どうしてだろう。
「──累」
脆くて弱くて、僕が本気を出さずともその首を締めれば呆気なく息絶えてしまうただの人間が。
どうして
「累、あまり虐めてやるな」
「……仕方ないよ。これは躾なんだから」
僕は鬼だ。人を喰らう鬼。
人間からは恐れられ、嫌われ、憎まれ、必要とされていない異形の鬼だ。
どうして、彼は慈しい眼差しで見てくれるんだろう。
「躾なら、他にも方法があるじゃないか」
「…他に?どんな方法があるの?」
放っておけばいい。どうせ勝手に野垂れ死ぬ。どうせ勝手に居なくなってる。
だって僕は鬼で、彼は人間だから。
……でも、僕にはそれが出来なかった。
それは単純に、あの方の命令でもあるからだけど。
「愛すること。俺が累を、愛するように。心まで抱き締めて、優しさで埋め尽くして、離れられないようにすればいい。恐怖で縛るより、よっぽど効果的さ」
「愛……」
「累が一番分かってると思ったんだけど?」
優しさ。慈しさ。やさしさで包まれているから。
きっとこれは罠だ。だって貴方は、人間なのにとても恐ろしい言葉を吐いている。貴方は鬼に殺されないでいる。
そんなこと、人間に出来るはずない。やれるはずない。
……なのに。貴方は此処にいる。
「……そうだね。僕が貴方に囚われているんだ。当然その方法は思いついたよ。けど、そうしたいと思えないんだ」
「あははっ。──それなら仕方ないなぁ」
貴方は人間だ。人間なんだ、どこまでも。
僕が人間だった頃から、貴方は何も変わらない。
毒のように蝕む貴方の愛は、鬼をも痺れさせて虜にする。
「…鬼卿さん」
「うん?」
「僕が死ぬ時、鬼卿さんは誰の傍に居るの」
貴方を殺さないのは、僕だけじゃない。
あの方までもが貴方を生かしている。守っている。
ただの人間なのに、どうやってあの方に取り入ったのか。
もし鬼狩りだとしても、あの方が鬼狩りであることを見抜けないはずが無いし。何年経っても可笑しな人間だった。
「凄いな、累は死ぬのか?」
「死なないよ。死なないけど、気になっただけ」
貴方のことなら、なんだって気になってしまうだけ。
「どうだろうな。累の傍に居るかもしれないし、無惨様の元へ呼ばれているかもしれない。けど、累が死ぬのを怖いと思うんだったら…なるべく累の傍に居てやりたいな」
布が薄い白衣で顔を隠している鬼卿さんは、まるで幼子を宥めるような優しい声色で答えた。
それにどうしようもなく心が震えて、優しくなれる。
「……なにそれ。僕がそう思うと思うわけ?」
「あはは。だってそんなこと考えたこともないからさ。俺は人間で、累は鬼。俺の方が先に死んでしまうのに、まさか累を看取るなんて……不思議な感覚だろうさ、きっと」
「…そういうものかな」
人が死ぬ様も、鬼が死ぬ様も見てきた。
それは全て僕が作ってきたものだから、今更何か思うことはない。
けど、それが彼だったら?
鬼に殺されることもなく、自然に歳をとり死んでいく彼。
それを看取り、傍に居る僕を想像すれば──。
「──ぁあ……確かに、不思議な感覚だね」
「な。きっと想像し難い顛末になるよ」
「うん…僕が死ぬ未来も、貴方が死ぬ未来も。どちらに転んでもきっと、最後まで信じられないと思う」
「あははっ。信じたくない、じゃなくて?」
「……それ、僕を莫迦にしてるの?」
「まさか。そうじゃなくて、そうならざる得ないってことさ。だって、累達鬼は、死ぬまで時間があるからさ」
「…?」
いまいち、分からない。
首を傾げる僕に笑う鬼卿さんは、不意に空を見上げて。
「累、朝になる。帰ろうか」
「…うん。鬼卿さん、夜になるまでどこにも行かないで」
「──お望み通りに」
鬼卿さんは、一体何を思って僕の傍に居るんだろう。
……ううん。僕達、鬼の元に居るんだろう?
彼は人間で、僕は鬼。あの方は鬼で、貴方は人間だ。
「鬼狩りはいつも通り俺が払っておくな、累」
「ありがとう。アイツらも使っていいからね」
「あはは、じゃあついでに俺なりの躾してあげようか」
「別にいいけど、僕の言う事も聞けるようにしてよ」
「はいはい。使い物には出来るようにしようか」
こんな会話をしてると、彼が人間には思えなくなる。
というか、そもそも彼ってちゃんと歳をとってるのかな。
だって、僕が人間の頃からずっと──。
「累。どうした?」
「……なんでもないよ。早く帰ろう」
僕達の家に。
僕は彼と手を繋ぎながら、夜闇の山を歩いて行った。
如何でしたか?主人公の不思議さがちょっとでも理解出来たらそれだけで満足……いやもっと見てって!!
これメインは主人公の歪さですから、もっとキャラとの交わり…関係性が見たいって人は、あらかた投稿したら番外編作りますので、そちらをどうぞ!
感想・評価・ツッコミあれば段階早まるかも……!!
なんてね。ではでは!