弱くてニューゲーム   作:双子うさぎ

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ある詐欺師の話【下】①

 

[俺もなるしかない……何者かに!]

 

単独になり吹っ切れた霊幻は明確な変化を起こした。

 

まず彼が始めたこと。それは慈善活動だった。

悪の組織と戦ったり、世界の貧困問題解決するといった、かつて前世の”霊幻新隆”が「正義のヒーロー」としてやってきた、大規模なものではない。

それよりもはるかにスケールダウンした、とても小さくて地道な作業。

たとえば。

 

「公園もきれいになったし、次は河川敷をやるか!」

 

町の清掃を始めたり。

 

「結構ゴミ落ちてるなあ……”ここが本日の心霊スポットです。今から除霊始めます”っと」

 

除霊[という名のゴミ拾い]の様子をネット公開したり

 

「このように相手が品物を売りつけてきた場合には、まずーー」

 

休みの日を利用して、詐欺被害に合わないための無料講座や人生相談を始めたり。

どれもこれも超能力で何でも派手にパパっと解決したあの頃と違う。誰でもできるけど、誰もしたがらない、地味で面倒な慈善活動。

前世の自分どころか、少し前の自分だってこんなこと、面倒くさがってやらなかっただろう。

だが今の俺は新しく生まれ変わった”新・霊幻新隆”

まずは俺ができることを一つ一つ、着実にこなすことから始めるんだ。

特別な力がなくても、俺は成功してみせる!

様々な活躍の場を広めつつも

 

「その依頼、この霊幻新隆が引き受けた!」

 

今まで通り精力的に依頼もこなしていった。

どんな依頼でも真摯に向き合い、依頼人の悩み相談もこれまで以上に丁寧で細やかな精神ケアをおこなう。

自分の力量では解決できなさそうな依頼だった場合。

 

「あ、もしもし森羅?そっちに紹介したい客がいるんだが」

 

口八丁手八丁で適当に除霊を誤魔化すのでなく、他の者に仕事を渡すようにした[代わりに森羅も霊と無関係な仕事を霊幻に回してくれるようになったという嬉しいオマケつき]

そのおかげか、霊とか相談所の評判は着実にあがっていった。

相談所にお礼の手紙や写真が届くようになり、

 

”「霊とか相談所」とっても良いです。

代表の霊幻新隆さんは本物の霊能力者です。

おかげで体が軽くなって、運も開けそう。”

 

”ありがたくて、涙が止まりません。

こんな自分をだれも助けてくれなかったけど、霊幻さんに、ひょっとして私、恋しちゃったかもしれません”

 

このようなコメントが書き込まれるほど、「霊とか相談所」はネットの口コミサイトで高評価がつくようになった。

さらに霊幻新隆の名を世間に大きく広めるきっかけとなる依頼が舞い込む。

 

”超有名オンラインゲーム・ファンタジー地獄のプレイヤーキラーは正体が幽霊と噂されており多くの霊能力者が断念した難問依頼”

 

とある霊能力者はこう忠告する。

 

「聞いたことあるがやめておけ。我々の手に負えるものじゃない。システムの中にまで霊能力は届かない、だろ?」

 

つまりモブですら除霊する手段を持たない事案だったのだ。

霊能力は届かない?むしろ好都合じゃねーか!

しかし霊幻は複数のアカウントで連日深夜までレベル上げと武器強化を繰り返し

 

「……レア素材またドロップしなかった……」

 

「やった……これでランキング二位以下は全部俺のキャラ独占……」

 

時間と体と金を犠牲にし極限まで強くした己のキャラたちでいざ幽霊退治!囮を餌に幽霊プレイヤーを囲い込み袋叩きを開始、そしてついに除霊を成功させた。

 

「す……すごい!本当に除霊できたんですね!」

 

霊幻に依頼を持ちかけた依頼人が思わず感嘆の叫びをあげる。

 

「一体どうやって……」

 

「霊能力者ですから~……」

 

長く厳しい戦いだった……。

 

[くっ!課金しすぎて赤字か~……]

 

肉体・精神・財布に深いダメージを負い、屍一歩手前の状態の霊幻だが、心の奥底では確かな手応えを感じていた。

己の力だけでやり遂げたという達成感を。

数多の霊能力者が匙を投げた難しい依頼を一人で解決した霊幻。

この成功をきっかけに霊幻のことはどんどん話題になっていった。

 

”霊幻新隆はマジで本物!

オンライン幽霊を除霊した!”

 

ネット掲示板ではその話題で持ちきりとなり。

 

”オンライン幽霊ついに除霊成功!

霊能力者は実在した”

 

新聞でも霊幻の功績が華々しく掲載された。

誰かが霊幻を調味市の兄などと呼び始めるとその知名度は加速し

 

「悪霊は人の心の弱さにつけこみますからね、特にストレス社会と言われる現代ではーー」

 

雑誌からのインタビューを受けるまでになった。

霊能力者”霊幻新隆”。

今や調味市で彼の名を知らない者はいない。

今の”霊とか相談所”の”霊幻新隆”はーー

 

知名度100%

 

さらに数日後……

霊とか相談所に、ある人物が現れた。

ビシっとしたスーツ姿の男性は、霊幻に己の名刺を差し出す。

 

「テ……テレビ!?」

 

霊幻が受け取った名刺には

ゴステレビ ディレクター 敏腕太郎

と書かれていた。

まさかテレビ出演を依頼されるとは。

 

「そんなに注目されてるのか俺は……」

 

突然のスカウトに驚きつつも、同時にこれまで自分がやってきたことが世間に認められたようで心が満たされる。

超能力がなくても俺は認められたんだ!

 

「霊幻先生の噂をたまたま耳にしたプロデューサーが是非番組にと」

 

「全国放送か……」

 

テレビの影響力は計り知れない。ましてや全国放送など一気に有名人になること間違いなしである。

あのときは冗談のつもりで言ってたが……マジで俺、最上みたいな有名霊能者になれるかも?

 

「うまくテレビで人気を得られれば一気に霊能界の大物ですよ」

 

「どんな番組ですか?」

 

「霊能力が本当に実在するか検証する企画もので、なんと一時間の生放送!」

 

「生放送……」

 

生放送という単語を聞いて思い出される過去の苦い思い出。

”正義のヒーロー”というメッキを剥がされ、己の醜い本性が露呈したあの放送事故は、今でも鮮明に覚えている。

今の自分ならあのときのような事故は発生しないから大丈夫だと思うけど、やっぱり遠慮したい気持ちのほうが大きい。

 

「……」

 

押し黙る霊幻に、ディレクターは熱心に説得を続ける。

 

「是非参加していただきたいのです!今話題沸騰中のイケメン霊能力者、その実力は本物か!?もちろん、ギャラは弾みますよ~」

 

どうですか霊幻先生。興味ありませんか?

ニコニコ笑顔で聞いてくるディレクター。

 

「……」

 

万一何かヘマした場合、その光景は全国のお茶の間に映し出されてしまう。しかしテレビに出れば霊幻新隆の名は全国に轟きーー俺は”有名”になれる。特別な人間に。

 

「先生は顔もいいし芸能界デビューだって夢じゃありませんって!」

 

「……」

 

このまま地道に活動し続けても、これ以上たいして名声は得られないだろう。

もっと有名になるには、博打に出ることも必要だ。

 

「……わかりました。お引き受けしましょう」

 

迷った末、霊幻はテレビ出演のオファーを引き受けることにした。

アドリブとハッタリなら俺の得意とするところ。

これまでの除霊だって、それで乗り切ったようなものだ。

多少の失態程度、俺の対応力があればなんとかなる。

 

 

 

 

 

前世のときのような失態をまたやらかすほど、今世の俺は馬鹿じゃない!!

 

 

 

 

「いやー除霊も何もこの子取り憑かれてないよね?演技じゃん」

 

 

 

 

やらかしました。

 

 

 

 

 

 

 

霊幻には勝算があった。

たとえ生放送でもこういう番組には台本がある。仮に除霊失敗しても司会者が上手くフォローし、観客たちも温かく拍手してくれるだろうと。

しかし現実は違った。

悪霊に憑かれた子供なんて最初から存在しない。

子役にそれっぽい演技してもらってただけであり、出演した霊能力者がその仕込みに気づけるか否か、それを確認するというのがテレビ側の目的だった……建前上は[実際は浄堂麒麟が仕組んだ、霊幻を徹底的に潰すのが狙いの八百長番組]

そう、霊能力が全くなく、アドリブとはったりで乗り切る霊幻にとって「怪奇探偵~……霊能力は実在するのかスペシャル」はこの世で一番出てはいけないテレビ番組だった。

それに気づかず、延々とインチキ除霊し続けてしまった時点で、霊幻の命運は尽きたも同然。

番組の思惑、浄堂の悪意に気づいた時にはすでに手遅れだった。

なんとか必死に弁解する霊幻だが、前半30分間、悪霊も憑いてない子供に対し、無駄な除霊をやってたせいで、何を話しても説得力皆無。

しかも最悪なことに霊幻の予想と裏腹に、浄堂麒麟も司会者や他の出演者たちも霊幻を一切フォローしないどころか全員、霊幻をまるで犯罪者のように糾弾したあげく笑いものに仕立て上げた。

記憶の中では二回目、今世では初めての全国生放送。

かっこよく決めてファンを作るどころか、30分間訳の分からない変な除霊やってたインチキ詐欺師という印象を、全国の視聴者たちに植え付けてしまった。

有名になるという望みは確かに叶ったーー悪い意味で。

 

「霊幻大変な事になってんな……」

 

「霊幻さん……何か秘策があるのかな」

 

と彼のことを心配したり

 

「あの人が詐欺師なわけないだろ」

 

と彼を信じる者もいたが、それは一部分の人だけ。圧倒的大多数の人間は。

 

「昨日の見た?怪奇探偵」

 

「見た見た。笑った~」

 

「公開処刑って感じ?」

 

彼をインチキ霊能者だと嘲笑した。

霊幻が出演した番組動画は瞬く間にネットで拡散され、ネット上で面白可笑しく扱われ、大炎上。

これまでの”調味市の兄”と呼ばれてた敏腕霊能者のイメージから一転、

霊幻新隆はインチキ霊能者だと世間に認識されてしまった。

 

 

 

 

「くそー!ハメられた!あいつらなんて鬼畜な……一瞬の視聴率の為に俺を使い捨てにしたのか……?あのタヌキジジイー!」

 

一体俺に何の恨みがあるってんだ!

アパートの自室で一人、霊幻は頭を抱える。

テレビから流れるニュース特番では、自分の特集が組まれており、コメンテーターが霊幻新隆はインチキ霊能者ではないかと意見を言っていた。

 

「とりあえずこれ以上炎上が拡大しないように工作しないと……」

 

カタカタカタ。

 

”霊幻は優秀だぞ。オレ除霊してもらったから分かるけど、肩とか腰とかすげーかるくなったし一気に楽になったもん”

 

ネット掲示板に援護コメント書き込むも。

 

”コイツ霊幻じゃね?”

 

「がっ!バレテる!」

 

秒で自演バレた。

 

”は?ちげーし。オレはあくまで客観的なことを言ったまでだ。客観的に言わせてもらうがーー”

 

反論コメント送るも、返ってきた反応は。

 

”犯罪者”

 

”オジロスナギツネ乙”

 

”詐欺師はどっかいけ”

 

”犯罪者の自覚ある?”

 

”霊幻みてる~?おまえ病気だよ”

 

どれもこれも霊幻を責めるものばかりだった。

さらに悪いことに。

 

”レイゲン、卒業写真キターww"

 

個人情報も流出した。

誰だ流したやつ!卒アルの写真ってことは学生時代、俺のこと嫌ってたやつか?心当たりが多すぎて誰か分からねえ!

 

[上等だコラ……努力のどの字も知らねぇようなクソガキ共に俺が負けるかぁー!]

 

メラメラと闘志を燃やし、ネット掲示板で日々レスバトルを繰り広げた。

しかし霊幻の奮闘も空しくーー悪徳霊媒師、その悪評は各メディアに尾ひれを着けて拡大され、3日もすれば世間が作り出した醜悪な霊幻像はほぼ完成していた。

 

「馬鹿な!こんなの真実じゃねぇ!よくもこんなデタラメな設定で塗り固めやがって……」

 

部屋に散乱した週刊誌に載ってた”霊幻新隆がやってきた悪行の数々。

どれもこれも身に覚えのないことばかりだった。

多くの客から大金を巻き上げ騙した極悪人って、いったいどこ情報だ、霊とか相談所は業界最安値だぞ!

被害者の会結成って、被害者どこから現れた?!

これまでとってきたアンケートでも顧客満足度高かったし、何よりうちはクレームが少ないのが自慢だっつーの!

学生時代の”霊幻新隆”はクラスで浮いてて嫌われ者だった?それは事実だ間違ってない!

くっそー、ろくに情報の裏取りもせず好き放題書きやがって……!名誉毀損で訴えてやる!

 

 

「というわけでこの俺をインチキ呼ばわりする輩を黙らせるために証人になってくれ」

 

誕生日以来通ってなかったバーへ顔を出し、そこにいた連中たちに協力を仰いだ。

常連客を証人にした場合、どうせ俺が洗脳しただのなんだのと言いがかりをつけられるのがオチ。

となれば仕事以外、プライベードで付き合いのあるやつらに協力してもらう必要がある。

連中からは慕われてたし、俺の擁護も快くしてくれるだろう。

そう計算していたが。

 

「……おい。いつもの鬱陶しさはどうした?」

 

その場にいた誰も彼もがまるで親の敵かと言わんばかりに、こちらを睨んでいる。

 

「……出て行ってちょうだい。私達はもう騙されないから」

 

おいおいマスターまで。

もう騙されてるじゃねーか世間のデタラメ話に。

なんて軽口叩ける雰囲気でもない。

 

「……そうかよ」

 

皆の冷たい視線を一身に受けつつ、霊幻はバーを後にした。

あれだけ相談に乗ってやってたというのに。

……本当、薄っぺらい関係だったんだな。

 

 

 

 

 

さてどうしたものか。

夕焼けに染まった道を一人歩きながら、霊幻は考える。

風評被害バラまいた連中を黙らせるには、俺が誠実に商売してる霊能者だという確たる証拠が必要。

そのために身の潔白を証明してくれる人を探してるというのに。

 

[……こうなったら話題が風化するのを待つしかないか……]

 

それまで霊とか相談所は一時休業だ。

この状況で客がくるとも思えないし、来たとして冷やかしかマスコミしか来ないだろう。

何か大きな話題が起これば、俺のことなんてすぐ忘れると思うけど。

誰か世界征服でもやってくんねーかな。

総理大臣誘拐したり、テレビの電波ジャックして世界征服宣言とか、ぱーっと派手にやってほしい。

誰かとすれ違うたび「あいつ霊幻じゃね?」「うわ、よく平気で外歩けるな」「詐欺師」「犯罪者」なんて陰口叩かれたり、道端で井戸端会議してる主婦たちからひそひそされるのも、いい加減うんざりだ。

ガキンチョたちも面白がって石投げてくるし。流石にそれは危ないから石なげたクソガキ共にはちゃんと鉄拳制裁して説教したけど。おかげで暴力霊媒師という不名誉な渾名が追加された。

人の噂も七十五日。

それまで大人しくーー二ヶ月半って長いな。それまで貯金持つか?

貯金いくらあったっけ?と考えてた霊幻だが、ふと前方に何かを見つける。

 

[なんだよこれ?待ち伏せしてんのか?]

 

自宅のアパート周辺に、人だかりができていた。

よくみれば、リポーターっぽいやつがマイクで何やら実況していて、それをカメラマンが撮影してる。

マジかよあいつら、俺の住所まで特定してやがって。

善良な一般市民追い回して何が楽しいんだか。

 

「いたぞ!霊幻新隆だ!」

 

「待て!」

 

霊幻の姿を見つけたマスコミたちは目の色変える。

あっという間に霊幻を取り囲んだかと思えば、口々に喋り出す。

 

「あなたには説明責任があると思いませんか!」

 

「会見を開く考えは!?」

 

パシャパシャと焚かれるフラッシュの光が猛烈に眩しい。

そもそも許可してないのに勝手に撮るな。

いやそれよりも。

 

「は……?会見って……」

 

霊幻の困惑を余所に話はどんどん進んでいき、ついに会見開くことが決定してしまう。

 

「記者会見を行う場所は××スタジオの□□、日時は△日の○時!来なかったらどうなるか……わかりますね?」

 

 

 

事態は霊幻が想定してたよりはるかに大事になっていたーー

 

 

 

 

 

電気もついてない、薄暗い部屋の中。

ベッドに寝っ転がり、何もない天井をぼーっと眺め続ける。

つけっぱなしのパソコン画面には。

 

”大変そうだね。母さん記者会見での謝罪文考えたから。困った時はそのまま読みなさい。これに懲りたらもう霊能なんたらなインチキ商売は卒業してまっとうな職につきなさい。お父さんもあんまり口には出さないけど、やっぱりあなたのことが心配なのよ。一度実家に帰ってきなさい。最近全然帰ってきてないでしょ。ちょうどいいからみんなで一度家族会議しましょう。母さんは味方だよ”

 

長々と綴った母からのメール内容が映っていた。

ベッド脇には、添付ファイルに入ってた謝罪文を印刷した紙が散乱してる。

 

「……はあ」

 

陰鬱なため息をついた後、緩慢な動作で上体を起こした。

食器棚からガラスコップを取り出し、ウォーターサーバーの水を注ぎ始めるも、ふとした拍子で、霊幻の手からコップが滑り落ちる。

反射的に手を伸ばす。

コップが手に触れる数センチ前で。

落下してたコップとこぼれた水が宙に浮くビジョンがパッと鮮やかに浮かんだ。

あまりにもリアルな想像のせいで、錯覚してしまう。

あと少しで掴めるはずだった手の動きが止まったことにより。

 

ガシャン。

 

水の入ったガラスのコップは床に落ち割れてしまった。

散らばったガラス片、床に広がる水たまり。

 

「……」

 

掃除するわけでもなく、ただ漫然とコップだったものを見続ける。

遠くで微かに聞こえる郵便配達のバイク音。

 

「……あーあ。夜が明けちまう」

 

いつの間にか空は白み、朝日が昇り始めていた。

 

 

俺は何をやってるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月×△日午後○時

 

ついにその時はやってきた。

 

「来た!」

 

「霊幻氏が現れました」

 

一斉に焚かれるフラッシュの光で目がチカチカする。

 

[眩しい……やべー。言葉のやり取りなら勝機があると思って用意してたのに頭が真っ白になっちまった]

 

一対一の対談ならまだしも、こんな人数相手に上手く立ち回れるだろうか。

 

[落ち着けー。まずは記者達になるべく好印象を……]

 

笑顔を浮かべようとするも、うまくできない。

いやこの場合、笑顔を見せたらマズいのか?もう何も考えられねー、とりあえず挨拶しねーと。

 

「こ……このたびは集まっていただき……」

 

挨拶終わったらとりあえず謝罪をーー謝罪?謝る?何で俺が?

というか。

 

「なんで集まってんだ?」

 

土壇場でめんどくさくなるのはよくあることだ。

そもそも何で俺は記者会見なんかやってるんだろ。

世界どころか町すら破壊してないのに。

アホくさ。

 

「なんだその態度は!」

 

「馬鹿にしてんのか!」

 

「あなたが記者会見やるって言ったんでしょうが!」

 

まさか霊幻がそんな発言するとはおもわなかったのだろう、一瞬あっけにとられた記者たちだが、すぐ我に返り銘々霊幻を責め立てるも、責められてる当人は非常に冷静だった。

 

「あんたらが自宅まで付きまとうからだ。会見をやるって言わされたようなもんだ」

 

芸能人ならまだしも、一般人相手にやりすぎた行為であることは、記者たちも自覚はあったらしい。不機嫌そうな表情を浮かべるも、そのことに対し反論することはなく黙り込んだ。

別の記者が挙手し、質問を投げかける。

 

「あなたの詐欺行為についていくつかお聞きしたいのですが」

 

そう話を続けようとする記者を、霊幻は途中で遮った。

 

「ちょっと待てよ。詐欺って俺の商売の話か?俺に霊能力がない事を証明できる人間がここにいるのかよ?もしくは詐欺行為を証明できる被害者は?」

 

ざっと見た限り、周りにいるのは記者ばかりで、霊能力者や被害者らしき一般人の姿はどこにも見あたらない。

おおかた、この会見で俺を徹底的に追い込めば、証人や被害者がいなくてもボロを出すと踏んでたのだろう。爪が甘いな。

 

「被害を受けたと言っている人物が何人も……」

 

「はいはい。自称被害者ね」

 

「なぜそんな言い方するんですか!」

 

ひどくご立腹した様子で、記者が声を荒げる。

あなたには人の心がないのですか!と糾弾する声に、霊幻は淡々と答えた。

 

「真実が確定していないから。その間俺はまだ自称霊能力者でいられる。犯罪者じゃない。発言には気を付けていただきたい」

 

推定無罪の原則だ。記者ならそれくらい知ってるだろ?

 

「……」

 

霊幻の警告とも言えるその言葉を聞き、記者はそれ以上何も言うことなく引き下がった。

目の前にいる霊幻が一筋縄ではいかない人物だと悟ったのだろう。

先ほどまでの何が何でも霊幻を責め立てようとする雰囲気はなくなったものの、代わりにピリピリとした空気が漂う。

やつらの目が変わった。

徹底的に俺を追いつめていくつもりなのだろう。

ここからが本番だ。

 

「では質問です。あなたには霊能力がありますか?」

 

ここで「はい」と答えればあの炎上した番組のことをここぞとばかりに持ち出し俺を責めるだろう。かといって「いいえ」と答えれば俺は完全にインチキ霊能力者になってしまう。最適な答えは。

 

「ノーコメントでお願いします」

 

「なぜ答えないんですか?」

 

「ないって返事でしか解決しない質問だ。霊感がないあなた達ではあることを証明できない」

 

もし「ある」と答えても記者たちは絶対納得しない。堂々巡りになるだけだ。俺を追いつめたいなら確固たる証拠を用意しておくべきだったな。この場に霊能力者を呼ばなかった自分らを恨め。

 

「この場を屁理屈で乗り切るおつもりですか?先の生放送を見る限りアドリブが得意のようですが」

 

ニヤニヤと小馬鹿にしたように笑う記者に対し思わず「チッ」と舌打ちが出る。

さっきからこいつら、俺のこと煽りまくりやがって。

俺の平常心奪って、失言とろうって魂胆見え見えなんだよ。

 

「あ?今舌打ちが聞こえましたか?」

 

「いいえ。ただのマイクテストです」

 

苛立てばあいつらの思うつぼだ。

考えろ、冷静になれ、相手の思考を読め。

大丈夫。いつもみたいに相手を論破すれば問題ないはず。この場を乗り切るんだ。

超能力がなくても、俺には「言葉」という武器がある。

質問タイムがはじまった。

 

「いつ頃から霊感商法を始めたんですか?」

 

「4年前くらいです」

 

飽き性な俺にしては長くやってるもんだ。

 

「それ以前は何を?」

 

「会社に勤めてました」

 

年収そこそこの会社に。

 

「霊能力と関係ある業種ですか?」

 

「いえ。まったく」

 

そもそも霊能力と関係ある業種って何だよ。

 

「過去の依頼内容はどのようなものが?」

 

「肩が重いとか心霊写真とか」

 

大抵は悩み相談が多いけど。

 

「成果はありましたか?」

 

「解決はした」

 

リピーターもいるし。

 

「その中で印象に残っているものは?」

 

「都市伝説退治」

 

最上の件をのぞけば。

 

「依頼人とぶつかったことはありませんか?」

 

「ない」

 

俺の口八丁手八丁で丸めこんでる。

 

「高額な塩や数珠を売るといったことは?」

 

「ないですよ」

 

そんなことすれば犯罪になるだろ。

 

「インターネット上で学生時代の情報が流出していますが」

 

「どうでもいい」

 

過去の俺がどうであろうと俺は俺だ。

と、ずっとまともな質問が続いてたおかげか、少しだけ気が緩んでしまった。

 

「卒業文集では将来についてこう書いてあります。何かになりたい」

 

まさか個人情報さらし出す馬鹿な記者がいるとは。

 

”何かになりたい”

 

それは。

今世でも前世でもずっと求め続けてたものだった。

 

「なぜ霊感商法に手を染めたのですか?」

 

底意地の悪い笑みを浮かべ、記者は畳みかけてくる。

 

「なぜって……」

 

それまで立て板の水のごとくすらすら答えてた霊幻が急に言葉が詰まる。

俺はなぜ霊能者として生きているんだ?儲かってないし面倒事も多い。

当時の俺は、超能力や霊が存在してることを知らなかったはずなのに、なんで俺はわざわざその職業を選んだ?

飽きて会社辞めてとりあえず思い立って借りた事務所。雑誌の広告に着想を得て始めた雰囲気だけの商売……それでも”霊とか相談所”という看板で仕事してれば、いつか本物の超能力者や霊能力者が現れるのではないかと心のどこかで期待してた。でも一向に現れなくてーーあの日、そうモブと始めて会ったあの日。本当はとっくにやめようとしてたんだ……。

だからモブが超能力を見せたとき、驚きと同時に嬉しかった、この世界でまた超能力者に出会えたことが。

超能力者のモブと一緒にいれば、見つかるかもしれない。

”霊幻新隆”がずっと求めてた何かにーー俺はなりたかった。

結果がこのザマだ。俺はあれから何も変わっていない。

超能力がなくなって、必死に努力してきたけど、それは使えなくなった超能力の代用としてのスキル。

俺の本質を変えるための努力ではなかった。

前世のときからずっと、中身は”俺”のまま。

超能力のことだって口だけのアドバイスだけで、超能力者じゃなくなった俺がモブにまともな指導ができるはずもない。

除霊の仕事だけさせて俺はあいつをただ利用してきただけの形になってしまった。

あいつの青春、一番足を引っ張ってるのは俺だったんじゃないか?

あの時酷い事言っちまったな。あいつは変わりたいのに囲い込もうとしてしまった。

わかってたはずだ。直接本人から話を聞かなくても。モブが以前よりも明るくなり、自分の意見も言えるようになったのは。

友達や部活の先輩のおかげだって。

 

 

 

なぁ……モブ。見てるか?

 

 

テレビの向こう側にいる人たちにじゃない、たった一人に向けてメッセージを送ろう。

もう俺はテレパシストじゃなくなった。思うだけでは何も伝わらない。

だから。

声に出して伝えるよ。

 

 

「成長したな。お前」

 

 

 

成長してなかったのはーー俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

プツン。

 

 

 

 

 

 

 

街全体が夕焼けで赤く染まっていた。

閑散とした街中を霊幻は一人歩き続ける。

いつもならマスコミ関係者が昼夜問わず、霊幻を追い回してるが、今、霊幻のそばに彼らはいない。

騒動の後始末に襲われ、こちらを気にしてる余裕がないのだろう。

何せ、生放送中に謎の地震が起こり、さらに映像機器の類がすべて宙に浮くという怪奇現象、とんでもない放送事故が起きてしまったのだから。

霊幻は歩く。

階段を上がり、歩道橋を渡る途中で霊幻はピタリと足を止めた。

 

「お前……何で来たの?」

 

今日呼んでないのに。

霊幻の斜め後方には。

 

「なんとなく」

 

喧嘩別れして以来、ずっと顔を合わせてなかった茂夫が立っていた。

茂夫と一緒にエクボもいる。

 

「……」

 

「……」

 

互いに目を合わせることなく、その場に佇む。

 

「早くこの場を離れようぜ。しばらく駆け回るぞあいつら」

 

エクボはそう二人に声をかけ、「見つかったら面倒だぞ」と急かす。

悪霊の言葉に従うように、茂夫が動きかけたとき。

 

「……お前……知ってる?」

 

霊幻は茂夫に尋ねる。

いつもの堂々とした大きな声と違う、掠れが混じった小さな声で。

 

「何をですか?」

 

「俺の正体。ネットとか雑誌とか見てねーの?」

 

茂夫に背を向けたまま、問いかける。

強く握りしめた霊幻の拳はひどく震えていた。

そんな霊幻の様子に気づいてるのか気づいてないのか、茂夫は小さく微笑みながら答える。

 

「そんなの知ってましたよ。最初から」

 

何でもないことのように。

 

「!」

 

霊幻にとって思いもよらない言葉だった。

そうか……最初から俺の正体、知ってたんだな。

 

「僕の……師匠の正体は……」

 

心臓が早鐘のように早く打ち、呼吸が浅くなる。

霊幻は強く瞼を閉じ、断罪を待つ。

1秒、2秒、3秒。

ためをつくってから、茂夫は伝えた。

己の師匠の正体を。

 

 

 

 

「いい奴だ」

 

 

 

 

モブにそう言われた瞬間。

 

 

”ありがとう!”

 

唐突に、満面の笑みを浮かべる名も知らぬ女の子の顔を思い出した。

”俺”が「正義のヒーロー」を目指すきっかけになった、とても小さい些細な善行。

 

 

ああなんだ。そうだったのか。

 

 

ずっとわだかまってた気持ちが解け、スーッと軽くなっていくのを感じる。

なりたかったのは、世界最強でも、世界の支配者でも、正義のヒーローでも、有名人でもない。

あれだけ反則じみた超能力を持っておきながら、”俺”がなりたかったものはとてもシンプルなもの。

 

 

 

 

”霊幻新隆”はーー”いい奴”になりたかったんだな。

 

 

 

 

 

 

 

目頭が熱くなり、鼻がツンと痛い。

 

「……腹減ったな。ラーメンでも食って帰るか」

 

「はい。……あ、そういえば師匠誕生日おめでとうございました」

 

「……おう」

 

「来年はケーキ用意しますね」

 

「……そのときはクリームたっぷりのやつ頼むな」

 

「はい」

 

夕焼け色の街を二人肩を並べて歩き、その師弟をふよふよと緑の人魂が追う。

 

 

 

 

 

久しぶりにモブと食べたラーメンは。

やたら目に沁みて食いにくかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラエティ番組の生放送中でインチキ除霊が暴かれたと思ったら、同じく生放送のテレビ会見で起きた謎のポルターガイスト現象。

結局”霊幻新隆”はただのインチキ詐欺師なのか、本物の霊能力者なのか。

その後、彼は表舞台に出ることはなくなったため、その真偽が明らかになることはなかったというーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は理不尽で満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記者会見から○日後。

客もいない閑散とした事務所で。

 

「後はここを修正……ちょっと削りすぎたか。ならここをこうして」

 

なにやらブツブツ独り言しながら、パソコンで作業する霊幻の姿がそこにあった。

あれだけ世間を騒がしたのなら、しばらくほとぼりが収まるまで霊とか相談所を一時休業すると思いきや、なんとこの男、店を閉めることなく通常営業している。

「あれだけ炎上したのに、普通に仕事やってるてめーの神経がわからねえ」と、ある悪霊は心底呆れた顔で言うのを無視し、問題の霊能者は心霊写真の加工作業に勤しむ。

その霊幻のいるデスクから少し離れた受付には。

 

「……」

 

霊とか相談所のバイト、影山茂夫、その人がそこに座っていた。

一時期は師匠である霊幻から離れた茂夫だが、マスコミ騒動の一件以降、また相談所へ通い始めている。

静かな事務所で客がくるまで各々時間を潰す。

それがいつもの霊とか相談所の日常風景だが、その日はいつもと少し違っていた。

 

「何そわそわしてんだよモブ」

 

霊幻は作業する手を止め、訝しげな顔で茂夫に聞く。

何故か弟子はしきりに体を揺らし、局地的ポルターガイスト[NOT超能力]起こしていた。トイレなら我慢せず行けって。我慢しすぎて膀胱炎になったらどうする。

 

「いや……空いた時間で少しでも運動しようと思って」

 

「貧乏ゆすりじゃないのか……」

 

また何で急にそんなことを。

霊幻の疑問に答えるように、エクボが話す。

 

「あいつマラソン大会が近いんだよ」

 

「マラソン大会か。俺はよく仮病使ってたな~」

 

毎年、マラソン大会くるたび、どう担任を言いくるめようと知恵を振り絞ったものだ。たまに言い訳が通用せず、仮病使ったペナルティとして余計に走らされてたなあ。懐かしい記憶である。

 

「10位以内に入って意中のツボミちゃんに告白するんだと」

 

「!!?」

 

なん……だと……?

あのモブが好きな子に告白?それもマラソン10位以内とか目標立てて?

マジで?

それなら。

 

「……お前しばらくバイト来なくていいぞ」

 

「え?どうしてですか?」

 

突然の霊幻の言葉に、茂夫は驚き聞き返す。

これまで急な呼び出しを受けたことは数え切れないほどあったが、逆にこなくていいと言われたのはこれが初めてである。

 

「どうせ当分客も来ないし」

 

パソコン画面には、ぎっしり予定が詰まったスケジュール表が映ってたが、霊幻はそのことに触れることなく、茂夫に向かってニヤっと笑う。

 

「それよりジョギングとかして慣らした方がいいな。よし着替えろ」

 

「え?」

 

「本番と同じコースを足に覚えさせるんだ」

 

何事も下準備は大事だ。

モブのために一肌脱いでやろう!

面倒くさがりな俺に珍しく、やる気をだしたもののーー

 

 

 

「ほれ!足上げろ霊幻!」

 

「うっせぇ!」

 

想像以上に走り込みはきつかった。

軽く走っただけで、バテバテのヘロヘロである。

うっそだろ、もっと走れると思ってたのに、こんなにも俺の体なまってのか?!

 

「俺だって!ここんとこ運動不足だったんだよ!」

 

いっとくが普段ならもっと走れるんだからな!

世間にバッシングされてた期間、迂闊に外出歩けなかったし!

マラソン大会仮病使ってよくサボってたが、数少ない参加した大会では割と上位に食い込んでたんだぞ!

 

「声だせ声!」

 

半死半生状態の俺に容赦なくエクボの怒号が飛ぶ。悪霊のくせに熱血スパルタ指導かよ!

モブの手前、なんとか歯を食いしばり走り続けるも、もう無理、限界だ。

 

「そこで一旦お茶するか……?」

 

公園のベンチ前で一旦立ち止まり、茂夫に声をかける霊幻。

お前も疲れただろ?とさも休憩は茂夫のためと言わんばかりの口調だが。

 

「まだ1kmぐらいですよ師匠」

 

ぜえはあと荒い呼吸を繰り返す霊幻と違って、茂夫は全然息など切れておらず、まだまだ余裕。

もうちょっと頑張りましょうよと、弟子に気遣われる師匠だった。

 

 

 

……成長したな。お前。

 

 

 

茂夫とのランニングを終え、自宅に帰った霊幻、自分のふがいなさを痛感し、こっそり筋トレやランニング始めるもーー

 

「……」

 

やりすぎて腰を痛め、三日坊主で終わった。

 

 

 

 

 

 

こうして茂夫は周りのサポートを受けつつ、マラソン大会に向けて、着々と準備を進めていった。

毎日休まずマラソンの距離分走り、友達や部活の先輩から色々なアドバイスを受けたりと、必死に自分にできる最大限のことをしゃにむに努力し続ける。

全ては好きな子に気持ちを伝えるため!

こうして茂夫はマラソン大会当日まで○日間、死にものぐるいで頑張り続けたーー

 

 

 

 

 

 

一方その頃、霊幻はというと。

 

「うーん、どうすっかなあ」

 

一人きりの事務所で、パソコン画面と睨めっこしていた。

画面に映ってるのは、霊とか相談所のスケジュール表。

ほとんどの日にちが予約で埋まっている。

これら全てが霊幻一人で対処可能な、マッサージ、写真加工、人生相談、その他諸々便利屋的な感じの依頼なら問題ないのだが。

知名度が上がったせいか、ここ最近舞い込む依頼は皮肉にも本物案件が混ざっている割合が高くなってる。

何の力も持たない一般人が”悪霊”や”呪い”を祓えるわけがなく、さらに受けた依頼が本物かどうか見極める術がない。

以前ならそれでも問題なかった。

電話でピピっと一本、最終兵器モブを呼び出せたら全て解決したのだから。

しかし今回はそうもいかない……と、なるとやっぱり、モブの代わりが必要だな。

いつもならエクボが代行してくれることが多いが、あいつにはモブのサポートに回ってもらおう。悪霊だけどあいつ、悪いやつじゃないし。

森羅もあいつはあいつで霊能力者として働いてるから、霊とか相談所の助っ人として呼び出すのは難しい。

他に頼める奴……モブと同じように除霊ができる超能力者……あいつらに頼んでみよう。

一人は快くきてくれそうだが、もう一人は難しいか?

いや、モブのためと説得すれば協力してくれるはず。

よし。

行動方針が決まった霊幻は携帯でどこかへ電話をかけはじめる。

 

「あ、俺だけど、今時間大丈夫か?実はーー」

 

 

 

 

 

翌日。

助っ人に頼んだ彼らは約束してた時刻通り、霊とか相談所に姿を現した。

 

「おうお前ら助かったぜ。今日はよろしくな」

 

霊幻が呼び出した彼らとはーー

 

「兄さんのためですよ。練習に集中してもらいたいので」

 

「影山君の代理だからね。しっかり働きますよ」

 

影山律と花沢輝気だった。

霊幻に対しスンと真顔な律と爽やか笑顔を見せる花沢。

両極端な二人だな[俺への態度が]

何気にこの空間、顔面偏差値高い[俺含めて]

これは女性の集客率アップも期待できるぞ。

 

「あ、そうだ霊幻さん、この間はありがとうございます。おかげで助かりました」

 

「役に立ったならよかった。また何か困ったことあったらいつでも頼っていいからな」

 

「はい!」

 

親しげな様子で会話する二人に、律は一人首を傾げる。

霊幻さんと花沢さん、なんでこんなに仲いいんだろう。

兄さんという接点はあるけど……。

律の不可解そうな顔をしてるのに気付いた花沢が、照れくさそうにしながらも霊幻と親しくなった経緯を説明する。

 

「爪での一件以来、僕のこと何かと気にしてくれてね。生活のこととか超能力の指導とか色々助けて貰ってるんだ」

 

「霊幻さんが?」

 

日常生活ならまだしも、超能力のことも?

怪訝な表情を浮かべる律に、花沢は尊敬100%の顔で力説する。

 

「流石影山くんの師匠だけあって、貰ったアドバイス、どれも的確で勉強になるんだ!あとこの本も凄い参考にさせてもらってる」

 

そう言いつつ、持参してきたリュックから花沢が取り出したのはーー

 

「……漫画?」

 

本の表紙と二人の会話から察するに、超能力者バトルものらしい。

 

「話も面白くてついつい読みふけっちゃってさ、続き借りようと思って」

 

「テルに言われて自宅から持ってきたぜ。そうそう、このシリーズのスピンオフの作品あるけど、それも貸そうか?」

 

「いいんですか?ありがとうございます」

 

「……」

 

何か言いたげな様子で俺を見る、もとい睨んでる弟くん。

いや本当に参考なるんだって。漫画だと視覚的イメージしやすいから役立つんだよ。決して騙してるわけじゃないんだ。頼むから弟、そのゴミでも見るような目で俺を見るな。

いかん、これを機に弟と仲良くなる俺の作戦が……こうなったら仕事で名誉挽回、弟の中にある胡散臭い詐欺師”霊幻新隆”のイメージを払拭せねば!

 

コンコン、ガチャッ。

 

「あの~……やってますか?予約してないんですけど……」

 

ナイスタイミング!

 

「ああ!今ならすぐ!どうぞお座りください。よし。じゃあさっそくお茶をお出しして……あれ?あいつは?」

 

俺の仕事ぶりを一番見せたい弟の姿が見あたらない。

まあ、事務所のどっかにはいるはずだ、俺のかっこいい姿、とくと見よ!

 

「あの……恋愛相談もやってるって聞いてきたんですけど……」

 

「お願いできますか?」

 

恋愛相談。

彼女いない歴○年、恋愛未経験の霊幻にまともなアドバイスなど土台無理だろうと思いきや。

 

「成程……サッカー部だからスパイクをプレゼントしようと思ってるのか。でもあまり高価なものだと気持ちより先に金銭的な価値・印象が先行してしまうしそれならまず友人関係から……」

 

なんと霊幻、スラスラと彼女に対し、適切な恋愛アドバイスを送っていた。いやーあのとき恋愛テクニック本、片っ端から読み漁って必死こいて勉強した甲斐あったな[※4話[上]参照]

たとえ自身に恋愛経験なくとも、今の俺は知識やテクニックなら恋愛上級者だと自負できる。

 

「というわけでミキさんは何も焦っていきなり告白する必要はないと私は思います」

 

「はい!ありがとうございます!すごく参考になりました」

 

晴れやかな笑顔で相談者の子が立ち上がりかけたとき、付き添いの子が口を開く。

 

「あの。アンケート書いてないんですけど私も相談いいですか?」

 

「ええもちろん。あなたも恋愛に関する?」

 

「はい。好きな相手は塾で会う他校の子なんですけど」

 

ほうほう。なるほどなるほど。

 

「で、塾の帰りとかにも一緒になったりするんですけど告白すべきでしょうか?」

 

これもティーン雑誌の恋愛相談コーナーに載ってた読者質問で見たことある。

確か雑誌の回答は。

 

「……そのケースならすぐに告白してもいいかもしれませんね。話を聞いた感触だと相手もあなたを気になっているのは間違いない。告白すれば十中八九うまくいくはずです」

 

必要なのはあなたの勇気だけ!頑張って!だったな、うん。

付き添いの子も俺のアドバイスに納得したらしく、なるほど。わかりました。ありがとうございますと頭をさげる。

こうして女子中学生2人の恋愛相談を見事に解決してみせた俺。二人が帰った後、満足げに一人頷く。

我ながら100点満点、パーフェクトのアドバイスだった。

どうだ弟!これで俺のこと少しは見直しただろ?

ドヤ顔で律の方へ振り向けば。

 

ギロリ。

 

まるで兄の敵とでも言わんばかりの鋭い目で睨まれた。

何故だ。

しかも。

 

「チッ」

 

今、あからさまに舌打ちしたよねこの子。

弟の不機嫌モードは閉店時間までずっと続き、態度が軟化することはなかったーー

 

何故だ[※大事なことなので二回言いました]

 

 

 

 

 

 

 

 

など紆余曲折ありつつも、時は流れていきーー

 

 

 

 

 

 

 

 

○月×日。塩中マラソン大会当日。

この日の天気は快晴、降水確率10%、絶好のマラソン日和だった。

塩中のマラソン大会は、近くにある運動公園を貸し切って開催しているため、保護者を始め色んな人たちが気軽に見学できるようになってる。

 

「ガンバレー!」

 

「もう少しだぞあともう一踏ん張り!」

 

等と生徒たちに温かい声援を送る近隣住民の方々もいれば、我が子の晴れ姿を熱心にビデオに収める保護者もいたり。

中にはーー

 

「おい。あと1kmちょっとだぞ。足動かせ」

 

生徒と一緒に走る[一時]保護者も。

茂夫と併走してる霊幻に、エクボは若干引き気味に言う。

 

「霊幻……本気のスタイルだな」

 

「見るな」

 

霊幻の格好はいつものスーツ姿でなく、タンクトップに短パン。

マラソン選手がごとくのガチ装備である。

言っておくが、ただ応援のために走ってるだけじゃない。

これもちゃんと意味があってのこと。

 

「ラストスパートのペースメーカーになってやろうと思ってたんだが」

 

マラソンとは選手同士の駆け引きが重要になるスポーツ。

どこまで力を温存するか、いつ勝負に出るか。

いわゆる”場の空気を読む力”が必要となってくる。

そのへん壊滅的なモブの手助けしてやろうと奮起したがいかんせん。

 

「トップ争いの連中が速すぎる」

 

それ以前の問題だった。

 

「だいぶ差をつけられた。全力疾走しても追いつけるかどうか……」

 

少しの距離、霊幻は茂夫の隣を走るも、途中でペースダウンしてそのまま茂夫を見送る。

 

「俺はここまでだ。最後まで一緒に走ったら不審者として通報されかねん」

 

「自覚はあるんだな」

 

うっせーよ。

 

「カウントしてたんだが現在74位」

 

去年の順位が300人中290位だったのを考えれば、目を見張る成長ぶりだ。部活でコツコツ筋トレと走り込み頑張った成果がちゃんと出ている。と誉めてやりたいところだが今回はそうもいかない。

 

「モブにしちゃあ大健闘だが入賞するにはあと64人抜かす必要がある」

 

ただでさえマラソンとは最初のスタートダッシュで勝負の殆どが決まってしまう。

今から10位以内に入るのは普通に考えて絶望的な状況だ。

 

「成程……タクシー拾うか?」

 

「まぁそれもちょっと考えたけど……」

 

単純に順位を繰り上げたいだけなら、それもアリだろう。

悪霊の案に霊幻は一瞬同調するも、すぐに首を横に振る。

 

「馬鹿言え。見ろよあの顔。まだきっと諦めてないんだ」

 

霊幻が見つめる先には、ゴールへ向かって走り続ける茂夫がいた。

いつ倒れてもおかしくないほど、へろへろ状態なのに、決して足を止めることなく、必死に前へ前へと愚直に進み続けている。

俺がいなくても大丈夫だな、よし。

 

「さてと。俺も戻るか」

 

はー、疲れた疲れたと、体を大きく伸ばし、軽いストレッチする霊幻に、悪霊は訝しげな顔をする。

 

「最後まで見ていかないのかよ」

 

「これからちょっと野暮用あってな。後よろしく」

 

「へいへい」

 

悪霊と会話を交わした後、霊幻は運動公園を後にした。

 

 

 

 

 

一旦事務所に帰り、本気スタイルからいつものスーツに着替える最中、ふと壁時計が目に入る。

時計の時刻は○時×分。

 

「おっと、もう出ねえと」

 

慌ただしく着替えを済ませた後、どこかへ電話をかけていく。

 

「××ビル前にタクシー一台」

 

店の戸締まりを済ませ、外へ出ると既にタクシーが止まってた。急いでタクシーに乗り込むと、運転手が尋ねる。

 

「どちらまで?」

 

「○○まで頼む」

 

運転手に告げた名前はとある会社の名。

×分後、目的の会社までたどり着いた。

 

「予約されてた霊幻様ですね。お待ちしておりましたどうぞ奥へ」

 

すぐに奥の部屋へ通され、担当の人がやってくる。

ニコニコ感じのいい笑顔を浮かべ、霊幻に一礼した後、持ってきたパンフレットを机の上に広げる。

パンフレットには。

 

「それでお客様、どのようなリフォームをご希望でしょうか?」

 

色んな部屋のビフォーアフター写真が掲載されていた。

 

 

 

 

 

夜、腰痛で眠れず、布団の中でうんうん唸ってる俺は、天啓のようにひらめいたのだ。

 

そうだ、事務所をリフォームしよう、と。

 

なんとなく雰囲気とノリで始めた霊能商売、内装にこだわることなく、必要最低限の家具しか置いてない殺風景な事務所だった。

すぐに辞めると思ってたこの商売も、気付けば開設して4年以上。

知名度もあがり、客も増えたのだ。

いつまでも初期アバターみたいな内装ではいけない。

ここは心機一転、リフォームしなくては!

思い立ったら即行動がモットーな霊幻新隆、翌日にはネットでリフォームのことを調べ、リフォーム会社へ相談予約していた。

そして今日がその相談日。

リフォーム内容は、既にネット等で大まかに決めてたこともあり、リフォーム計画は滞りなく進んでいく。

予定よりも早めにプランが決まり、またちょうど担当も手が空いてることもあって、そのまま事務所まで足を運び下見してくれる算段となった。

 

「いやあ、まさかあの有名な霊幻先生の担当になるとは。そうだ、よかったら今度、事故物件の除霊、頼んでもよろしいですか?」

 

「ええもちろん!今世紀最大の霊能力者”霊幻新隆”にかかれば、悪霊なんてイチコロ!新築のごとくピッカピカの綺麗にリフォームしてみせましょう!」

 

「おお、それはなんとも頼もしい!まあ今回は霊幻先生の事務所を我々がリフォームしますけどね!」

 

「「ハッハッハッ!!」」

 

タクシーの中で、二人の笑い声が木霊する。

連日の走り込みによる疲労で霊幻の体は重かったが、それと反比例するように霊幻の心は浮き足立ち軽かった。

タクシーの中ですっかり意気投合したリフォーム業者と共にタクシーから降りた霊幻は上機嫌で指さす。

 

「あそこがうちの事務所なんですが……」

 

と、言い掛けたところで気付いた。

黒い煙、真っ赤な炎。

 

「……燃えてる」

 

指さした方向には、絶賛炎上中の霊とか相談所があった。

既にネットで炎上したというのに、今度は物理的に炎上とはこれいかに。

それまで夢と希望で膨れてた気持ちが一瞬で萎む。きっと今の俺、オジロスナギツネみたいな顔になってるに違いない。

前世で俺、何か悪いことした?

あーうん。すげーしてたわ。因果応報か……。

 

ぽんぽん。

 

誰かが俺の肩を叩く。

振り返った先にいるのは、リフォーム業者。

不幸のどん底にいる俺を慰めてくれると思いきや。

 

「修復工事も承ってますので、どうぞご利用ください!」

 

商魂たくましいなオイ。

 

 

 

 

結局、リフォームの件は白紙となり、後処理済んだら後日また会社に来てくださいとだけ言って、業者は乗ってきたタクシー使ってさっさと帰ってしまった。

なんと薄情な。

一人残された俺は燃え続ける事務所を為すすべもなく見続ける。

ああ、徹夜して修正した写真のデータが……。

遠くで消防車のサイレンが聞こえる。

誰かが通報してくれたのだろう。

炎の勢いからしてこれは……消防車が到着しても事務所の全焼確実か。

この後、警察と消防から事情聴取受けると思ったら憂鬱だ。

ただでさえマラソンで疲れてるというのに。

帰って寝たい。

心身と共に疲弊してた霊幻だが、集まってる野次馬たちの中から、気になる会話を聞き取った。

 

「○○で爆発騒ぎだって」

 

「マジ?確か××も」

 

「俺は□□で火事が起きたって聞いたけど」

 

短時間の間に続けざま爆発、火事騒ぎなど通常ではあり得ない。

火事の原因、漏電か何かと思ってたがもしやーー

霊幻がそう考えかけたそのときだった。

爆発音がどこかで響く。

 

「また爆発?」

 

「どうなってんだよ」

 

新たに聞こえた爆発音にその場にいた人たちがざわめき出す。

非常事態に慣れてないのだろう、人々の顔は焦りや不安の色が滲み出している。

同時多発テロ?どこぞのアホな超能力者が世界征服し始めたとかじゃないよな?

しかしここに居続けるのも危険か。

テロ行為は人の集まる場所、街の中心部で派手にやることが多く、今俺がいるのは、間が悪いことに人の行き来が多い繁華街。

テロに巻き込まれる危険性がある。

 

スチャ。

 

「あ、○○タクシー?××ビル前に1台よろしく」

 

面倒事に関わる気など毛頭ない。

荒事は警察に任せ、一般人の俺は安全な場所[自宅]へ避難させてもらおう。

タクシーの手配を済ませ、電話を切った直後。

再度爆発音が轟く。

今度は近い、いや近すぎるーー上か?

上空を見上げると、何か黒いかたまりが勢いよく吹っ飛んできて、数メートル離れたガードレールに激突した。

凄まじい破壊音が鼓膜を震わせ、衝撃の際に舞い上がった砂煙で周囲一帯は見えなくなる。

突如起こったアクシデントに、その場にいた人たちは口々に悲鳴をあげ 辺りは大混乱。

逃げようとする者もいれば、好奇心で近寄ろうとする者などが入り乱れ、押し合いへし合いの大騒ぎである。

 

「ギャハハハ!!おいおい、第七支部幹部って聞いてたけど、たいしたことねえじゃねーか!」

 

徐々に晴れゆく砂煙の中、姿を現したのは、腕に刺青が入ったガタイのいいスキンヘッドの男だった。

凹んだガードレールの前にある黒い塊に向かって嘲っている。

 

「……ハッ、そりゃこっちの台詞だ。様子見してたがもういい。本気出してやる」

 

もぞりと黒い塊が動く。

よく見るとそれは人で、モヒカン頭の男だった。

むくりとその場から起きあがったかと思えば、ぐいと袖で垂れた鼻血をぬぐい取り、ギラギラと好戦的な眼差しでスキンヘッド男を睨む。

互いに拳を構え、じりじりと間合いを詰めていく。

この一撃で決まる……!

一触即発、張りつめた空気の中、先に動いたのはーー

 

「対超能力者ドロップキック!」

 

スキンヘッド男でもモヒカン男でもない、第三者だった。

目の前の男以外、周りなど全く眼中になかったスキンヘッド男は、霊幻の放った不意打ちドロップキックをもろに受け、その場に倒れこむ。

突然の展開にファイティングポーズとってたモヒカン男の目が点になる。

 

「人の多いところで超能力使ってドンパチするな!人様に迷惑だろーが!」

 

飛び蹴りを一発お見舞いし、すくっとその場から起きあがった霊幻はビシっと二人[一人はダウンしてる]に向かって指さし一喝する。

 

「やるなら人のいないグランドキャニオン、サハラ砂漠あたりでやれ!あ、でも北極南極はやめとけよ?氷河崩れて地球温暖化加速するから」

 

「お、おう?」

 

何言ってんだこいつ。

モヒカン男の目は如実にそう語っていた。

 

「て、よく見たらお前、爪で会ったやつじゃねーか。まーだ組織から足洗ってねーの?働く職場はちゃんと考えろとあれほど」

 

「はあ?んなもんとっくに辞めーー」

 

「余所見してんじゃねえよ!!」

 

二人の会話を遮るように、吼えるような男の大声が響く。

声のする方に振り向けば、仁王立ちしてるスキンヘッドの男。

げ、もう復活してる?!

 

「ハハハ!馬鹿め、隙だらけだぜ!!」

 

そう高笑いしながら、スキンへッド男が拳を大きく振りかぶったときだった。

 

「隙があるのはそっちだ」

 

プシュッ

 

……バタン。

 

さらに現れた乱入者の手によってスキンヘッド男は、あっけなく昏倒した。白目を剥いたまま、ぴくりとも動かない。

 

「全く。何やってる誇山。あまり派手に動くなと言っただろ。これじゃまたすぐに追っ手がくるぞ」

 

メガネをかけたスーツの男で、彼の顔は苦々しげだった。深いため息つきながら、今し方スキンヘッド男に吹き付けた小さい香水ボトルを胸元のポケットにしまい込む男に、モヒカン男ーー誇山は不機嫌そうに顔をしかめる。

 

「わーってるって、桜威。さっさとバックれーー」

 

「ちょっと待てよお前ら」

 

その場から立ち去ろうとする二人に、霊幻は呼び止める。

それまで超能力者たちにしか目がいってなかった桜威だが、霊幻が声をかけたことで、ようやく認識したらしい。

 

「霊幻?!なぜここに」

 

と驚いたように目を見開く。

 

「なぜも何も、ここ、俺の事務所近くだし。桜威だっけ?元気そうで何より。社会復帰はうまくいってるか?」

 

「……ふん。見ての通り、順調とは言えんな」

 

霊幻の軽口に対し、桜威は皮肉げに答える。

ブラック会社あるあるだな。所属してるときは捨て駒扱いなのに、いざ退職となったら難癖つけて会社に縛り付けようとする。

転職活動邪魔するのは、立派な法律違反だぞ。労基にチクってやる。

先ほどの爆発音は「爪」の仕業、と考えると。

 

「悪いが霊幻、貴様と長々と世間話する気はない。俺たちに関われば無関係の貴様もーー」

 

「無関係じゃない、っていったら?」

 

くいと親指あげて、霊幻は背後で燃えてるビルを指さす。

 

「あれ、俺の事務所」

 

おそらくこいつらみたいに「爪」の連中が俺に襲撃かけたのだろう。爪の支部一つ壊滅させたのだ。奴等が俺を抹殺対象に見てても不思議ではない。おおかたターゲットの俺がいなかったことに腹を立てた襲撃者が嫌がらせで放火したってところか。まったく、なんてやつらだ!

 

「で、お前ら。行く当てはあるのか?」

 

「「……」」

 

ふいと顔をそっぽ向け喋らない誇山と、眉間に皺を寄せ沈黙を貫く桜威。

予想通りか。

 

「ちょっと待ってろ」

 

そう言って、霊幻はどこかに電話をかけはじめる。

かけた電話相手はーー

 

「あ、もしもし?俺だけど」

 

覚醒ラボという超能力研究機関の創設者”密裏賢治”。

テル経由で彼と知り合い、ちょくちょく連絡取り合ってたが、全く。

 

「”爪”が動いた。至急子供たちを例の場所へ避難させてくれ」

 

保険かけておいて正解だった。

 

「それとそっちに何人か追加で保護よろしく。ああ、子供じゃない大人の超能力者数人。うーんまあ知ってる顔だろうな。ちょい驚くかもしれんが問題ない。合い言葉は 「塩」「ラーメン」で。え?醤油がいい?じゃあそれで」

 

そう言って携帯を切った後、霊幻は何でもないように二人に声をかける。

 

「話はつけた。行くぞ。ついてこい」

 

「は?」

 

誇山は怪訝そうな顔してるのにも構わず、霊幻は言葉を続けた。

 

「他の連中も襲撃受けてるんだろ?そいつらにも、今から俺がいう住所の所に来るよう伝えてくれ。合い言葉は「醤油」「ラーメン」」

 

タイミングよく呼んでたタクシーが到着する。

 

「ちょ、おい待てよ!」

 

「霊幻、お前正気か?敵だった俺たちを匿うなど」

 

何やら二人が言ってるが、そんなの些細な問題でしかない。

 

「どっちみち俺たちは「爪」に狙われてんだ。それなら集まって行動したほうが安全だろう?お前らは安全な場所確保、俺たちは戦力増加。双方ともにメリットがある。それに」

 

二人に向けて霊幻は大胆不敵に笑う。

 

「もう”爪”に戻る気もないだろ?」

 

あっけらかんと言ってのけた霊幻に、二人はそれ以上何も言えなくなり黙り込む。

 

「ほら乗れよ」

 

そう言い、扉が開いてるタクシーの後部座席へ促す。

 

「……どうするよぉ桜威」

 

眉を下げて困ったように、コソコソ小声で隣にいる桜威に聞く。

 

「……ついていくしかあるまい。霊幻の言うとおり双方利点がある。どのみち俺たちだけで対処するのにも限界だ」

 

諦めたように息を吐く桜威だが、内心では霊幻の豪胆さに感嘆していた。

この男、ただ者ではない。

一度殺されかけたというのに、それを気にするどころか、仲間に引き入れる。

もしやこいつ、ボスを超える器の大きさーー

 

「あ、タクシー代は割り勘だからな!」

 

……いや、そんなに器大きくないな。

 

桜威の霊幻評価は最高値から少し下降修正されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

密裏賢治が所有する隠れ家。

それは巧妙にカモフラージュされ、一般人ではまず見つけることができない。霊幻は事前に聞いてた情報を頼りに、隠された入り口を見つけ、幾重もの扉をくぐり抜ける。

最後の扉を開けた先で、隠れ家の持ち主が満面の笑みで霊幻を出迎えた。

 

「やあ霊幻くん久しぶり!テレビの会見みたよ!いやーあんな凄い力があったなんて、皆が君のこと慕うわけだ!どうだい僕の覚醒ラボにーー」

 

「あーその話はまた今度な」

 

長くなりそうな密裏のスカウトをサクッと避わしつつ、霊幻は用件を切り出す。

 

「来て早々悪いが、車借りていいか?」

 

「いいよ。車種の希望は?」

 

「スモークウィンドウ付きなら何でもいい」

 

「ならこれかな?はい」

 

ずらりと壁にかかってる大量の車のキーから、密裏は一つ選び出し、ポンとあっさり霊幻の手の上に置く。

渡されたキーのエンブレムは、当然のように高級車メーカーのものだった。

 

「……」

 

数秒ほどキーを凝視してた霊幻だが、くるりと誇山と桜威の方へ振り返る。

 

「今から町に戻ってモブを拾ってきてくれ」

 

テルはこの場所を知ってるが、モブは知らないからな[※テルには爪に襲撃されたらここに避難するよう伝えてある]

弟もモブのそばにいるだろうから一緒に拾えるし。

 

「モブ?影山茂夫のことか」

 

「そ、俺の弟子。居場所ならモブの携帯についてるGPS機能でわかる。お前の携帯に情報送るからそれで追ってほしい」

 

「んん?その二人ってもしかして」

 

霊幻の背後にいる二人に気づいて、密裏のにこやかな顔は消え、厳しい顔になる。

 

「「……」」

 

加害者と被害者の予期せぬ再会だった。

誇山はポリポリと頬をかきながら、視線をどこかに泳がす。

その誇山より顕著な反応を見せたのは桜威だった。

彼は直接覚醒ラボを襲撃したこともあり、密裏と目を合わせようとしない。

気まずい雰囲気の中、突如霊幻が大声で話し出す。

 

「いやあ、実はここにくる前、爪に襲撃されてさあ」

 

「ええ、大丈夫だったかい!?」

 

どこか怪我とかは?と心配げに聞く密裏に、霊幻はひらひらと手を振る。

 

「このとおりピンピンしてる。まあ事務所は燃えちまったが、偶然居合わせたこいつらに助けてもらったんだ」

 

「は?」

 

「お、おい?何を言ってーー」 

 

偶然出くわしたのは事実だが、助けたわけではない。

そう否定しようとする二人に構わず、霊幻はさらに大きな声で話を続ける。

 

「それで話を聞いたら「爪」を抜けて奴らとは敵対してるんだと。他にも仲間が何人かいて、そいつらもこちらに合流予定だ。人数は多い方が安心だろ?」

 

「霊幻くんの恩人なら信用できるしいいね!わかった、子供たちには僕から説明しておくよ!」

 

二人を警戒してた密裏だが、霊幻の話を聞いて、あっさり態度を軟化させ、バタバタと足早に部屋の奥へ駆け込む。

密裏が奥へ引っ込んだのを確認してから、霊幻は二人に向かってニヤリと悪い顔で笑う。

 

「俺の恩人ってことにすれば、お前らの立場も悪くならないだろ。つーことで頼んだぜ”恩人”」

 

ポンと桜威の肩に軽く叩いた後、小声でこそこそ囁く。

 

「……実は俺、ペーパーなんだ。こんなでかい高級車で市街地回るとかマジ無理」

 

頼む、俺を助けると思って!

パンと両手を合わせて、頭を下げて頼む霊幻に、二人は複雑な顔で見合わせるも、同時に諦めたようにため息をついた。

この流れで断れるわけがない。

 

「……人使いが荒いな」

 

と苦笑しつつも、桜威は霊幻から車のキーを受け取った。

 

「じゃ、モブのことよろしくなー」

 

「お前は行かないのかよ」

 

一緒にくると思い込んでた誇山がそうたずねるも、霊幻は首を横に振る。

 

「おまえら、超能力はあっても、コミュ力は低そうだし仲介役必要だろ?」

 

覚醒ラボ側と第七支部側、双方に顔が利くのは俺だけだ。

ここに俺が残るのが正しい判断。

モブを探しに行きたいという私情は挟むべきではない。

 

「……おまえ」

 

誇山が何か言い掛けるも、桜威が制する。

 

「……必ず連れてくる」

 

霊幻にそれだけ告げて、桜威は「行くぞ」と誇山を連れていった。

二人を見送った後、霊幻は自身の携帯画面を確認する。

タクシーに乗ってる間、モブに着信を入れてみたがーー

 

”着信・新着メールなし”

 

「……」

 

大丈夫。あいつは無事だ。

パチンと勢いよく携帯を閉じ、霊幻は奥へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋の奥には既に先客がいた。

サイコキネシスト、星野武史。

パイロキネシスト、朝日豪。

テレパシストの双子、白鳥大地・白鳥海斗。

超直感を持つ女の子、黒崎麗。

この覚醒ラボに所属する超能力者の子供たちで、皆一様に不安げな表情を浮かべていたが。

 

「「霊幻さん[大先生!」」

 

霊幻の姿を見るや否や、皆の表情は明るくなり、わっと駆け寄る。

安全なシェルターに避難してるとはいえ、やはり心細かったのだろう。

 

「密裏さんから話聞きました!爪に襲われたって」

 

怪我とか大丈夫ですかと不安げに聞く黒崎に、霊幻は笑って答える。

 

「なーに、この通りかすり傷一つ負ってないよ。俺を誰だと思ってるんだ」

 

爪のアジト一つ潰した男だぞ?とおどけたように言う霊幻に、彼のことを特に信奉してる星野と朝日が目を輝かせる。

 

「流石霊幻大先生!」

 

「だから言っただろ黒崎!霊幻大先生は凄い人なんだ、あんな奴らに負けるわけないって!」

 

「テルから聞いてるぞ。お前たち、超能力の特訓頑張ってるんだってな?」

 

「はい!テルさんの指導で、あれから僕たち強くなりました!」

 

「爪との戦いだって役立ってみせます!」

 

息巻く星野たちに、霊幻は微笑ましげに笑う。

実際、彼らの成長は目を見張るものだった。

 

「おう、頼りにしてるぜ」

 

霊幻の言葉に、二人はパアッと顔を明るくさせ、「「はい!」と元気よく返事する。

先ほどまで、この場に広がっていた緊張した雰囲気はすっかり消えていた。

和気藹々としてる中、

 

「霊幻くん。例の彼らが来た」

 

部屋の隅で監視モニターを確認してた密裏が、こっそり霊幻に耳打ちする。

きたか。

 

「じゃ、迎えに行ってくる」

 

二人の会話を聞いてたのか、白鳥兄弟の兄がおずおずと声をかける。

 

「あの、僕たちもついていきましょうか?。完全に心を読むのは無理だけど、嘘をついてるかどうかの判断なら」

 

協力関係といっても、相手はこの覚醒ラボを襲った「爪」だったものたち。裏切って奇襲してくるのを危惧してるのだろう。

 

「心配してくれてありがとな」

 

裏切りの可能性は0とはいえないが、桜威たちの様子からして、その可能性は限りなく低い。

何より今必要なのは嘘を見抜く能力でなくーー

 

「大丈夫。大人に任せとけ」

 

ーー信頼だ。

 

 

 

 

 

 

コツコツと革靴の音を響かせながら、廊下を進んでいく。

俺一人で彼らを迎えに行ったのは、向こうに余計な勘ぐりをさせない意味もあった。

テレパシストなんて連れてきたら、こちらが信用してないと暗に言ってるようなものだし。

その点、無能力者である俺なら、超能力者特有のオーラも発さないし、相手を警戒させない[まあそれを逆手にとって奇襲・不意打ちするのが俺の常套手段だけど]

敵は中学生相手でも本気で殺しにかかる頭のイカれた連中だ。

こちら側の超能力者は全員中学生の子供ばかり。

だからこそ彼らが必要だった。彼らに対抗できる超能力者、子供たちを守れる大人が。

相手に信用してもらいたいなら、まずはこちらから誠意を見せる。

ビジネス、営業における鉄則だ。

交渉術なら俺の得意とするところ。

 

「あー霊幻だ!みてみてつっちー、本物の霊幻!」

 

絶対にーー彼らをこちら側へ引き込む。

ピタリと足を止め、愛想良く声をかける。

 

「よくきたな、おまえら。歓迎するぜ」

 

目の前には、かつて戦った連中が勢ぞろいしていた。

 

「お久しぶりです霊幻先生!」

 

出会い頭、野太い声で体育会系みたいなノリで、直角90度でビシっとお辞儀する大柄なスーツ男。

誰だ?

こんなやついたっけ?と一瞬考え込むも、すぐに男を思い出す。

 

「ああ、お前、最新CG映像の!」

 

コスプレ衣装してなかったから気づかなかった。

 

「邑機です。先生のおかげで俺、目が覚めて……ありがとうございます!」

 

「肩パットから卒業できてよかったな」

 

「はい!今は霊幻先生を見習って、この力を社会のために役立てる方法を探してるところです」

 

「いい心構えだ。わからないことあったら何でも言えよ」

 

就活の相談なら任せろ。内定荒らしの異名を持つ俺だ。どんな会社の面接も成功させてやる。

 

「はい!」

 

元気よく返事を返す肩パットもとい邑機。

連中の中で直接対面し、会話をかわしたことあるのはこの邑機だけ。

後は初顔合わせとなる。

その場にしゃがみ込み、先ほどから俺の名前を連呼しながら興奮してる赤毛の女の子に声をかけた。

 

「一応初めましてになるのかな?お嬢ちゃん」

 

「お嬢ちゃんじゃなくて無飼!テレビで霊幻いっぱい出てるのみたよ、すっごいね!」

 

「そうかそうかーテレビでかー。俺もすっかり有名人だなー。よし、特別にサインやろう」

 

「いらなーい」

 

速攻で断られた。数年後にプレミア出ても知らんぞ。

がっくし肩を落としながらも、立ち上がる俺に大柄な女性が声をかける。

 

「アッハッハ、振られたねえ色男。私は鎚田。アンタが”師匠”かい?」

 

俺のことを師匠を言う奴は一人しかいない。

 

「モブと知り合いか?」

 

「”女を殴る男は世界一モテないって師匠が言ってた”そういって私と頑なに戦いたがらなくてね」

 

当時の戦いを思い出したのか、どこか懐かしげな様子で目を細める。

モブのやつ、そんなことしてたのか。

よしよし、師匠の教え守ってえらいぞモブ。

紳士的対応こそ女性にモテる。

この調子で頑張れば、将来モブも女にモテモテな男に

 

「まあ、私のこと「おばさん」って言ったのは許せないけどね!」

 

……なるのは厳しそうだ。

モブ……おまえってやつは。

年上の女性には「おばさん」じゃなくて「お姉さん」と呼ぶよう教えておくべきだった。

 

「そんなわけで、ここにくる前からアンタのことは割と印象よかったが、実際ここにきて確信したよ。霊幻、アンタは信用できる男だって。超能力者数人相手に物怖じしない度胸も気に入った!」

 

スッとこちらに手を差し出す。

 

「こちらこそ。短い間だがよろしくな」

 

迷いなく彼女の手をとり、握手する。

彼女の手は無骨でたこだらけで固かった。

 

「つっちーだけずるい!ボクもボクも!」

 

そう言って俺の手を取るなり、ブンブンと上下に元気よく振り回す。

 

「ほら、お前も。握手は挨拶の基本だ」

 

「は、はい!」

 

緊張した面もちで差し出した邑機の手をぎゅっと握ってやる。

よし、良好な関係で協力体制に持ち込めた。

三人と握手した後、ずっと気になってたことを槌田に聞く。

 

「で、そこの床に転がってるオッサンは?」

 

鎚田の足下にはもう一人いた。

 

「入り口でウジウジしていつまで経っても入ろうとしなかったら、私が引きずってきたんだよ」

 

「べ、別に俺はそんなんじゃ……」

 

「寺蛇、アンタねえ……気まずい気持ちは皆同じだっつーの!いい加減腹括りな!」

 

「だ、だってよお」

 

俺、あいつらに色々、だの、ブツブツ独り言を漏らし続ける。

顔に似合わず繊細だなこいつ。

全く仕方ない。

その場に膝をついて、ポンポンと男ーー寺蛇の肩を叩く。

 

「そう、気に病むなって。俺たちもお前らのアジト潰したんだ、気まずいのはお互い様だろ?過去のことは水に流して仲良くやろうじゃないか。頼りにしてるぜ」

 

ニカッと笑いかけながら、彼に向かって手を差し出す。

 

「……フ、フン。そう言われちゃ仕方ねーな。どうしてもというなら少しは協力してやる」

 

寺蛇はそうぶっきらぼうにいいながら、差し出した俺の手を掴み、立ち上がる。

 

「これで全員か?」

 

「誇山と桜威をのぞけばそうだね」

 

「追っ手は?」

 

俺の問いに、邑機が答える。

 

「俺の分身と無飼の人形で周辺1キロ索敵したが、「爪」らしきものはいませんでした」

 

「そういえば桜威たちはー?中にいるの?」

 

ひょこっと奥をのぞき込む仕草を見せる無飼。

 

「誇山と桜威にはちょっとおつかいを頼んでてな。あいつらが戻ってくるまで、ひとまず中で待っててくれ。万が一、爪がここを襲撃してきた際は、子供たちを最優先で守ってほしい」

 

「俺にガキのお守りを任すとかいい度胸じゃねえか」

 

アアン?と凄んでみせる寺蛇に

 

「幸い食料など必要物資は揃ってるから、数日籠城できる。何か不足なものがあるなら言ってくれ」

 

俺は意に介することなく、槌田たちに説明を続けた。

 

「無視すんな!」

 

「ここにくるまで襲撃受けて、けっこう疲れたからね。ちと休ませてもらうよ」

 

「ジュース飲みたい!」

 

「霊幻先生って霊能力者ですよね?実は俺、そっちの道も考えていて」

 

「休息できるうちにしてた方がいいしな。大きめのソファあるからそこで横になるといい。ジュース?冷蔵庫に色々あるから好きに飲んでいいぞー。なんだ、この職業に興味あんの?それならーー」

 

和やかに談笑しながら、奥へ進んでいく霊幻たちに、ぽつんと置いて行かれる寺蛇。

暫しその場に立ち尽くしてた彼だが。

 

「ま、待てよ!」

 

俺を置いていくな!と慌てて後を追いかけるのだった。

 

 

 

 

 

無事、第七支部の連中と協力関係となり、覚醒ラボの子供たちと対面させた。

最初はギクシャクしてた双方だが、俺が間に入って取りなすことで、互いに会話するようになり、かなり打ち解けた雰囲気になる。

どれくらいの時間が経っただろうか。

突如鳴り響いた俺の携帯に、一瞬にしてその場が静まりかえる。

着信相手は”桜威”。

 

「桜威からだ」

 

そう全員に伝えつつ、スピーカー機能ONにして、着信をとる。

 

「もしもし?」

 

報告かSOSか。

 

「お前の弟子を保護した。今から戻る」

 

よかった。

割とすぐに見つけたな。

時計の針を確認する。

 

「そっちからここまで○分後くらいか?」

 

「……いや、それより早く到着する」

 

と、どこか強ばったような桜威の声と共に、誇山と思われるわめき声が聞こえてる。

揺れる、だの、落ちる、だの。ギャーギャー騒がしい。

 

「……OK。把握した」

 

まあ、空飛んだほうが、地上走るよりずっと速いもんな。

そういやあの二人、サイコキネシストじゃなかった。

空中飛行は初体験だったか。

「頑張れ」とだけ伝えて、携帯を切った。

切ったのと同時に、モブの無事を知った周りからワッと小さな歓声があがる。

 

「あのガキが仲間になるなら心強いな」

 

敵になると恐ろしい限りだが。と悪役のように含み笑いする寺蛇に、心の中でビシっと突っ込む。

 

 

いやモブも弱いからね?過信すんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

桜威の言ってたとおり、電話があってまもなくして、モブが隠れ家に到着した。

 

「モブ。無事か?」

 

昼間、モブと一緒に走ったのが随分昔のように感じる。

 

「師匠……」

 

俺の姿を視認したモブは、ふらりと俺の元へ歩みゆく。

 

「僕の家が……家族が……」

 

これほど追いつめられた顔してるモブの顔は久しぶりにみる。

モブの家で何かあったのか?

何よりーー弟の姿が見あたらない。

てっきりモブと一緒だと思ってたのにどういうことだ?

詳しく事情を聞きたいところだが、精神状態が不安定なモブから聞き出すのは……。

 

「茂夫の代わりに俺様が状況を話す」

 

俺の躊躇いにいち早く察知したエクボが、その場にいる皆に、これまでの経緯を語った。

マラソン大会が終わった後、影山家で何が起こったのかを。

燃えさかる家の中で見つけた”ものたち”も。

エクボは家で見つけた3つの焼死体は本物でなく、偽物だと説明した。

……。

 

「成程……エクボ。ちょっといいか?」

 

ちょいちょいとエクボを手招きし部屋の隅まで移動して、モブに聞こえないよう小声でそっとたずねる。

 

「ダミー人形ってのは咄嗟の嘘なのか?」

 

「……!」

 

俺の確信めいた問いかけに、エクボはわかりやすく動揺する。

図星か。

心を読む能力がなくても相手の一挙一動、注意深く観察すれば、隠し事してるかどうかの見分けはつく[逆にいえばそれだ相手に集中してないとダメだが。あのタヌキジジイ、いつか泣かす]

 

「……まったく根拠がないわけじゃないが……」

 

悪霊はちらっとモブの方へ視線を向けつつも、ボソボソと歯切れ悪く言う。

エクボが言ったことは全くの嘘じゃない。

理論上ダミー人形つくることは可能だ。0から生命を作り出すのは無理にしても、見た目人間そっくりの物体なら、それこそ冷蔵庫の食材で簡単に作り出せる。

だが。

現時点でその超能力者が見つかっていない以上、影山家にあった焼死体がダミー人形だと100%証明することはできない。

 

「お前も冷静じゃなかったんだな。嘘がバレたら一生モブに恨まれるぞ」

 

それか溶かされるな。

 

「……」

 

俺の指摘に、エクボは黙り込む。

エクボ自身、それは百も承知だろう。

恨まれてもいい覚悟で嘘をついた。モブを守るために。怒りと憎しみで我を忘れ暴走しかけたモブのために。

全く。テントウ虫のくせに無茶しやがって。

仕方ないな本当。

 

「モブ。お前の家族は……俺も無事だと思うぞ」

 

その嘘ーー俺も乗っかってやるよ。

 

「奴等はまだ向かう途中だったんだろ?事情を知る何者かが事前に救出したってことだ。火を付けて偽装工作し襲撃対象から逸らしたんだ」

 

自信たっぷりに言い切り、モブの不安を一蹴する。

 

「よかったな」

 

そう言ってモブに笑いかけたら

 

「あ……」

 

モブの表情が穏やかになり、ぐらりと体が傾く。

倒れる前に受け止めると、肩越しにスウスウと規則正しい寝息が聞こえる。

そうだよな。ここ連日走り込みしてたし、今日なんてマラソン大会だったんだ。

 

「安心するなり爆睡したぞ」

 

呆れたようにモブの顔をのぞき込む悪霊をシッシッと追い払う。

あんまモブに近づくな。悪夢みたらどうする。

昏々と眠り続けるモブを近くのソファに寝かせ、落ち着いた所でエクボが口を開く。

 

「今度はそっちの話を聞く番だ。この集まりはどういう風の吹き回しだ?こいつら爪だろ?」

 

エクボの疑問ももっともだな。

俺も数時間前までこうなるとは想像もしてなかった。

 

「私達第七支部のメンバーは組織を抜けたのさ。中学生のグループに壊滅させられて自分達の愚かさに気付いたんだ」

 

「今は新しい人生をスタートしようとしているところです。霊幻先生に倣って超能力を社会のために使う道を探しています」

 

「しかし組織は裏切り者を許さねぇ」

 

「いつか襲ってくるだろうとは思っていたが対応は存外早かったな」

 

「各個同時多発的に襲撃が成された……そして直感した。本部に対抗するにはこちらにもリーダーが必要だと」

 

「そしてこいつらが俺の元に集まったわけだ」

 

フフンと胸張って威張る霊幻に「お前ちょっと黙ってろ」エクボは冷ややかな目で突っ込むも、他の超能力者は違っていた。

 

「テレビやマスコミを翻弄する霊幻先生を見て天才だと思った」

 

そう邑機が霊幻を評価したのを皮切りに

 

「物事を大局的に見極め動かすことができる男だ」

 

など口々に霊幻を持ち上げる発言があがる。

 

[不安だ~こいつら・・・]

 

という顔してるなこの悪霊。

いや確かに戦力的には頼りないけどさあ。

 

「テルさんは大丈夫なんですかね……」

 

「ああ。さっきメールがあって大丈夫だって」

 

星野の心配に対しさらっと答える黒崎。

俺にもメール届いた。

なんか顔面ボコボコで腫れ上がってる「爪」の構成員と思われる男と笑顔でピースサインしてるテルの写メ付きで。

……テルって結構ヤンチャなんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、送信完了」

 

携帯を操作し、満足げに花沢は頷く。

 

「それにしても凄いな……影山くんは当たり前として、第七支部の人たちもいるのか……流石霊幻さん。彼らを仲間に引き入れるなんて」

 

よっこいしょと男を担ぎ上げ、念動力を発動させ駆け出す。

仲間が待ってる隠れ家まで。

楽しげに鼻歌を歌いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テルからメール届いて○分後。

 

「や。みんな大集合だね」

 

モブに続いてテルもやってきた。

「爪」の構成員というお土産付きで。

 

「馬鹿め!何をしようと俺から情報を得ることは不可能だ!」

 

と、最初は威勢良かった構成員だが。

 

ガポガポガポー……。

 

「ボ……ボスは強力な超能力者をスカウトするために世界を回っていたんだがついに必要な戦士が揃ったと言ったんだ~!」

 

尋問[という名の拷問]に屈し、構成員はあっさり自白した。

テルが水責めに凄い手慣れてる感あるが、気にしないでおこう。

しかし世界征服のため、世界中から超能力者集める……なーんか聞いたことある話だなあ。

 

「お前らまさかこの話聞いてもまだ我々に刃向かう……」

 

「どうします?霊幻先生」

 

「フン。黙ってるわけにもいかないだろう」

 

なおも喚き散らす「爪」の構成員を威厳たっぷりで見下ろしながら男の処遇を決めた。

 

「警察に通報しよう」

 

 

 

 

集めた強い戦士とやらがどんな超能力者か、また程度の実力かどうかわからんが、”俺”クラスの超能力者じゃない限り、この国の戦力、警察 自衛隊で十分制圧できる。

弱い俺たちは、安全なこのシェルターで、事態が収まるまで身を潜めるのが一番だ。

 

 

霊幻がそんなことを考えてるとは露知らず。

 

 

「本部の奴等はなかなか攻めてこないな…」

 

「こっちから乗り込むにしてもこの人数じゃな」

 

「僕と影山君がいれば千人力だよ」

 

「どっちにしろあの子が起きてからだね」

 

 

他の超能力者たちは爪と戦う気満々だった。

密裏が用意したご馳走に皆が舌鼓を打ってるとき。

 

 

”我々は超能力者結社・爪である。今超能力で電波を支配している。これは我々のほんの一部に過ぎない”

 

”我々の力はあらゆる兵器にも勝る。下手な抵抗はしない方がいいと忠告しておく”

 

”我々は超能力で世界を征服し全ての無能力者を支配下に置くつもりだ”

 

”その第一手としてまずはこの国を解体する!新しい世界が始まるのだ。楽しみにしているがいい”

 

 

 

 

 

という、「爪」のボスによる世界征服宣言がテレビ生中継されたのだがーー

 

 

 

「ローストビーフばっかり食うなよモヒカン!一人三枚までだからな!」

 

「霊幻先生に謝れ誇山!」

 

「うるせぇなおい!」

 

 

テレビをつけてなかった霊幻と愉快な仲間たちは、その放送を見逃すのだったーー

 

 

 

→[続く]

 

 

 

 

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