彼の人は   作:後生さん

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リクエストいただきました、上弦との馴れ初めです。
まぁ馴れ初めっていうか、オリ主に対してどうなのか、ですけどね。

今回は堕姫&妓夫太郎と、猗窩座です。
いやぁ、難しかった。それではどうぞ。




弎つ

 

 

 

その人は、アタシ達が鬼になった時から無惨様の隣に居た。というか、無惨様が連れ回っていた?

 

初めて無惨様から紹介された時、一目見て怪しい奴だと思ったわ。だって白衣を被ってるし、その左眼は閉ざされている。そこから覗くその顔はまぁ、中々だったけど。

 

一番驚いたのが、その匂いからして彼が人間だったこと。無惨様は人間がお嫌いだったんじゃないのかしら?もしかして食料として食べる気なのかも!

 

そう思ってたけど。

 

 

「此奴は鬼卿。私の不在時には、お前達にも預けることになるだろう。嫌なら他に押しつけても構わん」

 

「あはは、酷いなぁ。不束者だけど、宜しく頼むよ」

 

「えっ?」

 

 

預ける…?それって、どういうこと??

いつもの如く凛々しいお姿の無惨様の横で、彼は微笑んだ。優しく、やさしく、まるで幼子を見るかのように。

 

 

「お兄ちゃん、預けるってどういうこと?」

 

「さぁなぁあ…殺すなとも、食うなとも聞こえるがなぁ」

 

「え!?ってことは、あの人間守るってこと!?」

 

「そうともとれるなぁ。ただ無惨様のお考えはともかく、俺たちは忠実に守るだけだからなぁあ…」

 

 

お兄ちゃんはあの人間にはそんなに興味が無いみたい。

でもアタシはどうも素直になれないわ。

 

 

「それはそうだけど!納得いかないわ!!アタシだって無惨様のお側にずっと居たいのに!!」

 

「うぅん…多忙なお方だからなあぁ……堕姫、あんまり無惨様を困らせちゃいけねぇからなぁあ」

 

「わ、分かってるわよ!……でもっ」

 

 

だって、なんだか無惨様、アタシの知らない顔をしているんだもの。あの鬼卿とかいう奴に向けてるって考えたら、アタシだって!って思うじゃない。

 

 

「だって、なんでアタシ達が守らなきゃいけないのよ。たかが人間じゃない。しかも男だし…アタシは嫌よ」

 

「……しょうがねぇなぁあ。俺だけで引き受けるわけにもいかねぇし、ここは童磨様に──」

 

「童磨かぁ。彼処はちょっと居心地が悪いんだよなぁ」

 

「「!?」」

 

「信者達が童磨と併せて崇めてくるんだ。童磨は何も吹き込んでないらしいけど。全く可愛い悪戯をする」

 

 

困ったような優しい声に二人して顔を向ければ、鬼卿はやぁ、と馴れたように手を振った。

 

 

「なっ、なんでココに居んのよ!?」

 

「少し君達と交流を深めたくてさ。無惨様から許可は頂いたよ。長い付き合いになるんだ、名前を教えておくれ」

 

「誰に向かって口聞いてんの?!ふんっ、その不細工な布取ったら考えなくもないけど」

 

「おい、あんまり過ぎた口は…」

 

「大丈夫よお兄ちゃん。だってコイツ人間だもの」

 

 

アタシ達に近寄れ…はされたけど、傷なんてつけられないわ。腕を組んで鼻で笑えば、鬼卿も笑った。

 

 

「あはは、初対面の相手には失礼だったか。──では、お望み通りにしたら、名前を教えておくれ」

 

 

そう言って白衣を外した鬼卿の瞳を見た瞬間に、アタシは固まったように動けなくなった。それはお兄ちゃんも同じで、いつの間にか彼の顔をじっと見つめてしまっていた。

 

 

「?どうした?」

 

「……あんた、人間よね」

 

「うん?人間さ。そこらに居る有象無象の小さな存在と同じ。君達には手も足も出ないからなぁ」

 

 

そう茶化して笑う鬼卿には、恐れの一つも無かった。

あるのは、どこまでも優しくて、慈しい、暖かな感情。

 

 

「…アタシは堕姫よ」

 

「……俺は妓夫太郎だぁあ」

 

「堕姫。妓夫太郎。うん、堕姫、妓夫太郎か。そうかそうか。忘れないでおくよ。俺は鬼卿だよ、改めて宜しくな」

 

 

ぽん、と頭に乗せられ撫でる手は、とても暖かかった。

 

 

 

 

 

 

この感情は、初めて経験するものだった。

人間だった頃に何人かから向けられたもんにも似ていたが、そのどれにも抱いた気持ちは「居心地が悪い」だ。

何故ならそれは、全て同情と哀れみから始まったから。

 

なのに、目の前のコイツはなんだ?

 

同情も哀れみも恐怖も何もかも俺たちには向けていない。

ただ、何処までも優しく、真っ直ぐな「愛情」だった。

 

 

「梅、また遊女を泣かせたのか」

 

「だってアイツ不細工で腹立つんだもの!めそめそしてアタシを見る度にビクビク震えて!アタシ悪くないわ!」

 

「あはは。でも仲良くしないと、すぐ他のやっかみが出てきてしまうよ。どれ、俺が少しお話してこよう」

 

「鬼卿さんが?それなら安心ね!」

 

 

いつの間にか堕姫は、あの人にさん付けし、人間の頃の名を教えるまでに心を許していた。かくいう俺も、似たようなもんだったがなぁ。

 

 

「妓夫太郎、おいで」

 

「鬼卿さん……会う度梅の相手ありがとなぁあ」

 

「うん?それは俺も同じさ。お前達が懐いてくれてとても嬉しいんだよ、愛しい俺の兄妹」

 

 

そう言っては必ず頭を撫でてくる鬼卿さん。

はっきり言ってむず痒くて仕方ない。

こんなの俺たちには無縁だと思ってたからなぁあ。

 

鬼卿さんは普通の人間。

だが、無惨様に気に入られてる時点で「普通」でないのは分かっていた。ただ、何か分からなかっただけで。

 

けれど、やっと分かった。

 

 

「妓夫太郎、梅。今日は外に散歩に行こうか」

 

 

微笑む鬼卿さんは、百年経とうと死にはしなかった。

後に無惨様から、あの人が不老であることを知った。どうりで無惨様が気に入るはずだし、姿が変わらぬわけだ。

 

 

「でもなぁあ…そんなの関係ねぇよなぁあ」

 

「うん?何か言ったか?」

 

「何も言ってねぇよおぉ」

 

「そうか。──ああほら、美しい満月だ」

 

 

まるで梅のようだとさらりと褒める鬼卿さんに、梅は大喜びで鬼卿さんに抱き着いた。

 

──鬼卿さんが人間であろうがなかろうが、俺たちが向けるようになったこの感情はもう消えない。

 

それに、俺は知っている。

 

彼以上の化け物を。人間の皮を被った醜い奴等を。

俺は取り立て屋だ。妓夫太郎だ。鬼だ。化け物だ。

 

子供のようにはしゃぐ愛しい梅。

そんな梅を、柔らかな眼差しで見つめる鬼卿さん。

 

 

「……俺から取り立てることは赦さねぇよおぉ」

 

 

初めて妹以外に守りたいものが出来たなんて、過去の俺なら自分自身を妬んだだろうなぁ。

 

 

「お兄ちゃーん!鬼卿さんが綺麗な帯くれたのよ!」

 

「妓夫太郎のもあるんだ。きっと似合う」

 

「……俺のまで悪いなあぁ」

 

 

だから今くらいは、もう少し浸ってもいいよなあ?

 

 

 

 

 

 

 

◇◇ ◇◇ ◇◇

 

 

 

 

 

 

 

「猗窩座」

 

「……鬼卿」

 

 

男は脆弱な人間だった。俺が大嫌いな、憎むべき人間。

なのにソイツは、ただの人間では無かった。

 

 

「鬼卿、大事ないか」

 

「お前は優しいな。この通り、心配要らないよ」

 

「そうか。それならいい」

 

 

何故、俺は気にしてしまうんだろうか。

弱ければなんの意味も無いつまらない人間を、俺は何故出会う度に存在を確認するのだろうか。

 

 

「……鬼卿、お前は人間のくせに死なないのか」

 

 

此奴を見ていると分からなくなる。

人間はすぐ死ぬ。弱く、弱く、何も出来ない愚の赤子のように。だが鬼となれば、強く、強く、何百年も生き長らえて、更に強固に己の価値を高めることが出来るのだ。

 

──だが。

 

人間であるのに死なず、鬼でないのにあの方に守られている。守られている時点で雑草と同価値だが、これはただの人間とはまるで違う価値だ。

俺はこの人間の扱いが、よく分からなくなっていた。

 

 

「あはは、猗窩座が何も悩むことはない。これは俺の問題で、お前には些細な事だよ」

 

「……俺を知った上で、何故そう決めつけられる」

 

 

鬼卿は微笑む。唯一視える片眼も閉じて。

 

 

「──気にするまでもなく、下らないものだからな」

 

 

それに沸いたのは、言いようのない怒りだった。

 

……怒り?何故だ?

 

振り払うように頭を振る。鬼卿が不思議そうに見てくる様に更に苛立ち、それにもっと分からなくなる。

 

 

「…お前は無惨様に認められているんだ。何をそう卑下する必要がある。お前は既に、雑草では無いというのに」

 

 

何故自分をつまらなく見せる?

それはまるで、今俺が抱くものと似通っていて──。

 

 

「本当、猗窩座は真面目だなぁ」

 

 

暖かな体温が、頭に乗せられた。

それに固まる俺に構わず、壊れ物を扱うかのように撫でてくる鬼卿に、先程の怒りが静かに消えていく。

 

 

「案ずるな、猗窩座。お前が悩み続ける限り、俺はずっと傍に居るよ。愛しい鬼よ、お前が望んでくれる限り」

 

「…………そうか。それなら、いい」

 

 

俺は、此奴が死ぬまで守り続ける義務がある。

無惨様の命令を忠実に守ることは、誉高いことだ。

 

だから。

この胸に響く感情が理由になど、なりはしない。

 

 

「猗窩座?」

 

「……」

 

 

ちらつくかつての自分を、この温もりに集中することで消し去ることになんの意味があるのだろうか。

けれど。分からないことから俺は目を逸らす。

 

──どうせ此奴が何とかしてくれるだろうから。

 

 

 

 




如何でしたか?オリ主の圧倒的癒しパワー。
また他のメンバーも書くつもりですので、ゆっくりとお待ちください。

感想・評価お願いします!ではでは!
追記:誤字修正しました。報告有難う御座います!



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