間一髪で呼び戻してくれた鳴女によって、無限城に帰ってくる事が出来た俺は、妓夫太郎と梅の帯を眺めながらその場に座る。そこには既に上弦の鬼達が集結していて、俺の存在に気付くと、真っ先に無惨様が声を上げた。
「遅い。?白衣はどうした」
「……ん、落としてきたよ。替えはあるさ」
「ふん、感傷にでも浸っていたか」
「うん…俺の鬼がまた死んでしまったよ」
愛しい兄妹が逝ってしまった。
帯をいつまでも撫でる俺に無惨様は目を細めると、すぐに上弦の鬼達に厳しい言葉を投げる。
「産屋敷一族を何故未だに葬っていない。青い彼岸花は何故まだ見つからない?何百年もの間お前達に言いつけていたことが、何故まだ達成出来ていないのだ。もはやお前達上弦の存在理由などあるのか。私には分からなくなった」
「!?ヒイイッ!御許しくださいませっどうかどうか!」
「……」
「返す…言葉も……ない……産屋敷……巧妙に…姿を……隠している」
「俺は探知探索が不得意だからなぁ。如何したものか…」
謝罪する彼等に俺はやっと顔を上げる。
──もう、お別れは済んだから。
話の最中立ち上がり篝火にまで歩くと、玉壺が弁解するように無惨様に声を張り上げる。
「無惨様!!私は違います!!貴方様の望みに一歩近付くためのものを情報を私は掴みました!ほんの今しがたっ」
「──私が嫌いなものは変化だ」
玉壺の声が途切れたことに目を向けると、無惨様が彼の首をいつの間にかもぎ取っていた。
「状況の変化。肉体の変化。感情の変化。凡ゆる変化は殆どの場合劣化だ。衰えなのだ。──私が好きなのは不変。完璧な状態で永遠に変わらないこと。
鬼卿はその稀な生命体だ」
「あはは、お褒めに預かり光栄だよ」
伊達に長生きしてるわけじゃないのを、無惨様はよくお分かりになっている。いや、なってくれた、かな?
篝火に近付き、梅と妓夫太郎の帯を燃やす。
パチパチと火粉が弾けるのを眺め……また想いを馳せた。
「玉壺。情報が確定したら半天狗と共に其所へ向かえ。
──鬼卿、終わったら来い」
「!」
「ヒィィ!承知致しました……!!!」
ベンッ!と襖の向こうへ消えてしまった無惨様に少し呆けてから、クスリと微笑んだ。
「ありがとう、無惨様」
本当、優しい友人だ。
すると、俺の後ろで玉壺に詰め寄る童磨が猗窩座に顔を飛ばされてるのに気付く。それに苦笑して仲裁に入った。
「童磨、やめてあげなさい。玉壺が苦労して掴んだものなんだから。猗窩座もあまり手を上げてはいけないよ。無限城を汚しては鳴女が可哀想だろう?」
「知るか」
「良い良い鬼卿殿!俺は何も気にしない。こうして仲良くなれるのなら喜んで受けようとも!どうせ幾ら頸を飛ばされようが、猗窩座殿程度幾らでも相手にしてやれる。上に立つ者は下の者にそう目くじら立てずゆとりを持って、」
「──鬼卿退けろ」
「あはは、童磨はお喋り上手ではあるけども、今は静かにしなさい。また聞きに行くから。猗窩座もな?」
二人の頭を撫でれば、猗窩座は舌打ちをし童磨はニコニコと笑いながらも喧嘩を止める。
上弦となった彼等と過ごした時間は当然無惨様よりも短いけれど、こうして伴に居ると親のような気持ちになるのは、彼等が微笑ましいことを繰り広げるからだろうなぁ。
少しは静かに撫でられていた二人だったが、ふと、すん、と匂いを嗅いだ童磨が俺を見つめる。
「鬼卿殿?これは知らない匂いがするなぁ。もしや鬼狩りにでも出逢ったのかい?」
「………あぁ、そんなこともあったか」
今思い返せば、炭治郎のことしか浮かばない。
「相変わらず興味が薄いなぁ〜。──でも、憶える興味も持たない相手ってことだ。残念残念」
童磨は肩を竦めると、それじゃお先に失礼するよとにこやかに手を振ると、ベベン!と琵琶の音と共に消え去った。
忙しそうだなぁと手を振り見送る俺に、猗窩座がずいっと顔を近づけては無表情に見てきた。
「?どうした?」
「鬼狩りと揉めたか」
「んー……?いや、どうだったかな。憶えてないよ」
「そうか。何も無いならいい」
どうやら心配してくれていたようだ。
相変わらず真面目で優しい鬼に、俺は眉を下げた。
「ごめんなぁ。猗窩座が求める強者とやらに出逢った所で、俺の記憶には残らないものだから…」
「期待していない。早く無惨様の元に行け」
「そうだった。猗窩座、頑張っておいで」
どの鬼よりも行動している猗窩座に労りの声を掛けると、猗窩座は瞬間消えていた。
薄く微笑し、俺は後ろに振り返る。
「黒死牟、先は二人を止めようとしてくれていたのに勝手に間に入って悪かったなぁ」
「……よい……鬼卿の方が…纏まりつく…」
黒死牟は俺を眺めみると、一言零す。
「……あまり…気を…病むな……」
「!うん、ありがとう。黒死牟も気をつけるんだよ」
「………ふ…」
薄く笑んだ黒死牟も無限城から姿を消すと、俺は少々時間を掛けてしまったなと苦笑して鳴女に頼んだ。
ベベン!と琵琶が鳴る。
「──遅い」
彼は未だに研究を続けていたが、先程もあってか不機嫌そうだ。
「申し訳ない。彼等が愛おしかったものだから」
「ほう……私を後回しにしてよいと?」
「まさか!無惨様は俺の中心さ」
無惨様が居るからこそ、俺は安心出来るのだから。
そう微笑む俺に無惨様は鼻で笑った。
「鬼狩りに遭遇したそうだな」
「……ああ!そうだった。なんだ、聞いていらしたのか」
「鬼狩り如きに時間を割くなどお前らしくもない。何か無駄話でもしていたのだろう。誰に話していた」
俺に視線を向けることも無い無惨様に、俺はああ、と思い出す。
「少年だよ。竈門炭治郎。炭治郎だ。彼は面白かったよ」
「……名を憶えたのか」
驚いたとばかりに俺を見遣る無惨様。
思い出す炭治郎に、俺は目を瞑って微笑んだ。
「あの子ならばきっと忘れないと……そう思わせるほどに、とても心が真っ直ぐだったよ」
そんなこと、ありはしないのに。
「ふむ……竈門炭治郎。興味が湧いた。どんな特徴の鬼狩りなのだ?」
「特徴……確か……──ああそうだ、そうだよ無惨様。あの子はきっと、無惨様が捜していた子供に違いない」
「……なに?」
無惨様がぶわりと殺気を漏らした。
俺はそんなこと気にもせずに、ニコリと頷く。
「花札のような耳飾りをした鬼狩り。炭治郎は、まさにその通りの鬼狩りだった」
「──そうか……見つけたか」
よくやった、と無惨様は殺意に塗れながら嗤った。
「けれど、名前だけだ。居場所はもう分からない」
「そこまで期待していない。そのたかが名前が判明しただけで、闇雲に捜しまわる必要は無くなったのだ。お前の散歩は時によく役立つ。──憶えている場合だけだが」
「あはは!仰る通り」
俺が記憶に残す事柄なんて、愛しい鬼のことか、それらが紐づいたことばかり。
俺にとって記憶というのは、あまり蓄積したくないもの。だから、どうでもいいものは忘れるに限る。
「もう下がっていい。上弦の鬼共の元に暫く居ろ」
「仰せの通りに。研究もいいけれど、あまり没頭しないようにね、無惨様」
「喧しい」
あぁ良かった。無惨様の手伝いがやっと出来た。
顔が綻ぶのをそのままに、俺は無惨様に手を振った。
いやぁ、頭を捻るのって難しい。
まぁだからこそ見返した時が面白いんですが。
如何でしたか?
オリ主は基本的に無惨様に隠し事はしません。炭治郎はある意味ご愁傷さまと言えますが、やはり主人公。更に力をつけることでしょう。
感想・評価よければしてってくださいませ!
ではでは!
追記:誤字修正しました。報告有難う御座います!