サイコをスキャニングされちゃう被験者です♪ 作:ゼノアplus+
15話
『死者4人を出したLBX世界大会アルテミスで起こったメタナスGX強奪事件に関して……』
薄暗い部屋の一室で、真崎は手元のLBXのコアパーツをいじりながらテレビを見ていた。
「レイは重症、もう3日も目を覚ましていない……そりゃ、あれだけの機動をすれば脳だってパンクするだろうな」
テレビには、アルテミスのファイナルステージのバトルが映っていてアキレスとエンペラーM2が互いに必殺ファンクションを放ちながら戦っている。
「結局、優勝は山野バン。だが、エンペラーM2に備わっていた『デストロイ』によってプラチナカプセルの強奪に成功。ついでに赤の部隊によって人殺しをしながらメタナスGXも奪取成功か。ふっ……遂にただのテロリストに成り下がったな。イノベーターは」
「元からだろう?あの時から俺達は……特にお前は復讐の鬼になったんだからな」
ガチャっと扉が開いてパーカーを着たサングラスの男が入ってきた。檜山蓮、レックスだ。
「よぉ蓮、終わったのか?」
「ああ、予定通りだ。これでイノベーターは俺達の掌だ」
「……そうか」
「すまない。本当ならお前がやりたかっただろうに」
「気にしてない……って言ったら嘘だけどな。もう終わった事だ。別にいい。それよりも、ほらよ」
「ッ……完成したのか?」
軽い会話の後、テレビを切った真崎はレックスに向かってLBXを投げた。
「ああ、生憎とGレックスは間に合わなかったけどな」
「いや、十分だ。それで、コイツの名前は?」
レックスが機嫌良さそうに真崎に尋ねると、真崎は少し溜めてからその名を告げた。
「炎の魔人、イフリートだ。俺の人生において最高傑作だよ」
その日、テストと称して一体の哀れなデクーが業火の中へと消えた。
〜イノベーター研究所〜
「メタナスGXの解析が完了致しました。しかし……」
「ああ、プラチナカプセルが偽物とあってはどうしようもない。データをコピーして保存。メタナスGX本体はこちらで使う」
「分かりました」
イノベーター研究所では、アルテミスで強奪したメタナスGXに隠されたプラチナカプセルの解読コードの解析を行なっていた。作業が終了し、加納が研究員達に指示を出す。
(メタナスGX……プラチナカプセルの解読コードさえ抜き取ってしまえば、残ったのは超高性能CPU。開発途中のAX-01、02に搭載するコアパーツは変更できん。海道様の月光丸は完成されていてあれ以上はLBXのバランスを崩してしまうだけだ。現状、我々にはメタナスGXを搭載できるLBXが存在しない)
加納は熟考する。せっかく手に入れた超高性能CPUだ。活用しない手はない。しかし、イノベーターはデクーを基準とする量産型LBXを使用していて、今扱える高性能なLBXではメタナスGXの効果が薄い。圧倒的な性能を見せたトロイは元々自動操縦での運用を想定されていたため無理だ。ジャッジもサイコスキャニングモードの実験に適した形である。
「そういえば所長。2号の様子は?」
「命に別状はない。多少衰弱しているが、このまま休ませておけば問題はないだろうと医師の判断だ。しかし……奴にはまだまだデータの採取を……ッ!!そうか、その手があったか!!」
「しょ、所長?どうされたのですか?」
研究員の何気ない質問に答えていた加納が、急に目を見開いて叫んだ。
「今すぐ2号を処置室へ運べ!!」
「は、はい!!すぐに手配します!!……ちなみに一体何をするのでしょう?」
「クククッ……なぁに、ちょっと思いついてしまっただけだよ。フッ……年は取りたくないな。私の視野が狭まってしまっているようだ」
悪い笑みを浮かべながら加納は続ける。
「メタナスGXの特性は超並列演算を可能にすることだ。現在開発中の司令塔型LBXマスターコマンドを量産しさらにそのマスターコマンド達に他のLBXを制御させる機能がある。メタナスGXが有れば、小隊規模しか制御できないはずが師団規模までの制御が可能になるだろう」
「しかし、メタナスGXは一つしかありません。一体のマスターコマンドでは師団規模など……それこそ、複数のマスターコマンドを指揮するユニットがなければ……ッ、まさか!?」
2人の会話に、いつしか部屋の中の全員が手を止めて会話を聞いていた。研究員は考察を重ねて……加納の思惑に気づいた。
「その通りだ。2号の頭のCPUを交換する。メタナスGXにな。人の脳から発せられる命令にダイレクトで答えるサイコスキャニングモードとメタナスGXの処理速度、並びに並列演算が有ればまさしくワンマンアーミー、1人師団と言っても過言ではない」
「おぉ……」
幾分も先の事をすでに考えている加納。しかし、そこにレイの負荷は全く考えられていない。師団規模のLBXの制御など少女の脳には無理だ。いや大人でも不可能だろう。
「すぐに始める。やり方はあの時と同じでいい。皆で見届けようではないか、最強の兵士の誕生を」
それから約8時間、白の部隊の独断で昏睡状態のレイの手術を行われた。薬物が全く効かない体質のレイは当然麻酔も効かない。意識がなくても痛みはあるようで、呻き声を上げながらレイは手術を終えた。
さらに数時間後、遂に彼女は目覚める。
「………………ッ」
目覚めて最初の言葉は呻き声だ。痛みがまだ体に残っているらしい。
「……どこ、ここ?」
目を開くとそこは真っ白な空間。怠さを無視してなんとか体を起こした。
「いつもの部屋じゃない。ていうか……なんか視界が……」
今の彼女の目には、その全てがぼやけて映っている。
「なんで……ッ、頭が痛いなぁ。サイコスキャニングモードモードの負荷かな?」
ズキリと頭に痛みが走った。本当は麻酔なしの手術の痛みがまだ残っているのだが、そんなことがあったとは全く知らないレイは誤解したようだ。
「あ、あれ……手が霞んで見える……もしかして、視力が落ちた?」
頭から離した自分の手を見た彼女は、辺りを見渡しようやく気づいた。周りの空間が全て白いのではなくぼやけたせいで何が置いてあるのかわからないということに。
「アッハハ……これじゃあ一人で移動も出来ないね」
右手を握ったり開いたりしながらレイは呟く。そして一通り出来る動作を確認してから体をベッドに預けた。
「…………サイコスキャニングモードは多分ボクのおかげで成功してる。暴走したユウヤ君は多分放って置かれるだろうからボクがこのままここにいればいい。そうしたらきっとユウヤ君がこれ以上何かされることはないかな」
「アホ、ガキがそんなに抱えてんじゃねえよ」
「ッ!!…………この声は、真崎さん?」
独り言を呟いていたレイに反応するように突然真崎の声が聞こえた。一体いつ入ってきたのだろうか……レイはそう思いながら声の方向に視線を向けた。
「おう、見舞いに来たらちょうどよく目を覚ましてたからな」
「……ごめん、人の輪郭しか見えない。声で真崎さんだってことはわかるけどね」
「分かるんだったらいい。たくっ……無茶しやがって。真野さんから聞いた時は心配したぞ?」
レイのベッドのすぐ横にある椅子に座った真崎。しかしレイにはそれがわからない。
「……今何したの?」
「あぁ?椅子に座っただけだが」
「え、この部屋椅子あるんだ……見えなかったよ」
「重症だな。メガネとコンタクト、どっちがいい?」
「うーん……メガネかな。コンタクトはどんなのかわかんないし」
「分かった」
顔も分からない真崎の方を見ながらレイは喋る。だが、若干向きが違うことに気付いた真崎は同情の目線を向けながら言った。
「無理してこっち向かなくていい。楽な体勢で寝てろ」
「アッハハ……なんかやけに優しいね」
「病人にまで突き放すような言葉は言わんよ。まぁ、無事なようで何よりだ。んじゃ、俺はこれで」
「軽くない!?……ッ、いったぁ〜」
立ち去ろうとした真崎にツッコミを入れたレイだが、傷に響いたようだ。
「ははっ、今度迎えに行くからな」
「〜ッ……へ?それってどういう意味?」
真崎の意味深な言葉に、痛みも忘れて問いたレイだが返事は返ってこない。すでに部屋を出た後だ。
「迎えに行く……ねぇ。なんか面白そうなことになってるみたい。ま、今のボクには関係ないさ」
自分の身の上を笑いながら、レイは虚空を見つめる。全てがぼやけて見えるその目は、しかし何かを見つめているように感じられた。
「……はじめてだなぁ、こんな気持ち。ボク……生きたい」
レイの声は……かつてないほど震えていた。