「浮気したなフータロー君!最低だよ裏切り者!」
「ぐはっ!」
私の渾身の右ストレートと共に、上杉君は宙を舞った。
「痛ってえ。やりすぎだろ……」
「ごめんねー。つい力が入っちゃって」
「お前がドラマの演技の練習に付き合えって言うから協力したんだぞ。しかもせっかくのお前の誕生日に」
「本当ごめん。次は気をつけるからさ。もう1回だけ、ね?」
「せめて別のシーンにしないか」
「しょうがないなフータロー君は」
と言いつつここまで私の計画通り。
演技の練習と言ってキスシーンをする。
これならフータロー君もキスをしてくれるはず。
「じゃあ次はこのシーンやろっか」
「なになに、主人公とヒロイン役の一花が追い詰められてピンチに。2人は最後に愛を確かめ合い、キスをしながら崖から落ちて自殺をする」
「なかなかハードなシーンだよね」
「てかキスシーンがあるぞ」
本当はそんなシーンはない。フータロー君が主人公の時だけの特別なシーン。
「おやおや?もしかして嫉妬してくれてるのかな?」
こうやって言えばフータロー君は対抗してやってくれるはず。
「わ、悪いか?」
「え?」
小さな声だったけど確かに今、悪いかって言った気が……
「……嫉妬したら、悪いか」
「フータロー君……」
そっか。フータロー君は私のこと大事にしてくれてるから。そんなこと少し考えたらわかったはずなのにお姉さん失格だ。悪いことしちゃったな。
「フータロー君ごめん!本当はこんなシーンないんだ」
「は?」
「そ、そのさ、フータロー君とキ、キス、したかったから。だからごめんね」
「じゃあ本当はキスシーンなんてないんだな?」
「うん」
「なんだよ。心配して損したぞ」
フータロー君は笑ってくれる。騙すようなことをした後でも、やっぱり彼は優しい。
「でもさ、このシーンやってみない?私が考えたんだよ」
「やってみないってお前キスシーンだぞ」
「嫌?」
「嫌ってわけじゃ……」
「誕生日プレゼントだと思ってさ」
「……わかったよ」
「やったあ!」
台本を確認し、お互いに向き合う。
「じゃあいくよ」
「ああ」
フーっと息を吐く。
おかしいな、本番の時よりも緊張してる気がする。
「私たちはここまで見たいね」
「そうだな」
「でも!それでも!私はあなたを愛してる」
「俺もお前を愛してるよ」
「……もう時間みたい」
「ああ」
「……最後にキスして」
「わかった」
ついにくる。待ちに待ったキスの瞬間。
「ふう」
「…………ん?」
「ん?」
「キス、した?」
「は?演技の練習なのに本当にキスするわけないだろ」
「えぇ……」
「もしかして待ってたのか?」
「待ってたよフータロー君のバカ!」
もっと正直にキスしたいって言えばよかったな。
「じゃあこれでいいか」
「へ?」
「一花、好きだ」
「……フータロー君」