サイコをスキャニングされちゃう被験者です♪ 作:ゼノアplus+
14話
「はぁぁぁああああ!!!!」
「あはははははは!!」
ライトグリーンの閃光がフィールドを支配する。その中心点では、2機のLBXが激突していた。
ジャッジの剣とトロイのデスバレルがぶつかるたびに衝撃波が生まれフィールドの柱や岩を破壊していく。少し離れた場所でそれを眺めているアキレスとエンペラーM2は、見ていることしかできない。横槍を入れれば激突の余波で破壊されるかもしれないからだ。
「トロイ、もっと速く!!」
トロイのカメラアイが光る。レイの声に呼応するように、トロイの動きはさらに加速する。
「1人に……しないでぇぇえええ!!!!」
ユウヤの叫びが、暴走したジャッジをさらに強化する。暴走していただけの単調な動きでは無い。洗練された戦士の動きだ。
「ッ……トロイ!?」
数々の打ち合いの末、ついにトロイにダメージが入った。ジャッジが振り下ろした剣が右肩の装甲を砕いたのだ。元々パワースラッシュの影響で左腕を失っていたトロイはパワー負けをし、崩れた瓦礫の中へと吹き飛んだ。
「……トロイの損傷箇所を表示して!!」
レイの声で空中スクリーンにトロイが表示され、損傷したパーツに焦点が当てられた。
「左腕、右肩、頭部も少し逝ってる……HPも残り少ない……どうしよっかな」
「レイ!大丈夫か!」
「レイ君、手伝わせてくれ」
「……どういう風の吹き回しかな?」
起き上がろうとしたトロイの左右にアキレスとエンペラーM2が現れた。両機は少しずつ迫ってくるジャッジとトロイの間に行きアキレスは盾を、エンペラーM2はハンマーを構えトロイを守る態勢に入った。
「灰原ユウヤをあのまま放っておくといずれ死んでしまう。違うか?」
「え!?」
ジンの言葉でバンが驚いた。レイはヘルメットの下で少し眉を寄せるとジンを見て言った。
「……うん、そうだね。脳に過負荷が掛かってるからこのまま時間が経つといずれ……ね」
「だったら、一刻も速く勝負を決める。山野バン、レイ君、共に戦うぞ!」
「ああ!絶対に助けてみせる!!」
「アッハハ……ジン君はともかく、バン君は立場的には3対1なのに物好きだねぇ……嫌いじゃないよそういうの」
レイは疲労を隠せていない声音で言うと、少し笑ってジャッジを立ち上がらせて2機の横に並んだ。
「ボクが牽制をするから、2人はその隙に近づいて。トロイも結構ピンチだからいつまでもつか分からないけどね」
「分かった。無理はするなよレイ」
「誰に言ってるのかなバン君?」
「愚問だな」
3人は軽口を叩いて笑い合いLBXを操作し始めた。
「トロイッ!!」
レイが腕を振るうと、トロイに残された右腕のデスバレルが回転し、弾丸がジャッジに向かって発射された。ジャッジは盾で防御しながらもさらに進む。まるでトロイの攻撃など効かないとでも示しているようだ。
「よし、アキレス……Vモード起動!!」
『アドバンスド Vモード』
バンの声でアキレスが黄金に輝く。それに続くようにバンのCCMから大きくスクリーンが現れた。
「行くぞ!!」
「ああ!!」
アキレスとエンペラーM2が左右から攻める。ジャッジはトロイの射撃を剣を振るうことで発生する風圧で吹き飛ばすと、迫ってくる2体に向けて駆け出した。
「あははははははははは!!!!」
「うわぁ!?」
「チッ……こっちだ!!」
剣を振るわれたアキレスは盾でガードしたがあまりの威力に少し吹っ飛ばされた。エンペラーM2は構わず走りながらエンペラーランチャーを発射しジャッジにミサイルを放った。
「トロイ……行けるね?……うん、行くよ!!」
トロイも満身創痍の駆体を動かし、ジャッジへと詰め寄る。サイコスキャニングモードを起動しているトロイの性能は、ダメージを受けていても気にならないほど上がっていてこの場の誰よりも速い。一瞬とも言える時間でジャッジの下まで辿り着いた。
ミサイルを切り裂いたジャッジの懐まで詰め寄ったトロイは、回し蹴りでジャッジの体を宙に浮かせた。
「アキレス!!」
そこへすかさず復帰したアキレスが空中にいるジャッジの胴体に水月棍を叩きつけ地面へと墜落させた。
「よし、いけるぞ!」
「うーん……なんとかなりそう?」
「油断は禁物だ」
土煙が晴れると、ジャッジがまた立ち上がろうとしている。
「『痛くしないで……ッ!!』」
「くっ……またユウヤ君の記憶が……」
ユウヤが叫ぶと、レイの脳内で薬物を腕に注入されている映像が映る。ユウヤ目線でだ。レイの頭には常に激痛が走っている。サイコスキャニングモードの負荷もだが、何よりユウヤから送られてくる記憶のフラッシュバックが主な原因だ。これ以上戦闘が長引くとレイにも悪影響が出るだろう。
(早く決めなきゃ……ボクも……)
『パワースラッシュ』
「「レイ(君)!!」
「ッ!!」
突然ジャッジからパワースラッシュが放たれた。アキレスとエンペラーM2は既に左右へ回避していたがぼうっとしていたレイはトロイを動かしていなかった。バンとジンの声でそれに気づいたレイはすぐにトロイを前に転けさせる。
「ありがとう2人とも……危なかったよ」
「油断は禁物と言ったばかりだろう?」
「うっ……言い返す言葉もない……ってあっ!!」
「どうかしたのかレイ?」
反省していたレイが突然大声を上げた。バンがそれについて尋ねるが、レイは指でスクリーンの一部分を指した。
「肩の弾薬庫がやられた……もう元々腕に装填されてるやつしか発射出来ない」
スクリーンに映るトロイの右肩の後方に備え付けられたパーツが無い。おそらくパワースラッシュで前に転けた時、出っ張っていた弾薬庫が持っていかれたのだろう。
「……ヘルメットが邪魔だ!!」
レイが両腕でグローブからヘルメットに繋がったコードを抜いた。そしてそのままヘルメットを脱ぎ捨て後ろでデータを取っている研究員に投げた。
「なっ……2号、何をしている?」
「ヘルメットのデータはもう十分なはず。グローブだけの時のデータもいるでしょ!!」
「それはそうだが、所長からはまだ何も「うるさい!!」……まあいい、好きにやれ」
一悶着あった後レイは再び前を向き、ヘルメットを脱いだことで露わになった綺麗な銀髪を右手で思いっきりかき上げた。会場のライトに当てられた髪は更に美しく光っている。気合を入れなおしたようだ。
「ごめんトロイ、今から無茶するね。気張って耐えてよ相棒ッ!!」
バンとジンを放って1人で駆け出したレイ。トロイのカメラアイはしっかりとジャッジを捉えて右腕を突き出した。
その攻撃をジャッジは体を捻って回避する。トロイはそのまま蹴りやタックルなどでひたすらに追撃するが全て回避される。
「当たらないか……」
「あはッ」
お返しと言わんばかりにユウヤは笑い、ジャッジが動いた。左手に装備した盾でトロイを右から殴る。
トロイはジャンプして躱すが、そこへすかさず剣が突き立てられた。空中では回避しようがないトロイはそのまま直撃を喰らうと思われたが……
「ッ、トロイ!」
バトルが始まって最初の方にマスカレードJが見せた空中での回転での回避を思い出したレイはトロイにそれを指示。しかし、マスカレードJほど華奢なボディではないので、少し掠ってしまう。
「まだいける!!」
着地地点はジャッジの真隣。伸ばし切った腕を再度動かすのにはほんの僅かに隙が生まれる。
「そこッ!!」
トロイが全力でジャッジの横腹を殴打した。デスバレルの強靭な銃身での一撃は大きくジャッジをのけぞらせることに成功した。
「2人とも行っちゃえ!!」
「「ああ!!」」
そこへすかさずアキレスとエンペラーM2がそれぞれの武器を構えて飛び込んできた。体勢の崩れたジャッジへ突き刺さる2体の攻撃は、剣を持った右腕を肩から破壊することに成功した。
「あああぁぁああああああ!!!!」
ジャッジの腕を破壊されたのが原因か、ユウヤはジャッジの痛みを直接味わっているかのように右肩を抑えて叫ぶ。そして、勢い任せにCCMスーツの一部を引きちぎってしまった。露出したからには爪痕のような傷が付いている。
「ッ……どこかで……あの時の!?」
ジンはユウヤの傷を見て、何年も前の事を思い出した。かの日の事故で同時に入院した3人の少年少女。ジン、ユウヤ、レイだ。
夜ということもあって暗い病室の中ですすり泣く男の子を必死に慰めている少女。そんな2人をジンはカーテンの隙間から覗いていた。
『ぱぱぁ……ままぁ……』
『だいじょーぶ。だいじょーぶだから……ないちゃだめ。おとこのこでしょ』
(確か……あの少女も銀髪だった。何日か経ってすぐに白衣の男達が2人を連れて行ったが、まさか神谷重工だったのか)
「レイ君……君の本当の名前は確か……」
「あれ、思い出したの?アッハハ、遅かったね。でも言ったらダメだよ?今のボクはもう名前も戸籍も残っちゃいないからね」
「……後で話を聞かせてもらう」
「できたら良いね〜」
目を見開いてレイに問いかけたジンだが、レイは軽くあしらう。
ジャッジは左手に持つ盾を投げ捨て、左腕で剣を拾った。どこまでも戦うようだ。しかし……
「トロイ……限界か……」
急にトロイが左足から崩れ落ちた。サイコスキャニングモードで急激に上がった性能に駆動系が耐えられなかったようだ。スパークが迸り今にでもブレイクオーバーになってしまいそうだ。
「レイ!」
「なーに、大丈夫さバン君。次で決めるから」
「ッ……一体何を」
アキレスが心配して駆け寄ってくるが、トロイはそれを振り払う。
「あーははははははは!!!!」
『ねぇ……なまえ……おしえて』
『……わたしの?うん、いいよ!えっとねー』
レイの中に更に流れ込んでくる記憶の奔流。それを見る度に、彼女には頭痛が走り過去を思い出す。
(忘れてたはずなのに……ボクったら、あんな口調だったんだね。全く、ユウヤ君は余計なことまで思い出させてくれちゃってさ。そういえばボク、そんな名前だったんだね)
レイはなんとかトロイを立ち上がらせると、すぐに構えた。
「今……助けるッ!!」
「あぁあああああ!!!!」
『『アタックファンクション』』
ユウヤとレイがそれぞれ左手を握りしめる。それに呼応してジャッジとトロイがそれぞれ剣と拳にエネルギーを貯めた。
「山野バン、下がるんだ!!」
「ジン……でも!!」
「巻き込まれるぞ!!」
「ッ……分かった!!」
2体が何をするのか悟ったジンはすぐにバンに伝えアキレスとエンペラーM2を遠くへと逃した。
「ユウヤ君!!」
『崩天撃』
「あははははははははは!!!!」
『大真空斬』
ジャッジがジャンプして左手に持つ剣のエネルギーを刃状に展開。そのままトロイに向かってエネルギーの刃何度も飛ばした。
「そんなものぉぉぉおおおおお!!」
トロイは圧倒的な機動力を持ってそれらを躱す。そのままジャッジの懐まで詰め寄ると、青く光る右腕でジャッジに打撃を与えて吹っ飛ばした。ジャッジが吹っ飛んだ方向へ更に駆け抜けたトロイは猛スピードでジャッジに追いつくと、上空に向かって右腕を突き上げジャッジを更に浮かせた。
「トロイィィィィィィ!!」
レイの叫びと共に、トロイの右腕から青いエネルギーが上空に向けて発射されジャッジを飲み込み……爆ぜた。
Dキューブの中からアルテミス会場上空に向かって迸る閃光に、会場の誰もがスクリーンではなく生で彼らを見ていた。例え遠くてシルエットしかわからなくても、見なくてはいけないと感じさせる何かがあったのだ。
そのまま何秒たっただろうか。少しずつ光が細くなっていきやがて完全に消えた。静まり返った会場の中で、どうなったのかと疑問に溢れる観客達はスクリーンへと視線を戻した。
「ボクの……ボク達の勝ちだッ!!」
トロイと同じように右腕を高く天に突き上げてレイは叫んだ。よく見ると、トロイの周りには黄色と黒で構成されたLBXのパーツがバラバラになって散乱している。全てジャッジだったものだ。
『ジャッジ ブレイクオーバーァァァァアアアア!!!!Eブロック代表、灰原ユウヤ選手、敗退です!!』
「「「「「「うぉぉおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
MCのコールが会場全体に響き渡り、観客達が思わず立ち上がって歓声を上げ拍手した。
「あ……やね……ちゃん……あり……が…と……」
「……どういたしまして。でも、ボクはもうアヤネじゃないよ」
ジャッジが破壊され、サイコスキャニングモードが解けたユウヤが意識を朦朧とさせながらその場に倒れた。CCMスーツが放っていたスパークも収まり、完全に機能を停止している証拠だ。フィールドの中でも、トロイとアキレスはそれぞれ特殊モードが終了したようだ。
『選手救護のため、試合を一時中断いたします』
アナウンスが流れて試合が止まった。2人の男性が担架を持って現れ、ユウヤを載せると出入り口の奥へと消えていった。それを見送ったレイは、覚束ない足取りでフィールドに近づき中を見て言った。
「…………トロイ。お疲れ様」
「レイ?」
バンとジンがレイの様子を不審に思いフィールドを覗き込むと、必殺ファンクションを発動し終えた状態でカメラアイから光の消えたトロイの姿があった。
「これって……」
「うん、ボクもここで敗退みたいだね」
『んん!?……トロイの機能停止を確認しました!!これにより、Dブロック代表レイ選手の敗退も決まりました!!』
驚いたようなMCの声が会場に響いて、スクリーンにユウヤとレイの敗退を意味する画面が現れた。
「あーあぁ……結局キミ達との決着がつかなかったな。ボクにはそれだけが気がかりだよ」
戯けたようにレイが言う。そして、真面目な表情になった彼女はバンとジンを見ながら続ける。
「バン君が勝てば、プラチナカプセルとメタナスGXはシーカーに。ジン君が勝てばそれらはイノベーターに。
まさしくキミ達が世界の命運を握っていると言っても過言じゃない。ううん、実際握っているんだ。
でも、ここはLBX世界大会アルテミス。バトルの瞬間だけは、世界の命運なんか忘れて熱いバトルをすれば良いと思う。2人とも……良いバトルを期待してるよ」
「ああ!!」
「当然だ」
レイは2人にそう言って笑うとフィールドの中からトロイを優しく回収すると帰る準備をしている2人の研究員の元へと言った。
「2号……お前、バイタルが……」
「分かってる……これでも必死に意識を保ってるんだから……」
片方の研究員が持つPCにはレイのバイタルデータがリアルタイムで来ている。危険域を示すように画面全体が赤く光り、『DANGER』の文字もある。
そして、通路に入って会場が見えなくなったその瞬間に……レイは吐血した。
「ごふっ……はぁ…はぁ……」
「2号!?表に車を回せ!!」
「もう手配した!!応急処置をする、早く外へ!!」
膝から崩れ落ち肩で呼吸をしているレイは、まだグローブをつけたままの左手で口を抑える。
「げほっげほっ……あれ……視界が……赤く……」
遂に、目から血を流し始めたレイ。意識が朦朧としていて思考がまとまらない。
「目からも血が……薬物で負荷を抑えていた灰原ユウヤと違って、生身でサイコスキャニングモードの負荷を耐え続けていたせいか!!すまない、荷物を頼む。私は2号を」
「ああ、頼んだ!!」
1人が荷物を下ろしてレイを背負う。白衣にレイの血がべったりと付くが気にしている状態じゃないため、出来るだけレイに振動がいかないように配慮しながら男は走る。続くように荷物を回収したもう1人も走った。
(…………トロイ……ありがとう)
ヒビだらけのトロイを今できる最高の力で握りしめると、そのままレイの意識は暗闇へと沈んでいった。
イノベーター研究所
「素晴らしい……素晴らしいデータが取れた!!」
「このデータを使えば……我々の計画もまた一歩前進できますね」
「ああ。2号がまさかあそこまでサイコスキャニングモードを使いこなすとは思ってもみなかった。灰原ユウヤを回収されたのは痛いが、2号に比べれば些細な事だ」
「では、今回の試験運用は成功という事で?」
「もちろんだとも。よし、次の段階に移行する。セカンドチルドレンを集めろ」
「ッ!!……なるほど、遂にですか?」
「その通りだ。
低コスト、従順、操作技術……全てを兼ね備えた量産化計画を始める。フェアリーテイル計画成功の暁には、エネルギー面と軍事面、両サイドから世界を支配していこうではないか」