私にとって誕生日は、外でご飯を食べて家に帰ってからはケーキを食べる、つまり美味しいものを食べる日だった。
だったはずなのに……
「あーん」
「あ、あーん」
「美味いか?」
「はい。美味しいです、……じゃなーい!」
「なんだよいきなり!?」
「これでは、美味しいものを食べさせてもらう日に変わってます!!!」
『あーん』だなんて!『あーん』だなんて!!
恥ずかしすぎる。
確かに誕生日なんだし、少しはイチャイチャしたいと思ってはいたけどいきなり『あーん』だなんて。
「俺のチョコケーキも食べたいって言ったのはお前だろ」
「そ、そうですけど」
「じゃあなんで怒ってるんだよ」
「別に怒ってるわけじゃ……。は、恥ずかしかっただけですよ」
「へー」
上杉君だって恥ずかしかったくせに。
だったらやり返してやる。
「そんなに言うなら上杉君にも食べさせてあげますよ」
「本当か?」
「ええ。何を食べたいですか」
さあ!上杉君も『あーん』されてもっと恥ずかしがれ。
「そうだな……」
上杉君の目がキラリと光った。
い、嫌な予感がする。
「じゃあ、五月」
「へ?」
「……五月」
「は、はあ!?」
わ、私を食べる!?
勉強のしすぎで頭がおかしくなったんじゃ?
「ちょっと上杉く……」
「め、目を閉じろ」
い、今、上杉君目を閉じろってい言ったような。
それはつまり、きききっ、キッス!
キスをする!
「早くしてくれ。俺も恥ずかしいんだよ」
「は、はい!」
上杉君の言葉に対して反射的に目を閉じる。
何も見えない。だけど上杉君の顔が少しずつ近づいて来ているのがなんとなくわかる。
おそらくあと少しで……
「五月。い、行くぞ」
「は、はい……」
ゆっくりと上杉君の唇が私の唇に触れていく。
「んっ、んん。上杉君……」
「五月……」
「痛っ!」
「大丈夫か!?」
おそらく上杉君の歯が勢いよく私の唇に当たったのだろう。少しだけ下唇が痛い。
「は、はい。大丈夫です」
「そうか……」
さっきまでの良い雰囲気が嘘のように消えてしまった。
せっかく上杉君が頑張ってくれたのに。
「……ケーキ食べるか」
このままじゃだめだ。今日は上杉君とイチャイチャするって決めたから。次は私が頑張る番だ。
「いえ、もう1度お願いします。私を食べてください!」
「お前……」
「さあ!さあ!」
「わ、わかった。いくぞ……」
もう1度目を閉じる。今度は上杉君の顔が一気に近づいて来て、私たちの唇は素早く重なり合った。
「ん。あふぅ。上杉君……」
「はあ、はあ。五月」
1回目の時よりも長く、そして濃厚に。
唇を離すときは、お互いに名残惜しそうにそっと離した。
上杉君とついにキスをしたんだ。
目が合うと上杉君も同じことを考えていたのか、2人ともショーケーキに乗っているイチゴのように真っ赤な顔になった。
ありがとうございました。