サイコをスキャニングされちゃう被験者です♪ 作:ゼノアplus+
17話
「1度目から30機以上は負担が大きすぎたか……いや、理論値は完璧だったはず。恐らくは……」
「ええ、病み上がりの彼女を使ったのがいけなかったのでしょう。しかしテストにしては上々の結果かと思われます」
イノベーター研究所で、加納とその部下はとある実験について話し合っていた。
「たった3機を相手に不甲斐ない結果だと客観的に見れば評価できる。しかし、任務遂行など物のついで……本質はここだ」
加納はディスプレイにデクーエース達の戦闘の映像を映す。研究員達も食い入る様に見ている。
「時間が経つに連れてデクー達の動きが洗練され、統率も取れている。一瞬とはいえ連携も取れているのがわかるだろう?さらに、この動きは全て2号に搭載されたメタナスGXから我々の元へ届いている。彼女は人のみでありながらも自己進化型AIのように成長し続けている。そしてそのデータは我々の物……これ以上の成果は無いだろう」
加納の解説に研究員達も声を上げて笑みを浮かべている。
「これから先、エターナルサイクラーを巡ってシーカーとの戦いは佳境を迎える。鍵は我らが、錠は奴らが。一見平等に見えるが、こちらの圧倒的有利だ。何せ我々には技術がある。どんな物でもイノベーターの力と変え、海道先生の役に立てるのだ!!」
「「「「「「おお!!!!」」」」」」
加納によって鼓舞された研究員達はさらにやる気を見せ作業を開始した。
(……2号にはたまにはアメを与えんといかんな。私は人として堕ちている自覚はあるが、ただ使い潰すような愚か者では無い……しかし、あの娘には何を与えれば喜ぶのか?)
部下の作業を眺めながら加納は考える。年頃の娘への誕生日プレゼントに悩む父親のような思考だが、彼は至って真剣だ。
「おい、誰か中学生の娘がいる奴はいるか?」
「「「「「「はっ…………は?」」」」」」
研究員達の中で加納に対する評価が少し落ちた。今日もイノベーター研究所は平和だ。物騒だが。
〜とある病室〜
「〜〜♪」
真白な壁にベッド、そして簡素な机が置いてある病室でレイは鼻歌を歌いながら机に向かっている。先日、加納から『任務の報酬』と言われて修復されたレイのトロイとLBX用の工具一式、さらにはLBX用の設計図を貰ったのだ。
「あのクソ野郎も僕の趣味分かってるじゃん♪まだちょっと体が怠いけど、トロイを弄る分には問題ないもんね〜」
今のレイは髪をゴムで纏めてポニーテールの様にしている。作業をする時はいつもこれで、さらには眼鏡もしている。これは以前真崎からもらった物で、急激に視力が落ちたレイにとっての必需品である。これがないと生活もままならないほどに。
そして、そんな彼女が今まさに調整しているトロイにも目立つ変化があった。元々黄色だった装甲部分が軒並みホワイトに染められているのだ。左肩には黒で神谷重工のロゴもペイントされている。これもレイの希望で加納が手を加えた物の一つである。
「それにしても、あの2人強くなってたな〜」
レイの脳裏に浮かぶのは自身が操る4機の試作マスターコマンドの支配下に置かれたデクーエースと戦うクノイチとハンターの姿。
「ボクの頭にメタナスGXを移植したとか聞いた時はぶん殴ってやろうかと思ったけど、まあ悪くないね。頭痛くなるけど」
「…………ちょっと実働に出る以外は前よりまともに暮らしてんだけど……あれ、これボクがおかしい?」
ニコニコしているレイだが、少し経つとすぐに頬がストンと落ちた。
そう、以前は厳重なロックのかかったドアと、ベッドとトイレがあるだけの生活。それに比べて今は机も有れば機材もある。簡易的なシャワーも備え付けられていて、病み上がりだからと栄養価の高いしっかりした食事も食べることができる。
「え、ホワイトじゃんイノベーター。テロ組織だとは思えないんだけど……」
アルテミスで使ったCCMスーツの一つであるグローブを嵌めて調整し終わったトロイを起動させた。十分なデータが取れたため試作品であるコレはレイに与えられた物だ。実験用ではなくレイが自分用にカスタマイズしたトロイはアルテミスの時よりも軽やかな機動で部屋中を駆け回る。
「懐柔されんなアホ」
「おわっ!?……真崎さんじゃん、びっくりした〜」
急に聞こえてきた真崎の声に驚くレイ。いつのまに真崎は病室に入ってきたんだろうか。
「まあ、横に開くタイプのドアだからな。そんなに音はせんよ。それよりほら、行くぞ」
「……どこに?」
「空」
「なるほど、空か〜…………そら?」
「そら」
「sky?」
「スカイ」
「スゥーーーーー………は?」
レイがバカを見る目になった。
「そんな目で見るなよ……だから、逃げるぞ。イノベーターから」
「ッ!!」
衝撃の発言を受けたレイは目を見開いて辺りを見渡した。
「カメラはねぇよ。イノベーターは良くも悪くもお前を買ってる。ただの被験体だったお前に武器となるトロイを渡すくらいにはな」
「……どうやって出るの?」
「お前は知らないだろうが、ここはイノベーター研究所の1カ所。ここから結構近い場所にある倉庫にはステルス司令機エクリプスが保管されている」
「パクって飛ぶの?」
「言い方が悪いがそういうこった」
「えぇ……」
流石のレイも苦笑いのようだ。イノベーターが所有する飛行機をパクって逃げるというのだ。現実的ではない。
「操縦できるの?」
「真野さん達が出来るらしい。今八神さんエクリプス奪取のために奔走してる」
「……なんでボクも?」
「さぁ?八神さんから『確実に連れてこい』って言われてるからな」
「ふぅ〜ん……」
不満げな顔をしながらも、部屋の片付けを行うレイ。すでに答えは決まっているようだ。
「同情されても、満足してるから困るんだけどねぇ……」
「そう言ってやるなよ。八神さんはエンジェルスターの時からお前のことは気にかけてんだ。少しは組んでやってくれ」
「へぇ……で、どこに行くのさ」
「知らん」
「……はぁ?」
「ただ、逃げるとしか聞いてないからな」
表情も変わらずに真崎は言う。レイがまたしてもバカを見る目で真崎を見ているが、彼は気にせず続けた。
「よくそんなので付いて行こうと思ったね」
「八神さんは俺の恩人だからな。ま、これで恩は返すさ」
「あっそ。でさ、逃げるのは分かったしボクもこれ以上実験を受けたくないんだよねー。そろそろ死にそうだし。だからさ、ちょっっと嫌がらせしていかない?」
「ああ?…………すぐ終わるんだろうな?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。ふふふ、期待しててよ」
時計を確認した真崎は、何か企んでいるような笑顔のレイに溜息を吐きながら手を差し伸べた。
「助けに来たぜお姫様」
「似合わない台詞言う物じゃないよ王子様」
◆
「大変です所長ッ!!」
「どうしたと言うのだ騒がしい。私は今新型の設計で忙しいのだ」
イノベーター研究所では、加納やその部下達が真面目に仕事に取り組んでいた。
「そんなこと言っている場合じゃありません!!エクリプスが…………盗まれました!!」
「なにぃ!?」
加納が急いで監視カメラの映像をモニターに表示。そこには、大型の飛行機がゆっくりとスラスターを吹かせて前進していた。
「バカな……見張りはどうした!!」
「分かりません。現在赤の部隊、青の部隊に連絡をしていますが、対応に追われているのか連絡が取れない状況で……ッ!!所長、あれはッ!!」
「なに、どうし……ッ!?」
2人が目を見開いてモニターを見つめた。研究所員達も呆然とモニターを眺めている。
『アッハハ!!きっとそこでアホヅラかましてるんだろうね〜か・の・うさん?』
「に、2号ッ!!」
急にモニターが砂嵐で見えなくなり、代わりにレイの姿が現れたのだ。
『いや〜、トロイを返してくれてありがとう!!グローブもあるしこれから楽しくなりそうだと思わないかい?』
「ふ、ふざけるなよ貴様ッ!!一体何処に……ッ!?」
『残念ながら、これは記録映像なので声は聞こえませ〜ん。アッハハ!!ねぇねぇ、今どんな気持ち?メタナスGXまで使った最高傑作が高みの見物でアンタらのこと嘲笑ってるのってどんな気持ち?いや〜
高笑いしながら加納達を煽るレイだが、急に無表情になるとカメラを動かして居場所を表示した。
「開発室……だと……」
『答えなんて聞けないから無視するよ。ボク、ここ好きなんだよね〜。色んなLBXが置いてあるし、自由時間はここで勉強させてもらったりさ。アッハハ!!いい物見つけちゃったし』
レイがディスプレイ型のキーボードを操作すると、ショーケースの蓋が開き、中から4体のLBXが姿を現した。
「ッ!!それは新型の!?」
『こんなにカッコいい子作れるのにやってる事が汚くてひっじょうに残念!!この子達も親がこんなのだったら泣いちゃうよねー。だからさ、もらっていくね?』
画面の横から真崎がやってきてアタッシュケースを開けた。恐らくそのままLBXを取り出して器用に収めていく。加納達は言葉も出ないのか、怒りに顔を赤く染めながら震えている。
『ついでだしデクー達の設計図も貰っておいたから。アッハハ!!じゃあ次の質問でーす♪このプログラムが何か分かるかな?』
ついでに表示される0と1の羅列。そこから続いて現れるC言語の列。加納は流れるプログラムを全て読み取れるほど熟練してはいなかったが、1人の研究者がすぐに読み取り口に出した。
「データ消去のプログラムッ!?」
「なにっ!?2号貴様、いつのまにそんな技術を……!!」
『ボクの事をLBXしか興味がない小娘だと思ってたでしょ。アッハハ!!……舐めてたねぇ?まっ、トロイとかグローブとかくれたお礼と言っちゃなんだけど、消すのはこの子達だけにしといてあげるよ。ちなみにこの映像は終了後に自動的に消去、連動してここに仕込んだ爆薬が起爆するので悪しからず。アッハハ!!もう一回聞いてあげるねクソ野郎。
今……どんな気持ち!?ねぇねぇ今どんな気持ちなの!?人の命弄んで置いて何も仕返しが来ないわけないよね。アッハハ!!バイバーイ!!』
ープツンー
「「「「「「…………」」」」」」
怒涛の勢いでまくし立てるレイに立ち尽くす研究者達。その直後、轟音が彼らのいる場所まで届いた。
「ッ!!被害を確認しろ!!さっさと動け!!不味い……AXー01と02のデータさえ残っていれば最悪他は構わん!!急げッ!!」
「「「「「「はっ!!」」」」」」
バタバタと走り出した研究者達。加納は思い出したようにキーボードを動かして監視カメラをチェック。今の映像の間にすでにエクリプスは発進、空高く飛行しステルスモードを起動したところでレーダーから姿を消した。
ガンッ!!
「実験体如きがぁ……!!海道先生に報告しろ!!この失態、我々だけで取り戻すには手に余る。指示を仰げ!!」
「了解しました!!」
加納以外誰もいなくなった部屋で、彼は新たにモニターを表示した。
「奴らは……無事か。八神の仕業だな……海道先生への恩を仇で返しおって……まあいい。メタナスGXは惜しかったが、解読コードは無事。事後処理さえ終われば奴らの調整に従事するとしよう」
悪い笑みを浮かべた加納は、研究者達に続くように部屋を出る。誰もいなくなった部屋は自動で照明が落ち静寂を取り戻した。