弱くてニューゲーム   作:双子うさぎ

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ある無能力者の話

[前回までのあらすじ]

 

 霊幻「超能力でやりたい放題の人生だったが、死んで転生したら超能力なしの”弱くてニューゲーム”だった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 晴れやかな天気が続き、心地よい風がふきつける。

 暑くもなく寒くもないこの時期は、外で遊ぶにはうってつけであった。

 カラフルなペンキで塗られた、様々な遊具に群がりはしゃぐ子供たち。

 滑り台で遊ぶ子、砂場で穴掘りを楽しむ子、友達とかけっこする子、おままごとする子、遊び方は千差万別だが、共通していえることは、皆が皆、屈託のない無邪気な笑顔で楽しんでいた。

 だがしかし。

 あちこちで楽しげな子供の笑い声が聞こえる中、

 

「……」

 

 子供たちの輪から外れ、無言でブランコ漕いでる子供が一人。

 日本人には珍しい色素の薄い髪した男の子で、胸元の名札には「れいげん あらたか」とかいてある。

 霊幻新隆。

 一見、どこにでもいる普通の子供だが、彼には前世の記憶があった。

 同じ”霊幻新隆”として生きてきた記憶が。

 いや厳密に言うならば、今の自分と前世の自分は違うかもしれない。

 なにせ前世の”霊幻新隆”と今の”霊幻新隆”には決定的に大きく違う点がある。

 その違いこそ、彼にとって致命的なものだった。

 俯いた霊幻の足下にボールが転がってくる。

 

「……」

 

 コロコロと転がり、自分の足にぶつかって止まったボールに対し、霊幻は拾うことなくそのままボールを見つめた。

 顔をしかめ、まるで睨みつけるように。

 風もなく、足下に止まったボールは微動にしない。

 10秒ほどボールを凝視するも、霊幻は何か諦めたようにため息を吐いた後、ブランコから下りて思い切りボールを蹴った。

 勢いよく飛んだボールは地面を数度バウンドしながら、ボール遊びに興じてた子供たちの元へ戻っていく。

 

「……」

 

 再びブランコに座った霊幻は、またボーッと空を眺め出す。

 真っ青な空に白い雲が浮かんでる。

 ピーヒョロとトンビが鳴きながら、空を飛んでいく。

 今日は天気がとてもいい。

 こんな日に空が飛べたらどれだけ気持ちがいいことか。

 遙か上空を悠々と舞うトンビを羨ましげに眺めながら、子供は何度目になるかわからないため息を吐く。

 

「……はあ」

 

 5歳の子供にあるまじき死んだ魚のような目で、一人うちしがれる。

 ああ、なんてことだ。

 まさかーー超能力が使えないなんて。

 嘆く霊幻のそばをひゅるりと風が吹き抜けていく。

 

 

 

 どうしてこうなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 弱くてニューゲーム

 

 

 

 

 

 

 前世の”霊幻新隆”は超能力者だった。

 それも普通[?]の超能力者じゃない。

 物を浮かすサイコキネシスは勿論のこと、あらゆるタイプの超能力を自在に操ることができた。

 手で物を掴む感覚で物を宙に浮かし、歩く要領で空を飛び、人と会話しながら同時進行で心の声を読む。

 そして常にバリア[大型トラックがぶつかっても軽々はじき返すほどの強度]を自分の周りに張り巡らしていた。使える超能力の種類は数知れず。

 底なしともいえるエネルギーは枯渇することなく、まさに使いたい放題、やりたい放題の超能力ライフを送ってきた。

 それがいったいどうしたことか。

 また同じ”霊幻新隆”に転生したと思ったのに。

 

 

 

 超能力が使えなくなった。

 

 

 

 それに気づいたのは、霊幻がこの世に生まれてすぐのこと。

 何も考えず、いつも通り、普通に超能力を使おうとするも何も起こらなかったのだ。

 そのへんにいる看護師にミルク持ってくるよう洗脳波出してみるも、看護師は何も持ってこず、そのまま目の前を横切っただけ。

 何度も試してみるも、誰も自分の元へやってこない。

 それならば自力でミルクを調達しようと、自身の体を動かそうと念動力を発動させようとするも、手足が無意味にバタついただけで、1ミリも体が浮くことはなかった。

 え、どうなってんだ一体。

 一向に超能力が発動せず、手応えが全くないことに焦った霊幻はツーッと背中に冷たいものを感じた。

 まさか。

 テレパシー、サイコキネシス、テレポート、サイコメトリーetc。

 思いつく限りの能力を片っ端から発動させてみた。

 だがしかし。

 ……嘘……だろ……?

 何も起こらなかった。

 力を上手くコントロールできてないとかそんな次元の話じゃない。

 超能力を使ったという実感もなければ手応えもないのだ。

 何よりもさっきから感じ取れない。

 自分の力の気配が。

 

 まさかこれは……超能力が消えてる……?

 

 いや、そんなことあるわけがない!

 その考えを否定しようと、何度も何度も念じる。

 浮け!

 浮け!!

 浮け!!!

 浮け!!!!

 しかしどんなに強く頭の中で念じても、どれだけの時間費やしても。

 超能力が発動することは一度もなかった。

 疲れ果てた[肉体的には全然使っておらず元気なままだが]霊幻は、虚ろな目で白い天井を眺める。

 もう、認めざるをえない。

 

 俺はーー超能力者じゃなくなった。

 

 その事実を受け入れた瞬間。

 心臓を鷲掴みにされたような衝撃が霊幻に走った。

 霊幻にとって超能力とは体の一部。

 当たり前のように存在し、意識せずとも自然と使えるものだった。

 想像してみてほしい。

 もし突然目が見えなくなったら?何も聞こえなくなったら?声  が出せなくなったら?体が動かなくなったら?

 そんな状態に陥ったら、誰でも平常心ではいられなくなるだろう。

 今まさに、霊幻の心境はその状態だった。

 

 

 いったいどうすればいい。

 

 

 予想だにしない事態に霊幻は途方に暮れる。

 無意識のうちに張ってるバリアもなく、危険物を排除するためのサイコキネシスも発動しないし、周りの人間をコントロールする術もない。

 まして今の姿は、生まれたばかりの赤子。文字通り、完全無防備、ノーガード状態なのだ。

 

「あー……うー」

 

 こんな風に言葉すらろくに話せないし。体だって少しだけ手足をばたつかせる程度の動きしかできない。

 すべてがおそろしく感じた。

 早急に問題を解決せねば。

 しかし。

 

「ばぶぅ……」[かといって今の状態じゃ、何もできねえ……よなあ]

 

 寝返りすらできない生まれたての赤ん坊に何ができようか。

 

 ……。

 ……。

 ……。

 ……。

 

 

 

 ……まあ。なんとかなるだろ。

 

 

 

 人間、急に面倒になることはよくある。

 

 

 眠いし寝よう。

 

 グッナイ、お休み世界。

 

 ……スヤア。

 

 

 

 霊幻新隆は考えることを放棄した。

 

 

 

 未来のことは未来の俺に任せよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 前世の記憶を継承しているなら、その記憶を頼りに二回目の人生は”強くてニューゲーム”になるのが自然の流れであろう。

 しかし”霊幻新隆”は違った。

 ……超能力以外のまともな知識がない。

 超能力があるからと高をくくって勉強をサボリ続けたツケがまさかこんなところで出てくるとは。

 何やってんだよ前世の俺。

 テスト勉強せず超能力開発ばっかりしてるし。

 当日のテストのときは透視、予知、洗脳、時間停止……おいおい超能力をカンニングの道具に使うな、普通に勉強しろよ。

 前世の記憶を思い返すたび、過去の自分に突っ込みを入れる。

 そして唯一記憶の中に残ってる超能力関連の知識をひとしきり思い出した後、今世の霊幻新隆は深い深ーーいため息をついた。

 ……役にたたねえ。

 前世で培ってきた知識ーー超能力の扱いや制御法なんて、超能力者じゃなくなった今世の”霊幻新隆”には無用の長物でしかなかった。

 激しくいらない、雑学トリビア知識よりもいらん。

 説明書や攻略本はあるのに、肝心のゲームが手元にない状態である。

 全然楽しくないし、むしろ腹が立つ。

 結論、前世の記憶で”強くてニューゲーム”は無理だった。

 ……まあ、なんとかなるだろ。

 大多数の人間は前世の記憶などもっておらず、まっさらな状態で生まれてくる。

 そいつらと同じスタートラインに立ってるってだけの話だ。

 前世が超能力者ということだけで、これからの人生に支障がでるわけでもあるまいし。

 大丈夫だ、問題ない!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーと、思ってた時期が俺にもありました。

 自分のあまりの惨状に思わず遠い目となる。

 

 

 

 想像以上にノー超能力ライフは過酷だった。

 

 

 

 

 ポタ……ポタ……と地面に赤い水滴が落ちていく。

 

「……いってぇ……」

 

 鼻腔を伝って、鉄臭い味が口いっぱいに広がり、その不快さで霊幻の顔が歪む。

 ああ、くっそ、またかよ。

 もう何度目になるかわからない、顔面からの地面ダイブ。

 一人うめきながら、ポケットからティッシュを取り出す。

 やけくそで鼻の穴にティッシュを突っ込み、どっかり地面に座り込む。

 ヒリヒリと痛む鼻を撫でつけながら、自分の体を見回す。

 体のあちこちに見える、白いガーゼと包帯の数々。

 指にはいくつか絆創膏が巻かれ、満身創痍といった様相だった。

 

「……”歩く”って、こんなに大変、だったんだなあ」

 

 まさかこれほど自分がーー運動音痴だったとは。

 いやもう運動音痴の範疇を超えてるって、何だよこれ。

 一人頭抱えて悩んでる霊幻は知る由もなかった。

 超能力に依存すればするほど、超能力を使ってない自然体の状態は普通の人間よりも弱体化するという事実を。

 使わなければ体は鈍る、これ自明の理なり。

 まして「世界最強の超能力者」であり全てを超能力でまかなってた霊幻の場合、その傾向は如実に現れた。

 段差どころか石も何もない平たい地面でもすっ転び、なんとか普通に歩くことができても、今度は壁や障害物を避けられず正面衝突する。

 さらに注意力も散漫で危機回避力が著しく低かった。

 何故こんな散々たる結果になってしまうのか。

 これら全て、前世で超能力を多用したことによる弊害だった。

 何もない場所でよく転ぶのは、生まれたときから常に超能力を発動させたため。本来、身につくはずの平衡感覚はなく、代わりに念動力で体のバランスを保ってたからであり。

 壁や障害物にぶつかるのは、分厚い強固なバリアで身を守ってた名残のため。体にぶつかる前に、バリアと接触して障害物の方を弾き飛ばしたり破壊してたからだった。

 そして注意力が散漫で危機回避力が著しく低い理由はずばり。

 前世で無双チートライフしてたせいである。

 強大な超能力を有してた霊幻にとって全てが些細なこと。

 何か問題や危機が発生しても超能力のごり押しで解決したため、思考が非常に大ざっぱでまさに危機意識0%。

 実際、車にぶつかる直前まで霊幻は危険に全然気づかなかったし、眼前に迫った車をみても全くといっていいほど恐怖を感じなかった。

 大型トラックと衝突しても無傷どころか逆に車を大破してたのだから。

 そう余裕こいてたが、はたと気づく。

 今の俺……バリアがないんだった/(^o^)\

 車を止めるための念動力を発動させることも、時間を停止することも普通の人間には絶対に不可能。

 霊幻がその事実に気づいたところでもう遅い。バーンと景気よくはね飛ばされ、霊幻の体は宙に舞う。

 ぐるりと視界が反転し刹那、空が見える。

 ……ああ空が青い。

 すぐに空は見えなくなり、凄まじい早さで視界が切り替わっていく。

 最後に見えたのは地面。固い地面へと勢いよく叩きつけられ、尋常じゃない激痛が全身に走る。そしてそのまま霊幻の視界は暗転した。

 

 

 

 このままだと俺……マジで死ぬ。

 

 

 

 病院のベッドの上、全身包帯ミイラ状態になった霊幻は本気で危機感を抱いた。

 生死の境を三日間さまよったミイラは固い決意する。

 

 

 ……これからは何事も注意深く、安全第一で行動しよう。

 

 

 霊幻新隆の座右の銘が”安全”になった瞬間であった。

 

 

 

 長い入院生活も終え、普通の生活に戻った霊幻。

 それまで”なんとかなるだろ”精神で何事も適当だった彼だったが、流石に命の危険にさらされたことで、常に”安全”を意識して行動するようになった。

 何事も慎重に事を行い、また常に危険を考慮し、無鉄砲な行動は弁える。

 その努力の甲斐もあってか、霊幻の怪我する頻度も少なくなっていき、包帯やギブスの数は減っていく。

 ほどなくして霊幻の体から全ての包帯がとれ、綺麗な無傷の体へ戻った。

 しかしようやく人並みになれた、よかったこれで一安心・・・とはいかない。

 もう一つ、霊幻にとって早急に解決しなければいけない問題がある。

 

「……どう人と接すればいいんだよ」

 

 そう、今の自分ーー今世の”霊幻新隆”は対人能力、コミュニケーション能力がとてつもなく低かった。

 自分では普通に会話してるつもりでも、相手の地雷を見抜けず盛大に踏み抜いて相手を怒らせてしまったり、またあるときは、オブラードに物言うことなく容赦ないキツい言葉で相手を傷つけ泣かせてしまう。

 友達が全くできず、女子たちからは総スカン。

 なんでだよ。

 何故そのような事態に陥ってしまうのか。これまた前世の”霊幻新隆”が「何でもできる超能力者」だったが故の悲劇であった。

 相手が一体何を考えてるのか気になれば直接心読むことができたし、自分の意にそぐわない場合なら、洗脳で変えてしまえばいい。

 赤子の時から既に人を操る術を会得していた霊幻は、他人ととまともなコミュニケーションをとることはほとんどなかった。

 そうやって生きてきたせいで、霊幻には人に合わせたり共感する力はなく、ただ自分の主張を押し通すのみ。

 これでは人とまともなやりとりはできない。

 また前世の”霊幻新隆”神のような強大な力を持ってたせいか、他の人を対等としてみておらず、一緒に行動どころか一人行動がスタンダード。

 そもそも人と接する機会が極端に少なかった。

 孤高の存在、といえば聞こえはいいが、今にして思えば前世の俺、完全ぼっちじゃねーか。

 この現代社会、人と関わらずして生きていくことは不可能に近い。

 このまま嫌われ続けて最悪命狙われることになんて事態にでもなってみろ。

 今の俺は簡単に死ぬんだ、前世みたいに人に恨まれ殺される[※人類の敵として核爆弾落とされた]なんて一回経験すれば充分だ、二回も味わってたまるか。

 ここは是非とも、潤滑に人と付き合う術を早急に会得する必要がある。

 前世の”霊幻新隆”なら超能力で全て思い通りに事を運ぶことができた。

 反則的な超能力があった前世ではそれでよかったかもしれないが、今世ではそうは問屋がおろさない。

 しかし今の”霊幻新隆”はどれだけ気持ちを集中させても、相手からなにも感じ取れず、意のままに操ることはできなかった。

 当たり前だ、そんな力はもうないのだから。

 

 まずは相手がなにを考えどう行動するのか理解する必要がある な。

 

 人の心理に関する書籍を片っ端から集めまくった。

 心理学の専門書はもちろんのこと、ビジネスで使える会話術、果てには異性にモテる方法が載った雑誌。

 収集した大量の本を元に、霊幻は人心掌握術の研究を始めた。

 僅かな表情の変化や何気ない仕草から情報を読みとり相手の心理状態を予想し、相手に合わせた会話を心がける。

 その作業はかつての自分が実行してたーー状況に応じて使い分けてた超能力を彷彿させた。

 だからだろうか?

 ”歩行”などの体の使いこなしの訓練よりも、会話術や心理学に関して、ことさら熱心に霊幻は勉強し研究していく。

 そしてその努力の甲斐もあって、霊幻の対人能力は飛躍的に向上した。

 いや飛躍的どころじゃない、超極めている。

 驚異的な観察力と巧みな心理戦で誰にも負けないじゃんけん必勝法を編みだし、誰が相手でも弁説で言い負かすほどの会話術を手に入れた。

 やったぜ。

 そしてふと考えた。

 今の俺は心を読むことはできなくても、人の仕草や表情を注意深く観察すれば、推察することができるし、洗脳はかけられなくても、話術で巧みに誘導し、己の望むように話を進められるようになっている。

 もしかして他の失ってしまった超能力も……何かで代用できるんじゃねえか?

 それは超能力を全て失ってしまった霊幻が今世で初めて芽生えた”希望”だった。

 思い立ったが吉日。

 前世で使えてた超能力の代用を求め、霊幻はあらゆることに挑戦し、色んな知識や技術を手に入れようと奔走した。

 あるときは身を守るバリアの代わりに護身術、またあるときは素早い身のこなしをつけるためにもぐら叩き。

 様々な分野の知識を満遍なく頭の中に叩き込み、様々な情報を蓄積していく。

 超能力の天才は、その他の分野でもその器用さと応用力が健在だった。

 霊幻の器用さは遺憾なく発揮され、会得した知識や技術を組み合わせ、様々な場面において応用する。

 

 

 

 幾ばくの時が過ぎていき。”霊幻新隆”は見違えるほど成長した。

 

 かつて歩けば壁にぶつかり転んだ傷だらけだった少年はもういない。

 人と話すたびに憎まれ嫌われ、爪弾き者になってた青年は変わった。

 何事も器用にこなし、マルチに対応できる大人へと。

 

 よしこれで大抵の問題は対処できる。

 自分の手に負えないときは公的権力に頼ろう。警察は善良なる一般市民の味方だ。

 そう段取りを考える霊幻だが、その顔は浮かない。

 脳裏によぎる前世でみた光景。

 超能力で破壊された町の惨状だった。

 

 

「……生き残れるかな……俺」

 

 

 霊幻が危惧してること、それは超能力者との遭遇であった。

 ある日突然、超能力集団が世界征服で町を破壊にしてくるかもしれないし、暇を持て余した超能力者が、おもしろ半分で見境なしにサイコキネシス発動させるかもしれない。

 その際飛んできた瓦礫が直撃して頭パーンしたら一巻の終わりだ。

 他にも上から車が降ってきてそのままペチャンコに圧死したり、石礫の嵐でズタズタに切り刻まれたりとか、考えたらきりがねえ。

 とばっちりくらって死ぬなんて俺はごめんだ![※前世では加害者側だった霊幻]

 前の俺よりも長生きしてやる……!

 超能力者相手では、俺の培ってきた知識や特技などあまりにも頼りないが、ないよりマシだ。

 まずは俺の話術で相手の警戒とバリアを解かせて不意打ちで一発くらわせる。そして相手が怯んだ隙に畳みかけるように対話に持ち込む。

 俺の弁説が通じない相手だったら……逃げよう。

 命あっての物種、身の安全を守ることが最優先である。

 よしこの方法でいくぞ!

 心の中で固い決意した霊幻。

 しかし霊幻の心配をよそに、世界は平和だった。

 ある日突然、全てのものが宙に浮くことはなかったし、どこぞの超能力者軍団が町を暴れることもなく、また超能力者がニュースや新聞で取り上げられ話題になることもない。

 超常現象など起こることなく、淡々と日常が繰り返される。

 あれ……?

 一向に現れない超能力者の存在に、霊幻は首を傾げる。

 気になった霊幻は過去の新聞を漁ったり、ネット掲示板など駆使して過去から現在の最新情報まで集めてみる。

 と、ここで衝撃的な事実を知った。

 超能力に関する情報はオカルトのように取り扱われ、現実にあるものとして扱われていなかったのである。

 どうなってるんだ一体。

 霊幻の知る前世の世界は、超能力は当たり前のように存在しており、超能力者は自分以外にも大勢いた。

 事実、前世では数百の超能力者たちと遭遇してる。

 二十うん年間生きてきて、超能力者に一人も会ってないなど可笑しい。頭を捻ってるうち、霊幻はある一つの仮説をたてた。

 ここは”超能力”がない世界かもしれない。

 ああ、そう考えたなら辻褄があう。

 俺の超能力がなくなってたのは、”超能力”が存在しない世界だから、世界に合わせて消滅したんだ。

 前世の世界だと、超能力は世間に周知されており、超能力者も珍しくなく、超能力を生かした職業なんてのも普通にあった。

 だがこの世界では”超能力”は信じられていない。

 これまでずっと超能力者に会ってないことが何よりの証拠じゃないか。

 ということで、この世界に超能力者はいない、以上、証明終わり!

 あー、よかったよかった。

 これで俺も何の懸念もなく人生謳歌できる。

 前世と違って真面目に勉強していた今世の霊幻新隆は学校を卒業後、旅にでることもなく大手企業へ就職した。

 入社後もマルチな才能と類まれな話術を駆使して、同期の中でも一番の出世頭となり人生、順風満帆。

 不安なことなどあるはずもない。

 このまま”安全”に日々を過ごせばいいんだ。

 ”平凡”なーー”何も代わり映えのないくそつまんない”人生を。

 

「……なんか違う」

 

 俺の座右の銘は”安全”だが、こんな”安全”な人生求めてない。

 

 俺は何かになりたいんだ。

 

 一体何になりたいのかは俺自身わからない。

 

 それでも俺はーー前世でなれなかった”何か”になりたくて仕方がなかった。

 だからーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年後。

 霊幻は会社を辞めた。

 

 

 

 

 そしてーー霊幻新隆は小さな事務所を立ち上げる。

 

 その名も”霊とか相談所”、霊能事務所だった。

 

 

 その事務所の所長になった霊幻は自らを「今世紀最大の霊能者」と称して、客の依頼を請け負うようになる。

 普段は客に対しのらりくらり、適当な対応しつつも、持てる知識と技術をフル活用し、問題解決していく。

 こんな風に

 

「家にガタがきてるのか、よし補強しとこう」

 

「写真に変なのが写ってる?パソコンで修正しとくか」

 

「体が重い?マッサージしとけば凝りもほぐれるだろ」

 

 前世で培った超能力の代用として身につけた様々なスキルは、とても役だった。

 除霊方法が適当?

 別にいいじゃねえか。どうせ幽霊なんていないんだし。

 超能力と一緒に、前世にはあったはずの霊感もなくなった霊幻に、霊の存在は視認できない。そのせいで、霊幻は思いこんでいた。

 超能力同様、この世界に”幽霊”は存在しないのだと。

 仮に”幽霊”がいたとしても大したことないだろうと。

 だからポルターガイスト、心霊写真、幽霊、心霊現象などなど。実際に体験してもはっきり目に見えても。

 

「前世でも塩まいたら勝手に霊が溶けたし……お、これ安いな。徳用塩にしよう」

 

と大量に塩を買い込み、除霊パフォーマンスのとき、盛大にまき散らしたりと、超適当にやっていた。

 ”霊とか相談所”というあまりに胡散臭い名前のせいか、霊幻の特技でどうにか誤魔化せる騙しやすい客ばかり。

 たまに体が妙に疲れ重くなっても。

 

「疲労が溜まったか?休みの日にマッサージ行ってみよう」

 

と、全く気にせず過ごしたり。

 体が透き通った血塗れの長い黒髪の女と目が合っても。

 

「最近疲れ目がひどいな……」

 

と、目の錯覚だと思いこんでいた。

 そんななんちゃって霊能者を始めて1年後。

 

 

 一人の少年が”霊とか相談所”を訪れた。

 

「僕……超能力者なんですけど」

 

 ランドセルを背負った少年がそう話したとき、霊幻はそれを信じてなかった。

 だってここは”超能力”がない世界なのだから。

 さっさと追い払おうと少年に口を開きかけーーやめた。

「出て行け」という代わりに「中、入れよ」と事務所の中へ招き入れる。

 何故か少年をほっとけなかったのだ。

 おっかなびっくり入ってきた少年にソファへ座るよう促し、自身は給湯室へ行き二人分のお茶を用意する。

 コポポと湯飲みにお茶を注ぎながら、霊幻は小さく息を吐く。

 少年の思い詰めた顔がまるで、昔の自分を思い出させた。

 圧倒的な力を手に入れ、孤独だった前世の自分を。

 そんなことあるはずないのに。

 

「ほら、熱いから気をつけて飲めよ」

 

 ぶっきらぼうにお茶の入った湯飲みを少年に手渡す。

 まあどうせ暇だし……適当に相手してやろう。

 コトリとテーブルに湯飲みをおくと、霊幻は悩める少年のために語った。

 俺も似たようなことで悩んだと。

 ……実際は今世でも前世でも”超能力”で悩んだことはなかったが。

 他にもぺらぺらと調子のいいことを自信満々で話した。

 超能力は個性の一つだの、大事なのは人間味だの、薄っぺらな綺麗事ばかり。

 しかし少年はひどく感動していた。

 目を輝かせ、一つ一つの言葉に頷いてる。

 ……こいつ素直というか、騙されすぎだろ。

 なんか誰かに騙されて利用されそうだなと、内心少年の心配しつつも、語り続ける。

 語り終えたあと、ポンポンと少年の肩を叩き、笑いかける。

 さあ納得したなら帰った帰った。

 なんかまた来そうな少年の空気を察し、そうはさせるかと霊幻が追い返そうとしたときだった。

 淹れたお茶が熱すぎて、勢いよく湯飲みから手を離す。

 あ、やべえ!

 慌てて手を伸ばすも間に合わない。

 湯飲みが床に落ちる。

 そう、思った時だった。

 ピタっと時間が止まったように、湯飲みがその場に留まる。

 ……え?

 まさか力が戻ったのか?

 思わず自分の手を確認するも、力の気配は何もない。

 困惑する霊幻をよそに、止まった湯飲みはこぼれたお茶とともに、逆再生のような動きで元に戻っていきーー少年の手の中に収まった。

 

 

 

 

 

 

 …………は?

 

 

 

 

 

 

 霊幻新隆は知らなかった。

 超能力者は超能力者同士、ひかれ合う性質があるということに。

 前世の自分は”超能力者”だったからこそ、多くの超能力者と出会ったという事実に。

 そして彼は知らなかった。

 前世の世界で”超能力”が周知されてたのはーー”霊幻新隆”の存在が深く関係してることに。

 ”霊幻新隆”が生まれたその日、世界全てのものをサイコキネシスで浮かせたことで、世界は”超能力”の存在を認めざるをえなくなったのである。

 また超能力者の彼は、自重することなくおおっぴらに超能力を使いまくったため、他の超能力者たちも自身の能力を隠さなくなった。

 そう、一人の”超能力者”の存在が、その世界の”超能力者たちの歴史”を大きく変えたのだ。

 しかしこの世界は違う。

 よくも悪くも世界に大きな影響を与えた”超能力者”がいないため、超能力は今まで通り世間に周知されておらず、超能力者は秘匿された存在。

 世間に認められてるか認められてないか、ただそれだけの違い。

 そうここは、この世界はーー

 

 

 

 

 ”超能力”が存在する、前世と変わらない世界だったのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして霊幻新隆は超能力を持つ少年、影山茂夫ーーモブと出会い、彼の師匠となった。

 モブと共に様々な事件に首突っ込んだり、巻き込まれたり、波乱万丈な日々を過ごすようになるのは、もう少し後の物語であるーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……え、マジで?

 

 

 

 

 

 

 弱くてニューゲーム

 

 

 

 

 

 →To be continued…?

 

 

 

 

 

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