鬼卿さんお散歩コーナー。
ばったりしちゃってもしょうがない!
耳に花札のような耳飾りをした鬼狩りの剣士。
何処かで会ったような、そんな気がして首を捻る。
「……まぁいいか。暫く好きにしろと言われてるし、偶には日光の下で気侭に歩こうか」
いつまでも夜行動じゃ、人間なんて言えやしない。
そうだ、無惨様に手土産でも買おうかな?怒られるか。
ぶらぶらと宛もなく街中を歩いて景色を堪能する。やはり日中のこの騒がしさが何とも気分を明るくするものだな。
「♪〜。あ、団子屋か」
少し寄ろう。小腹も空いてきたし。
そう思い団子屋に寄り、店員に団子を一皿頼む。その時に何とも珍妙な顔をされたのは、きっとこの白衣のせいだ。けど仕方ない。あまり顔を見せたく無いのだから。
「──お隣、よろしいでしょうか?」
「…ぅん?」
「あ、私にもお団子を一皿お願いします」
「はーい!」
声を掛けてきたのは蝶の髪飾りをつけた麗しい女。その格好からして、鬼狩りの仲間。優しい物腰でさり気なく隣に座ってきた彼女に、俺は面白いものを見る視線を送る。
「この街にお住みですか?」
「……そうだな、昔住んでいたことはあったかな」
「あら。この街は賑やかでとても素敵ですのに…ここよりも素晴らしい場所を見つけた、とか?」
「あははっ。いやいや。住処を変えたのは成り行きでさ」
「成り行きですか?」
そうさ。人の身で永く生きていた俺の元に無惨様は現れ、強引に俺を連れ回すものだから。まぁ、どちらにせよ姿の変わらぬ俺は街を転々としなければいけなかったけど。
「お待ちどうさま!ゆっくりしてくださいね!」
「ふふ、ありがとうございます」
「ありがとう。そういう其方は、街の人かな?」
注文した団子を受け取り微笑む彼女に、同じように受け取って俺も質問する。彼女は団子を口につける前に笑った。
「いいえ?仕事の帰り道に寄っただけなんです…まぁ、美味しいですね、このお団子。お土産にしようかしら」
「…うん、確かに美味い。奇遇だな、俺もそうしようと思っていたよ。ただ、団子は好まれないかもしれないなぁ」
「そうなんですか?残念ですね。とっても美味しいのに」
「本当、残念だ」
彼等の中で唯一、童磨なら食べるかもしれないけど。信者でお腹いっぱいかな?それだったら悪いしさ。
仕方ない、お土産はまた今度にしよう。それに、お土産を買ったとしてももしかしたら駄目になるかもしれないし?
「またどうぞー!」
「はーい!ふふふ。このお店甘露寺さんに教えなきゃ」
「俺はそろそろ行くよ。他も回りたいからさ」
会計も終わり、店から数歩離れた先でそう告げれば、彼女は嬉しそうな笑顔から、圧するような笑顔に変わった。
「待ってください。貴方のこと、興味があるんです」
「それは嬉しいな。でも俺には無くてね」
「あらそれは悲しいですわ…女性を悲しませた責任、とってくださいます?」
「新しい恋人でも見つけたらきっとすぐにとってくれるさ。──まぁ、見つけられたらの話だが」
「……んん」
さてどうしようか。退いてくれる気は無さそうだし……それに周りを見る限り、これは罠に嵌められているようだ。
「やれやれ…面倒な相手に捕まったものだな」
「申し訳ないのですけど、此方も譲れないんです……貴重な情報源を、みすみす逃したくないので」
「あはは──鬼狩りめ」
土を踏みしめ、お互いに微笑みを交わした。
◇ ◇ ◇
彼の情報は富岡さん、そして炭治郎君から聞いていた。
人間である彼が十二鬼月の下弦の鬼を「俺の鬼」と言っていたこと。私たちを「鬼狩り」だと呼んでいたこと。
お館様は、彼は鬼舞辻無惨に繋がる手掛かりへとなるかもしれないと仰っており、見つけ次第拘束連行、拒み逃走の意図がある場合も可能な限り捕縛し本部に連れて帰るように、との命令を全鬼殺隊員に下した。
あの時、もし私が炭治郎君の妹さんを攻撃しようとして富岡さんの気を逸らさなければもしかしたら連行出来たかもしれないと考えると……ちょっとだけ罪悪感があったんですよね。ですから、結構本気で探してたんです。彼の事。
結局、見掛けたのは殆ど運みたいなものでしたけどね。
彼は不思議な雰囲気を漂わせていて、どこかお館様に似ていた。薄らと白衣から透けて見える顔は、出会った時から穏和で優しい印象で、白衣があるにせよ、きっとそれを脱げば人目を引く容貌だろうとは普通に見当がついた。
…まさかこうも攻撃的な口調だとは思いませんでしたが。
「そういえば名前を名乗ってませんでしたね?私は胡蝶しのぶ。貴方の言う鬼狩り…鬼殺隊の一員です。貴方は?」
「名乗るつもりはない。けど、一つ聞きたいことがある」
「では名前と交換で答えてあげますよ?」
「あははっ。まるで狐の様な揚げ足取りだな」
鬼殺隊としての会話からはかなり毒の効いた言葉ばかりで、これ結構癪に触ってきてるんですよねぇ。いくら私が優秀な毒使いだからといっても、毒がついたモノならなんでも対処出来るわけじゃないですからね。しますけども。
「ここで吐かなくても結構ですよ?このまま連行して、然るべき対処をするだけのこと。今か後かの違いですから」
「どちらにせよ従う気はないな。随分自分に自信があるようだが、お仲間が居なければ俺を拘束することも出来ないと見えるが。小柄なのは可愛いと思うよ」
「ふふふ…私、こう見えて慈悲深い方なんですよねぇ」
「自分で言う者ほど程遠い。敢えて大きく見せるのは関心するが、相手によっては止めた方がいい。俺とかな」
んー、手強い!あとそろそろキレてもいい頃ですね、私。
──でも、充分時間は稼げた。
これで彼は袋の鼠。
「もう一度問いますよ?貴方の名前を教えてください」
「もう一度言おうか。──名乗るつもりなどない」
「……そうですか」
では、連れてっちゃってください。
ザッと現れた鬼殺隊の数名の男隊員たちが彼を囲んで拘束しようと迫る。彼は武器も持ってないし、炭治郎君の鼻頼りの不確かな情報だったけど、こんな日光の中歩けるのなら間違いなく人間でしょう。ただの一般人に鍛えている隊員が負けるなんてあってはいけないけど、彼の余裕から何かあれば私が動けばいい。筋力はないけれど術はある。
……けれどそれは、あくまで彼自身の動向しか思考に入れておらず、私はそこに「鬼」が関与するとは微塵たりとも思わなかった。それは、今が昼間である故の盲点となり、私が油断を見せてしまった原因となってしまう。
「──鳴女」
「っ!?」
ベベン、と琵琶の音が響く。
私はハッと気付き、隊員達の間を割って入るが遅かった。
「ッ……居ない……!!」
まるで神隠しにでもあったかのように、彼は忽然と姿を消してしまっていた。隊員達も同じように動揺し、同じように目の前から消え去る様を見たらしく、私はやってしまったと頭を抱え、自分の考えの甘さを猛反省した。
「私としたら…まさかこんな失態を犯すなんて……」
彼が鬼舞辻無惨に繋がっているかもしれないというお館様のお考えの元、私たちは彼を探していたというのに。
もしそうならば彼を守る為の策も用意されていると当然思いつくはずだった。いくら太陽が土を照らす時間帯だとしても、鬼の血鬼術使いくらいは警戒するべきだったのだ。
「……ふぅ…彼が鬼と繋がってる事実は掴めましたけど、結局それ以上に得られたものは何もありませんでしたし。己の根性を鍛え直さねばなりませんね…」
私は項垂れて溜息を吐き出し、歩き出す。
通常任務の報告と、彼を取り逃がすという大失態と経緯を報告する為、一先ず本部へと帰還するのだった。
◇ ◇ ◇
「わっ」
「──んっ?あ、童磨か」
「これは驚いた。唐突に現れて如何したの鬼卿殿?」
「悪いな。ちょっと避難しにきた」
「避難?」
どうやら鳴女は、童磨の場所が安全だと思ったみたいだ。周りを見渡し此処が童磨の教祖としての部屋だということが分かった。仕事中に来てしまったかと苦笑する。
「ふぅん、まぁいいや。鬼卿殿は暫く暇なんだっけ?」
「うん?そうだな、無惨様にはそう命じられてるよ」
「なら俺のお手伝いしてくれよ」
「どんな?」
「腹ペコな鼠が居てね、そこら辺に食いつかれるのが怖くて仕方ないから駆除しようかなぁって」
「それは大変だな。勿論喜んで手を貸すよ」
「ありがとう!やっぱり持つべきものは友だねぇ」
お茶を持ってこさせるよと鼻歌を歌いながら部屋の外に顔を出す童磨に礼を言ってると、先程の鬼狩りとの遭遇なんかもう微塵も記憶に残っちゃいなかったのだった。
鳴女の使い方合ってます?これだと壺より便利なんだが…。
胡蝶さんだって失敗はあるさ!次は頑張って!ないけど!
鼠っていうのは比喩表現。
一体何を捕まえるんだか。頭可笑しい奴はわかんない。
あ、私もだった。
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