ペルソナ4G  真ラスボス撃破ルートRTA    作:サヨナランチャ

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 感想欄に行ったらモチベが限界突破したので初投稿です。

 6/18に加筆修正しました。
 6/21誤字を修正しました。報告してくれた夢雲兄貴、もとちか兄貴ありがとナス!


裏語(キャベツ刑事編)

 世の中には仲良くなれない人なんていない、とでも思っていそうな青臭いガキ。正直苦手なタイプだ。

 

 それが僕の焔元樹という少年と少し話してみて抱いた印象だった。姉夫婦の一人息子であり、一応は僕の甥にあたる男、焔元樹。

 ひょんなことから姉夫婦の家に厄介になることになり、僕が来た頃、彼はまだ中学二年生。

 突然の居候であり今まで数回しか会ったことのない叔父に対して、嫌な顔一つせずに挨拶をしてきたのは今でも強く印象に残っている。

 

 そもそも、学生時代は勉強ばかりしていた足立透という男にとって焔元樹という少年は初めて会うタイプでもあった。

 ほとんど面識のない叔父に対して臆することもなく、ぐいぐいと距離を詰め、警察官はどんな仕事なのか、やりがいは、なろうと思った理由は、等と初日から質問攻めにあい、無邪気という言葉を擬人化したような姿に、すっかり参ってしまった。

 

 そんな彼に対して僕が抱いた印象は「ウザイ」の一つに尽きたし、三年もすれば姉夫婦宅にお邪魔する必要もなくなるのだから適当にあしらっておけばいいか。そんな風にすら考えていた。

 

 所詮は中学生になったばかりのガキ。こっちから迷惑そうにでもしておけば、興味を無くして勝手に離れていくだろうと高を括っていたのだ。

 

 だが、数か月後にはその浅はかな考えを改めることになった。というのも焔元樹はただの青臭いガキなどではなく、底抜けの「青臭い」ガキであったからだ。

 

 僕が冷たく適当にあしらっても決してめげることはなく、休日にもなれば無理やりゲームに付き合わされ、僕の機嫌が悪いときは臆することもなく事情を聴き、愚痴に付き合う。

 

 そんな彼に対し、一々表面を取り繕っていても疲れるだけだと思い、本性をさらけ出して「俺」として話してみた時もあった。

 これで少しは幻滅でもしてくれたか、と期待してみても返ってきたのは「やっと親戚になれた気がする」と満面の笑みで返してくる。

 最初、コイツの頭の中には脳みその代わりに真綿でも詰まっているんじゃないかと思ったほどだ。人の醜い部分を見せられても受け入れやがる奇妙なガキだとも思った。

 

 さらに意外なことに一日の殆どを同級生と過ごすか、僕に絡む位しかしていない癖に成績も案外悪くない。要領が良かったのだ。馬鹿そうなくせに。

 体育に至っては毎回学年一位をとってきてはムカつくドヤ顔をし、イラつかせてきた。

 

 常に笑顔を欠かさず、活力に溢れ、青春を謳歌し続けている。その癖、押しつけがましくなく、意外と引き際をわきまえているから、一緒に居て悪くないと感じてしまう時まであった。絶対に口に出すことはないけど。

 

 また焔元樹の特徴として一度も嘘をついていなかった。すべての行動に裏表がなく、常に前を向いて生きている。

 エリートによる足の引っ張り合いを警察で目にし続けていた僕だからこそ分かったことであるが、本来なら大なり小なりあるはずの違和感といったものが彼からは全く感じられない。

 

 だからだろうか、いつしか焔元樹のことを「好ましい」とすら思ってしまう時が非常に癪だがあった。

 今まで人から一歩引いたところに居続けた僕にとって、焔元樹は正に「例外」とも言うべき存在だったし、取り繕わずに済む貴重な存在でもあった。

 

 甥というよりかは同年代の友人であるような気やすさが、警察の現実を知り憔悴気味であった僕にとっての居心地の良い居場所とまでなっていた。

 都心に配属されても、ここから行きたいなと思ってしまったぐらいには。今の関係が好きになっていた。

 

 家に帰れば、お節介な姉夫婦が笑顔で迎え、甥が満面の笑みで遊びに誘う。

 そんな喧しくも暖かい生活が、僕がいて良い場所なんだと安心感を与えてくれる生活が好きだった。

 

 こういう日が続くんだったら、案外、色あせた僕の学生生活なんかにも意味があったのかもしれない。

 〝本物の銃を持ってみたい〟という理由から目指した警察だけど、以外に悪くないかも……なんて思い始めた時だった。

 

 突然の左遷。八十稲羽。それが僕の新しい職場だった。

 

 結局のところ僕は生存競争に敗れたのだ。たった一回の小さなミス。それでも同僚たちにとっては格好のエサでしかなく、あっさりと飛ばされた。

 

 今まで親に言われるがまま勉強をしてきた日々が全部吹っ飛んだ。足立透の青春になんて意味はない、お前は所詮、替えの利く存在でしかないと世界に言われたようにすら感じた。

 

 それを告げた時の甥の悲しそうな顔を思い出すたびに胸が痛くなる。

 

 せっかく見つけられたと思った居場所は一瞬でなくなってしまった。あっけないものだと思った。

 

 

 

 そこからの落ちぶれようはすごかった。

 気まずくなって最後の日だっていうのに上手く元樹君と話せなかったし、終始心配させていたように感じた。

 

 後から考えてみると、彼があんなに僕に絡んできたのも、全部僕を心配してたんじゃないかと思う時がある。

 確かに、あそこまでしつこくなければ僕が他人にここまで心を許すことはなかったろうし、それ以降はちょうど良い距離感で接してきてくれるのだ。

 ガキっぽい癖に、妙なところで大人な甥。そんな人間が世の中にいったい何人いるだろうか。

 

 だからこそ異動させられたド田舎は僕にとって退屈な日々でしかなかった。

 家に帰っても喧しかった甥の姿はなく、冷蔵庫とテレビがたたずんでいるだけだ。休日なんか毎日「今日ぐらいゆっくりさせてくれ」なんて言ってた筈なのに、今じゃあただ一人のおっさんが死んだ目でテレビを眺めているだけだ。

 

 テレビの内容も気に食わない。

 「才能」なんて言葉が出てきただけでイライラするし、幸せそうな顔をしてやがる連中が憎くてしょうがない。

 

 選ばれた連中だけが幸せになり、選ばれてない奴は一生下を向いて生きていくしかない。世の中がいかにクソなのかを日々感じている。

 

 一応、あっちから電話をしてきてくれたりすることもあったが元樹君も高校二年生になって忙しいようであんまり話せなかった。

 前は話さない日なんてなかったのに、今じゃ一週間に一回程度だ。

 

 八十稲羽署での仕事も全くやる気が出ない。

 どいつもこいつも馬鹿のくせに、先輩風だけはふかして見下してきやがる。

 どの仕事もクソしょうもない内容ばっかのド田舎で、頑張れるわけがない。

 

 ただ、堂島さんの雰囲気は、姉夫婦の所に居候していた時のような温かさを感じさせてくれる。それが嬉しいはずなのに、どこか不愉快だった。

 姉夫婦と暮らしていた頃を思い出させるから、どうしようもなく昔が恋しくなるから嫌いだった。

 

 一々、さびれた商店街の店の名前なんか覚えるなんて面倒くさいし、捜査の方法も一昔前のドラマなのかってぐらい古臭い。

 僕のことを息子さんだって勘違いしてる婆さんはメチャクチャな量の煮物を押し付けてきてウザイし、元樹君を思い出させるから凄くイラつく。

 

 あの日から僕の世界は色あせてばかりだ。

 全てに色がなく、どうしようもない怒りを胸に秘めて生き続ける。

 

 結局、世の中才能のある奴だけが幸せになれるんだろう。

 テレビを見れば、今日もまた特集で才能がある奴を持てはやしている。そして僕は一人寂しく、眺めているだけで終わる人生。

 

 もう何もかもがどうでもいい。どうせ居場所なんてものはきっと最初からなかったんだ。

 生まれたころから「足立透」という人間は幸せになれやしないと決まっていて、受け入れてくれる人なんていないんだ。こういう運命だったんだ。

 

 

 あぁ…………つまんねぇなぁ…………。

 

 

 そんな時だった。

 この〝力〟を見つけちゃったのは。

 

 本当に笑いが止まらなかった。本当にすごいと思った。

 ちょっと聞いた噂の「マヨナカテレビ」を見たらこんなことになるなんて!

 

 運命の相手は山野アナ? しかもテレビの中に入れる超能力まで?

 

 こんな力があれば、もう「つまらない」人生なんかじゃないんだ。

 まさに「選ばれた」んだと思った。僕なら、この力で最高に楽しい人生を送れるんだと本気で信じた。

 

 そんな真夜中に大笑いしてしまうほど高揚していた時、ケータイの無機質な音が鳴る。

 

 何だ、こんなイイ気分の時に水差しやがって……。

 

 そう思って僕は相手も確かめずに少しイラつきながら電話に出る。

 すると、あの喧しい声が聞こえてきて……

 

 「今度からそっちの学校に転校するんで居候させて!」

 

 「ほぇ?」

 自分でも恥ずかしくなるくらい馬鹿っぽい声が出た。

 

 

 

 事情を聴いてみると、姉夫婦が仕事の関係で海外に飛ぶことになり、急遽親戚に預けることになったらしい。

 そして本人の希望も相まって、このド田舎までわざわざやってくる……

 

 バカなの? と正直に思った。

 退屈しなくなるな、とも思った。

 「本人の希望」ってところが、少し、ほんの少しだけ嬉しいな、とも思った。

 

 それを聞いたら、もう「力」とかはどうでもよくなって、気にしないことにした。

 自分でも単純な奴だとは思うが「つまらない」日常からオサラバできれば、それに越したことはないんだと思った。

 

 その日からは、結構大変だった。

 彼の部屋を用意するために、僕の部屋のスペースを削ったり、汚くなっていた部屋の片づけをしたりと。

 

 特に僕のことを息子さんだと勘違いしている、お婆ちゃんからもらった煮物を消費しきるのが一番大変だった。鍋を返しに行ったら倍にして返されるなんて予想できるわけがない。

 

 彼が来る一週間前なんて、堂島さんも甥っ子が居候してくるらしく、菜々子ちゃんとも一緒に買い物までした。こういうのも意外と悪くないと知った。

 僕に甥っ子が、しかも高校二年生だって知った時の堂島さんの顔は今でも忘れられない。しばらくはこのネタでからかおう。

 

 そうして、あんなに退屈していたはずの田舎暮らしは一瞬で過ぎ去り、とうとう元樹君が来る前日まで迫ってきていた。

 

 その日、僕は頼んでいた少し値の張る二人前の寿司を入れ、見違えるほど綺麗になっていた部屋を見て満足していた。

 本当ならば夕方位に来るはずの甥を駅まで迎えに行くつもりだったが、仕事が入って行けなかった。こんな事だったら有休をとっておけばよかっただろうか。

 

 犯罪も少ないド田舎にしては珍しい要人警護の仕事だ。

 保護の対象は「山野真由美」。

 最近不倫騒動で問題になった女子アナで、マヨナカテレビによれば僕の運命の人。

 

 正直、不倫なんかするような奴が僕の運命の人なんてお断りだし、元樹君がこっちにいる間は恋愛なんてできないだろうから興味もあんまりなかった。

 

 それでも偶然、警護に選ばれて「たまたま」一番近くで警護する役にまでなると、少し好奇心が湧いてきてしまうものだ。

 

 意外と運命っていうのはあるのかも……なんて甘いガキみたいな考えで僕は山野アナに近づいた。

 

 きっとこの行動を僕は一生後悔し続けるだろう。ここを境に僕の人生は狂いだした。

 

 ちょっと不倫について聞いてみただけなのに、山野真由美はメチャクチャにキレた。

 いきなり近づいてきてビンタをしようとするもんだから、反射的にその手を受け止めてしまう。

 

 そうして手を掴んだ瞬間、今度は「襲われる!」なんて大声で叫びやがった。とんだクソ女だなとも思ったし、近くに同僚が居なくてよかったとも思った。

 

 とはいえ早く誤解を解くためにも腕を振りほどき、少し突き放そうとしたら、その先に「たまたま」テレビがあった。

 

 「たまたま」力加減を誤って山野真由美は押し出され、「たまたま」僕も足のバランスを崩して倒れそうになった。

 

 そんな偶然がいくつも『神様の悪戯』みたいに重なって、驚くほどあっさりと山野真由美はテレビの中に落ちていった。

 

 急いで引き出そうと覗いてみても山野真由美の姿はなく、僕しか残っていなかった。

 

 

 そもそも、テレビの中はどこにつながっているのか、今まで考えたこともなかった。

 

 他のテレビとつながっているのか? 異世界とでもつながっているのか? それとも、どこにもつながっていないのか?

 

 そう考えたら、僕はテレビが何だか恐ろしいもののように見えてきて、考えないことにした。

 きっと大丈夫だ、と。

 時間がたてば山野アナも何処からか見つかって、また何事もない日常が戻ってくるだろうと自分に言い聞かせた。

 

 テレビの中に入ったなんて誰も信じるわけがないし、証拠もない。

 

 幸いにも現場は僕と山野アナしかいなかったし、バレる心配もない。

 もし見つかって山野アナが喚いたとしても妄言としか思われないだろう。僕が疑われることはない。

 

 こんな仕事、さっさと交代して、甥を迎えに行こうと思った。

 とにかく、この場から離れて落ち着きたかった。

 

 そもそもの原因は山野真由美にあるし、僕は悪くない。

 好きでこんな力を手に入れたわけじゃないのだから僕は悪くない。

 これは偶然による事故なのだから、僕は悪くない。

 

 たとえ、甥の顔をまともに見れなくても、僕は悪くない。

 

 

 

 

 

 だが結局、山野真由美は見つかった。

 翌日の昼頃、山野真由美が「死体」になった状態でだが。

 

 間違いない、僕が殺したんだと自覚させられた。

 まるで『神様』によって『殺させられた』ようなおぞましさに僕は耐えきれず吐いてしまう。

 

 堂島さんの怒声も、パトカーのサイレンも全部遠く聞こえる。

 

 僕は薄汚い殺人犯だ。

 

 一体、どんな顔をして甥に会えばいいのだろう…………




 運命は変えられない…………という足立の話でした。ちょっと短めなのは寛大な心で許して♡

 小説パートを書いてたら才能のなさを自覚したんで失踪します。

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