弱くてニューゲーム   作:双子うさぎ

7 / 8
ある詐欺師の話【下】②

 

 

ーーこれは夢だ。

彼と会話した前世の記憶。

 

 

 

 

”何故あのようなことを?電波ジャックして全世界に向けて世界征服宣言など”

 

”一回目は地味すぎたからその反省”

 

”一回目?”

 

”○日前に全人類の精神支配して洗脳した”

 

”……”

 

”誰も気づいてないし、空しくなってすぐ解除したけど。やっぱりこういうのはさ”

 

 

 

”派手にやった方が面白いだろ?”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ああ。

 

世界は理不尽で満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煌びやかな装飾で飾られた大ホール。

贅の限りをつくした豪奢な空間には、大勢の人間が埋め尽くしており、集まってる人全てがその場に跪き頭を垂れている。

老若男女、一見共通点がないように見えるが、この空間にいる者だけが気づくだろう。

ここにいる全員が”超能力者”であることを。

そして”超能力者”なら理解するだろう。

玉座から傲慢な態度で彼らを見下ろす”俺”がこの中で最も強く圧倒的な力を持つ存在であることに。

何これ。

なお床にひざまづいてる連中全員、肩パット付きのマントで黒ずくめの格好している。

誰だこんな痛々しい厨二スタイルさせたの。

 

””超能力最高!霊幻様万歳!!””

 

バカの一つ覚えのごとく、同じことを何度も何度も繰り返し叫び続けてる。

マジで何だよこれ。

ラリってる奴らをよくよく見てみると、ひれ伏してる連中の中に知ってる顔が混じってた。

覚醒ラボの子供たち、元第七支部メンバーなどなど。

どいつもこいつもどっぷり洗脳されたがごとく、明らかにイッちゃってる様子で俺や超能力を礼讃している。

 

””霊幻様! 霊幻様! 霊幻様!””

 

 

ドドドンドドドンーー

 

 

彼らの叫びに合わせてどこかで太鼓が鳴ってる。

そしていつの間にか部屋の壁は大スクリーンになっており、映像が流れていた。

”俺”が前世でしでかした”黒歴史”の数々が。

 

生まれ持った超能力を自制することなく好き放題やりたい放題に使い、社会の役に立つどころか、何度も世界を破壊し人類を滅ぼしかけた最低最悪のーー

 

ーーろくでなしの人生記録。

 

 

 

目を閉じようにも、瞼が下りない。

耳を塞ごうにも、手が動かない。

全身蝋で固められたように、身じろぎ一つできず、ただただ玉座に座り続けていた。

前世の所業を延々と見せつけられる。

 

ドドドンドドドンーー

 

 

太鼓の音は鳴り止まない。

そしてーー

 

”……”

 

いつの間にか大広間にはモブがいた。

床に這い蹲ってる狂信者たちと違い、一人だけいつもと変わらない黒い学ラン姿で、部屋の隅に突っ立っている。

 

”……”

 

無言のままモブは見ていた。

大スクリーンに映ってる”俺”がやってきた所行の数々を。

 

違う、違うんだモブ!頼む見ないでくれ!俺はーー

 

 

あらん限りの声で叫んだつもりでも、俺の口元は愉快そうに笑みの形をつくったまま、ぴくりとも動かない。

 

 

ドドドンドドドンーー

 

 

唐突にスクリーンの電源が切れ、ただの壁に戻る。

 

 

”師匠”

 

 

ドドドンドドドンーー

 

 

 

こちらへ振り返ったモブの顔は。

 

”何やってんだアンタ”

 

真っ黒に塗りつぶされていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ーー!」

 

バネが弾けるようにベッドから飛び起きる。

目に飛び込んだのは、ホテルのごとくシンプルにまとまった一人部屋。

俺のアパートじゃない?

ああ、そうだ、今は密裏の隠れ家にいるんだった。

急に起きたためなのか、夢の内容はすっ飛んでおりほとんど覚えてない。

最後にモブが出てきたような?

いったいどんな夢だったのか気になるところだが、今の俺は予知夢も見れなくなった無能力者。

特に意味のない夢だろうし、忘れたままでもいっか。

なぜか太鼓がずっと鳴り続けてたのだけは覚えてるけど……て、あれ?

 

ドドドンドドドンーー

 

まだ太鼓の音が鳴ってる。

いやこれは太鼓じゃない。

 

ドドドンドドドンーー

 

ドアのノック音だ。

叩く音は鳴り止むどころか一層激しくなっていく。

 

「何だようるっせえな……」

 

頭に寝癖つけたまま、不機嫌オーラ全開でドアを開く。

騒音の犯人は邑機だった。

こちらが文句を言うより先に、邑機は血相変えて叫ぶ。

 

「霊幻先生、大変です!至急ロビーにきてください!」

 

 

 

 

 

 

 

ロビーには既に人が集まっており、全員真剣な顔でテレビを見ていた。

なんだなんだ、「爪」が起こしたテロ騒ぎの件がニュースで流されてるのか?

全員の視線を辿るように霊幻はテレビへ目を向ける。

テレビには壮年男性が傲岸不遜な態度で朗々と演説する姿が映っていた。

 

 

”我々は超能力者結社・爪である。今超能力で電波を支配している。これは我々のほんの一部に過ぎない”

 

”我々の力はあらゆる兵器にも勝る。下手な抵抗はしない方がいいと忠告しておく”

 

”我々は超能力で世界を征服し全ての無能力者を支配下に置くつもりだ”

 

”その第一手としてまずはこの国を解体する!新しい世界が始まるのだ。楽しみにしているがいい”

 

 

男がそう高らかに宣言した直後、映像は途切れ終了する。

 

”ーー以上の映像は昨晩の○時に流れたものですが、政府の見解によればーー”

 

テレビの中でアナウンサーがニュースを読み上げ、そのニュースに対し専門家やコメンテーターが意見を言い合ってるスタジオの様子が流れていた。

 

「何コレ?」

 

状況がイマイチ掴めてない霊幻に、隣にいた花沢が険しい顔で説明する。

 

「「爪」が電波ジャックして”世界征服宣言”をしました。どの報道番組もこのニュースばかりです」

 

「……マジで?」

 

超能力で世界侵略するとか、”俺”以外にやるやつなんていたのかよ。

本当にコレ、現実で起こってる?

念のため自分の頬を摘み、思い切り引っ張って確認する。

捻った頬は痛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

弱くてニューゲーム4・下②

 

 

 

 

 

 

 

 

前代未聞の電波ジャック&謎の超能力者集団による世界征服宣言。

テレビや新聞はもちろん、ネットでもこの話題でもちきりだった。

……これだけインパクトあるニュースなら、俺のことなど世間様も忘れるだろう。

 

やったぜ。

 

と、ほくそ笑んでる場合じゃねぇ。

口元を引き締め、ごほんと咳払いをする。

 

「確認だが……あの男が”爪”のボスってのは間違いないな?」

 

霊幻の問いに対し、かつて「爪」に所属してた桜威が答える。

 

「ああ。俺たちは直接ボスと戦ったから見間違いようもない」

 

桜威の言葉に、他の元爪メンバーたちが一様に頷く。

いい年した大人が仮面も覆面なしでそのままテレビで世界征服宣言するとかこいつの身内可哀想。

子供とかグレて反抗期まっしぐらだろ。

”俺”みたいに正体不明の方がかっこいいと思って、世界征服宣言は別のやつにやらせて顔出ししないのが正しい判断……正しいも何も世界征服してる時点でアウトだった。いやそれより気になるワードが聞こえたんだが。

 

「ボスと戦った?」

 

一体どういうことだよ。

 

「「爪」のルールだ。超能力者はボスと戦う機会が与えられ、ボスに勝利すればトップ交代だ。ただし敗者はボスの手によって俺たちみたいに”傷”をつけられるがな」

 

なるほど。顔の傷はそういうことだったのか。

 

「今のボスは交代したやつ?」

 

「……いや。「爪」を創設して以来ずっと「ボス」は「ボス」のままだ」

 

今まで誰もボスに勝利した奴はいない。

苦々しげな表情でそう告げる桜威。

へえ。ボスは他の超能力者と比べて飛び抜けて強いのか。

わざわざ自分と戦わせるくらいだ。

よほど自分の力に自信があるのだろう。

……フッ。俺が無能力者で命拾いしたな爪のボス。

昔の俺だったら強いやつと戦える!と嬉々としてカチコミ行って「爪」の乗っ取りしてたぞ。まあ今なら超能力持っててもやらないけど。

世界征服、かっこ悪い。

再度テレビに映ってるボスの顔を見る。

高級スーツを違和感なく着こなした奴はまさにTHE・エリート。

 

 

 

 

こいつーー

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の直感[NOT超能力]が告げている。

 

 

 

 

 

 

こいつーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

性格悪いな!![決めつけ]

 

 

 

”俺”と同じ匂いがプンプンするから間違いない。

何より俺のシックスセンス[NOT超能力]が囁いてる。

こいつと会ったが最後、物理的にも精神的にも俺は死ぬ、と。

 

ぜっったい関わりたくねえ!!

 

「まさか「爪」がテレビ乗っ取って「世界征服宣言」するとは」

 

「次はいったい何するのか」

 

「くそ、次に奴らが何するのかわかれば、こっちも対策が練れるってーのに」

 

と、その場にいた全員が「爪」の次なる行動が読めず困り果ててる中。

 

「”世界征服宣言”したら、次にやるのはやっぱ”アレ”じゃね?」

 

霊幻だけは違っていた。

そう、ここにいる者たちのなかで唯一霊幻だけは彼らの行動を理解し先読みできる。

”霊幻新隆”は”世界征服”経験があるのだから。

 

「大勢の人間に自分たちの力を誇示できて、なおかつこの国の根幹を揺るがすシンプルで効果的なやり方」

 

近くのテーブルに置いてあったテレビのリモコンをひょいと持ち上げ、めまぐるしく番組を変えていく。

組織での”世界征服”には直接関与してなかったが、千里眼と側近の部下からの定期報告で知っていた。

”世界征服宣言”した後、彼らが次にやった行動を。

料理番組、ドラマ、ワイドショー、天気予報。

どれも素通りしさらにチャンネルを変え続ける。

そしてーー

ある番組に変わった瞬間、リモコン動かしてた霊幻の手がピタっと手が止まる。

その番組とは”女性の社会進出を考える”をテーマにした講演会で、講師として総理大臣が呼ばれていた。壇上で”これからの日本経済には女性の力が云々”と演説しており、テレビ画面の右上端には「LIVE」の文字が浮かんでる。

至って普通の講演番組だった。

 

「初めまして総理。私夕べ世界征服を宣言した爪の一員です」

 

前触れもなく突然見知らぬ男が壇上に姿を現し。

 

「本日は総理を誘拐しに参りました」

 

その場にいる全員に向かって総理誘拐宣言するまでは。

 

「ビンゴ」

 

予想は的中した。

テレビ放送中に乱入し総理や大統領を誘拐したり暗殺するのは「世界征服」の様式美みたいなもんだよな。

漫画にもそんなシーンあったし。

テレビでは謎の男がSPの攻撃をひょいひょいといとも簡単に避けていく光景が流れる。

男の目はずっと閉じられており、たまに目が開いても、その瞳は普通でないため、おそらく視力がないのだろう。

それにも関わらず、SPたちの攻撃を回避できている理由は至って簡単。

奴は周囲のものを感知し先読みする力を持ってる。

そしてわかったことがもう一つ。

 

この男ーーテレポーターだ。

 

伊達に前世で超能力極めてない。

男があの場に突如出現したのがテレポートによるものだと瞬時に看破した。

テレポート。

車や飛行機といった交通機関を一度も利用しなかったくらい、前世では使いまくってお世話になった超能力である。

テレポート、マジ便利。

モブも瞬間移動使えてたら、特殊技能ってことで時給アップも検討したんだけどなあ。

あ、男と総理消えた。

完全他人事で誘拐劇を見てた霊幻とは対照的に。

 

「「「!!」」」

 

テレビで総理と男の姿が消えた直後、超能力者たち全員が何かに気づいたように反応する。

 

「近い!」

 

最初に動いたのは花沢だった。

念動力を発動させ、瞬時に外へ飛び出していく。

近い?

ああ、なるほど。あの男が飛んだ先、たまたま俺たちのいる隠れ家に近い地点だったのか。

て、いやこれマズいだろ?!

 

「誇山、桜威、テルを連れ戻せ!」

 

テルがあの男と戦闘始める前に!

奴は感知&先読み能力と瞬間移動を駆使する近接戦闘タイプ。

 

「早く!テルが殺られる!!」

 

並の超能力者にとって奴は初見殺し。対策なしで勝てる相手ではない。

 

「あ、ああ」

 

霊幻のただならぬ剣幕に圧され、誇山と桜威は花沢の後を追っていく。

 

「槌田、邑機、寺蛇も行ってくれ!こっちの人数が多ければ奴の方から撤退する!」

 

男の目的は「総理大臣の誘拐」。不必要な戦闘は避けるはずだ。

 

「残りはあいつらが帰ってくるまでここで待機!絶対外に出るな!!」

 

下手すれば総理大臣と一緒にそのまま誘拐される危険がある。

それだけは避けなければ。

 

 

 

 

 

 

○分後、桜威たちがボロボロ状態のテルを抱えて帰ってきた。

遅かったか。

 

「「「テルさん!」」」

 

気を失ってるテルの元へ子供たちが心配そうな顔で駆け寄っていく。

みた感じ、テルの体は五体満足揃って大きな外傷はなし。

本気で戦わなかったのか、もしくはあの能力者が感知、回避に特化してて、身体能力自体は普通の人間レベルだったのか。

どちらにせよ助かった。

 

「テルをそこのソファに寝かせてくれ。密裏、救急箱」

 

そう霊幻は密裏に指示しつつ、テキパキと花沢の容体を確認していく。

 

「骨と神経に異常なし、怪我は打撲……テルならすぐ完治するな」

 

超能力者は人よりも自己治癒力が高い。

 

「体の怪我はそれくらいか。後は……熱出てるな……」

 

「持ってきたよ」

 

「サンキュー。えーっとあれは……あったあった」

 

ぺたり。

 

「これでよし。しばらく休ませたら復活する」

 

花沢の額に冷えピタ貼った霊幻は、そばで心配げに治療を見守ってた子供たちに説明する。

 

「よかった……」

 

黒崎が安堵の息を漏らし、他の子らもまた同じく胸をなで下ろす。

全く、友達を心配させるとは。

テルのやつ、後で説教だな。

きゅるるー……。

と、その前に何か食おう。食える時に食わねば後々後悔する。

他の連中にも声かけようとするも、子供たちはテルのそばに付き添ってその場から動く気配がなく、一方大人組も険しい顔で何やら話し合ってて、とても気軽に飯を誘えそうにない。

仕方ない、一人で食うか。

昨日は肉ばっか食ってたし、麺が食いたいな。

パスタ、うどん、ラーメン、よしラーメンにしよう。

すぐ食べられるカップ麺で決まりだ。

後は任せたと密裏に花沢を預け、霊幻は歩き出す。

厨房へ向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たっぷりお湯を注いだカップ麺携えて戻ってきた時にはすでにテルは目を覚ましていた。

さすがピッチピチの中学生、回復が早いな。

ソファに腰掛けてる花沢の姿を遠目で確認した後、霊幻は皆の輪から外れた場所、バーカウンターの一席に座る。

選んだカップ麺はスタンダートの塩味。

目の前のカップ麺をじーっと見つめ今か今かと待つ霊幻の姿からは、緊張感というものがまるで感じられない。

本来なら実力ナンバー2である花沢の敗北は由々しき事態だというのに。

 

霊幻 やる気 0%。

 

一方霊幻を除くメンバーたちは。

 

「「「……」」」

 

完全お通夜状態だった。

”超能力組織・爪が調味文化タワーに踏み込み立てこもったとの情報が入ってきました”

話す者は誰もおらず、ただテレビの音声だけが部屋にむなしく響いてる。

緊迫した様子で実況するアナウンサーの声に被さるように、プロペラが回る旋回音が耳障りに響く。

ヘリから撮影された映像は、いつもの調味市の町並みで、平和そのものに見えるのが、よりいっそう不気味さを感じさせた。

 

”豚骨市で連れ去られた矢部総理大臣も同建物に監禁されている可能性があり……”

 

つけっぱなしのテレビから流れる「爪」に関する報道ニュースはどれもこれもよくないものばかりである。

 

「……誘拐実行犯はテレポーター……空間を飛び越える能力者だった」

 

重苦しい空気の中、最初に喋ったのは花沢だった。

神妙な顔で花沢が対峙した男の情報を伝えると、密裏も男に関しての情報をさらに付け加え説明する。

 

「しかも報道によると人の動きを先読みできるらしい!」

 

「なんだ。ずるいね。一人でそんな反則能力併せ持つ者がいるのか」

 

密裏の言葉に槌田は苦々しげな表情で吐き捨てるように言う。

動きを読まれる上に、テレポートで神出鬼没に現れる能力者。

そんなチートな敵といったいどうやって戦えというのだ。

他の能力者たちも槌田と同じ気持ちのようで、全員が全員、難しい顔をしている。

そのテレポーターだけでも厄介だというのに、他にも現代機器を自在に操れる能力者、600の構成員、そして「爪」のボス。

対してこちらの超能力者は10人にも満たさず、頼みの綱である影山茂夫はまだ目を覚ましてない。

さらに追い打ちとばかりに悲報は続く。

 

”臨時ニュースです。先ほど午前○時×分、特殊部隊が突入しましたが作戦は失敗したと政府から発表がありました。調味文化タワー周辺には絶対近づかないでください。テロリスト集団が闊歩しており大変危険です。繰り返します。先ほど午前ーー”

 

険しい顔でニュースを読み上げるアナウンサーの声をBGMに、テレビの映像がヘリの上空映像から、地上映像へと切り替わる。

 

「そんな……」

 

目に飛び込んだ光景に黒崎は息をのむ。

それはあまりにも衝撃的な映像だった。

昨日までは特段異変なかったはずの町並みが、テロリスト集団の手によって変容している。

ピサの斜塔のごとく傾いたビルの壁には無数のヒビが入っており、ほとんどの窓が割れていた。

壊れてるのはビルだけじゃない。

へし折れた電柱、ひっくり返った車、ひしゃげたガードレール。

道路のアスファルトが剥がれ、地下の水道管が破裂したのか、道のあちこちで冠水しており、瓦礫の山ができていた。

 

「なんなんだよこれ……」

 

まるで大地震が襲ったような町の惨状に星野が独り言のように呟く。

念動力者である彼だからこそ、テレビに映ってる光景を信じられずにいた。これら全て”念動力”によって破壊されてるなんて脳が理解を拒んでいる。

 

「俺達じゃどうにもできないよ……」

 

星野の隣で朝日が乾いた笑いをあげる。

いくら訓練で強くなったといっても、自分たちと彼らとでは強さの次元が違う。

 

超能力とはこんなにも凶暴なものなのか。

 

覚醒ラボの超能力者たちが初めて見る”超能力の恐ろしさ”に戦慄を覚える中、桜威は後ろを振り返り問いかける。

 

「どうする霊幻?」

 

先ほどから自分たちの会話に入らず静かな霊幻に。

奴ならこの状況を打破できる起死回生の策を持ってるやもしれない。

そんな期待を込めて、霊幻に話を振ってみる桜威だったが。

 

ずずずー。

 

期待の男は我関せずとばかりに、一人カップ麺を啜っていた。

うん、美味い。

三つ星シェフの豪華なオードブルもいいが、やっぱ食べ慣れてるものが一番だな。

 

「おいおい!カップ麺食ってる場合かよ。当事者意識が低いんじゃないか?」

 

危機意識力がまるで感じられない霊幻に、誇山は顔をしかめて声を荒げるも、怒鳴られた当人は全く意に介さなかった。

持ってた割り箸で誇山をビシっと指さしながら言い返す。

 

「何言ってんだ。当事者じゃないだろ」

 

そもそも前提からして間違ってる。

俺は「爪」と戦うためにここへきたわけじゃないぞ。

 

「俺達はヒーローってわけでもないし危険だ。警察や自衛隊に任せた方が賢明だ」

 

「爪」の連中は本気で世界征服を考えてない。

これから自分たちが支配するはずの町を後先考えず破壊してる点からして奴らの計画性のなさが露呈してる。

連中の目的はただ一つ。

ただ自分たちの力をひけらかして、周りに自慢したいのだ。

新しい玩具を貰って得意げになってる子供のように。

 

”超能力を持ってない人間など生きるに値しない!我々”選ばれた特別な人間”がこの世界を征服し支配すべきなのだ!”

 

”俺”の部下だった”あいつら”のように。

 

いますぐ世界が滅ぶとかいう崖っぷちの状況じゃあるまいし、放っておいても地球は大丈夫だろう。

 

「なんだい!怖気づいたの?」

 

憤慨する無飼に霊幻は冷静な口調で淡々と諭す。

 

「あんなの相手に俺達に何ができるってんだ?」

 

「それは……」

 

無飼自身、理解してるのだろう。

霊幻が言ってることは至極正しく、間違ってないことに。

 

「俺の回答はこれだ。解散!」

 

[モブがいればとも思ったが危なさすぎる]

 

となれば無能力者の俺がとれる行動はただ一つ。

 

[沈静化するまで身を潜めるしかない……]

 

安全第一だ。

仮に「爪」がこの国を支配できても奴らの野望はそこまで。

世界征服など他の国々が黙っていない。

普段いがみあい、仲の悪い国同士でも共通の敵ができれば一致団結する。

どれだけの力を持っていようが所詮人は人。

世界全てを敵に回せば終わる。

 

”俺”みたいに。

……。

 

パキッ。

 

霊幻の握ってた割り箸が折れるも、そのことに気づく者は誰もいなかった。

 

「霊幻さん……でもそれが正しい判断だ」

 

敗北したことがよほど堪えたのか、自信家の花沢には珍しく弱気で霊幻の意見に賛同し、覚醒ラボの超能力者たちもそれに追随するように暗い顔で何も言わない。

その一方で。

 

「あたしは行くよ。逃げ続けるぐらいならこっちから仕掛けてやるさ」

 

無謀と知りつつも、あえてそれを選択する者もいた。

鎚田が言ったのを皮切りに。

 

「僕も行く!」

 

「俺もだ!」

 

無飼や誇山も「爪」への戦いの意志を示す。

誇山の隣にいる桜威も無言で頷き、邑機も彼らと同じだった。

 

「この戦いは自分の存在価値を見出すチャンスなんです」

 

かつて「爪」に所属してた彼らのことだ。

連中と戦うことがこれまで自分たちがしてきたことの罪滅ぼしとも考えてるかもしれない。

そんなのーー死んでしまったら意味ねーのに。

 

「好きにしろ……」

 

連中の決意は固い。

俺がどうこう言ったところで意見を変えないだろう。

これから「爪」は支配地域を広げるため、いくつか部隊を編成して侵攻を始めるはず。

そうなった場合、この隠れ家が「爪」に見つかるのは時間の問題だ。

支部メンバーたちと別れた後は、すぐさまモブたち子供組を連れて安全な場所へ避難しよう。

冷静にこの後の行動を考える霊幻だが、その考えを中断させるように、己の携帯から着信が鳴る。

一体誰からだ?

依頼ではないだろうさすがに。

町が破壊されてるのは悪霊のせいじゃありません、テロリストの仕業です。

 

「もしもし?あ~火災保険の!」

 

電話の相手が保険会社からとわかった瞬間、霊幻は笑顔になる。

もしものときに備えて保険に入ることは大事だ、人生において。

己の生命保険はもちろん、事務所にも保険はかけていた。

今回の火事にバッチリ対応した火災保険に。

毎月高い保険料払った甲斐があった。

調味市で「爪」が暴れてる限り、霊とか相談所の営業再開は難しい。

事務所も燃やされてるし。

会社勤めなら何かと手厚いサポートがあるかもしれないが、”霊とか相談所”は俺が事業主の完全なる自営業。働かなければ収入はゼロである。

そんな中頼りになるのは万一に備えた保険から下りてくる多額の保険金。

これさえあれば暫く仕事しなくても生きていける。

この保険金が俺の生命線、大事な命綱なのに。

 

「……え?出火原因が特定できないと保険金が支払われない?」

 

なん……だと?!

下りた保険金で事務所再建する俺の計画が!

 

「灯油やガスの痕跡がない?当たり前でしょ!超能力ですよ超能力!こんなの初めてだ?知りませんよ!ちょっと待ってくださいよ……何のために保険に……!」

 

必死にこちらの窮状を訴えるも、保険会社も前例がないので無理ですの一点張りで電話は切れた。

 

ツーツーツー

 

無機質な音が受話器越しに聞こえるのみ。

 

……。

 

プッツン。

 

「お前ら……もう戦う意志は固いんだよな?」

 

嫌なときには逃げたっていい。

だがしかし。

 

「気が変わった……要望通り俺が司令塔になってやる!」

 

人生、嫌でもやらねばならないときもある。

保険金がなければ”霊とか相談所”は再建できない。

なんとしても、なんとしても絶対ーー

 

「勝つぞ![そして放火の実行犯を保険会社に突き出してやる!]」

 

霊幻 やる気 100%

 

 

 

 

 

 

 

第三者から見ればこれは奇妙な集まりに見えるだろう。

大人、子供、男、女、超能力者、無能力者。

一見何の共通点もない彼ら彼女らが雁首を揃え、真剣な顔でテーブルの上に広げられた地図をのぞき込む。

霊幻は手に持ってるマジックの底で地図のとある部分をコンコンと叩く。

 

「まずはおさらいだ。敵の本拠地は調味文化タワー。ボスはタワーの頂上、展望台にいると推測される。そして」

 

黒マジックで地図に記載されてる調味文化タワーの文字に丸く印をつけ、その丸よりさらに大きな円をぐるりと描く。

 

「タワーの周辺は爪の構成員たちが常時巡回していて、容易に近づくことはできない」

 

円の縁に、小さな×を連続で書き込む。

 

「敵はこいつらだけじゃない。テレビの電波ジャックし報道ヘリや電子機器に干渉できる能力者に、テルが戦ったテレポーター。他に何人か厄介な能力者がいる可能性もある。さらにボスの詳しい能力は不明、と」

 

あらためて口に出して言うと、えげつない戦力差である。

 

「一点集中でこいつらの包囲網を突破してタワーまで一気に攻めるのは?」

 

槌田の提案に花沢が首を横に振る。

 

「突破に時間かかれば増援がきてしまう。そうなったら終わりだよ。僕たちの戦力じゃタワーに到着するまで全滅は確実だ」

 

仮にタワーまでどり着けたとしても、その頃には皆、力を使い果たしてボスと戦える状態ではないだろう。

 

「だったらやることは決まってるじゃねーか」

 

声を上げたのは寺蛇だった。

 

「やること?なんだよそれ」

 

訝しげに聞く誇山にニタアと悪人全開の笑みで答える。

 

「奇襲だ」

 

クックックッと寺蛇の不気味な笑い声がその場に響き渡った。

 

「二手に分かれて、一方が陽動で引きつけてるうち、残った方が奴らの背後から不意打ちで奇襲し挟み撃ちで仕留める。どうだ?いい作戦だろ?」

 

俺様を褒め称えろとふんぞり返る寺蛇に、桜威が感心しきりに声をあげる。

 

「……なるほど。フッ、流石だな寺蛇。卑怯で姑息な手を考えさせたらお前の右に出る者はいまい」

 

「おい」

 

「まあ基本方針はそれだな。戦力差がある以上奇襲は必須だ。ただし奇襲する対象は”タワーを警護する連中”じゃなく」

 

トントンと調味文化タワーの文字を叩いた後、大きく×をつけた。

 

「タワーにいるボスだ。直接「爪」の本陣を叩く」

 

霊幻の宣言にどよめきが走る。

 

「正気か?そもそもどうやってタワーへ侵入する気だ。タワーの周囲区域は国の特殊部隊も退ける鉄壁の守りだぞ」

 

「地上はな。攻めるのはーー地下だ」

 

上空から全員一斉攻撃という手も考えたが、空中飛行できるのはテルしかいないからなあ……。

 

「前に下水の除霊仕事請け負って、地下に潜り込んだことあるが、複雑に入り組んでて担当のガイドと地図なしじゃ確実に迷う。おそらく連中も完全に掌握してない。地上より警備は薄いはずだ」

 

「でもそれは僕たちも同じじゃないかい?ここに用意してる地図は全部普通の周辺マップだし、誰も地下の構造なんて知らないよ?」

 

いくら手薄といっても、中で迷って時間かかってしまうなら意味がない。

密裏の指摘に霊幻は軽く頷き同意する。

 

「確かに俺たちも下水の経路は知らない。でも」

 

ニヤリと口の端をあげて霊幻は笑った。

 

「正しい道を選ぶことはできる」

 

霊幻の言葉を聞いて、朝日があっと何か気づいたように声をあげた。

 

「……!そうか、黒崎さんの超直感!」

 

皆の視線が一気に黒崎へ集まる。

 

「わ、私、ですか?」

 

突然注目され、困惑を隠せないでいる黒崎に霊幻は「黒崎」と名前を呼ぶ。

彼女の目をまっすぐ見据えて。

 

「地下に入ったら地図も目印もない。黒崎、お前の超直感だけが頼りになる」

 

本来なら黒崎をはじめ、子供たちには安全な場所へ避難してもらい、「爪」との戦いは大人組だけで仕掛けたいというのが霊幻の本音だった。

しかしこの作戦は黒崎の超直感がなければ成功しない。

苦渋の判断だった。

 

「嫌ならちゃんと拒否してくれ。相手は危険なテロリスト集団だ。怖い思いをするかもしれない。嫌なときは逃げたって」

 

「やります!」

 

霊幻の言葉を途中で遮り、黒崎はハッキリと自分の意志を伝えた。

強い覚悟のこもった声で。

毎日コツコツ自分の直感力の精度をあげる努力をしてきた。

町を破壊した超能力者たちと戦うなんて怖いけど、一人で戦うわけじゃない。

私の力で皆を助けてみせる!

意気込む彼女の肩をポンと誰かが叩く。

 

「黒崎さんならやれるよ。あれだけ一緒に訓練してきたんだ。君の力は依然と比べものにならないくらい成長してる」

 

肩を叩いたのは花沢だった。

僕が保証するよと、黒崎に満面の笑みを向ける。

間近で見るイケメンの爽やか笑顔に、黒崎の顔はみるみる間に赤く染まっていく。

 

「は、はい。頑張ります……!」

 

[[お、面白くねえ……]]

 

何やらいい雰囲気の花沢と黒崎の二人をムスっとした表情で遠巻きで眺める朝日と星野。

わかるよ。おまえらの気持ち。

その怒りパワーは是非とも「爪」との戦いにぶつけてくれ。

 

「チームを二つに分けるぞ。地上で敵の陽動を担当するチーム、地下からタワーへ侵入しボスを討ち取るチームだな。陽動係は地上で派手に暴れて敵をひきつける。暴れるといっても敵と直接戦う必要はない。何か連中の目をひくものーー」

 

視線を宙にやり、考える霊幻に邑機はおずおずと意見を出す。

 

「俺の分身みたく、車を何台か飛ばして攪乱するのはどうでしょう?」

 

「それいいな!よし採用。この中でサイコキネシス使えるのは……テルと星野か」

 

「すみません霊幻先生、車浮かせるのは俺、ちょっと無理です……」

 

「と、なると実行者は僕一人になるね。車を複数飛ばす、か」

 

花沢の眉間に皺が寄る。

車という大きな物体を浮かせるには、相当のエネルギーを消費する。

しかもただ浮かせるだけではない。中に人がいるよう上手くコントロールしなければならないのだ。繊細なコントロール、集中力、スタミナが要求される。

 

「難しいか?」

 

無理そうなら他の案考えるぞ?と気遣う霊幻に、花沢は静かに首を横に振る。

 

「……いえ、なんとかやってみます」

 

難しいミッションだが霊幻さんが与えてくれた名誉挽回のチャンス、必ず期待に応えてみせる!

 

「……フン、仕方ねえ。おい小僧。一人じゃ大変だろ?俺も手伝ってやる」

 

ありがたく思えよと寺蛇が尊大な態度で花沢に声をかける。

寺蛇の申し出に花沢は

 

「………………ありがとう。助かるよ」

 

「おい!台詞と顔が全然マッチしてねーぞ!」

 

完全な棒読みで寺蛇に対し嫌そうな顔を隠そうともせず、そう言い切ったのだった。

一体何やったらテルにここまで嫌われるんだよ。

地上班はテルと寺蛇の二人か。残りのメンバーは……。

 

「星野、朝日もテルのサポートに回ってくれ。それと白鳥弟も。白鳥兄は黒崎と同じ地下班だな」

 

白鳥兄弟はテレパシストの双子。

離れていても互いの居場所を把握することができる能力は、生きたGPS機能である。

敵の能力によって携帯使えないこの状況下では非常に役立つ。

 

「残り全員も地下チームだ。地下班に戦力を集中させる。チーム分けは以上だ。何か意見あるやつはいるか?ないならこれで決定だ」

 

霊幻の決めた人選に異を唱える者は誰もおらず、全員、真剣な表情で大きく頷き了承した。

自分の命を犠牲にしてでも、この戦い勝ってみせる。

そんな気持ちを込めて。

だがそんな彼らに対し、霊幻は予想外の言葉を口にした。

 

絶対に死ぬな、死ぬくらいなら負けて帰ってこいと。

 

司令塔にあるまじき発言に皆が困惑する中、霊幻は吐き捨てるように言う。

誰かの犠牲で得た勝利の価値なんて糞以下だ、と。

 

「俺たちは正義のヒーローじゃない。ちょっと超能力が使えるだけの一般市民だってことを忘れるな。命を賭けて町を救う使命も「爪」を倒す義務もない。無様でかっこ悪くてもいい、生き残ることを第一に考えろ」

 

金は大事だが人命最優先。保険金は別方向でむしり取る。

 

「死んだら負け、何もかも終わりだ。来世があると思うなよ!!」

 

……もしこの場に霊幻の事情を知る者がいたらこう突っ込むだろう。

 

 

 

 

 

記憶ありで転生したやつが何言ってんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦開始○分前。

ロビーには全員集まっており、各々準備を済ませ用意万端。

そんな彼らの前に霊幻は作戦内容を口に出し、最後の確認を行う。

 

「いいか。車には誰も乗るな。作戦の第一段階は敵陣営の攪乱だ。それがデコイだと気づかれるまでなるべく時間を稼いで陽動しろ。その後の行動はテル、お前に一任する」

 

合流が望ましいが、無理に戦おうと思わなくていいからなと、花沢に釘をさしつつ、皆の顔を見渡しながら言葉を続ける。

 

「地上はあくまで陽動だ。下水から本陣に接近しボスを倒す。統率を失えば一人一人は大した脅威にならんだろう」

 

「爪」の連中が好き勝手に暴れてるのは、「ボス」という大きな後ろ盾があるからこそ。

虎の威を借りる狐でしかない。

 

「連中は超能力の万能感に酔いしれて、思考がおざなりになってる。それがあいつらの弱点だ」

 

バンッと勢いよくそばの壁を叩きながら、霊幻は叫んだ。

仲間たちの士気を鼓舞するように。

 

「どれだけ強力な超能力者も所詮人間だ!意識外からの攻撃に弱い、どんな手を使ってもいいから隙をつけ!!」

 

弱者には弱者なりの戦い方がある。

 

巨大な象相手に蟻は無力かもしれない。

だがしかし。

蟻に急所を噛まれたら象だって痛い。

簡単に踏み潰せると思うなよ。

 

 

 

「作戦開始!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超能力者たちがいなくなり、がらんどうになった隠れ家。

残ってるのは密裏と今も眠り続けてる茂夫、そして。

 

「つーか、お前はここにいていいのか?」

 

霊幻の3人だけだった。

眠ってる茂夫のそばで、霊幻は暇そうにあくびしている。

 

「俺が行ってどうするんだよ。それにモブが起きた時に状況説明できる人間が傍にいた方がいいだろ」

 

「とかいって、ここに残ったのは自分一人だけ安全に逃げるためじゃねーの?」

 

悪霊の煽りに霊幻はムッと顔をしかめる。

 

「バカ言うな。モブが起きたら一緒にタワーまで行くつもりだ」

 

この状況で一人だけ逃げるなんて、俺はそこまで人でなしじゃない。

 

「それにしてもこいつ本当にずっと寝たきりだな」

 

寝る子は育つと言うがちょっと寝過ぎじゃねーか?

 

「疲れてた程度じゃこんなに寝ないぜ……」

 

……しかしこうも無防備に寝てる顔みてると、落書きの一つでもしたくなるな。

 

「おーい。早く起きないと顔に落書きするぞー」

 

そう言いながら霊幻はツンツンと茂夫の頬を突くも、茂夫が起きる気配が全くなかった。

30分経っても起きなかったら落書きしよう。

 

「このまま待機し続けるってのも暇だな。しりとりでもするかあ?」

 

「アホか。誰がするかそんなもん」

 

「はいエクボの負けー」

 

「この野郎……」

 

など悪霊と愉快な会話してる霊幻の元に、隣の部屋で隠れ家のセキュリティチェックしてたはずの密裏が、息をきらして飛び込んでくる。

 

「霊幻く、先生大変です!防犯システムが侵入者を感知しました!」

 

げ、マジかよ。

素早く茂夫の方へ視線を走らす。

霊幻の瞳に昏々と眠り続けてる茂夫の姿が映り込む。

 

「ど、どうします?!」

 

相手は超能力者、セキュリティ破ってここにたどり着くのも時間の問題だろう。

直接ボスを倒すのがこちらの作戦なのに、先にこっちの司令部が潰されそうというのは皮肉な話である。

とはいえこのまま黙ってやられるわけにはいかない。

 

「慌てるな。こんなこともあろうかと策は練ってある」

 

頭エスパーな連中の思考は手に取るようにわかる。

俺の機転と対応力があれば切り抜けられるはず!

 

「俺に任せとけ!!」

 

自信満々に言い放つ霊幻に密裏は「流石霊幻くん!」と期待100%の目を向けるも、霊幻のことをよーく知ってたエクボは違っていた。

 

[本当に大丈夫かこいつ]

 

霊感も超能力も使えない一般人が超能力者たち相手にどう戦うと言うのだ。

不安しかない。

密裏に隠れるよう指示しつつ、茂夫を背負って身を隠す霊幻を眺めつつ、悪霊はやれやれと言わんばかりにため息をついた。

 

……仕方ねえ。いざとなったら俺様が助けてやるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾重にも張り巡らされた厳重な防犯セキュリティも、超能力の前では無力だった。

「爪」の部隊は念動力で破壊しながらズンズンと奥へ進んでいく。

一同がある部屋に入った途端、ひたりと立ち止まる。

その部屋は厨房だった。

曇り一つなくピカピカに磨かれたシンク台に、ずらりと並んだ調理器具。

 

「間違いない。あの中だ」

 

彼らの視線の先にあるのは業務用冷蔵庫。

冷蔵庫のサイズは大きかったーー中に人が隠れられそうなほどに。

 

「ビビってプルプル震えてんのかぁ?オラァ!出て来いや!」

 

そう叫びながら男たちは、乱暴に冷蔵庫を蹴る。

ガンガンと容赦なく蹴り飛ばし、それに耐えかねたのか冷蔵庫の扉がゆっくりと開いていく

中から現れたのは。

 

「参った。降参するよ」

 

学ランの少年を背負ったスーツ姿の男だった。

 

「俺は超能力者じゃない。感知できるならわかるだろ?」

 

ピリついた空気に気にすることなくスーツ姿の男ーー霊幻は男たちに話し出す。

 

「後ろのこいつは超能力者だが夕べから目を覚まさないんだ……病院に連れて行かせてくれ」

 

頼むお願いだと訴える霊幻に、男たちは不信感を抱いた。

言葉通り、この男からは何も感じない。

しかし超能力者と一緒にいる時点でこの男がただの一般人でないことは明らかである。

 

「怪しいな。何か武器を持ってるんじゃないか?身体検査しろ」

 

「武器なんて持ってないですよ……」

 

「内ポケットにも何か持ってるな?」

 

男の内ポケットの膨らみに目敏く気づいた男たちの一人が指摘するも、指摘された当人は動揺することなく非常に落ち着いた様子で

 

「ああ……香水です。接客業なもんで」

 

ポケットから取り出した香水スプレーを男たちの眼前に突き出し。

 

「いい香りですよ。ほら」

 

プシュッ。

 

彼らの顔に吹き付けた。

霧状に広がったそれを彼らが吸った瞬間、バタバタとその場に倒れ込む。

男たち全員倒れ伏し、立ってるのは霊幻のみ。

フッ、作戦通り。

どうだ見たか俺の本気!と得意げに鼻を鳴らす霊幻の前に、見えないモード[強]で姿を消してたエクボがすうと現れる。

 

「上手くやったな。なんだよソレ」

 

「強烈な眠気を誘う呪いがこもってるらしい。以前あのメガネから拝借したもんだ。こんな形で役に立つとはな……」

 

あのときの俺グッジョブ。

よしこれでここは安全にーー

侵入者たちを眠らせ、気を緩めかけた霊幻の頭上に影ができる。

 

「雑魚かと思ったらやるじゃねぇか。んじゃ次はこの柴田様が相手だ」

 

ぬっと現れたのは身長180近くある霊幻より一回りも二回りも大きい男だった。

やっべ、まだ仲間が残ってた。

しかもなんかすげー強そうなんだが?!

 

[でけぇー……]

 

何食ったらそんなにデカくなるんだ。

こいつも超能力者なのか?誰だよ超能力者はひょろいやつばかりで筋肉ムキムキなやついないとか言ったやつ。

 

「いくぜ」

 

筋肉隆々の腕を天高くあげ、霊幻目掛けて振り下ろそうとしたその瞬間。

 

プシュッ。

 

……バタン。

 

霊幻の噴射した呪いによって柴田はあえなく昏倒した。

 

「強そうだったが馬鹿で助かった……」

 

まさかそのまま突っ込むとは。頭エスパーで脳みそ筋肉だとこうなるのか。

……モブもこうならないよう、筋トレだけじゃなく勉強も頑張るようアドバイスしておこう。またも一人でなんとか切り抜けた霊幻に、エクボは呆れたように突っ込む。

 

「お前の悪運の強さは何なんだ。きっとロクな死に方しねーぞ」

 

既に一回ろくでもない死に方してるから二度目はない![キリッ]……ないよな?

 

「居場所がバレちまったよ。どうするんだ?」

 

「とりあえずタクシー拾って……」

 

皆と合流する。そう霊幻が言いかけたときだった。

呪いの直撃受けたはずの柴田がいつの間にか復活し、仁王立ちしている。

 

「なんだ!?眠ったんじゃないのかよ!」

 

即効性で一度眠らせたら1時間は起きないって聞いてたのに!

 

「てめぇのおかげで覚醒しちまったよバカヤロウ!」

 

そう霊幻に怒鳴る柴田はどう見てもまともな状態ではなかった。

目は白目を剝いており、顔中にピキピキと血管が浮かび上がっている。

霊幻は瞬時に悟った。

あ、コレ無理だわ。俺の弁舌通じないやつ。

下手に刺激したら速攻ミンチにされる。

 

「あ~わかった……今度はマジで降参します……」

 

顔をひきつらせ、アハハと愛想笑いする霊幻。

目を見ながら、そーっと静かに後ろに下がりつつ距離を置いてーー

熊と遭遇した時の対処法を思い出しながら、ゆっくりと後退しかけた時だった。

 

「バカ!逃げろ霊幻!」

 

エクボの叫びとほぼ同時に柴田が動く。

霊幻の顔面めがけて飛んでくる柴田の拳。

顔に直撃コースのパンチだったが、ろくに足下を見ずに後ずさった拍子に霊幻は躓き

よろめいたため、その攻撃は空を切った。

ついさっきまで頭があった場所に柴田の腕が突っ込み、そのまま背後の壁を貫通する。

轟音と共にコンクリート壁にドでかい穴が開き、パラパラと破片と埃が落ちていく。

あ……っぶねえ!俺の頭、パーンと破裂するところだった!

つくづく悪運が強い男である。

しかし危機はまだ去っていない。

霊幻が体勢を崩したせいで、背中に背負ってた茂夫は放り出され、ごろごろ床に転がってしまう。

 

「モブ!」

 

慌てて茂夫を回収しようとする霊幻の前に柴田が立ちはだかる。

 

「サイコステロイド!普段から念心波を筋肉に送り調整しながら筋肉を……」

 

「わかったからそのまま寝てろ」

 

再度スプレーを噴射した。

これだから超能力者ってやつは、すーぐ楽しようとしやがる!

なんだよサイコステロイドって!超能力でズルしてんじゃねーよ!

横着せず普通に筋トレしろ!モブを見習え!

霊幻の内なる声に反応したのかしてないのか。

 

「ーーー!!」

 

確かに呪いは直撃したはずなのに、柴田は昏倒することなく、それどころか獣のような咆哮をあげ大ハッスルしていた。

 

「理性だけ飛んでんじゃねぇかよ」

 

まさかこいつもモブと同じ寝ぼけて超能力暴走させるタイプとは。

話が全く通じそうにない。こうなったら力でねじ伏せて大人しくさせるしか……できるのかこれ?

 

「余計パワーアップしてんじゃねぇかよ!」

 

さらに事態が悪化し、どうすんだこのバカ!と怒鳴るエクボに「うるせー、俺は悪くねえ!」と怒鳴り返す。

とにかくなんとかしないとモブが危ない!

 

「うんざりだが俺がおびき寄せる……って来ないのかよ!」

 

囮となるべくその場から駆け出した霊幻に目をくれることなく、柴田は床に転がってる茂夫目掛けて突進していく。

超能力者に反応してるのか?!

 

「モブ!起きろ!」

 

霊幻の叫びとほぼ同時にバーサーク状態になった柴田が雄叫びをあげながら茂夫に向かって拳を振り下ろす。

ぺしゃんこにされる!

そのときだった。

突如茂夫が覚醒し、まるでアクション俳優のごとくその場から華麗なバク転し、柴田の渾身の一撃をギリギリで回避した。

いや回避だけはない。

柴田の首目掛けて強烈な回し蹴りを食らわし、さらに体を回転させもう一発、同じ場所に拳をたたき込む。

間一髪のところで、エクボが茂夫に憑依したのである。

 

「焦ったがこいつは別に悪霊じゃねぇ!人間だった!」

 

エクボの力で茂夫の体は身体強化されパワーアップしている。

やりすぎた!と一瞬慌てるエクボだったが。

地面に着地する前に、空中で柴田にがしりと足首を掴まれる。

掴まれた箇所からミシリと嫌な音を立てるのをエクボは確かに聞いた。

 

「前言撤回。こいつ人間じゃねぇわ……」

 

ヒク……とエクボ[体は茂夫]の口の端がひくつく。

攻撃が全く効いてないとか悪霊より化け物だろ。

茂夫の足を掴んだままぶんぶんと勢いよく振り回し始める。

 

「やべぇこれ……受け止めろ霊幻ー!」

 

こんな筋肉お化けに全力で壁に投げつけられたらーー最悪の想像が二人の脳裏に浮かぶ。

 

「おう!こっちは男子バレー部仮入部経験者だ。軽く頼む!」

 

受け止めるべく、レシーブの構えをとる霊幻だったが。

 

「ーーー!!」

 

想定してた落下点とは全然違う、霊幻の頭上遙か上へと飛ばされそのまま壁に激突した。

バレー部じゃなくてサッカー部のゴールキーパー体験すべきだった畜生!

 

「エクボ!モ……モブの体は!?」

顔を真っ青にし、うずくまるエクボ[茂夫]の元へ駆け寄る霊幻。

 

「骨折れてないか?!内臓は?!待ってろ、今救急車呼ぶから、そのまま動かず」

 

と普段沈着冷静な霊幻に珍しく、半パニックに陥っていた。

そんな霊幻に対し、エクボは「落ち着け」と宥めつつその場からすくっと立ち上がる。

軽く体を動かし確認し、エクボは大きく息を吐いた。

 

「危ねぇ~……大丈夫そうだ」

 

「ほ、本当に?」

 

「ああ。靴がすっぽ抜けたおかげだ」

 

投げ飛ばされる寸前、偶然茂夫の靴が脱げたおかげで、激突の勢いが弱まったらしい。

 

「だが今ので確信した!この勝負100%勝てん!」

 

くるりと柴田に背を向けてーーエクボは全力で走り出した。

向かった先は壁に開いた大きな穴。

 

「あんなデカブツに捕まってたまるかい!」

 

穴の縁に足をかけ、思い切り跳躍し外へ飛び出す。

柴田もまた獣のような唸り声をあげつつ、豪快に壁をぶち破ってエクボを追っていった。

後のことはエクボに任せるしかない。

死んでもモブを守れよ。

エクボも柴田もいなくなり、その場に一時の平穏が訪れる。

辺りが静かになったことで、それまで戸棚の中に身を隠してた密裏が、ひょっこり顔を出す。

 

「お、終わったかい?」

 

「ひとまずの脅威はなくなった。が、ここに留まるのも危険だな」

 

また連中が襲撃してくるかもしれない。

 

「床に伸びてるこいつらふん縛って、警察に通報しといてくれ。その後ここを離れて安全な場所へ避難するんだ」

 

「霊幻先生は?」

 

「タワーへ向かう。そこでモブやテルたちと合流する」

 

司令塔は司令塔らしく、最後まで作戦に付き合うとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

蟻一匹見逃さない敵の厳戒態勢の中、単身乗り込む霊幻新隆。

敵は超能力を操る危険なテロリスト集団、果たして彼は無事仲間たちと合流できるのか、

霊幻新隆の決死の潜入劇が今始まるーー!!

 

と、いうのを想像していたんだが。

 

「……普通にたどり着いたな」

 

特にドラマティックな展開やスリリングな体験もなく、あっさり目的地付近に到着した。

奴らの警戒対象は国の部隊や自分たち以外の超能力者であって、俺みたいな一般人は完全ノーマークなのだろう。

たまに見つかっても、道に迷った一般人の振りして不意打ちの呪いプッシュ一発で問題なく解決した。[なお霊幻が敵と遭遇しなかったのは、霊幻が無能力者で敵の感知に引っかからなかったのと、花沢たちが敵をあらかた一掃したおかげである]

タワーまであと少し、頑張れ俺。

歩きっぱなし[途中までタクシーで後はずっと歩き]で疲れ出した自分に叱咤しつつ、霊幻は歩き続ける。

タワーに近づくにつれ、町の崩壊がひどくなっていく。

 

「……」

 

破壊された町並みを横目に進む霊幻の顔は歪んでいた。

自分の町を破壊されたことによる怒り?悲しみ?

いやどちらの感情でもない。

内の激情を押さえ込むように、ギリリと歯を食いしばる。

ああ、そうだ。これと同じ光景、”俺”は散々つくってきた。

「爪」の所業を目の当たりにするたび、否応なく突きつけられる。

「爪」は”俺”そのものだと。

ああ、本当に。

 

「……胸くそわりぃ」

 

心底不快だと言わんばかりに舌打ちしつつ、霊幻はタワー目指した。

 

 

 

 

 

 

爆音がどんどん大きく聞こえる。

……俺が到着するまでに、決着ついてますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

霊幻の願いもむなしく、タワー前にたどり着いた時、戦いはまだ終わっていなかった。

いや、正確に言うなら終わりかけていたのだろう。

花沢をはじめとする超能力者たちが軒並み地面に倒れ伏しており、その中で悠然と立っている人物が一人。

 

「フフフ……面白い!はたしてどちらの能力が上か勝負です!」

 

テレビに出てた例のテレポーターである。

彼は不敵な笑みを浮かべ、タワー入り口を陣取って通せんぼうしており。

 

「フフフ!正面から迎え討ってあげましょう!」

 

自信満々に両手を大きく広げ、高らかに宣言していた。

一体どんな状況なのか、きたばっかりの俺にはさっぱりわからんがとりあえず。

 

「正当防衛ラーッシュ!!」

 

厳密に正当防衛と言えるかわからないが、とりあえず正当防衛と叫んでおけば問題ない!!

怒濤のラッシュを全身に受け、男はあえなく吹っ飛んだ。

全部クリーンヒットしたらしい。ラッキー。

テレビじゃ能力者じゃないSPからの攻撃も避けてたが……さてはこいつ、反射速度あげるため、超能力者以外の気配全部遮断してたな?

目が見えないのにそんな博打やるなど愚の骨頂。

大方、自分の脅威になるものは超能力者だけと思いこんだのだろう。

浅はかな奴め!

しかし超能力者とは総じてタフな存在。

もう一回正当防衛ラッシュ追加したいところだが、これ以上は過剰防衛になるか?

いやでも見た感じ、テルたち怪我してるの明らかにこいつの仕業っぽいし……。

 

[思考時間2秒]

 

よし殴ろう!

特に恨みはないが、弱らせておいて損はない。

どっちが悪人なのかわからないようなこと考えながら男ーー島崎に近づこうとする霊幻に、待ったの声がかかる。

 

「師匠。その人かなり強いですよ。危険だから離れてください」

 

このテンションの低い声は。

声のする方へ振り返り、霊幻は軽い調子で声をかけた。

 

「よぉモブ。無事だったか」

 

モブのそばにはエクボも浮かんでいる。

エクボも生き残ってて[?]よかったよかった。

周りでダウンしてたテルたちも満身創痍ながらも続々とその場から起き上がり、こちらに集まってくる。

数的にも戦力的にもこちらが圧倒的有利なこの状況。

さて敵はどう出るか。

自爆は止めろよ。俺が死ぬ。

 

「……やっぱりやめだ。割に合わない。降参します」

 

男が選んだのは徹底抗戦でなく、降伏だった。

まあそれが正しい判断である。

このまま戦闘続行しても、超能力者であるモブたちはともかく、感知できない俺からフルボッコされる未来しか見えない。

 

「お?えらくあっさりしてるな」

 

引き際わきまえてるというか何というか。

 

「世界征服の意気込みはどこ行った?」

 

こいつらが世界征服ガチ勢でなく、エンジョイ勢ってのは端からわかってたけど。

 

「本気なのはボスだけですよ。私は楽しければなんだっていいんです」

 

皆でワイワイ馬鹿騒ぎして楽しむ、それ自体は悪いことではないだろう。

そう。

 

「楽しければいいだって?それで多くの人に迷惑をかけたのか。ふざけるな」

 

誰かに迷惑をかけることさえしなければ。

普段おっとりしてるモブが珍しく語気を荒げ、テレポーターを睨み付ける。

モブにとって奴がやった行為は許しがたいものなのだろう。

超能力で人を傷つけることを何より恐れてるモブにとって。

 

「!」

 

茂夫の怒気に当てられ、島崎は一瞬体をびくつかせーー

 

「逃げやがった!」

 

テレポート使ってその場から姿を消した。

追跡できないのは残念だが、調子乗って痛い目みたわけだし、これからは大人しく生きるだろう。

敵は撤退し、後に残るのは半死半生の超能力者たち。

ある者は地面を這いつくばりながら、またある者は仲間に肩を貸してもらいながらも、続々と霊幻たちの元へ集結していく。

集まった仲間達の中には。

 

「兄さん……」

 

ずっと行方不明だった律もいた。

 

「律!大丈夫?」

 

弟の姿を見つけるや否や、茂夫が駆け寄っていく。

心配そうに声かける兄に律は小さく笑いかける。

 

「うん。父さん母さんも安全な場所にいるよ」

 

「そっか……師匠やエクボの言った通りだ」

 

僕の家族は無事だった!

茂夫の顔から笑みがこぼれ、兄の笑顔につられて弟も笑う。

感動的な兄弟の再会を少し離れたところで見守る悪霊と霊幻。

隣にいる霊幻にエクボはニヤニヤしながら軽口を叩く。

 

「俺様達も肝を冷やしたな!」

 

「黙ってろよ」

 

あのときモブに言った話が実は何の確証もないただの嘘だったなんて、わざわざ暴露する必要なんていない。

これは悪霊と俺、二人だけのーー墓場まで持ってく秘密だ。

 

「さて……残るはラスボスだけだな。星野君たちがみんなを救出してる頃だし合流して突入しよう」

 

敵は強大な力を擁する超能力者。

先ほどの戦いで大分力を消耗してしまったけど、影山くんを主力にして、僕たちがサポートに回ればいけるはず。

そんな花沢の考えに対し。

 

「駄目だよ。みんな怪我だらけじゃないか……僕一人で行くから」

 

茂夫の決断は真逆のものだった。

 

「な……!影山君!何を言ってるんだい!」

 

「爪」の首領と一騎打ちなんて危険すぎる!

花沢の制止する声に同調するように律も声をあげた。

 

「僕も行くよ!仲間が先に突入してるんだ」

 

普段の茂夫なら二人に押し切られる形で不本意でも同行を許していただろう。

だがしかし。

 

「駄目。厳しいこと言うと足手纏いなんだ。ごめん」

 

このときの茂夫は違っていた。

目の前の二人に対し、キッパリと容赦ない言葉を返す。

花沢や律をはじめ、他の超能力者たちも黙り込み、顔を俯かせる。

 

”足手纏い”

 

その言葉が皆の心に深く突き刺さった。

でも言い返すことはできない。

実際その通りなのだから。

それ以上茂夫は何も言うことなく、皆に背中を向けて歩き出した。

「爪」のボスを倒すべく、タワーの中へ。

茂夫がタワーへ入る前に、霊幻は自分の隣に浮かんでた悪霊にこっそり耳打ちする。

 

「エクボ。頼むぞ」

 

「わかってるよ」

 

スーッと緑の人魂が音もなく飛行し、茂夫の後をついていく。

悪霊以外、彼の後を追う者はいなかった。

 

「……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「影山くんを一人で行かせて良かったんだろうか……」

 

夕焼けに染まったタワーを見つめながら花沢がそんな独り言を漏らす。

彼がタワーに突入した時にはまだ日が高く空は青かったというに未だ彼は戻ってこない。

 

「あんなに自分の意志を表に出した兄さんは初めて見た」

 

「僕にはあれが辛そうに見えたよ。元々は先頭に立つタイプじゃないはずだ」

 

さらに茂夫が超能力を人に向けたくないことを花沢はよく知っていた。

そんな彼にボスと戦うという責務を背負わせるなんて。

彼の帰還を待ってる間に下水ではぐれた残りの仲間達や、別の超能力者たちとも合流を果たしていた。さらに幸運なことにレジスタンスを名乗るグループの中には治癒能力が使える者がおり、現在負傷者たちは彼に治療してもらってる状況である。

 

「万全とはいかないけど、ある程度戦えるまでには回復したんだ。僕としてはあともう少しだけ待っても影山くんが戻ってこないようなら突入したいところだけど」

 

大きく息を吐いた後、花沢は意見を仰いだ。

 

「どう思いますか?霊幻さん」

 

静かにタワーを見つめ続ける霊幻に。

 

「……モブは傍から見れば頼りないが強い力をもっている」

 

「バカげた出力の念動力だろ?」

 

誇山の言葉に霊幻はソレは違うと首を横に振る。

 

「そんなものはあいつの持ってる特徴の一つに過ぎない」

 

モブは”俺”みたいに超能力使えるだけの空っぽなやつじゃないんだ。

 

「あいつが本当にすごいのは人に感情を伝えられるところだ。それはどんなに取り繕った言葉より響く」

 

”いい奴だ”

 

あの日、モブが俺に伝えてくれた言葉のように。

口先だけのろくでなしな俺とはまるっきり正反対。

不器用な性格で何事も要領悪くて鈍くさいけど、まっすぐ自分の感情を想いを相手にぶつけることができる。

それがモブの人間味、強さなのだ。

……まあだからこそ、自分の本心じゃない嘘をつくことが苦手で、周りの空気を読むのが壊滅的に下手くそという側面もあるけど。

長所と短所は表裏一体なり。

 

「モブが抱く感情が相手に伝わりさえすれば……あ?」

 

上空から何かがひらひらと降ってくるが見える。

一体何だと目を凝らすと、それは見覚えのある緑色。

 

「どうした!?大丈夫か!?」

 

ぺらっぺらになったエクボだった。

一体何がどうなればペーパーエクボになるんだよ?

いやそれよりも。

 

「モブは?」

 

上から落ちてきたのはエクボだけだった。

 

「わからねぇが結構やばそうだ……敵は躊躇なく茂夫を殺す気だったぞ……」

 

「チッ……!」

 

俺の直感[NOT能力]は当たっていたか。

これだから力に絶対の自信がある超能力者は手に負えない。

他人の命を虫けらのように思ってやがる。

しかしそうなると話が変わってくるな。

いくらモブが自分の感情を伝えることが強みだといっても、肝心の相手が馬耳東風では意味がない。

……やるしかない、な。

 

「さく、メガネ!ちょっといいか?」

 

「あ?いや待て何故言い直した」

 

「アイデンティティは大事だろ?それより」

 

桜威に向かって手を差し出す。

 

「アジトで使ってた豆鉄砲あっただろ?アレ貸してくれ」

 

「豆鉄砲……」

 

己の持つ最大威力の武器を豆鉄砲扱い……。

いや確かにアジトでは全くといっていいほどこの男には効かなかったが。

 

「……後でちゃんと返せよ」

 

貴様には壊されたり没収されたり散々だからなと渋々呪玩エアガンを霊幻に手渡す。

 

「サンキュー」

 

じゃあ、ちょっくら行ってくると、まるで近くのコンビニへ行くような気軽な調子でタワーの中へ入ろうとする霊幻の腕を掴む者がいた。

 

「霊幻さん!アンタ正気か?!」

 

この場にいる超能力者たちの中で唯一霊幻が無能力者だとを知ってる律である。

超能力者でも危険だというのに、何の力もない普通の人が行けばどうなるか火を見るより明らか。自殺行為だ。

行かせまいと強く腕を握る律に、霊幻は小さく笑う。

 

「律」

 

無能力者である俺が行ったところで事態は何も変わらないかもしれない。

それでも行かなければ。

だって俺は。

 

「モブ一人に危険なこと全部任せるなんてーー”師匠”失格だろ?」

 

「霊幻さん……」

 

何か言いたげに口を開くも、律はそれ以上何も言わず、掴んでた手を離した。

 

「心配ありがとな。まあ大丈夫さ」

 

悪運は強い方なんだ。とカラカラ笑いながら、自由になった手でくしゃりと律の髪を撫でた後、霊幻はタワーへ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

皆には散々自分の命を大事にするよう言った癖に、当の本人が特攻覚悟で突っ込むとかダブルスタンダートもいいところだろう。

でもさ。

 

 

 

 

 

二枚舌は詐欺師の特権だろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

町の中央にそびえ立つ調味文化タワー。

塔の展望台から望む調味市の町並みは絶景で、地元民や観光客から愛される観光名所である。調味市に住む者なら一度はこのタワーに登ったことがあるだろう。

休日はもちろん、平日も人が多く賑やかな場所だが、テロリストに占拠されてる現在、辺りに人の姿はなく不気味なまでに静まりかえっていた。

一般人はおろか、「爪」のやつらもいないとか、タワーのセキュリティどうなってんだよ。

ガバガバってレベルじゃねーぞ。

侵入されることを想定してないのか、もしくは容易く返り討ちできると高をくくってるか。

まあこっちとしては楽に潜入できて助かったからいいけど。

一階から途中までエレベーターで昇り、後は展望台まで続く階段を上がるのみ。

破壊音と共にタワー全体が振動するのを感じる。

下手したらこれ、倒壊もあり得るな。

モブを回収したら速やかに撤退しよう。

風穴の開いた壁を通りかけたときだった。

 

「う、上は危険だよ」

 

誰かが霊幻に声をかける。

声のする方へ振り返ると、壊れた壁の近くで男が体育座りしていた。

ボサボサ頭と無精ひげ、さらにどてらの格好をしており、手にはビニール傘を後生大事そうに握っている。

 

「あ。テレビに出てた人だ」

 

霊幻の顔を見て、男が少し驚いたような顔をした。

総理大臣とも会ったし今日はなんか凄い日だと乾いた笑いをあげる男を霊幻は警戒する。

こいつも「爪」の超能力者か?

まずいな。今はモブ救出が最優先、余計な戦闘はしたくない。

速攻で眠らせるか?

懐に忍ばせてる香水スプレーに手を伸ばそうとする霊幻だが、男はその場から立ち上がることなく座り込んだままだった。

 

「テレビでアンタの能力は見た。かなり強い念動力だったけど、社長には勝てない。影山くんだって今頃」

 

モブのこと知ってるのか?

この男とモブの関係性が気になるところだが今は置いておいて。

 

「この先にモブがいるんだな?」

 

霊幻は階段先を見据える、

いつの間にか断続的に続いてた音が止んでいた。

本格的にやべーなこれ。急がなければ。

待ってろよモブ。

今いくからな!

展望台目指してまっしぐらに駆け出す。

 

「殺されるぞ!」

 

背後から聞こえる制止の叫びを無視するように。

 

 

あらゆる攻撃を弾き返すバリアも、全てをなぎ払う力も今の俺にはない。

 

 

まあでもあれだ。

 

人生、死ぬ気でやったらなんとかなるだろ。

 

 

 

 

 

「このガキの師匠を名乗るだけはある。くだらん師弟コンビだ」

 

 

 

 

なんとかならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

階段を駆け上がり、展望台にたどり着いた霊幻がみたものは。

見知らぬ赤髪の少年が床にぐったりと倒れてる姿。

そして。

 

「この程度で私に説教していたのか?冗談だろう」

 

少年と同じく瀕死状態の茂夫の頭を掴みながらせせら笑う「ボス」の姿だった。

 

モブ……!!

 

今ほど力のない自分を恨んだことはない。

でも同時にーー今ほど力がないことに感謝した。

モブの前で人殺しせずに済んだことに。

 

……冷静になれ霊幻新隆。

 

俺の目的はこいつを倒すことでなく時間稼ぎ-ーモブが逃げられる時間をつくることだ。

短絡的に動けば勝機はない。

どうすればモブを助け出せるか。それだけを考えろ。

おもむろに桜威から借りたエアガンを構え、ボスに狙いをつける。

そして。

 

「動くな。弾は入ってるぜ」

 

ボスに銃口を突きつけ、霊幻は宣戦布告した。

突然の乱入者に驚いたのか、霊幻を見た瞬間。

 

「……!」

 

ボスは目を大きく見開くも、すぐに平静な態度に戻る。

 

「桜威の呪玩か。私には脅しにもならんぞ」

 

まあそうだろうな。こんな玩具で勝てるとは思ってない。

あくまでこいつは目眩まし、威嚇用だ。

俺の武器は超能力でも玩具でもない。

 

「し……師匠……」

 

「おう。モブ」

 

よかった。喋れる気力はあるみたいだな。

待ってろよ。すぐ逃がしてやるから。

ボス目掛けて何発も発砲するも、銃弾は全てボスの張ったバリアで全て弾き返される。

くそ、やっぱり効かないか。

 

「お前からは何の力も感じない。引っ込んでいた方が身のためだぞ」

 

ボスは嘲笑しつつも、掴んでた茂夫を足下に投げ捨てる。

うっせえわ。

俺だって本当は引っ込んでいたかったっつーの。

モブを逃がすためにもまずは邪魔なバリアを剥がさねーと。

 

「……おい。生きてるかモブ」

 

床に倒れ伏せてる弟子に、霊幻は声をかける。

 

「お前ひとりで行かせるなんてどうかしてたな。非日常的な状況で思考力が落ちてたみたいだ」

 

黒歴史と対面するのが嫌で、ボスのことはモブに任せて俺は逃げた。

……その結果がこれだ。

 

「師匠として情けない」

 

危うくお前を死なせるところだった。

 

「よく頑張った。帰りにたこ焼きおごってやる」

 

特別にスペシャルトッピング付きだぞ。

 

「後は師匠に任せろ」

 

「……師匠だと?」

 

ボスのこめかみがピクリと痙攣する。

私の力すら見えていないお前が?と嘲笑するボスに対し、大袈裟なまでに肩をすくめてため息をついてみせた。

 

「はぁ……皮肉なもんだ。俺から言わせりゃ見えない力しか見えてない可哀想な奴だよ」

 

本当。昔の俺見てるようだ。

 

「どういう意味だ?」

 

「人が持つ優れた力ってのは超能力だけじゃないってことだよ」

 

「……」

 

今一瞬もの凄い顔したぞこいつ。

どんだけ超能力至上主義なんだ。視野が狭いぞ!

 

「お前を倒す方法もざっと思いつくだけで4通りあるわけしな」

 

「……ほう?試してみるといい」

 

「そんな気はもうない。代わりに俺から頼みが一つ」

 

ニイと口の片端をあげて軽薄に笑ってみせた。

 

「仲間に入れてくれないか?」

 

俺を警戒するまでもない小物に見えるように。

ボスに俺のことを自分が助かるなら何でもやる小悪党だと思わせる。

 

「私に何の得がある?」

 

「そこに倒れてる弟子も外の連中も俺ならうまく説得できる。十分メリットになるだろ」

 

なんなら上手く言いくるめて全員「爪」に引き入れようか?

喋りながらも霊幻は歩き出す。

ボスの元へ向かって。

 

「私を倒す方法とやらも聞いておこう。本当にあるのならな」

 

「超能力以外のあんたの知らない力について教えよう」

 

歩みを止めず、バリアの間合いに入りこむ。

 

「まず一つ目。超能力者が最も警戒すべき人間の力。それは……」

 

バリアは発動しない。そのままボスの懐へ入り込みーー

 

「腕力だよバカ!」

 

ボスの顔目掛けて思い切り殴りかかった。

予備動作もない完全不意をついた奇襲攻撃。

拳はボスの顔に直撃、完璧に決まった、と思ったのに。

目の前のボスは触れた瞬間、形が崩れぶわりと霧散する。

分身?!一体いつの間に?!

唖然とする霊幻の背後から嘲りの声がした。

 

「このガキの師匠を名乗るだけはある。くだらん師弟コンビだ」

 

 

 

 

……ああ。

世界は理不尽で満ちている。

 

 

 

 

 

「私をここまで不快にさせるとは……」

 

ひたひたと霊幻に近づき、壁まで追い詰め逃げ場をなくす。

 

「いやいやあの!だから!話を!やめ……」

 

対話大事!暴力よくない!

必死に説得を試みるも、ボスはそれに反応することなく。

霊幻に向けて手を翳し、高出力のエネルギーを発射した。

 

 

 

 

 

あ、これ死んだわ。

 

 

 

 

 

凄まじい爆発に呑み込まれる中、怒濤のように記憶がフラッシュバックする。

 

 

 

それは今までずっと忘れていたーー

 

 

 

”何故あのようなことを?電波ジャックして全世界に向けて世界征服宣言など”

 

 

 

ーー”俺”が二回目の世界征服を開始した頃の記憶だった。

 

 

 

 

”一回目は地味すぎたからその反省”

 

”一回目?”

 

”○日前に全人類の精神支配して洗脳した”

 

”……”

 

”誰も気づいてないし、空しくなってすぐ解除したけど。やっぱりこういうのはさ”

 

 

愉しげに笑う”俺”は。

 

 

”派手にやった方が面白いだろ?”

 

 

目の前にいる男と同じ目をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

……なあ。一体、何の冗談だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい爆裂音と共に、周囲一帯が炎に包まれる。

高密度なエネルギー攻撃。

直撃すれば超能力者でも無事では済まないだろう。

ましてバリアも張れない普通の人間なら尚更。

何もかも焼きつくされ骨すら残らない。

この場にいた誰もが霊幻の死を確信したときだった。

濛々と立ちこめる煙の中、人影が現れる。

 

「間に合った……今度は俺も勇気を出してみたよ。社長!」

 

階下にいた男ーーボスの部下、芹沢だった。

全力でボスの放った攻撃を受け止めたのだろう。

額に脂汗滲ませながら、骨組みだけしか残っていないボロボロの傘を握りしめている。

その芹沢の背後には呆然とした表情で立ち尽くす霊幻がいた。

 

……マジかよ。

 

いや、今はそれについて考えるべきではない。

グッと握り拳をつくり、混乱する思考を強制的に終了させる。

助けてくれたこいつには悪いが、力の出力で言えばあいつの方が強力だ。

絶望的な状況は変わらない。

 

「芹沢……完全に裏切ったか」

 

自分の前に立ちはだかる芹沢に、ボスは忌々しげに吐き捨てる。

 

「ならばお前も……」

 

冷たい眼差しで芹沢を睨み、後ろにいる霊幻ごと抹殺しようとしたときだった。

 

「……もういい。もう話さなくていい」

 

ボスの背後でゆらりと茂夫が立ち上がる。

それまでの弱々しかった姿とはまるで違う。

口調もまるで別人のように変わっており、顔つきも荒々しいものになっていた。変化はそれだけではない。力が見えない霊幻にも感じることができる。

 

「最後に一つ教えてやる。人の気持ちがわからない奴は……まあいい。たまには怪我して学べ!」

 

茂夫の周りに、膨大なエネルギーが渦巻いてることに。

 

 

モブ 怒り 100%

 

 

「モブがキレた……」

 

時給300円という安すぎるバイト代で散々こき使っても、その300円すら払わず現物支給と称して野菜の種渡しても、女装させて女子校潜入任務など無茶ぶりやらせても、さらにモブの友達を悪く言っても、ついぞ俺にキレることなかった温厚で人畜無害代表みたいなあのモブが!!

……大人しい奴がキレると怖いというのは本当だったな。

 

「芹沢さん。師匠達を連れてここから避難して」

 

危ないからと静かな口調で告げる茂夫のただならぬ迫力に圧されつつ、芹沢が「わ、わかった」と頷いた瞬間だった。

 

「制裁が先だ!」

 

背後の茂夫を無視して、ボスが霊幻たちへ突っ込んでいく。

右手に圧縮したエネルギー弾を作りだし、躊躇いなく人に向かって力を発射した。

 

「!!」

 

すかさず茂夫は霊幻たちの前に高速移動し、皆を守るためにバリアを展開する。

それは非常に強固なバリアで荒れ狂う炎と衝撃波を完全に防ぐ。

しかし強大な力同士のぶつかり合いの余波は凄まじく、霊幻たちはその場に踏みとどまることができなかった。風圧に負けて勢いよく後ろへ吹っ飛ばされてしまう。

塔の外側へ。

風を切る感触、吹き付ける風の音、遙か下に見える地上風景。

ああ。懐かしい感覚だ。

前世ではよく空を飛んでいたなあ……て、現実逃避してる場合じゃない!

今世でもなんとか空飛べないか色々やったけど[台風の日に傘で飛ぼうとした]こんな形で空は飛びたくなかった!飛んでるというより落下してるし!

必死に水泳ならぬ空泳で落下速度を遅らせようと奮闘するも意味は全くなかった。無慈悲にもどんどん地面に近づいていく。

まずいまずい、マジでヤバイって!潰れたトマトエンドは回避したい、誰でもいいからヘルプミー!!

切実なる霊幻の願いが地上に届いたのか。

地面に激突まであと少しのところで、突如霊幻の体に何かがしゅるりと巻き付き、さらにそれらは霊幻と同じように落ちてきた芹沢や少年を次々にキャッチしていった。

これはくねくねと同じーー植物の蔓?

霊幻たちを受け止めた植物たちはゆっくりと地面に下ろした後、するすると拘束を解いた。

し、死ぬかと思ったぜ。

まさか人生二度目の触手プレイを経験するとは……俺って実はエロゲのキャラだった?

いや誰得だよ。

どうやら地上にいた超能力者たちの中に植物を操る能力者がいたらしい。

誰だか知らんが助かった!

しかし一難去ってまた一難。

 

「危ない!」

 

誰かが上を指さしながらそう叫ぶ。

声につられて皆がタワーへ目を向けたときだった。

塔の上で何かキラリと光る。

まずい……!

 

「全員回避!バリアは駄目だ!」

 

アレはバリアを貫通するぞ!と霊幻は周囲の超能力者たちに大声で警告する。

 

「死ぬ気で避けろ!」

 

霊幻の叫びを合図にしたように、タワーの上から地上にいる霊幻たち目掛けて、次々と攻撃が降り注ぐ。

特定の誰かを狙っての攻撃ではない。

地上にいる人たち全員ターゲットにした無差別攻撃だった。

素早く動ける者たちが近くの人を抱えてその場から退避する。

さっきまで人がいた場所の地面が抉れ瓦礫が瞬間蒸発していく。

逆らったやつはみんな死ね!って癇癪起こしたガキかよ?!

幸いにして、上からの攻撃はすぐに止むも、地上にいた全員の目がタワーに釘付けとなる。

耳障りな金属音と共に、調味タワーが根元から折れたのだ。

いや、折れたという表現は間違いだろう。

タワーは折れたのではなくーー

 

「おいおいマジかよ……」

 

誰かが唖然としたように呟く。

なんと周りの地面ごとタワーは浮かび上がったのだ!

上へ上へと上昇し、元のタワーより高い上空までたどり着くと、ようやく動きが止まる。

これ以上周りに被害が出ないよう、モブが自分たちのいる場所を上空に移動させたのだろう

なるほど考えたな。上空なら俺たちに気にせず思い切り戦える。

まして片方は周囲に人がいようと全く気にせず戦闘する大馬鹿野郎だし。

遙か上空に浮かんでる調味タワーを見つめながら、霊幻は人知れず嘆息した。

 

 

……本当。ーー大馬鹿野郎、だ。

 

 

 

 

 

 

 

世界最強クラスの超能力者同士の戦いは常識を超えた規格外、まさに異次元の戦いだった。

双方共に内なる膨大な力を解放して、凄まじい激闘を繰り広げる。

上空で二人の姿が見えたかと思えば激しく衝突し何処に消えていく。

一体どちらが優勢なのか。

目を細めて確認しようとするも地上からでは上空で何が起こってるか目視できず、今二人がどうなってるのかサッパリわからなかった[さらに言うと霊幻は力のオーラが見えないので他の超能力者たちより状況把握ができていない]

くっそ全然見えないな。

千里眼があればモブたちの様子がわかるんだが……て、何だアレ?

崩壊した建物や瓦礫が上空で集まったと思ったら、子供が作る泥団子のごとく合体し奇妙な球体になったのだ。

 

「何がどうなってんだ?」

 

上空に浮かぶ巨大な現代アートっぽい何かに目を凝らす霊幻に側で浮かんでたエクボが「俺様に聞くな」とにべもなく答える。[ペラペラ状態から復活した模様]

 

「ちょっとエクボ、見に行ってこいよ」

 

「できるかアホ」

 

チッ、使えねーな!……一番使えないのは俺だけど。

今の俺は二人の戦いを見届けることしかできない。

果たしてどちらが勝利するのか。

……嫌な胸騒ぎがする。

ただの杞憂ならいいんだが。

 

[勝てなければ逃げろ……お前が背負ってる責任なんか何もないんだぞ……モブ!]

 

 

 

 

 

二人の戦闘は激しくなる一方で、終わる気配は全くない。

世紀の超能力対決を固唾を呑んで見守っていた人たちは、ある異変に気づいた。

 

「なんだあれは?」

 

二人が戦闘してると思われる場所から突如、謎の巨大な光柱が出現し、薄暗くなった周囲を照らし出したのだ。

それはまるでオーロラのごとく揺らめき、神秘的な美しさがあったが、何故か異様な不気味さを感じさせる。

あの光は一体何なのか。

誰もが状況を理解できず困惑する中。

 

「嘘……だろ……?」

 

一人だけその光を信じられないと言わんばかりに凝視する者がいた。

霊幻にとってそれは見慣れた懐かしい光。

超能力の源ーーエネルギーの光だった。

通常エネルギーは人の内部に蓄積されており、エスパーでもない限りそれを認識することはできない。

ノーマルである自分がその光を視認できてるということは、そのエネルギーが体外から放出されてるということになる。

なんでエネルギーが外へ、それも大量に溢れてるんだ?……まさか。

最悪の想像が頭をよぎった瞬間、霊幻の背中がぞわりと粟立つ。

……いやいやいや。あいつは仮にも世界最強を自称する超能力者だぞ?

未熟なエスパーなんかじゃない。

そんな初歩的なミスなど犯すわけがーー

 

「逃げて!!みんな!!逃げて!!」

 

茂夫が非常に焦った様子で叫びながら、皆のところに飛んできた。

 

「あの人は力を出しすぎて自滅しました!残ったのは膨大なエネルギー!多分爆発が起きます!それも大爆発が……」

 

あああああ何やってんだあほんだらー!!

こんな町中で自爆とか最っ悪のバッドエンドじゃねーか!

 

「僕らじゃ防げないってことだね……急ごう!」

 

状況をすぐに理解した花沢が仲間達にそう声をかけて走り出し、他の超能力者たちも爆発に巻き込まれないよう避難を始める。

霊幻もまた彼らに続いて駆け出すも。

……ぶっちゃけこれ、走って逃げても間に合わない、だろうなあ……。

前世で超能力研究が趣味だった霊幻は、視認できるエネルギー量からおおよその爆発規模を予測できてしまい、既に人生諦めムードだった。

あのエネルギー量が爆発したら周辺一帯ーー調味市まるごと消滅するだろう。

爆心地に近い自分たちも巻き込まれてジ・エンド。

そうならないためにもあれの爆発を止めないといけないがどうやって?

あの質量の爆発は”俺”レベルのバリアでないと防げないだろう。

ここにいる超能力者たちはもちろん、モブのバリアでも無理だ。

……いや。止める方法が一つだけあったな。

 

 

爆発が起きる前に元凶を消し去る。

 

 

でもそんなことは普通の人間である俺にできないし、並の超能力者にも不可能だ。人を蒸発させるほどのエネルギーを擁する超能力者でないと。

走りながらも考えを巡らす霊幻に、エクボが血相変えて叫ぶ。

 

「あれ!?おい!茂夫はどこ行った!?」

 

「あ!?」

 

エクボの慌てた声に霊幻は思わずその場に足を止め、周囲を見渡す。

モブが仲間より先に安全地帯へ逃げてるとは考えにくい。

となれば考えられるのはただ一つ。

モブはボスのところに行った?一体何のために?

どくんと大きく心臓が波打つ。

 

「まさかモブーー」

 

脳裏でモブと”俺”の姿が重なった。

 

駄目だ駄目だ駄目だ!それだけは絶対に!

 

モブにそんなことさせてたまるか!!

 

光に向かって駆け出そうとする霊幻の前にエクボが立ちはだかる。

 

「何やってんだ!気でも狂ったのか!?」

 

「どけよエクボ!モブがそっちにいるんだ、早く行かねえと!」

 

「超能力者でもないドノーマルのてめーが行ったところで何になる!?無駄死にするだけだ!!」

 

違う、俺だって!!

ギリっと歯を食いしばりながらも、行く手を阻む悪霊を力の限り睨む。

エネルギーさえあれば超能力は使えるんだ!

モブがエネルギーを貸してくれたあのときのように!!

……あ。

 

「……そうだ。どうして今まで気づかなかったんだろ……」

 

「ああ?」

 

この体はエネルギーがないだけで、器そのものは”俺”だ。

それは支部で俺がなんなく超能力使いこなせたから間違いないだろう。

そう、かつて無尽蔵なエネルギーを貯蔵してた”俺”の器ならあのエネルギー量、わけなく収納できるはず。

俺があのエネルギー全て吸収すれば爆発は止められる!

解決法は見つけた!

急いであいつらの元に行こう!

やる気十分でエクボ越しに光柱をみたときだった。

 

「あ……」

 

遠方に見えるエネルギーの光を見て、霊幻は固まる。

超能力に詳しい霊幻だからこそ気づいてしまった。

あのエネルギーが臨界点を超えて爆発直前であることに。

今から全速力で走ったところで間に合わない。

 

「はは……何やってんだろうな……俺……」

 

乾いた笑いが口から漏れ出る。

何故もっと早く思いつかなかったのか。

理由はわかる。

”俺”は自分に備わった力を自分のためだけに使い、また自分を守るために全てを拒絶し弾き返すバリアを常に張って生きてきた。

だからこそ”霊幻新隆”である俺には。

力を譲渡したり、他人の力を受け入れるという発想が根底からなかった。

 

「おい一体どうした!?しっかりしろ!くそ、こうなったら無理矢理憑依してーー」

 

 

”霊幻新隆”はいつもそうだ。

 

”俺”が死ぬ直前、モブへの失言、テレビの記者会見。

どうでもいいことはすぐに気づく癖に、肝心な大事なことはいつだってーー

 

 

「駄目だ、もう間に合わねえ!!」

 

 

気づいたときにはいつも手遅れ、だ。

 

 

エネルギーは一際強く瞬き、焼きつくような光を迸らせーー

 

 

 

 

大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超能力とは理解の範疇を超えた、常識で計れない不思議な力である。

ああ。そうだ。

超能力とは常識の範疇を超えた、不思議な力であり、人の感情そのもの。

 

 

人の感情は時にーー思いもよらない奇跡を起こす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

膨大なエネルギーはついに爆発した。

爆発の衝撃は凄まじく、既に爆心地から離れてる場所にいた霊幻たちにも強烈な爆風が届く

爆風で体がよろけさせつつも、霊幻はモブがいるであろうエネルギーの場所へ必死に顔を向ける。

白い光柱は既になく代わりにーー禍々しい色の巨大なキノコ雲が発生していた。

 

「モブ……!」

 

霊幻の顔が絶望の色に染まる。

あの爆発に巻き込まれたら、バリア張ってても助からない。

爆風が収まり、巨大キノコ雲が消滅していく。

砂煙の霧が晴れ、徐々に爆心地一帯が露わになるも。

 

「あ……?なんだありゃ?」

 

目の前に広がる光景は霊幻の予想斜め上をいっていた。

普通、爆発の後にできるのってクレーターだよな?

あまりにヘンテコな光景に思わず浮かんでた涙が引っ込む。

エネルギーが爆発したであろうその場所には。

 

 

謎の超・超・巨大な木がドーンとそびえ立っていた。

 

 

いやなんでだよ。

俺の涙返せ。

 

 

 

可笑しな現象はそれだけではなかった。

謎の巨木へ釘付けになってた花沢たちがふと己の異変に気づく。

 

「傷が治ってる……?」

 

ボロボロになった服はそのままだが、「爪」との戦闘で負った怪我が跡形もなく消えていた。いや怪我だけではない。

 

「桜威、顔の傷が消えてるぞ!?」

 

「そういう誇山だって」

 

「つっちーの傷もないよ!」

 

「どうなってるんだ?」

 

顔の傷跡まで綺麗サッパリ治っている。

どんな凄腕の治癒能力者でもこんな大人数の怪我、まして古傷まで消すなんて芸当は不可能である。

一体何が原因なのか。

考えられる理由はただ一つ。

 

「……あの爆風を受けたから?」

 

もしかしてモブのやつ……エネルギーを変質させたのか?

破壊から再生という特性に。

だとしたらーーああ、なんてことだ!

 

「モブたちの救出に行くぞ!」

 

周りにいる者たちに向かって霊幻は叫んだ。

 

「あの爆発したエネルギーは”破壊”でなく”再生”の性質だった!それならあの爆発に巻き込まれてもモブたちは生きているはずだ!」

 

「それは本当ですか霊幻さん!」

 

「あの中に親父が!?」

 

「ボス、無事なの?」

 

わらわらと霊幻の元に人が集まってくる。

もう敵味方関係ない。

 

「アレの正体がわからない以上、全員で行かず、人数絞ってーー」

 

「中に入るなら懐中電灯とかシャベルとか」

 

「近くにコンビニあるからそこから調達してーー」

 

全員、「救出」という共通の目的のため一致団結し動いていた。

 

 

 

……ああ。世界は不条理で矛盾だらけだけどーー同時に面白く不思議なもので満ちている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありました!反応が二つ!」

 

懐中電灯でとある箇所を照らしながら、誰かが叫ぶ。

一見すればただの分厚い緑の壁にしか見えない。

 

「とにかく掘るぞ。手分けして探すんだ」

 

照らされた植物の壁周辺を一斉に掘り進めていく。

各々シャベルなど掘り進める道具で、中にいるであろう二人の救出にとりかかる。

全員、汗だくでへとへと状態になり始めた頃。

 

「いた!大丈夫ですかボス!」

 

先に見つかったのは「爪」のボスだった。

爆発の衝撃によるものなのか、裸状態ではあったが彼は生きていた。

穴の中から「爪」の仲間総出でボスを引っ張り出す。

誰かが用意してたバスタオルで彼の体に被せる。

 

「社長!」

 

芹沢に肩を借りながら、ボスはよろめきつつも外に向かって歩き出す。

そのボスの後を心配そうな顔で他の者達がついていく。

途中彼らは未だ見つからない茂夫を探す霊幻たち一行の横を通り過ぎる。

必死に掘り進める花沢と律の側で掘る手を休めて彼らを眺める霊幻。

刹那、「爪」のボスと霊幻、二人の視線が交差する。

二人の距離は縮まり、そしてーー

お互い言葉を交わすことなく、すれ違った。

 

「爆発の元になったボスが生存してるなら、影山くんも無事なはずだ!もう一息だ、頑張ろう弟くん!」

 

「はい!」

 

「おい霊幻、てめーもサボってないで手動かせ!」

 

エクボが痺れを切らしたように叫びながら、ペシンと霊幻の頭を叩く。

 

「うっせえな、わーってるよ!」

 

頭を叩いた悪霊に悪態つきながらも、霊幻は視線を戻し作業を再開する。

 

 

 

ほどなくして、茂夫も見つかった。

 

 

 

 

 

無事茂夫を救出し、木の空洞から脱出する霊幻一行。

既に辺りは暗く、上空には月が昇っていた。

今日は色々あったし、早めに寝るのが一番だろう。

 

「お前ら俺ん家に来るか?ちょっと狭いけどなんとかなるだろ」

 

一時保護者としてモブたちを野宿させるわけにはいかん[影山家の家は全焼して現在ない状態だ。放火の主犯が言うには「三日で建て直すから待って欲しい」とのことらしい]

親切心100%で宿の提供をしてみるも。

 

「露骨に嫌そうな顔すんなよ~」

 

案の定、弟には全力で嫌がられた。

兄のモブは「師匠の家に行くの、初めてだ」とちょっと楽しそうだというのに。

弟の俺への反抗期、いつになったら終わるんだよ。

 

「テルもくるか?」

 

「あ、僕は大丈夫です」

 

「そうか?まあ気が変わったら来いよ」

 

友達とお泊まり会ってのも楽しいぞ!……俺は経験ないけど。

 

「じゃあ帰りにコンビニ寄って弁当買うか」

 

「その前に学校寄ってもいいですか?」

 

「こんな時間にか?」

 

「部室に代えのジャージがあるはずなので」

 

ああそうか。家が全焼してるなら着替えとか全部ないのか。

家燃やされると大変だなー……て。そういや事務所も全焼してた!!

結局放火の実行犯も捕まえてないし、保険金どうやって手に入れるか。

……。

……。

……。

まあ、なんとかなるだろ。

ひとまず今日はぐっすり寝て、明日になってから考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

花沢と別れ、霊幻たちは塩中の校内にいた。

へえ。ここが噂の肉体改造部の部室……。

興味津々で部室を見渡す。

ダンベルなどのトレーニング器具が置かれており、消し忘れたホワイトボードには”一週間の筋トレメニュー”の文字が並んでいた。

肉体改造部という変な名前だが、部室は割と普通で安心したぞ[筋肉隆々のボディービルダーの写真がベタベタ貼ってるカオスな空間を想像してた]

しかしサイズ大きいのもあるな。

今時の中学生ってそんなデカいやついるのかよ。

これとか俺も着れそうだ。

何気なくジャージを手に取る霊幻の背後で。

 

「ジャージ泥棒ー!!」

 

野太い男の大声が炸裂した。

 

ビックン!!

 

[し、心臓止まった~・・・]

 

「ん?影山兄弟じゃないか。こんな時間に何してるんだ?」

 

「あ、武蔵部長」

 

声の主は茂夫がよく知ってる人物だった。

 

「実はーー」

 

かくかくしかじか。

 

「成る程な。いや~ダンベル取りに来たところだったがびっくりしたぞ」

 

「すみません……こちらも驚きました」

 

俺も。心臓発作で死ぬかと思った。

 

「事情はわかった。ちょっと待っててくれ」

 

そう言いながら武蔵部長はスチャと携帯を取り出し。

 

「あ~もしもし。実は……」

 

どこかに電話をかけ始めた。

そして数十分後。

 

「いや……どうして肉改部の皆さんが集まってるんでしょうか?」

 

何故か部室に肉体改造部のメンバーが勢揃いしていた。

 

「僕達はこれから……」

 

律がそう言いかけたとき。

 

「これより肉体改造部3泊4日の強化トレーニング地獄合宿を開催する-!!」

 

武蔵部長が高らかにそう宣言した。

なぜに!?

 

「いや僕達は」

 

律の言葉を遮って部長の目がカッと見開く。

 

「困った時こそ助け合いだろう!」

 

「いや……ほんとに疲れてまして……」

 

「ああ広い布団で寝た方がいいだろう!」

 

「別に狭くていいので……」

 

「俺のばーちゃん家ならみんなを泊められるぞ!!」

 

「食べ物も自給自足でいいトレーニングになる!90分もジョギングすればすぐ着く!さぁ行こう!」

 

部長の雄叫びにつられて他の部員達も吼える。

だ、駄目だこの人たちに何言っても通じない!

 

「れ……霊幻さん助けて……」

 

口から先に生まれた詐欺師なら上手く説得してくれるはず……!

そんな期待を持ちながら霊幻に助け船求める律だが。

 

「よかったな。頑張れよお前ら。俺はタクシーで帰るわ」

 

頼みの霊幻はにこやかにスススーとその場からフェードアウトしていった。

 

霊幻 逃げ足 100%

 

霊幻ーーー!!

律のただでさえ低かった霊幻への好感度はさらに降下した。

夜道に気をつけろ!

 

「準備運動は済ませたか影山兄弟!さあ出発だ!!」

 

体格のいい部員達が狭い部室の中ひしめき合ってるせいで、逃走は不可能。

逃げ場はもうどこにもない。

 

「うわ~!!」

 

夜の学校に律の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

一方、自宅に戻った花沢はというと。

 

[忘れてた……]

 

「爪」に襲撃されメチャクチャになった部屋の前で呆然と立ち尽くしていた。

ガラスの破片が散乱し足の踏み場がなく、とても寝れる状態ではない。

 

[霊幻さん家泊めてもらえばよかった……]

 

……今からでもいいかな?

ポチポチ。プルルルー……。

 

「……すみません霊幻さん。やっぱり僕も泊めてください。爪に襲撃されてたの忘れてて……え?影山くんたち部活合宿に?」

 

思いもよらない霊幻の言葉に花沢の目が丸くなる。

今日一日「爪」との戦いで疲弊してるはずなのに、自分を鍛えるのに余念がないなんて、やっぱり影山くんは凄い!

霊幻から泊まりの了承を得た花沢は電話を切った後、笑みを浮かべる。

 

「僕も頑張らないとね」

 

彼に負けないようもっと努力しなきゃ!

 

「僕も参加してみたいけど他校生じゃ無理か」

 

あ、そういえば霊幻さん、最近トレーニング器具買ったって話してたから、それを借りて筋トレしよう!

霊幻さん、超能力の特訓いつも手伝ってくれるし、ランニングとか筋トレも同じように付き合ってくれるよね!

影山くんの師匠だから凄いキツいのも平気だろうし!

花沢の頭の中で肉体改造部の筋トレメニューに引けをとらないハードスケジュールが組み上がっていく。

霊幻さんと一緒にトレーニング!楽しみだなあ。

ルンルン気分で泊まりに必要なものをリュックに詰めていく花沢。

首尾良く肉体改造部3泊4日の強化トレーニング地獄合宿の回避に成功した霊幻だが、どのみち筋肉痛になる運命は変わらなかった。

 

 

 

 

 

かくして。

長い長い激動の一日は終わり、夜は更けていくーー。

 

 

 

 

 

 

その後「爪」のボス”鈴木統一郎”は自ら出頭し、テロリスト集団「爪」は瓦解した。

「爪」によって破壊された町も政府が自衛隊を派遣する等、尽力つくしたおかげで順調に復興は進む。

 

 

 

町の中心地には相変わらず謎の超巨大な木が鎮座したままだが、調味市は概ね元の平和な日常へ戻っていったーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱くてニューゲーム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青空が見える昼下がり。

”霊とか相談所”は営業再開に向けて従業員総出[といっても所長とバイトとマスコットの三人だけだが]で準備にとりかかっていた。

さして広くない事務所の床には段ボールの箱がいくつか並んでおり、それがより空間を手狭にしている。

 

「へ~。火事の原因、放火じゃなくてただの漏電だったのかよ」

 

「ああ。ネズミが配線かじったらしくてな。おかげで火災保険も下りたし新しい事務所で再スタートだな」

 

放火疑って悪かったよ「爪」組織。

いや別に謝らなくていっか。

疑われるようなことやってる方が悪い。

疑わしきはとりあえず一発殴るが俺の信条だ。

 

「にしても……まだ殺風景だな」

 

段ボールの荷物が片付いてないのはまだ仕方ないとして、もう少し事務所に彩りが欲しいところである。霊とか相談所は誰でも気軽に相談ができるアットホームな雰囲気がモットーだし。あ、そうだ。

 

「モブ。あれやってくれ」

 

そういい指さしたのは新たに買ったばかりの観葉植物だった。

霊幻の言わんとすることに気づいた茂夫は「はい」とそばにあった観葉植物に力を注ぐ。

スルスルと成長していく植物を見てるうち、茂夫の頭でカチリと何かが嵌まって動いた。

 

「あ……学ランの穴……思い出した……」

 

”ほらバイト代”

 

そう言って師匠に渡されたけど、そのままにしてたんだ。

 

「ポッケに入れてたの……ブロッコリーの種だ」

 

「ブロッコリー?て、アレは!?」

 

まさか……!

二人同時に外にみえる謎の巨大植物を見る。

一度確信持ってしまえば、もうそれにしか見えない。

謎の巨大植物の正体はーー超・超・超!巨大なブロッコリーだったのだ!!

 

「師匠あれって……」

 

どうしよう……と冷や汗流す弟子の隣で師匠の霊幻はフッと小さく笑う。

慌てるな我が弟子よ。こういうときはなーー

 

「ま……見なかったことにして一旦忘れよう」

 

未来のことは未来の俺たちに任せるのが[精神衛生上]正しい判断だ。

町中に巨大ブロッコリー生やしたらどんな罪になるのかとか考えたくない。

今世は前科なしの善良な一般市民として生きるって決めたんだ。

警察に捕まってたまるか!

……ま、なんとかなるだろ、たぶん。

生えたのがブロッコリーでまだよかった。

これで巨大化させたのが虫や動物などの生物だったら被害はさらに大きくなっていただろう

……実際前世で……その……黒いアレを○ジラ並にデカくして……後が凄い大変だったし……うん……これ以上思い出したくねぇ……。

○キブリ、マジこわい。

今も普通サイズでも超ビビるくらい、完全俺のトラウマになっている。

あの時の”俺”よ。何故Gを巨大化させた。

 

「にしても遅いなあいつ……」

 

一度連絡入れてみるか?と携帯で連絡入れるより先に、がちゃりと相談所の扉が開く。

 

「おお来たか。入れよ」

 

霊幻に促され、相談所にやってきた人物は。

 

「影山君。先日はどうも」

 

「爪」の幹部の一人だった男、芹沢だった。

それも褞袍という個性的な格好でなく、群青色のスーツを身にまとっている。

 

「スーツ……?ここで働くんですか!?」

 

なんだよモブ、その驚きよう。

悪い男に引っかかった女友達が今度は別の悪い男と付き合い始めた話聞いた女子のような反応しやがって。

 

「うん。あの後霊幻さんが誘ってくれたんだ。俺にもできることがあるって……それに……組織が迷惑をかけたし償いも兼ねて……」

 

「オウ!うちは善良な社会づくりに貢献できるからピッタリだぜ!」

 

これからよろしくな!と笑いかける霊幻に。

 

「ははははい!頑張ります!」

 

芹沢はカチンコチンに強ばった顔で返事した。

 

「もうじき依頼人が来る。その前にこれだな。そのままじゃ仕事にならん」

 

客商売の基本は身だしなみから。

ニヤリと笑いながら霊幻が手にしたもの、それはバリカンだった。

 

「お~。すげぇな」

 

相談所の床にこんもりと剃られた髪の山ができる。

 

「ま~ひとまず客商売できる身なりにはなったか」

 

しかし剃り甲斐のある髪だったな。

モコモコ羊の毛刈りしてるようで面白かったし、またバリカンさせてほしい。

 

「きゃきゃきゃ客商売!?お客さんが来たら俺はどう動けば!?」

 

いや落ち着けって。お前一応会社[※テロ集団]で働いてただろうが。

 

「前の会社では?」

 

「とりあえず敵意を感じたら傘で殴れって指示だったんで……」

 

「なんだそりゃ」

 

なんというアバウト命令。

行き当たりばったりな世界征服といい、強い超能力者は性格が大雑把になる法則でもあるのか?

 

「まーうちも大体同じ。後わからないことがあったら先輩に聞いてくれ。モブ。研修期間が終わるまでいろいろ教えてやってくれ」

 

喜べモブ。後輩ができたぞ。

肉体改造部に一年はいないって言ってたし、モブにとって人生初の後輩だな。

 

「よろしくお願いします!影山先輩!」

 

「え……あ……よろしくお願いします」

 

ビシっと礼儀よく茂夫に頭下げる芹沢につられて、茂夫もわたわたと頭を下げる。

うんうん、二人の仲が良好なのはいいことだ。

会社辞める理由第一位は職場の人間関係だからな。

給料の低さで辞める人間は意外と少ない。

……い、一応芹沢にはまともな賃金出すつもりだぞ?

再就職先がブラック会社とか不憫すぎるし。

 

「すいませ~ん」

 

お、新生・霊とか相談所の記念すべき第一号のお客様ご登場だ。

 

「あ~ど~もど~も。散らかっててすみません。そちらにおかけください。芹沢。お茶をお出しして」

 

「お……おおおおお茶?す……すみません淹れたことが……」

 

え、芹沢ってボスの護衛だったのにお茶出したことないの?

そう不思議に思って首を傾げたとき。

 

 

 

”本日は○○産のコーヒーです”

 

 

 

一瞬、前世のとある光景が頭をかすった。

……ま。会社[組織]によって違うか。

芹沢の社会復帰への道は遠い。

 

「だめだこりゃ」

 

お茶を淹れることすらままらない芹沢に、エクボが呆れの声をあげる。

まあ、気長に付き合っていこうじゃないか。

俺だってマシな人間になるまで、とてつもない労力と時間がかかった。

それこそいっぺん死んで人生やり直ししないといけないくらいに。

 

「早速先輩の出番だな。モブ、芹沢に茶の淹れ方教えてやれ」

 

相談所の片付けに新人教育。

これから忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

世界征服を企む超能力集団は壊滅し、町に平穏な日常が戻った。

全焼した事務所も無事再建できて俺もハッピー皆ハッピー。

さらに新たなメンバーが加わったことにより、”霊とか相談所”の戦力が大幅アップした。

もうどんな敵が相手でも負ける気がしない!

 

 

妖怪でも神様でも宇宙人でも超能力者でも何でもかかってこいや!

 

 

全部まとめて相手にしてやるぜ!

 

 

 

モブと芹沢、おまけのエクボが!!

 

 

どんとこい超常現象!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弱くてニューゲーム[完]…?

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。