サイコをスキャニングされちゃう被験者です♪ 作:ゼノアplus+
32話
「立ち上がれよブレイバー、これがラストステージだぜ?」
「何度だって立ち上がるさ。それが勇者ってヤツだから」
イフリートが戦局を支配するこのフィールドでイプシロンがぎこちなく立ち上がる。熱で動作不良を起こした右腕は力無く垂れ下がりまともに武器を振るうことは出来ないだろう。
「ほう……利き手を変えるか」
レイはそんなイプシロンを見て即座に左手に武器を持ち、右手には盾を握るだけ握らせた。
「ッ!!」
イプシロンがイフリートに向かって駆ける。魔王へ挑む勇者はたとえボロボロになろうとも使命を果たすために果敢に立ち向かう。
「無駄だ」
「無駄かどうか、過去の自分に問いかけなよ」
「なに?……ッ!?」
イフリートが拳に炎を滾らせ迎え撃とうとし……出来なかった。真崎のCCMはエラーの文字を表示しながら点滅している。
「どれだけ強くても、どれだけ耐熱性が高くても……冷却システムがないといずれどこかから綻ぶ」
「チッ……痛いとこ突きやがる」
「そうか、そういうことか」
「博士、どういうことですか?」
ジンだけはレイの言葉を理解できなかったのか疑問の声を上げた。
「超高温に耐える耐熱合金をイフリートに採用していると仮定すると、それは自動車のエンジンや航空機のタービンのものに相当する。1500℃まで耐える事を想定し1000℃での常用を基本とするその合金はそれ故に熱が籠ってしまうんだ」
「なるほどッ、熱伝導性が低いからトラブルが発生しやすい。そしてLBXでそんな超高温が発生してしまえば……」
2人の言葉の続きは、動けないイフリートの肩に『イプシロングレイブ』を突き刺し左腕を切断させたレイが宣言した。
「CPUがイカれる事くらい、素人でも分かるさ!!」
「あっつっ……!!」
真崎がCCMを落とした。イフリートのCPUに連動したのか、CCMもとてつもない熱を発しており碌に使える状態ではない。
イフリートは左肩を押さえながら片膝を突き沈黙した。
「はっ……ははは、流石だなレイ!!このイフリートの弱点をこんなにも早く見抜かれるとは思ってなかった!!」
「
「ああ、蓮に渡したイフリートはそんな弱点は存在しない。だが、俺のイフリートは敢えてその弱点を許容している」
「はぁ!?なんでそんなこ……と……?」
「目覚めろ相棒……食い散らかせッ!!」
『グァ……ァア……ァァァアアアアア!!!!!!』
機能を停止しているはずのイフリートの様子がおかしいことに気づいたレイはイプシロンを後退させた。
そしてイフリートはヘッドパーツが開閉し真の姿を見せる。
「うそ、なんでその状態で動けるの!?ていうか操作してないのに」
「コイツのCPUは特別性でな。学習型のAIを積んである」
「学習型……AX−01と同じのって事?」
2人の会話中もイフリートは咆哮を上げながら姿勢を変え始めた。
「似たようなものだ。だが、コイツが学ぶのは何も戦闘だけじゃない。『感情』もだ」
「感情……?」
「俺からは怒りや憎しみなど負の感情を、そして今お前からは楽しさ、喜びなど正の感情を」
『ギィ……ガ……ギャアス……』
「理解し学んだ末にイフリートは新たな境地に至った」
イフリートは四つん這い(左腕がないため三だが)になり、両足がワイルドフレームのように獣的な形状に変形していく。
「『イフリート改』……コイツはありとあらゆる状況で進化する」
『グギャァァァァァァァァ!!!!』
四足歩行のLBXとなったイフリート改は新たな自分を喜んでいるのか狼の遠吠えのように大きな咆哮を上げた。
「感情を手に入れたLBX……そんなの……生きてるのと同じじゃないか!!」
「実質そんなもんだ。正真正銘のラストバトルだ、気張れやレイ」
「鬼かな!?」
「これでも『鬼神』って言われてるもんでな」
イフリートが跳躍した。性能が変わったわけではないためイプシロンでも反応できる速度、さらに左腕……この形態なら左前足を失っているため跳躍力も若干低下しているので容易に回避する。
「四足歩行のLBXなんて知らないっ」
レイの動揺はサイコスキャニングモードを通じてイプシロンの動きにも顕著に現れ、普段よりも動きにキレがない。
「動きを観察してる余裕はねぇぞ。イフリート改は学習型AIを積んでんだからな」
「時間をかければ絶対負ける……!!」
イフリート改の獣的な機動は、イフリート改が自ら判断してその最適解に至らせたもの。イプシロンを相手にする上で必要だと考えたのなら即座に実行するだろう。
(AIが相手なら奇想天外な行動でAIの学習前に一方的に叩きのめすべき……でもイフリート改相手じゃそもそも一方的に攻撃できない!!)
インフェルノモードは継続しているため炎を纏いながらイプシロンの周りを囲うようにゆっくりと歩いているイフリート改はその熱でイプシロンを逃す気はないらしい。
「だったら!!」
『アタックファンクション グロリアスレイ』
レイは自らの切り札とも言える必殺ファンクションを上空に向かって放つ。イフリート改はさせまいとイプシロンに飛びかかろうとし……身の危険を感じてバックステップをした。
槍にエネルギーをため光弾として放つこのファンクションは弧を描く様に地面に落下し、あたり一面を白銀に染めた。
「即席だけど、流星群ってところかな」
「はっ、それ以上がないことは分かってんだ。諦めて相棒に狩られな」
安全を感じ取ったイフリート改は再度イプシロンに詰め寄る。殴るための拳をかぎ爪のように開きイプシロンに一閃、圧倒的な強度を見せつけていたイプシロンガーダーがついに爆発した。
「性能まで向上してるの!?」
「イフリートが自分の意思でリミッターを外しているんだろうよ。コイツ、ここでぶっ壊れても……死んでもいいから戦わせろってさ」
「タチが悪い……」
『ガァァァァァァ!!!!』
真崎の言葉を肯定するようにイフリートが吠える。揺らめく炎はさらにその勢いを増し感情の昂りを示しているようだ。
イフリートは四肢が欠けているとは思えない速度で走り出しイプシロンの周りをグルグルと旋回している。
「ッ…………」
イプシロンの性能とレイの反射神経が相まってその動きはなんとか追えている。しかし突撃のタイミング次第では反応できない、故にレイはここまでで1番の集中力を発揮しその時を待っている。
「…………」
「………………ッッ!!イフリート!!」
イフリートが飛び出そうとした瞬間、真崎が異変に気づき叫ぶ。時はすでに遅く、一歩を踏み出してしまっていたイフリートは自らの失態に気づいた時には、イプシロングレイブが眼前へと迫っていた。
「そっこだぁぁぁぁ!!!!」
イフリートの首元にイプシロングレイブが突き刺さり声ともならない悲鳴を上げた。通常ならばそれだけで機能を停止させるはずの一撃だがイフリートは耐える。ぎこちなく動く右手でイプシロングレイブを掴み、力のまま握りつぶした。
「ああもう、馬鹿力め……イプシロン!!」
イプシロンは武器から手を離しイフリートから離脱、これで武器が無くなった。
『………ガ……ギャ……』
「ッ……もうやめよう真崎さん。これ以上は本当にイフリートが死ぬよ」
「コイツはそんな覚悟、生まれた瞬間から出来てんだよ。それに……なぁイフリート。自分を負かす奴になら、いいだろ?」
バチバチと身体中からスパークを撒き散らしその場にうずくまるイフリートに、真崎は問いかける。イフリートは極度のダメージから動くことができず、右手すら満足に動かせない状況だ。
『ギャァ…………』
イフリートの瞳がイプシロンをしっかりと捉えている。伝えようとしてきているのはもちろん……
「……いいんだね?イフリート」
『…………』
レイは気乗りしていない。しかしイフリートの意思は固いようで、CCMを通してイプシロンのカメラアイから伝わるイフリートの視線を感じ取ったレイは深く息を吸って吐いた。
「必殺ファンクション」
「レイ君!?いいのか!!」
「うん……LBXはLBXとして終わらせてあげる。ただの獣に成り下がる前に」
「そうしてやってくれ」
ジンの驚いた声にレイは自分の気持ちと共に決意した。そしてイプシロンのカメラアイが輝く。
『アタックファンクション 光速拳・一閃』
イプシロンの左手に白銀のエネルギーが収束。限界を迎えイプシロンが力強く大地を踏み締めた刹那、
『グギャア……』
イフリートの胸部を貫き、イプシロンがその背後に現れた。
「お疲れさん相棒、今までありがとうな」
『…………フン』
爆発。
「レイ君の勝ちだ。真崎君、これで満足したかね」
「…………ええ、アンタらの足止めとしては十分でしょう。コックピットへの通路はすでに封鎖済み、今頃蓮と山野バンがバトルをしてるはずです」
「イプシロン……お疲れ様」
イプシロンを回収したレイは、脳の酷使によって一瞬意識が朦朧となり倒れかけたが、ジンによって受け止められた。
「大丈夫か!?」
「……ああ、うん。バトルに夢中になりすぎたみたい。ありがとねジン君。師匠、ジン君、2人は先に行ってて」
「分かった」
「行こうジン君」
ジンと山野博士はレイの言葉に頷き、コックピットの方向へと走っていった。
「終わったな、レイ」
「うん……終わったよ真崎さん」
「はぁ………負けた負けた。ちっくしょ……普通に勝てると思ってたんだけどなぁ」
「いやいや!?あんなの普通勝てるわけないじゃん!!インフェルノモードに自我の芽生えとか予想できないし……ボクにだって無理なことはあるんだよねぇ!?」
「勝った奴が何言ってもな。イフリートは強かったか」
「うん、まさしく鬼神だった」
「ああ、アイツも喜ぶと思う」
2人だけになった空間で、適当なところに座り込んで話を始めた。その会話は他愛のない親子みたいなものだ。
「ねえ、どうしても……戻ってくる気はないんだよね」
「ないな。もし蓮が負けてサターンが止められたとしても……」
「そっか、そうだよねぇ……じゃあさっきのは完全に無駄な問いかけだったわけだ。あーあ、はずかし」
「はっ、バカ言うなよ。お前の本心が聞けて俺は嬉しかったよ。最後にいいもん見れた」
真崎は機嫌良さそうにレイの髪をぐしゃぐしゃと撫でまわすと、不意に立ち上がった。
「俺のCCMはオーバーヒートで使いモンにならねぇ。だから……八神さんに伝言を頼めるか」
「嫌だけど?」
「はぁ!?」
「そういうのは自分の口でいいなよ。トロイ返してくれたし……まあ録音で勘弁してあげる」
「ったく、そういうことかよ。仕方ねぇ……」
『………………』
レイのCCMに、録音が終わった。
「頼んだぞ」
「アッハハ!!任せてよ!!」
「ふっ……良い笑顔ができるようになったな、レイ。じゃあな」
「え……ちょっとそれどういう……ッ!!!!」
パタリと、レイが真崎の胸に倒れ込んだ。真崎の右手にはスタンガンが握られている。
「……ほんっっにこの10年間、手のかかるクソガキだったよ」
「「レイッ!!」」
レイが気絶して少しした後、カズヤとアミが走って現れた。
「……よぉガキども、俺は負けちまってな。サターンの後始末で忙しいからコイツのこと頼むわー」
「……どういうつもりだよ」
「どうもうこうもねぇ。俺は負けた、レイは勝った。それだけだ」
「そうですか……カズ、レイを連れて行って」
「お、おう。アミは?」
「この人と少し話があるわ」
カズヤがレイを背負いエクリプスへと歩いて行った。それを見送ったアミは真崎へと向き直った。
「貴方がレイの保護者の真崎さんね」
「ああ。一応、保護者になるな」
「そう……あの時はありがとうございました」
「あの時?」
「アルテミスの後、タイニーオービット社に私たちが向かってる時助けてくれましたよね?」
「……なんのことやら」
イノベーターのトラックの襲撃を受けた時、真崎はイフリートにスナイパーライフルを装備させ援護をした。しかしそれは絶対に気づかれる距離ではなくCCMの電波でさえ届かないはずの場所からだ。アミは気づいているようだが、自らネタバラシをする必要は一切ない。
「惚けないでください。それにレイも言ってました。ここぞって時に、真崎さんは頼りになる人だって」
「……アイツがそんなことを。そうか……なぁ嬢ちゃん、一個頼まれてくれねぇか」
「なんですか」
「レイとこれからも仲良くしてやってくれ。アイツは感情豊かそうに見えるけど、本当はすごい寂しがりやで構ってちゃんで……」
「ッ」
レイのことを話している真崎の目から自然と涙が溢れ始めた。アミはそれに気づいたが指摘せず、静かに耳を傾ける。
「……研究所で連れてた少女が居たろ?レイは多分あの子のことを引き取るつもりだ。アイツは自分のせいで新しい被害者が生まれたと思ってるはずだしな。自分の不始末は自分で片付けると言いかねん……だからさ、アイツとこれからも友達でいてくれ」
「当たり前です。レイは……最初にキタジマ模型店で出会ったあの日からずっと友達です。バンもカズも、他のみんなだってそれは同じだから」
「……ああ、そうだな。あの日あの場所にレイを連れて行ったのは、アイツにとって1番良いことだった」
「レイに友達が出来て、本当に良かった……!!」
もはや会話にならなくなってきた。アミはかける言葉が見つからず、しかし真崎の言葉をしっかりと胸に刻みつけてカズヤを追いかけて行った。
1人残った真崎は、落ち着きを取り戻した頃警報が鳴り始めた。
「負けたか、蓮」
「たくっ……最近の子供はすげぇよな……ガキのくせに、いやガキだからこそ真っ直ぐに突き進んでいつか俺ら大人を超えて行っちまう」
「ああ……最悪だよ。情がうつりすぎた……!!」
「幸せになれよ、レイ」
乾いた銃声が誰も居なくなった空間に悲しく響いた。
◆
「はっ!?…………真崎さん!!!!」
それから数時間が経った。気絶していたレイはエクリプスの自室のベッドにて目を覚ました。
そう、全てが終わった後である。
「ウソだ、ウソだ……何時!!もうこんなに経ってるなんて!!」
レイは身支度も整わないまま部屋を飛び出した。
「あっレイ、おきたのk……って、なんだアイツ?」
廊下で会話をしていた知人たちにも気づかないくらい、レイは必死に駆け抜けていく。そしてたどり着いたのは司令室。こんな時だけ開くのが遅く感じる自動ドアを潜り抜け八神が居るはずの場所へ階段を登ったレイは叫んだ。
「どうなったんだい!?」
「「「「「「…………」」」」」」
そこには、八神を始めとした大人たちに加えバン、カズヤ、アミ、ジンなどの面子が揃っていた。
「レイ、起きたのか。体調は大丈夫か?」
「そんなのどうでも良いでしょ!!サターンは、檜山さんは、真崎さんはッ!!!!」
レイの身を案じた八神だったが、レイは怒り心頭といった表情で八神の胸ぐらを掴みながら詰め寄った。
「ちょ、ちょっとレイ少し落ち着いて……」
「ああん!?」
「いえ……なんでもないわ」
「あのアミが威圧で負けた!?」
「明日は槍の雨か!?」
「……降るわけないだろう」
子供達のコントのようなやりとりで司令室に緩い空気が流れるが、レイだけは真面目だ。
「サターンはバンが打ち込んだ自爆プログラムでNシティ到達前に自爆した。幸い海上だったため被害はゼロだ」
「檜山さんと真崎さんは?」
「……」
「レックスはサターンと一緒に……」
「ッ!?!?…………そう」
言葉を濁した八神に変わって、バンがレイに真実を告げた。最後の最後まで一緒にいたバンだからこそ、言うことができたのだろう。
「…………まさきさんは?」
「ッ……分からない。バン達が帰ってくる時も出会わなかったんだ。だがエクリプスにいないということは……」
「そっか」
確証は得られていない。それでも最後に話したことを思い出したレイは、全てを悟って顔を俯かせた。
「レイ、真崎さんが私に言ったこと……聞きたい?」
「アミちゃん?……ううん、ボクに直接言わなかったってことはボクが聞く必要は無い。真崎さんも聞かれたくないこと言ってたでしょ?あの人親しい人には本心を言いたくなさそうだし」
「まぁ……ねぇ……2人とも、似たもの同士ってことはよく分かったわ」
「え、それどういう意味!?」
長きにわたる戦いは終わった。
イノベーターの最終兵器はただの少女へと戻り、これからきっと普通の生活というものを知るのだろう。
「ねーアミちゃん教えてよー!!」
「えー、どうしよっかなー。あっ、今度ショッピング行きましょ。レイったらまた同じ服着てるし、色々選んであげる」
「うげっ……それは勘弁してほしいかな……なんて」
「んー?」
「…………ゼヒオネガイシマス」
これから始まるのは、被験者でも、実験体でもないただの少女の日常だ。
アンケートに則り、W編に至るまでの日常編をてきとーに更新していきます。
無印編終了後W編までの1年間を書き綴る予定ですが、原作通りW編を優先するか時系列順に書くかどうしましょうか。
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1年間を先に読みたい
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W編を先に読みたい