな」

 

 特徴的な話し方をするのは、このファミリアの主神であるロキ。朱色の髪を一纏めにした、スレンダーなシルエットをした女神だ。

 そんな主神に答えるのは、金髪青眼の小柄な少年──フィン・ディムナ。見た目こそ幼いが、彼はロキの眷属の中でも最古参であり、そしてファミリアを率いる団長でもある。

 

 フィンの言葉に、ロキは意外、といった表情を浮かべ

 

「なんや、今回は随分と慎重やな」

「なにせ未攻略の階層へ向かうからね。用心するに越したことはないさ」

 

 でも、と続け

 

「どうしても、持てる物資や武器は限られてね。50階層までは行けるとして、その先まで持つのかが気がかりなんだ」

 

 過去の経験上、50階層までかかる日数は早くても5日。往復となると10日にも及ぶ。

 さらにトラブルなどにより、進む足が遅くなってしまった場合を考えると、必要となる物資はかなりのものになる。だがそれだけの物を運ぶとなると、それらを運ぶ人でもまた必要となってくる。

 そして多すぎる人数では進みも遅くなってしまうので、どうしてもギリギリの物資しか持って行くことができない。

 

 そんな状況で、未攻略の階層を突破できるのか。いや、自分たちなら突破できる自信はあるが、その後がどうなるのかがわからない。

 ギリギリを見極めた物資の準備に、フィンは珍しく頭を悩ませる。

 

「なんやフィン。それやったら、うってつけの冒険者がおるやんか」

「うってつけ……ああ、彼か」

 

 確かに、彼ならば今直面している問題を解決してくれるだろう。

 それに、いざという時の『切り札』にもなりえる。

 

「よし、それじゃ明日にでもお願いしに行こうかな」

「おっ、やったらうちも連れてって! 久しぶりに姉御に会いたいわ~」

「頼むから、あまり騒がないでくれよ?」

 

 

 

 





この小説は、ゴジョウノ・輝夜生存ルートとなります。
生存させた意味は特にありません。ただ一目見て気に入ったので。

死亡キャラ生存が苦手の方は申し訳ありません。


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